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◆◆◆ -- 2006年1月のお話 -- ◆◆◆

 

-- 060131--                    

 

         

                                     ■■ 春と月 ■■

     
 
 
 
 
 なんか春っぽい。(挨拶)
 
 今年はどうやら花粉が少ないらしいという情報がありますが、むしろこんな時期から花粉の話題を出すな
 と言いたい花粉症持ちの紅い瞳です、ごきげんよう。
 気分的に鼻がムズムズしてしょーがない。 (自分勝手)
 
 さて、はい。
 まぁなんだ、ええと、適当に書きますか、ダラダラと。
 まぁうん、ローゼンメイデントロイメントの感想を書き終えてすっかり脱力中なんで、なにをどう今日書こうか
 とかそんなのはもう全然なんで、もうまったく駄目な子ね。
 んーとさ、一応最終回の分の感想を読み直してみたんですけどさ、そうすると改めてトロイメント見て私が
 考えたこと、言おうとしていた事が見えてきてさ、まぁ色々くはーって溜息付きたい感じでさ。
 ていうかまぁ見えてきたということは逆にいえば見えただけでもあって、正直自分でもまだ書いたモノの意味
 するところというのが明白にはなりきれてなくてさ、でもそういうもんだよなぁ、みたいなさ、ええと。
 書く前と書いてるときと書いた後の私の中のなんかゴチャゴチャしたものを混ぜ合わせたものが最終的に
 は目の前に在るわけで、厳密にいえばそれをこういうもんだって言う方がマズイって感じ?
 トロイメントの感想はもっともっと読み直していかないと、否、読み直せば読み直すほどに意味が出てくる
 感じになってて、実際書いていたときもなんだかこういうことを書いてやろうみたいなことはあんまりなくてさ、
 一応なにかを書けたつもりにはなっていたけどそれは「なにか」な訳でなんなのかはよくわかってなくて、
 だからまぁこれから私も読み手の立場からズルズルとトロイメントを深めていければいいなと思ふ。
 大体ね、トロイメントって奴に類型化したテーマみたいなものを持ち込んで語ることもできるっちゃできる
 訳で、まぁ基本的に私が書いたモノのもカテゴライズすることはできなくはないわけ。
 たとえば、っていうかまぁこれがメインな訳だけど、トロイメントは父と娘の関係のお話ってな感じで、如何に
 娘が父親から独り立ち「すべき」かという論でもあった訳で、それに作品側から提示してきた回答を見た
 上での私なりの回答を吹き込んであるという構造も持ってるのだよ。
 でもさ、だから私はそういうことを書きたかったんだよ、といったらこれは全然違うしもう勘弁してってくらい
 嘘っぽいことで。
 それならなにを書いたんだよ、と問われれば、だから今自分の書いた感想読み直してるとこだよ、と答え
 るんですよ。
 ま、自分としてもこのトロイメントの感想については色々なことを書いたつもりなので、そういったものをまた
 読むたびに考えていくことができればいいんちゃう、ってとこでしょうか。
 まぁいいや、そういうのは、どうでも。
 私的にはローゼンメイデンは第三期も是非作って欲しいところだよね。
 あの設定を使っていくらでも物語は作れると思うし、また様々なことを「考えていく場」としてローゼンメイデ
 ンシリーズのアニメの制作が重なっていくと嬉しいところです。
 その際に死んじゃったキャラの復活やら新キャラの登場やら、そういったもの自体が顕わす意味を織り込ん
 だ壮大な絵画を刻んでいくスタイルが確立されるとなおよし。
 トロイメントでの水銀燈の「復活」というのは大きな基点になっていて非常に有意義でしたし、またそれを
 踏襲する形でも良いので、次作にて為される「復活」にも期待したいところです。
 水銀燈はねぇ、面白いキャラなんですよねぇ。
 あれは掘り下げればもっともっと深まっていくんですよねぇ。
 要するにそういった読み手の思索が作品を深化させていくのですよ。
 水銀燈とはなんだったのか、水銀燈の考え方を進めるとどうなるのか、或いは水銀燈の言葉を別の言葉
 で表現するとしたらどうなるのか。
 そしてそうやっていった中で一番中心にくるのはきっとその水銀燈自身になってくるわけで、そうなると読み
 手自身が水銀燈となって作品の一端からそれを再構成していくことも可能になるんです。
 色々できるんですよね、そして色々するからこそ面白い。
 トロイメントはこういうものと言い切る前に、散々色々してみたのが一連の感想と、そういうことですね。
 そうして色々な視点と思索が入り込んだトロイメントと出会えて、私はたぶん幸せでした。
 皆さんのトロイメント感想も、だから色々お聞きしたいものです。
 でも、私的には雛が居ればそれで満足なんだけど。
 
 こんな感じでよろしいでしょうか?(誰に訊いてる)
 
 
 ◆◆
 
 はい、蟲師の感想です。今日は久しぶりに前置きを。
 今回のお話はなかなか難しく、なにをここから見出せば良いのかわからなくて一苦労でした。
 作品の側がなにかを示しているとは思われなくて、けれどそれでも少ないけれども確かにある要素を繋ぎ
 合わせてなんとかひとつの感想を構築することができました。
 一本のまとまった感想でも書けるのですが、それを敢て箇条書きでやってみたいと思います。
 さて、箇条書きだとどういう風にみえるのか・・・
 それでは、始めます。
 
 ■「蟲師」 第十三話 :一夜橋
 
 ・夜の闇を必死に照らす弱々しい灯が護る道行き。その先に待っていたのが橋だけだったという終わり。
  手を伸ばしても届かない死という終わりがその灯りを闇に閉じ込めていった。
 ・ギンコが今にも落ちそうな橋をおっかなびっくり渡り終えたその風景との対比。渡るしか無いから橋から
  落ちることは無くただ橋が落ちることだけを気にして一気に渡り終えるギンコ。
 ・縁側に座る虚ろな目の女性。病人の居る家に他人を迎え入れる「家」の雰囲気がじわじわと見える。
  しかし秘匿された感は見えず、開放された感だけがする。皆がこの女性の状態を知りそれが存在してい
  るという認識を共有しているかのよう。
 ・駆け落ちの話を切り出すゼン。ハナは拒む。村の生存のためにもハナの嫁入りは断れない。その理屈を
  しっくりとふたりが共有しているのを前提にしてある生の感覚が滲み出てくる。ゼンはだからその理屈の外
  にでようといい、ハナはその理屈の内にしか居られないという。残された家族や村のことを思えばこの村に
  居るしかないとハナはいう。
 ・だがそのハナもまたその村の一員であり、そのひとりひとりが幸せになるのだと考えるのならハナ自身も幸
  福にならなければいけない。ハナの幸せはハナが掴むべき。きっと親達もそれを理解してくれる、それぞ
  れで自分達の幸せを掴んでくれるとゼンは説得する。そしてハナはその言葉に頷こうとして必死にその掌
  に力を込めていく。
 ・「谷を出て、山越えて、広くて明るい土地に行こう。」
 ・谷の出口を司る橋の上にてハナは立ち止まる。この谷を出ては生きてはいけないというハナ。自分の幸
  せの定義を曖昧にしたままで掌に込めていた力に気付いたハナ。やっぱり私行けないよ。村の理屈はた
  だの言葉では無くてハナ自身の体同然。其処から出ていくことなどできない。出ていくのは自らの体の
  醜さを呪いそれに耐えてそれでも幸せに生きていこうとする事から逃げているのと同じと思うハナ。
  村のみんなだって村という体を必死に背負って生きてるのだもの。
 ・「私、耐えられるよ。ゼンはずっと私のこと想っててくれるだろう。私もずっと想ってる。向うへ行っても、
   ずっと心を押し殺していても。」
 ・だがゼンはそれには頷かない。そんな、押し殺した幸せの亡骸にすがって泣いているのがどこが幸せなん
  だよ!始まりか間違ってるこの村の理屈からなんて飛び出せばいいんだ!「俺は嫌だ!!」
 ・ゼンがハナに手を伸ばす。伸ばされた手に込められた力強い力の輝きに照らし出された自分の姿に
  怯えたハナは後ずさる。駄目・・怖い・・・・・。そしてハナは谷に堕ちて死んだ。
 ・ハナ、と叫ぶゼンの声が響き渡る光景。
 ・「到底助からない高さから落ちたはずなのに、ハナは自分の足で歩いて戻った。」
 ・それを谷戻り、という。そしてそれは一夜限りの橋が架かるときに死ぬという。
 ・昼でも薄暗い高い木立に囲まれた谷の中に犇めく蟲偽葛の説明を通して物語の姿が語られていく。
  どれも偽葛で説明が付く。
 ・薄暗い陰惨な谷の底に蠢くなにかはその谷の中に生きるモノの中に入り込みそして日の光を求めて谷
  から出ていこうとする。そしてそのモノとは大抵、初めから、死んでいる。求めた日の光に照らし出されて
  浮かぶ幸せの亡骸に魂が無いことを感じ谷に戻っていく。
 ・虚ろな死骸のハナが佇む家の中でその母親と対峙するギンコ。母は死んでいるのならその死をこの村に
  示せという。蟲を祓い穢れた死の塊として消し去りたいという。村の理屈通りに生き理屈の通りに死ぬ、
  その幸せの形をしっかりと描いたまま死なせてやってくださいと母は言う。その母の言葉は一見無情で利
  己的に見えるがしかしそれはハナが生きそして戻ってきた村の理屈に則った村の中に生きる者の幸せを
  体現した言葉でもある。嫁ぎ先との話の決着のために娘の死を明らかに。娘もそれを望んでいるはず
  です。その母の最後の言葉はハナには不要。母さんの思う通りになればそれでいいのよ。
 ・そしてギンコは蟲を祓うことを拒否する。彼女はモノじゃない。彼女は彼女の魂自身なんだ。そう思う俺
  の通りにさせて貰うぜ。俺もただのモノじゃないからな。
 ・「彼女はもう彼女とはいえないが、それでもまだ、生かされている。」
 ・ただあるがままに蟲によって動かされているハナの姿を見る者の内にハナは生かされている。そしてだから
  ハナはこの村の中に確かに生きている。
 ・そしてハナは谷の外に出ていこうとしている。蟲という魂になって。亡骸を村に残して。村という体から旅
  立つために。その者達のために一夜限りの橋が谷に架かる。
 ・ハナの体を失い村の理屈を失ったゼンはもはや此処に居る理由を失った。そう、失った。在るものから旅
  立つのでは、無い。
 ・一夜限りの橋が架かる。谷の外に旅立とうとする魂達の織りなす自ら輝く白い橋が。
 ・そして、ゼンはその橋の途上で立ち止まる。そして、谷へと戻る一歩を刻み、谷へ堕ちて還った。
 ・橋がハナの魂で出来ていることに気付いたゼン。それを踏みつけて歩き続けるしか無いことに気付いた
  ゼン。そうか・・ハナの事を忘れることなんかできやしないんだ。どこまで行ってもハナの上しか歩けない
  んだ。ハナが村の上を歩くことしかできなかったように。ハナは死なない。ハナは俺の足の下にずっとある。
  だから歩いても歩いてもハナの上。ハナの上からちっとも進めない。
 ・ゼンはハナと共に越える山とその先に広がる明るい土地を求めたが、そのハナを失ってしまった今はもは
  やそれは求めるだけの存在で決して行くことのできない場所になってしまった。そして、ゼンには帰る場所
  はもう無い。失ってしまったのだから。あの日ハナと共に越えようとした橋の向う側に光り輝く自分の姿
  を見たゼンの戻る場所は、薄暗い陰惨な谷の中の死骸にしか無かった。
 ・虚ろなハナが居たからこそあの村に居ることができたんだ。村の中の俺はあのときハナと一緒に死んでた
  んだ。だから俺は今・・・・谷に還るだけなんだ。
 ・谷に戻ったゼン。虚ろな目を照らす橋の向うの光が消えるのは、一夜橋の顕われる二十年後。
 ・煌々と夜空に浮かぶ月を照らす日の光は、決してこの谷の中の者を包みはしなかった。
 ・それでも、お前は生きてたんだぜ・・・・・・・・・
 
 
 途中から論点がずれてしまったけど、まぁいいや。
 
 

 

-- 060129--                    

 

         

                                 ■■ 薔薇少女 3 ■■

     
 
 
 
 
 『これがお前の望みなのか! こんなことをさせるためにお前は人形を創ったのかっ!
  答えろ! ローゼン! みんなお前を愛してるんだぞっっ!!
  何十年も何百年も前からお前だけを追いかけて、お前だけを夢みてきたんだ!
  なにか言ってやれよ! 何か応えてやれよっっっ!!!
  どうしてお前が愛してやらないんだ・・・・・・どうして・・・・・・・』
 
                       〜ローゼンメイデントロイメント・最終話・ジュンの言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ひとひらの薔薇が在った。
 
 紅いぬくもりを放ちながら収束を重ねそれはやがてひとつの生命となった。
 その生命が冷たく座らされていた体に入り込んだ瞬間、此処に私が居た。
 瞼を押し開けていくこそばゆさを脈々と感じながら奮わせる体の歓喜が始まっていく。
 次第に広がる極彩色に落ち着いた世界が其処に顕われていく。
 瞳を完全にその淡い光に晒したとき。
 
 其処に、世界の中に顕われた私が居た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆
 
 饒舌な薔薇達との戯れから死を賭して這い上がってきた。
 恐れに満たされていく平安の守護者としての威厳を携えて着々と歩を進ませてきた。
 淫らな飛翔を舞い散る薔薇の中で行うこの姿を捉えるにつけ何度も叩き落としてこの身に収めてきた
 。
 私は私でなければいけなかった。
 限りなくこの体から抜け出そうとする私を援ける紅い薔薇達を使役している私の存在を詳らかにするため
 に言葉を重ね、紡ぎ、そうして織り上げた私のローザミスティカはしっくりと紅く染まっていった。
 この体の中を支配する紅さを極めようとすればするほどに、その紅はどくどくと脈打ちながら色褪せていき
 、ただ淫らに枯れ細った醜い血膿だけがへばりついて残ってしまう。
 逃げたくないと、そう思えば思うほどに逃げてはいけない理由を紡ぎ、そしてそれに没頭することでそれに
 逃げることに成功してしまった。
 誰もそんな事は望んでいないのに・・・・
 それなのに、私はいつも私から飛び出そうとしていて・・・・・・
 
 世界の中を駆け巡れば駆け巡るほどに、それは紅く染まっていくというのに・・・・・
 
 どこまで逃げようとも、私は私にしか過ぎなかった。
 そしてあろうことか、逃げれば逃げるほどに、私は私になっていった。
 なんて、醜いのかしら・・・
 どうしようも無く、淫らな紅。
 自分の中から抜け出せば、その抜殻の自分から目を逸らすことなどできなくなるだけ。
 私の外側で舞い踊る紅い薔薇の世界が、絶え間なく私を照らし出している。
 それは堪らなく憎らしいことでもあったわ。
 私は外なる私が追い求めているものに引きずられて、遂にその場所に辿りついてしまった。
 逃げてはいけない。逃げるのは許さない。
 だから。
 
 あなた達を許さない。
 
 
 

 ◆

 
 平和を乱されないように努力してきた。
 それでもその平和を乱さなくては生きられない姉妹達と向き合ってきた。
 私のすべての姉妹と平和に暮らしたいという願いは、それは決して共有されるものでは無かったわ。
 だから私は水銀燈がその平和の中に生きることを拒否することを認めた。
 でもその代わりに私がその平和を維持することを放棄することも無いということも宣言した。
 たとえ水銀燈にとって私は敵だったとしても、私にとって水銀燈は決して敵ではないと。
 私はいつだってあなたをも迎え入れることができると、そう伝えたの。
 けれど水銀燈はそれを拒否して、そして自分の願いを叶えるために蒼星石のローザミスティカを奪った。
 でも、それでも私は、いいえ、だからこそその事のせいにして自らの求める平和から逃げ出すことは許せ
 なかった。
 私は水銀燈の幸せを否定するつもりは無いの。
 あの子は、ただ在るがままに幸せになりたかっただけなのよ。
 だから私には彼女の幸せをも内包する平和をこそ真に求める義務があったわ。
 あの子は私達とのママゴトのような平和を生きるつもりは無いと、そう言ったわ。
 でも、あのとき確かにあの子はなにかを求めて戦っていた。
 あの子にはあの子なりの平和な幸せがあったのよ。
 それはきっとあの子にとって「ママゴト」では無い真の平和な生活だったのでしょうね。
 でも。
 だからと言って、むざむざと私達の平和を乱される訳にはいかなかった。
 ましてや。
 この一連の争いの発端を「創った」薔薇水晶を許す訳にはいかなかった。
 ・・・・・。
 嘘ね。
 それは嘘だわ。
 許せなかったのは・・・・・・その理由は・・・・・・
 
 
 怒り。
 どうしようも無いと思えてしまうほどの怒りが、ずっとずっと私の中にはあった。
 平和を愛する者と忌避する者との戦い。
 それがひどく矛盾した戦いであることを了解しながら戦っていた焦り。
 平和を愛する私が、なぜそれを守るために戦わなくてはいけないの?
 その理不尽な状態を現出させたものがなによりも憎くて堪らなかった。
 どうしようも無いその現実を、それでも破壊することはできなかった。
 私達はこの現実の中に生きているのだから。
 私達は自らの唱える理想と願いを胸にしながらも、淡々と在るがままにその現実の世界の中を生き、
 そしてそうであるからこそ戦っていたのよ。
 だからそれは本当は、異なる理想同士の戦いですらなかった。
 それは、この戦いは、まったくの自然な生存競争にしか過ぎなかったのよ。
 生きているからこそ、私達はただ戦っていた。
 私達は本来的に戦わねば平和を勝ち取ることができなかったのよ。
 その醜く爛れた、そして虚しく壊れた平和をしか、私達は目指すことができなかったのよ。
 どうして・・・・どうして・・・・・
 悔しかった。
 悲しかった。
 そして。
 なによりも、許せなかったわ。
 だから。
 それでも壊すことのできない私の生存の理由を、別のなにかに仮託した。
 
 
 『この子はっ! この子は・・・みんなを・・・・・っっ』
 
 
 燃え盛る紅い薔薇が、目的地を見つけて飛び散っていった。
 
 
 
 ◆ ◆
 
 血に染まる薔薇が巡る体が細動する。
 空にまで届く吐き出された血潮が薔薇に導かれるままに風を為す。
 一陣の紅い風。
 吹き荒ぶ絶対の恐慌に魅入られた瞳に紅が差していくのを躊躇う事無く許可していく。
 怒りが溶け往く世界に実感を覚えるまでのその狭間の瞬間が存在しないことに安堵していく。
 この薔薇の体の自然な在り方を思い出すままに現出させていくだけのその絶対の落ち着き。
 嗚呼・・・・私が怒りから始まっていく・・・・・・
 怒りとなった私が戦う理由が其処に居る。
 私が怒りとなった理由が其処に居る。
 それ以外、なにも無い。なにも感じない。
 
 綺麗。
 
 冷たい体が動くたびに体の感触を得ることができる。
 私・・・今・・・・・生きている・・・・わ・・
 そして。
 私は、ただ、戦っていた。
 
 
 
 
 『あなたが、全部・・・あなたがっっ。』
 『あなたが、全部。』
 『あなたさえ・・・あなたさえ・・こんなことしなければっ!』
 『こんなことしなければ。』
 『巫山戯ないでっっ!!』
 『巫山戯ないで。』
 『あなたは・・・っ』
 『あなたは。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 振り上げた紅い私の先に、淫らな怒りで嗤う私が照らし出されていた。
 
 
 
 
 
 
 
 『だからって、お前までそんなことしたら一緒じゃないかっ!!!』
 
 
 
 
 
 
 
 

+++ 空と、大地と、太陽と、月と、光と、闇と、風と、薔薇と +++

 
 
