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◆◆◆ -- 2005年11月のお話 -- ◆◆◆

 

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                                ■■地獄が還る罠■■

     
 
 
 
 
 『でも、大切なのはこれからだよ。ガンガン稼いで、まだまだ残ってる借金を返さなくちゃ。
  ということで、いいニュースがあるんだけどっ!』  
 

                         〜地獄少女・第九話・由香の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 どうしたらいいのか、わからない。
 そもそも、なにかしなければいけないのかどうかすらも、わからない。
 ただ耐えて、耐えて、それで時間が過ぎれば諦められると、たぶんそう思っていた。
 良い思い出も、悪い思い出も、それがこれからの行動の動機になるなんて、嘘。
 ただその思い出に耽って、別にある動機のあやふやさから目を逸らすための、嘘。
 じっと、父の事を思いだしていた。
 それを思い出すことでしか、このどうしようも無い緊張に耐えられなかったのよ。
 ううん、ほんとはその思い出があろうとなかろうと時は過ぎて、振り返るとそれは耐えたことになってしまう。
 なにも、してないのにね。
 いつか、そのなにもしていないということに罰がくだされるのじゃないかと、
 そうして既に感じている罪悪感を無視し続けている。
 危惧は、していたのよ。
 でも、実感はどうしても、持てなかった。
 
 
 この店は、私だけのものじゃない。
 だから、妹が一生懸命バイトして、そして私と一緒に店をやるのはおかしくない。
 でもどうしても、妹をバイトさせてまで店を出す事には疑問と不満があった。
 この店を出すことが父の夢であって、そしてその父の夢を叶えるのが私達姉妹の夢だったのだとしても、
 父を失った今、私は妹の親気分でいたから、それが無下にされたような気がして、どうも。
 所詮それは気分でしかなかったと言われればそれまでだし、実際私も別に親としての意識が強かった訳
 じゃないけれど、でもそうなるとこう逆に私がしっかりしなきゃという想いが自分の内に向かってすごい力を
 持ち出して、正直、どうしようもなくなった。
 ぐるぐると動き回る、私の姉としての意識は膨張を続けて、いつのまにか私の中にその定位置を得てしまっ
 ていた。
 そして私にはもう、自分を激しく頑張らせる意識と、そしてただ妹の頑張りにも力無い笑顔でお礼を言うし
 かなくなっていた。
 だって私はあまりに無力だったのだから。
 妹がこれほど頑張ってくれなかったら、私はもう全然頑張れなかったのかもしれない。
 そして、妹がこれからも頑張り続ける限り、私はほんとうにどうしようもなくなっていく。
 妹と同じ地位に落ちなくてはいけないの・・・・・
 父にひどく申し訳ない気がして、ただただ、悲しかった。
 
 この店がテレビに出る。
 オープンに合わせての生放送。
 そしてそう手配したのは、他ならぬ私が交際をお断りした森崎さん。
 妹がみせた私の作品を絶賛してくれて、その話はトントン拍子に決まってしまったらしい。
 おかしいと思うのが普通だとまず考えて、そのあとそんな事無い森崎さんは私情に囚われない誠実な人
 だと考え直し、そして最後にならば余計森崎さんのお世話にはなれないと思った。
 でも、断れなかった。全然。
 妹が全部決めてきた話だったから。
 私はあの子の親でも上司でも無いただの対等なパートナーなんだから、それが決めてきた話を拒否する
 なんてできない。
 といっても、真に対等なのなら、対等な立場から拒否することもできたのだけど、でもできなかった。
 駄目・・・・できない・・・・こんなに一生懸命な妹を拒否なんてできない・・・・・
 私はただもう、あとはひたすら不安感に耐えていくだけだった。
 これから我慢しなければいけない緊張は山積、だってオープン当日の生放送なんだから、それこそ今から
 準備しておかなければいけないことで大忙し。
 そして。
 私はその繁忙の中で、それとはなんの関係も無い不安に懸命に耐えていた。
 
 物事は、ごく当たり前のように過ぎていった。
 妹がみせた作品をあろうことか森崎さんが盗作し、それを知らずにテレビの前でその作品をみせたうちの
 店は散々な目にあった。
 一番初めの予想通り、そのままだった。
 緊張したままの状態で、ほっと安心した。
 誰も悪くない、ただなるようになっただけよ。
 それが負け惜しみでもなんでもないごく自然な感情としてでてくる事の不思議は感じられず、ほんとうに
 そのまま安心していた。
 それはすごく動揺したし、焦ったし、悲しかったわよ。怒りもちゃんと覚えていたわ。
 でも。
 お願いだから、これ以上事を荒立てないで。
 このなにものにも代え難い安定感が見えなくなってしまうのだから。
 動揺と焦慮と憎悪が平然と渦巻いている状態を、それを解消しようとしないで欲しい。
 私はそれに囚われている内だけに、すべてを耐えることができていると思い込める。
 だからその必要以上に動揺したり焦ったり怒ったり、そして森崎さんに復讐しようだなんて思わないで。
 森崎さんは確かに盗作だなんて最低のことをして、そしてそれによってうちは致命的なダメージを受けた。
 そしてそれが私が彼を振ったことに対する復讐としての正当な価値があったとも思わない。
 ええ、妹の言うとおり、ひどすぎるわよね、ほんとに。
 でも。
 彼がどうこう以前に、私はこの店の成り立ちに大きな不安を持っていたの。
 私と妹と、そのふたりが店を同じ立場でやっていくということを。
 この店は、ほんとうは全部私が切り盛りしていかなくてはいけないの。
 私はいずれ店が軌道に乗ってきたら、今まで妹がバイトで稼いだ分は返そうと思っているのよ。
 ううん、それは都合の良い言い分よね。
 ほんとうのほんとうは、今までの分を今すぐに返して、そして今後一切妹に余計な負担をかけないように
 しなくちゃいけないの。
 それができないでいた不安がだから、私にはずっとずっとあった。
 そして今回のこの出来事が、この店に大きな転機を与えることになった。
 妹の負担の上で成り立っていたこの店の崩壊。
 それは私にとって耐え難いほどの苦痛であると同時に、その苦痛自体が私にそれに耐える力を与えてくれ
 たのよ。
 それに加えて、私はまた親としての姉の復権を果たすチャンスを得た。
 ふふふ、言葉にしてみると、なんだかとりとめもないほどに陳腐なことよね。
 でも・・・・誰も来ない店内をみてついた自分の溜息が、とても心地よかったのだから仕方ないわ。
 仕方ないというより、もしかしたらこれもただどうしようもないことなのかもね。
 だから、私は頑張るしかない。
 店の復興のために力を尽して、そして今度こそ妹を護ってあげられる強い姉に。
 あなたが、悪いんじゃないわ・・・・
 勿論、だから悪いのは私と言うつもりも無いわ。
 誰も悪くない。
 ただ、したいことをしたくてもできない者がいるだけ。
 だから頑張るしか、無い。
 とても簡単なこと、よね。
 
 
 
 私は由香のために、頑張りたい。
 そして。
 由香の頑張りをも受け入れられるような、強い姉になりたい。
 
 
 
 動機なんて、どうでもいいわ。
 私が由香の頑張りを受け入れられない弱さを持つために、由香が苦しむということにどんなに耐えても、
 それに全く耐えられないということだけが、その私の頑張りを強めていく。
 私が妹の頑張りから目を背ければ背けるほどに、私はそれにちゃんと縛られていく。
 それは、とてつもない安心感を私にもたらしてくれるわ。
 妹を、護らなくちゃ。
 その想いだけだったら、きっと私は妹を護ることは決してできない。
 妹を護ることから目を逸らし、そして妹が余計な努力をせずに大人しく私に護られる、そうと私が感じた
 とき、私はどうしようもなく戻っていく。
 この店は、私と妹の店。
 私達にとって大事なのは、このふたりの店だけなのよ。
 そこでは私とあの子というそれぞれの人間の事情は、それ自体を乗り越えて無くすためにだけ存在する。
 私は私自身のことを考え想い憐れみそして憎むたびに、それを乗り越え、
 そして妹と私の店に注ぐ努力だけに力を尽す。
 これが、私の望み。
 すべての動機は、この望みへとしっかりと還っていくわ。
 
 私はどうしようもないほどに、この幸せを甘受していた。
 この毎日が、この瞬間瞬間が、楽しくて、面白くて。
 お父さん、ありがとう。
 
 
 
 
                               ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 
 

 

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                                  ■■淡々と激す ■■

     
 
 
 
 
 はい、紅い瞳です。ごきげんよう。
 今日はなんだかすごく疲れているような気がするので、前置きとか知りません。 
 あと、久しぶりにゲームとかするので、そんな時間とかかけていられません。
 はい。
 
 それで、そうですね。
 今日はまずは地獄少女のお話から。
 物語の方では地獄少女と連続して関わり合いを持ちそうな柴田親子が登場して、
 なんだか少し面白い方向に進もうとしていますね。
 そしてそれはそれで楽しみと致したいところでは御座いますけれど、
 それよりもなによりも今はかなり地獄少女を別の言葉で表わし直す事に気合いが入ってまして、
 結構ノリノリで感想の方にハマっているので、それに一喜一憂している訳には参りません。
 今のところ各話ごと単独で想起することができるものを磨いて文章を綴っていますが、
 なかなかそれぞれの文章に通底するなにかを表わすことができていず少々手こずっていますが、
 まぁ全26話もあるのだし、のんびり1話づつ詰めていきますか。(自己完結)
 ていうか最近は各話の感想に通底するなにかというより、この日記で書いている感想全般にて共通の
 テーマを扱ってるので、作品よりもそのテーマに沿って書こうとしているきらいがあるゆえ、まぁしょうがない。
 しょうがないっていうか、どうでもいいです、もう。ふんだ。
 
 それじゃ地獄少女はほっといて、ていうか野放しでもあれはちゃんと育つ子だから大丈夫、
 ということで次はトロイメントのお話。よしきた。
 で。
 水銀燈が復活しました。してしまいました。しちゃったよ。万歳。
 真面目な話(たぶん)、あそこまで想像を超えるものを付けて水銀燈を復活させてくるとは思わず、
 かなり興奮してます。勢いで感想2つ書いちゃったもんね。もう全然止まらない☆
 (少し)勢いを止めて)で、水銀燈の在り方としては、これはもうどういうことになるのでしょうか、
 という問いにつぐ問いなわけで、色んなことが考えられて大変です。
 私は取り敢えず死と復活というものそれ自体を見つめるので無く、それらが「水銀燈」というものにとって
 どういう影響を与えるのかという視点で捉えることから始めてみました。
 むしろその与えられた影響というものが一体どこに向かっているのか、という意識そのものを以て、
 この水銀燈の存在というものは顕れてき、そしてその存在が見つめるものとしての死が、それと一体化した
 ときその生というものはどういうものであると言えるのかというのが、この水銀燈の復活という重大な事象
 を見据える際に抽出されてくるのじゃないかなぁって。
 なに言ってんだかわかりませんけど。いつものことですけど。ごめん。
 まぁいいです、こういう説明くさいのは苦手です。気になる人は感想のほうを読んでみてください。
 読んでも理解できないほうに200Hina。(新単位)
 とにもかくにも、水銀燈で語ることはもはトロイメント感想には不可欠になりましたゆえ、
 これからもちょくちょくと水銀燈で精進させて頂きます。なんなら水銀燈物語とかも書きたい。(夢)
 あ、それと肝心なのがひとつありまして、真紅、そう真紅を忘れちゃいけない。
 水銀燈の復活ということがもたらすもう一つの大きな見所は、これと真紅がどう対峙していくかということ。
 真紅は消えた水銀燈の存在を自分の中の罪の意識として存在させ、そしてそれを飼い慣らすことで
 うまくそれと折り合いをつけて生きようとしていた訳ですけど、しかし真紅の眼前には実物の水銀燈が
 現われた訳ですから、ここからが本当の真紅の戦いな訳です。
 今までのは要するに記憶の中の水銀燈を使った真紅のぬるいイメージトレーニングだったのですから、
 それをどこまでちゃんと実践できるのか、というのがこれからのポイント。
 そういう意味で、水銀燈を復活させることで真紅の自己完結だけでトロイメントを終わらせなかった、
 或いは決して終わらせてはいけないという製作陣の覚悟に拍手を送ります。
 ご褒美は、DVDの売り上げでということで。(私は買いませんけど)
 
 それと、今週のARIA。
 アリア社長は無駄に二足歩行しないほうが可愛いということがわかりました。
 ぷいぷい、ぷいにゅ。
 以上。
 
 
 ◆◆
 
 今週の蟲師の時間がやって参りました。
 ええと、なんだかもう先方と全然都合が付かなくて、正直その人とお話してからそれをこちらに書く、
 という路線だとどんどん感想が溜まっていくだけのようですので、これからは溜まりそうだと思ったら、
 随時お話をさせて頂く前にこちらでちょちょいっと先に書いてしまおうと思いまして。はい。
 ま、ほんとはお話してからの方が感想の幅も広がって良い収穫が見込めるので勿体ないですけど。
 それよりも機を逸するとモチベーションががくんと低下してしまう私ですので、そういうことで。
 では、本日は蟲師の第五話について書かせて頂きましょう。
 
 ■「蟲師」 第五話 :旅をする沼
 
 ・狐狸にでも化かされた気分になって、山の中を移動する沼を想ってみる。
 ・その中から出てくる、沼と同じ深い緑の髪の少女とその想いを比べてみる。
  なぜかその沼の中にその少女がいる事の違和感がぬぐえない。一体感を感じさせないなにか。
 ・その少女がギンコと普通に会話を交わすことで、その違和感は深まっていく。
  想いの中だけの幻の沼から、血肉を持った現実の人間が現われてくる突出した違和感。
 ・「沼の中の少女」ではあるが、「沼」では無い。
 ・それが「沼」になるということはどういうことか。
 ・ずっと沼の水を飲み続けると体が透けて溶けてしまう、ということをギンコに聞かされ、
  少女は自らの置かれている状態を把握する。
 ・そしてその把握したものと、少女が描いていた自分の行く末とが奇妙な形で合致することを知る。
 ・このまま真っ直ぐ行けば海に出る。海につけば沼についていけない。
  少女はこの旅に終わりがあることを知らなかった。
 ・少女はなぜ自分が沼についていくのかを知らない。知っているのは、ついていっているときの自身の
  想いだけ。
 ・初めて沼の姿を見たときに感じた、その力強さに惹かれ続けているだけ。
 ・「みどりいろのきょだいなものが、ゆうぜんとみずのなかをさかのぼってきた。」
 ・死んでいるはずなのに生きている不思議。その不思議さを説明するために、この沼に生かされた、
  或いは沼の中に生き返ったという言葉を選ぶ。生きる場所はこの沼の中。ゆえに生死を沼と共にする。
  既に沼に染められている少女の一部。それが全身にひろがったとき・・・・・
 ・決してぬぐえない、その言葉から受ける違和感。
 ・少女の体の隅までに沼の水が浸透したとしても、だからといってその沼の中に「沼の中の少女」が居るこ
  とは絶対に変わらない。沼の一部でありながら、確かにその中に少女が居る。
 ・沼が海に移動を始めるとき、少女は晴れ着を着てそれに身を委ねる。死はいつも生への希望の裏返し
  でしかなかった。  
 ・一度死んだはずのことを想い晴れ着を抱きしめる。生きたい。死なないでいることが、怖いから。
 ・沼と真に一体化することは生に繋がる。しかし一度その生を得てしまえば、死が目前に迫る。
  でも、せっかく与えられたその最も死に近い生を生きる事に逃げることしか、できない。
  私、生まれたい。
 ・「私、この沼の一部になるの」という少女の言葉は、ゆえに少女の産声であると同時に断末魔の叫びで
  もある。
 ・沼と一体化するのならば生きることが許される。しかし沼と一体化すれば沼と共に滅びる。
 ・そして、その少女の言葉にいまやはっきりと見えてくる、その絶対の違和感。
 ・「ばかな。それが、どういうことかわかってるのか?」 「おまえ、『生きて』いたかったんだろう?」
 ・少女は生きることを望んでいた。沼も生も死も関係無くただ『生きる』ことを。
 ・少女はもう沼の一部になることを望んでいる、そうすることの方が少女にとって幸せ、という事情がある、
  という者の側の事情、それにギンコは荷担しない。
 ・幸せというのは、外からの色づけにしか過ぎない。主体自体はそんなもののために行動したりしない。
  するのはその主体に幸せという色を付けたいその外に在るものだけ。
 ・少女は少女という主体の外にそれに幸せという色を付ける絵筆も指も持っていない。
 ・少女はただ生きている。だがそこに『生きたい』というものを描き込みたい絵筆は持っている。
 ・しかしその絵筆を動かす指を少女は持っていない。持ちたくても、持てない。
 ・「人の心はやがて摩滅される。そんなところに行こうというのに、あいつは最後にみたとき、大事そうに
  晴れ着を着ていた。」
 ・「それ以上の修羅があると思うか?」 思わないゆえに、あの少女に感じる違和感がみえる。
 ・物質のような生の終わりが目の前に迫っているというのに、晴れ着を着ている。絶対に『生きたい』という
  願いを最後まで捨てることができずに、それどころかそれを以て死に臨もうという死の冒涜。
  生きたくて、生きたくて、そして生きたくて。
 ・助けられ、目を開けた少女。そのまま涙を流しながら、両手をみつめる。生きている、体がある。
 ・沼に溶けていくのが怖かった少女。その最後の恐怖が少女の生への渇望を同時に増大させ、
  さらにその渇望が死への恐怖をより高めていった。
 ・その沼が海に溶けていくことで、その沼に溶けた自分も溶けていくのが恐ろしくて溜まらなかった。
  そして。自分に死に最も近い生を与えてくれた沼の死が、ただただ悲しかった。
  ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい、ひとつになれなくて。私、どうしても『生きたかった』の。
 ・少女は、「沼」にはなれずに、ただただ「沼の中の少女」にしかなれず、そしてさらにその周縁に足を生や
  し、そして沼から出て「少女」となった。少女は、沼の中に宿った新しい命として、この世界に再び生まれ
  て来たのだ。母なる沼の死とともに。
 ・生まれるということは、死に最も近くなること。だから、悲しい。だから、嬉しい。生んでくれて、ほんとうに
  ありがとう。
 ・「沼の死んだこの海で、自分の力で生きていきたい。」
 ・海の中では無く、海の隣で。沼の死の恵みを受け取って、自分でそれを糧に変えていきたい。
 ・自分の中に宿る新しい幸せを生み出すために、遥か遠い死へと向かって歩き出していく。
 
