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◆◆◆ -- 2006年7月のお話 -- ◆◆◆

 

-- 060727-                    

 

         

                               ■■ 今のこのデアイに ■■

     
 
 
 
 
 XXXHOLiC第十六話が過ぎて。
 
 
 
 
 
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 静かな水辺。
 ゆるやかな風の流れが水面を伝い優しく消えていく。
 決して立ち去らないその場所だけが視界を覆う。
 そのまま広がり続ける時間の堆積が織りなすこの瞬間。
 どことも通じ、誰とも通じ、そしてただひっそりと佇むその水辺。
 そこでなら、そして、そこからなら。
 きっと。
 
 
 どこからとも無く降りてきた淡い光。
 陽の光さざめく真昼の灼熱を乗り越え旅してきた水色。
 旅塵にまみれたはずのそのひとひらの蛍はそれでも懸命に身を清めている。
 あるがままに、あるべきままに、必死に、必死に。
 息を止めてすべての想いを傾けてひたすら美しくに。
 ふわり。
 その浮遊を見つめる視線に照らされて、その青い光は初めて当たり前の姿への変貌を獲得する。
 初めからただそこに居たように、ずっと昔からその空に漂っていたかの如くに。
 生まれたてのまま生き続けた聖なる蛍火が、やがて訪れる愛しい夜の手前で踊っていた。
 ゆるやかに、優しく、ただ美しく。
 すべての心掛けと魂が消えて後、それは真の光となって夜へと溶けていく。
 
 
 記憶の群に埋もれるにはまだ早く、それでも過去のものとしか言えないもの。
 忘れる訳も無く、そしていつも考えている訳でも無く、それはただそっと手を添えて仕舞われている。
 だからそれはすぐに思い出す。
 目の前に現れたものの意味と、その存在の感触を。
 触れるまでも無く見るまでも無く、それの現出そのものが既にすべてをそこに顕してくれる。
 時を遡るまでも無く、かつて在った想いがその命を今に繋げて姿を現してくる。
 また、会ったね。
 姿は無くともすべては確かに顕れた。
 嬉しさや気恥ずかしさや不安や心配や、それらすべての想いだけが時を遡り消えていく。
 お礼を、しなくちゃね。
 なにを考えるとも無く、かつて出会った人から新しく世話になったお礼を、今したいと想う人がいる。
 なんのためにお礼をするのかを考えることなく、お礼そのものが目的となりて体を突き動かす。
 お礼をするために、また会いたい。会わなくちゃ。
 その真摯な想いだけで磨かれていくこの体が、その水面に映る月の中に吸い込まれていった。
 
 
 
 遙か遠くにまで響く一条の笛の音。
 霞のかかる夜の森を照らす導きの音色。
 世界を等しく濡らす月光のおぞましき身勝手から守るために流れる風の振動。
 森往く人の標となるべく凛然とその魂を磨き広がっていく。
 嫋。
 たなびく音色を見つめた瞬間に、その音が嘘も無くただ空を流れていたことに気づいてしまう。
 ただ音は、流れていただけ。
 森がきれたところで、その音は遠く遠くただ月の元に召されていくのを定めとするものであると知る。
 自由気ままに、流れるがままに。
 その自在の在処が其処に顕れる。
 颯。
 すべてを月光に支配されさめざめと凍り往く穏やかな生命の現在が其処に。
 玲瓏たる調べがまばゆいばかりに辺り一帯に染み渡っている。
 笛の音の消えた、笛の音の中の世界。
 等しくすべてを照らす月光の中に在る画然と籠もる音の場所。
 濁り輝きその輝きが濁りそのものとなって月へ昇っていく。
 颯々。
 微動だにしない風の住まいがそこに顕れる。
 流麗でありながら混沌とし、乱れ果てていながらもやがてすべてが穏やかに在り続けていく。
 嫋々。
 颯々。
 乱れるままに、清らかなるままに、おとなしく、冷たく、さらに愛しいほどに。
 嫋。
 見る者を捉えて離さない広大な闕所。
 人のいない寄る辺無き絶対の自然があるがままに其処では生きていた。
 颯。
 自在に揺れ動く広大無辺の小さな自然がやがてひとりの存在となって顕れる。
 最初からそうであるように、それを見つめるものの眼差しによって生まれ出でる。
 かたくなに融合を厭う岩肌に想いを寄せ共に朽ちるまでゆっくりと生きていく存在。
 優しくその冷たさを抱きしめてやがてそれが自らのぬくもりで深々と暖まるのを知っている。
 それでもその存在はそのひとつひとつの岩肌達の冷質を愛している。
 冷たいままに、暖かいままに、やがて集う月を見上げて。
 今、このときこの場所で、生きている私達の愛を、生きて。
 
 
 舞い降りた青い光達がその存在を風の場所へと閉じこめていく。
 冷たい風の降り積もる月光に育まれたそれでも穏やかなこの場所で。
 それはそれとは別のものでは無く、同じものでありながらそれのすべてであるもの。
 この世界の一部にしてこの世界のすべてであるこの存在と、出会う。
 再会。
 
 笛の音が止まりその存在は目の前のものへ触れる存在となる。
 俯きながらはにかみながらゆっくりとしっかりとすべてを噛み締めて。
 ひとつひとつの言葉が決して無駄にはならない。
 自らが奏でる言葉が目の前のこの人に触れることのできる喜びは絶え間無い。
 この人と共にあるこの時間のすべてが愛おしい。
 その上この人が私に声をかけてくれる。
 その上この人が私を見てくれる。
 それが嬉しくて溜まらなくてもう死んでもいいくらい。
 でも。
 でも。
 それだけじゃ駄目。
 いいえ。
 そうだからこそ。
 もっと。
 もっと、言わなくちゃ。
 
 『あ、あのなにかこの山に御用ですか? だったらああの、私、ご案内したいですっ!』
 
 もっとこの人と一緒にいられるのなら。
 もっとこの人の世界と繋がっていられるのなら。
 私が、私だけが、この世界の中であなたと繋がれるように。
 そのためには、私は他の誰かと一緒にあなたと繋がっても構いません。
 どんな世間話でも、どんなつまらない話でも、私、それだけで楽しいです。
 だってその話をしてるのは私なんだもの。
 でもやっぱり。
 それが嬉しいからこそ、愛しいからこそ。
 私のことを、聞いたり話したりして欲しいんです。
 私を、私だけを。
 そうしたら、あなたは私にプレゼントをくれました。
 お世話になったお礼だと、あなたはそう言いました。
 あなたはただお礼するために私に会いに来ただけだとしても。
 あなたは私に会うためにお礼しに来てくれたのでは無いのだとしても。
 そのプレゼントは、私が貰えるんですよね。
 嬉しい。
 嬉しくて、嬉しくて・・・
 
 
 ゆっくりと光り輝いていく青い蛍火の群生。
 闇よりも深くきらめき光よりも高く空へと至る美しい生命の集まり。
 この中に、この内に、私が居る。
 そして、これらすべてが私で在り続けている。
 愛しいあの人がくれた髪留めを、優しい友達が私にしてくれて。
 騒がしいけど私を守ってくれるあの子たちが私を見ていてくれて。
 邪魔されて、それでもそれは邪魔にならなくて、邪魔だから、邪魔じゃなくて。
 ああ・・・・・・・・嬉しい・・・・
 それでも私があの人たちのあの世界の中に居ることは確かなのだから。
 
 
 
 『またね。』
 
 
 
 『はい。』
 
 
 
 いつまでも、いつまでもずっと此処に居たいと、ゆっくりと、なによりもゆっくりと想いました。
 
 
 
 
 
 
 どうか、見上げた空に浮かぶ私たちの月に、この愛しい青い光が届きますように。
 
 
 
 
 
                             ◆ 『』内文章、アニメ「XXXHOLiC」より引用 ◆
 
 

 

-- 060725-                    

 

         

                               ■■蚊とヤモリと私と縁■■

     
 
 
 
 
 わがものがおだな。(挨拶)
 
 この頃、夜になって電気を消してさぁお休みなさいという頃合いを見計らって、蚊が飛び回り始める。
 約1匹。
 でもですね、これがまたちょっと普通の蚊とは違う奴みたいで、なぜかやたらと飛ぶスピードが速いんです。
 耳元のそばを通過したときに感じるプーンという音が来て近づいてから遠のくまでの時間が短いことで
 それはわかります。
 なんか妙に速い。
 そいつが毎晩毎晩部屋の中を飛び回っているのです。
 めっちゃ、眠れない。
 私はね、刺されるよりも、あのプーンという羽音がヤなんです。
 超うるさい。
 で、とにかく手で追い払うんですけど、そんなもの意味が無いに等しく、またさっさと蚊取り線香つけても
 、それでも全然効いてる気配が無い。
 って、あのマット型の蚊取り線香って、ほんっっっと効きませんよね。
 前に壁に止まってる蚊見つけて、静かにその蚊取り線香近づけてみたら、まるで意に介さずに普通に
 壁に止まったままでしたからね。
 蚊取り線香持って中腰で壁に近づけたり離したりしてる自分の姿があまりにも哀れでした。
 そんな蚊取り線香なんぞ、何時間つけても無駄なので、仕方なく電気をつけて直接叩き落とすことに。
 当たり前ですけど、蚊って潰すとぐちゃってなって汚いので、平手で叩き落としてぴくぴくしてるのを摘んで
 外にほっぽりだすのが私のやり方です。
 無駄な殺生はしたくないので。
 でもなかなか仕留められなかったり、刺された箇所が多かったり、特に寝入りばなに耳元を我が物顔で
 飛翔した奴には儚く散って貰いますけどね。自業自得じゃ。
 で、電気つけた途端に、羽音が止むわけですね。
 影も形もありゃしない。
 なんのために電気つけたのか、まるでわかりません。
 5分待っても10分経っても、気配すらなし。
 そして、なにもいない空間とにらめっこしてるのが悲しくなってきて仕方なくて電気を消すと、
 1分も経たずにプーンと。
 プチ。プチプチプチ。
 久しぶりにキレるっていうことがどういうことかを思い出してしまいました。
 あー、これが殺意で奴なんですね。
 そして再び電気をつけて、あたりを血眼になって探すアホな私。
 夜中にひとりで一体なにをこの人はやっているのかと思うまでに、割と結構時間がかかるようになってし
 まいました今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。
 私は、蚊を退治することで頭がいっぱいです。
 お前を倒すのはこの私だ。だからそれまでは絶対に死ぬな。
 
 
 ◆
 
 やーもー、なんか書くことが全然無いんで、しょーもない話をしてしまいました。
 まぁでもそれが紅い瞳のレベルに合っているというような、そんなところでしょうね。
 あーほんと話無い。
 あ、でも、この間生まれて初めてヤモリみたよ。
 ヤモリって、あれね、トカゲみたいな奴。
 お風呂の窓の外側にいきなり張り付いてて超びっくり。
 たぶんお風呂の灯りに吸い寄せられてきたんだろうけど、今までこんなの見たことなかったから、その原因
 が少々気になるところ。
 ヤモリって家守って書いて、昔から良い生き物として大切にされてるから、逆にいえばこれはなんか今年は
 良いことあるんじゃないの? っていうそういうささやかな幸せ感があってでもちょっと快感。
 既に何日かに渡って連続で目撃中で、この間は2匹を同時に確認。
 雨の日は来なくて、それ以外の日はほぼ毎日白いお腹を見せて楽しませてくれています。
 やば、なんか捕まえてなでなでしてあげたくなってきた。
 でもあの位置だと窓を開けようとした瞬間に逃げられるのがオチですし、それなら外に出て外から捕ま
 えれば良いということですが、そんな根性が私にある訳が無いことは自明のことであります。
 ま、正直めんどいっていうのもありますけど、ただ窓の内側から彼らの暢気な行動を見てるだけなのも
 良いものだし邪魔するのもなぁと思うのがありますしね。
 なんか、こうした出会いに縁を感じちゃうんだよねぇ、最近。
 ・・・・年かなぁ・・・・ (いやな結論)
 