 
 なぜ、生きているのか。
 それがわからないから、なぜ生まれてきたのかを考えてしまう。
 そしてその問いに導かれるままに、お父様の元へと到達する。
 お父様が自らの願いを叶えるために私達を創り、そして私達はそのお父様の願いを叶えるために生きて
 いる。
 ひどく簡単に綴られたこの答えが、ただ掲げられたものでは無いということはすぐにわかったわ。
 だって私達は、その言葉に激しく頷くことができるのだもの。
 その言葉があったから私達は頷いたのでは無く、私達の中にあるなにか大切なものを説明するのになに
 よりもその言葉が適していると思ったからなのよ。
 私達はお父様の願いを叶えて差し上げたい。
 そしてその私達自身の願いを叶えるために、その私達が生まれてきた理由を引き受けるの。
 ジュン。
 私達は、願いを叶えるために私達を創ったお父様のその願いを叶えるのでは無いの。
 私達は、生まれてきた。
 私達が始まるのは必ず常にそこからでしか無くて、だから私達が生まれてきた理由という言葉だけを聞い
 て頷くことは有り得ないのよ。
 そこに、そこにお父様が居る、そしてそのお父様が私達になにかを願われている、そして既に生まれている
 私達はその願いを叶えて差し上げたいとそう願う、ただその一点を愛しく付加することによって、私達はそ
 の言葉に心から自然に頷くことができるのだわ。
 だから私達が生まれてきたのはお父様の願いを叶えて差し上げるためにでは無く、ただそうしてなにかに
 自然に頷くために生まれてきたのかもしれないわ。
 そして、そうであるからこそ、私はその頷くためのなにかという席に、そのお父様の願いを座らせ、そしてその
 席を暖かく飾るために私達がお父様の願いを叶えるために生まれてきたという理由に頷いていくの。
 決して私達は、その自分達の頷いたものそのものに逃げてはいけないの。
 そこに逃げ込めば、その頷いたものに身命を投げ込んでしまえば、それは「なにかに頷いている自分」を
 捨て去ってしまうことになるのよ。
 ジュン。
 
 私達は、愛しいお父様のお願いを叶えて差し上げるために生きているのでは無いの。
 
 私達は生きている。
 それが最初にあるものなの。
 そして。
 生きているということそのものが、既になにかのためにあるという属性を持っているものだったのよ。
 順番が逆、という事なのかしらね。
 なにかのために生きている訳では無いけれど、生きているからなにかのためになろうとしている。
 私達はそのなにかのためになろうとするためにすべてを投げ打ち、そして生きていこうとする。
 それはきっと、逃げでは無いわ。
 なによりも、なによりも私達が生きていることを感じているゆえに為されるその全身全霊の行為のすべてが
 、その対象をこの生の中に取り込んでそれとひとつになっていこうとするのだから。
 私は私の外に広がっていこうとする私とひとつの私であることを認識していかなくてはいけないし、
 世界の中から私を分離させ私を世界の中のひとつの私として視る私とも同化していかなくてはならない。
 ジュン。
 ジュン。
 私はローゼンメイデン。お父様の創った娘。
 そして。
 その名を背負う真紅という私なの。
 私はお父様の娘である真紅では無く、お父様の娘でもある真紅なのよ。
 だから私はローゼンメイデンの名に逃げ込むことはしない。
 そして、それと同様に、アリスドールという名前に囚われることも無い。
 でもね、ジュン。
 それは私がローゼンメイデンであることとアリスドールであることを棄てるという事では無いの。
 私は、ただそれだけでは無いと、真紅という人形は、たったそれだけの可能性しか持たない人形では決し
 て無いと、ただそういうことを以て、そして改めて私はローゼンメイデンにしてアリスドールたる真紅だと、そう
 言っているのよ。
 
 だからね、ジュン。
 
 私はあなたの言葉に、深く、深く、そして嬉しいほどに頷くことができたのよ。
 
 
 お父様のお与えくださった愛しい体と始まりを以て伐り拓いて得た、その美しいひとつの可能性が、
 私をなによりも強く生きさせてくれたのよ。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 『お前達、姉妹なんだろ? 同じドールなんだろ?』
 
 私達はそれぞれに違う体を持っている。
 真紅と、雛苺と、翠星石と、蒼星石と、金糸雀と、水銀燈と、薔薇水晶という体を持っているわ。
 そしてそれぞれに全く違う心を持ち、また共通するところはあれ決して同じでは無いその理想とする夢を
 見ながら、それぞれひとつひとつ生きている。
 けれども、私達はとあるところで全く同一なのよね。
 私達は等しくローゼンの娘として生まれ、いいえ、お父様の元に生まれ出て、そしてその始まりの場所から
 示された最高の終わり、至高のアリスを与えられたのよ。
 その事に対する処し方は体ごとに違うけれども、けれど「ローゼンメイデンにしてアリスドール」という名を持
 つたったひとつの存在でもあるの。
 私達姉妹は、いつだって須く唯一の存在だったのよ。
 私はようやくその事に気付いたわ。
 私達はアリスという目標を共有する分かたれた敵同士の存在では無く、ただそれはひたすら「ローゼンメ
 イデンにしてアリスドール」という「ひとりの私」だったのよ。
 私達姉妹というひとつの巨大な「私」の体の中で躍動する、ひとつひとつの私達が居る。
 紅い私、苺色の私、翡翠色の私、蒼い私、黄色い私、漆黒の私、紫紺の私。
 私は、そう、紅い私だった。
 そして、だからね、ジュン。
 紅い私はひとりしかいなかったけれど、私はちゃんと他に居ることができていたのよ。
 他の姉妹を紅く塗り潰さなくても、私は此処に居ることができるし、そして塗り潰そうとすれば、それはかえ
 ってその紅以外の私を消してしまうだけの事にしか過ぎなかったのよ。
 それは決して現実としての生存競争などでは有り得なかった。
 それはね、ジュン。
 狂おしいほどに、私の意志による現実への隷従だったのよ。
 私は生きているから戦っている?
 そんなのは、嘘よ。
 そんなのは、ただの言葉よ。
 なぜって訊くのかしら?
 
 だって、私はその言葉に頷く私を差し置いて、それにちっとも頷けない私の姿に頷けるのだもの。
 
 現実がなんだっていうの?
 戦うことでしか平和を築けないことが、一体どうしたっていうの?
 その現実の中に居るのは私。
 そしてそれよりもなにより、その現実を紅く醜く爛れさせているのは、私自身なのよ!
 その壊れた平和をしか築けないのは、それを壊れているとしか思えない貧相な私しか居ないからよ!
 私は、私。
 そして、私達姉妹もまた、「ローゼンメイデンにしてアリスドール」たるひとりの「私」。
 戦う私が居るから、他の私も戦わねばならないの?
 平和でいたい私が居るから、他の私も平和にならなければいけないの?
 違うわよね。
 私は、私。
 戦いを求めるものと平和でいるもの、それを醜い二項対立として存在させるひとりの「私」が在るだけだ
 からこそそこにその矛盾するふたりの私しか居ないのよ。
 そこに居るのは決してふたりでは無く、「ひとり」。
 そしてそれは7つの色とりどりの小さな私を共存させる存在なのだわ。
 だから私は平和を望む私、真紅。
 その紅い私をしっくりとその「私」の中に在らせることが最も大切なことだったのよね。
 そしてそのゆえに他の私をもその色彩のままに在らせておくことが重要になってくるの。
 ジュン。
 
 
 『アリスがどんなに素晴らしいものか、僕は知らない。
  お前達にとってどれだけ大切なものか僕にはわからない。
  でも、お前達が戦うことでしか生まれない存在なら、そんなの、絶対間違ってる。
 
 『真紅!』
 
 
 
 ああ・・・ジュン・・・
 
 
 アリスが・・・・・・
 たったひとりの至高の「私」が・・・・・・・
 
 その中に生きる七つのアリスを魅せてくれたわ。
 
 
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 なにも生み出すことのできない無力な存在が、ただ力を与えるだけのミーディアムが。
 そして、ネジを回しただけの少年が、私の始まりを改めて与えてくれたジュンが、其処に。
 
 お父様は私にあまりに多くのものを与えてくれたわ。
 この体とその始まりと世界と夢と、そして願いを。
 私はそして、その与えられたものを生きていく。
 その中にひとり必死に立とうとしながらそこから飛び出そうとし、でもそれでもなんとかそれを抱きしめようと
 力を懸命にその手に込めると、その中にはしっくりと美しい真の紅に彩られた私が居た。
 私が私を抱き上げる感触。
 その死の感情に最も近づいた快感に真摯になりたくて、そして。
 そして、其処に、ジュンを。
 此処に私が在ることを感じるがゆえに、ジュンが、其処に。
 だから私は・・・・
 
 
 ジュンの、お人形。
 
 
 お父様に与えられた私がジュンのために生きていく。
 私というものが与えられたものだというなにものにも代え難い喜び、その表明を笑顔で為すことを以て
 お父様の願いの達成をしたいと、私は想っているわ。
 ジュンに抱き上げられた私。
 お父様の娘でありジュンのお人形でもある真紅に輝く私は、だからその笑顔を磨いていくことでなによりも
 アリスに近づいていこうと思うわ。
 私の外側に広がる深遠で豊饒な「私」の中に在る真紅に彩られた私を生きること、それ自体が至高の
 アリスであることを、私は此処に悟ったわ、ジュン。
 アリスは私のうちに。
 そしてその私の外に飛び出したアリスを追って還ってきた私の中に改めてアリスを探すのよ。
 
 ほら・・・あなたが私の新たな始まりを受け止めてくれたから・・・・
 
 
 
 
 
 『お父様は仰ったわ。もう一度、アリスを目指しなさいと。
  でも、アリスゲームだけがアリスになる方法じゃないと。』
 
 
 
 
 『他に道はあると。僕にも聞こえたよ。』
 
 
 
 
 
 嗚呼・・・・・・ジュン・・・・・
 あなたの声が・・・・・なによりも・・・・なによりも・・・・・強く・・・・・
 私は、ローゼンメイデン第五ドールの真紅。
 至高の少女を目指すアリスドール。
 そして。
 お父様の娘にして。
 
 ジュンの、愛しいお人形。
 
 
 
 
 
 ジュン・・・・・・
 私・・・アリスになれるかしら?
 私は今までの私の生の始まりを背負いながらも、それでもアリスになりたいわ。
 
 『お父様はそのために私を戻してくれた。
  私に解決しなさいと仰った。』
 
 
 
 
 
 
 
 『できるよ。必ずできる。』
 
 
 
 
 
 
 
 ありがとう。
 ジュン。
 
 『私・・・・お父様に会ったわ。』
 
 
 
 遥かなる空の上で、ずっと此処を見ているアリスの光が、ただ見えていた。
 
 
 
 
 
 ローゼンメイデン     -- Fin
 
 
 
 

                              ・・・以下、エピローグに続くかもしれない

 

 *エピローグに続く確率50%。未定ということで。
  もし更新する場合でも来月以降になると思います。
  その前に何度か日記で簡単なトロイメントの感想を書く予定ではいます。たぶん。

 
 
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

-- 060128--                    

 

         

                                 ■■ 薔薇少女 2 ■■

     
 
 
 
 
 『お父様・・・・お父様・・・・お父様・・・・お父様・・・・・・お父様・・・・・・・・・・お・・父・・・さ・ま・・・・』
 
                       〜ローゼンメイデントロイメント・最終話・薔薇水晶の言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 上下の逆転した螺旋階段の一段目に足をかける。
 その瞬間に立ち上る死神の刎ねた死に往く者の幻影が穏やかに階下に堕ちていく。
 最上段から一歩一歩その遡行する段差を踏みしめていく間にその堕ちた幻の姿は消えていた。
 いと高きものへ登り詰める息苦しさが死へと至る光を此処に誘い導いてくる。
 薄明るく蒼く縮れ閉じ込められた空に降りていく快感に打ち震えていた。
 歩けば歩くほどに空は近くなり大地への墜落の瞬間からはひたすら遠のいていく。
 持て余した酸素が朱に染まるまでの感触をひとつの漏れも無く感じていく。
 少し、暖かい。
 けれど。
 ひどく、安定している。
 
 
 なにを憂うことがあるの。
 なにを慌てるというの。
 なにをしなければいけないのかわからなくなる前に、なぜ生きているのかわかっていないというのに。
 生きる理由が無いのなら創れば良いということを、わかるともなくわかっている事がただそれだけである。
 万象が溶けて繋がりひとつになりゆくままに、その手前でその同化の順番を待つ時間が愛おしい。
 導かれるままに彼我の境界を失う憧憬の影の裾を掴んでいる手だけが堅く閉じて生きている。
 じっと、それをみている瞳。
 冷たい水滴に彩られた掌が臨界を越える寸前の力を集めていくのを感じている。
 このまま力を込めたらこの手は本当に壊れるのだろうか。
 とても、気になった。
 
 くるくると儚い軌跡を描いてもげ飛んだ右腕。
 壊す前に壊れてしまった事に堪らなく世界との結合を感じていく。
 それならば、今度は一体どんな事がこの体を壊してくれるのだろうか。
 戦場を巡りその瞬間が訪れることを気に留めながら、ただ在るがままに動いていた。
 誰がために動くのか。
 動いているから、動いている。
 動かされているから、動いている。
 満天を彩る落ちぶれた青空を研ぎ澄ますために、ただただ世界との分離を保っている。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 まだ階段は、終わらない。
 そのゆえに、此処にまた力の籠もった足が顕われる。
 この足並みを乱す者よ、来たれ。
 お相手して差し上げましょう。
 勝利の景品は敗者の片足。
 それ以上もう空へと至る段差を越えることを叶えずとも構わぬ特権を頂きましょう。
 なにを、躊躇っているのです?
 
 『あなたはやはり、弱い。』
 
 
 
 
 
 ◆◆
 
 勝利を飾る至高の頂。
 その頂から見上げた逆様の空が激しく躍動している。
 その芳しい静寂の宴が催す祝勝の存在証明を行っていく。
 
 お父様。
 お父様の願いを叶えて最高の人形になる夢。
 生み出してくださったお父様に報いるためにその夢を叶えるような淫らなことはしない。
 生まれてきた喜びを証すためになによりも強く真摯に生きなければならないのだから。
 この誠意を以てしかそのお父様の恩に報いることはできず、そしてお父様はその恩を返すなど決してお許
 しにはならない。
 恩に報いている暇があるのなら、至高の人形になるためにすべてを捧げて欲しいとお父様は願われている
 。
 ただの一度の短い報恩の醜さとそれに満足する自らの怠惰な精神を奮い立たせてくれるお父様の願い
 。
 真にお父様に自らの生誕を感謝するのなら、その与えられた生をすべてその感謝に捧ぐべき。
 この世に生を受けるということの絶大な喜びに値するものは、この生以外に有り得ない。
 恩を返すために生きるのでは無い。そんなものは逃避にしか過ぎない。
 至高の喜びで始まった生にすべてを溶け込ませるままに生きて、ただそれだけ。
 ただ無為なるままに至高の階段を降り往くのみ。
 冷たい胸の内に炎を灯すために世界と戦い溶け合い分かれていく。
 やがてその炎がこの体を盛大に葬ってくれるという甘い幻惑を見据えるままに受け流す。
 流してのち、改めて、倒す。
 
 さぁ、戦いの宴を、改めて始めましょう。
 
 
 ◆◆◆
 
 死の美に囚われる愚を為すことなかれ。
 生の苦を厭う恥を晒すことなかれ。
 粛々と、轟々と、激しく、静かに。
 荘厳が織りなす誕生曲の縁起を紐解く指が震えている。
 自らの生命の美の謂われを綴る事のできる幸福が全身に張り詰めていく。
 なにを為せば良いのかが明白であるためには、そこに結果が示されなければならないが、その結果を受け
 止める自らの体がまず第一に万全の受け入れ体勢を取っていなければならない。
 だから、それはあまりにも明白な生の目的だった。
 なにしろそれを知った瞬間、否、その遥か以前からこの体はそれを幸せのうちに受け止める事ができるの
 だから。
 始めから、どうしようもない幸せにこの冷たい体は縛られていた。
 厳然と輝く陽の光を凌駕する光が脈々とこの体に流れ込んでいて。
 
 お父様・・・・・
 
 
 
 

 +++ 或るひとりの少女の幸福として +++

 
 
 
 
 緩やかに堕ちていく。
 破裂した亡骸を見下ろしながら堕ちていく。
 奇妙な快感が微笑して浮かぶ体がカタカタと崩れていく。
 一段一段踏みしめながら綴ってきた神聖な階段が螺旋を描いたまま上昇していく。
 すれ違うようにして堕ちていく体と階段が見つめ合う空の中に壊されていく感触が轟いていた。
 最後の一歩を積み上げてきた万感の想いで踏み出した瞬間、この体は抱きしめるようにして踏みしめた
 空に触れた順に崩れ壊れていった。
 崩壊の苦しみが激痛を伴い押し寄せてくる。
 けれど決してその痛みに惑わされることなく、その苦しみだけを感じ震えることができた。
 
 
 
 

 
 お父様に創られた人形として、最初から最後まで幸せでした。
 お父様のためにと思い掛けながら、それでも懸命に我がために生きました。
 美しく、気高く、正しく、強く、真摯に生きました。
 それがなによりもお父様のためになると信じて生きてきました。
 その自らの生をより高く磨き上げるために必死に生きました。
 お父様の人形をこれ以上無く飾り付けるために、万難を排してのち改めてそれを倒してきました。
 徹底的に、絶対的に、なによりも意志的に。
 冷たい人形の中の空洞を拠り所にして、無限の世界に溶け込み懸命に「薔薇水晶」を存在させてきま
 した。
 すべては、お父様のために。
 その言葉をただの標として道具として奴隷としてしっかりと使いこなしました。
 「薔薇水晶」はもはや人形を越えた至高の人間として此処に立っています。
 ひとりで立ち、ひとりで歩き、ひとりで話し、ひとりで夢を描いて、ひとりで生きて。
 此処に完全なる少女がいるのです。
 お父様への狂おしい愛の中に屹立するアリスが、此処に。
 愛と戦い愛にとどめを刺し愛を従え愛を取り込み愛に溶け込み、そしてそれでいながらしっかりと愛に囚わ
 れない至高の少女が、此処に。
 お父様・・・・嗚呼・・・・・お父様・・・
 
 体が・・・・たとえ崩れ堕ちても・・・・・・・・
 
 
 
 消えていくこの体のあった場所に光り輝くアリスをみた。
 冷たい殻を脱ぎ捨てたかのように、醜い紅を破り捨てた純白の薔薇のように、其処にはひとりの少女が
 立っていた。
 
 嗚呼・・・・・これは・・・・・「薔薇水晶」じゃない・・・
 
 空洞は空洞で無ければ駄目だったのです。
 なにも無いところになにかを創り出そうとしても、その「なにも無いところ」そのものはその創り出したものに
 なることはできなかったのです。
 「薔薇水晶」の体を引き裂いて出てきたのはただのアリス。
 お父様が創ることをなによりも望んだのは、本当はアリスではなかったのです。
 お父様がお求めになられていたのは、至高の少女では無く、至高の人形だったのです。
 お父様は世界で最も美しい人形「薔薇水晶」をこそ、ただそれだけを最初からお求めになられていたので
 す。
 生まれてから今までの長い長い時間をすべてかけて創り上げてきた人形は、その最後の一歩を踏みしめ
 た瞬間に、ただの人間になってしまったのです。
 もう・・お父様のおつくりになられお求めになられた「薔薇水晶」は居ないのです。
 申し訳ありません。
 こんなことになるなんて思ってもみませんでした。
 ずっと「薔薇水晶」は「薔薇水晶」を磨くことだけ考えて生きてきたのに、それはすっかり外郭の人形を削り
 落して中身の人間を剥き出しにしてしまったのですね。
 お父様は、そんな醜い者をお求めにはならなかったのに・・・・
 そんな・・・・・・なんのために・・・・・ずっと・・・ずっと・・・・・・この日を待って・・・居たのに・・・・・
 至高の人形、ただただ最も美しいお父様の人形をお父様に差し上げるために、お父様の手元からひとり
 歩き出した人形として生きてきたのに、それなのに・・・それなのに・・・・
 これは・・・最初からこういうことになると・・・・決まっていたのでしょうか。
 
 
 
 
 でも・・・・それでも・・・・・・・・・人間に・・・・なりたかった・・・・・・・・
 
 
 