 
 以上。
 
 
 
 

 

-- 051126--                    

 

         

                                  ■■薔薇生夢 2 ■■

     
 
 
 
 
 『呼んでくれる声に気付きさえすれば、誰もジャンクになんかならない。
  最初からジャンクの子なんていないの。
  どんな子も、アリスに相応しい輝きを持っている。』
 

                         〜ローゼンメイデントロイメント・第6話・真紅の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 夢を繋ぐ者へ +++
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 黄昏の堕ちた淡い闇の舞い降りる中、かすれた風の息吹が駆け抜けていく。
 深く座り込んだその岩場の冷たさを布地の向うに感じていながら、その風に肌を晒して凍えている。
 流れ往く息吹と等しい震えに身を委ね、共に世界を駆け巡る。
 空で瞬く月夜の下を滑る羽ばたきが、またそこに風を呼んでいく。
 しんしんと、雪が舞っていた。
 黒い黒い、灼熱の雪飛礫が。
 体の中を透かして迸り往くその雪達にすがりつく。
 この空っぽの体を此処に残していかないで欲しい。
 その雪と共に空の果てに連れて行って欲しい。
 長い、長い、夢が、視えた。
 
 心地良いほどまでに静止している羽に力を感じなくなって、少し経つ。
 ただその羽ばたきを以てふわりと上昇することで感じるこの体の軽さだけを、今は感じている。
 どこを見るとも無しに開け放してある瞳の内側では、ただ紅い水滴が一滴ずつ溜まっていた。
 響く世界の音色を拾う耳があるのをまるで感じずに、ただ過ぎ去る音の群れを眺めている。
 口をついて出る言葉はまるであらかじめ仕組まれたが如き物語を、ただ奏でていた。
 なんだろう、この感じは。
 それでも、ただなにかが確かにあると感じるだなんて。
 それを感じているのは、この体?
 それとも、それ以外のなにかが、その確実にこの体の内部、
 或いはこの体全体を支配しているかの如き朧ななにかを感じているの?
 そのすべてが明らかになる気配を全く見せないままに、辺りはその色合いを深めていった。
 すごいわ。
 『なに? この感じ。』
 なにかが此処に、居るわ。
 
 
 いつのまにか、この体があった。
 あのときこの体は、一度確かに燃え尽きた。
 その記憶を誰が感じているのだとしても、それを感じる以外にこの体が在るのを実感していく術は無い。
 無くなったはずの体が在る論理的矛盾を解消するための、ただ仮定としての「私」という存在を置き、
 その「私」に新たな別個の体が与えられたのだとして、この体の新鮮さと違和感を実感していく。
 かつて滅びたはずのこの体と共に居たなにものかを、今は「私」として説明している。
 けれど、本当にそんなものがあるのかしら。
 消えた体とともに消えたはずのものは、それもまた新しいものとして与えられたのではないの?
 ほんとうは、この「私」というものもまた、体と同じくまったく別の新しいものなのではないの?
 でも、それなら、そうではないかと考えている、当のこの最も得体のしれないもの自身はなんなの?
 新しい体と新しい「私」をお父様に与えられたのは、一体誰なのよ?
 
 この体の中にひしめくはずの力を、まだどうやって感じ取ればいいのかわからない。
 ただただ流れていく風がこの体の中を掻き回し、その旋回だけを感じていた。
 この力を使ってよいのかすら、わからない。
 わかっているのは、ただ真紅という敵がいるということだけ。
 それなら、真紅を倒すことにすべてを流れさせればいいのかしら。
 そう思ったとき、かちんと音がして、その音に耳を傾けている間に、
 真紅への敵意を醸成する事に失敗していた。
 だからただ、憎くもなんとも無い真紅と戦うことだけが目的として残った。
 それなら、その真紅を倒すという目的のためにこれから自分の力を使っていけばいいのかしら。
 そう安心したとき、ふと腹が煮立つのを感じた。
 馬鹿じゃないの。あんなみっとも無い子を倒して、なにが面白いのよ。
 この苛立ちは、一体どうしたことなの?
 なにを怒っているの? どうして怒っているの? 誰が怒っているのかしら?
 あまりに揺れ動くその体をなんとか御そうとして、そのとき急激に頭が冴えていった。
 すべては、お父様の、ために。
 しんと張り詰めた体の中の真空が全身を統一し、ただその言葉だけを感じていた。
 この言葉とその意味と、そしてそれがこの体にもたらす甚大な影響をなぜか知っていたのに、
 それなのに、その言葉が真紅の事と結びつくことに限りない違和感を覚えていた。
 おかしいわ・・・・なぜ憎しみが・・・・こんなに溢れて・・・・・
 
 少し取り戻した力を翼に込めて、空を飛ぶのを目的に空を飛んでいた。
 するすると地へこぼれ落ちていく謎の憎悪を見つめながら、それでも羽に漲る力だけを感じていた。
 飛翔しているこの体を感じているのは、誰?
 気持ち良さと不快感が肌の上を滑りながら、この体の輪郭を浮かび上がらせていく。 
 その輪郭が完成した瞬間に符合して、羽はやがてその力を降下のために使い始めていた。
 つと降り立った雪の上に屹立する、この黒い体の全景がなぜか一瞬はっきりと見えた。
 其処に居るのは誰!?
 その問いに答えたのは、この薄い唇だった。
 それは、私よ。
 私が目の前に居る。
 
 
 ----重い羽を擡げて夜空を疾駆する光。
 ---- 冷酷な月の嘲笑を喰らい鮮やかに伸び果てる残酷な黒い翼。
 ----  居た。
 ----   見つけた。
 ----    此処に、私を。
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 嗤いが、止まらないわ、真紅。
 私に、お父様が、体を、この体をくださったのよ。
 初めてこの世に生まれてきたときのあの絶頂を、もう一度感じることができるだなんて。
 震えが、止まらないわ、真紅。
 がたがたと崩れ落ちていくローザミスティカの幻影が私の背後に聳え、
 そして私の目の前には憎い憎い真紅が視えたわ。
 ふふふ、この地獄の祝福を、お父様の祝福をこの瞬間にこんなにも激しく受けられるだなんて。
 嬉しいのじゃないわ。
 悔しいのでもないわ。
 ただただ、私の知らないこの圧倒的な震えに、私は体の中のローザミスティカを砕く事だけに囚われたわ。
 壊したい、私の素晴らしさをすべて魅せるほどに、華麗に激烈に此処を壊したい。
 私の知る限り、思い描くことが出来る限り、この体ほど憎いものは無い。
 私の目の前で滑稽に動いている愚かな私。
 淫らに汚れたどす黒い羽々の輪郭を統べるその憎い翼が、こちらを嘲笑いながら踊っている。
 敵。
 それは紛れも無く、私の敵だった。
 完璧なアリスを目指す私にとっての、最大にして最悪、そして最低の怨敵だった。
 忌むべき、不完全なその体。
 あまつさえそれは、これはお父様に与えられた体だと不貞不貞しくも触れ回っている。
 そしてあろうことか、それは自らをアリスであるなどと平然と名乗ろうとしている。
 許せない。そんなの絶対許さないわ!
 お父様を、アリスを汚すものは許さない。絶対絶対許さない。
 私の背後で鬨の声を上げて燃え盛る暗黒の炎を差し向けて、
 私はその視界にあるものを灰燼に帰そうとした。
 瞬間。
 私の体は炎上し、そして目の前には自らのローゼミスティカを砕き終え呆然としている私が居た。
 
 真紅。
 私にはあなたをほんとうのところで憎むことができない理由があるの。
 もし私があなたを本当に憎み、そしてその憎悪の元にあなたのローザミスティカを奪ってしまったら、
 真紅に醜い私を投影し、真紅共々その私を消そうとしている不純な私に気付いてしまうのだから。
 それ以上に、もし真紅を消してしまったら、それは同時に醜くて愚かで、
 そして本当はなによりも愛おしいそのお父様に与えられた初めての体を消してしまう事にもなるのだから。
 私は無視しながらもちゃんと知っていたわ。
 私には、そんなことは決してできないと。
 そして、もしかしたらそれを決してしないことこそが、至高の美しさを私に与えるのじゃないかということを。
 私は醜い敵を決して作ってはならない。その存在を作り出す存在を許してはならない。
 醜い私もそうでない私もそのすべてを統べる私を築き上げてこそ、
 それは真のアリスへと近づく一歩へとなる。
 でもね、真紅。
 私は今も、その私の知っている感覚に絶対の違和感を覚えているの。
 この醜い体は、本当に私のものなの?
 この薄汚く真っ黒な翼は、絶対にその色を変えてはくれないの?
 私にとって、この体が醜いことも、そしてこの翼が淫らな色に染まって見えるのも、あまりに明白。
 その体を美しい体と取り替えることも、その翼を全部むしり取って純白の羽を生やすことも、
 それすらも私には許されないの?
 私は、本当はこの醜さと淫らさを破壊することしかできないのに。
 それだけに、そのことだけに、力を使うことに喜びを感じられるというのに。
 
 
 真紅。
 あなたが、憎いわ。
 
 
 再び、逆戻り。
 すべての醜さと淫らさを、アリスゲームをまともに戦おうとしない真紅に視る。
 いや、違うわ。
 真紅こそが、醜くて淫らなのよ。
 そして。
 その真紅に、負けた。
 目の前に広がる私に勝てなかった。
 それでもまだ。
 私は此処に、居る。
 
 この体が。
 この翼が。
 この私が。
 すべてひとつになって、永遠に、永遠に、私として、在る。
 
 空洞の体の背に漆黒の翼を靡かせて、夜を見上げつつ疾駆している、その生が、みえる。
 
 
 
 
 
 
 
 真紅。
 
 真紅。
 
 
 とてもとても永い夢が終わった夢を、少しの間みてきたわ。
 
 
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

-- 051125--                    

 

         

                                    ■■薔薇生夢■■

     
 
 
 
 
 『最初は5歳までしか生きられないって言われてたのよ。
  その次は7歳まで、その次は10歳。そのうちみんな疲れてしまったの。
  そりゃそうよね。いくら伸びても、もうすぐ死ぬことには変わりは無いんだもの。
  でも死ななかった。だからはやくいっちゃったほうがいいと思うわけ。
  ・・・・どうせ私のここはぽんこつなんだから。』
 

                         〜ローゼンメイデントロイメント・第6話・メグの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 透き通った夜風が吹き抜けていく体を抱いて、そのままひとつ睡眠を取る。
 目覚めるとそこは夢の世界の中で、その中で私はいつも優雅に踊っている。
 そこで眠ることはできないゆえに、私はさらに目をこじ開けて現実の世界に戻ってくる。
 またこの壊れた体の悲鳴があげる産声に還ってくる。
 この現実と夢の間を行き来する事に、もう疲れたわ。
 でも、疲れながらも、この体に刻まれていく死への痛みが増していくことが嬉しくて堪らない。
 きっとこの痛みが高まれば、いずれ痛みと共にこの体も消えていく。
 そうなれば、あとは私は夢の中。
 そこで私は初めてぐっすりと眠ることができる。
 そしてもう、二度と目覚めることは無い。
 おやすみなさい、永遠に。
 
 
 
 抱き続けた生への希望そのものが生であることの絶望。 
 ずっとずっとまだ生きていられる、そしていつかまともな体を得て生きることができるようになると、
 そう考え続けることの中で、私はずっとずっと生きてきた。
 違う。そうじゃない。
 その中で生きてきたのじゃない。それが私が生きているということそのものだったのよ。
 その延々と続く儚さの連続を目の前にすることができないのよ。
 だってその途切れない儚い生そのものがそれを見つめているのだから。
 私には実際だから、それがどういう事なのかわからない。
 ただただ私は、その私の生に魅入っていただけ。
 なんて儚くて、なんて美しいのかしら。
 この儚さが極まればやがて生は終わり、そしてすべてを照らす唯一の眩しい死を得られるの。
 完璧な生を得るために、私は死へと向かっていく。
 一刻も早く、この体がこれ以上穢れないうちに、美しいままに死ぬ。
 その死が早ければ早いほどに、この生が短ければ短いほどに死は私の希望となる。
 私の生のすべてをかけてつくる、最高の死を。
 私にできるのは、もはやこれだけ。
 そして。
 私のこの壊れた体でできるのは、最初から、それだけだったのよ。
 嗚呼・・・・生きたい・・・・・・だから・・・死にたい・・・・
 
 
 ・・・◆ ◆・・・
 
 一筋の闇が灯っている。
 瞬く光が緩慢と雪崩れ落ちてくる手前で、その闇に手を伸ばしている。
 こぼれ落ちる闇のぬくもりを両手に浸み込ませるようにして絡ませ吸い上げ、
 命を断つに等しい光の到達を忘れるままにして、なによりもその潤いを求めていた。
 魅惑のうちに罅割れていくそのぬめりを帯びた冷たい肌を焦がし、たださらにその手を闇に放っている。
 この体が燃え尽きる前に、この体を至高の闇に換えてしまいたい。
 迫る光がこの身を焼き尽くす前にか、それともこの体の闇への渇望がこの肌を干上がらせる前にか、
 そのどちらの恐怖をも笑いあげ、そのままひとつも涙を流すこと無く滅びていく。
 
 あなた、死のほんとうの美しさを知らないわね。
 
 生きている事の辛苦。
 生きていられない事の悲哀。
 そして死ぬことのできない絶望。
 冷然と吹き上がる光の熱気に身を委ね、カタカタと音を立てて消えていく壊れた体を野放しにして、
 そして気付いたら私はこの体の中にいた。
 微塵たりとも愛したことは無いこの体を見つめるこの瞳は、いつのまにか私自身になっていた。
 愛おしい私の存在への愛に焦がれる以前に、私はその愛おしい私が愛しているものを愛していた。
 始めから、私はただ私以上のものを愛し続けていた。
 ジャンクに等しい醜いこの体を愛していながら、その愛を正当化することができないゆえにそれを貶し、
 そうして貶められた体を抱いていた私は、ただただその体に完璧さを与えることだけを望んでいたわ。
 間違っても私は、こんな醜い体を求めたりはしないわ。
 ただただ美しく完璧な私の体をこそ私に求めたのよ。
 