 
 ◆◆
 
 はい。
 本とか割と読んでます。
 何度か書きましたけど、私は読むときは読みまくりだけど、読まないときはかすりもしない、というタイプの
 似非読書家なんですけど、今回は割と普通に貪るほどでも無く離れるでも無く、まこと程良い加減で
 書を嗜んでいる次第で御座います。
 真夏になったらそれこそ問答無用で暑くて読む気なんて起きませんから、この時期に読むことができて
 少々安心。
 今は、ずっと探していてようやく借りることの出来た、浅田次郎「輪違屋糸里」を読んでいます。
 浅田次郎は「壬生義士伝」以来の2作目。
 その次は岩井志麻子「黒い朝、白い夜」を読む予定。
 その次はまだ決まっていないので、現在本を捜索中。
 あーそういえば、上遠野浩平のブギーポップシリーズとかビートシリーズって今どこまで出てるんだろ?
 ブギーは「ジンクスショップへようこそ」、ビートはサイド2までしか読んでないや。
 あと、京極夏彦の「姑獲鳥の夏」が珍しく図書館に無くて難儀中。
 これさえ読めば京極堂シリーズ再読計画は完了するのに。
 そういえば次作の「邪魅の雫」はまだ出ないのかな?
 ていうかもう出てたりして。私が知らないだけで。あり得る。大いにあり得る。
 
 
 ◆
 
 あー、書くことないときって日記らしい日記になりますね、ほんと。
 そして大した内容じゃないのにこれだけ字数を稼げる私の豊かな才能に乾杯。
 さて、またいい加減な妄想というか覚え書きというか口から出任せというか言いたい放題というか。
 なんか水銀燈について書きたい今日この頃。
 なんていうか滅茶苦茶身体的なイメージで、こう、闇の淵から立ち上がる感触とか、なんていうか
 ぬめぬめとしていながらもどうしようも無いくらいに硬質なやつを。
 言葉を綴れば綴るほどにその言葉の存在意義が薄れていくような、それこそ無言の行の向こうにしか
 現れないなにか強大な恐怖みたいなものを、それを決して描くことなく滲み出せるようなやつを。
 あとまた旧白白を書きたい。
 どっちかっていうと志摩子さんのほうを書きたい。
 こっちは逆に延々と延々と、あまりにも嘘くさいほどに理屈を書き散らしてみたい。
 でも結局私が書けばその理屈を吐き続ける志摩子さんという姿が見えてきてしまう、ということを思い
 知りたい。
 
 ていうか、その前にホリックなんとかしろよ、自分。
 
 
 はい、わかってます。ごめんなさい。なんとかします。
 
 
 ◆
 
 お知らせー。
 このページの上の方やBBSでもお知らせしましたけど、チャット会行います。
 名付けて、「夏初め大会」。
 特にネーミングに意味など御座いません。そんな感じでいいかと思っただけです。ツッコミいらない。
 それで、日時は7月29日土曜日午後11時30分より適当に疲れてきたら終了という感じで、
 場所はいつもの如くチャットルームで、ということで。
 まぁ、いい加減にまったりとお話できたならば幸いかと。
 多くのかたのご参加をお待ちしております。勿論どなたでも、いらっしゃいませ。
 
 
 ってな感じで、バイバイ! (すごらじ風に)
 
 
 
 
 私信的追伸:
 今までも勿論そうだったんですけど、最近は拍手があるとすごく嬉しいです。
 いつも数自体は多く無いのだけれど、拍手されてるととても良い意味で緊張します。
 というよりむしろ絶対数としては少ないからこそ、されたときのありがたみと、そしてこれは一体どういった
 ことに大して拍手してくださったのだろうかとか、そういうことを考えるとこれも良い意味で夜も眠れません。
 いや嘘ですさすがに眠れてますごめんなさい。
 ひとつひとつの拍手と向き合ってサイトを運営していけるのはとても嬉しいことですので、拍手してくださっ
 ている皆々様には深く感謝致します。ありがとね。
 これからも私は不甲斐ない情けないみっともないの三拍子揃ったヘタレな更新意欲を叱咤激励しな
 がら、この魔術師の工房を続けていこうと思っています。
 改めまして。
 拍手、感謝。
 
 
 

 

-- 060723-                    

 

         

                                  ■■ イキテあげる ■■

     
 
 
 
 
  XXXHOLiC第十五話。
 
 
 
 
 
 
 ずっと、生きたいと思っていた。
 でも、そんなことを思わなくても、既にどうしようも無く生きていた。
 それは絶対に変えられない姿をして、目の前を歩いている生だった。
 どうして生きているということが、目の前に転がっているのか、わからなかった。
 どうして、生きていることを知ってしまうのだろうか。
 でも、知らなければ良かったなんて、思えない。
 知らなくても、なにも変わらないのだから。
 
 ただ、ただ、変わりたかった。
 生きるということよりも、ただずっと。
 
 
 
 
 〜 すべてを賭けて言葉を描く苦しみが
 
 
 自分で自分を縛っているということに気づいたのは、いつの頃だったか。
 それはもしかしたら、自分という存在が此処にあると気づいたのと同時にだったのかもしれない。
 縛られている、その対象としての自分、それを感じることで今此処にこうしているような気がする。
 気がついたら、ひどく沢山のものに縛られて生きていた。
 そして縛られていることで、初めて縛られている対象であるところのこの体を感じていた。
 でも、だから縛られていること以外のことを知らなかったという訳じゃない。
 逆に、なによりも強く縛られていないということがどういうことかを知っていた。
 なぜなら、誰が誰を縛っているのかを知っていたのだから。
 意識はしていた、と思う。
 自分で自分を縛っているということはわかっていたと思う。
 なんのため、に。
 それは、信じられないくらいに強く欲しいものがあったから。
 どうしても欲しいものがあった。
 だから、それに見合うだけの存在にならねばならなかった。
 だから、縛った。
 縛らなくてはいけなかった。
 あれも駄目、これも駄目、すべてはその求めるものに相応しい存在になるために。
 あれも駄目、これも駄目。
 縛れば縛るほどに、なにものにも囚われずに気高く生きている姿がはっきりと見える。
 そして縛られれば縛られるほどに、この体がその姿から遠く離されていくのを感じていた。
 気が、狂う。
 なんのために、なんのために、縛って。
 そこで、気づく。
 なぜ、「縛る」という言葉を選んだのか。
 その言葉を選んだのは、一体、誰?
 
 
 自覚的な体。
 臆病な心。
 なにかをしないではいられなかったくせに、なにもできはしないと思っていた。
 なぜ、縛ったのか。
 それは、きっと、「縛る」という言葉が其処にあったから。
 言葉は便利。
 この体から作り出す言葉が、紛れも無くこの体を支配していく感覚。
 なにかを求めることを、なぜしたのか。
 なぜなにかを求めている自分を受け入れているのか。
 なにも求めなければ、いいのに。
 ただあるがままで、居られればいいのに。
 でも、それは嘘にしかなり得ない願望だった。
 どのような由来や理由があろうとも、なにかを求めているということは絶対なのだから。
 求めているものの姿すらも鮮明であるのだから。
 強く、激しく、美しく、それはすべてを超越して目の前に存在している。
 
 だから、怖かった。
 怖くて怖くて、恥ずかしくて殺したいほどに生き延びたかった。
 
 絶対に求めるものは得られない。
 得られないのなら死ぬしかない。
 でも死にたくなかった。どうしても生きたかった。
 だから、言葉で縛った。
 縛れば言葉がこの体を支配し、またその呪縛がその求めることの責め苦から守ってくれると思ったから。
 縛れ縛れ。
 縛られろ。縛られろ。
 この手で紡いだ言葉の鎖が体中に張り巡らされていく。
 肌の下を這う冷たい感触が体の隅々までを満たしていく。
 嗚呼・・・体の内から磔にされていく。
 欲しくて堪らないものへと至れないこの体をその罪が刺し貫く。
 体の真ん中を通り抜けていく一陣の風。
 凍えるほどに冷たくて、燃えるほどに熱いその瞬間。
 縛り縛られたこの存在が愛おしくてたまらなくなる。
 だから、生きてもいいんだ。
 だから、コロシテあげる。
 
 
 
 ◆
 
 言葉、言葉か。
 言葉そのものを求めている訳じゃないんです。
 ただ、変わりたかっただけなんです。
 それはもうずっと昔からそうだったんです。
 妹のように明るく活発で、自分の想いをちゃんと口にできるような、そんな人間に。
 でもなれなかったんです。
 なれるわけもなかった。
 どうしてそう思うのかというと、そうとしか思えないからです。
 なぜそうなのかはわかりません。
 でも確かにそうとしか思えない材料はいくらでも見つけることができて、だからいつまでも妹のようになれ
 ない理由を言葉にして示すことができたんです。
 妹のようになりたいと思えば思うほどに、妹のようにはなれないと言う言葉を紡ぎ、またその言葉を示せ
 ば示すほどに、妹のようになりたいという想いを守ることはできたんです。
 いつのまにか、だから妹のようになることよりも、妹のようになりたいと思い続けることのほうが大事になって
 いたのかもしれません。
 馬鹿みたい。
 でも、仕方無いんです。
 そういう人間なんですから。
 それが、選んだ言葉のすべて、でした。
 
 
 それなら、その言葉を変えればいいと、言われました。
 この体を支配する言葉を書き換えれば良いと。
 
 
 
 『最近はね、やってみないとわからないって言ってみるようにしているの。』
 
 
 
 
 
 書き換えた言葉を纏ってみた。
 するすると巻き付いていく鎖の感触が愛おしい。
 前向きに、前向きに、良く考えるように、良い言葉を作り上げて。
 縛る、縛る。
 縛られる、縛られる。
 変われた。
 少しだけど、変われると思えるように、変わった。
 楽しかった。嬉しかった。
 生きていて良かったと思った。
 言葉が、言葉が。
 これは・・・これは・・・・・・・・
 幸せが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・腐って・・
 
 
 
 
 『言葉は生きているの。』
 
 
 なんでこんなに無防備に笑っているの。
 こんなの・・・・こんなの・・・・・本当に・・・・・・・死んじゃう・・・・・
 
 
 
 
 
 
 『そう。言葉は怖いわよ。』
 
 
 
 
 
 
 
 ++++ 言葉と私と求めるものとそれでも私と
 
 
 
 
 
 言葉。
 それを使う私が居る。
 私は言葉にはなれずに、言葉もまた私にはなり得ない。
 ただそこに使うものと使われるもの、支配するものと支配されるものだけがあった。
 どんな言葉を綴ろうとも、どんな鎖で私を縛ろうとも、それで私が変わるということはあり得ない。
 私は私、絶対に私。
 どんなに前向きに考えていっても、それだけでは決して私は変われない。
 様々な制約と呪縛が一気に押し寄せる。
 前向きな言葉に乗り移ろうとした浅はかな私に、それら私の業苦が迫り来る。
 私は駄目。
 人前に出て働くなんて無理。明るく人と話すなんて無理。
 妹は私に敢然として言い放つ。
 『無理。』
 『駄目。』
 『失敗。』
 『やっぱり。』
 