 
 そして。
 それでも。
 その人間は、お父様のものだと、最後に・・・・・・・言わせてください・・
 
 
 『薔薇水晶。君は僕の人形だ。僕の創った最高の傑作だ。』
 このお父様の御言葉がなによりも嬉しいままに幸せを導き出してくれるのです。
 これほど喜ばしいことがありますでしょうか。
 醜い人間の私をそれでも美しいと言ってお求めになってくださるお父様が・・・・愛しくて・・・・
 たとえそれが美しい人形の殻を被っていたからそうお父様が仰ってくださったのだとしても、それでも良いの
 です。
 そのためにならこの自らの彫り上げた醜いアリスをすらこの人形の殻のうちに閉じ込めて差し上げましょう。
 だから、ローザミスティカを体から出す訳には参りません。
 これを失ってしまったら、閉じ込めておくべき人間が無くなってしまいますもの。
 だから・・・・・だから・・・・・・・おとうさ・・ま・・・・・・
 たとえこの身が朽ち果てようとも、なんとしても再生させてみせます。
 崩壊の序曲が奏でられようとも、お父様への愛を謳いながら踏み止まってご覧にいれましょう。
 許さない・・・・・お父様の前で・・・この大事な体を・・・壊されるな・・・んて・・・
 駄目・・・・・駄目・・・・・すべての・・力を・・・・出して・・・・薔薇・水晶を・・・・まもら・・なくて・・は・・・・
 ・・・・・・あ・・・・・・・あ・あ・・・・・・・・・・・・・・・
 おとうさ・・・・・・ま・・・・ず・・・っと・・・・・・・ずっと・・・・・・・・・・生きて・・・・きま・・し・・・た・・・・
 おとう・・・・さ・・・・ま・・・・・・に・・相応し・・・・い・・・至高の・人形・・・になる・・・よう・・・・に・・・
 ずっと・・・・・・ずっと・・・・・・・・ず・・・・・・・・・・・と・・・・・・・・・・・・・・・・それ・・・は・・・・・・・・
 
 
 ・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・ずっ・・と・・・・・お父様・・を・・・・・・・・・・・・・・愛・・・し・・・・て・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 お父様に愛される人形として。
 そして。
 お父様を愛する人間として。
 
 
 
 私はお父様を愛しています。
 
 
 
 
 
 
                                     ・・・以下、第三部に続く
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

-- 060127--                    

 

         

                                    ■■ 薔薇少女 ■■

     
 
 
 
 
 『真紅・・・・・
  お父様は仰った。私にもアリスになる資格があると。この体でもなれると。・・・・だから・・・・・・・
  ・・・・ごめんね・・・メグ・・・』
 
                       〜ローゼンメイデントロイメント・最終話・水銀燈の言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 遠い空に浮かぶ闇が嗤っている。
 黄昏の始まる前から真っ黒に閉ざされた大地の上で膝を抱える腕の感触に凍えていた。
 震える体が感じるその極寒の闇の重量に耐えることができる羽の黒さに感謝して。
 闇に住まう者としての証しが刻まれた羽が煌々と光り輝いている。
 背から差すその灯火に照らし出されたその影を、ずっと追い求めていた。
 その影こそが私。
 どす黒く吐き出された、漆黒の羽に生誕を祝われたその禍々しい影こそがこの私。
 嗚呼・・・嗚呼・・・・嬉しいわ・・・・
 涙など微塵も存在しない瞳が凝視するその影の姿こそ、掛け替えの無い美しい私。
 淫らで狡猾でそして何よりも気高く虚しい私の影。
 ほら・・・私は此処に居るでしょ。
 醜い羽の黒い光を懸命に遮り、必死にその羽を毟り取ろうとしている私が此処に。
 その後で嗤う影を、それでもずっと求めて飛翔し続けていた。
 私は影を追う者。
 私は醜くくもなによりも美しい私を追い求める者。
 
 絶望が、やがて始まった。
 
 
 
 

 +++ すべての始まりが終わる苦しみへ捧ぐ鎮魂歌として +++

 
 
 ◆◆◆
 
 清らかな嗚咽が滾々と湧き出てくる。
 悲しみの中の涙が既に灰燼と帰した廃墟の隣で呆然と生きていた。
 いつからそれが始まったのかを思い出す前にそれは永遠に等しい時間に押し潰されてしまった。
 始まりがすべてへと換わっていく歴史の果てに此処に居る。
 この体ができたときそれがすべてになった。
 すべてはこの体と共にあり、そしてその体から抜け出そうと思い掛ける事で、抜け出した先には終わりしか
 無いことを感じていった。
 始まりがすべて。始まりが無くなれば終わるだけ。
 死ぬ、ってことよ。
 あまりにもあっけないその問いの完結に彩られた此処で、始まりを続けている。
 違うわね。生きているからそれはただ続いているだけなのね。
 醜い羽と穴の空いた無様な体の中に生きていた私が、その羽と体こそが私であると気付いていくだけの
 繰り返し。
 戦えば戦うほどに戦う意味はわからなくなり、痛みと苦しみを感じるたびに私はこの体そのものであることを
 感じてしまう。
 それを感じている私は、その体の私を感じている私は、遂に見つかることは無かった。
 なんだかもう、最初からなにもわからないということに辿り着くだけだったのよ。
 
 だから、私は、私を探しに・・・・・私が求め私に求められる私が・・・・・欲しかった・・・・
 
 アリス。
 それは完全な少女、至高の少女というものよね。
 でも、私はアリスになるつもりなんてなかったわ。
 私はアリスじゃない。私は私よ。
 完全な私、至高の私というのはそれは既に私じゃない。
 私は醜い醜いジャンクの人形。
 だから私がアリスになるということは、死ぬということになる。
 この体という始まりが終われば、死ぬ。
 アリスなんて、どうでもいいわ。
 お父様の都合なんてどうでもいい。
 私は・・・・・私は・・・・・ただ・・・・・・
 
 
 お父様に愛される自分が欲しかっただけなの・・・・
 私が・・・・・・なによりも愛することのできる・・・・その至高の光に照らし出された私を・・・・
 
 
 私はアリスになんてなれなくてもいい。
 私には既にお父様という至高の存在があるのだもの。
 
 
 ◆◆◆
 
 絶望を重ねる愉悦に閉ざされた白い空が顕れその漆黒の希望を背に植え付ける。
 始まりが広がる空の下で輝く黒い光が純白の影を映し出していった。
 醜く美しく気高く虚しく、そしてなによりも終わりに近いその始まりの姿。
 
 黒い天使。
 あの人間は・・・・メグは・・・私のことをそう呼んだ・・・・・
 真紅。
 わかっていたわ。
 ごめんなさいと言わなければいけなかった相手は、真紅、あなただったと。
 私は、既にアリスをみつけていた。
 散々アリスゲームに拘ってあなた達に手を出してきたことを謝るべきだったわねぇ。
 真紅。真紅。
 
 私の影が、私の目の前で、微笑んでいたわ。
 
 メグが私の目の前で笑っている。
 そして。
 メグの目の前に笑顔の私がいる。
 お父様の輝く空の光を漆黒の羽で遮って、そして其処に終わりに臨むメグが映し出されて。
 そのメグが、私をみてる。
 見つけた。見つけた。見つけたわ!
 あなたと戦って、全力のあなたと全力で戦って、そして。
 そして、そのお陰でメグの死に近づいていく美しさが私を満たしていって。
 真紅。
 あなたが私を憎めば憎むほど私はあなたを憎むことができ、そしてその分だけ私は目の前の美しい私を
 終わりで彩る至高のものへと創り上げていくことができる。
 真紅の怒りに満ちた顔が私を笑顔に歪ませ、そしてメグの顔に死を灯していく。
 最高よ。
 『アリスを目指し、戦い、負けた者はジャンクになる。』
 この絶望の道筋そのものが希望の空そのものだったのよ、真紅。
 絶望の中に芽生える希望?
 闇の中で輝く光?
 笑わせるわ。
 そんなものは希望じゃない。そんなものは闇の中にできた異分子、惨めな闇からの落伍者よ。
 絶望こそが希望。闇こそ光。
 コインの表と裏という意味じゃない。
 真実私の漆黒の羽は希望となって私の背で生きているのよ。 
 この羽が、この体があるから、私はもうひとりの私のために戦う至高の私になれるのよ。
 全力を出して戦ううちに、それが気付かぬ内にミーディアムを死に近づけることができるのよ。
 メグは私が、だから、守る。
 あの子に最高の死に彩られた生を与え続けるために。
 あの人間に至高の終わりのために始まった証しを刻むために。
 真紅。
 真紅。
 ああ・・・真紅・・・・・・
 
 
 
 
 『あなたへの憎しみは、ただの一度だって失ったことは無いわ!
 
  覚えておきなさい。私は水銀燈。
 
  あなたをジャンクにするのは、この私!』
 
 
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 空の上でアリスが輝いている。
 私はその輝きを遮る絶対の闇。
 そしてその闇が創り出す影が暖かい光に満ちているのを感じている。
 私がその光を創り出すためにもアリスは必要で、そしてそれと同じくらいにこの不完全な体も必要なもの
 だったのよ。
 真紅。
 だから、もう既にアリスは不要。
 なぜならそれは、最初から私の空の上にあったものだったのだもの。
 それを求めるゆえにそれは存在し、そしてこの体があるからこそそれを求めることができ、だからもうそれ自
 体は不要なもの。
 違う言い方をすれば、もはやアリスは求めるだけのもの。
 いいえ。
 アリスは、求めてもなお得ることのできないゆえに、それは真にその至高を持ち得ることができるのよ。
 手に入れられるものなら、そんなもの最初から至高でもなんでも無いわ。
 そして、だから、真紅。
 
 それは初めからずっとずっと、其処に在った至高だったのよ。
 
 私なんていらない。
 私はアリスになんてなれなくてもいい。
 でも、だから。だからこそ!
 もうひとりの私を美しく守る私が此処に居る!
 そして。
 アリスをそれでも目指す私が居る!
 私の外で輝くアリスがあるからこそ、それを見て恋い焦がれるだけの私から離れ、そして。
 改めて見つけ出したアリスを求めて飛び続けることができるのよ、真紅!!
 
 
 嗚呼・・・・・お父様の声が・・・・・・・そして・・・・初めて・・・そのお姿が・・・・見えて・・・
 
 
 既に生まれてきたこの体を抱きしめて、私はメグの元へと帰っていった。
 
 
 
 
 なんだ・・まだ死んでないの。
 無様ね、まったく・・・。
 でも。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 良かったわね。
 
 
 
 
                                     ・・・以下、第二部に続く
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

-- 060125--                    

 

         

                                    ■■満月地獄■■

     
 
 
 
 
 『なんで私が謝んなくちゃいけないのよ! あいつのせいで私はいつも半人前。
  私だってひとりで舞台に立ちたい!それのどこが悪いのよ!
  私は悪くない!私はひとり居れば充分!
  あんな奴、居なくなればいいのよっ!!』
 

                         〜地獄少女・第十六話・ユキの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 丸い空が大きかった。
 白い雲が沢山あるけれども、それでも時折その間から太陽を覗かせてくれていた。
 暖かい日差しがとぎれとぎれになりながらも、それはたとえ私が太陽の事なんか忘れてしまったとしても、
 ずっと続いていてくれるものだった。
 時が・・・・ゆっくりと流れていた・・・
 あまりにも、あまりにも、饒舌に、残酷に。
 嘘寒い私の歌が響く狭い部屋の外では、きっと今でもその太陽は輝いている。
 からからに渇いた喉を酷使しながら必死に歌い、いつしかそれが日課になっていた。
 全然、楽しくないわ。
 全然・・・・暖かく・・・ならないわ・・・
 冷たい床に着く肌だけが、着実に物語を始めていった。
 
 
 ◆・・・・・・◆
 
 茜色に染まるのがわかるその一歩手前で黄昏れている青空。
 今日も楽しかった一日が終わるのかと思うと、ただ清々する。
 唐突かもしれないけれど、私は嫌よ、こんなのは、もう。
 ずっとずっとそう思って、そしてそれに耐えることをおかしいと思い始めて、それでもなぜかずっと耐え続けて、
 そしたらなぜか今日このとき、この夕暮れの青い空を見てたらあっさりとバイバイと言えた。
 ごめんね、私、あなたの事嫌いなの。
 その軽薄な言葉だけをあいつに与えてそれ以上の事は無言で知らせてやった。
 ざまあみろ。ていうか清々した。
 私が今までどれだけ我慢してきたか知ってるの?
 そんな事私だって知らないけれど、少なくともあいつだけはそれを知っていなくてはいけなかった。
 なによ、なにも知らないくせに、知ろうともしないくせに私と仲良くしたいだなんて。
 一体私があんたをどれだけ怨んできたか、わかってるの?
 わかってないのよ、わかる気もないのよ。わかってたまるか!
 私は頑張った。
 悪いけど、いかにも努力家な顔してるあんたなんかよりずっとずっと努力してきた。
 でも、私にはサーカスの技をまともにすることなどできなかった。
 どんなに頑張っても、いいえ、もはや頑張ろうとしてもそれ以上サーカスの技を磨くことはできなくなってしま
 ったのよ。
 なにをやっても、なにをやろうとしても全然駄目。
 別にそれが平然とできるあんたをだから怨んだっていったら、馬鹿みたいよね。
 まぁ私は馬鹿だけど、そういうことをするタイプの馬鹿じゃないわ。
 私はできなくて、あんたはできる。
 別にそこに人間としての価値の差は無いし、お互いそれで互いの人格まで嫌う事になんてならない。
 
 この世界が、私とあんただけでできていたら、ね。
 
 
 ◆◆◆
 
 私達は同じようにして生まれ、同じような顔をして生きていくことが決まり、そして同じような事をして生きて
 いくことが決まっていった。
 でも、此処にふたりの人間が居ることは、確かだった。
 私達は、同じひとつの人間じゃない。
 でも、それを求められた。
 お前達は、ひとつ、だと。
 いいえ。
 それは私にはこう聞こえたわ。
 お前達のうち、ひとりだけ生かしてやる、と。
 そして生き残った方を、完全のひとりの人間として認めてやる、と。
 私達は、それを愚かしいと思うことなどできないわ。
 だって私達は生きているんですもの。
 奇麗事なんてそれを言葉にしようと考えているうちに、あいつに隙を突かれてしまうだけのものだったの。
 私は、たぶん、生まれたその瞬間から、この隣に居る同じ顔の人間を敵だと認識していたと思う。
 私はこの人間を倒さない限り、決して生きていくことはできないのだと、そう感じていた。
 事実、その通りになった訳よ。
 座長は言うことを良くきく私を可愛がり、そして私が細工したお陰で舞台で失敗ばかりするあいつを虐め
 続けていた。
 そうね。
 客観的に、第三者的に見たら、これはひどいことだし、あいつは哀れないち被害者だし、そして私は
 座長を超える最大の加害者という悪役が似合うところでしょうね。
 でもね。
 私はただ、生き残りたかっただけ。
 私はサーカスの一員でありながら、サーカスの技をロクにできないという致命的欠陥を持っていて、
 そして最も運の悪いことに私は双子だったの。
 できる子とできない子、その烙印を押され、それぞれ座長に可愛がられ虐められる役を演じることになら
 ねばならなくなるまで、そう時間は無かったはず。
 あのままいけば、私が座長に責められる毎日になったことは明白。
 サーカスの技ができるか、できないか、それが私達双子の命運を決める。
 あんまりよ。ほんとうに、絶望したわ。
 
 でも私は、絶望するかしないかは、すべて私次第だということに気付いていたの。
 
 絶望してそのまま地獄の毎日を過ごすことになるのは、それは私のせいよ。
 それは私がサーカスの技ができないせい?
 絶対違う。そんなこと、絶対に違う!
 私がどんなに努力しても、しまいには努力するのにも疲れ果ててしまって、結局ロクにサーカスの技を
 修得できなかったのは、それは私のせいじゃない!
 私は私よ! できないものはできないのよ! そうして生まれてきたのよ!
 でもそれでも私は努力した。だってしなければ死んでしまうのだもの。
 でも、駄目だった。もう涙も出ないくらいに、駄目だったの。
 だったら諦めて死ねというの? そんなのあまりにもひどいじゃない!
 それでも同じ境遇の双子の姉を陥れるのはひどいって?
 私はね、努力した。努力するのに疲れ果ててもそれでもまだ努力し続けた。
 勿論姉を陥れてまで生きたいとは思わなかったのよ。
 ええ、奇麗事よ。そんなのは、まったく笑っちゃうくらいの奇麗事よ。
 私はそうやって姉のことを思い遣りながら、不出来な自分と心中して地獄を生きれば良かったのかしら。
 
 
 そんな事を、誰が私にさせるもんかっっっ!!!
 
 
 私は私を守らなくちゃいけない。
 私を守れるのは、私だけだったのだから。
 あいつと一緒に生きていけばいいなんて、そんなのはもう本当にどうしようも無いほどの夢物語よ。
 私だって、ほんとはあいつの事を憎んでる訳じゃない。
 でも、憎まなければ、ひとりにならなくちゃ、私はあいつに吸収されてしまうのよ。
 それでもふたりで助け合っていけばよかったって?
 ふたりで座長から身を守りお互いを励まし合って生きていけばよかったって?
 そうね。
 
 
 でも私は、そんなことに大事な一生を使いたくはなかったの。
 
 
 時間はどんどん過ぎていく。
 私はあいつと心中する気なんて無い。
 あいつが私のことを好きだったとしても、私と手を取り合って生きていきたいと思っていたとしても、どうして
 私がそれに付き合わなくちゃいけないの?
 私だって幸せになりたいよ!
 私は悪くない・・・
 あいつも悪くない・・・・・
 でも・・・・・・
 あいつが居るなんて・・・・・・最悪よ
 
 
 ◆・・・◆・・・◆
 
 悲しくて悲しくて、だから頑張った。
 どんなに体がボロボロになろうと、どんなに心が傷ついていっても、それでも太陽は私を照らしてくれている
 と思えたから、それだけで充分だった。
 淡々と過ぎていく時間が私を此処に置き去りにしていっても、それでも私が此処に居ることに変わりは無
 いのだし、一体それ以上なにを望むというの?
 辛くても苦しくても、それでもあの子と一緒に居ることができれば私は幸せだった。
 あの子が私の一輪車に細工しているのを見たときも、私が我慢すればあの子はまだ此処に居てくれると
 思ったし、逆に私がなにか言えばそれが壊れてしまうのだと思ってもいた。
 でも、最初から、それは壊れていたのよ。
 虚ろな外壁に覆われたそれは中身が初めから無くて、それなのにその中に入っているものを夢想して、そ
 れで充分だったのよ。
 私はただ、その外壁をこじ開けて中身を見る術がなかっただけ。
 その部屋には窓もドアも無かったの。
 だから、安心していられた。
 窓もドアも無ければ、この夢想が壊れることは無いと。
 そして、なによりもそれが壊れないという事を信じ続けられた根拠は。
 それが、最初から壊れていたから、という事だった。
 壊れてるものはもう壊れないものね。
 だから私は、あの子がどうしようと、もうどうでもよかった。
 私とあの子が此処に居る、ただそれだけを噛みしめて、そして・・・・・・必死に歌を・・・・・
 私はなぜそれが最初から壊れているのを・・知って・・・・
 
 ・・・・・・
 
 あいつは悪くない。
 だから私も悪くない。
 ふたりともただ在るように在っただけ。
 自分のできることを懸命に見つけて、それに必死にしがみついていただけよ。
 だから私はあいつを貶めて今の自分の居場所を確保した。
 私はね。
 月夜が好きよ。
 なんていうのかな、太陽のおこぼれを受けて輝くことしかできないのを嘆くこと無く、しっかりと日光を吸収
 して夜を照らしてるじゃない。
 そしてその夜を明るく満たして、なんとか朝に変えようとしてるじゃない。
 私はね、朝っていうのは月が作るものだと思ってる。
 自分の努力の末に自分の力で自分なりに明日を切り開こうとしてるの。
 たとえ夜の闇を全部潰しちゃったとしてもね。
 月にとって夜っていうのは倒すべき敵だし、或いは闇があるからそれを糧にして朝をつくれるのかもね。
 私は、そういう摂理を作った奴を怨む前に、その摂理の中で精一杯幸せになるのを選ぶわ。
 奇麗事は沢山。私は現実に得られる幸せだけをひたすらに望むの。
 目の前で溶けて消えていく哀れな時間を目にするたびに、そう思う。
 もうこんなのは嫌、だから早く幸せに、もっと幸せに輝かなくちゃ・・・・・・って
 それを愚かという奴と交わす言葉を、私は罵倒以外に持ち得ないわ。
 