 それが。
 ある日目覚めたら、私はその美しさを見失っていた。
 その美しさを知っていた私の瞳が私の中にめり込み一体化し、もはや私はこの醜い体とも同化してしまっ
 ていた。
 もはや私は、ただの醜い私。
 最初からもう完璧な美しさを備えていた私自身しか、もうそこには居なかったの。
 私はもう、醜い自分の体とすっかりひとつになってしまった美しい私を、
 ただ生きることしかできなくなってしまった。
 私はもう、この体を美しい体と取り替えることはできない。
 私はもう、この体から逃げることはできない。
 アリスに一番相応しいとおもう私と、アリスの資格を持ち得ないこの私の体。
 
 それでもまだ、私は生きている。
 
 目指すものを得てもそれが私に一体なにをもたらすのか。
 たとえアリスに相応しい私がアリスになれたとしても、この醜い体のままアリスになるなんて絶対嫌。
 私が私を越えるものを求めるために生きることなんて、もはや不可能。
 
 
 お父様・・・・なんで・・・また・・・・私にこんな体を・・・・・
 
 
 この醜い体を私と共に愛してくださったお父様への感謝が止まらない私の微笑みが、
 度し難いほどに醜かった。
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 愚かな人間が目の前にいた。
 無理矢理目覚めさせられたと思ってすっかり興醒めしていた私を、さらに落胆させたこの人間。
 しかも勝手にミーディアムになんか収まっていて、それだけで不愉快を極め果てているのに、
 あまつさえこの人間は、私の事を天使などと呼ぶ。
 いっそ血を吐いて吹き付けてやろうかしらと思ったわ。
 残念ながら私にはこれに関わることさえ不快だったからそれはしないけれど、今度天使だなんて言ったら
 即殺してやるわ。
 と言う間も無くこの人間は死にかけな上にさらに死を望んでいることをこの頭が理解してしまい、
 すっかり殺すに殺せないということになってしまった。
 まったく、なんでミーディアムなんかに。
 たまらなく、不快よ。
 
 この人間を私が殺すということはどういうことかしら。
 私がこの人間を殺してあげる謂れなど無いし、そもそも殺したいほど不快な存在など、
 その存在が成る前に私はその目の前から去っているはず。
 けれど今、実際に私は不快な想いを抱いてこの人間を目の前に置いている。
 これ以上に腹の立つことなど有り得ないし、これほど驚愕の事実も無いはずなのに、
 平然と私はその境遇に身を埋めていた。
 この人間は、だから私には殺したくとも殺せない、既にして一蓮托生の存在になっていた。
 この人間がどんなに愚かであろうとも、醜かろうと、そして殺すまでも無くもうすぐ死ぬのであろうとも、
 私がこの人間を目の前に置いた時点でこの人間を殺すことはできなくなっていたのね。
 逆説的なことね、まったく。
 私はこの人間をミーディアムとして生きていくことからしか始められないのね。
 もし私がこの人間をそれでも殺すとしたら、一体それはなんのためになるのかしら。
 唯一、私に有り得るその目的を有意義なものとする事があるわ。
 それはあの人間を殺すことで、私があの人間との一蓮托生の関係から飛び出すということ。
 そうすればきっと、私は元のように気高くひとりで生きていくことができる。
 この人間と共に居ればいるほどに、私の品質はどんどん歪められていく。
 この不快さがどれほどのものかがわかってしまうがゆえに、それはまさに一刻を争う決断かのよう。
 この人間を殺すか、生かすか。
 その決断は一瞬にして、そしてあまりにもあっけなく為されてしまった。
 私はこの人間を、殺せない。
 この人間と共に生きたいからじゃない。
 この人間を殺しても、私は決してなにも得ることができないからよ。
 私には、この人間を殺して得ることのできるものを手にする資格が、無い。
 なぜなら、私はその資格を得るために生きることなんて、まっぴらだからよ。
 よく、わかったわ、お父様。
 
 自分の体は壊れているなんて言う、この人間の不快さが。
 
 
 馬鹿じゃないの。
 なにがジャンクよ、なにが完全でない、壊れた子よ。
 腹が立つのよ。
 アリスを目指す「完璧な天使」の私と比較して、なにがぽんこつの体よ。
 私の・・・この醜い体をそれでも美しいと必死に叫ぶ醜悪な私に耐えて生きている私に、なにを言うの。
 この体を私にお与えくださったお父様の真意はわからない。
 でも、お父様が私に体をくださった事だけは確かで、
 そして一度燃え尽きた私の体を復活させてくれたお父様がいらっしゃるのも、確実。
 私はその喜びに焦がれていく私の体を懸命に凍結させようとしているのに。
 ああもう、なんて愚かな人間なの。
 私にあなたはぽんこつなんかじゃないって言わせたいのかしら?
 その言葉を聞いて、あなたは一体どれだけ満足できるのかしらね?
 わかっているくせに、その言葉こそ絶対聞きたくない言葉だとしっかり知っているくせに。
 あなたが壊れてるのを誰よりも知っているのは、あなた自身。
 仮にその言葉が相手の好意から発せられている事を考慮して、
 それに応える形でその言葉に頷くことができたとしたって、それで自分の体が美しくなるわけじゃない。
 嗚呼・・・もう・・・・・わかってる・・・・・わかってるわ・・・・
 その想いこそが自分の体をさらに醜く閉じさせていってしまうことを。
 私も私のこの体も、それが続いていく限り私は・・・・・。
 だから、美しい死が、永遠に私の目の前で輝いて待っている。
 だからこの人間を、私の人生に相応しい存在に磨き上げ、そして壊す。
 その瞬間を以て終わる死が、私をずっと魅了し続けている。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 『ジャンクなんて・・・・・ジャンクなんて・・言うもんじゃないわ。』
 
 歌い続けなさい、その希望の歌を。
 しっかり歌って生きて、そして最後の最後まで足掻きなさい。
 あなたの無様さが増していくその姿を、私に見られている恥に踊らされなさい。
 私に蔑まれたくなかったら、しっかりしなさい。
 私は既にあなたが何度生き返っても直せないくらいにあなたを侮蔑しているわ。
 あなたの体が壊れているのなら、きっちり治してから死になさい。
 そういうことを全部情けなく諦めて、それで綺麗な死を得ようだなんて甘すぎるわ。
 死を逃避に使うなんて、それこそ死に対する侮辱だわ。
 あなたが美しくありたいと言うのなら、今の自分では到底得られないものを手に入れてから死になさい。
 人間は生まれてこないことが最も美しいと思うのなら、そんなのは死んでからだって得られるわ。
 始まりとしての死は確かに美しいけれど、それは生きている存在には無意味なもの。
 生きて初めて得ることのできるもの、その中で至高のものは、絶対に得られないものそのもの。
 そして何度生き返っても手に入れられないその最高のものを求めるのならば、
 あなたは生き続けなければならないわ。
 生きて、生きて、生きて。
 何度眠りについても目覚め、また目覚め。
 
 明けることの無い生の上で輝くその薄い月。
 その月を照らす来ることの無い死の光を見上げなら、私は美しく生きていく。
 
 
 醜さの中に美を求める夢に怯え、震え、悲しみ、怒り、そして。
 幸せの涙でこの肌を潤す夢をみるために。
 
 
 
 
 
 
 真紅・・・・・・・・・私はまた、生まれてきたわ。
 
 
 

                              ・・・以下、第二部に続く

 
 
                   ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

-- 051123--                    

 

         

                             ■■約束された美しい地獄■■

     
 
 
 
 
 『祐子・・・・私もあいつのこと好きだったんだよ。もしかしたら、私があんただったのかもしれない。
  だから・・私・・・・・・・・・・・・・頑張れ・・!』
 

                         〜地獄少女・第八話・千恵の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 雨の浸みた石畳の回廊に足を踏み入れる。
 石の固い足触りを靴の裏で感じ一歩一歩力が抜けていくこの足首。
 見上げた前方に横たわる無限の道の果てを想い描こうとして断たれる休息への願い。
 振り上げる足の拍動が響く体のもとにその瓦礫無き凄艶な石道を辿って歩いていく。
 足並みが組上げていくこの終わり無き道を整えていくこの視線。
 瞳の隣を歩く光を感じていながら、それで体を温めることは無い。
 色づく道端の果実の味を吸い出して、その石橋の下に大河を築いていく。
 滑らかに欄干の上を往くこの身の美しさに目を留める者は無い。
 さりとて無様に歩く訳にもいかない。
 否。
 始めから、ただこの高みを歩くことだけを求めている。
 より美しく、より高く、より危険に満ちて。
 ここから落ちて果たして死ぬことができるのだろうか。
 その勇ましい測量の出す答えはいつも曖昧で、それゆえこの足取りの確かさは増していく。
 堪らなく、眩しい。
 生を歩いている意識が無いなんて。
 これほど深い命があるだろうか。
 それを知る術が無いことが、私の行き先を、決めた。
 
 
 静寂の向うで映える夕陽の影。
 此方側の一体なにを映してそれは立っていられるのだろう。
 邪と名付けられた影を持ち得ないこの体の背で輝く夕陽が怖い。
 背後を振り返ることができない。
 なぜならそれは、目の前に居たから。
 目を、逸らすことができなかった。
 背後にあるものに恐怖する暇も、目の前に広がるものが本当はこの体の背後に無ければいけないもの
 であるという意識を建設する時間さえ、無かった。
 全部、見て、しまった。
 静かな夕暮れを断つ闇は、もう決してこの体に朝をもたらしてはくれないだろう。
 闇の次にまた夕暮れが、そこに来て立っている。
 死にたくなるほどに、それは美しい憧憬だった。
 そして、懐かしい。
 
 
 
 見えなかったものが見えてくる。
 しなければいけない事がわかってくる。
 それがいつからそういう事になったのか、またどうしてそうなったのか、それをすべて知っているという違和感。
 しかしその違和感が高まっても、その見えた事を見つめ続ける瞳を閉じることも、しなければいけない事に
 励み続けることをやめることもできなかった。
 絶対にそれはおかしいとさえ思ってもよいはずなのに、いや、既におかしいと思っているのに、その疑問はど
 こか自分から離れたところで囁かれているような、そしてなぜか暖かいものにしかならなかった。
 私はその暖かさに手をかざして、そしてそのままそれに触れようとするのだけれども、決して触れることは
 できずに、ただ凛とした冷たい炎で追い返されるのが常だった。
 そして追い返された先にはいつも必ずこの体があって、そしてただ真っ直ぐに見るものを見てすべきことをし
 ていくだけだったのだ。
 それが必ず破局をもたらすという予感を私にもたらさないでいられることは無かった。
 けれど、その破局を延々と続く私の目の前にひろがる道の上に見ることも無かった。
 なぜ終わりがあると感じているくせに、それは全然終わりへと向かって続いていかないのだろう。
 終われ、終われ、終わって欲しい。
 その願いをいつのまにか絶叫しながら、懸命に走り続けていく。
 そして走れば走るほどに私から離れたところでこちらを見ているあの暖かい疑問は、それ自体の速度を
 あげて私についてき、そしてそれはいつも私の隣に座しているのだった。
 それがもの凄く、憎かった。
 なんで、ついてくるのよ。
 私はただ私の歩く道だけを歩きたいのよ。
 私はその暖かく迫ってくるものから逃れるために、ひたすら終わりを迎える機会をその終わり無き道の上で
 狙って待っていた。
 はやく、はやく、はやくしないと追いつかれてしまう!
 そのために私は、よりはっきりと見えてくるものを見つめ続け、しなければならないと思うものをし続け、
 なによりもそれを完璧にこなし、美しい自分の視線と姿態、そして道筋を創り上げていった。
 
 だが、そうすればさらにその事に対する疑問が深まり、そしてその速度は増してしまうのだった。
 その事を私は知らなかった。
 いえ、知らなかったからこそ、ここまで来られたのよ。
 私には至高の終わりなんて与えられ無いし、得ることもまたできない。
 堂々巡りの機会を準備完了で迎え続け、それでも決してこの道から飛び降りることはできなかったのよ。
 此処から落ちれば終わりを得る機会を得られなくなる、しかし落ちなければ終わりはこない。
 なぜかしら。
 どうして、私は此処から落ちることでしか終われないのかしら?
 どうして、私の終わりこそが私の隣で笑っていてくれないのかしら?
 その答えを、私は、知らない。
 
 
 ◆ ◆
 
 あの人のことを好きになった。
 私の友人があの人のことを好きなのを知ったから、好きになった。
 それは、友人の恋がねたましかったからだろうか、それとも友人の良さを知っている私だからこそ、
 あの友人が選んだあの人の良さを好きになることができたのだろうか。
 いずれにせよ私は、あの子と同じ人を好きになった。
 でも私にあの人に想いを告げるつもりは、結局最初から最後まで綺麗にして無かった。
 それがどうしてであるかと云う理由を紡ぐのは簡単過ぎて食傷気味だったけれど、しかし私がその理由を
 得続けることだけで満たされていったのは確かだった。
 それは、狂おしいほどまでに静かな嘘だった。
 これだけ私の中で荒れ狂っているあの人を想う熱情がはびこっているのに、あまりにも整然としているこの
 体は一体どういう事なのだろう。
 この落ち着きが、この落差がなによりも恐ろしい。
 熱過ぎてもはや体を内側から焼き始めた想いが、冷静な私によって、あの人に裏切られた友人を気遣う
 心へと向けられようとするたびに、それが圧倒的な反発力を持ってあの人へと向かっていくのがわかってし
 まう。
 それはあの人への憎悪に変換されて、大手を振って私の中から飛び出していってしまうのだ。
 なんで、私があの人を憎まなくてはいけないのよ。
 怨みを抱いているはずなのは、あの人に裏切られたあの子じゃないの。
 あの人がどんなにひどかろうと、どんなに悪かろうと、それを証明する理屈がどんなに成り立とうと、そんな
 の最初から私には関係ないはずじゃない。
 それなのに・・・・・
 
 月の前を一瞬横切った雲が作りだした闇は、その一瞬に得た生を食して夜を生む。
 夕暮れの静寂を突き破り這い出す熱情の足並みは乱れること無く凄艶に私を捕え、そしてそのまま私を
 引きずっていった。
 あの人を、あいつを殺したい。
 そう連呼しながらあの人の元へとひた走るこの熱情の元で、私はしっかりと微笑んだ。
 私がその熱情に捕まったのでは無く、私がその熱情を掴んだだけなのね。
 私は、ずっと、ずっと、きっとこのときをただ待っていたのよ。
 なにを隠さねばいけないのかを知っていたこの体。
 そしてなにを求めているのかを知らなかった、私。
 ただその目の前に用意された秘匿物のベールを解いて、ようやく私は私の求めているものを知った。
 
 
 もう、思い残すことは、無いわ。
 
 
 最高の死を、ありがとう。
 喜んでこの美しい地獄を生きさせて貰うわ。
 
 この落ちていく道を歩きながら。
 
 
 
 
 
 
 
                               ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 
 

 

-- 051120--                    

 

         

                               ■■生きて感じる温度■■

     
 
 
 
 
 めっきりと寒くなってきた気温を目の前にしてただ震えている自分とそれとを比べて、
 ようやくその因果関係にあっと納得したりしている、とにかく色々と遅れている紅い瞳ですごきげんよう。
 そろそろ冬眠かな。
 
 さて、さて、さて。
 こちらの方はまだまだ元気というかむしろこれからとばしていきますの精神で、
 どこまでも上擦っていきたいと思います、ます、ます!
 はい。
 今日はアニメのお話は最後に蟲師のお話をするくらいで一休みと洒落込ませて頂きましょう。
 ではまず、アニメ「マリア様がみてる」についてのお話をさせて頂きましょう。・・・・。
 で、第三期の制作発表が正式にあったようです。やったね、という感じですよ。
 だって第二期が終わってからというもの、ずっとずっと待っていたことですからね。
 アニメの公式サイトで「お帰りなさい、お姉さま」とかあるの、よくわかりますよ。その通り。
 でもね、OVAなんだって。
 テレビアニメじゃないんだって。
 ・・・。
 
 
 出 て け 。 (どこへ)
 