 
 ああ・・・・・・ああ・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・私・・・・・・・
 
 
 なんで・・・なんで・・みんな・・・私のこと・・・・
 私だってがんばりたいのに・・・
 どんなに無理だとしたって、私だってなにかしたいのに・・・・
 でも・・・私は私だから・・・・どうしたって・・・・ひとりじゃ・・・・無理なの・・・
 だから助けて貰いたいのに・・・・・・励まして・・・・欲しいのに・・・・・
 なのに・・・・誰も・・・・・・・みんな・・・・・・・・・私を・・・・・・・・・・
 私がどんなに真面目に懸命に生きようとしても、その努力は認められない。
 そんな努力しなくていいからあなたはあなたのままでいいと言われる。
 私が失敗すれば、ほら言った通り、と言われるだけ。
 慰めてくれなくたっていい。失敗を叱ってくれるのでもいい。
 でも、それをするな、しなくていい、とだけは・・・・・もう・・・・言わないで・・・・・・
 その言葉を聞くたびに、私はどうしようも無いほどに私を呪い縛ってしまうのよ・・・・
 ほんとうにどうしようも無いくらいに・・・・・・取り返しのつかないくらいに・・・・
 その安楽な状態に逃げて、そこから逃げ出すことができなくなるくらいに・・・・
 私は! 私は私は!!
 楽になりたいんじゃない!
 逃げたくない。逃げていたくない。
 どうしても逃げちゃうから。
 だから絶対に逃げる訳にはいかないの。
 私はその逃避と戦うことしかできなかった。
 結局それは、その戦いというそのものに逃げることにしかなれなかったのかもしれない。
 どんなに頑張っても、必死になっても、私は・・・・・・・・
 私は・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・・・・私のまま・・・・・・
 だったら私は・・・その私を・・・・・殺して・・・・・
 響く。響く。
 私を縛る鎖のたてる波音が。
 私・・・もう・・・・・・ほんとうに・・・・・・駄目なの・・・・・かな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 でも、
 
 誰かが、
 
 まだ、なにか、言ってる。
 
 まだ、なにか、言葉を。
 
 
 
 それを、聞いている、私が、まだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『願いは、ある?』
 
 
 
 
 
 
 
 あります。
 
 
 
 
 
 
 私。
 
 
 
 
 
 
 『変わりたい!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆◆
 
 どんなに前向きな言葉を綴ってそれでこの体を縛ったとしても、それだけでは変われない。
 なぜならば、この鎖はとても多くの存在によってこの体にかけられたものでもあるのだから。
 妹や、父や母や、世界のすべてが、この体に厳しく鎖を巻き付けている。
 だからどんなに自分だけが良い言葉で縛っても、それ以上に悪い言葉でこの体が縛られてしまえば、
 その言葉はまるで意味が無くなってしまう。
 そればかりか、それが引き金となって絶望を呼び込んでしまう。
 どんなに前向きな言葉を綴って、必死に立ち上がろうとしても、それでもそれらはすべてうち消されてしま
 うのだから。
 言葉は言葉でしかない。
 言葉という鎖が縛っているのは言葉では無く、自分。
 だから。
 
 此処に、私が、はっきりと、残った。
 
 
 『楽でしょう? 言葉に縛られたままでいるのは。』
 
 
 ええ、ほんとうに、楽ね。
 絶望に溺れることほど、楽なことは無いわ。
 これ以上無いというくらいに、悲しみも底を突くほどに、激しく、憎いほどに、楽なのよ。
 涙が止まらなかった。
 ああ、もう、なんてこと・・・・・なんて私は・・・・・・愚かなの・・・・・・
 私は・・・・・・私は・・・・・・私ほど・・私のことを知っている者は居ないというのに・・・・・・
 私が望むもの・・・・・・・
 それは、なにかを望んでいるという私。
 そして、その願いは、きっと最初から叶えられている。
 私は、私なんて言葉はそもそもいらない。
 私は私という意識を持つ必要が無いくらいに、ずっとずっと初めからただ私だったの。
 私は、その始まりからずっと、変わりたいと望んでいたのよ。
 誰に言われるともなく、もちろん私に言われるとも無く、初めから。
 だから、私は・・・・・・・・その願いを・・・・・・
 
 
 
 
 
 『選んだ自分が責任を取るのよ。』
 
 
 
 私の幸せは言葉でなんか作れはしない。
 言葉で私を動かすことは出来ても、言葉では私を変えることはできない。
 
 
 
 『あなたにとって、今のこの状態が幸せなら、別にこのままでもいいのよ。』
 
 そんなこと、あり得ない。
 こんなもの、絶対に幸せじゃない!
 
 
 『今の楽さは、きっとうまくいくと言って本当に出来たときの喜びより大事なもの?』
 
 いいえ。
 いいえ。
 いいえ!!!
 
 
 
 私は。
 変わります。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 侑子さんは私の願いを叶えるための対価として、私の長く伸ばした髪を要求しました。
 私は即座にそれの意味することを理解しました。
 髪を切る。
 それがもう、既に私の願いを叶えたことになるんです。
 髪を切っただけで、世界は180度目一杯変わりました。
 でもこれは、それでもまだ第一歩にしか過ぎません。
 でも。
 もう、私は、変わったんです。
 それは言葉だけでは無く、いいえ、言葉を使う必要も無く、そうなのです。
 私は、変わった。
 まるで、初めからこういう人間であったかのようにして。
 私にとって意味があるのは、前向きな言葉では無く、既に変わったと言える私自身だけだったのです。
 私は、変わることのできない私のために、変わってあげた。
 私が変わらなくて、誰が変わるんですか?
 ええ。
 私、生まれてきて、生きていて、良かったと思えます。
 私が私であることは、決して私が決めたことではありません。
 きっと、私が決めることができるものなんて、本当はほとんど無いのでしょう。
 実はすべてが必然だった、と言われても私はそれに頷きます。
 でも。
 私は、その必然として在る私のことが。
 
 好きで、好きで、愛おしくて、たまりません。
 
 その愛もまた必然だとしても。
 なにも変わりません。
 だって。
 私にとって一番大事なことは。
 その愛を私が選んだかどうかでは無く。
 
 
 
 その愛が、この胸に在るということだけなのですから。
 
 
 
 
 
 
 だから。
 すべての存在に。
 私と鎖で繋がるすべてのものたちに。
 
 
 
 
 
 『ありがとう。』
 
 
 
 
 
 言葉は生き物だということを、ようやく理解することができたような気がします。
 
 
 
 
 
                             ◆ 『』内文章、アニメ「XXXHOLiC」より引用 ◆
 
 
 

 

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                                 ■■ コロシテあげる ■■

     
 
 
 
 
  XXXHOLiC第十四話。
 
 
 
 
 
 
 
 鏡の前にちらつく光。
 灯がすべて消えた部屋に入り込む愛。
 在ることを表わすすべてのものを口に含み、そっと近づいてくる。
 獰猛で甘い吐息。
 如何なる匂いも物音もしない闇の淵。
 崩れるように流れていく黒髪。
 ぴたり。
 それは止まる。
 髪が、髪が、この髪が、感じて。
 見つけてしまった。
 薄く空いた窓から漏れるぬるい風が部屋に広がっている。
 消えた。
 完全に、消えた。
 だから。
 
 居る。
 
 それは、絶対に、もう、此処に、ずっと。
 
 
 
 夜の欠片が空を舞っている。
 硬く暗黒に染まった蝶が浮かんでいる。
 音も無く、命も無く、闇の外へ、その外が無いことを証す飛翔。
 ゆらり。
 黒いアゲハ蝶の影が溶けていく。
 なにも無いことをその羽に刻んだ生物の影が、夜空の中に収まっていく。
 どこまでも飛んで、いつまでも飛んで、そしてどこにも飛べず、いつまでも飛べず。
 闇に貼り付けた蝶の骸の群れが、深々とその夜空の速度を増していく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆
 
 無を、知らない。
 なにも無いということを、知らない。
 自由を、知らない。
 たぶん、だから、なにもかも、知っている。
 なにもかもが在る。
 どうすることもできない。
 なにかをするということは、すべてなにもしていないに等しい。
 なにもしなくても、なにかをしているということに等しい。
 なにも感じなくて、なにもかも感じずにはいられない。
 ごくごく、普通。
 普通で無いことなど、無い。
 それはあまりに歴然としていて、あまりにも厳然としていて、あまりにも、あまりにも。
 逃げることはできない。
 逃げるということを知らないから。
 逃げると言う言葉も存在しない。
 だれが、どこに、にげるというの?
 どうして?
 なぜ?
 どうして、なぜ、わたしはそとににげたいとおもうの?
 そともまた、わたしなのに。
 わたしでないものなど、ない。
 わたしは、無を知らない女。
 
 
 
 
 
 ++ 始まりも終わりも、終わりも始まりも、なにもかも、初めから終わりまで、無い、ということから ++
 
 
 
 
 
 びいだま色の風が吹いている。
 透けているのか濁っているのか、たぶん透けているのにどうしても向こうが見えないその風に遮られて、
 私はゆらゆらと佇んでいた。
 もしあの風が私の髪の先に触れたら、絶叫しよう。
 そう思えば思うほどにその風は薄く透けて、その姿を消してしまう。
 向こうが丸見え。
 もう遮ってくれるものがない。
 強い眩暈が背筋を舐め上げていく悪寒にしびれているうちに、いやになめらかで重たい吐息が口から
 漏れていた。
 どうせ、駄目なのに。
 手回し良く風を掻き分けようとする衝動を抑えたというのに、それなのにふらふらとこの体は彷徨っている。
 なんのために叫ぼうとしたのかすら、わからない。
 叫ぶために風が来るのを待っていたはずなのに、叫ばなくて済むことでしかこの体は流れていかないことを
 、はっきりと私は知っている。
 無尽蔵に動き回るこの体に見とれているうちに、いつしかその私の眼差しすらゆらゆらと風に乗って、
 どこまでもいつまでも何処かへと飛び去っていく。
 私は風になんか触っていないはずなのに。
 なのに、それなのに。
 私はいつも、風に攫われていく。
 
 次。
 
 羨ましいと思ったことは、たぶん無い。
 当たり前のことだと思っていた。
 それは自分がいずれしなければならないものだと、なによりも凶悪に自覚していた。
 求めていたものを手に入れようとしてもどうしても体を動かすことができなくとも、それを求めることだけが
 私にはあるのだということを諦めることは決してない。
 羨ましいだなんて、思わない。
 悔しい。
 溢れかえるあまりに、自重で深く深く沈んでいく凄まじい感情の群のひとつひとつに愛を込めて。
 話せば、わかるわ。
 よく話して、抱きしめ合って、そうしてひとつひとつそれが私であることを確信して、そうして其処に「私」が
 顕われる。
 それはもう、紛れもなく目に映る絶対の「私」。
 私に「私」が無いことなど有り得ない。
 疑うべき私など存在し得ない。
 それは、疑えば疑うほど、より重く鮮やかに深まっていく「私」になっていくだけ。
 私には、「私」がはっきりと見える。
 なにをしたくて、なにをしなければいけないと思っているのか、なにが好きなのか、なにを正しいと思ってい
 るのか、そういった「私」が持っている様々なものを突き詰めていくたびに、それははっきりとなっていく。
 だから、私は、悔しい。
 その「私」を実現することができないのが。
 
 
 でも、それは、たぶん、私の知らないこと。
 
 
 
 
 ◆◆
 
 双子の妹。
 彼女に対しては語る言葉を私はいくつも持っている。
 けれど私は、彼女の事をなにも知らないし、また知りたいとも思わない。
 ただ私は、双子の妹である彼女について語るだけ。
 でも、なにを語るの?
 私には語る能力はあれども、語りたいという欲求は無い。
 語れと言われれば語るけれど、なにも言われなければ、語ってあげることはできない。
 それなら、なぜ私は妹のことを語れるのだろう。
 いいえ、そんなこと、どうでもいい。
 