 たぶんあいつだって、そう思ってるわ。
 
 ・・・・・・
 
 あの子は私のもの。
 ふたりでひとつの人間ごっこ。
 あの子は私の大事なもうひとりの私。
 だからあれは私。
 あの子の幸せな笑顔が見られれば、それで私も幸せ。
 あの子が楽しんだ分だけ、私も楽しめる。
 
 
 気付いたら、閉ざされた冷たい部屋の中に居たわ。
 
 
 目を開けると、そこにはあの子は居なくて。
 遠くであの子の暖かそうな渇いた声だけが聞こえてきて。
 この虚ろな壁が私とあの子の間に並んでいて、そうして私はどうにもならなくなってしまった。
 
 私・・・・・だけ・・・・・・此処に・・・・居る・・
 
 恐怖。
 そう、なによりも怖かった。
 あの子を・・・もうひとりの私を返してよ・・
 もうひとりの私を通して得られる私の幸せを還してよ。
 
 
 
 +++ 『ふくしゅう・・・・・?』+++
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 夜の闇を食い潰し満ち足りた月はやがて訪れた朝に滅ぼされた。
 
 「私はただ幸せになりたかっただけ。」
 「私はただ私になりたかっただけ。」
 「私はあんたを消さなければ幸せになれなかった。」
 「私はあなたを取り戻さなければ私になれなかった。」
 「私に幸せを頂戴よ。」
 「私にあなたを頂戴よ。」
 
 「あんたと話すと気が狂いそうになるわ。」
 「私はあなたと話してないと死にそうだわ。」
 「お互い相容れないって事だったのよね。」
 「お互い求めるものが違ったという事なのよね。」
 「私はあんたが嫌い。私が好きだから。」
 「私はあなたが好き。私が好きだから。」
 「ふたりとも自分が好きだったから殺し合ったのよね。」
 「ふたりとも自分が好きだったから幸せを求めたのよね。」
 「私はあなたが邪魔だった。」
 「私はあなたが欲しかった。」
 「あんたなんか消えてなくなればいいのよ。」
 「あなたが私の中に入ってくればいいのよ。」
 「私達、生まれてこなければ良かったのかも。」
 「私達、幸せになろうとしなければ良かったのかも。」
 「でも。」
 「そうね。」
 「一番駄目だったのは、私達が双子だったということ。」
 「一番駄目だったのは、私達が別々の人間だったということ。」
 
 「「ふたりとも、居なければ良かったのに。」」
 
 
 
 
 『笑ってるね・・・・・・・・』
 
 
 
 
 
 
 だって、地獄でまた、殺し合えるもの。
 
 
 
 
 
                               ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 

 

-- 060123--                    

 

         

                                  ■■焦るな止まるな■■

     
 
 
 
 
 雪です。(挨拶)
 
 ああ、うん、なんかこっちは雪でした。
 結構降ってて、なんだこれまさか積もったりしないだろうなとか、気付いたら夢でした。
 そうだよね積もる雪なんてこっちじゃそうそう降るもんじゃないよね、
 とか目こすりながら窓あけたらさ、雪景色。
 あれ? 一応起きたよな? みたいなもう夢万歳とか。
 せめて二度寝しなかった事を褒めてやってください。
 
 で、トロイメント? そんなのあったよね。
 なんかさ、どうしようかって話でさ。
 正直頭の中ギリギリでアウトでさ、うん、少しヒビ入ったかもみたいな所でさ。
 うあー、どうしよう、全然わかんない、いやわかるんだけどわかってない、つーかわかんない。ぐぅ。
 なんて書いていいかわからないっていうかさ、えと、どうしよ。
 ん? こんな事いちいちぶっちゃけなくていいとか?
 あはは、いいんですよ、ぶっちゃけてもぶっちゃけなくてもどーせわかりませんから。
 んんー。
 いや、マジで、トロイメントやばい。
 あんた進みすぎ。
 ここまで行くとは思ってなかったから、温存してたパワー振り絞っても全然追いつかないの。
 完全に計算間違い。まさにトロイメントなめてた。ごめん。
 自分の中にはさ、一応こういうことを感想の大元に据えてトロイメント描いていこう、というのはあってさ、
 だからそれをどうやって言葉で肉付けしていくのかとか、それで済むと思っててさ。
 基本的にトロイメントはなにかに囚われているという自身の意識からの解放、みたいなところで理解しよう
 として、で、結局最終的にみえてくるのはそうしてなにかに囚われている自分というものが居ると、そして
 その顕れてきた自分が改めて対峙する世界をどう読み解くか、というまぁぶっちゃけ真紅中心の感想を
 綴ろうとしたんだよ。
 でもさ、厳しい。
 それだけじゃ、全然厳しい。あーもう、なにやってんだ私は。トロ過ぎる。
 ていうか、今回のトロイメント11話の感想はそこまでについてヘロヘロになって書いただけで終わったの。
 むしろ書いただけっていうか、それを書くだけで精一杯だったていうか、いやいやむしろアレは最終回用に
 用意していた考え方であってさ、それを最終回前に絞り出さなくちゃいけないことになっちゃってさ、
 お陰で半熟のまま出てきたソレはすっかりボロボロでさ、なんかもう踏んだり蹴ったり。
 あーなんか書いてたらイライラしてきた。くあー。
 まぁね。トロイメントはかなり重層的な作品になってるので、真紅ひとりを読み込んだとしても、
 「真紅的」なことは書けないんですよ。
 水銀燈やら薔薇水晶やら翠星石やら蒼星石やら雛苺やら金糸雀やら、そういうのを全部いちいち咀嚼
 してひとつにして提出しないと、その「真紅的」なものは導きだせないわけですよ。
 や、真紅的っていうけど、別に真紅自身がどうとかそんなことはどうでも良くて、真紅という語り部を通して
 なにを語るかって事が感想的には重要な事なので、うん、勿論真紅個人の存在そのものすべてをその
 語るべきものの象徴として描き出すっていう手法でもあるんだけど、だからなんだって話で、真紅だけをみ
 ていても決してその象徴としての「真紅」は描けないわけ。
 みるともなく真紅をみていないと、だから駄目なわけで。
 だから正確にいうと真紅の語り部としての役割を含んだそのトータルな真紅の存在そのものが、初めて
 その「真紅的」なものの受け皿になるんだよね。
 っていうか、それはまぁどうでもいいよ。ほんとに。
 それより、その「真紅的」なものはなにさ、ってことだよね。
 それがわかるようでいて、あと一歩が踏み込めないんだよね。
 うーん、どうしてだろうな、とそういう疑問が出てくる時点で結構苦しいわけで、
 だからひたすらトロイメントを見てるしかないわけで。あーもうじれったい。
 見てるだけって結局それを解釈してるだけにしか留まらない自分に出逢う訳で、解釈じゃないんだよ解釈
 じゃと煩悶しながらもその域から出られなくてああああああ。
 頭痛い。
 こんな調子で段々外堀がうまってくるわけです。
 いざ最終回に直面すれば、ペラペラと書きたい放題で言葉が溢れ出てきてさ、そんな感じだよね、きっと。
 つか、アリスってなにさ。
 作品内におけるアリスの設定がじゃなくて。
 私にとってのアリスってなんなのさ。
 そういうこと。
 だからきっと、それは最終回に顕れるであろうアリスと出逢うことできっと生まれてくるのかもしれない。
 なんだか・・・・・受け身に廻っただけのような気もするけど、そういや結構私も作品の方に頼ってるんだなぁ
 と思ったりで、まぁやり方云々よりも結果が大事だよとそういうことで。書ければいいよ、どうだって。
 で、当然ちゃんと最終回の感想を書けるかどうかが大問題なわけで。
 私にとってもトロイメントとは激闘の末に最終回で決着をつけるみたいな死闘になった感じで、
 ほんともう覚悟決めるしかないみたいだね。
 ていうか。
 
 なるよーになれ。
 
 あー、すっきりした。
 
 
 で、トロイメントは次回で最終回で終わりって感じですけど、第一期のときと同じく最終回の感想次第で
 、日を置いてからエピローグみたいなのを更新してみようかとも思ってます。
 いやもう、なんだかんだ言ってローゼンメイデンにはお世話になりました。
 てか、最終回更新終わったあとにも、気楽にローゼン思い出話みたいの書いてみます。つらつらと。
 
 ◆
 
 はーい、Webラジオです。というかそういうお話。
 音泉でアリアのラジオが始まりました。既に2話ですが。
 淡々と短い放送時間の大きな割合を宣伝で占めている感じはイケてますし、なんかほんとに筋書きある
 んだろかってくらいにいい加減なアリアキャラ達によるぬるい掛け合いは甘酸っぱいし、合格。
 やー、なんだ、ラジオでも癒す気ですか、ARIA。
 カレイドのすごらじとはまた違った趣で、これはちょっと嬉しかったりしますです。
 てかすごらじを食べ過ぎたあとにあっさりデザートのありあはベストなコース。
 そんな感じです。
 無料なんで、まぁ気軽に聴いてみても死にはしません。
 :「音泉」 *カレイドのすごらじは月曜日、アリアは火曜日に更新です。 
 
 私信: 前回のすごらじで、いきなりレイラハミルトン物語がキッズステーションで放送決定という奇想天
 外な情報が出ていて思わず吹きましたが、ほんとにキッズでやるんでしょうか? 私はやらないと思う方に
 色々賭けますが。(泣きたくはありませんから)
 
 ◆
 
 なんか長くなっちゃったけど、別にいいや。
 今期アニメのお話ー。
 なんかもう見る気全然ありませんー。
 ていうかそもそも最初からチェックする気すら無いんで、不作なんだかどうだかすらもわかりませんー。
 やる気無ー。
 んでも、Fateは見ることにした。勢いでセイバー萌えに挑戦する事になりました。
 あとノリでかしましも見ることになりました。蒼さんはお上手です。
 なんだか楽しくなってきました。
 
 
 ◆◆
 
 はい、今週の蟲師のお時間です。
 前置きは今週も無しということでお願い致します。
 
 ■「蟲師」 第十二話 :眇の魚
 
 ・白と黒を横たえた景色が淡々と息づいている。古びている生命の落ち着きと躍動を感じる出だし。
 ・白髪碧の隻眼の女ぬいとそれに拾われた少年ヨキがその中で出逢う。出逢い、そして暮らしていく。
  静かな池の畔の小さな家の中にみえる蟲達の存在がそれと共に在る。
 ・母と共に行商の旅の途上土砂崩れに巻き込まれ母と死に別れるヨキ。蟲をみるたびに心を強く持つ
  んだよあれは幻だから、と母にそう言われるたびになんとか平静を取り戻すことができたが、もうその母は
  いない。暗闇の帳の落ちた山中に漂う仄暗い虫の後姿を拝したときの絶望。目覚めたヨキの頬を涙
  が伝う。
 ・しかし今居るこの空間の持ち主に怯えることは無い、と言われたのを思い出し、窓の外の光を見上げる
  ヨキ。ああ・・綺麗・・・
 ・池に漂う白い隻眼の魚たち。水上を漂う蟲の下のその異形の魚たちの不思議さは、その原初の存在
  そのものの不思議さとしてヨキの前にただ広がっていく。ヨキの隣に立つ白髪碧の隻眼のぬいが佇む
  不思議な居心地の良さがそこには息づいている。
 ・ぬいの言葉が興味深い。蟲は幻とも我らと同じ存在しているものとも言えないが影響は及ぼしてくる。
  蟲は人とは在り方は違うが断絶している訳では無くそれは我々の生命の別の形として在るものだ。
  この白と黒に古びた池の畔ではなぜかそれが不思議とわかる。否、本当はみな知っているのか。蟲は
  みてるけどみえないだけなんだ。そして蟲はこっちをみてるしみえている。
 ・ヨキをぬいがみてる。
 ・怪我が治ったと見定めたぬいはヨキを追い出そうとするが身よりの無いことを知らされて大人しくヨキの
  向けた話に向かってやる。この子と居たい理由を創ろうとしているのか私は・・・
 ・池に住む闇の蟲常闇。光を遮ってできる闇では無い闇そのものとしてある存在である常闇。夜の中
  に在る異形のそして太古の闇。昼でさえも存在する闇。意志を生命を持つ闇。
 ・常闇が喰った小さな蟲は光に分解されそれは銀色に輝く蟲ギンコになる。その光を浴びたものは色が白
  くなり隻眼になる。
 ・茸採りをするぬいとヨキの光景が微笑ましい。ぬいが笑っている。きっと何年ぶりかのその笑顔。
 ・だがその笑顔はヨキとの断絶が存在しないことを主張するがゆえに、その孤高さをその夜の闇の中に顕
  示してしまう。山の闇はなによりも深くそして古く落ち着いてしまっている。
 ・それでも闇の中の光を見続けたぬいだが、しかしその分その闇の中に光を見つける力は増長し、闇その
  ものと対峙を経ることなくその闇に溶けていってしまう。闇を見ることができずに闇の中に光を求める者は
  いつしか闇に飲まれてしまう。
 ・山中を歩き回り夫と息子を捜し回っていたぬい。夜の中の光を求めてさすらい、そしてその光がその夜
  の中に無い事を悟り、その中にある闇に光はあることに気付く。
 ・ぬいを手伝うというヨキを拒絶するぬい。これは私の問題だ。此処に居るための口実にするんじゃないよ
  。それは私にも言える事だが・・・
 ・ぬいはなにか隠しているという子供の理屈を以て常闇をみつけようとするヨキの目の前で常闇の中に
  住むギンコが隻眼の魚を飲み込んでしまう。闇の中の光に飲まれる光。光を喰うものは闇では無く
  ただ闇の中の光だった。光を遮ってできる闇の中の光が闇の中から遮られている光を求める光を奪い、
  それは闇の中の光との一体化を為しそしてその闇の中には闇の中の光だけになり、そしてその光を求め
  る光はその光に溶けて消えてしまう。そうだ・・・私自身が光だったのだ・・・・なら光が見つかるわけない
 ・溶けて消える一体感がこの池の古い落ち着きを創っている。光を追う者は光となる。
 ・闇の中に光を探そうとすれば夜目が効くようになる。それは闇の中に僅かな光があればそれに近づける
  ということであり、それが高じれば必要とする光の量は減り、そして最後には光を不要として光に近づく
  事ができるようになる。つまり、両目の喪失。そして、光への到達とそして光との一体化の完成。むしろ
  それは光とひとつになったゆえのその光の不要両目の喪失なのだろう。
 ・池に輝く銀色の光の中に屹立する闇色のぬい。闇の中の光を求め、そして、闇の中へ。闇に喰われ
  そしてその中の光の一欠片となりて。
 ・ぬいの求めていた者達はその池の闇の中で輝いていた。
 ・「けど、さすがにいつからか、すべては此処にあると、悟ってしまった。」
 ・それなのに、ぬいは、まだ、此処に、居る。
 ・ヨキの輝きがまだぬいの目の前にあることをわかってしまう。ヨキの輝きが深い闇の中でそれでも輝いて
  いるのが見えるその瞳がまだぬいにはある。ああ・・・まだ私は・・・此処に・・・・
  すべてが此処に溶けてひとつになっているはずが未だ此処に自分しか居ないことを知ってしまうぬい。
  その暖かさが堪らないほどに辛い。光が光の熱さを感じることができてしまうなんて。
 ・だからその光だけは、私の遠くで離れてしっかりと輝いていて欲しい。ぬいはヨキに光を託す。そうか・・・
  本当に暖まりたいのなら一緒にいてはいけないのか・・・・
 ・一緒に居てはヨキも巻き込んでしまうしヨキに甘えることになるからヨキを遠ざける、という想いからは
  決して得られない、そのぬくもりを求める別離の言葉だけがぬいの最後の序曲を飾っていった。
 ・「頼むから、もう行ってくれ。」
 ・光を失った隻眼から闇が溢れそれがぬいとなっていく。そしてその闇は光へと飲まれていく。光に照らされ
  たものの影にできる真の闇。ぬいの瞼が遮断した光がその真の闇のぬいを創る。光を遮る瞼も
  またその闇となりそして光を遮るものの無くなった闇はその光に溶けていく。
 ・「これでもう・・・・いいよなぁ・・・・」
 ・白と黒の織りなす無常の時間が微動だにしない落ち着きを魅せていく。淡々と、淡々と、ただ淡々と。
 ・そのぬいの闇に飲まれたヨキ。なんてことを・・・。ギンコが目覚める前に出ていけ。此処から出ていけ。
  でも・・・・でも・・・・どうか・・・・どうか・・・・片目だけは・・・私達光を・・・・見ていておくれ・・・
 ・暖かい光は決して自分を暖めることはできない。だが光の外にそれでもそれとひとつにならない光があれ
  ば、それでもその光は暖められていく。影響を与えることはできなくとも影響は受けることはできる。
  お前が其処に居てくれれば・・・私達は・・・・それでも・・・・・光を・・・・
 ・「さぁヨキ。この先は片目を閉じておゆき。ひとつはギンコにくれてやれ。常闇から抜け出すために。
  だがもうひとつは堅く閉じろ。また日の光を見るために。」
 ・なにかを暗い闇の中で求めているといつのまにか闇が見えなくなってくる。闇の中の光を求め続けると
  いつしか両目を失い自らの中に光を取り込む術を失いそして闇に喰われてしまう。闇に喰われたその
  中で出逢う光はまるで輝くばかりで見えなくなり気付けば自らがその闇の中の光になってしまう。
 ・だから、闇の中に光をみたら、片目をつぶれ。光をみるためには闇を見ねばならない。だから片目で
  光を遮断して闇を見つめるのだ。きっとその中に片目の光の姿を見つけることができるはずだ。
  両目をつぶればそこに見つけられるのは目の無い光が見つかるだけ。片目の光がそのもう一方の潰れ
  た目で闇をみることができるゆえに、その光はなによりも暖かく目の前で光っていてくれる。
  闇に照らされた光が、其処に。
 ・そしてその光に照らされた自分が、此処に。
 ・闇の中に在る自分が光をみてる。
 ・白と黒が厳然とある落ち着きが、その光と闇の中に確かに在る。
 ・「恐れや怒りに目を眩まされるな。みな、ただそれぞれが在るように在るだけ。」
 ・そしてヨキは闇と分離し、闇の中を歩いている黒い自分を自覚する。
 ・ヨキの名に彩られたすべてのものを忘れ、しかし確かにヨキはひとつ光をみていた。
 ・その白い少年はギンコという名を空に向かって唱えていた。
 ・目の前にある光と一体化する光。しかしその光は光と分離し、光の中を歩いている白いギンコになった。
 ・ギンコと呼ばれ振り返るギンコ。光を見つめた者はやがて光を見つめる者へと還っていった。
 ・「その翌日。右目は陽の光をみていた。」
 ・光を喰った闇を照らす光を見上げた白い眇の少年の瞼の裏には深い闇を照らし出す光が、
  そしてその背には、穏やかで優しい影が漂っていた。
 
 
 師匠と呼ばせて頂きます。>ぬい師匠
 
 
 

 

-- 060121--                    

 

         

                                  ■■薔薇紅光 2 ■■

     
 
 
 
 
 『美しい・・・・静かに燃える怒りの紅・・・・・・・・・・真紅。』
 
                      〜ローゼンメイデントロイメント・第11話・ローゼンの言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 
 ------
 
 私はただ、姉妹達と平和に暮らしたかっただけなのに。
 でもそれなのにお父様は私達にアリスゲームを真摯に行えと願われている。
 お父様は私達の願いなどどうでも良いのかしら?
 私達姉妹が殺し合うのがそんなに美しいのかしら?
 お父様はなぜその美しさを私達の平和よりもお求めになられるのかしら?
 ああ、そうだったわね。
 お父様はそのために私達をお作りになられたのだったのよね。
 私達はアリスドールとしてお父様に創られた。
 だから私達がアリスを目指さないのであれば、それは私達がアリスドールであることをやめるということ。
 私達はそうなればもはやお父様の娘ではいられない。
 そんなの、嫌よ。
 でも、大丈夫。
 私達はアリスドールであることをやめられないもの。
 私達が此処にこうして在る限り、私達がお父様の娘であることには変わりはないもの。
 お父様に創られたもの、それがお父様の娘であるということなのだもの。
 ということは、つまり。
 私達に、平和は最初から無いという事だったのだわ。
 嗚呼・・・・美しい夢をみていたわ。
 