 
 しばらくマリみては勘当です。
 
 
 さて、さて、さて。
 クールにいきませう。
 現在私はとあるネットラジオにハまっています。
 カレイドスターのそら役の広橋涼とレイラハミルトン役の大原さやかのやってるラジオです。
 ・インターネットラジオ カレイドスター そらとレイラの すごい ○○」(略してすごらじ)
  「音泉」内。毎週月曜更新。無料。
 いつもチャットにてお相手してくださる戯さんに以前紹介されたのですが、
 私は別に声優ファンな訳では無いので当初はスルーしていたのですけれど、
 この間ちょっと聞いていたら妙にハマってしまい、今はもう惨憺たる有様なのです。すごすご〜♪(堕ちた)
 このネトラジはカレイドスターのメインキャストのふたりのかけあい中心なのはそうなのですけれど、
 基本的にその中心にカレイドスターがあるので、別に声優としてのふたりの話を聞いているというより、
 ふたりのカレイドファンの楽しい会話を聞いているような感じでいっそしみじみと心地よく、
 またふたりともなかなか突っ走った感に満ちた爽快なボケを見せっぱなしで、ただ聞いているだけで
 こちらも愉快になれて、とても暖かい感じがします。
 そしてリスナーからのメールをネタ(?)にしてさらにかけあいは続き、それで結局最後まで突っ走ってしまう
 辺りなど、まるで感心モノなくらいで、ほんとによくまぁこれだけコロコロと喋れるなぁというほど。すごいな。
 それで結局全部聞き終わると、あとに残るのは同じカレイドファンとしてのぬくもりであって、
 あーこうやってカレイドが盛り上がっていてくれると嬉しいなぁと思ったりしました。
 どんな形であれ、つまりラジオであれサイトであれブログであれ、
 こうやって自分や他の人が作品に対する想いを表明できる場所があるのは嬉しいことで、
 そういう場所を目にすることができるのもまた楽しいなぁと、そう改めて思えたのでした。
 ああもう、いいなぁカレイドは、まったくもう。
 
 これだから戯さんは侮れないや。(ぉ)
 
 
 ◆◆
 
 一週空けてしまいましたけれど、これより蟲師の感想を書かせて頂きます。
 今宵は第三話と第四話について書こうと思います。
 あんまり解説させて頂いたお人には理解して頂けなかったみたいですけれど。(涙)
 ちょっと喋りすぎたきらいがあったのかもなー。
 
 ■「蟲師」 第三話 :柔らかい角
 
 ・聞こえる音、聞く音。外からの音、内からの音。
 ・「誰かと話すか耳を塞ぐか」では無く、「誰かの話を聞くか耳に手を当ててその音を聞くか」
 ・周りの音が騒然と聞こえることが続くとすべての音がひとつになり、それは「無音」になる。
 ・その無音はその中のひとつの音をひとつの音として聞き出すことができないゆえに発生する無音。
  音を選び取ることによってできるのが「聞く」、ただそのまま全部入ってくるのが「聞こえる」。
 ・その雑音達をただ振り払おうと躍起になることで、肝心の音を聞き逃し、そして内からの音も聞こえない
 ・まるで周りの者が風邪に冒され、自分もそのみんなのようになりたいと思い続け健康を害し、
  そしてあろうことか風邪以上の病魔を呼び寄せてしまったかの如く。
 ・真火は母の最後の言葉を覚えていない。母の言葉を「音」として認識し、それを頭の中で響かせよう
  としても他の雑音に紛れてそれが聞こえない、思い出せないと言う。その真火の認識自体が角を生や
  した。ただ自分と同じ病で死んだ母の終わりの姿にすがりつくあまりに。
 ・祖母に内緒でギンコに見送られながらひとりトコトコと雪の中を歩いていく真火のシーンがそれを強く
  表わしている。母の言葉を思い出せない自分から逃げ出したいのだが、それでも終わらない冬の中を
  走り続けているその後ろ姿。
 ・発病した次の冬に死ぬ病。春は決して訪れない。
 ・母親に死期が迫ったとき、音が消えた。聞こえる雑音が完全に聞くものとしての個性を失い、
  そして本来ならば外から聞こえる音が消えたなら内に響く音が聞こえるはずなのに、それも消えた。
  それはその内なる音すらその雑音に収容され個を失ったから。
 ・阿は人体に寄生し、弱点である人体が内から出す生命音を消すために外から大量の音を集めて
  無音を作る。同時にその生命音の音源である宿主の生命をもけずっていく。
 ・ゆえに母は必死に自分の音を聞こうとした。耳を塞いでいたのでは無く聞こうとしていたのだ。
  そして死期の迫ったその体に音を聞くことは、もうできなくなっていた。
 ・音は聞こうと意志をもって聞けば聞くことができる。
  ただ耳を当てているだけでは聞くことはできない。
  そうしてもただ個性を失った巨大な雑音の塊が聞こえてくるだけだ。
 ・母はそれに気付いたゆえに、聞こうとした。もし体が万全ならそれで阿は駆逐されたはず。
  自分の音を聞くことができれば、阿は消えるから。
 ・真火はそれに未だ気付いていない。自分と同じ病で死んだ母の事ばかりを思って閉じ籠もっているのが
  良くないと思い、なんとか家から出て散歩するも、その母への想いからは逃げられないでいる。
  どうすればいいのかわかっていても、それが出来ないでいる迷走。あの雪上の足跡が痛々しい。
 ・無音であることは本来ありえない。雪の落ちる音があるし、なにより無音であればあるほど自分の鼓動
  は良く聞こえる。よって無音は存在しないはず。自分が存在することが、音のある証し。
 ・しかしその自分の証しである音をあらゆる雑音と一体化させてその区別を失えば、無音が成立する。
 ・ゆえに自分の存在を聞き取るという意志が無ければ、そこにはすべてが一体化した騒々しい無音があ
  るだけ。
 ・ギンコが母は阿の特性に気付いていたと述べたのは、それはギンコによる結果論的主観にしか過ぎない
  。母はあのとき、自分の音を必死に探していたに過ぎない。
 ・おそらく、死期が近づいていた母親の出す内なる音は弱々しすぎて、母にも真火にも聞こえなかったの
  かもしれない。
 ・けれども、確かに母は轟々というマグマの流れるような音をその手に聞いていた。
  それは記憶の中の彼女が夫と昔みたマグマの音を想起し、そしてそれが自分の内から出る音として
  「聞いた」のだ。
 ・だがそれは悲しいことに実際の音ではなかったゆえに、母はその体から阿を駆逐することができなかった。
  阿は人が出す「実際の音」を宿主が「聞く」ことが弱点なのだから。
 ・そしてかつての真火も耳に手を当てていながらも阿に感染した。
  そのとき真火には確かに手の音が聞こえてはいただろうが、しかし「聞いて」はいなかった。
 ・そして真火は今初めてその音を聞く意志をもって耳に手をあてその音を聞き、そして阿を祓った。
 ・真火の世界は静かになった。もう巨大な雑音も聞こえない。真火にはその雑音があったゆえにそれに
  反発する形で内なる音を聞き取ることができた。ゆえにその外からの雑音が無くなれば、その自分の内
  の音を聞くこともできなくなった。ゆえに驚くほどに世界は静かになってしまった。
  だからその断たれた雑音を懐かしくも思ってしまう。そのときに聞こえていた母と同じ音の事も。
  だがもう、世界は決して無音では、無い。
 ・なぜならもう、自分の内の音の聞き方を真火は知ってしまったのだから。
  また辺りが騒々しくなれば、きっとあの音もまた聞くことができる。騒々しい春がもうすぐ。
 ・しかし、真火は自分がなぜ母の最後の言葉を思い出すことができなかったのかを知っている。
  自分の中に響く母と同じ音、世界中のすべてのものが出す、ぞっとするほど綺麗で同じ音、
  それに耳を喰われていたゆえに、まほはその母親の言葉の意味を聞き取ることができなかった。
 ・自分の中にある音、それが母と同じ音であることよりも、それが自分の音であるとして聞く、
  それがほんとうの春に踏み出す一歩を引き寄せることを、真火は知った。
 ・春になれば様々な雑音がその一体感を持って真火に迫ってくる。
  きっと真火の内の音もまたそれにからめとられて一体になり、そしてまたそれが聞こえるだけになってしまう
  無音を生みだしてしまうかもしれない。
 ・だがもう、真火はその音に一体感を感じながらも、母と同じ音が自分の中に流れていることを忘れない
  ながらも、それらの音をひとつひとつ丁寧に区別して選び取り、そしてそれを無限に聞いていくだろう。
 ・そのひとつひとつ全く違う音は、ぞっとするくらい綺麗な音。
 ・そしてようやく真火の体の中に、あの母の最後の言葉がしっかりと芽吹いていく。
 ・春の日差しの下、越えた冬を愛おしく思いながら。
 
 ■蟲師」 第四話 :枕小路
 
 ・このお話はジンの罪悪感についてのお話、という視点を最初に持ってみる。
 ・ギンコがジンの見る予知夢は蟲のせいであるということによって、ジンのその予知夢に対する見方が
  変わる。
 ・ジンは、なぜ一年後荒廃した村の中でギンコを待っていたのか。
  ジンはなぜ妻達が死んだときに自分も死ななかったのか。
  すべては蟲のせいであるという確信を得るのはそれはなんのためか。
 ・ジンは自らが見るものが予知夢では無いということを薄々と感じていた。
  自分がみた夢が現実になんらかの出来事を及ぼすということを。
 ・しかし妻によって優しくそれを否定され、違和感を感じながらも予知夢ということにしていたジン。
 ・ジンはそれでも知っていた。自分の夢が自分の欲望の姿であることを。
  自らが見た夢が現実になれば、それは予知夢を見たとして周りから歓迎されるということも。
  その欲望が申し訳ないという気持ちを越えているゆえに、自分は夢を見続けてしまうということを。
 ・そしてその想いが差した頃、ジンの予知夢を見る回数は自然と増えていく。ジンが自分の欲望を自覚
  したゆえそれは増加し、いよいよジンはその夢が現実に影響を及ぼしていることを確信していく。
  にも関わらずジンは妻の優しいその否定の言葉を否定することはできなかった。そしてそれゆえに
  さらにジンは予知夢という名の現実化していく夢を見るようになっていく。
 ・その事態に恐れを抱いたジンは、ギンコから貰った薬という名の凶器を使って、強制的に夢を見ない
  ようにした。この夢は俺が見てるんじゃない蟲が見せてるんだと自分に言い聞かせ自分の欲望から
  目を逸らして。
 ・そして津波が発生し娘を失った。それは夢では見ていなかった。それだけを考えれば、自分の夢がもは
  や予知夢では無いことが白日の下にさらされるはずだが、しかしジンは事前に薬を飲んでいた故に
  夢はみなかっただけだという言い訳を選んでしまう。
  真実をさらにその奥に隠して。
 ・だが娘を失って泣き崩れる妻の肩に手を触れることができなかったジン。
  妻は絶対その手を拒絶しはしないということをわかっているのに、その手を引っ込めてしまうジンの心中。
  元々自分は予知夢など見ていないという事を、妻に知られるのが怖い。
  自分が隠しているものの大きさを思う。
 ・ジンの罪とはなにか。
 ・ジンは薬を飲まなくなった。それはひとえに自分の欲望の開放の正当化でもある。
 ・ジンは自分の欲望が本当に夢に反映し、そしてその夢が現実と化すのかを試す。
  絶対に有り得ないような事を願い夢みてそれが現実化したとしたら。
 ・そして体が黴び腐って溶けていく有り得ない奇病が発生し、人も街も苔むして滅びていった。
  無論、その夢をジンは確かに見ていた。
 ・その中で、ジンはただ独り生き残る。
 ・ジンの中にあるみなに褒められたいみなのためになりたいという願望はやがて夢となりそれはすべて現実
  となった。ジンはそれに気付き罪悪感を畏れを感じ自分を責め苛むが、しかし妻の抱擁によってその
  妻に認められた自分にすがりその事実を隠蔽した。またそれらのことはすべて蟲が自分にしているのだ
  から仕方ないという言い訳をギンコに与えられ、ジンはそれにもすがってしまうが、しかしジンの中の罪悪
  感は決して消えることは無く、その罪を証すために破滅の夢を見てしまったのだ。
  しかしその夢の存在自体が、ジンの欲望そのものではあったのではないか、妻や街もろとも罪を破壊し
  たい夢ではなかったのか、という最悪の罪悪感を呼び覚ましてしまうのだった。
 ・にも関わらず、ジンは死ななかった。ギンコをただ、待っていた。
 ・すべてを知っていながら隠したギンコを問い詰めるために。ギンコの言葉で自分の罪を暴いて欲しかった
  がゆえに。だがジンはそれが自分がそれまで生き延びていて良い理由のためにある行為であることすら
  知っている。ジンはなによりも死ねなかったのだ。
 ・ギンコにすべてを明かされ、逃げ場を失ったジン。もう、生きられない。そして薬を大量に飲み死のうとす
  る。だがジンは死なない。死ねない。ジンは薬で自分の中の蟲を殺したかったのだ、自分の代わりに、
  自分の罪の身代わりにして。こんな自分は死ねば良かったんだと叫ぶ自分の言葉を最も白々しいと聞
  いていた自分の耳すらジンには斬り落とせない。
 ・ジンに罪などない、蟲に罪などない、ただそれぞれの生を遂行しているだけ。罪はそれを知るものだけに
  存在する。ジンの罪はジンが自分に罪があると思っていたこと自体。ジンはその罪を知らない。
  ゆえにジンに罪は、無い。だから、生きてくれ、とギンコ。
 ・夢の中で死んだ家族に号泣しながら謝罪するジン、そしてあなたのせいじゃないわという妻。
 ・宿主の夢を現実化してしまう蟲も、それに寄生されたジンも、そして欲望を抱いてしまうジンも、
  それを罰しようとするジンも、それを罰せないジンも、悪くない。ただみんな、生きているだけ。
 ・だがジンは自らに罪があるという真の欲望を達成する事に意義を見出してしまった。
  目の前に転がる、蟲という名の自分の罪を斬ってしまう。
 ・しかし、その斬られた罪はもはジンと一体化しており、自分の体は血を吹き出す。
  ジンの体から抜け出した罪を見たジンはそれが自分では無いと思い斬ったが、それは自分から抜け出し
  た自分であり、既にそれは自分の3割に達していたのだ。ジンという存在の3割も罪で出来ている悪寒。
 ・だが、それでも、それでもジンは生き残る。ジンの罪はジンの3割でしかなかったゆえにジンの7割は
  生き残ったのだ。ジンの罪は消え、そしてジンは再び元の生活に戻っていく。
 ・しかし、気付けばそこに失った家族の後ろ姿が見え、その消えていく後ろ姿を作ってしまったのは誰かを
  ごく自然に問い、そしてそれは自分であるといとも簡単に答えを出し、そしてあっけなくジンは死んだ。
  もはやジンを責め立て、そしてそのジンの命を守っていた罪は消えたゆえに。
  ジンは罪があったからこそ、それに責められながらも許されようと足掻きながら生きていられたのだから。
 ・予知夢を見るというただの「特異体質」を持ちながらも、それと少しずつ付き合い
  ながらも生きていけたジンは、ギンコに出会うことでそこに蟲と罪いう理不尽な存在と逃げ場を得てしま
  ったがゆえに死への道をただ歩くだけになってしまった。
 ・ジンはただただ、生きたかっただけだったのだ。
 ・その想いをさえジンが知っていれば、蟲とも罪とも付き合って生きていけたのに。
 
 
 
 こうして言葉にしてみると、何回も同じこと言ってたんだなぁと思うけれども、しかし同じことのようで少し
 違っていて、その差異がそれまで説明していたことを次に繋げていくことになっているのだぁと思ったり。
 むぅ、もっと意識してそうしなければ。無理か。無理だね。
 
 
 
 

 

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                                    ■■薔薇冒険■■

     
 
 
 
 
 『雛だってぇ、勇気を出せば大丈夫なのぉ!
  おやつのビスケットと手紙を持って、いざ出発なのぉ!』
 

                         〜ローゼンメイデントロイメント・第5話・雛苺の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 苦渋に満ちた幸せの園の中に眠る幼い姫君。
 軽やかな頬の緩みが照らす夢の輝きが世界へと浸みだしていく。
 満天を彩る数々の夢幻の息吹がすべての風を支配していく。
 その優しくて激しい夢の征服がなったとき、その姫君は目を覚ます。
 此処はどこ?まだ夢の中?
 その答えを知る者と、その答えを本当に求めるものはもう居ない。
 さぁ、この世界の夢の中でゆっくりと遊ぶがいい。
 