 
 だって、私は、彼女のことが。
 
 
 
 ++
 
 くるくるくる。
 やがて空は廻る。
 気付けば私は空の中。
 くるくるくる。
 空の中で廻っている私。
 それなのに、私はまだ、空だけが廻っているのを知っている。
 なんで私、此処に居るの。
 
 
 
 そんなこと。
 
 
 
 
 
 ◆◆◆
 
 私にはしたいことが沢山あります。
 でも全然できません。
 それはたとえば努力が足りないとか、運や才能が無いとか、そういうことでは無いのです。
 たぶん、それは私が私であるからできないのです。
 でも、それと同時に私が私で無ければそれらのことはできるのだろうか、とは全く思えないのです。
 なぜなら、私は私以外になることは決してできないということを、どうすることもできないほど強く強く
 感じているからなのです。
 もうほんとうに・・・・・自分を見失うくらいに・・・・・
 此処に居る自分というものが、此処に在るという自分というものを越えることはできないのです。 
 私は、そういった言葉を使っています。
 そうして語る私の姿を私にあげることで、私はその「私」の姿を育てていくのです。
 私が居るから私は「私」を作ることができて、そして私が私である以上、私には「私」しか作れず、
 また私は「私」では無くただの私でしか有り得ないのです。
 けれど、時は流れています。
 私には、今目の前に在る「私」が、それ以前のものと同一では無いことを知っています。
 と同時に今こうして此処に在る私が、それ以前の私と同一のものでは無いこともまた知っています。
 ですから、実はわずかなりとも今の私は部分的に過去の「私」であったりもしているのです。
 気付けば、絶対にできないはずのことができていたりするのです。
 私が私だからこそできなかったことが、できるようになっている。
 それはつまり、私が私では無くなっている証拠。
 だから私は、ただ時間が過ぎるのを、時が経つのを待っていることしかできないのです。
 ただなにもできないことに耐え、ずっと我慢し、そうしている自分が無くなってしまうほどに怨みを込めて
 生き延びていく。
 私はその瞬間瞬間、私を激しく殺している。
 死んでしまえ、殺してやる、消えてなくなれ!
 そのときの私は、心底私を怨み、明確な殺意を持って私を殺しています。
 肝心の私が死んでしまえば、時が経って「私」になれる可能性を持った未来の私も消えてしまうというの
 に。
 でも、そんなこと関係ない。
 私はただ、なにもかもわからなくなって、いいえ、なにもかも考えずに無心に私を殺害していくだけ。
 そうして生き延びた私が、常に此処に居る。
 いいえ。
 その私を殺しきれなかった私だけが居る。
 私はいつまでもいつまでも、「私」になれない私を殺していく。
 
 その私の語る言葉に支配されている私を、私はたぶん知りません。
 そんな言葉を聞いても、私にとってはなんの意味も価値も無いのですから。
 きっとそれは、嘘の物語。
 語れば語るほどに、それは私の血肉となり心にめり込んでいく言葉であっても、それ自体は決して私
 では無いのです。
 だって、それは言葉なのですから。
 そんな言葉は、私には不要なのです。
 いえ、不要とか不要じゃないとかそういう話では無いのでしょう。
 私は、たぶんなにもわかっていません。
 私という主体はただ、此処に呆然として在る私の中に封じられているだけなのです。
 私はその封印された体の中で、ただただ虚しくそして必死に空を見上げているのです。
 だからたぶん、なにもできません。
 できないということを、ただただ承認していくだけ。
 なにができないのかを知り、できないことはするだけ無駄だという溜息を吐くことに実感を感じ、そして
 儚げに流されていく体の中で無重力を感じていくだけなのです。
 それが、私なのです。
 
 
 
 
 
 
 そして。
 一陣の風が、凄まじい波紋を描きながら広がり始めていった。
 
 
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 見る。
 見る。
 じっと見る。
 決して瞳を向けぬように。
 なによりもはっきりと見えてしまうがゆえに、決して見ないように。
 それ以上見たら、駄目。
 でも、居る。
 見てはいけなくとも、そこに居なくてはいけない。
 誰が去ってやるものか。
 誰が諦めてやるものか。
 駄目。
 どうせ去るしかないのだもの。
 どうせ諦めるしかないのだもの。
 
 
 はっきりと見えてしまうがゆえに、決して見ないように。
 
 
 じっと見る。
 どうせ駄目なのだから。
 どうせ駄目だと言うしかないから。
 駄目、無理、諦める、絶望、『やっぱり』。
 言葉は優しくて、残酷で、便利。
 言葉に支配され支配することができる。
 立つ。
 波が立つ。
 私の体から外へと飛び立つ波紋達が在る。
 立つ。
 波が立つ。
 その波に決して溺れることの無いのは私だけ。
 波の中心に居る私だけは。
 私は波。
 どこまでもいつまでもたゆたう波自身。
 波に溺れるものもまた波のうち。
 溺れ溺れさせ、流れ流れさせ。
 
 諦めれば、諦めることができなくなり。
 絶望すれば、希望だけが生き残る。
 ならば、殺してあげる。
 真っ赤に疼く私の涙を風に乗せて。
 
 
 
 駄目なことは駄目なの。
 その私の言葉は絶対になる。
 その言葉を使った私だけは絶対になる。
 駄目なものは駄目になる。
 駄目になってくれれば、駄目になると言った私は私で居られる。
 駄目、駄目、駄目、駄目な私。
 ほら、私の言った通りでしょう。
 私は駄目な人間です。
 
 
 『でも妹は私と全然・・・・・・・違うから。』
 
 
 
 穏やかな饒黒の織り成す言葉。
 緩やかに生成していく本当の意図。
 失敗を怖れているから、あらかじめ失敗すると予告する言葉を使いなにをするのか。
 そんなもの、決まっているわ。
 努力すれば見つかるはずのものを、どうせ見つからないと諦めてみせる言葉はなんのためにみせるのか。
 そんなもの、決まっているわ。
 全部、私の思った通り。
 思った通り。
 予言は当る。
 必ず。
 当ることに意味は無く。
 
 
 『見つからなかったんじゃない。見つけなかったのよ。』
 
 『探す前から、見つからないように縛られていたのよ。』
 
 
 『自然の決まり事、時の流れ、体という名の器、心という名の字に。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 そう。
 私、縛られているの。
 
 縛ったのは、誰?
 
 知らない。
 知りたいとも思わない。
 知ってはいけない気がする。
 知ってもなにも変わらない気もする。
 知る必要も無いくらいに、私は私を知っているから。
 全部、全部、私の、ため。
 私が生きるために、私は生きられない私を殺していく。
 
 
 
 
 
 ああ。
 
 それでも。
 
 私。
 
 
 
 
 『はやく・・・・・・・出たいな・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 
 私の中から飛び出していく紅い私を見ている何者かだけが、ただ此処に在った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 私は知っています。
 私が、私を殺すのと妹を殺すことが同じであるということを。
 そして。
 私が生きることと妹が生きることは違うということも。
 
 
 
 
                             ◆ 『』内文章、アニメ「XXXHOLiC」より引用 ◆
 
 
 

 

-- 060717--                    

 

         

                             ■■良い夏になりますか?■■

     
 
 
 
 
 紫陽花が終わりました。 (挨拶)
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 この三連休はちょっと忙しくて色々とアレで、日記なども書いている余裕が持てずに残念至極で御座い
 ましたが、合間合間を縫って京極夏彦の「陰摩羅鬼の」の再読が完了するなど、どこか抜け目無く
 することはしていたりというか、わざわざこの忙しいときにしなくても良いようなことを立派にやりとげたり
 だとか、なかなか捨てたものでは無い今日この頃で御座います。
 そのなんやかやとあった三連休の締めにちょいと頂いたお酒は、夏の始まりを味わうかの如くに芳しく、
 さめざめと降りしきるそれでも穏やかな雨が、このささやかで麗しい初夏の宴に興を添えてくれるのでした。
 
 いや、酔ってませんにょ。
 
 
 ということで、日記の更新ペースがすっかりとたるんでしまい申し訳ない事山よりも高く海よりも深い事態
 で御座いますが、まぁ、そんなものですか。
 いやまぁ、ほんと、ごめん。
 この頃はほんと約束破りなこと旺盛極まりなくて、割と自分では責任感はあるつもりで居た道化な私に
 とって危機感たっぷりな次第で御座いまして、どうしようかと思いまして、でもどうしようもならんねこりゃ、
 みたいな、既に諦観してたりとか、はやいよおい、というか、なんなんでしょうね、ほんと。
 最近踏ん張りが効かないで流されるに任せている傾向は良くないので、頑張る所存ではいるのですけれ
 ど、結局「頑張る」という言葉の流れに飲まれてあれよあれよというまに堕落の海に流れ着いてしまう
 というか、まーなるようになるっしょ。
 割と、怠けが身に付いてきたっぽい。
 私としては、サイト方針的にまったり気分になるのは心躍る傾向ではありますけれど、反面やばいなんか
 違うこれなんか違う、みたいなまるで8月31日にまで宿題を放置していてどうしようと思っていたけれど9月
 1日には台風が来て休校になりそうなので頑張って台風を応援してる儚い期待感に頼っているとき
 のどうしようも無い虚しさというか、祈ってる暇あるんなら勉強しろよみたいな、ええと。
 
 ほら、ワールドカップが終わって燃え尽きて無かったら、前期のアニメの感想をいくつか書くみたいな事
 言ってたじゃないですか。
 これも一応燃え尽きちゃったから書きません、という言い訳を振りかざすこともできなくは無いのですけれ
 ど、それはいわゆる反則というか大人げないというか空気読まないというかどうでもいいとか、そんな感じ
 でしょうし、だから書くというのが前提にある訳なのです。
 だから、書かなくちゃ。
 でも、書いてません。こいつ、マジ書いてない。
 個人的に無茶苦茶嫌なことを蒸し返すことで恐縮ですけれど、ていうか自殺行為なんですけれど、
 以前にもローゼンメイデントロイメント終了を記念してエピローグみたいなものを書くとか宣ったのですね。
 ほんとそのときの私の気安い脳みそに火を付けて夜空に打ち上げたい気分ですけれど、そんなもん
 日が経つにつれ書く気が失せてくに決まってるんじゃあそれくらい予想してそういう発言しやがれボケナス
 がぁ、みたいな獰猛なセルフツッコミを必死に押さえ込みながらも、今日に至っている訳です。
 あああ、すげー面の皮厚い奴です自分。すげーすげーや。この鉄面皮。
 でね。
 そうやって口先で結んだ約束ごとをあっさりと反故にしてのんべんだらりと過ごしているこんにちの私といった
 ら如何なものかしら、という自浄作用が割としつこく働いている状態なのです。
 あーもう、暑苦しいったらない。
 いや悪いのはお前じゃん、はい、ごめんなさいその通りで御座いますすみませんすみません、と
 ただ謝ってばかりでそれで無かったことにしてきた訳です。
 気楽っちゃ気楽ですけど、人としてどーよ、というんですよ。
 それじゃいけないでしょう。やっぱ駄目でしょう。
 そこで。
 