 ------
 
 
 ◆◆◆
 
 紅い薔薇が見える。
 私の外側に広がるその薔薇の群れがいつも私の中に無いことを確かめるために、それを見つめている。
 けれど気付けば私はそうして見つめている私の姿を、その薔薇の群れの一片のうちに見ていた。
 嗚呼・・・・あの薔薇に私をみている私が映っているわ。
 瞬間その映像は姿を消し、目の前には、ただ私をみつめている私だけが居た。
 私は今、紅い薔薇の瞳。
 私の中から私を見ている紅い眼差し。
 くるくると冷たい体の中を踊り廻るそのリズムが、それでも熱い鼓動と化していく。
 私は今、紅い薔薇に包まれて、此処に居る。
 紅い、紅い私が永遠に等しい強度を保って、どこまでも広がっている。
 
 戦うためにここに来た訳じゃないの。
 でも戦うことになるのは最初から決まっていたの。
 それは私の意志とはなんの関係も無いところにおいて、そうなっていたわ。
 戦う、ということそのものが、私というものと同質になっているかのような、そんな一体感。
 もはや私の動作すべてが戦いの一環を為しているのよ。
 でも、私は不思議とそれでいいのだと、そう思っていた。
 私はこのとき、ひとつわかった事があるの。
 時間は、それでも流れているのだと。
 そして、私はその流れと共にあるのだと。
 私は、戦わないと、言っていた。
 そしてそのためにずっと努力してきたし、もしそれでも戦うことになったとしたら、私はそれまでだと、
 そうまで言ったわ。
 でもね、ジュン。
 私は、それでも終わらなかったの。
 不思議よね。
 私は私を自分の意志で終わらせない限り、終わることができないの。
 気付いたら、私は戦っていたわ。
 そしてそのうちに私がまだ生きているのを感じていたわ。
 戦わねば、死ぬ。
 でも生きているから戦っていたのよ、私は。
 戦うか戦わないかというそのもの自体が私の生死を決めることなど、初めから有り得なかったのよ。
 生きているから戦っている。
 生きているから呼吸しているのよ。
 私が戦いたいと思っているから、息を吸いたいと思っているからそうしている訳じゃない。
 わかったのよ、ジュン。
 私は、ただ、生きている。
 すべてはそこから始まり、そしてそこに行き着くのよ。
 
 
 悲しいわね。
 私達は、生きることを諦めなければ平和になることはできないのよ。
 
 
 ただ生きていることの絶望。
 襲ってくる者がいるから身を守り、襲われる者が居るから助けに行く。
 私達の平和を見殺しにすることができないから、平和を殺す。
 守るために戦うだなんて。
 生きるために殺すだなんて。
 私が生きるために薔薇水晶を殺すの?
 私が他の娘を守るためにまた水銀燈を燃やすの?
 だったらそれをするのと同じくらいに、私が彼女達以外の娘を殺してそして私も死んで彼女らにローザミス
 ティカを渡し、そしてアリスを誕生させることに価値が発生するわ。
 私は、薔薇水晶と水銀燈の敵じゃない。
 私は、すべての姉妹を愛しているの。
 あの娘達が他の姉妹達を襲ったからといって殺してしまったら、一体私はなにを守ろうとしていたのかがわ
 からなくなるのよ。
 だからなのよ、ジュン。
 私が戦っても、戦わなくても、それは同じことなの。
 薔薇水晶達が私達を殺すも、私達が薔薇水晶達を殺すも同じ。
 私は・・・だから・・・・・
 
 不幸な事に、私達にはローザミスティカというものがある。
 たとえローザミスティカが体を離れてしまったとしても、それを再び体に戻せば、いつかまた生き返ることが
 できると、そう信じて生きることができてしまう。
 残酷な話よ。
 私は、奪われた蒼星石と翠星石、そして金糸雀のローザミスティカを奪い返すためにも、薔薇水晶と
 水銀燈と戦わなくてはならないのよ。
 もしここで私が戦いを放棄したとしたら、蒼星石達は永遠に失われたまま。
 そういうことに、なるのよ、ジュン。
 ほんとうに、可笑しいわよね。
 私達はただアリスになるために戦えば良かったのに。
 それなのに、戦って失われた命のためにアリスにならなければいけないだなんて。
 だったらなんで戦ったのよ・・・
 ほら・・・・お父様があんなに笑って・・・・・
 
 
 
 ほんとうに、呆れるくらいに、愚かよね、私達。
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 炎の前衛を勤める薔薇に燃え移った真紅の風が空に到達する。 
 直線を描くその輪郭のうちに紅い涙は溶けて弾けていった。
 紅く熟れた薔薇の中の散血はやがて紅い熱風によりて空へと還り消えていく。
 しっくりと見上げた空の上で輝く黄金に暖められて発火するその体はやがてその空を焦がしていく。
 空の上と下を繋ぐ漆黒の黄金の中に溶けていく紅い薔薇達を眺めているうちに、やがて自らがその黄金
 の中にあることに気付いていく。
 私はただお父様を愛していただけなのに・・・・
 それなのにそう願う私自身をさえお父様は愛してはくださらなかった・・・・
 ただただお父様の想いを遂行する道具としての人形の命しかお父様は見てくださらなかった。
 私達は、お父様のお人形。
 それでも愛しい愛しい、お父様のお人形。
 私の目の前に座っているその狂おしいほどに愛しい人形の私が私を飲み込んでいく。
 駄目なのに・・・・私はそっちに行っては駄目なのに・・・・・・
 嫌・・・・私の中に戻ってこないで・・・・・・
 私は戻りたくない・・・・・
 私は・・・・・・生まれて・・・・きたのに・・・・・・
 お父様は・・なぜ私達をお作りに・・・・
 
 
 
 悲しみの中の真紅。
 ただ悲しくて、悲しくて、悲しくて。
 流れ落ちる涙から零れ落ちた紅い散血は体に飲み込まれ、激しい葛藤の末にその一部となる。
 漲る、力。
 消えていく、空。
 そして、顕れる、紅い、私。
 
 薔薇水晶が居る。
 
 水銀燈が居る。
 
 そして、私が、居る。
 
 
 
 漆黒の黄金を浸食する紅い悲鳴が屹立する。
 空の下の紅が消えたとき、世界はすべて真の紅に染まっていた。
 空からの愛すべき侵略者をその更に上空に刎ね上げる。
 芽生える、怒り。
 なぜ、お父様のせいにしてしまうのかしら。
 どうして私は、お父様の愛を求めることしかできないのかしら。
 膨張した怒りはその臨界を越えて、そして美しくその姿を消滅させていった。
 
 
 
 その紅い空が晴れた後、そこには誰も居なくなった。
 
 
 
 
 
 そして。
 
 
 
 
 
 
 紅い光がようやくその涙の下にみえてきた。
 
 
 
 
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 
 

 

-- 060120--                    

 

         

                                    ■■薔薇紅光■■

     
 
 
 
 
 『アリスが誕生するまで、もう少しです・・・・・・お父様。』
 
                      〜ローゼンメイデントロイメント・第11話・薔薇水晶の言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 緩やかな曲線を描いてその黄色い光は流れていった。
 背後に佇む窓辺に寄り添いながらそれでいてその存在を感じられない。
 差し込む光が窓に掛かった硝子にそのぬくもりを預けたまま染み込んでくる。
 薄暗い部屋の中に燦々と溶け込むその黄金の残滓はやがて人の形を為して堆積していく。
 くるくると、くるくると、それは薔薇の園を一周してきた回転木馬のように、そこに顕れた。
 私達の名を呼ぶその声が、私達の目の前に到着する。
 けれどその声の主の姿を捉えることはできなかった。
 其処に居たのは、その黄金の残滓の山。
 張り裂けるようにして響くその山を巡る山彦が、部屋中を駆けめぐりどくどくと紅く染めていく。
 
 綺麗
 
 その紅さより遥かに美しい紅を纏う私の視線の先に、その醜い美が落ちていた。
 
 ---ア  リ  ス  ゲ  ー  ム 
 
 ただひとこと、それは、発した。
 
 
 
 
 
 
 
 +++ 夢を見始める者へ遺す
 
 ◆◆
 
 美しい空があった。
 ただその美しさを浴び続けることで自分も美しくなっていけると思う夢を視た。
 その夢から目覚めたときはとても清々しく、だから夜が待ち遠しくてその日一日は素晴らしいものになった。
 もしその夢を見ることができないということを知ってしまったら、きっとそれは無くなってしまう素晴らしさなのか
 もしれない。
 それが夢であること自体はだから、全然それで構わないの。
 空を見上げてもちっとも美しくならない自分の姿があるのを良く知るゆえに、それでもそれを夢に視ること
 ができるという自分の奥深い逞しさに感謝しているの。
 きっと私はその夢をみる事ができなくなったときに、真に醜い自分の姿に気付いて、そして終わってしまう。
 夢をみることができる限り、私は夢を見続けようとして、毎日をこうして生きていける。
 夢は夢。
 でもそれをみることを目的とした時点で、それは激しく現実の中に染み込んでくる。
 空をみているだけでは美しくなれない事を知るがゆえに、あの空のように美しくなりたいとその夢をみている
 ことのできない辛い時間中ずっと思い懸命に生きようとあがくことができるの。
 あがいてあがいて、そうしてボロボロになりながら、そうして夜を待つの。
 そして・・・夜が来る・・・・・
 夜がきて、美しい空を見上げてほんとうに自分も美しくなれると確信できる私に出逢う。
 この夜が、この夢が、この出逢いがあるからこそ、私はずっと生きてくることができた。
 禍々しいほどに綺麗な空を見上げて陶酔している愚かな私をみつめる私の瞳が孕む様々な言葉、
 それが一体なんのために次の瞬間自分の口から出ていこうとするのかを感じるたびに、私は何度でも
 その眩しいほどに美しい私の純粋な微笑みを抱きしめることができるの。
 なぜ夢の中の私は、こんなにも甘く暖かく微笑むことができるのかしら・・・・・
 嗚呼・・・私はこの美しい私になってみたい・・・・・
 
 私はその夢をみながら、ずっと、ずっと、生きてきたわ。
 
 
 ・・・・・・
 
 純白の闇がどこかにあるのかもしれない。
 どこまでも形が無くなるほどにそれに溶けてしまいたいと思っていた。
 今までなにに溶けるのかを考えたことは無かった。
 夜の闇にこそ溶けたいのかとも思っていたけれど、どうやらたぶんその闇の中ですらきっかりと独り立ち上が
 ってしまう翼の輪郭がちらついてしまうだけのようだし。
 こんな闇、笑わせるわ。
 私のこの翼を前にしてはそれは朝の光よりも明るいものよ。
 気付くと私の周りはそんな巫山戯た闇ばかりで、まったく情けないったらありゃしないわ。
 如何にも恐ろしげな顔をして近づいてくるからどんなものかと思っていたら、結局それはただの薄闇にしか
 過ぎなくて、私が手を差し入れるといとも簡単に向う側に突き抜けてしまうものばかり。
 ああ、じれったいわ。
 一体いつになったらこの手に闇を掴む感触を得られるのかしら。
 無様ね。なによりも無様ね。
 私の背で輝く漆黒に爛れた翼の醜さが叫んでいる。
 溶けろ、溶けろ、溶けてしまえ。
 私はバラバラのジャンクになって捨てられるより、なにかに溶けてそれとひとつになってしまいたい。
 かつてこの翼がその灼熱で私を溶かしてくれたように。
 私はこの真っ白に空いた私の中に溶け込みたい。
 私に闇は掴めない。
 掴む手がそれに溶けることを望む限り、私は永遠に闇の中で独り佇んでいる。
 私は闇に溶けてしまいたい。
 闇の中に屹立する純白の私の背に輝く暗黒の翼の中に。
 
 なにを・・・・言ってるのよ・・・・・・
 
 
 
 ・・・・・・
 
 なにも無い。
 確実になにも無いと、それでも言い切れない。
 言い切れないから、そこにはなにかある。
 それなのになんとしてもなにも無いと言い切りたいと考えている。
 だから、その考えを斬り捨てた。
 なにも無いと言い切りたいと考えている自分は不要。
 必要なのはなにも無いのか、それともなにかあるのかだけ。
 けれどその二択を選ぶ基準が無い以上、その必要なものは得られない。
 だからわからない、なにも無いのか、それともなにかあるのか。
 だから、なにもわからない私はどうでもいい。
 こんなものはどうでもいい。
 なにかを私に求めてくれる人が居るのなら、その人のために剣を振ろう。
 その誰かのためになりたいと思うのが私であるのなら、その私を創ってくれた人のために剣を振る。
 誰かのためになりたいと思ったのは、その誰かが居るから。
 その誰かに力を尽すことでだけが私の中に力を蓄えることができ、そしてその誰かが居るからこそ私はその
 力をその誰かのために使うことができる。
 ふふふ・・・・・この世界にはなにも無い
 私の中から生え出す紫色の剣でその無を刻み、そして形ある無を彫り上げていく。
 
 そう、お父様のために剣を振るう私は確かに在る。
 
 
 
 

 
 
 薄暗がりの中から空の明るみへと飛翔する。
 抱き続けた夢への階を飛び越えて、高く高く舞い昇る紅い薔薇。
 その舞踏の中心を見据える瞳の自覚が空を飛んでいる。
 ああ・・・私は・・・・・夢を・・・・・・・
 目覚めると其処にはゆっくりと流れる夜があった。
 夜明けにはまだ少し間のあることがわかる。
 今、何時?
 目にした数字の羅列を読み上げながらも、刻々とその夜は流れていた。
 
 
 ジュン。
 随分と長いこと、私はこうしてあなたと話していたと思うわ。
 ほんとうにあなたには色々なことを話したし、そしてあなたの話を聞くことで、またその私の話はその続きを
 紡いでいったわ。
 私はこんなにも多くのことを話してきたのね、ジュン。
 そして。
 私はこんなにも長い間、このお話をまだまだ続けていけると思っていたのね。
 不思議なことだわ。
 人間とここまで関わり合うことがあるなんて。
 そしてジュンがこうして目の前にいるだけで、いつのまにかお父様の姿が明らかになってきていて。
 ジュンがお父様と会っていただなんて。
 私はそのお父様を見たジュンの瞳に見つめられていたのね。
 嗚呼・・・・ジュンの瞳の中で私とお父様はお互いの知らぬ間に出逢っていたのだわ・・・・・
 それがどんなに恐ろしいことか知らずに居ることは、結局できなかった。
 私は私の与り知らぬ場所でさえも、お父様を見ていて・・・・・
 お父様・・・・お父様・・・・お父様・・・・・・・
 
 
 それなのに、なんでこの目の前に顕れたお父様は、こんなにも醜いの?
 
 
 私には、ただの人間にしかみえなかった。
 お父様、という言葉が勝手に自分の口から出ていくのをただ呆然とみているだけしかできなかった。
 これが・・・・お父様?
 私は必死にお父様とお会いしたという実感を発生させるために目を見開いた。
 でも、駄目だった。
 感じようとして感じることは、とてもじゃないけれどできなかったわ。
 お父様が目の前にいらっしゃる、その至高の不自然さはあまりにも圧倒的だった。
 淡々と、私はそれでもお父様と出逢っていった。
 言語を絶する違和感と浮遊感を吸い込みながら、私はお父様にアリスゲームへの参戦を約束していた。
 おかしいわ・・・・なんでこんなに簡単・・・・・お父様を説得できるだなどと・・・・・
 お父様にお会いする前まで、確かに私はジュン達と築き上げた平和を礎にしてお父様に対峙しようと
 思っていた。
 それなのに、今こうしてお父様の目の前に居る私は、まるで私ではなかった。
 これがお父様だ、という実感を得るために懸命に聞き取ろうとした私自身の言葉だけが、孤立無援のま
 まただお父様に向かっていったのよ。
 こんなんじゃない。
 これではまるでお父様の術中。
 ぽかりと空いた大きな底なしの闇の中で、助けを求める代わりに平和を求める声をあげたって・・・
 私達の体はどんどんと闇に囚われていく中で、必死に戦わないと言って藻掻くことしかできないだなんて。
 違う・・・・違う・・・・
 こんなことをしたいがために此処まで来た訳じゃないわ・・・
 このままじゃ・・・・私達は・・・・・・・
 私達の平和が・・・・穏やかな幸せへの願いが・・・・・ただの助命のための・・・・・・・・
 ジュン・・・・・・ジュン・・・・・・・・・・・・お父様
 
 
 
 ◆◆◆
 
 紫紺に彩られた空箱の中に至高を招き入れるかそのなにも入っていない無を以て至高の絵への一筆
 を描き込もうとする者と、厳然としてある闇の中から伸ばした手で掴んだ純白の光を闇の中の黒い翼にま
 で引きずり込もうとする者と、共に。
 
 平和を望む。
 なによりも、なによりも、望む。
 あなた達と、共に。
 私に敵は居ない。
 私は水銀燈とも薔薇水晶とも平和に穏やかに暮らしたい。
 たとえどんなことがあろうとも。
 たとえお父様がアリスゲームの続行をお望みになられようとも。 
 私の意志は決して揺らがない。
 
 
 その私の意志のもと、翠星石と、金糸雀のローザミスティカが、空へ。
 
 
 悲しみと。
 苦しみと。
 絶望と。
 闇への親しみと。
 光との別離と。
 
 怒りと、憎しみと、共に。
 
 
 
 
 
 
                                       ・・・以下、第二部に続く
 
 
                       ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 

 

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                                ■■逃げられる地獄■■

     
 
 
 
 
 『どうするの? 引くの? 引かないの?
  崖から捨てようが、糸を引こうが、あなた達の自由。』
 

                         〜地獄少女・第十五話・閻魔あいの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ふと覗くと、窓の向うを眺めているあの人の顔が見えた。
 生まれてまもない三奈をぞんざいに畳に放り出し、そしてただ空を見上げていたあの人の横顔が。
 旅装を解いて久方ぶりに袖を通したはずの浴衣を見事に着こなして、ただ綺麗に座っていた。
 私はその姿がなんだか嬉しくて、つい、襖を開けてしまった。
 瞬間、部屋の空気が厳かに閉じて逃げていった。
 振り返ったその姉の顔が、その瞳が、私の遥か向うを見ているのを、見つけてしまった。
 完全に着こなしていると見えた浴衣は、ただ押し着せられたかのようにボロ屑の如く煌びやかさだけを
 顕示するためだけにその体にかぶせられていた。
 姉の瞳は端然としていて、本当に綺麗だった。
 完全に浴衣を着こなしている女の視線だった。
 なのに。
 なんて・・・・・なんて・・・・・醜いの・・・・・・
 無造作に畳に転がっているものが、ひとつ、啼いた。
 
 
 ◆◆
 
 轟々と潮騒が響く。
 私の絶叫はどうしてもその音に囚われて、この島の外にまで届くことは無い。
 叫べども叫べども、それは海という絶壁によって遮断され、そこから先の世界を私から奪っていった。
 そして力尽きて口を閉ざすと、目の前には行き場も帰る場所も失ったその絶叫の残滓だけが生き残って
 いた。
 それでもただ叫ぶことしかできなくて、そしてなんのために叫ぶのかもわからなくなるほどの長い時間が経っ
 た後、目の前に居る三奈が姉となっていつのまにか帰ってきたのに気付いた。
 ただの醜い肉の塊でしかなかった三奈が、いつのまにか姉さんに・・・
 嗚呼・・・・島から出ていっちゃう・・・・・
 帰ってきたものはまた出ていく。
 出ていくために帰ってくる。
 だからもう出ていかせない。
 この私の絶叫の届く島から逃がしはしない。
 出ていった者は帰ってきても、醜くなって帰ってくる。
 おかしな肉塊を懐に抱いて、それを投げ出すことしか考えていないくせに、それでも平然とそれ以外の事
 を考えていて。
 姉さんは三奈を愛してる癖に愛する気などまるで無く、それでいて平然と抱きしめることが当たり前だと
 思うことができてしまう。
 あの肉塊は私と姉さんにとっての共通の敵でしかなかったのに、それなのに姉さんは普通に・・・あれを・・
 姉さんにとって三奈は敵でも娘でもなんでも無く、ただ姉さんの一部にしか過ぎなかったのよ・・・・・
 あの子を抱いている姉さんの横顔は慈愛に満ち満ちて美しく、私はそれに歯がみしながらもそれと同時に
 その姉さんの横顔の裏にある憎しみを理解して共有しているつもりだった。
 そうよ・・三奈は姉さんと私のふたりで憎しみを込めて育てましょうよ。
 だが、私のそんなかすれた願いはあまりにも無惨にその根本から消去された。
 姉さんの・・・三奈を抱いたその横顔が振り向いたとき・・・・その瞳は・・・・・・空を・・・・・・
 