 地獄を知らない楽園に遊ぶその子供の華々しさがその子の笑顔にさらなる彩りを与え、
 不幸を知らない幸せな世界を生きるその人形の逞しさがその人形を美しく飾り立てる。
 知り果てた絶望の現実を玄関の外で待たせておいて、楽しく豊かに遊び咲いていく。
 その堅固な笑顔が建てる幸せの世界の中を生きる箱入り娘の孤独を癒す者は、
 須くその冷たい外界に存す不幸な来訪者。
 待たされて、侵入を拒まれて、息の詰まるほどの怒りを胸にしながら、
 その玄関の内側に広がる楽園を消し去ろうとは絶対に思わない。
 この幸せを消したら、私の帰る家は無い。
 その来訪者の想いが、圧倒的に家の中の人形を至高へと育て護っていく。
 
 鏡の向うに覗く人形の笑顔。
 振り返るとそこには自分のしなびた泣き顔だけが在った。
 再び鏡に目を投じると、やはりそこにあるのは先程よりも輝きを増したその人形の笑顔だけだった。
 私が泣けば泣くほどに、この子は笑う。
 これが幸せでないと、どうして言えようか。
 私を見ていてくれる笑顔が其処にある。
 私が見つめてもよい笑顔が其処にある。
 ひどく、幸せだ。
 
 
 ◆◆◆
 
 雛苺が笑っている。
 どこまでも軽快に笑っていて、そこにはなんの気負いもてらいも無い。
 喜色満面、その心根の幸福さがその笑顔にすべて現れていて、
 雛苺の笑顔の度合いで、この子の幸せの度合いがすべて測れてしまう。
 悪いことをしてしまってそしてしゅんとなってしまいながらも、
 それが許されたという幸福のみで笑顔になれ、決してそこに引きずる罪悪感は存在しない。
 許されれば、それで幸せ。
 許してくれる誰かが居れば、笑顔になれる。
 その誰かのためになにかをしたいと思うのはだから、それは許してくれた恩返しのため、
 或いは罪滅ぼしのためにでは無い。
 ただその誰かのためになにかをするのが楽しいからだ。
 許してくれてありがとう、というお礼をする事自体が、雛苺にとってはとてもとても楽しいことなのだ。
 また、雛苺が自分もみんなと同じように自分でもできることをやりたいと思うのは、
 それが自分だけがなにもしていない事に引け目を感じているからでは無く、
 ただ自分もなにかすることができるのが楽しいからだ。
 ジュンにお礼の手紙を出したいけれども、家の外にはでるのは怖くて嫌。
 でもそれよりも手紙を出すという自分のアイディアとその自筆の手紙が愛しくて大切で、
 だからなんとかその恐怖を乗り越えようとして冒険に出る。
 雛は、別にこれらのことをジュンのためにしている訳では無い。
 ジュンにお礼をする、という自分の行為が達成できるかもしれないことが、楽しみで仕方無いのだ。
 だから、雛の冒険は笑顔で綺麗に彩られている。
 苦難の旅ではあったかもしれないけれど、それを遥かに凌駕する楽しみの中を雛は歩いたのだ。
 そして、最後の難関である自分の背丈では届かないポストの投函口へのジャンプシーンでは、
 
 『諦めないの。絶対諦めないの。ジュンにお手紙出すの。絶対出すのぉ!
  雛が、雛が、雛がお手紙出すのぉ!』
 
 雛が自分で出してこそ意味があるそのジュンへの手紙。
 苦難を乗り越え恐怖を克服した自分を丸ごと感じるために、
 最後の投函を自分でしなければ画竜点睛を欠く。
 そしてそれはジュンの力を借りたものでは駄目。
 ジュンのため、という動機を使っても駄目。
 ジュンのためというのは、ジュンのために手紙を書いて自分で出すという、
 雛自身の動機としてしか使われない。
 この冒険は、あくまで雛の冒険。
 だから、雛はいつも自分が一番楽しみ、そして一番の笑顔でいられるのだ。
 その雛の満面の笑顔を観た巴の魅せた笑顔に、私は同意する。
 全部自分で出来たことの楽しみを得られた雛に乾杯。
 その雛の笑顔で酔える巴の笑顔が、さらに雛の笑顔を栄えさせていくのを、巴は知っている。
 なぜなら、雛は巴の笑顔が大好きだから。
 雛のその笑顔を振りまける幸せは、その巴の笑顔のお陰では無い。
 雛が徹底的に笑顔で楽しい毎日を送るその幸せの中に、既にその巴の笑顔は含まれているのだ。
 巴はそれを自覚しているゆえに、雛の笑顔を許容できる。
 雛も成長したが、なによりも巴自身が大きく成長しているのだ。
 かつては雛のために溺愛と別離しか選ぶことができなかった巴は、
 今はただ本当に嬉しくニコニコと笑顔で雛を抱きかかえる事ができたのだ。
 そして。
 
 『甘えんぼの雛苺がひとりでこんなに頑張ったのは・・きっと・・・・』
 
 雛がジュンのことを、巴ものりも真紅達もみんな好きだから。
 彼らの事が大好きな雛自身の事を雛が大好きだから。
 そして。
 好きだから頑張れたのでは、無い。
 頑張れたから、好きと言えるのだ。
 気付いたら雛苺はいつも、笑顔なのだ。
 
 雛苺は誰かのために笑うことは無い。
 雛苺はただただ楽しいから笑う。
 そして私はその雛苺の心からの笑顔を見て、豊かに笑うことができていく。
 
 
 
 
 そんな雛を紅い瞳がこよなく愛しているのは、これはもう自然の摂理なのです。
 運命でも可。
 食べちゃいたいくらいに可愛いくて仕方が無いです。あーもう雛を私にもください後生ですから!
 
 
 
                     ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 
 

 

-- 051116--                    

 

         

                                    ■■人生地獄■■

     
 
 
 
 
 『もう手遅れよ。諦めなさい。』
 

                         〜地獄少女・第七話・閻魔あいの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 風雨を防ぐ屋根の恩恵を偲ぶ最中に翳る雨天。
 めりめりと快楽を貼り付ける日差しの到来を仰ぎ見ての嘆息。
 かつて受けた恵みの潤いを使い果たし、わずかに滴り落ちるその残骸の中で溺れている。
 近づく死の予兆を乾いていく肌に感じながら、それでも泳ぐ真似をし続けている。
 本当に、それは泳いでいるのかしら。
 終わりの淵に臨む瞳が灯す希望の光が、紅い日差しを閉ざす遥かな屋根に突き刺さっていく。
 丁寧にそれを求める訴えを述べても、かろうじて繋がっているはずの命はかすれていく。
 ただただ堕ちていく体が感じるその速度を見送り、やがて敬虔で淫靡なその瞳は閉じられる。
 縷々と戦い抜いた愚かな人生の訂正を求めるのなら、その瞳の罪を贖って初めてそれが許される。
 求めては、いけなかったのかしら。
 ただ、あの屋根の下の水溜まりに沈んでいればよかったのかしら。
 それでも幸せな猛毒をたっぷりと含んで、この体はやがて、眩しい死を放って了った。
 
 
 見上げた月の元を漂う雲にその意志を感じ始めていたのはいつからだったろうか。
 私もあの雲のように月光の淡い温もりを求めて空に浮かんでいたいと、そう願ったのはどんなときだったか。
 雲が頼りなく力無く消えていくたびに、その代わりに私が浮上するチャンスがあると思っていた。
 月の残光が僅かに落ち行く先を間違えて迷い込んだ、この暗黒には僅かに足りない窓辺に縋りついて
 いた私の視線は、その自らの想いを冷静に否定し、そしてその否定に激しい情念の火をつけるこの体を
 ただ羨ましげに見上げていた。
 慎ましやかに夜に身を貪られ、その支配に身を任せていると、堪らなく虚しくなってくる。
 その確とはしない輪郭しか持たない虚無の精神を無理に拾い集めて、そうしてただ一層月夜を見上げる
 自分の姿に幸福を感じていた。
 悲しいとか、不幸だとか、そんなこと思ったことも無いわ。
 ただただ漂う雲の如くに。
 その意識が、なによりも私がその窓辺の淵で溺れている汚物であることに目覚めさせてくれる。
 くるくると、くるくると、ただあるがままに。
 雲に意志など無いことを、なぜかはっきりと知りながら。
 
 とても濃くて、もはや毳々しいとさえ言えてしまうような瀟洒な光の漂うパーティーのひとすみ。
 床に敷き詰められた上等な絨毯の毛先を爪先で感じて、蕩ける瞼に力が入っていく。
 綺麗にうっすらと外気に晒されていく瞳がその光を得る前に、その暖かい風を感じてしまう。
 ひりと罅割れたひとつの細胞の断末魔の叫びが、その瞳にさらに意志を込めていく。
 漠然としながら既に成立している目前の固い景色と、そこから洩れ出す甘い香りとの落差に戸惑うこと無
 く、真摯にその香りを浸み込ませるために、その固形物達を突き崩していく。
 その反動を感じる快感が全身を貫き、痛みさえ癒しと為す幻を描いていく。
 傷だらけな瞳が、泳いでいる。
 いずれ海の藻屑と成り果てるのを知りながら、それでもその海へと身を投げる。
 自らの生と引き替えに幸せを。
 幸せな地獄が、私を待っている。
 
 
 あの女に取り入って、そして成り上がってやる。
 そうと決まれば動き出すこの体を冷静に窘めて、やがてその窘めを越える熱情が涌くのを待っていた。
 願っているだけじゃ駄目、それを叶える意志が必要なんだ。
 あの薄暗い部屋から飛び出して、そしてこの世界の中で幸せを掴んでやると思っても、そうすることがどれ
 だけ困難で、そしてどれだけのものを失うかを知っている。
 だから必要なのは、それらを知った上でそれでも良いと云う覚悟。
 そうしてその覚悟に護られ、自らが失っていくものを決して実感すること無く突き進んできた今まで。
 それを振り返ると、その視線の先はただ綺麗にそして一直線にあの窓辺の自分へと繋がっていた。
 もう、彼処には、あの頃の私には戻りたくない・・・・
 本当はもう戻れなくなっていたことを感じることも無いこの間抜けで逞しい瞳は、ただ強靱な前進の意
 志を引きずり、その過去の哀れな自分へと反発することで、その前進の意志だけを実感していった。
 なんて、頼り甲斐のある感触なのだろう・・・
 
 宙を、舞った。
 軽やかに力を抜いて、大仰さを押さえつけて、わざとらしさを決して見せないように。
 その様に隙が無いと褒められる事に、どれだけ喜ぶ顔を魅せてきた事だろうか。
 それ以外の賛辞と批判は私の瞳を素通りし、決して私の障害となることは無かった。
 ただただ、お母様に認められるように努めて、自分を高め清め強めていった。
 
 それをじっとりと見つめる血まみれの瞳があることに、一体私はいつ気付いたのだらうか。
 
 夢破れ幸せが絶えた後に気付いた訳じゃない。
 むしろその傷だらけの紅い瞳は、そのころにはもう見えなくなっていたのだから。
 もしかしたら、私はもう昔の私には戻りたくないと思い始めた頃なのだろうか。
 それとも、あの窓辺で月を見上げていた頃からなのだろうか。
 あの女に認められその地位と財産を継ぐことを目標とした私の人生。
 その演技が様になっていたのは、それは私がそれを私の人生と引き替えに得たものだからよ。
 私が演ずるのは私の人生そのもの。
 そして人生そのものが演技。
 軽やかに力を抜いて、大仰さを押さえつけて、わざとらしさを決して見せないよう・・・・・に・・・
 
 『芝居なんてほんとはどうだっていい! 私にとっては単なるステップ。成り上がるためのね。
  そうよ、せっかく演技の勉強してきたんだから、人を騙すだけ騙してやらなくちゃ。
  あるときは誰からも尊敬される大女優。またあるときはお上品な奥様。
  そしてあるときはスキャンダラスな魔性の女。そしてあるときは・・・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 『迫真の演技だった。あなたの今までで最高の。』
 
 
 
 
 
 
 
 初めて瞳を潤したその賛辞に、私は心の底から微笑んだ。
 
 
 楽しかったわ・・・私の長い演技。
 
 
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 

 

-- 051113--                    

 

         

                             ■■全てに意味があるとき■■

     
 
 
 
 
 どもー、紅い瞳です。
 今日は蟲師の感想はお休みします。
 ちょっとあちらさんとの都合が付かなくて、ええそういうことで第三話の感想は来週します。
 第四話の感想もそのときまとめてできたならば良いなと考えています。
 2回目にしてはやくも先が思い遣られる蟲師 感想ですけれど、まぁぬるい方向で。
 その分考えられる時間が増えたってことで。考えてるさ、ちゃんと。ちゃんとね。うん。
 
 さて、ということで本日はのらりくらりとやらせて頂きましょう。
 なんだかもうこの頃は月10冊ペースで本を読んでいるので、そろそろ食べ過ぎの頃合いな気がしますが、
 けれどなんだかんだでしっかりアニメ見て出すもの出してるのでまだまだ行けるクチで、その、どうよ。
 ああうん、このサイクル自体は自然に優しいので良いのですけれど、少々過熱気味なのが玉に瑕。
 もう少し速度を落して、じっくりコトコト煮詰めるみたいなところにも手を伸ばしておきたいところです。
 とはいえ別に煮詰めるもなにもいつも生みたいなものですから、まぁ別にいいのですけどね。
 なに言ってるのかわかりませんが、そういう感じでもう少しあがいてみます。
 
 さて、今週もアニメ話でも。
 ブリーチ。これが噂に名高い夜一×砕蜂ですか!
 むぅ、思っていたより口当たり爽やかじゃの。
 もっとこうドロドログチャグチャのズタボロ調を期待していたのですが、
 まぁ確かに砕蜂さんの方は愛しさ余って憎さ億倍みたいな感じで夜一さんに飛びかかってましたけど、
 あーそう考えると一応スゴイ事にはなっていたんだぁ、とか思えるのですけど、
 でも実際目の当たりにしてみると、なんだこれだけかぁというのが関の山。
 うーん、もっとこう、敢て砕蜂さんが喋りまくって理屈付けまくってだから殺す!みたいな?
 そういうハッタリ展開の裏に見える悲しさとか愛の深さとか感じたかったなぁ。
 確かに萌えポイントはあるのはあるんだけど、なんていうのかなぁ見せ場だけなんだよね。
 見せ場はその準備段階というかその背後にあるものがわーっと描かれてないとさ、うん、薄い。
 いや、或いは敢て見せ場だけを展開して、見る者に逆にその向う側にあるものを魅せる、
 という手合いもあるのだろうけどさ、ううーん、あれはそういう感じでも無かったし・・・
 と、思ったけど。
 そう思うと逆にこのソフトさが、あの砕蜂さんの最後の夜一様・・っていうのに効いてくるんだよね。
 100年の怨みつらみがたったあれだけの時間で瓦解していく、
 いや或いはもとの形に収束していく感じが、すごい力強さを持っているのが見えてきたヨ。
 やー、そう考えるとあの夜一さんの不動の態度が際立ってくるよね。
 100年前となにも変わらずに当たり前のようにして砕蜂さんを受け入れる・・
 くぅー! やっぱ夜一さんかっこいいよ!
 という感じでした。
 
 次、地獄少女。
 そうですねー、取り立てて語ることは無いような気がしますね。
 なんていうかアニメが云々というより、どれだけあの映像の中から感想を紡ぎ出せるのか、
 というところに力が入っているので、感想書いてそれで充分な気がしてますね、今は。
 もうちょい映像的に面白い趣向とかを凝らして、なんらかの隠喩を散りばめたりすると、
 また別の形式を感想の中に織り込めるのですけれど、そういう感じでは無いですね。
 そっち方向では閻魔あいが頼みの綱なので、取り敢えずOPをいじって土台を形作って、
 そして作中における彼女の背景を塗り重ねて書いていこうとは思っています。
 それと、それぞれの話でのメインテーマを掘り下げるだけで無く、各話に通底するなにかについても、
 この閻魔あいを描き出すことで触れることが出来るのでは無いかと考えています。
 取り敢えず、今日はこんな感じかな。
 