 ならばもっともっと約束して、それを破って、誰も信じてくれなくなるくらいになるまで破って、
 それでもひとり勝手に約束事を作れるような人間に、私はなりたい。
 
 と、ふと思ったわけです。
 割と、ノリで、です。
 ええとね、なにが言いたいかというとですね。
 まぁ、そのうちに、ということです。
 景気よくこういうこと書くでーという発言そのものが、日記のネタになるということです。
 というか、そういうことを気軽に書けるような日記にしたいというのが主眼でしょうか。たぶん。
 もっとラフに、もっといい加減に、もっと脱力して、もっと嘘つきで、もっとヘタレで、もっとどうしようもなく。
 ぐちゃぐちゃのどろどろのぼろぼろの、もうなんていうか、駄目なやつを。
 いやもう、言わなくてももう駄目なんですけど。駄目駄目です。駄目でしょうこれは。
 
 
 で、ぽいぽいっと空を見上げると、まんまるのお月さまがほわっと笑っているわけです。
 
 
 あ、別に詩的表現で誤魔化したりとか、幼児退行してアッチに逃げたとか、そういうんじゃないですから。
 つまりね、やりたいことやったらいいがな、ということなんです。
 なんていうか、見渡せば、愉しいことはたっくさんあるんです。
 綺麗なのも美しいものも落ち着けば一杯一杯。
 辛ければ辛いほど、周りが見えなくなればなるほど、それでも見えてくるものはある。
 てなわけで、たのしけりゃ、なんでもええ。 (割と本音、超本音)
 ただ、楽しむからには、徹底に楽しまなあかん。
 そゆことです。
 どうゆうことですか?
 どういうことでしょうね?
 わかりません。
 むしろどうでもええ。
 
 はい。
 
 
 
 ◆
 
 ・「僕等といた」、というアニメが始まりました。
 ひどく繊細で丁寧でした。
 恋愛。そういったひとつの言葉で括るのをまるで受け付けない、ひとつひとつの動作や言葉だけで
 描いていこうという毅然とした丹念さがある。
 そうして細かいところに目が向くと、自然「恋愛」という事柄そのものが、あの画面の中に組み込まれてい
 るもののひとつにしか過ぎないということがわかります。
 そしてそれが「恋愛」というたくさんのもののうちのひとつのものにしか過ぎないと相対化して捉えることに
 成功したとき、そこに「恋愛」という言葉を無くした世界が顕われるのです。
 彼らのひとつひとつの動作や言葉のぬくもりがどこまでも広がり、それが世界のすべてで在り続けていく。
 逆にいうと、彼らの動作や言動こそがあの画面の中の世界を構成しているのです。
 私は、人の動きって、こんなにも意味を持てるものなんだなぁと、思いました。
 ていうか、割と気合いはいるね、こりゃ。
 
 ・「学園アリス」、というアニメを見始めました。
 上記のアニメとは異なった意味で、動きが面白いアニメでした。
 コメディとしての動きの面白さがあることをこの作品を最初に見たときに感じました。
 ただ今のところそれ以上のものは見出せない状態でした。
 制作側の提示する「見せ場」というのがなんであるのかが非常にわかりやすい作品であるのですけれど、
 逆にいうとそうして提示されたそれに対して、うんそうだね、とただ頷くことくらいしかできない不自由なところ
 がある作品でもあります。
 ゆえにもう少し奥行きを持たせてもいいのかなぁと一時は思いましたけれど、この作品はそうして提出
 された「見せ場」に頷くという動作を前提にして行い、そしてそこからすべてが始まる作品なのでは無いか
 と、今は思い直して観ています。
 まぁもうちょい見ようっと。
 
 
 
 今日はこの辺りで、撤収。
 
 
 
 

 

-- 060712--                    

 

         

                               ■■変わってしまったハネ■■

     
 
 
 
 
 -- XXXHOLiC第十三話 --
 
 
 
 
 
 +
 
 『人間の長所は、欠点があるってことよ。』
 
 +
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 どうして、空があるんだろう。
 空があるから、いつも見上げてしまう。
 空が無ければ、でも、なにを見たらいいのか、わからない。
 もしかしたら、なにも見ずに済んだのかもしれない。
 そもそも、なにかを見なくてはいけないのだろうか。
 なにも見ないで、ただ黙っていれば、それで。
 
 それでもその空では、確かに一羽の鳥が羽ばたいている。
 
 それを知らない私を、私は、知らない。
 
 
 ◆
 
 まっさらにどこまでも広がっていく空が見える。
 見て、見つめて、ずっと見つめ続けて、そして見えなくなってしまえと願う。
 その願いを叶えるために、空を燃やすために、空を見る。
 幾度も炎上する空の姿を思い描きながら、なにも感じられずに居た。
 なにを、考えているの?
 
 いつも、頷いてしまう。
 嫌、とは言えない。
 勿論、嫌では無いのだから好きでやっているとは口が裂けても言えない。
 けれど、それ以上に、否、むしろそうであるがゆえにどうしても好きでやっていると思いたがってしまう。
 どんなに嫌なことがあっても、それを受け入れていこうとすることでしか、心の平静を保てない。
 それ自体が言い訳となって、さらに強くすべてを受け入れていこうとしてしまう。
 嫌なのに。本当は嫌なのに。
 でも、嫌と言えないばかりに、頷いてしまう。
 私はあなた達の奴隷じゃない。
 私はあなた達の言うことやすることが正しいだなんて思っていない。
 でも、それでも、嫌とは言えなかった。
 嫌と言えないのか、それとも、言わないだけなのか。
 言わないだけなのならば、その理由はなんなのだろう。
 そうか。
 受け入れたいんだ。
 受け入れてしまえば、余計なことを考えずに済むから。
 すべてを好きになれれば、嫌なことが無くなれば、争わずに済むから。
 平静に、穏やかに、優しく、何事も、無く。
 
 震えた。
 怒りで、空が、はっきりと、見えた。
 
 嫌。いやいやいや。絶対に、嫌!
 
 
 
 ・・・・・・
 
 侑子さんは絵に描いたような横暴な人だって、正直思いますよ。
 そりゃ正直にそう言ったらなにされるかわかったもんじゃないから言えませんけれどね。
 でもそれとこれとは、たぶんあまり結びついた事柄では無いと思うんです。
 いつも割に合わないことや理不尽なことをやらされたりして、不満なんていつ爆発したっておかしく無い
 状況であることは確かなんですけど、でも、なんていうのかな、しょうがないなぁ、みたいなところがあって、
 そりゃー怒ってはいますけど、怒ったってどうせ意味ないしっていう感じもあるんですよね。
 あー、投げやりっていうか、だって侑子さん人の話全然聞かないし。
 仮に聞いてくれたとしたって、全面的に否定されるのがオチでしょうしね。
 だからといって、そんなに侑子さんに全否定されるべき人間だって思うほど、俺は悲観的じゃ
 無いですよ。
 ええ、正直自分に自信無いところとかはありますけど、でもそれは他人に否定される事によってさらに
 失われるものでは無いと思うんです。
 自信って、やっぱり自分に負うところが多い。
 って、なに言ってんでしょうね。
 まぁ、確かにこのままじゃいけないなぁとは思っているんですよ。
 だからなんとかしなくちゃとか、今日こそはびしっと言ってやるとか、そういうことはいつも考えてるんですよ。
 で、結局そうやって息巻いているうちに一日が終わっちゃうというか・・・・・・・あはは
 あーもう、なんか情けなくなってきちゃったじゃないですか。
 
 
 ・・・・・・
 
 ゆっくりと、気付いた。
 そう、気付くまではとてもとてもゆっくりで、でも気付いたあとはもうあっという間で。
 なにをするべきだったのかは、明白だった。
 嫌なものは嫌と言わなくちゃいけない。
 駄目なものは駄目。間違ってるものは間違ってる。
 世の中には、絶対的な正しさなんていうものは無い、それはわかっている。
 でもそれと、私にとってなにが正しいかそうでないかは、関係が無い。
 私達は、正しいものが無い世界の中で、正しく生きようとしている。
 その生きている私が此処に居る。
 だから、此処に居る限り、なにが正しくてなにが間違っているのかをわからないことは無い。
 嫌なものは、嫌。
 そしてそう言わなければ、絶対にそれを強制される状態は変わらない。
 自分が変えなければ、なにも変わらない。
 変わらないのは、変えないせい。
 だから、嫌なことが起きるのは、全部私のせい。
 嫌なことを無くすための努力を放棄していた私が悪い。
 ただただ頷くだけの従順な下僕の境遇に甘んじていたのじゃない。
 私は最初から、その怠惰な下僕になりたかっただけ。
 情けない。
 悔しい。
 許せない。
 
 
 ◆◆
 
 渦巻きながら青くなっていく空。
 剥げるように色褪せていく私の影。
 描けば描くほどに上手くなっていく私の姿。
 生きれば生きるほどに醜くなっていく私。
 ただ生きることの憎しみがここにある。
 空を飛ぶ鳥が増えていく。
 嵐のような羽ばたきで雲を掻き集め、そして霧散させていく。
 焦った。
 激しくなにかが逃げていく。
 待って。
 まだいかないで。
 私も、そこに、行くから。
 
 一筆書きで描いた綺麗な私。
 思いのままに、正義のままに、美しきままに。
 それだけが私を空に羽ばたかせる。
 でも私には、羽が無い。
 だったら、生やせばいい。
 生やすしか、無い。
 生えていないのは、私のせいなのだから。
 私が、正しいことをしなかったから。
 私は・・・・・
 
 
 ・・・・・・
 
 百目鬼にはほんとむかつきますよ。
 ひまわりちゃんとの仲を邪魔するし、弁当作りを当たり前のように要求してくるし。
 問題なのは、あいつにはその自覚が無いってことなんですよ。
 俺がどう思ってるとか、全然わかってないんですよ。
 だからああやって無神経なことを。
 ああもう、また腹立ってきた。
 や、だからね、俺ははっきり言ってやんなきゃいけないんですよ。
 ええ、まぁ、だから既にガンガン言ってるんですけどね、あいつの鈍さは驚異的で、全然効かないんです。
 もうにくったらしいったらありゃしませんよ。
 ですからね、俺はもっと強く言ってやんなきゃいけないんだって思うんですよ。
 なんで俺がお前の弁当作ってやんなきゃいけないんだ、ていうかひまわりちゃんにちょっかいだすな、って
 言わなくちゃいけないんですよ。
 まさに私怨ですけどね、わかってますよ、世間的に見て、別に百目鬼のやってることは理不尽ってほど
 じゃないし、よく考えたら侑子さんほどでも無いし、それに俺だって自分が言い過ぎだってことはわかって
 ますよ。
 でも、それがわかってても、それでも百目鬼がヤな奴であることには変わりが無いんです。
 百目鬼のアヤカシを祓う力で助けられてることもあって、そりゃーちょっとは感謝したりもしてますけど、
 やっぱりそれとこれとは話が別じゃないですか。
 あーなんだか話題に出すのも嫌ですね。
 でも。
 
 
 ・・・・・・
 
 体を感じなくなった。
 血の流れだけがどくどくと音を立てて、ただ体の中を流れている。
 なにも、感じない。
 感じるために、しなければならないことがある。
 鳥を。
 紅い空に舞う鳥を、逃がしちゃ、駄目。
 筆先にまで延びた真っ赤に溶けた羽をキャンバスに塗り込んでいく。
 羽を、羽を描かなくちゃ。
 羽で、羽を、羽を、羽で。
 描き上がる真紅の私の姿。
 それは、真っ赤な私そのもの。
 ほら、私が絵の中に居る。
 血と同じ紅に染まった空の中を舞う一羽の鳥が。
 それを描いたのは私。
 それに描かれたのは私。
 そして。
 それに居るのは、私。
 空へ、飛んで。
 もう、逃がさないわ。
 
 
 