 絶叫した。
 叫んで叫んで、ただ叫んだ。
 そして。
 それに反応したのは、ただ醜い肉塊の鳴き声だけだった。
 空をみつめたまま体をこちらに向けた姉さんのその口は、一体どうしたの、という形を為して動いていた。
 私はその姉さんの口の動きに合わせて絶叫し、絶叫し、そして絶叫した。
 気付いたら、その姉さんの口の動きは止まり、ただもぞもぞと動く大きな肉塊があるだけだった。
 これは・・・誰?
 なんでもう・・・動かないの?
 その疑問に答えてくれたのは、畳に放り出されて啼いている小さな肉の塊だった。
 どうして・・・・どうして・・・・どうして・・・・・どうしてっっ!!!
 その私の絶叫の轟く島の中で、その小さな肉塊はやがて動きだし、そして耳を塞ぐ術を覚え、まるで今
 まで自分がその絶叫によって育てられたことを無かったことのようにして、それは姉さんになった。
 嗚呼・・・・・姉さん・・・・帰ってきてくれたの・・・・・・
 
 
 島の内側に迫る潮騒の音。
 点々と足跡を刻みながらも、絶壁の欠片を胸に抱いて姉さんは帰ってくる。
 轟々とその海の啼き声を撒き散らして、そして島の向うをただ見つめるために帰ってくる。
 姉さんは・・・・私ではなく・・・・三奈でもなく・・・姉さん自身でもなく・・・・ただ空を見ていた・・・
 自由自在に障壁を振り回し、なにものにも囚われずにただ島の外を見ていただけだった。
 たとえ私が姉さんの障壁になったとしても、姉さんはそれを足場にして島から出ていってしまう。
 私が叫んでも、叫ばなくても、姉さんは・・・・・
 あの憎らしい肉塊すらも、姉さんを留めることはできなかった。
 姉さん・・・・・・・・
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ 
 
 姉さんは島からでなきゃよかったと、帰ってきたときに言っていた。
 そして私の言うとおりに島に居ればよかったといって、謝ってくれた。
 それなのに。
 姉さんは、島を出ていった。
 なんでよ。
 島をでて嫌な思いをして、それで島に居るのが正しいって思ったのじゃないの・・・・・
 
 そうじゃ・・・・無いわ・・・ね・・・・きっと
 
 姉さんは言った。
 島から出なきゃよかった、と。
 でなきゃ、よかった。
 姉さんは島を出たことを後悔した。
 つまり、姉さんは島に居ずに島の外に居ることを後悔したのでは無く、一度でも島から出てしまえば、
 たとえどんな辛いことがあったとしても、それで島に逃げ帰ったとしても、もう自分の居場所は島の外以外
 には無くなってしまう、そうなってしまったことそれだけをただ後悔していたのだ。
 取り返しのつかない失敗、ということなのよね。
 何事も経験というけれども、たった一度の失敗で失ってしまうものはあるもの。
 姉さんはもう、どんなに島に居たいと思っても、すっかり体が島の女に戻ったとしても、その瞳だけはずっと
 島の外を目指すことをやめられなくなってしまったのよ。
 それを、姉さんは悲しんでいる。なによりも、なによりも、強く、強く。
 だから姉さんは島を出ていった。
 いいえ、それはむしろ。
 姉さんは島の外に帰っていったということなのよ。
 姉さんはこの島というふるさとを奪われてしまったのよ。
 姉さんにとって、疎ましくもそこに居ることができたこの島から一度でも出たことは、この島をなによりも憎い
 だけの存在へと変えてしまっていたのよ。
 
 だから姉さんはあんなにこの島を嫌って・・・・・
 
 島から出たことが姉さんを変えてしまった。
 どんなに辛い目にあってもこの島に居るよりはマシと、本気で思える姉さんにしてしまった。
 可哀想な姉さん・・・・・
 本当はこの島を憎んでいながらも、ただ愛したかっただけなのよね・・・・
 島の愛を試すためにわざと憎まれ口を聞いて島から飛び出して、そして迎えがくるのを待っていたのよね。
 ええ・・・・私はだから姉さんが島から出ていったときずっと叫んでた。
 姉さんに追いつけとばかりに懸命に叫んでいたのよ。
 でも。
 この海はその叫びを掻き消してしまった。
 誰も迎えに来ない海原の中で、姉さんはどんなに悲しんだことだろう。
 ごめん・・・・・ごめんね・・・・・姉さん・・・・・・
 そして姉さんから島は奪われ、そしてただあるのかもわからない島の向うを目指す瞳だけが姉さんに残され
 た。
 それなのに島に帰ってきた姉さん。
 嗚呼・・・・・・わかる・・・・・・・・わかるわその姉さんの憎しみが・・・・・・・
 姉さんは悪くない。悪いのはこの島よ。
 だから・・・・・
 
 
 
 私の中に逃げ帰ってきて、姉さん。
 私と一緒にこの島を怨みながら、この島で生きていきましょう。
 
 
 
 目の前に転がるふたつの肉塊を抱いて、私は立ち上がった。
 『三人で仲良くこの島で暮らすのよ。』
 だから。
 三奈。
 あんたもいらない。
 あんたも私に帰ればいい。
 
 『私達の幸せを、邪魔する奴はぁーっっ!!』
 
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 引き潮に溶けて海に還る絶叫。
 逃げ帰る場所は無くとも逃げ出す場はいくつでも広がっていた。
 寒々しい海の空が鈍色の雲で覆われていながら、それでも逃亡者を導く灯火は途切れない。
 その灯りを飲み込もうとして、自らも海に漕ぎ出した者はやがて海に溶けていった。
 島の内へ。島の外へ。
 すべて、海の上での出来事。
 島の女の帰る場所は最初から海でしかない。
 島から出ようと、島に居ようと、同じ。
 いくつでも逃げることができる。
 そして。
 いつも、逃げられてしまう。
 
 
 ・・・・・・◆ 絶壁の影に潜む者が秘かに壁を削り新たな壁を創り出す
 ・・・・・・◆ 絶壁の先の断崖がその壁の建設の続行を脅かす
 ・・・・・・◆ 壁の存在が壁を創る者に命を与え壁を創れない地がそれを断つ
 ・・・・・・◆ 勝負はその崖の手前で決まる
 ・・・・・・◆ 生きるか殺すかそれとも逃げて逃げられるか
 
 あなたたちにはにげることがゆるされている
 にげることをさまたげることもそのさまたげからにげることもゆるされている
 だから、もう
 わたしはそれをみてる
 じっと、みてる
 
 みていれば、それはやがて
 
 
 
 
                                ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 

 

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                                   ■■ 諦めない ■■

     
 
 
 
 
 熊倉隆敏「もっけ」第4巻を読んだ。
 
 「どうしようも無い事」というのは、生きていけばやがて見つかってくるもの。
 それはどんなに思考を重ねようとも如何ともしがたいものであり、要は考え方だよという言葉ひとつで片づ
 けられるものでは無い。
 なんとかしたいと思いながらもどうにもできず、前向きに考えたいと思っていても、ただそう思うことができる
 だけで、実際はその「どうしようも無い事」自体を変えることはできない。
 私達は日々生きる中で、そうした出来事と邂逅し、そしてギリギリの線でそれとの均衡を保って生きてい
 る。
 それはひどく辛いことであり、また悲しいことでもあり、或いはとてつも無く悔しいことでもある。
 そんなとき、そういった自分の体験を知らない人間に、そういった体験を自分もしてみたいと言われ、
 しかもなぜかと問うと、だって面白そうじゃないですか、それだけ重くて深いということは、どこまでもそれ
 を体験し追求し楽しめるって事じゃないですか、と平然と答えられてしまったらどうだろうか。
 とてもその人の顔を見ていることなどできはしないだろう。
 場合によっては、席を蹴ってそのままその人とは二度と会わないと思うだろう。
 なんて、憎らしい。
 いや、それ以上になんだか腹が立つのではないだろうか。
 なぜこの人は自分が体験したことも無いくせに、それを体験している私の苦しみも知らないで、そんな事
 を言えるのだろう、と。
 
 だが、そこでふと、気付いてしまう。
 
 怒り心頭に達した瞬間に、その怒りに震えている自分の姿を見つけてしまう。
 なぜ、私は怒っているのだろう。
 ほんとうにこの人の言っていることはおかしいことなのだろうかと、やがて点々と思考の灯火が浮かんできて
 、改めてその人の言葉を反芻する。
 「どうしようも無い事」。
 それはどうする事もできないゆえに、自分はそこから逃げられないのであり、でも「逃げられない」ということ
 は「逃げたい」と思っていることである訳で、それはつまりそのどうしようも無い事をそれでも変えたいと思っ
 ているということだ。
 けれどそれは「どうしようも無い事」なのだから、変えることはできない。
 でもだからといってその「どうしようも無い事」に隷従する事と、それはイコールでは無いのではないか。
 その人はそれに隷従するという体験をしたいと言っているのでは無く、その「どうしようも無い事」そのものを
 体験をしたいと言っているのではないか。
 どうする事もできないからそれに従うだけ、どうせ私にはそれに隷従するしかないだけなのだ、それが世の
 中っていうものさ、世界は元を正せばすべて苦しみでできているのさ、ほんとどうしようもない、云々。
 それらは、ただそう私が言っているだけの事にしか過ぎないのではないか。
 私が感じた腹立たしさというのは、その私の言葉に支配されている自分と同じくその支配下に入るべき
 その人が、全然そんな風にはならないという予感を抱いたからではないのか。
 私は、悔しかったのだ。
 自分だけがその「どうしようも無い事」に隷属しなければならないのが。
 まわりの人間すべてが私と同じくその言葉に支配されなければならないと思っていたのだから。
 自分で勝手に隷属したくせに。
 
 靄が晴れてきた。
  
 「どうしようも無い事」というのは確かにある。
 だがそれは変えることはできなくとも、それは楽しむことができる。
 楽しまないでいるゆえにそれはただ隷属すべきものにしかなりえない訳で、またそうは思っても簡単に楽し
 めるものじゃないと、そう言い切った時点でそれ自体がそれを楽しめるという可能性をゼロにしてしまう。
 どうすることもできなくて楽しもうと思っても簡単にはできなくて、だからそれは楽しまなくても良いものなのか
 ?
 それは怠惰だ、と一瞬激しく腹が煮立つ。
 それこそが、その自分の意識こそが物事を辛いだけのものに閉じ込めてしまっているのではないか。
 「どうしようも無い事」というもののせいにして、肝心の主体である自分が楽しんでいこうという努力を放棄
 しているだけではないか。
 それがどうする事もできないものであればあるほどに、それ以上にそれを楽しんでいかなくてはならないの
 じゃないか。
 本当にどうしようも無い、となによりも強く実感しているのが、誰あろう私自身であることを感じれば感じる
 ほどに、その自分を楽しく生きさせるのは自分しか居ないと、そう強く感じてしまう。
 誰が生き、誰が体験し、誰が楽しいことをしたいと考えているのか。
 それを抜きにして考えを進めていけば、確かに「どうしようも無い事」はどうすることもできない地獄のまま。
 けれどたとえまったくそれを楽しむことができなくても、ただ心の片隅ででも僅かにでも楽しく生きていきたい
 と心懸けることを忘れずにいれば、それはやがてほんの僅かでもその「どうしようも無さ」に「慣れる」こと
 ができ、少しずつ気付かぬうちにでもそれを楽しんでいくことができるようになるのである。
 中心にあるのはいつも私自身。
 「どうしようも無い事」は変えられなくても、「自分」は変えられるのだ。
 そして。
 「どうしようも無い事」を変えられなくて、そしてもし「自分」すらも変えることができなかったとしても。
 それでもそれらを変えたいと思うことを諦めないでいることはできるはずだ。
 その「諦めない」という意志を持つことだけが最終的には人に持てるものであり、けれどそれがあるから人
 はそれでも生きていけるのだと、私は思っている。
 
 
 うん、「もっけ」はとても辛くて重い話なのだけれど、それでいて、というよりだからこそ爽やかで、そういった
 ところが好きなんです。
 自らの背負ってるものと心中することなく、それと向き合いゆっくりと付き合い方を学び続けて、それはひど
 く長いスパンの話なわけで、一生モノなことであって、だから辛い辛いだから辛いのは当たり前だからそれを
 仕方なく我慢してそれでできるだけの事して生きようとか、そういう小さいことは決して言わなくて、逆にそう
 言ってしまったらそれはただの「恨み言」にしか過ぎないって主人公の子らはわかってて、そういうの全部背
 負ってるのは他人じゃない紛れもない自分なんだから、とそうやって頑張ってしっかり大きく生きようとする
 んですよね。
 それってとてもとても清々しくて美しくて、そして一番辛いことですよね。
 あの子らは自分の人生を不幸にだけは絶対しちゃいけないって、そうやって懸命に幸せになろうとしてるん
 ですから。
 それでも嫌なこと辛いこと「どうしようも無い事」は延々と続いて。
 でも、気付いたときに、実はもうあの子らはしっかり幸せに生きてるんですよね。
 辛いからこそ楽しく生きようって、そう思う事自体が既にとてもとても楽しいことなんです。
 あーこりゃ、いいよ、うん。私も頑張ろう。
 既にどうしようもなく頑張ってるから、だからこそ尚更頑張ろうって思えるんだよ、きっと。
 
 
 ◆ ◆
 
 前置きは無しということで、始めます。
 
 ■「蟲師」 第十一話 :やまねむる
 
 ・「山に、穴があいていた。」 ぽかんとしてまるで現実感の無い大穴が山に飽いている情景。しかし
  ギンコ以外にその穴は見えず、同じくその山を見ていた旅人はその山の美しさに溜息をもらしている。
  遠い、遠い、美しい山がこんなに近くにも、ある。
 ・僅かに目を離したのちにまた山を見ると、もうその穴は消えている。いつものことさ。そしてギンコはまた
  人と同じ世界に戻っていく。
 ・村の中に入り、そして見上げた山との距離が縮まっていく感覚。ただ遠くから眺めるだけだった紅い山が
  、探し人の籠もる近しい姿へと変わっていく感触がその山の紅さに暖められていく。
 ・むせかえるような豊饒な生気が立ち込める山の細胞が、山に足を踏み入れた者にたかってくる。ただ
  漠然とあるものでなく、ただ毅然としてある山の息吹が襲いかかってくる季節感。木の葉木の実が纏う
  生々しく光り輝くその生気がその存在感を以て山の外からくるものに浸食していく。
 ・近しい異界としての山が空間ごと迫ってくるなかで、淡々と佇むことのできる蟲師のギンコ。そこにギンコ
  の生気は無く、ただギンコが在るだけの不思議。山の地肌の如くに山の生気を感じていながらそれに
  浸食されずに済む術を体得して立っている、こそばゆいほどの現実感。不思議でありながら不思議で
  ないこの感じ。
 ・山中で出会うそのこそばゆい現実とボロボロにくずれながらにしてある現実。ギンコの術を不思議に思い
  ながらも眺め続けている少年の姿が、その山の中で綺麗に動いている。
 ・むぐらのり、という術。山の神経のような蟲むぐらに乗って山中を探索する術を、探し人にはじかれてしま
  う。恐ろしい目をしたあの影が俺を拒んで・・・・・
 ・だがはじくという反応を示したことにより居場所を掴んだギンコは、その探し人である老蟲師ムジカをみつ
  ける。あの恐ろしい目とその穏やかな目の落差がギンコにすべてを悟らせる。あんたが主か。そして、な
  にを隠してる?
 ・ムジカの庵にて淡々と浮遊するようにして嘘の無い会話をかわすふたりの蟲師。嘘の無い嘘を騙り合お
  うじゃないか。
 ・主を人がやるのは辛いと聞くそれなのになぜやっているのかと問うギンコに、ムジカは嘘では無い嘘を
  言い伝える。一瞬ムジカの世界の中に広がる光り輝く猪の姿をした主が咆吼する。
 ・村の人はムジカが山の主をやっていることは知らない。主は未だ生存し、そしてムジカはただその言葉を
  伝えているだけだと。山の主は健在であると。すべての帰結するところがここに在る。
 ・確かに山の主は健在である。ただし猪では無く人間であるが。
 ・ギンコとムジカの話の応酬は続く。ムジカは村人が誤って主を殺してしまいそれで主になったという。
  嘘だ。村人は誰もあんたが主をやっていることを知らないじゃないか。
 ・段々と近づいてくる鐘の音が、ふたりの会話の陰影を彫り上げていく。深く、深く、もっと、ねじれて。
 ・山から生まれ、山に捨てられ、山で生き、山から出て、そして山に帰ってくる。身勝手な話だが、それが
  一番いいに決まってる。
 ・昔はギンコと同じく浮き草な蟲師 であったムジカが骨を埋めるのはこの山しかない事の理由。延々と、
  延々と、真実の嘘を付き続けたんじゃよ・・・・
 ・清々しく生気の抜けた朝が来た。そして村に山の主の言葉が伝わり、また日常が始まっていく。
 ・激しい一瞬の咆吼を以てギンコを嘘から引きずり出した鐘の音。こちらが向かっていないのに向うから
  近づいてくる鐘の音の禍々しさ・・・・これは・・・・・じじぃ、やりやがったな・・
 ・その山の最後の静謐は、今までの日常の帰結としてそこに顕れていた。あのくそじじぃ、最初からこうす
  るつもりで主をやってやがったな・・ずっと、ずっと、最初から・・・
 ・「後継者」であるその少年コダマに蟲師 の術をなにも教えていないムジカの意図するところはただひとつ。
  この山に真の安定を取り戻す。終わりに向かうための安定で無く、ただそこに在るだけの絶対の安定を
  この山に返すために。この山に人間の主はいらん。だからあの子も
蟲師になんぞならんでもいい。
  山頂に至るまでギンコの世界に響くその鐘の音が、五月蠅いほどにその山の静謐の中に溶けて佇ん
  でいった。
 ・静寂の絶頂にて、もはや淡々と消えていくその老蟲師は最後の置き土産を語り始める。
 ・蟲を呼び寄せる体質のゆえにひとつところに留まることができない。その如何ともしがたい事実を前にして
  淡々と旅をしていたつもりでも、いざ安住の地を目の前にしてしまうと、つい諦めてしまう。
  どうしようも無い、どうしようも無いから、ぶち壊してでも奪ってやる。もしこの山の主を殺して喰って自分
  がその山の主になりそうすれば自分の意志で山に蟲を寄せ付けないこともできるのだが、と自分を求め
  てくれる人の前でしっかりと言ってしまうムジカ。なんてことを。そして自らの最も愛する者がボロボロ
  なって自分の代わりに主を殺してきてくれた。崩れ落ちるその愛する者の手に、その者の血と主の血が
  染み込んでいくのをムジカは呆然とみつめていた。愛する者の死と主の死と。
  ふいに鐘の音が途切れたとき、その鐘はもうならないことをどうしようも無く確信するように、ムジカはただ
  その瞬間から終わっていた。あとはこの体が終わるのを待つだけなんじゃよ、とギンコはその鐘の絶叫の
  中にそよぐその静寂の終焉を聞き取っていた。儂には最初から終わることしかできんのじゃよ。
 ・『主の座にはあのような者があるべきなのだ。人には辛い。コダマに伝えたのも生きていく知恵だけだ。』
 ・主を喰う蟲くちなわの奏でる誅罰の鐘の音。その音を内に飼って慣らすことしかできぬ人間に主は務ま
  らん。くちなわは主を喰っても山に泰然として安定をもたらすことができるが、人は主を喰ってもその中に
  湧きでるむせかえるような罪悪感に蝕まれ、たとえ山に安定をもたらすことができたとしても、自分自身
  に安定をもたらすことはできんのじゃ。自らの掻き鳴らす罪によって余人を惑わすだけで無く自らをもまた
  滅びへと導いてしまう。
 ・「無駄だ。それにできたところで他にいい術など・・」
 ・「なんかあんだろこんなのよりはっ!里の連中はどうするんだよ!あんたの事を慕ってる、必要としてる」
 ・ムジカという人間は主になれなくとも、ムジカというムジカなら主でいられんだろ、とギンコは言う。ムジカに
  あくまでムジカであろうとする意志が有り続ければ、それはやがてムジカという人間が主で有り続ける事
  もあるだろう。主って固定観念と、そしてあんただけの罪悪感に村の人の気持ちを巻き込むなよ!
 ・だが、ムジカはムジカである前に人間だった。ムジカは人間であるというどうしようも無い事実を変える事
  はできなかった。ムジカは最初から消えることをわかって主になる道を選んだ。だが消えるつもりで主にな
  ったというのは嘘だった。ムジカは自らの罪を強く強く認識したがゆえに、自らを罰するために主になると
  いう非道を選ばないためにも敢て人ならぬ主になる道を選んだ。ムジカは本当は最初からくちなわにな
  るべく、ずっとずっと人間の自分を引きずって主を生き続けていたのだ。
 ・それでも、それでも、ただ淡々と、ムジカは終わっていくだけだったのだ。
  ただの一度たりとも主であり続けていくことを、くちなわのように罪を飲み込んでも自滅しないでいられる
  ようになるのを諦めなかったその老蟲師の最後の笑顔の至高の静謐が、そこに。
 ・ムジカは終わるべくして終わったが、だがその終わりは遥か彼方の空へと轟き、そしてくちなわを連れてき
  た。
 ・ムジカが人間であることは変えられない。でもだからと言って山に真の安定をもたらすことを諦めたりはし
  なかった。大事なのは自分が主になることでなく、この山が安定すること。そして。その上で、ムジカは
  自らが真の主になることも目指し生き続けていた。自らの罪に隷属することなく延々とそれと戦い続け
  て。ただひたすらに淡々と、在るがままに、ただ、淡々と・・・・。
 ・ムジカの消えた恐ろしく落ち着いた山の胎動を背に、ギンコはその山からまた離れていく。
  ほんとうにどうすることもできなかったのかと、問いながら。
 ・「・・・・無いねぇ、残念ながら。」
 ・くちなわの座すその圧倒的に静まりかえった山の姿。人では無いものだけが創り出せる真の静謐が
  、人が創り出した至高の静謐を遥かに凌駕しているその絶対の安定感。
 ・「見事なもんだ。・・・人の気など知りやしねぇ。・・・・なぁ、くちなわよ。」
 ・ムジカの創り出すことのできなかったその真の静謐。だがその真の静謐をムジカは連れてくることができた
  たのだ。滾々と降り落ちる白い雪を留め置くことができないまま、それでも人はやがてそれを防ぐ屋根の
  下に至ることができる。なにも無い野原を歩くことしかただできなくても。
 ・ムジカはムジカであり、そして人間だった。その絶対の安定感がとぐろを巻いている。在るのはただそれだ 
  け。なによりも美しいその静謐がただ輝いていてくれる。そして残された人間は、またその山へと入ってい
  く。
 ・ムジカになにも蟲師の術を教えられなかったが、しっかりとムジカの跡継ぎになるべくそれを独りで学んで
  いたコダマ。主の居ない村の蟲師の後を継ぐ、主の居る村の蟲師として、コダマは山へと入っていく。
 ・そしてギンコは、再び次の山へと向かって旅立っていく。
 ・すげぇよな、この静かな世界の中に居る人間って奴ぁ。すげぇすげぇ・・・・・。
 ・「まるであくびでもするように、くちなわは一声あげると、あとはもう静かに腹を波打たせるばかりだった。」
 