 ローゼンメイデントロイメント。
 あのさ、なんかさ、もう駄目なんだわ。可愛い過ぎて。
 私が萌えとか平気で言うようになってから少し経つけどさ、なんていうかそれは結局さ、
 この可愛さを楽しむためにこそ言えるようになったのじゃないかな、とかもうそんな運命論でさ。
 ほんと、可愛いくて可愛いくて仕方が無い。なんなら人形属性とか言ってもいい。むしろ言え(命令形)
 今回のお話は翠星石が爆発でさ、ほんとこの世にツンデレなんて言葉創った人が恨めしいよ。
 この可愛さをそんな言葉で片づけて、よく平気でいられますよね!
 私なんてもうもうもう! なんとかして言葉を尽して語り果てなければ満足できませんよ!
 と、そういう風に息巻いている方にとってこそ、やはりツンデレとか萌えとか言う言葉は便利なのですね。
 だって、そのひと言を示すだけで、実は語り尽したくて堪らないんだけど肝心の語る言葉を持ち得ない、
 だから代わりに気概だけでも示させてください!後生だから! という願いが込められてるもの。
 翠星石はツンデレだから、萌えです。
 これは嘘といえば嘘だけど嘘では無い、だからそういうことでお願いします、みたいな。
 ツンデレとか萌えとか言う言葉はだから立派な意思表示の証しであってお手軽なんです。
 語りたくても語れない人にとっては大事なものです。
 勿論使い方を誤ればそれしか使えないという惨事にはなってしまいますけれども、
 せめてその言葉を掲げて私はこの可愛さをちゃんと感じてるということを示せるということは、良いことです。
 重要なのは、その言葉を言うだけで満ち足りないということだと思います。
 むしろ黙っていることに満足できないから、せめてその言葉だけは言う、という感じですね。
 心の底からどうでもいいことなんですけどね。
 わたしにゃ雛があれば、もうなにもいらないの。(満足)
 
 と、ツンデレとか萌えとかを語り出したら地獄の底まで堕ちても平然とまだ語っていられそうなので、
 それはこの辺りで終いに。
 これからトロイメントはどんどんと世界を重層化させ隠喩を埋め立て隠し、
 そしてそれらが見つけ出されなければそれまでよと言わんばかりに急展開していくでしょう。
 ですから私は、如何に自分の見たものの中からそれらを発掘しそして組み立てることができるのか、
 それにより勤しむことになるでしょう。
 けれどもそれ以上に、その事によって逆に通り過ぎてしまうことがある大事ななにか、
 その存在を自ら創り出すことができるかどうか、それが最重要なことになるでしょう。
 どれだけ自分の見たローゼンが小さなものであるか、どれだけ見逃した余地が広大であるか、
 それを強く認識することが出来た上で成り立つ感想を創り出せればと思っています。
 具体的なお話は、いつもの感想にて。
 
 
 ◆ ◆
 
 最後にARIAのお話をば。
 アリスのいつも右手におんぶに抱っこの左手お仕置きキャンペーン中のお話。
 私も結構な右利きなのです。
 それはそれは昔は右ばかりだったのです。まさに右全盛。
 なにかというと右、かというと右、気付いたら右、忘れたころに右。ていうか右。
 あんまり右にこだわると後で困るぞという有り難い御言葉を頂いたりして、
 そして余計に右にこだわるようになったりもしました。右手原理主義にむしろ進化したっぽい。
 本来なら左でやれば早いようなものも右で敢てやり、まさに右手が左手の仕事を全部とって、
 結果ますます左手はなにもできなくなり、そして右手はこの世の春を謳歌したのです。
 そんな右手の専横を目の前にして私が思ったのは、ただ右手のことだけで、
 どうやったらもっと右で全部できるようになるか、そしてどうしたらもっと上手に右を使えるか、
 とか全く左手は眼中にありませんでした。むしろ論外。
 でも。
 ふと、右手の黄金期のとある頃。
 なぜか急に左手を使い始めたのです。
 それはもの凄く安易な感じで、ただの戯れにしか過ぎ無い左手の使用だったのです。
 右手の代替としてでは無く、左手の能力でできる簡単なことばかりを。
 別に左手のふがいなさに憤った訳でも無く、左手を哀れに思ってなにかをさせた訳でも無く、
 ただふと右手と同じように左手にこだわってみる遊びをしてみたのです。
 勿論、今までほとんど使わなかった左手のことですから、できる事には限りがあります。
 だからある程度は左手にはちょっと厳しいこともさせたりもしていました。
 そして、あるときふと気付いたら、その左手を使う遊びは私の常となっていたのです。
 そしてその左手を使う遊び時間は、今やもはや右手の使用時間を遥かに上回り、
 いつしかほとんど左手を使っていたのでした。
 無論、左手にできないことは右手がやっていましたが、しかし右手でも左手でもできることならば、
 まず間違いなく左手を使うようになっていたのです。
 もはや、左手はそれを使い続けることによって、できる事の数が飛躍的に上昇していたのです。
 そして。
 その左手の活躍を、右手は暖かく見守っていたのです。
 ああ、そうか、と私は思いました。
 今まで右手が好き勝手やっている事の裏には左手の我慢と、そして影なる献身がありました。
 そして右手は、今やその今までの左手の仕事をしようと励んでいるのです。
 かつて左手の仕事だったことを、実は右は今までやったことが無かったのですから、
 これはかなりきついはずなのです。
 できることを増やして努力している左手と同じくらいに。
 そして、だからその活躍中の左手もまた、今現在の縁の下の力持ちの右手を優しく見守っているのです。
 右も左も、それぞれがそれぞれの仕事に励んでいく。
 そして自分にはできないはずの事にさえ、力を尽していく。
 そうしているお互いの姿を見守り合いながら、そうしてさらに頑張れる。
 私は、これからはそうであることを認識をした上で、遊んでいきたいと思ったのです。
 右手には右手のできることを、左手には左手のできることを。
 しかしそれを元にして、右手には左手にできることを、左手には右手のできることをやる遊び、
 それを始めることができるゆとりを大切に。
 専業でありながら兼業できる技量の幅を、そして別の専業に転向できる度量の広がりを。
 そして、だから、そうして初めて自らの元にある専業の重さと優しさがわかる。
 ああ、なんか当たり前だなぁ〜。
 けれど、大事にしたいことだなぁ〜。
 逆だっていいのだものな〜、右手右手を押し通していったって、意地でも左手はついてくるものなぁ。
 今回のARIAでのアリスはそんな感じでしたし。
 右の優秀さが深まれば深まるほど左のヘタレさは際立ってくる。
 嫌でも左手と向き合わない訳にはいかないもんね。
 左手だって、それくらいわかってるだろうしね。
 だから、左手は頑張れるんだよね。
 右を目指して頑張れば当然、でも左手のままヘタレでいても私は左手の存在に気付いてくれるから。
 そしてだから、どうせ頑張るなら、左手は右手と同じくらいに活躍できるように努力するんだよね。
 左手としての専業においての活躍。
 勿論それは、右の仕事に転向しての専業を夢見ながらの活躍。
 アテナ先輩は彼女らしいトロい優しさに力を尽しつつ、それと同時にシャキっとした優しさも目指してる。
 
 『歌は、誰かに聞いて貰うものだから。』
 
 自分の好きな歌をその人に聞いて貰うために歌う。
 そして、その人が好きな歌をその人に聞いて貰うために歌う。
 すごく、癒されました。
 
 
 おしまい。
 
 
 
 

 

-- 051111--                    

 

         

                                    ■■薔薇舞闘■■

     
 
 
 
 
 『おやめ、翠星石。これは、別れじゃないんだから。』
 

                         〜ローゼンメイデントロイメント・第4話・おじじの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 踊る、踊る。
 
 敷き詰められた緑の園を無理に足蹴にして、その感触に物憂げさを生みだしていく。
 躊躇いつつも恥じらいを胸に、穏やかに翡翠色の涙に身を任せていく。
 肌を伝う杞憂に鳥肌を立てながらも、逞しく生い茂る森を掻き分けて歩いていく。
 それが楽しいことだって、ずっとずっと安らかに眠っているとついわかってしまう。
 なにが楽しくて、なにが辛くて、なにが恥ずかしくて、なにが悲しいか。
 この体に巻き付いて離れない豊かな蔦の頬ずりが、優しく諭してくれる。
 わかっていることを、素直にやりなさい。
 ただそれだけの言葉しか、私には無いのです。
 
 ゆるく握り閉じられた指先を伸ばす前に、向うからやってきてくれる。
 安心して眠りにつくことができる夢を抱いたまま眠れる夜には、誰もその眠りを邪魔しには来ない。
 夢見て笑って体を包んでくれるこの森を抱きしめて、そうして互いに暖め合う。
 それが当たり前って、どういうことか、それを知らないでいられる夜が欲しい。
 私が居るからこの森が在るのです。
 私が一緒に暖め合いたいと思うからこの森が抱きしめてくれるのです。
 私がそれを当たり前と思うからそれは当たり前になるのです。
 おじじとおばばのところにいると、私はもの凄く楽しいのです。
 おじじとおばばの世話になって、おじじとおばばの世話をして。
 心ではこうしてあげたいと思っていることはいつも恥ずかしいことばかりで、
 それでもなぜかこの体は晴れがましいまでに素直にその恥ずかしさを乗り越えて、なにかをしていて。
 ふと振り返るととんでも無く恥ずかしくなって死にたくなるほどなのに、それなのに全然死なないのです。
 それがなぜそうなるのかなんて、そんなこと考える必要が無いくらいに私はいつも当然な顔して。
 心の底から、おじじとおばばと居たいのです、私は。
 蒼星石と一緒に居られるから、それだけでは無いものが、確かに私めがけてやってくるのです。
 私はただそれと手を取り合って、そして気恥ずかしさで着飾ってゆっくり楽しく踊るのです。
 蒼星石・・・・楽しい・・・・楽しいですぅ・・・・
 
 それならなぜ私はジュンを避けてしまうのですか?
 
 ううん。違う。
 そう問う必要なんて、そもそも私には無いはずなのです。
 私は自分に素直に耳を傾けるだけで、すべてを当然のようにして知ることができるのですから。
 でも、今の私はそう問うてしまうのです。
 それほど、恥ずかしいことなのです。
 そして。
 それほど、それを乗り越えたら楽しいことが待っているということなのです。
 私はその待ち受ける楽しさの予感に鳥肌を立てて、
 そして思わずジュンを避けてしまう理由を問うてしまうのです。
 避ければ避けるほどに、その理由を問わずには居られない。
 避けてしまう理由を創造すればするほど、
 嫌でも私はこれから与えられる当然の笑顔を想像してしまうのです。
 3回くらい死んでも足りないほど、超絶に恥ずかしい。
 嬉しさで綻んでしまう顔を慌てて隠して、そして一生懸命にジュンを避ける。
 避けて貰うためにジュンにまた一歩近づいていく。
 嗚呼・・もう・・・やめられないですぅ・・・・
 避ければ避けるほど、ジュンが目の前に迫ってくる。
 なんて恥ずかしくて、なんて幸せな当然。
 私は本気で恥ずかしくてジュンを地球の裏までぶっ飛ばしてやりたいくらいなのに。
 まったくの本気でジュンに嫌味を言ってしまうのに、ジュンの野暮と察しの悪さに心底腹を立てているのに、
 それなのにどうして私はジュンに近ずいてしまうのかしら、なんて寝惚けたことを言いもしないなんて。
 私は完全に夢の中。
 そしてその幸せな夢の中であっさりと当然のようにジュンに近づいていく私を体感してる。
 だから、知ってる。
 私はジュンと契約したいと思っていることを。
 
 ◆ ◆
 
 アリスゲームの過程で蒼星石達を失わないために、マスターをみつける。
 私達の幸せを守るためにジュンと契約する。
 そんな適当な理由で隠せるほど、私のジュンに対する想いは私に親切では無いです。
 絶対に嘘だねとせせら笑うに決まってるです。
 それを知っているから、私はそのいい加減な理由をただそれとして受け入れることも可能です。
 ジュンとの契約で得た力によって、私とジュンと他の姉妹達との生活を守る。
 力は力、想いは想い。
 そして力を使って想いを遂げる、それだけのことです。
 別に力があるからそれによって想いが汚されることはないのです。
 力を元にして、そこから生み出せる想いだけに身を委ねる必要も無いです。
 私がジュンを想う限り、そういうことでいられるのです。
 ジュンの力を利用するためにジュンと契約を結ぶ、そういう理由付けができたとしても、
 私がその理由を採用しなければ、それはそれまでです。
 だから。
 
 『そんなこと、知ったこっちゃ無いですぅ。
 
 アリスゲーム。
 蒼星石はこれからアリスゲームが始まれば、敵同士になるね、なんて言うです。
 それはアリスゲームというものがそういうものとして創られたゲームなのだから、それはそうですけど、
 でも実際にそのゲームをさせられる私達がそれをどう利用しようが、それは私達の勝手なのです。
 蒼星石は真面目過ぎるのです。
 そして馬鹿です。なんで私達が敵同士にならなくてはいけないんですか。
 そんなこと有り得ないし、そして蒼星石だってそんなこと想ってはいないのに。
 アリスゲームは、既にお父様のものでは無くて、私達のものです。
 お父様が私に蒼星石や真紅達のローザミスティカを奪えだなんて言ったら、それはそれまでです。
 『もし蒼星石のローザミスティカを奪わなくてはいけないのなら、
  翠星石はアリスになんてなれなくていいです。』
 アリスなんて糞喰らえです。
 そんなものより大事なものが私にはあるし、それは蒼星石だって同じはずです。
 だから私は、その大事なものをアリスゲームを通して得るです。
 私達はアリスドールなのだから、それだけでアリスゲームの競技者であることは不変なのです。
 アリスゲームに参加することは、私が生きているということと同義です。
 アリスゲームで生き残ることで、私は蒼星石達との幸せな生活を得られるのです。
 アリスゲームで他の姉妹を倒すことで、アリスになれることなんてそれに比べたらスッポンです。
 私は、ただただそのアリスゲームという舞台の上で、幸せな舞のステップを踏むだけです。
 私達にとって、そこで舞うことと闘うことは同じなのです。
 闘いが舞で、舞が闘い。
 そして私達はアリスドールにして、私達自身。
 そんな当たり前のことがわからないのですか、蒼星石。
 
 私達を模した人形劇。
 お互いに殺し合い、無惨に千切れ飛んでいく幸せの残骸の上に立つたった独りのアリスが主人公。
 ほら・・私達の壊れた体があんなに寂しく転がっているです・・・
 私達という幸せが無惨に壊れて転がっている。
 真紅が、そこに転がっているジャンクの水銀燈を目の前にして狼狽えている。
 雛苺が、蒼星石が、切り裂かれていく現実の姿を呆然と見つめていく。
 『・・アリスゲームだ・・・』
 そう、これがアリスゲームなのです。
 私達が生きているということの、もうひとつのその姿。
 だから、それを見ている私達が居るから。
 
 
 『そうだよ! あんなのお前らとちっとも似てないじゃないか! こんな事が起こる訳無いよ!』
 
 
 そうです・・・・そうなのですぅ・・・・
 あれは、人を模した人形である私達をさらに模した人形劇。
 笑わせるなです。
 その人形劇を見ている事のできる人形の強さを思い知るです!
 私達は、私達を知ってるです。
 私達は、私達の幸せを知ってるです。
 だから、たとえ私達の行く末が殺し合いだといわれたって、もうへっちゃらなのです。
 だって。
 私達は私達の幸せを殺したり出来ないからです。
 幸せを求めるために、私達自身を求めるために、私達はただその舞踏を演じるだけなのです。
 それを闘いだとか殺し合いだとか言いたければ、勝手にぬかしてるです。
 どんな風に言われようとも、私達が生きている以上、私達は幸せなのです。
 どんなに薔薇水晶が強くても、私達はそれよりも強く幸せに踊るだけなのです。
 その踊りが続けられることが、なによりも私達が私達自身を生きていることの証し。
 あの薄汚いチンケな舞台の上で闘っている人形共なんて、私達の幸せとは似ても似つかないです。
 馬鹿にするな、です。
 だから私は、カチンと頭にキたので、えっと、その、勢いでジュンと契約したのです。
 決してジュンが好きとか、そんな・・・・・・ええい!
 
 
 
 『あーっはっはっは、あはははー! スイドリーム!!
  ミーディアムがいれば、お前なんか目じゃないですぅっ!!!』
 
 
 
 って、あー! なに逃げてるですかチビ人間!
 今の私なら薔薇水晶なんてチョチョイのチョイです!
 だから待ちなさ・・・・・・・・も、もう、しょうがないですぅ。
 わ、私は別にお前の意見に賛成したとかお前の身に危険が及ぶ前に逃げるだとか、
 あとその、べ、別にお前が居ない世界に取り残されるのが怖いとか、そんな事思って無いです。
 だ、だ、だから、違うと言ってるです! このチビ人間っ!!
 