 ◆◆◆
 
 ・・・・・・
 
 結局、強く言えないままで一日が終わっちゃいました。
 夜寝る前に思い返すと、はらわた煮えくり返って、まさに七転八倒ですよほんとに。
 情けないやら悔しいやらで、ほんとうにもう、大変です。
 でもね、俺はあの子みたいには、やっぱり思えないっていうか。
 もしかしたら俺がただ怠惰なだけなのかもしれないんですけどね。
 俺はあんまり、これが明日もその次も続くのか、とかは思えないんですよ。
 今日一日の事に憤慨して、その怒り溢れる中でひまわりちゃんの夢に癒されながら眠りにつく、というか。
 良く考えれば、そんな事したって、次の日もまた嫌になること尽くしになるしか無いってことはわかるんです
 けどね。
 だから、あの子の事も、ほんとはよくわかるんです。
 自分に対する自信とかって、自分に負うところが多くて、でもそれは逆に自分がしっかりしてなければ押し
 潰されちゃうものであって、結局それっていうのは外圧を喰ってるのと同じことなんですよね。
 あの子の背中に羽が見えたとき、わかったんです。
 ああ、この子、自分にもう羽が生えてること気付いてないな、って。
 そして同時に、あの羽はきっとあの子を鳥に変えずに、ただ獲物として空の彼方に連れ去っていくだけの
 ものなんだなって。
 なんとなく、わかっちゃうんですよ、そういうの。
 ええ、俺は、あの子みたいなところ、ありますから。
 自分が嫌な思いをするのは自分が嫌なことを周りにさせてるからだって思って、だから自分がしっかり周り
 をそうさせないように変えていかなくちゃいけないんだって。
 自分だけが嫌なことをそのまま受け入れたって、やっぱり嫌な事自体は無くなりませんし、またそうやって
 受け入れていくだけの自分の怠惰さには我慢ならないときってありますから。
 自分が変えなくちゃ、周りはほんとに変わらない。
 ただなにも変わらないことを呪うほど愚かでも居られなくて、だからどうしてもなんとかしなくちゃって思う。
 すごく、苦しいですよね、それって。
 そして。
 
 たぶんそれは、本質じゃないんです。
 
 考えれば考えるほどに焦って。
 そして焦れば焦るほどに自分がなにを求めていたのかがわからなくなってしまうんです、きっと。
 だから、なにもかも壊したくなっちゃうんです。
 正確にいえば、なにもかもを正したいけれど、その上手い方法が見つからなくて、それでも強引に
 正そうとしてしまうんですね。
 自分では無茶だってわかってるのにそれでもやってしまう、つまり壊れてしまっても構わない、いや、
 むしろもう全部壊れちゃえって思ってるんですよ、心の何処かでは。
 でもそれは本質じゃない。
 あの子が求めていたことでは無いんですよ、絶対に。
 あの子は嫌なことをしたくなかった、周りにして欲しくなかった、ただそれだけだったんです。
 あの子にとって、「正しくない」ことでも、「嫌な」ことでは無いものもあるということが、すっかりわからなくな
 っていたんです。
 本当に、人にぶつかられただけでしっかりと誤って貰う必要なんてあったんでしょうかね。
 あの子は俺が睨んでいたと言い、俺は睨んでいないと言い、それのどちらが正しいか、そしてその正義を
 全うすることが本当にあの子にとって重要なことだったのでしょうか。
 あの子の背に生えたハネが、それらをすべて必要で重要なものに変えてしまったのじゃないかって、
 俺は今思うんです。
 そして、そのハネを創り出したのは、あの子なんです、やっぱり。
 
 でも、あの子がそのハネを創り出したのは、絶対にあの子の願いでは無いんです。
 
 
 
 ・・・・・・
 
 なんにも、無くなっちゃった。
 なんにも、見えないよ。
 空・・・・・・・見えない。
 でも、一杯、一杯、色々な想いが頭の中をよぎっていく。
 でも。
 それがなんなのか、もう、私にはわからない。
 その想いは確かに私のものなはずなのに、どうしてもそれが私にとってどういうものなのかがわからないの。
 あー・・・・・・・・・疲れた・・・・
 それなのに、どうしてこの体は動くの。
 なんのために、この体は動くのかしら。
 なぜこの頭の中には、それでも沢山の想いがひしめいているのかしら。
 思わず、目をぬぐっていた。
 涙が出てるかと思ったから。
 溢れ出したこの感情は、確か「無性に悲しい」というものだから。
 でも、涙なんか、出てやしなかった。
 だからどうしたとも、思わなかった。
 きっと涙が出ていたとしても、なにも変わらないから。
 かつては変わると思っていたときがあったのかどうかと、そんなことを今考えている。
 
 いちまいの鳥が啼いている。
 鳴き声を聞いたのは、たぶん初めて。
 でもやはり、どんな声で啼いているのかは聴き取れない。
 ただあの鳥が啼いているが聞えるだけ。
 本当に啼いているのかどうかも知れない。
 それでも、あの鳥は啼いているんだと思う。
 なぜ。
 なぜ、それでもそう思うのかしら。
 涙が一筋、頬を伝うのを、ただ感じていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆・・・・・・
 
 その瞳から欠け落ちた見えない涙の分だけ、きっとまた、あの空を見上げることができるって、そう思うわ。
 だって。
 その涙を流したあなたこそが、なにをあなたが一番求めているのかを知ったはずなのだから。
 あなたが生きているということ自体が、あなたの絶対の正義。
 そして。
 醜いあなたが生きているということが、なによりも強くあなたを美しい空へと羽ばたかせるではなく。
 美しい空へと飛び立ちたいと考えることが、常にあなたが醜いあなたであることを教えてくれる。
 そして。
 その醜いあなたがなにを真に望んでいるのかを、あなたはどうしようも無く知っていく。
 
 
 『無くしてしまった感情なら、もう一度育て直せばいい。』
 
 
 
 想うままに、ネガイのままに、真摯に、深く、考えて。
 焦るまえに、既にあなたは、翼を広げて空を飛び風を感じている。
 あなたの背には、生まれたときから羽が生えていたのよ。
 
 だから。
 気を付けなさい。
 
 
 『エにされないように。』
 
 
 
 
 それでも決して空を飛べぬ、醜い醜い、その欠けた羽の餌と絵に。
 
 
 
                             ◆ 『』内文章、アニメ「XXXHOLiC」より引用 ◆
 
 

 

-- 060710--                    

 

         

                               ■■世界を魅了した頭■■

     
 
 
 
 
 ええと、その、頭突き。 (挨拶)
 
 改めまして、ごきげんよう紅い瞳です。
 イタリアが優勝しました。
 それはもう、淡々と。
 ごく普通にPK戦にもつれ込み、ごく普通に外さなかった方が優勝。
 イタリア、優勝おめでとう御座います。
 はい。
 まぁ、決勝戦は面白いとか面白くないとかそういう次元のお話では無く、まさに優勝決定戦という名に
 相応しい試合で、要するに結果だけがすべてを支配するようなそんな試合でした。
 だからあんまり、言うことありません。
 アズーリ万歳とか言ってたのは準決勝までです。
 決勝ではもうそんなことはありません。
 どっちが勝ってもいいよ。
 うん。
 両チームとも、サッカーしてるというか、絶対に負けないという意識で頭一杯で、ほんと見るものはなにも
 無く、ただそれだけでしたから。
 3位決定戦のドイツvsポルトガルも、ポルトガルは全然やる気無いし、ドイツもなんかどうでもいいけど
 取り敢えず盛り上げとこう、程度な動きしかしてなかったのであまり興味が持てない試合でした。
 カーンがひとり燃えてたけど、燃えてただけだし。
 あーはい、そんなものですよ、ワールドカップの終わりというのは。
 実際、気付いたらイタリアイレブンがワールドカップを持ってグラウンド回っていたようなものです。
 あー、この光景が今日のすべてなんだ、と。
 そしてこれがこの4年間の詰まった瞬間なんだ、と。
 これはもう、感動です。
 それだけで、充分でした。御飯三杯いけました。
 4年後に、また会いましょう。
 
 
 
 でも、そんなことより。
 
 
 ジダンが。
 
 
 
 まずは、御説明を。
 イタリアゴール前での競り合いが終わり、ボールは前線へ移動。
 今まで攻めていたフランス攻撃陣は下がり、守っていたイタリア守備陣は押し上げに入る、そのときに
 事は起こりました。
 ジダンをマークしていたと思われるマテラッツィが、ジダンの体に接触。
 これ自体は特別な感じでは無く、ただちょっとマテラッツィの手つきがいやらしかったように見えましたが
 それは錯覚で処理します。
 ただこの段階で既にふたりはなにか言い合いをしておりました。
 ふたりの表情からするに、たぶんそれほど大したことでは無い内容だったと思われます。
 せいぜい、
 マ:「髪が薄いのを剃って誤魔化す奴ってなんか哀れだよな。」
 ジ:「効かないなぁ。」
 くらいだったでしょう。
 けれど、ジダンがマテラッツィから普通に離れて守備に入るかと思われたそのとき、マテラッツィの口が僅か
 に動く。
 おそらくは、
 マ: 「でもお前のかあちゃんで○そなんだよな。」
 とでもさりげなく言ったのでしょう。
 そしてその瞬間、ジダンは無言で反転し、そのままマテラッツィ(♂)の胸の中へ。
 ジダン選手の強引なヘッド!
 マテラッツィは自分がなにをされたのかを認識することも無く転倒。
 それを目撃したマテラッツィの元カノ のブッフォンが悲鳴を上げて審判に猛抗議。
 主審は現場を目撃していなかったので、こっそり副審に「え、マジで?」と助言を乞い、副審「マジ。」と
 いう逃げ切れない回答得て、できることならしたくない英雄ジダンに対する退場処分を決行。
 それまで割と開き直って平然としていたジダンもまさかの退場処分(通常に考えれば妥当な処分)に
 呆然と主審の顔見つめるばかり。
 ジ: 「空気読めよ。」
 主: 「いやでもブッフォンマジキれてるし、ここはひとつ穏便に。」
 そしてジダンは哀れピッチの外へ。
 通路手前に安置されているワールドカップの横を抜けて完全に姿を消してしまいました。
 ワールドカップに八つ当たりでひじうち当てたら神でしたけれども、さすがにそこまではしませんでした。
 そして、試合終了。
 今大会のMVPが発表されました。
 
 

 ・MVPは決勝退場のジダン

 
 
 頭突きでMVPを取った男、ジダンの名を私は忘れません。
 
 
 ◆
 
 笑い過ぎて今日はほんとに大変でした。お腹痛い。
 ジダンに改めて感謝致します。ありがとう。(色々な意味で)
 真面目な話、MVPにジダンというのはやや疑問が残ります。
 決勝までの内容と結果を踏まえれば、投票結果2位のカンナバロと同3位のピルロのどちらかに値する
 賞だと思いましたから。
 優勝したイタリアから誰かが選ばれるべきだと思いましたが、逆にそれがこの結果になったのかとも
 思います。
 イタリア代表から選ぶとすれば、当然幾人かの候補が考えられるのは当然で、カンナバロ・ピルロ、そして
 ブッフォン・ザンブロッタなどにも票がいったはず。
 そして結局イタリアに票が集まることで、逆に票が割れてしまい、結果ジダンが繰り上げ当選のような形
 になってしまったのでしょう。
 ジダンのプレイは決して悪いとは言えませんでしたし、むしろ候補のひとりとして挙げられても良いとは思い
 ますけれど、あのイタリアの充実した内容と結果から見ると、やはり違和感を得てしまいます。
 頭突きの件が無ければ。
 やっぱあそこまでやってくれちゃったら、あげちゃうでしょうMVP。
 