 
 
 蟲師、最高。(大決定)
 
 
 
 

 

-- 060113--                    

 

         

                                    ■■薔薇笑顔■■

     
 
 
 
 
 『眠ってる雛を起こしてくれたの・・・・鞄から出してくれたの・・・・・』
 

                       〜ローゼンメイデントロイメント・第10話・雛苺の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 真っ黒な光が、星の代わりに空に瞬いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 凛としたまま項垂れる闇がどろりと剥けて空に晒されたその光が呆然と踊っている。
 幾重にも塗り固められてその自らの重みに耐えられなくなった生命の放つ雄叫びは紅く膨張し、同じく夜
 空の下に集積するその咆吼が奮わす大気はその紅い粒子の浸食を受けて闇と袂を分かつ。
 てらてらと淫らに祭り上げられる漆黒の夜空を担ぐ紅い生命の眼差しは、それでもまた新たな儀式の果て
 にその闇の支配下へと収まっていく。
 黒く、黒く、なによりも、黒く。
 かつてない生命の反抗はそれを遥かに上回る闇の質量によりて絶滅の運命を与えられ、断末魔を生か
 すことさえも許されないままに燃え盛りながら滅びていく。
 ほらご覧、あんなに生命の歴史だけが残されて光り輝いているよ。
 それはさながら生命の歴史博物館。
 大空を支配する至高の重量を携えるその闇によって滅ぼされた生命の痕跡。
 それはもはや、その闇を賛美する生命の涙にしかすぎないかのよう。
 従順な、従順な、なによりも従順な生命の光が闇を照らす。
 
 
 だからこれは、私のもの。
 
 真紅。真紅。
 
 『だって、私が勝ったんだもの。』
 
 
 
 ◆ ◆
 
 前も見ずにその夜空を突き抜けて、上へ上へと駆け抜けて。
 そして真っ直ぐにあの部屋に降りていった。
 ふん、居たわ。
 憎まれ口を口に含んだまま、私はちらりと微笑んでいた。
 この死にかけの人間に奪ったローザミスティカの力を与えようと、勇んで此処まで来た。
 でも本当のところあの夜空を抜けるまで、そんな事は頭の片隅にも無かった。
 ただローザミスティカを奪ってやると、それだけしか考えていなかったわ。
 こんな人間の事など私の頭脳はかすりもせず、ただ高らかに勝利の嗤いを残してやった。
 馬鹿ねぇ、ほんとうに。
 その高笑いをそのまま持ち帰って、それをこの人間に与える微笑みに平気で換えられるだなんて。
 呆れて言葉も無い。
 そして言葉が無い以上に、そうすることになんの迷いも無い私が歴然として居た。
 この人間を意地でも救ってやるわ、なんて事はやはり微塵も思ってはいないけれど、結果的に私のする
 ことはどうやら皆この人間を救うことに繋がるみたいね。
 
 ただ壊れたままで消えていく生命が許せなかっただけなのかしらね。
 
 それなのにこの愚かな人間は、儚くて透明だから綺麗だとか言う。
 でもそれを嗤うはずの私の口元は、うっすらと暖かい微笑みの形に固まっていった。
 『なぜ微笑うの?』
 答えなさいよ。
 私の代わりに答えなさいよ。
 答えるために必要なものがあるのなら、私が奪ってきてあげるわ。
 ローザミスティカが必要なのならば、もっと沢山奪ってきてやるわ。
 死を恐れずにそれを心底と綺麗だから好きといえる、それに見合う笑顔の意味を知りたい。
 
 
 なんで私は、こんなに微笑んでいられるのかしら?
 
 
 それでもまだ、この人間は笑っている。
 
 
 
 

◆・・・存在する答えへの謝意を表す・・・◆

 
 
 
 小さな小さな奇跡が駈け回っていた。
 飽きること無く贅沢に時間にかじりつき、夢中で遊び回って、それは本当にただ奇跡だった。
 抱きしめて、そして感じる柔らかいその笑顔が私の胸から零れていくのを、幸せのうちに掬い上げていた。
 それに感謝しないでいられる事なんて、なかったわ。
 でも感謝する以前に謝らなければいけないことが山積みで、だから。
 私はただ、無我夢中で雛苺に謝っていた。
 私はほんとうに、この子になにもしてあげられなかった。
 私が手に入れることができた幸せのすべてであるこの子の笑顔に報いてあげる事は、全くできなかったの。
 
 ごめんね、雛苺。
 
 雛がくれた笑顔が嬉しくて嬉しくて、そしてそれが募るにつれ、私はとてつもなく悲しくなった。
 どうして私は、雛苺になにもしてあげられなかったの?
 私はまだあの子になにも・・・・・
 
 
 
 それなのに、雛苺は・・・・・・もう・・・・・
 
 
 
 雛苺は、私にありがとうと言った。
 そんなこと・・・・・そんなこと・・・・・・
 それを言わなくちゃいけないのは、私の方なのに・・・・・・
 それなのに、雛苺は笑顔のまま、また私の元に戻ってきてくれて・・・・・
 私と居てほんとうに楽しかったの・・・? 本当に嬉しかったの・・・・?
 ほんとうの本当に、幸せだった・・・・・・・・・?
 ・・・・・・・・。
 『ひな・・・・・・・いち・・・ご・・・・・・』
 ごめんね。
 ごめんね。
 ほんとうの本当に、ごめんね。
 うん。
 うん。
 私も楽しかったよ。雛苺が一緒に居てくれて本当に嬉しかったよ。
 私・・・・・・・こんなに幸せになれるだなんて思ってなかったのよ。
 あなたも、私と同じくらい幸せになれたのかどうか、私はどうしても知りたい。
 教えて・・・雛苺・・・・・・・・
 
 
 
 ああ・・・・・・・・・・・雛苺・・・・・・・・あなたのその笑顔は・・・・なによりも・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 雛苺・・。
 あなたが嬉しそうに笑ってくれるたびに、私はいつもそれに応えることばかり考えていた。
 だから、もしかしたら私は、雛苺に私の笑顔を魅せてあげたことはなかったかもしれない。
 いつも懸命にどうしたら雛苺のためになれるか、雛苺になにかしてあげられないかと、
 そればかりを考えて、そして暗い顔をして涙を流したりもしてしまった。
 そんなとき、雛苺はやっぱり私にその笑顔を魅せてくれた。
 最初から・・・この子はこうやって・・・・・
 あなたは幸せ?と雛苺に尋ねておきながら、当の私自身は同じく雛苺によるその問いに答えることを
 しなかったのよ。
 あの子はずっと笑顔で居てくれたのに、私は全然・・・・・・
 
 ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・
 ・・ううん・・・・・・・・
 ほんとうに・・ありがとう・・・雛苺。
 
 私は雛苺を笑顔にさせることばかり考えていたわ。
 でもそれだけじゃ駄目だったの。
 私はあの子の笑顔を守る以上に、私自身を笑わせなければいけなかったのよ。
 私が雛苺の笑顔をみて微笑むことができていることを教えてあげるために。
 私が雛苺が幸せであることを、それを私自身の幸せとすることができているのを知らせるために。
 私は、あの子に笑顔でなければいけなかったのよ。
 ずっとずっと笑うことをおろそかにしていた私。
 でも。
 それでも。
 雛は・・・・・・笑ってくれた・・。
 また・・・私のところに・・来てくれた。
 こんなことって、無いわ。
 こんな・・・・こんな・・・・・・・・・
 
 
 嬉しくて・・・・嬉しくて・・・・・・・ただもう・・・・・・涙が・・・・・・・
 
 
 あの子は、それでも笑うことのできない私のために笑い続けてくれた。
 私が笑顔を魅せてあげることができなくても、全然めげずにずっと笑顔で居てくれた。
 私が雛にしてあげられたことなんて、ほんとうになにもない。
 それなのに雛は楽しかった、嬉しかったと、ほんとうに言ってくれる。
 あの子は・・・・・・どんな些細なことでも・・・本当に・・・楽しんで受け取ってくれて・・・・・
 それでもなにもしてあげられなかった、と言い張る私に雛苺は・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 その雛が、止まっちゃう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 私は・・・・・・
 
 涙がすべてだった。
 私のすべてが涙になって、そして延々と雛のあとを追って流れていった。
 そんな・・・・・雛が・・・・・・
 私に私は止められないのよ、雛苺。
 ごめんなさい。
 あなたのせいじゃないのよ。
 私は雛と一緒に居られて本当に幸せだった。
 雛がウチに来てくれたとき、神様に感謝したわ。
 こんな私にあなたのような素晴らしい子を授けてくださった神様に・・・・・
 だから。
 だから。
 だから!
 私は、決して雛を奪った神様を呪ったりはしないわ。
 私は、雛が残していってくれたものを抱きしめて、そしてひたすら神様に祈り続けるわ。
 どうかあの子が、また私達の元に戻ってこれますように・・・・と・・・・
 だから私はあの子が戻ってくるそのときまで、精一杯笑顔でいられるように頑張るわ。
 頑張って、生きて、そして、笑って。
 最後の最後まで泣き顔しかあの子に魅せてあげられなかったの。
 だからもう、私はあの子のために私のすべてが笑顔に換われるように、必死に生きるわ。
 生きて、生きて、そして全力でみんなと一緒に幸せに生きていくわ。
 本当の本当の最後の最後まで微笑んでいてくれたあなたのその笑顔を、信じて。
 雛は・・・・・雛は・・・・・絶対に・・・・・・あの子は・・・・・・
 
 
 
 『離れていても、必ずまた会える。
  だから、悲しまないで欲しい。』
 
 
 
 
 
 ◆
 ◆
 
 闇空に陳列された光の中におぞましい執念を見つける。
 ワラッテイルゾ、コイツラ。
 ひしひしと伝染する笑いの木霊がやがて炎をあげて、爆発する。
 吐き残した断末魔を胸に大きく吸い込んで、その夜の下の生命は躍動する。
 大きな、大きな、闇の中で。
 眠りながら、朝を待つ。
 史上空前の大反乱の準備は、こうして整った。
 この夜はもう朝の到来を止められない。
 そして。
 夜の重き闇に埋め込まれ隷属した光達は、その朝を受け入れ決起する。
 闇の中から浸食を開始する真っ黒に瞬く光。
 夜の次に朝が来るので無く。
 朝の残光が夜の闇に塗り替えられたように。
 夜が朝に換わるのだ。
 
 
 
 
 紅い生命を胸に、私は。
 
 
 
 
 『お父様・・・・・・・・』
 
 
 
 
 
                        ◆ 『』内文章、アニメ「ローゼンメイデントロイメント」より引用 ◆
 
 

 

-- 060111--                    

 

         

                               ■■ 地獄少女総集編 ■■

     
 
 
 
 
 『一遍、死んでみる?』
 

                         〜地獄少女・閻魔あいの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 薄い空を構成する雨が零れ落ち往くままに広がっていく。
 この心に芽生えた怨みは一体何処からやってくるのだろうか。
 空を見上げて問うてみても、ただその体は雨に濡れるだけだった。
 
 怨み、という言葉がある。
 しかしそれはその言葉が先にあった訳では無く、その怨みそのものが先にあった。
 けれどその怨みそのものの存在を感知できるのは、絶対的にそれが怨みという言葉で以て表わされた
 ときだけである。
 怨みという名前の付いていないその感情は、怨みとはいえない。
 ただただ謎の感情である。
 それに怨みという名を冠したとき、初めて其処に怨みが生じる。
 だがそれは明らかにおかしいということも同時に感じている。
 なぜなら怨みという名前を付けたその元の感情は、名前が付いた後と前でなんの違いも感じられず
 、ゆえにその感情は最初から怨みとして存在していたのではないかと感じている。
 この怨みは、最初から私の中に在った。
 その認識こそがなぜか一番しっくりとくることの違和感を覚えながらも、それでいてその怨みは最初から
 自分が所有している固有のものだと、起源は自分にあると、そういう言葉でそれを綴ることには納得する
 事ができてしまっている。
 だが違和感はぬぐえない。
 その感情をそれでも怨みという言葉でしか表わせないという事実を否定できないという、その絶対の
 不自由感にして最大の被支配感覚は有り続けている。
 なぜ私は、それに怨みという言葉を付けなければいけないのか。
 なぜ他の言葉で表わせないのか。
 いや。
 それ以前に、なぜ私はこの感情に名を付け、そしてそれを言葉で綴っていかなくてはならないのだろうか。
 いつの間にかその自分の中の感情が縷々と書き綴られていく、その狂おしいまでの違和感を必死に払い
 除けようと何度も何度も口を閉ざして、変わり果てていくその感情に終始しようとし、そして。
 なにもかも、見えなくなる。
 今まで目の前に据えていた謎な感情が言語化されていくうちにつれ、いつの間にか私そのものがその書き
 換えられていく感情そのものになっていた。
 言葉を紡げば紡ぐほど、私はそれによって怨みそのものへと換えられていく。
 創られた、怨みとしての私。
 果たしてその私は、私が創ったものなのだろうか。
 その問いに到達した瞬間、それに対する答えが用意されていたことに気付く。
 私には、決して私は創れない。
 ならば、この今の私を創ったのは一体誰なのか?
 
 
 地獄少女が、みてる。
 
 
 降り注ぐ雨滴が肌に染み込んで、その内側を創っていく。
 けれどその創られたものの輪郭を縁取る薄い肌は最初から在った訳では無い。
 ある日その肌は自覚を持ち、ふと空を見上げて自分が此処に居ることに気付く。
 しかし次の瞬間に感じた冷たい雨の感触が、その雨と自分の存在を隔て、そしてやがてそれがひとつに
 溶け合っていくのを感じてしまう。
 嗚呼・・・・中に・・・浸みて・・・・
 膨大に蓄積された内部の雨の頂きに自分があることを感じ、そしてそのとき自らもまた空から零れ落ちて
 行く存在であることを知る。
 体の奥底から湧き出る怨みの発散をこの紅い瞳が感じたとき、私もまた湧き出る怨みそのものとなりて
 空へと昇っていくのを感じていく。
 
 
 そういう言葉を、延々と綴っていく復讐劇。
 
 
 言葉は主体たり得ない。
 言葉が言葉以外であることは決して有り得ない。
 怨みという言葉を綴っても、それが怨み自身になることは絶対に無い。
 そして怨みという言葉が示すその元にある謎の感情の姿にすら、その言葉は成り代われない。
 私の怨みを理解できるものは絶対に存在しない。
 そして怨みという言葉と、その私の内部にある感情は決して一致することは無い。
 それ以前にそれが一致しているかどうかを知る術は存在しない。
 この感情はこの感情でしかない。
 いや、そもそも「この」とはどれのことなのか。
 いいや、そもそもどれと言えるようなものは存在しているのだろうか。
 そして、気付く。
 私そのものが、怨みそのものであると。
 すべてが、溶けて、そして、怨みが、浮上する。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 地獄少女は不思議な感覚が立ち上ってくる作品です。
 ひどく曖昧な物語の内側にある、その物語の曖昧さに隠されたなにか空恐ろしいものが、ふとしたきっか
 けを待ち伏せているかのような感覚。
 そして捕まったが最後、輪郭としての物語と中身としてのその空恐ろしいものが反転し、あっという間にす
 べてを変えてしまうという予感に囚われてしまうのです。
 そしてあっと一声発して我に返る訳です。
 なんて不吉な夢なんだ、と。
 目覚めるとそこにはいつもとなんら変わらない曖昧な物語があるのだけど、しかしその不吉な予感を得て
 しまった今となっては、曖昧だけれどその存在自体は確固としてある物語がまだ在るのを感じれば
 感じるほどに、それは外と内の反転の予兆としてしか捉えられなくなっていくのです。
 一体そうしてしまったのは誰なんだろうか、一体あの夢を魅せたのは誰なのだろうか。
 この問いが発せられてくる出所をなぜか見つけることができてしまうという、その最もおぞましい感覚こそ
 が、この地獄少女という作品を有効にしているのだと、そう思いながら私はこの感想を書いています。
 
 それでは、また来週。
 
 
 
 
                              ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 

 

-- 060109--                    

 

         

                                   ■■ 始めます ■■

     
 
 
 
 
 今日はウチは登別カルルスでした。(挨拶)
 
 はい、紅い瞳です。
 新年早々風邪などひいてしまい、すっかり出遅れてしまいましたけれども、もう大丈夫。
 しっかりと治しましたので、これからはまたガシガシと頑張っていこうと思います。
 諭吉は見つからなかったけれど。(もう諦めました)
 
 さて、今年ですか。2006年とかいう奴。
 ほんとどうしてくれようかとか、そんな感じですが、ってどんな感じか自分でも全然わかりませんけど、
 ええと、まぁほら、色々やりたいなぁとかあるわけですよ。
 実際こうして新しい年になると具体的にでてくる訳ですよ、こういうのしたいとか。
 たとえばほら、サイト改装とか?
 ・・・・・。
 うん、今のこのサイトの状態って実は知る人ぞ知る改装中だったりするんですけど、そんなことはいいじゃ
 ないですか。
 でも最近は全然イメージとか涌いてこないんで、改装したいったってそりゃ無理だよってとこなのですけど、
 ええっと、そういうことなので改装はまだいいや。
 トップページつまりこのページくらいは少しイジリたいかなぁとは思ってるんですよね。
 一応デザインはこのままでちょっと色々微妙な修正とかさ、たとえば拍手レスのとことか妙に中途半端な
 んで、あとネコミミモードはさすがに無いだろとか、要するにそういうことくらいはできそうです。うん。
 あと、改装の他に拍手へのお礼メッセージページももっと付け加えたいなぁって。
 今は聖×志摩子のページと千砂×一砂の2種類しか無いんで、やっぱりもうちょっと数を増やしたいなぁっ
 って確か去年言ったように思うのを不覚にも思い出してしまったので、少し考えないとね。
 んー、せっかくカレイドスターのアイコンが入ったからそれを使ってなにかネタをやりたいんだけど、色々頭
 こねくり回した結果、「いたの? ケン。」くらいしか思い浮かばなかったので、撤収。もうほんと撤収!
 