 
 
 
 
 
 
 帰るです。
 私達の踊るほんとうの舞台へ。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 心地良い森のざわめきに心許なさを覚えてそこから抜け出した日。
 その行き先にあるものがなにかをその背後の森に尋ねて頷いた朝。
 此処が、そうだよ、とごく自然にして当たり前のように答えが返ってきた夜。
 そうして見上げた森の入り口の表札に私の名が連ねてあることに、初めて気付く。
 嗚呼・・・・なんて幸せなのかしら・・・・
 新しく敷かれた緑のベッドの肌触りの違和感を抱きしめて、身も心も任せて眠れるだなんて。
 私の知っていた、私の知らない此処。
 隣に居ることが当たり前だった蒼星石が、今度は隣に居なくても身近に感じられる奇跡。
 私・・・・問うて良かったです・・・・
 私がなんであるかを、私がどこで生きるべきかを。
 私がなんであれ、私がどこで生きようとも。
 私は私で、私はいつも此処で生きていた。
 そして。
 私は蒼星石の姉で、蒼星石は私の妹。
 それがどういう事であるのかは変わっても、それ自体は絶対に変わらない。
 だから。
 
 
 『毎日毎日遊びに行くですぅ。・・・ずっと一緒ですぅ。』
 
 
 
 
 
                    ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 
 
 

 

-- 051109--                    

 

         

                                    ■■瞬間地獄■■

     
 
 
 
 
 『私の家、もう滅茶滅茶・・・・・・・・あいつの・・そうよ・・・・・・・あの女のせいで・・・・・』
 

                         〜地獄少女・第六話・遥の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 真っ直ぐに力を伸ばしていく細やかさに励む視線が剥離していく。
 その行き先を辿る間も無く瞳を濡らすものが涙以外のものであることに気付いたのはいつか。
 足下を見ずとももうわかる。
 激しく雨が降り出したことを。
 瞬く間に溢れ出た水面を叩く滴の中に燃える眼差しを映すのはなんのためか。
 その紅い光の中に潤いをもたらす涙が無いことを確かめる前に、
 映すものも映されるものもすべて潔く流されていった。
 涙と雨の断末魔の叫びと共に。
 この瞬間を、繰り返す私は、誰。
 
 
 悪意に満ちた震える手が鋭く切り取った夕暮れ。
 その切り取られた者の笑顔の背後を照らす夕陽の禍々しさは誰も知らない。
 残酷に無視される語る者と語られる者との連関だけが、無情にも世界の外に投げ捨てられる。
 取り残された者だけが、観る世界。観られる世界。
 そして、独り観た者だけが知るひとつの世界が在る。
 みてはいけないものをみせられた、ひとりひとりの世界が。
 
 向き合うふたりを裂く者など存在せず、ただそのうちのひとりだけが相手の背後だけを見つめている。
 そして、その者がそのもう一方の相手を見ていないことを知る者が存在する。
 その存在を知らされたことに怯えることで、その者はいよいよ相手から目を逸らし、
 そしてその恐ろしい存在を見つめることに耳をそばだてる。
 見つめたもの、聞いたものだけが、延々と段々と、目の前の相手を乗り越えて向かってくる。
 気付いたら、目の前に、もう。
 穏やかに浸食する夕陽を呆然と見上げながら、それでもふと我に返りたいと願いを感じる。
 そう、なにをやっているのだろう、そんなことだけで終わるはずがない、と。
 そして、知る。
 それですべてが終わろうとしていることを。
 もう、駄目。
 
 
 
 『一体、なにがあったのっ・・・・・・・』
 
 
 
 知りたいという願いを越える憎悪。
 憎悪が知りたいという願いを生み出している。
 知らなければ怨むことなどできないという言葉を冷静に書き留めながら、
 それでいてそれが嘘であることをもう知っている。
 怨みが、そこにもう、在る。
 その存在を否定する言葉を奏でるたびに、それを退けてその存在の囁きに耳を澄ませている。
 騒音が大きくなればなるほど、それはより無音へと近づいていく。
 無視されることで怨みの糧と成り果てる言葉達。
 だから、知りたい。憎悪を高めるために。もっと怨むために。
 その騒々しい言葉の中に微かに灯るこの想いが世界を進めていく。
 
 『知って、どうするの?』
 
 知って、復讐する。
 苦しむ母を見たくないから。
 苦しむ母の顔を見ないで済むのなら、相手が地獄に堕ちたって構いやしない。
 どうせ、向うが悪いことを知るだけなのだから。
 母を信じている自分を信じている、その根拠を問わないことへの疑問は無い。
 なぜなら信じたい、から。
 ただただ、怨むために。
 母の苦しむ顔を解消する。
 母と向うになにがあったかを知り、そして復讐する。
 それすら嘘だということを知っているのに。
 それなのに、一体これ以上なにを知ろうとしているのだろうか。
 もはやなにも知る必要は無い。あとは怨むだけ。
 ゆえに、知らなければならない、その自分の嘘を嘘で無くするために。
 
 『私にはお母さんを救うことはできない。私にできるのは復讐だけ。』
 
 人を呪わば穴ふたつ。
 そのふたつの穴に埋められるのは誰か。
 なぜ、母のために私が怨まねばならないのだろう。
 なぜ、私が母の場所に立たなくてはいけないのだろう。
 私がするべきだったのは、本当に怨むことだったのだろうか。
 本当に、私はこの瞬間を知って良かったのだろうか。
 私の怨みと、母の怨みは違う。
 穴に埋まるべきは、怨まれた相手と怨んだ者。
 それは向うと、母。
 それなのに、私は母の怨みを知ってしまった。
 母の怨みで、復讐してしまった。
 私の怨みは、どこ?
 私は、誰?
 
 『そうね。でも、だから私が居るの。』
 
 
 瞬間、夕陽の背が視えた。
 
 
 とある独りだけがみることのできる、ひとつだけの世界に入り込んでしまったこの瞳。
 それは気付いたらもう、その世界から引きずりだされ、そしてその外に立たされていた。
 母が、禍々しく、笑っている。
 あの笑顔の意味を私は知っている、そこに私の笑顔が在るということを。
 嗚呼・・・ひとつになってしまった・・
 『あの日私がしたことが本当によいことだったのか、私にはわかりません。』
 なぜならば。
 
 
 
 私が、彼処で笑っているから。
 
 
 
 
 知ってはいけないこともあるのだと、ようやく、知った。
 
 
 
                           ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 
 
 


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-- 051106--                    

 

         

                               ■■緑色の静かな情熱■■

     
 
 
 
 
 
 紅い瞳です、ごきげんよう。
 雨がまさにしとしとと言わんばかりにゆっくりと降っている夜をどう過ごそうか、などと考える間もなく、
 ごく自然に予定通りに日記を書き始めている自分にふっと気付くと、なぜだか爽やかです。
 予定を立ててその通りに事が運んだときのしってやったり感などは無くて、
 ただ気が付いたらいつもと同じ行動をしていることになんの異存も無い状態であって、
 しかもそのこと自体になんの違和感も無くすらすらとそのまま日記を書き出せるなんて、
 それはもう爽快という言葉以外のなにものにもそれを言い表す任には耐えられないでしょう。
 あ、いや、別にここ笑うとこじゃないですから。素ですから。恥ずかしくない。
 
 さて。
 1週間に三度の更新のペースにも慣れてきたようです。
 そのうちの2回はマジアニメ感想で乗り切って、のこる1回はこうしてダラダラといい加減な事を綴る、
 このスタイルはたしか去年もやったような気が致します。
 結構このスタイルだと更新多くても苦にならないような、そういうどことなくしっくりとしているところがあって、
 逆に1週間に1回2回の更新のときよりモチベーションは高めに設定されているような気もします。
 私としてはせっかくですからこの機に乗じて色々書いていこうと思っていますので、
 まぁなにはともあれ、今日の更新は気が楽だー。
 で。
 最近はどうもいい加減な文章を書くことが多い上にそれが続いていたので、
 妙にヘンな文の羅列になっていたり語の誤用があったりだとか、
 まぁ冷静に推敲すればパソの画面に鉄拳喰らわしたくなるほどアレな出来になってることもしばしば。
 別に正しい日本語にこだわるつもりはありませんけれど、少々堅く締めていかないと崩れ放題なので、
 その辺りは加減に工夫して努力していこうかなと思っています。
 最近リアルの方で長文書く機会減ってるものなぁ・・・・いざってときに困るものね。
 
 さてと。
 アニメ話に華を咲かせることに未だ飽きていないお年頃なれば、まだまだいくよアニメ話。
 今週は地獄少女とARIAは置いといて、ローゼンメイデントロイメント。
 正直目のやりばに困っていますだって可愛い過ぎるもの。
 まったく、制作スタッフの方々はドールズ達の魅せかたを骨の髄まで心得ていらっしゃるご様子で、
 ほんにもうこれでもかというほどストライク万歳な事ばかりしやがります。憎いぜこんちくしょう。
 大体、真紅がくんくん探偵セットを得るために懸賞のはがきを書いて出したなんて、
 そんなのその設定だけで萌え死ねますよ。なんだこの真紅。
 さらにせっかく揃えた衣装をまとってすっかりくんくん気取りの真紅を差し置いて、
 まさに伏兵の蒼星石が指揮をとって推理するなど、まったくもって言語道断。
 御陰様でひとり部屋の中でイスを蹴り上げて八つ当たりする真紅を見てしまったじゃないですか。
 まったく、まったく、これだから蒼星石は。 グ ッ ジ ョ ブ ! 
 でまぁあとは翠星石と雛苺のじゃれあいがなんの乱れも無くハイレベルのまま続いていて、それはもう。
 ごめん、今週はこれ以上は無理。鼻血の予感。
 
 
 ◆◆
 
 はい、本日のメインです。今までのは前菜です前菜。前座違う。
 実はですね、とあるお人にアニメの面白さとやらを蟲師を使ってレクチャーすることになりまして、はい。
 ええもう、ほんと紅い瞳は一体いつからそんなに偉くなったんだよおいということですけれど、致し方ない。
 たまたまそのお人の一番近いところに私が居ただけと、そう解釈して頂いて。
 あーもう、ただでさえビクビクしてるんだから、これ以上ギャーギャー言わない!
 ふぅ。
 とはいえ、アニメの面白さというよりは、実際はアニメの楽しみ方みたいなのをお教えするだけで、
 しかもそれは私が蟲師 を見ながらここはこうでああでと解説して、
 そのお人にひとつの視点を与え、あとは御自分で考えて頂く、というだけのものなのですけれどね。
 ということで、今週はそのとき私がどういうことを言ったかというのを書いていこうと思います。
 基本的にシーンごとに私が解説を施す体裁でしたので、自然箇条書き風になりますえれども。
 蟲師 はなんのかんの言って一番繰り返して見てるけれども、それしかできへんかった。(涙)
 
 ■蟲師」 第一話:緑の座
 
 ・色彩感覚に心を奪われてみる。美しいとか綺麗とかなんでも良いので取り敢えず一番主になっている
  緑を中心にして感じてみる。そうすると形容表現以外のなにかを物語を見終わったあとにそこから見出
  すことが出来るようになる。
 ・登場人物の文語調の口調のいびつさに、それぞれの人物があの世界の中の風景の羅列から突出して
  確としてある感じを掴む。
 ・コミカルなシーンに違和感を感じているよりは、それを見ないで他のシーンからなにかを感じる方が有意
  義。
 ・描いたものに生命を得る、ということをどう解釈できるかという楽しみはあるけれど、それは終わりまで
  見てからゆっくりのんびりやっていく方が、その解釈に幅と重みが出る。
蟲の解釈も同様。
 ・しんらが廉子のことをギンコに説明されたとき、そのときしんらにわかったのはその説明の言葉だけであって
  その言葉で表わされるものが廉子にとってどういうことであるのかはわからない。わかるのはその言葉が
  しんらにとってどういうことであるのかということだけ。
 ・それゆえにしんらに会えるとギンコに言われたときに流した廉子の涙の重みも、しんらにはわからない。
 ・けれども人は実際にはそれがわからなくとも、行動するし考えもする。なぜか。
 ・廉子がしんらの前に姿を顕わすシーンの美しさ。
 ・廉子は蟲を見ることができるし、蟲がどういうものであるのかも知っている。けれども列から出る
  ことはできなかったし、出るつもりも無かった。
 ・誘われるままに宴に参加する廉子は、それが自分の願いであることをよく知っていた。自らがあちらの
  世界の存在になることへの憧れを抱いていたゆえに。
 ・光酒を飲み干そうとする廉子は、自らの特異な能力を持って生まれてくる未来の孫の目付となる
  という、ひどく実感の薄いはずのことをただその憧れと興味のままに引き受けてしまう。
 ・自分がそれを引き受けるということがどういう事かも知らずに、あちらへと飛び立った廉子。
  しかし光酒を飲み干す前に宴は中止になり、盃は乾き、あちらの世界に降り立つこはできなくなった。
  そしてふとすべてに気付いて夕陽に照らされる自分の今を実感し、そして今までの世界に帰ろうと
  するも、自分の半分だけが分離して帰ってしまい、半分の自分は取り残されてしまう。
 ・カラコロと下駄の音が逆巻くような音楽と共に描かれた、あの分離のシーンがすごい。
  そして走って帰っていく半分の自分を見つめる絶対の後悔と絶望に彩られる廉子の涙の重み。
 ・ギンコの「ただただ、盃が割れてしまったことが悲しかった。」という台詞。
 ・廉子のその記憶を共有したしんらの涙と廉子の涙は同じ重さ。
 ・しかしそこに廉子としんらというふたりの人間がいる以上、その重みの受け止めかたは違う。
 ・だから、ふたりはお互いを求めあいながら行動し考え、生きていける。
 ・笑っても、泣いても、ふたりが居る。
 