 
 ◆ ◆
 
 アニメの新番組をぼちぼち見ております。
 今のところ、貧乏姉妹物語で泣かせて頂いております。
 はぁ、この作品たら、ほんとに泣けるんですわぁ。
 現在、一緒に泣いてくれる人を募集しています。
 泣いて、感じるものもある。 (はず)
 次。
 コヨーテ ラグタイムショー、というのを見ました。
 どうということも無く、平板なアクションアニメ。
 ただ、空から降ってきた十二人の姉妹が銃やナイフを振り回して戦う様のいい加減な感じにはちょっと
 ぐっとくるものがあって、そのうちのひとり(というか実はロボなので一体)がヘンなおっさんに壊されると、
 リーダー格の人が「ぶっ壊してさしあげなさい」と滅茶苦茶怒り狂って冷たい視線を晒したところとか、
 お、これは結構見込みがあるなぁと思ったのでした、まる。
 あと、「十二人の姉妹なんて、悪趣味ですぅ」というセリフには同感です。
 十二人は駄目です十二人は。
 次。
 ゼロの使い魔。
 駄目でした。
 次。
 ハチミツとクローバー2。
 なんだか1から随分とレベルが下がったような。
 真摯さと丁寧さが綺麗に抜けてるよね。
 ただ出来事を羅列して、それに適当に肉付けしてるだけじゃなにも伝わらないよ。
 スクラン2もそうだけど、こういう路線変更は勿体ないなぁとつくづく思いました。
 もうちょい頑張れ。
 
 ◆ ◆
 
 さてワールドカップもすっかり終わってしまいましたので、そろそろ通常営業に戻ります。
 日記もいつものような感じで、いい加減ながらも適当にまったりとやらせて頂きます。
 ホリックの感想制作スケジュールにかなり遅れが出てしまっていますので、できるだけ早め早めの更新を
 心懸け、挽回に勤しみたいと思っていますゆえ、ひとつよろしくお願い致します。
 それとまた近々チャット会などもやろうかとも。
 6月はワールドカップ万歳ですっかり開催するのを忘れてましたごめんなさいもうしません。
 ということで、7月はきっちり開催する予定です。
 おそらくは来週か再来週の土曜日になるかと思います。
 あと、七夕を素で忘れていた私はどうしたらいいのかを問いたい。
 
 頑張ります。
 
 

 

-- 060706--                    

 

         

                                ■■ビバ、アズーリ!■■

     
 
 
 
 
 これがサッカーだ。 (挨拶)
 
 
 
 改めまして、こんばんわ紅い瞳です。
 やー、イタリアvsドイツ戦、ご覧になりましたか?
 まったくもう、嫌になってしまうほど素晴らしい試合でした。
 そう、主にイタリアが、いやむしろすべてイタリアで! イタリア最高!
 もうあれだね、惚れたね、この試合を境にアズーリファンになるね!
 あ! アズーリというのはイタリア語で「青」を意味するイタリア代表チームの愛称のことだから!
 いやもう、ほんとですよ。
 なにものですか、彼らは。
 あんなのないよ。
 はい、もう間違いなく今大会のベストゲームです。
 レベルが違う。サッカーが違う。やってることが違う。顔が違う。顔はともかく。
 ああ、素で2回見てしまいました。
 ああ、ほんと録画しておいて良かった。
 また見ようっと。
 
 もうね、ひとつひとつのプレイのさ、スケールが大きいの。
 なんていうかね、戦略級っていうかさ、たとえばトラップするとしたら、そのトラップひとつで局面を変えると
 いうかさ、つまり目の前のプレイをただこなすだけじゃなくて、そのプレイで試合をコントロールするというか、
 そういうプレイが続出でさ。
 元々今大会のイタリアの選手のプレイは洗練されてたってこの前も書いたけど、この試合でそれが頂点
 に達したっていうか、ぶっちゃけ愛しちゃうくらいにすごくなっちゃってさ。
 あー・・・・・・惚れ惚れする・・・
 もう選手ひとりひとりの意識が全然違うもんね。
 パスだってもう先の先まで読み込んで、空けたスペースが塞がったあとにできるスペースにパスだしたりと
 かさ、とにかくもうオシムもびっくりな考えるサッカーの極みでさ、見てて震えた。マジ感動。
 悪いけどドイツは当て馬でした。もしくは噛ませ犬。ごめん言い過ぎた。
 ドイツの丁寧だけど力強い攻撃。うん、これはなかなか良かった。
 
 けど、イタリアはもっともっとずーっと良かった。
 
 力の差が圧倒的にあった、という訳じゃないんです。
 むしろペースとしては終始ドイツが握っていたと思うくらい。
 ドイツ優勢、といっても悪くない。
 でも、そんなの全然関係無い。
 イタリアは、それと真っ向勝負してた。
 そして、完璧に勝ちきってた。
 なに? キミ達攻めたいの? ならいいよ、攻めて。
 んで、イタリアは攻めてきたドイツに対して、中盤で蜘蛛の巣のように張り巡らしたプレスラインを吹きかけ
 て、そしてボロボロになって抜けてきたポドルスキらの突破を最終ラインでがっちりと確保。
 決して無理をせず、かつただ「壁」のように相手の攻撃を弾くだけで無く、考えに考えた罠に落とし込み、
 それを補食するハンターのような(なにこの比喩w)、まさに攻撃的な守備を展開。
 これですよ、私が見たかった美しい守りというのは。
 わたしゃ、フランスとかイングランドみたいな、ただ中央をガチガチに固めて跳ね返すだけの守りって好き
 じゃないんですよね。
 自分達の殻の中に閉じ籠もっちゃって、全然戦ってないって感じで。
 でもこの試合のイタリアは、まさに戦ってたんです。
 如何に相手の攻撃を弾くか、では無く、如何に相手のボールを奪取するか。
 つまり、それが伝統のカウンターに繋がる訳です。
 奪って速攻、それはつまり攻撃のための守備であるんです。
 そして今大会のイタリアは攻撃指向。
 とはいっても、根底にあるのは絶対の守備。
 別に、伝統のカテナチオに彼らが回帰したなんて、私は全然思いませんでした。
 うわぁ、このチーム、完璧にディフェンスを攻撃に使えてるなぁって思っただけでした。
 守りの無い攻撃なんて薄っぺらだし、逆にだから守りから始まる攻撃は分厚い。
 攻撃志向というだけあって、今回のイタリアはディフェンスラインをやや高めに保って、中盤でのプレスを
 より緻密に(ただ激しいってだけじゃ無いところが凄い)行うことを主眼にしていましたし、まだそれはとても
 うならされるようなお見事なディフェンスの形になっていました。
 
 
 いや、そういうことが言いたいんじゃなくて。ええと。
 
 そう、戦術面とかはどうでもいいの。
 ひとつひとつのプレイがね、すごかったのですよ。
 最初にも言ったけど、そのプレイ戦略級につき、みたいなね、なんていうの?
 あー、なに言ってんだ。
 ていうか言いたいことは全部言ったような気がするけど、そもそもなにも言い表せて無いような気がする。
 すげーすげーすげーすげー(以下エンドレス)
 はぁ。まぁ、取り敢えず気が済むまで叫んでみました。
 うん、今目の前に画面があって、ポインタかなんか動かしてこのプレイはどうのこうのとか、いちいち解説
 できたら面白いんだけど。
 いやもう、いわゆる個人技というのとは別次元なんですよ。
 個のプレイがチームとしてのプレイになっているというか。
 例えば、ポルトガルvsフランス戦におけるジダンなんかのプレイはさ、見た目派手だけどそれほど高レベル
 かつ戦略級のプレイは無い訳。
 そりゃー点に結びつくプレイだとか、試合を決定づけるプレイだとかは結構あったから、それは上手いとは
 思うけど、やっぱりそれは「個人技」の域を出ない。
 トラップひとつにしても、目の前の敵を抜くことだけにしか使われてなかったしね。
 ポルトガルvsフランス戦は、そういう意味でイタリアvsドイツ戦の対極に位置する試合で、
 個人技が主体で、おのおのがそれぞれの場所でただ戦って居ただけで、またディフェンスはただ引き籠もっ
 て固くなっているのみでした。
 無論チームプレイが無かったという訳では無く、それは逆にひけを取らないほどちゃんと合った訳だけど、
 ひとりひとりのプレイ、たとえばトラップひとつとっても、それが全体を見据えた上でなされた大局的な
 プレイには至っておらず、だから決しててんでんばらばらでは無いのだけれど、ただその無為に固まった
 なにかひとつの巨大で間抜けなものがただ動いていただけ、のようにしか感じられなかったのです。
 ぶっちゃけ、ポルトガルvsフランス戦は全然面白くなかったし。
 せいぜいクリスティアーノロナウドのドリブルが眼福モノだっただけで。
 まぁこれもとても洗練された戦略的なプレイとは程遠いただの「個人技」だったけど。
 
 
 いや、他の試合の悪口言ってどーする。
 
 むぅ。褒めるのって難しい。
 や、ちゃうねん、褒めるとか褒めないとかじゃないねん。
 私がどう思ったか、ってことだけです。
 私?
 イ   タ   リ   ア   っ  て   す   げ   ー  っ  て   思  っ  た  。
 そんだけです。
 それだけなのですよ。
 やでも、それだけじゃなにもわからないじゃないですか。
 なにかこう・・・もっとこう・・・・気の効いた・・・・・・・・・・・・・あはは
 
 アズーリ万歳。
 
 
 
 
 
 
 
 P・S:
 紅い瞳はアズーリことサッカーイタリア代表を心より応援しています。
 打倒レ・ブルー!
 
 P・S2:
 アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」が最終回を迎えましたので、なにか感想を書こうと思っておりましたが、
 紅い瞳はすっかり頭がサッカーで一杯になっており、「それはまた今度だ。」という曖昧な言葉を残し逃走
 に及びましたこと、ここにお詫び申し上げます。
 ワールドカップ終わった後に燃え尽きてなかったら、プリプリとブララグと合わせてなにか書きます。
 でもたぶん燃え尽きる。
 燃え尽きてしまえ。
 
 P・S3:
 他にもなにか書くことがあったように思うのですけれど、まるで思い出せない私はもう駄目なのでしょうか?
 