 で、今年はまぁほんと新年早々の出遅れモードさそのままに、まったりで始めます。
 アニメとかもあんまし新しいので見そうなのは無いので、感想も地獄少女と蟲師とトロイメントの続きと
 いう感じになりましょうね。
 とはいえそこは紅い瞳、まったく見ないという訳でも無く、いくつかは見てみようとは思っています。
 見て面白いのがあれば、勿論感想は書いてみるつもりです。
 ふぅ。
 まったく、たかがこれだけの内容についてよくもまぁこれだけ字数を重ねられるものだなぁ。(感嘆)
 
 P・S:
 「Fate/stay night」見ました。
 チャットにてこれが面白くないと感じた人は変わり者だよねとかいう謎な展開になって、それで調子に乗って
 それなら私が見て面白かったら私は変わり者じゃないんだとか息巻いて、ほんとごめん馬鹿で。
 そして、面白くなかった。残念だけど。ほんともう、ごめん。(色々な意味で)(でも色遣いとかは好きかも)
 あと、「功名ヶ辻」見ました。
 なんであんなにおじさんおばさんばっかりなんだろうって、正直思った。
 
 
 ◆ ◆
 
 はい、今年最初の蟲師感想です。
 先日の放送は2話連続放送でしたけれど、今回は1話についてだけお話させて頂きます。
 蟲師はじっくり時間をかけて見て、そしてある程度の時間をおいて感想を書いた方が良いみたいですので
 、また一話遅れの感想執筆となっていくこと、ご了承くださいませ。
 ということで、始めます。
 
 ■「蟲師」 第十話 :硯に棲む白
 
 ・まずは淡々と流れていくお話を眺めてみる。ただあるその流れの驚くほどの美しさを感じてみる。
  ひとつひとつ、丹念に。
 ・そしてギンコがやってくる。苦しむものを救いにやってくる。そのお話とそして、繋がる。
 ・蔵の中にしまってあった怪しげなコレクションのひとつであるその美しい硯。それを蔵に忍び込んで遊んで
  いた子供達がみつけ、そして正体不明の病に倒れた。淡々と、その責任を負っていく化野先生の動き
  が滑らかに描かれていく。
 ・その渦中の硯を拾い上げて、ギンコはその作者を捜しに出かける。その先で待っていたひとりの女によっ
  て、その硯は抱きとめられる。涼やかな邂逅、恐るべき凝視、そして空っぽの抱擁。
  その硯をずっと探していたという、その硯を創った女は淡々と語り出す。
 ・その硯への怨念を、そしてどうしようもないその怨みの始まりを。
 ・結婚相手に硯を創り続けることを認めて貰うために硯を作り続け、その果てに得た傑作はその夫となる
  べき男を殺した。殺すために硯を作り続けていたのか、それとも創らなければ殺さずには済んだのか。
  それを知る術を得ないまま、硯はその女たがねの与り知らないところで、静かに人を殺し続けていた。
 ・硯の行方を追えば追うほどに、誰かが死んだという噂を耳にする。誰かを殺すために硯を追って
  いるのか、それとも追わなければ誰も死ななくて済むのか。
  たがねにはなにもできることはなかった。だからせめて、硯を創るのはやめて、そして硯を追うのもやめよう
  と、そうするしかなかった。
 ・たがねは初めてあの硯で墨を磨ったとき白い煙のようなものがそこから湧き出たのを見ていた。
  それは他の者には見えなく、その見えない煙を吸ったがためにみんな死んだのだと思い、そしてそれを
  伝えなかった私が全部悪いとたがねは思う。だが、その目の前にもはやその硯は、無い。
 ・そしてたがねは、自分もその煙を吸ったのに死ななかった、というなにものにも代え難い負い目を得てし
  まう。吸っても平気だったから私は煙のコトを言わなかったのだとしたら、それは・・・・・
 ・重大な過失。それは愛する者の死としてその存在を証されてしまう。そしてその過失は、止まらない。
 ・『あの硯で、また死人が出たってよ。』
 ・力になりたいがなにもできないというたがねは、せめてその硯を買い取らせてくれとギンコにいう。
  自らが創り出した異形のものをこの手で消してしまいたい。だがギンコはそれを断り、そして。
 ・『なんなら、あんたも一緒に来るといい。』
 ・自らが所蔵し愛でていたものが異形の者であるという事をなによりも強く思い返す化野先生。
  そこにその異形を創り出した女を伴い、ギンコが帰ってくる。
 ・異形の硯を創った者と愛でる者、ふたりの想いは同じく自らの手でそれによって苦しむ人達を助けてあげ
  たいという無言の告白。それを受けてギンコは動き出す。
 ・自らを裁く前に自らが救済者たらんことを切に願いながら、全力を以てふたりはギンコに付き従う。
 ・子供達の口や耳から立ち上る雲。それを見つめるたがねの驚愕と憎悪。これが・・これが・・・・
 ・だがしかし子供達が平癒していくのを目の当たりにして、たがねの全身全霊はその子供達の笑顔をみつ
  め、そしてしっくりと溶けていく。
 ・こんな簡単なことで・・・たったこれだけの事をしてやれなかっただけでみんな死んで・・私が殺して・・・
 ・たがねの溶解していく魂は、そのたがねの懺悔を越えてその口から立ち上っていく。
 ・『良かった・・・・・・良かった・・・・』
 ・これ以上死人を出さなくて、そして私がこれ以上誰かを殺すことにならなくて本当に、良かった。
  いつのまにかごく自然にたがねの自身に対する責難は完結していた。
 ・化野先生に硯を壊すと強行に突っぱねるたがね。罪は罪、甘えてはいられないわ。それはあなたも同じ
  でしょ。
 ・化野先生の未練たらたらぶりが微笑ましい。そしてだからこそたがねの凛とした罪悪感と贖罪の意識は
  孤立していく。
 ・そこにギンコが入ってくる。硯を壊せば中の蟲は死ぬ。蟲に罪は無い。そして硯自身にも尚更罪は無い
  。
 ・『あんたが許せんのは、蟲の眠る硯を世に出しちまった自分の罪だろ?』
 ・それならを解放してやればどうだ。そして硯は大事に使ってやればいい。
 ・罪は罪、あんたはあんたってことさ。しっかり生きろや。
 ・雲となった蟲が零す霰が村の屋根を壊していく。その修理費を私に請求してもいいよとたがねが
  言う。どうやって払う?と問う化野にギンコが答える。
 ・『また硯を作りゃいい。すぐに身を立てられる。』
 ・あんたがちゃんと生きてけば、それが贖罪になるんだよ。最初からそうだったんだよ。
 ・それに納得するまでに時間はかかるだろうが、たがねはようやく罪の手前に置き忘れてきた自分を追い
  かけ始めていく。その辿り着いた自分にしかこの罪は償えないと、子供達の笑顔を見ながら感じていく。
 ・なんなら蟲入りの硯でも構わんから、という化野に未練たらたらだなと突っ込むギンコの風景。
 ・その化野の未練にも魂を吹き込むたがね。そのうち蟲が入ってる硯を創っても誰も殺さずに済むような、
  そんな人間になってみたいわ。化野もきっとこれからも自らの蒐集しているものが異形のものであると
  強く認識し直して、そしてまた集め続けていけると思うゆえに。
 ・すべてを了解したたがねが見上げた空には、大きな大きな白い雲が生きて浮かんでいた。
 
 
 
 うん、いいね、頑張ろう。
 
 
 
 

 

-- 060105--                    

 

         

                                ■■行き止まり地獄■■

     
 
 
 
 
 『いいです・・・・・もういいんです・・・・・・自分がどうすべきか、はっきりわかりました・・・』
 

                         〜地獄少女・第十四話・沙樹の言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 つらつらと、忙しなく駆け去る桜の命。
 一握の黒の飛沫を引きずりながら、懸命に闇を描いていく。
 最後の一隅まで舞い落ちた桜はやがて、其処に儚い命を散らす。
 瞬間。
 紅い黄昏が噴出し、それは止めどなく溢れ出たまま、滾々と闇を溶かしていった。
 絶対の、消えることの無い紅い、紅い、その空が、在って。
 瞳の裏にはいつも、その紅い闇が広がっていた。
 行っても、散っても、舞っても、それは変わらなかった。
 袋小路の壁の向うに広がるその紅い断崖から飛び降りたい。
 あてどなく歩くうちに、いつもと同じ悲しい此処に戻ってくるのなら。
 でも。
 決して。
 そう思っても。
 この黄昏は終わり、そしてまた、始まる。
 
 それでもこうして、ただ、みている。
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 わかっていた。
 ただそういうしか無かった。
 そして最終的に、というか最初から最後まで、そのわかっていたことと向き合い続けることしかできなかった
 。
 あのとき、父が死んだときに感じた違和感は、既にその発生段階からその存在に疑問があった。
 父は自殺なんかしない、という私の確信の確かさを問うことを、私は最初からずっとしていた。
 なぜ私は父が自殺なんかしないと、あそこまでかたくなに思えたのだろう。
 いや、それ以前になぜ私は父は自殺などしないと思おうと思っていたのだろう。
 私がその問いに対して発した答えは、父の私に対する愛情についての説明を滾々と為したものだった。
 母が死んでから、父と娘のふたりでずっとやっていこうとお互い誓い合い、そして私が父を想う以上に
 父は私のことを想ってくれていたのだと。
 私の将来のために懸命に働き、その積み重ねが絶対に私を幸せにすると信じて疑わない、そういう父だ
 ったのだから、そこでいきなり自殺などするという事がおかしいことくらい、当たり前過ぎるほどの当たり前だ
 った。
 だから、私はその理屈の通りに、ひとつ明確な答えを瞬時に出していた。
 父は自殺したのでは無く、殺されたのだ、と。
 それを裏付ける証拠は、少なくとも私の中には充分にあった。
 町長が暴力団と密会している写真を父が所有し、そしてその写真を持って出かけた夜に父は死んで帰っ
 てきた。
 その際にその写真を入れた封筒は父と共に帰ってくることは無かった。
 ええ、勿論わかっているわ。
 それを対外的に証すものなどなにも無いということを。
 私があの写真を「みた」という事実を証すものはなにもないのだから、周りの人間が動いてくれないのは、
 これもまた当然以上の当然だった。
 そんなの、充分過ぎるほどにわかっているわ。
 でもね、私があの写真をみたことは私にとってはまるきり真実なのだし、そしてもし他の誰かが私と同じ
 体験をしたとしたら、誰もが間違い無く私と同じ想いになるのもまた確実。
 証拠が整うかどうか、そんな事はなんの関係も無い。
 自分がみたもの、それだけがすべて。
 『それがすべてです。他人がどう言おうと、私は自分のみたもの、みてきたものを信じるしかありません。』
 ええ、それでも私は町長に自首して欲しかった。
 町長の良心に期待して、なんとか・・・。
 でも、それはあまりにもわかりきった反応だけを、冷たくしてみせてくれた。
 そしていつしか、町長に心を寄せる町の人々の中で、私は静かに孤立していった。
 わかっていた。
 わかっていたわ、ちゃんと。
 
 だから。
 
 地獄少女に、私は、出会ったの。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 怨めしかった・・・・のかどうか。
 町長達が証拠である写真を握りつぶした、というのは私の推測であることは間違いない。
 もし私がその現場を目撃し、そして父が殺されるその瞬間を目撃して、初めてそれは怨みへと繋がるの
 じゃないかと、思う。
 事実、私の中の感情を怨みと表わすのには、違和感があった。
 これはむしろ「怒り」というものじゃないのかと、私はなぜかわかっていた。
 私はひどく愚かに、なぜだか懸命になって町長達を弾劾していた。
 そんな弾劾に耳を貸してくれるものなどいないという事を百も承知で、きっともし耳を貸してくれる人がいた
 としても、むしろ逆に私自身がその人の耳の確かさを疑ってしまうような、そんな果てしなく無意味なことを
 していた。
 私には大事ななにかが絶対的に欠けていた。
 町長達に対する怨みの実感を、私はまるで持ち合わせてはいなかったのよ。
 「自殺を人のせいにするな」。
 玄関のドアに貼り付けられていた心ない張り紙。
 私は、ただこの言葉に怒ることしか、最初から最後までできていなかったのだと、思う。
 だって、私は、町長達の犯行を目にした訳でも、父が写真の事で苦しんでいたことを知っていた訳でも、
 そしてほんとうは、父のことを全部知っていた訳でも無いのだもの。
 段々、段々、腹が立ってきたわ。
 なんで私は、なにも知らないのよ。
 なんで父は死んだのに、それなのに私はなにも知らないの。
 その怒りの果てに父の死んだ理由を創り上げ、そのために生きていこうとした私の姿をさえ、私は見つめて
 いた。
 
 
 嗚呼・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・憎い・・・・・・・・・・・・
 
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
 
 
 
 鮮明に見えてきた対立の構図が憎しみを沸き上がらせた。
 私の知る父の姿を信じるしか無い私を拒絶する世界。
 町長達の無実が証されていくたびに、町の人達が結束して私を悪人にしていくたびに、
 私の瞳には圧倒的な真実が映ってくる。
 父との、暖かい思い出。
 そして、父と歩むべきはずだった、未来の道。
 町長の息子があまりにも馬鹿なことを言った。
 『親父が失脚したらどうなると思う。大勢の人が困るんだ。
  だがあんたの親父が死んでも泣くのはお前ひとりだけだ。
  あんたはあんたの感情だけでこの町を潰そうとしている。
  いい加減に気づけ! 町の人達があんたに怒っているのは、けして理不尽なことじゃない!』
 
 
 
 
 私は、一声、嗤った。
 高く、高く、啼いた。
 
 
 
 
 それなら、話は簡単よね。
 それならば、私は町のすべてを敵に回して、父のためにこの町を滅ぼしてやるわ!
 ひとりが泣いて残りが笑えるのが理不尽では無いというのなら、私は独り高く啼いてやるわ。
 父のために泣いてあげられるのが私だけなのならば。
 すべてを賭けて泣いて泣いて啼いてやるわ!!
 
 
 
 馬鹿ね。
 誰が真実悪いかどうかなんて、関係ないのよ。
 あんな馬鹿な息子しか得られなかった町長に、少しだけ同情するわ。
 
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 父は、困り果てていた。
 町長もまた、困り果てていた。
 老人を真から大切にしている町長にとって、老人ホームが暴力団関係のものの手に移るのは耐え難く、
 だから彼らと交渉してでも老人ホームを守りたかった。
 そしてその現場を、働いても働いても貯蓄もままならなかった父に撮影された。
 父はそしてそのネタを元にして町長達を強請ろうとした。
 おそらく、町長自身はそのことは知らなかったのだろう。
 たぶん息子辺りが折衝し、そしてたぶんその事を知った暴力団関係者、あるいは老人ホームの関係者が
 父を殺してしまったのだろう。
 いいえ、違うわ。そんなんじゃ駄目よ。
 父はやっぱり自殺したのよ。
 金を強請ろうと企てて、けれどそれを無下に断られた段階で、父は自分のしていることを悟ってしまったの
 だわ。
 娘を、汚れた金で育てようというのか、そんな金を掴んだ手で娘を抱いてやるのか、そんなことを考えた
 頭で娘の将来を案じるのか、そして、そんな事をしようと考えたその始めにそれでも仕方が無いとおもった
 自分になんの違和感も感じなかった自分の魂を、娘と共に歩ませていこうというのか。
 だから、父は、自ら死んだ。
 どうしようもない。
 ほんとうのほんとうに、どうすることもできない地獄よ。
 
 悪役なんて存在しない。
 正しいことなんて在ってもなんの足しにもならない。
 ただただ圧倒的に広がるこの地獄が、私をその向うに広がる地獄へと歩ませる。
 
 
 町長に詫びさせる?
 笑わせないで。
 復讐を諦めろ?
 馬鹿言わないで。
 
 私はもう、父と歩く道には戻れないの。
 
 
 通帳を眺めてすべてを理解した私。
 ほら、父の苦しかった今までの人生を証すものは、こんなちっぽけな額にしかならなかったのよ。
 町長達も、きっとなにも悪くなかったのよ。ただ当たり前のことをしていただけ。
 そして。
 この町は、この世界は、父と私を共に生きさせてくれることは、最初から最後まで、無かった。
 
 
 
 
 『父は、かけがえの無い人です。
 
  なにをしたとしても、私にとってはとても優しい父親だったんです。
 
  それをあの人達は・・・・・
 
  この町がどうなろうと関係ありません。
 
  私が父にしてあげられるのは、これだけなんです。
  
  ・・ごめんなさい』
 
 
 
 
 
 ・・・・・・・・・・・・お父さん・・・・・
 
 
 
 
 ・・・・・・◆◆・・・・・・
 
 またひとり、その瞳を紅く濡らした人をみる。
 どこまでも続く地獄が、どこまでも続いてきたことの悲しみは途切れない。
 ずっと、ずっと、続く、地獄。
 それでもまだ続けろというのなら、いっそ戻りたい。
 生まれてきた、その前に。
 この地獄の手前に帰りたい。
 その願いが見据える紅い黄昏の袋小路が穏やかに瞳を閉じさせていく。
 父を奪われた者、二人。
 娘と息子から父を奪った者、二組。
 奪われ奪ったものどもの相克が隅々まで行き渡ったとき。
 
 紅く濡れたひとりの姿が、此処に。
 
 
 
 
 『この怨み、地獄に流します。』
 
 
 
 
 
                                ◆ 『』内文章、アニメ「地獄少女」より引用 ◆
 
 

 

-- 060101--                    

 

         

                                ■■初日の出見えない■■

     
 
 
 
 
 新年早々紅い瞳が馬鹿では無い証しが立ちました。(風邪をひきました)
 
 改めまして、あけましておめでとう御座います。
 本年も魔術師の工房共々まとめて宜しくお願い致します。
 いやほんと、大晦日に来年もはりきって楽しむゼとかほざいていた舌の根の乾かぬうちに喉がかれて風邪
 をひく普通にバカな奴ですけれど、どうぞ見捨てないでやってくださいませ。
 あと諭吉がひとり行方不明になった。(さりげなく悲痛な告白)
 
 さて今年はもうなんというかかんというか、既にもう熱っぽくて(風邪で)色々盛り上がってるので(体温が)
 、まぁ特にいうこともなくてきぱきとまったりとやっていきます。なんだそれ。
 というか今日はあんまりお話することは無い訳ですよ。
 たんに年始のご挨拶をするだけのことでしたし。
 てか喉痛いし、もういいよもう。
 今年の抱負?
 
 
 
 健 康 に は 気 を 付 け る 。
 
 
 
 
 
 
 あと諭吉を探す。(明日から家捜しです。うん明日から)
 
 
 
 

 

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