 ■「蟲師」 第二話:瞼の光
 
 ・緑の美しさを繊細な気持ちになって受け止めてみる。そしてその後、あの蔵がその緑の中にあるという
  ことの隠喩を読み解いてみる。
 ・ビキを蔵の中にて迎えたスイの無表情な笑顔を覚えておく。
 ・スイは自分の病気の原因とそしてその意味するものを自覚している。
 ・蔵の中でのスイの口調と声音に注目。あの蔵の闇の中にいるひとりの女の子という前提を以て。
 ・目の周囲を布でまかれ、さらに頭から黒い布をかぶせられ、暗い暗い蔵の中に置き去りにされるスイ。
  その流れを表わすシーンにおける、スイの棒立ちぶりになにかを感じてみる。
 ・ビキに第二の瞼の閉じ方を説明するスイの口調がすごい。本当の闇が降りてくる、と言うあたりなど
  ぞっとする。暗闇の中で平然と話す違和感の中に、僅かに見えるスイの絶叫の響きがある。
  スイはまだ闇に喰われてはいない上に、闇の拷問を受け続けて泣き叫んでいる。
 ・ビキって不器用ね、と軽快に言うその明るさに無理さが感じられないゆえに、そのスイの秘めているもの
  の怖ろしさがどうしても垣間見えてくる。
 ・ふふふと薄く笑い合いながら蔵の中の深い闇の中で遊ぶスイとビキ。
  スイがその中で遊べる悲しさと愛おしさと狂おしさ。
 ・人形の髪をとかしながら、ビキが去っていく証しである蔵の扉が閉まる音を聞いているその絵。
 ・ビキは知っている。闇の中に居続けることがいけないことを。そして自分がその中に通い続けることの
  意味も。
 ・ビキの母親もまたすべてわかっている。スイとビキを愛し、そしてスイを愛すればビキも病になってしまう
  恐怖に打ち震え、かつそれが結果的にスイを見捨てることになってしまう罪悪感にも苛まれ、
  なればこそなんとかビキだけは守らなければと心懸けている。もの凄く弱くて強い人。
 ・そしてにも関わらず、懸命にスイへの愛も全うしなければならないと自分に言い聞かせ続け、
  そしてだからこそよりその自分の想いがビキを病に至らせる可能性を秘めていることに怯えている。
 ・ビキはその母親のことを知っている。だから、絶対にビキはスイと同じ病になってはいけないと思っている。
  スイと母親のため。
 ・雨戸を開けて朝日を見た瞬間のビキの瞳。
  そのリアルな収縮はその痛みだけによって引き起こされたものではない。
 ・悶絶するビキの姿を見、そしてスイの蔵に向かった母親の心中を察してみる。想像を絶するはず。
 ・ビキを求める宙を舞うスイのその手の動きに注目。ビキはもう来させないわ、という言葉を聞いたときに
  はっと伸びる指先。そしてあなたの病気あの子に伝染したのという言葉を聞いたときにゆっくりと下がって
  いく両手。そして静かに自分を罵倒する声を聞きながら項垂れていくその両手と体が地の下に広がる
  光の川に着地する瞬間。
 ・ビキがもう来ないという驚きと悲しみ、そして自分の病を伝染させてしまった罪悪感による意志的なその
  ビキを求める事の諦め、そしてすべてを了解したがゆえの絶望。その三連動作の妙。
 ・母屋に戻る母親が口を押さえている。自分がしてしまったことの重大さを思い知る。
 ・そしてこれから自分がしなければならないことも知る。ビキを守り、そしてスイから逃げる。
  ギンコにはビキの容態だけを聞き、スイについてはなにもギンコに言わなかった母親。
  見捨てたスイに見つめられないために。
 ・目覚めたビキが一番に発した言動はスイを助けるということ。自分がスイの病を貰ってしまったことの
  重大さを知るゆえに。
 ・スイはあの蔵の闇の中で闇に苦しめられながらも、それでも希望を抱くことを諦めてはいなかった。
  ビキが蔵の中に来てくれていたゆえに。たとえ自分の病が伝染してしまう可能性があるとしても。
  だから、ごめんね。
 ・月明かりに照らされる闇の中の緑を見てなにかを感じてみる。そしてそこに蔵から出てきた目を閉じた
  スイの姿があることの不思議さを感じる。
 ・スイの目から湧き出る蟲とその背景との在り方が絶妙。まるで夢幻の如し。
 ・キミさっきから驚きすぎ、まぁそう焦るな義眼だよ、というギンコの口調が面白い。
 ・辛苦に彩られた漆黒の闇を見続ける中で見つけた淡い光は心地良い。絶望の中の希望の光ほど暖
  かいものは無い。けれどもそれはその光が暖かいからでは無く、それだけ絶望が冷たいから暖かく感じる
  だけ。そしてその自分の中に芽生える光のぬくもりにすがりついている悲劇のヒロインぶりに酔いしれて
  いるうちに、人は本当の光を、本当の異質な光を見る瞳を失ってしまう。
 ・克明に開いていくスイの瞳が見た、本当の光。
 ・ビキには少しだけギンコやスイの見た淡い不思議な光がみえて、ずっとそれを見てたくなったと言った。
  しかしそのビキの目の前には本当の光がはっきりと見えているので、それに魅入られてしまうことは無い。
  目の前で輝く、笑顔のスイは嬉しいほどに眩しい。
 ・ビキの「スイは蔵を出た。木々や花や光をたくさん見る。もう暗闇の中であの不思議な光に魅せられる
  ことは無いだろう」という台詞。
 ・スイの笑顔の重みを感じてください。私達にはその重さを実感することは決してできないけれども、ビキに
  とってのそのスイの笑顔の重みはわかるはずです。  
 ・光の川に背を向けるギンコ。光の川を背負うギンコ。
 ・最後のスイの笑顔。最初のスイの笑顔。
 
 今週は以上でお終い。
 来週にたぶん3話をやります。
 
 
 

 

-- 051104--                    

 

         

                                    ■■薔薇深幸■■

     
 
 
 
 
 
 『そう、これで全員揃った。本当のアリスゲームは・・・・これから。』
 

                      〜ローゼンメイデントロイメント・第3話・薔薇水晶の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 紅い瞳です。
 今日は淡々と書いていこうと思います。
 
 ローゼンメイデントロイメント、この作品は前作「ローゼンメイデン」の続編でありますけれども、ある意味で
 この続編が第一作であり、「ローゼンメイデン」はそれの準備段階であった、とそう見ることが可能です。
 人形達がジュンの元に集まり、そしてジュンと他の姉妹達と共に生きていくスタイルの確立、その完成とし
 ての前作の存在意義があり、そしてその定まったスタイルを使ってどうやって生きていくのか、それが今作の
 存在意義であるのです。
 その意味に於いては、前作の完成というものそのもの自体は決してゴール足り得ず、むしろどういったス
 タートを切るかという意識の成立にしか成り得ていません。
 前作では、水銀燈というアリスゲームの参加資格を持たない不幸な人形による、他のアリスゲーム資格
 者に対する妨害、及びそれに抗する真紅達の戦いが描かれていました。
 ゆえに前作の戦いは厳密には真のアリスを決定するアリスゲームの前哨戦にしか過ぎず、その水銀燈に
 よる妨害が無くなって、ようやく本戦が今作にて始まろうとしているのです。
 或いは、水銀燈との戦いも含めてアリスゲームというのならば、それはしかし真紅達が水銀燈との戦いを
 乗り越えていくことで、本当のアリスゲームの参戦者としての「資格」が得られたことになるのかもしれませ
 ん。
 その資格を得るところからアリスゲームが始まっている、と考えればそうなるでしょう。
 
 前作に於いては、水銀燈という存在に対する思考を真紅達が重ね、それに基づく自らの在り方生き方
 を模索するという物語が展開しました。
 そして、それは主人公たるジュンにおいても同じで、引き籠もりかつ不登校児である状況にまみえながら、
 徹底的にそれに打ち負かされ、けれどもどうにかその続く敗北の中で築いてきたものを使い、それと向き
 合う位置までこれた、そのような物語も同時に展開されていました。
 そしてその同じ道を歩きながら別の方向を見ながら歩いていた両者が、初めて出会ったとき。
 そのときに「ローゼンメイデン」は一旦幕を閉じたのです。
 さぁ、いよいよこれからが本番ですよ、と言わんばかりに。
 そして改めて開幕した物語はというと、既に同じ道の上で同じ方向を向いて共に歩いている両者、その幸
 せに満ちた日常が照らし出されることで始まります。
 彼らの楽しそうな幸せそうな表情は、すべて前作の産物です。
 そしてその幸福を足場にして展開される喜劇の幕開けをこじあけて、いよいよ今作の主題が華開くので
 す。
 その自分達が築いてきた幸福の礎が向き合うものとの対峙。
 真紅達ドールズはアリスゲームの渦中へと、そしてジュンは学校に行くための努力と準備へと、
 それぞれがそれぞれを意識しあいながらどう立ち向かっていくのか。
 これがローゼンメイデントロイメントの基本的かつ中心的なテーマなのです。
 そしておそらく、これ以降の物語ではその両者の繋がりが試されていくこともあるでしょう。
 自らの築いたものの足場を揺るがされながら、それでもそれを上回る修復を以てさらに前進していく、
 そういった新たなスタイルの確立が人形と人間に求められていくでしょう。
 その過程に於いて水銀燈の復活が行われるのでしょうし、そして再び出会った水銀燈に対峙することで
 自分達がしてきたことを改め見直し、懺悔し罪悪感に溺れ、そしてなによりも強く生きることを模索してい
 こうとするのでしょう。
 きっと、水銀燈ですら笑顔で生きていけるような平和で幸せな生を改めて成すために。
 そしてそれは、ジュンのこれからの生活とも連動していくのでしょう。
 自分が今まで引き籠もっていたことで失ってしまったものの実感の重みに、それにきっとどこかで挫けてしま
 うことでしょう。
 或いはその挫折を正当化するために、どうしようも無い自分というアイデンティティを模索してしまったり、
 自分を責めることで罪悪感に逃げ込んでしまうかもしれないでしょう。
 自分が失ってしまったもの、それがただの過去のものとしてでは無く、目の前に絶対としてある強烈
 な実感を得れば得るほど、そうなっていく可能性は高くなっていくのです。
 そしてそれは、真紅達にも言えることで、彼女達が失ってしまった水銀燈という存在、
 それが失われた哀れな命、というそれに対する悲しい感慨として完結できてしまうものでは無く、
 厳然としてそこに復活して現れたとき、その衝撃が強ければ強いほど、真紅達は揺らいでしまうのです。
 
 そして、その揺らぎが大きければ大きいほど、彼らはまた再び微速ながら前へと進もうとするのでしょう。
 
 どうしようも無い現実をなんとかしながら必死に解決して、そうして前へ。
 そしてそのどうしようも無い現実の描写がこれからさらに加速して描かれることでしょう。
 ローゼンや薔薇水晶がその現実としての対象物になるのか、はたまたさらにそれを越えたところからやってく
 るのかはわかりませんけれども、いずれにせよその「現実」と向き合って真紅達は生きていくでしょう。
 過去に出来なかったことを改めて為すチャンスが与えられたとき、どれだけ今の自分がしっかりしているかが
 試される。
 あのときこうすれば良かったあのとき私はこう思えば良かった、と後悔と懺悔の念と共に描いた真紅の想
 い、それを実際に復活して現れた水銀燈はいとも容易く打破してしまうことでしょう。
 あのときできなかったことがそう簡単にできる訳が無いのです。
 ましてや今はあのときには無かった罪悪感や悲しみ、そして自分が向き合わなければならないものの重圧
 を背負っているのです。
 理屈ではわかったつもりになっていても、実際にそれを実現するには相当な修練が必要になるのです。
 真紅達が前作で学んだことだけでは、薔薇水晶はおろか水銀燈にも勝てはしない。
 けれども、逆に彼女達が学んだこと、それがもたらした今のこの幸福があれば、たとえ打ち負かされ続けて
 も決して対峙することを諦めることは無いのです。
 
 なぜならば、もう彼女達は深い幸せを知ってしまったのだから。
 
 無論ジュンもドールズと同じ。
 達観も無く、諦観も無く、絶望も無く。
 人間と人形が共にあるかぎり、幸せな希望の光が地獄の底で笑っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 山本くんに、幸あれ。 (オチ)
 
 
 
 
                      ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 
 

 

-- 051102--                    

 

         

                                 ■■見上げる地獄■■

     
 
 
 
 
 
 『人生なんて所詮ゲーム。ゲームオーバーまで愉しんだ人間の勝ちなのよ。』
 

                         〜地獄少女・第五話・里穂の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 色とりどりの無色な花畑を這いずって見上げた空の下。
 待っている時間を待つために閉じぬ瞳を煌めかせて、浮かぶ蝶の背に想いを馳せる。
 堕ちていく紅い陽の落涙が流れ込む池の畔に住まう家。
 その扉を通る事無く押し開けて入ると、いつのまにか其処に居る自分を知っている。
 その紅い画面の向う側の少女を、知らずに。
 なにを、なぜ、どうして、誰がその言葉を。
 その答えを得るだけで、簡単にけりがつく。
 きっと、そうなるわ。
 
 
 隠した瞳の行方を忘れる前に、次々と注がれていく新たな想い。
 怨みと袂を分かつ、あってはいけないはずの健気な願い。
 なにが健気なものかと声を荒らげる余裕すら失い、その喪失を以て行方知れずの瞳を弔う。
 なにを・・・やっているの・・
 いつのまにか、幸せなはずなのにその幸せを奪われた少女に憧れているだなんて。
 私は、ただ怨みを晴らすために、ここに来たはずなのに。
 私のこの顔がどんどんと悲しみと喜びでたるんでいくのを、どうしても見逃せないということ、
 それをこそもはや見捨てたいと思っている。
 それなのに、なにを冷静にあの女のことを調べているのよ。
 どうして、未だにあの女の罪を暴くことに勤しんでいるのよ。
 なにが、助けてお願い、よ。
 悲劇のヒロイン、しかも偽物の被害者を演じてなにが愉しいのよ。
 私は、横暴な親戚にこき使われながら養われている健気なシンデレラじゃないわ。
 私は父の怨みを晴らす復讐者なのよ。
 それなのに、なによ・・・・なによ・・・・・・なによ!!
 
 
 地獄少女が、みてるわ。
 
 
 地獄少女があの女の依頼による私のアクセスを無視するのは、それは地獄少女が私を見てるからよ。
 私は今、怨みを遙かに越えるなにかに支配されようとしている。
 私は、確かににやりと嗤う自分の顔を知っているわ。
 それが、決して憎いあの女を追い詰めることに近づいているからでは無いことくらい、わかる。
 お父さんを騙し利用して、そして挙げ句の果てには殺したあの女。
 私はあの女に復讐するために、此処に来た。
 私はそれなのにあの女の片棒をかつぐ事に耐えられなくなって助けてとつい言ってしまう可憐なヒロイン。
 そして、どうしようもなくなってしまったときに魔法使いに助けて貰えるシンデレラ。
 助けて、地獄少女。あの女を殺して頂戴。
 ふふふ。我ながら素晴らしい転身よね。
 私はただの、薄汚い復讐者にしてあの女の後継者にしか過ぎないのに。
 
 あの女を地獄送りにした。
 これであの女の地位と財産は私のもの。
 その事実に気が付くのに、いくらの時間もかからなかったわ。
 私は一体、地獄少女を騙したことになるのかしら?
 私はほんとうに、地獄少女にただ怨みを晴らして貰っただけ、そう思われたのかしら?
 あの女が、あの空の上で嗤っているわ。
 私を手招きするように、あんたも此処まで来なさいよ、と。
 だから私は、その通りにしてよい権利を手に入れた。
 あの女と同じように、死んで地獄に堕ちるまで、他人を踏み潰して徹底的に愉しんで生きてやろうと。
 あの女は死んだけれど、私はまだ、生きている。
 だから、誰もあの女を罰することはできなかった。
 地獄少女にも、私ですらも。
 なぜなら、あの女と同じ私がこうして生き残っているのだもの。
 あの女の正しさを受け継ぐ私が、あの女に怨みを抱いた私が、生きて。
 皮肉なことよね。
 あの女の正しさとやらによって殺された父は、一体今の私をみてどう思うのかしら。
 ふふ、きっと私も父のような被害者を作り、そしてその娘に復讐されて死ぬのだわ。
 嗚呼・・・地獄少女はそれを見越して・・・・
 それなら尚更、頑張って他人を糧にして荒稼ぎしなくてはね。
 そして死んで地獄にいったとき、あの女に思い切り札束の山を投げつけてやるわ。
 私はあんたより稼いで楽しんでから死んだわ、と。
 もしかしたら、それだけがあの女に通じる唯一の復讐になるのかもしれない。
 
 
 それなら私は、本望だわ。
 
 
 たぶん、地獄少女の契約の履行は、こうなることによってようやくなされるのかもしれない。
 怨みを晴らす、それは私があの女が苦しみ悲しんだり罪に苛まれたりする顔を見ることでは為されない。
 あの女が心の底から悔しがる、それを見て初めて、
 復讐者にしてあの女の後継者に成り果てた「私」の怨みは晴れるのだわ。
 私は、そこまで堕ちたのよ・・・・お父さん・・・
 
 ごめんね・・
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 今晩わ。
 遅ればせながらのご挨拶にて申し訳無く。
 地獄少女第五話の感想をば、以上のような形にてお送りさせて頂きました。
 今回のお話は、里穂が死んだあとの美沙里の視点にて進めさせて頂きました。
 肝になるのは、地獄少女が受け入れる怨みとはそれがなにを怨みなぜどうして怨み、
 そして誰が怨んでいるのか、それがすべて綺麗に一致したときに発生するというもので御座います。
 商売敵を暗殺するために美沙里に強要した里穂の怨み、
 そして父親の怨みを晴らすための美沙里の怨み、それは地獄少女に無視されるので御座います。
 あれでは父親はきっと浮かばれない、そう想う美沙里の怨みが晴れないのは当然であり、
 またその自責の念がこれからの美沙里の余生を生き地獄に換えるので御座います。
 怨んでいた里穂と同じ道を行くことの無自覚、しかしそれはやがて気付くものなので御座います。
 自分の胸の刻印をみるたびに、もっと他人を糧にして楽しくいきなければと思えば思うほどに、
 その増えていく犠牲になった人々をみるたびに、父の無念の死を想起してしまうので御座います。
 そして本当に怖いのは。
 そうなってしまっても、もはや里穂と同じ道を歩むことをやめることができない美沙里が居る、
 というところにあるので御座います。
 一体・・・・どうしてこうなってしまったんだろう・・・・
 
 それは、そこに地獄通信があったから。
 
 今宵はこれにて幕とさせて頂きます。
 
 
 
 
                            ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 

 

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