 

 

-- 060703--                    

 

         

                               ■■瞬間的激震の永続■■

     
 
 
 
 
 今日は、色々とお話したいことがあります。
 まず初めに、これをお話しなければなりません。
 衝撃の出来事。
 いまだに自分の目を信じることができない状態です。
 
 
 
 中田英寿、引退。 nakata,net
 
 
 
 まさかの発表でした。
 そんな馬鹿な。
 けれど公式サイトで彼自身による文章によって、事実であることは確か。
 信じたくありません。
 今の私の頭の中はそういった抵抗運動に支配されています。
 ボルトンへのレンタル期限が終わり、戻る気が無いフィオレンティーナしか行き場所が無い状態で、
 これからまた色々就職活動で大変だろうなと思っていた矢先でのこのニュース。
 まさに衝撃。
 これ以上、今の気持ちを語る術を持ち得ません。
 
 私は、中田英寿のファンです。
 現在の日本サッカー界の最も中心に位置する選手かどうかに関わらず、いち選手として中田という
 サッカープレイヤーが好きでした。
 むしろそういったサッカー界における位置を範囲に入れた中田英寿には興味がありませんでした。
 もともと彼は自己中心的選手の典型で、まるでサッカーの事しか頭に無く、代表でプレーするのも
 自分のためにしていると公言して憚らず、無論試合前での国歌斉唱でも正々堂々と余所見をし、
 あーきっともう頭の中では、ファーストタッチのときのボールの感触を描いていたりするんだろうなぁと思わず
 想像させられたりして、本当に真摯にサッカーで頭が一杯なプレイヤーでした。
 勿論、プレイスタイルも好きで、あの素晴らしいボディバランスから繰り出されるパスの数々にはいつも
 魅了されていました。
 海外に出て、積極的にその国の文化に溶け込もうとする姿勢も好きでしたし、さらにそこからの飛躍を
 常に求めていく姿勢も好きでした。
 そう、好き、としか形容できない、この気持ち。
 気付いたときには、ただ中田英寿というサッカープレイヤーが好きだったのです。
 私はそのことについて、なにか詮索したりだとか理由付けをしたりとか、そういうことはありませんでしたし、
 またお気に入りの選手を見つけて自分のサッカーライフの愉しみのひとつとしたい、という欲求の元に
 彼への好意を生成したりもしませんでした。
 ただ、彼が好きでした。
 なぜ好きかは語れないけれど、どこが好きなのかは延々と語れる。
 そういうものでした。
 
 年を重ねるにつれ、彼は当然サッカー選手として経験を積み、そうすることで様々な形でその可能性を
 ものにしていきました。
 チームメイトや監督との接し方も変わってきましたし、代表チームでの自身の在り方も変わってきました。
 けれどそういった彼の変化は変節では無く、やはり成長でした。
 彼のサッカーに対する想い、それを磨いて磨いて磨いているうちにそういう形になっていっただけであり、
 だからチームメイト達に積極的に働きかけて勝利に導こうとしたり、監督と信頼関係を結び合って
 一心同体の如くに目的に邁進する、といった今までとは違った形の在り方もまた、その彼本来の在り方
 の延長線上、もしくはその内に入っているものなのでした。
 中田英寿という人はなにも変わっていません。
 ただただ、サッカーを愉しむにはどうしたらいいのか、それを徹底的に考え詰めているだけなのです。
 だから私は、ときに彼の考え方やプレイを批判したりもしました。
 それは私も彼と一緒になって、どういうサッカーが愉しいかを考えていたから生まれる批判なのでした。
 彼は、非常に求道的な選手であり、また果てしなく創造的なプレイヤーでもありました。
 中田英寿のサッカーに対する姿勢もプレイも、すべてが「なにが一番いいのか」ということの探求を元に
 為されているのです。
 私はその彼の創造行為を、彼を観る中で、共に行っていたのでした。
 私自身の、理想のサッカープレイヤー像を創り上げながら。
 中田英寿は、だから私にとってのアイドルではありません。
 私は別に、昔の中田が良かったとか全然思いません。
 中田英寿は、私にとっての共にサッカーを愉しみ続けた共犯者でした。
 
 そして、中田の公式サイトにおける引退表明文を読みました。
 冒頭よりしばらくは、どうにも心底疲れ果てた彼の苦衷が察せられて、しかもそれはどちらかというと嫌な
 感触を以て伝わってくるものでした。
 なんだか愚痴めいている。
 そして自らが引退する理由を浅ましく付けたしの如くに書いている。
 そう感じました。
 あー、この人、まだやめたくないんだな、と。
 けれど。
 読み進めるうちに、その思いは変わりました。
 違う、この人はもう、次を観ている、と。
 といっても、自分の力の限界が来たから次のステップへいくというものではありませんでした。
 彼は、中田英寿は、さらに上を狙っていたのです。
 彼の中心に、初めにあるのは常にサッカーを「愉しむ」こと。
 彼は「プロ」というものを経験して、そこでは自分の得たかったものは得られないという事実を得たのです。
 
 彼は、プロはやめるとは言ったけれど、サッカーをやめるとは言っていないのです。
 
 実に、彼らしい。
 いいえ、彼はまだまだ彼以上のものを目指していたのです。
 すべて読み終えたのち、やはりどこか寂しげな印象をその文章からは受けました。
 やはり彼の中では敗残のイメージはあるのでしょう。
 彼がやろうと思っていたことを、彼のやり方ではできなかったのですから。
 でも、そうして重く消えていきそうな気持ちを、最後にぴんと立ち上げている彼の姿ははっきりと見えます。
 ならば、違うやり方を、してみよう。
 引退、などと言う言葉は明らかに不適切。
 プロだけがサッカーをする場で無いことは、良く考えれば誰にでもわかること。
 けれどプロが自分の求めていたサッカーをする場では無かったことを本当の意味で知るには、プロになら
 なければいけなかった。
 そして、中田英寿はそのプロを経験した。
 だから、彼の瞳に今、映っているのは・・・・・・・・
 
 私はこれからもずっと、中田英寿のファンでいます。
 
 
 ぶっちゃけ、中田引退はあくまで仮説です。 (自己洗脳完了)
 
 
 ◆ ◆
 
 中田引退の衝撃度が高すぎて、こっちの衝撃が相対的に下がってしまいました。
 はい、ブラジル敗退。
 ラスボスが決勝前に負けてどうする! てか完全不完全燃焼じゃん!
 結局フランスの芸の無い守りにあって勝手に自滅した最低の試合でジエンド。
 ブラジルファンが怒り狂うのはよーくわかります。
 正直ほんと一気にこの大会の品質が下がったような感じがして、ブラジルファン以外もいい思いはしな
 かったでしょうねぇ。
 期待はずれとはまさにこの事。
 フランスはこの勢いでポルトガルを破って決勝で、そしてドイツがそれに当然のように圧勝して優勝。
 なんだか下手な脚本掴まされた感じ。
 ふぅ。
 私としては、イタリアには是非頑張って準決勝でドイツを撃破して貰いたいですね。
 今大会最も質の高いサッカーをしてるのはイタリアです。
 ひとつひとつのプレイが高レベルな上に洗練された高品質さがありますよ。
 トラップひとつにしても全部計算されてるし、局所でのボールキープもうまいし、パスも先の先まで読んでる
 し、プレスも非常に考えられているし、勿論固いだけじゃない美しさを備えたカテナチオはやっぱり絶品だ
 し、たとえそういうのが勝利に結びつかなくても、そういうのはそれだけで価値があるものです。
 イタリアサッカー、セリエAがレベルとしては一番高いと思いますしね。
 あれだけのプレッシングのサッカーの中で生き抜くには、そりゃープレーの質は高くなりますよね。
 同じプレスの激しさはあっても、イングランドは基本的にパワー・スピード・高さのガチンコ勝負にしかなら
 無いから魅せるも何も無いし、逆にスペインなんかは芸術的パスサッカーなのはそうなんだけど、それは
 サッカーというものから離れて曲芸の方向に行ってる嫌いがあるし、やはりイタリアと比べると見劣りする。
 ドイツもかなり洗練されてはいるんだけど、戦術がパワープレイ、っていうか基本に忠実過ぎるっていうか
 、まぁ今回は割と攻撃的で面白いサッカーしてるから結構見応えあるけれど守備が・・・・・ww
 ドイツにもイタリアのカンナバロみたいなクレバーなDFが居れば面白いんだけどね。
 ちなみにカンナバロっていうのは、ネスタと並ぶカテナチオの中心で、ネスタがパワー・スピード・高さを兼ね
 備えた完璧超人なのに対し、パワーも無くスピードも無く高さも無く(背はかなり低い)、その代わりに
 相手のドリブルやパスのコースを的確に読んでカットしたり、ゴール前での絶妙なボディバランスで相手の
 バランスを崩してボールを奪ったりできるプレイヤーのことで、私が一番好きなDFです。
 で、話戻すと、基本的に私の理想的決勝カードはいつもイタリアvsブラジル。
 守りと攻め!
 
 いや、それはまとめすぎだろう。
 
 
 ◆ ◆
 
 長。すんごい長。
 さすがに先生疲れてきたよ。
 でも書くよ。書きますよ。
 他の日の更新をサボるために今頑張りますよ!
 
 で、ホリック。の感想。
 いや、それ以前にホリックって全13話じゃないの?
 いや、もういいです、それならそれでいいんです。
 私的には、あー結局ホリックの感想はまともに書けないうちに終わるのかぁ、とか後ろ向き真っ盛りなこと
 をぬかしていたところですから。
 むしろ26話なら歓迎なのです。万歳なのです。
 ・・・・・・・・・ちっ
 
 で、ホリックの感想がやっとものになり始めました。
 というセリフを前にも、しかも何回も言った気がしますけれど、気にしない。
 ホリックというのは、もはや私にとっては如何ともしがたいほど難しく、さりとて逃れることもできない作品に
 なっています。
 どう足掻いても掴むことができないくせに、しっかりと体にまとわりついているもの。
 どんなに書こうとしてもそれは決して書き表わされる事は無いけれど、しかし必ずなにかがある。
 たぶん、私がなにを書いてもしっかりとしたまとまりのあるものなど書けはしなく、けれど書けば必ずそれを
 読むことで想起できるものがある。
 だから私は、敢えて物語化を少しだけ感想に施してみることにしたのです。
 とにかくなにか語ってしまおう、それがたとえ「ホリック」といういれものとは違ういれものであったとしても、
 おそらくその中に入るものは同じになると思うから。
 今まで、ホリックの感想は試行錯誤という言葉を越えて、もはや書けるものをありったけ書いてみた、とい
 うものでした。
 そして、たぶんそうやって色々と書いてきたその行為そのものが、きっとなにかを其処に「顕わして」くれるの
 じゃないかと、そう思ったのです。
 きっと、なにを書いてもホリックの感想になるんです。
 そう思える境地に居る私が書いているからこそ、そこに私が書いたホリックの感想が顕われる。
 かと言って、じゃあ適当書けばいいかといえばそうじゃなく、それはむしろより高くホリックの感想を書いて
 いる意識が求められ、そしてより高い思考と感覚が求められているのです。
 書くともなく書く、というのは書かなくていいという意味では無い。
 まぁよくわからないですけど。ていうか、どうでもいいや。
 とにかく、ぼつぼつと、そしてしっかりとホリックの感想は書けそうな気がしています。
 
 頑張ります。 (割と軽い感じで)
 
 
 ◆ ◆
 
 はい、次いくよ次。
 7月の新アニメ。早速ひとつみました。
 貧乏姉妹物語
 気付いたら、号泣してた。
 やばい、涙が止まらない、マジ、マジやばい。枯れる。
 これは良い。すごい。感動した。感激した。
 あーそうだよね、余計な事考えすぎだよね、感動ってこういうことだよね。
 ちゃんと話を聞けばいいんです。
 いいこと言ってるとかそうじゃないかとか関係ないんです。
 よく聞いて、それがどういうことなのかを考えて、そうしているうちに目の前に広がっていくふたりの光景に
 涙が止まらなくなる・・・・・・・あー・・・・目痛い・・・(涙出過ぎ)
 たぶん、文字にしちゃったら大したことは描かれてないと思う。
 アニメ作品としてなにか評価するようなものがあるとも思えない。
 でも、それはあんまり関係ない。
 彼女らが言ったりやったりしてること、それがわーっときてぐわーっときてすげーってなって。
 つまりー、感動ですよ。
 わたしゃ貧乏モノに弱いですよ。
 昔貧乏ネタのコントがあってみんなそれを笑ってるのにひとりだけ泣いてたことありますよ。
 むしろそれが原点ですよ。
 だって、可哀想じゃん、めちゃくちゃ。
 お姉ちゃんと縁日の夜店をまわるために必死こいて貯金したほんのちょっとのお金を、妹に浴衣を買って
 あげるために姉が使っちゃって、そんなの、かわいそすぎる。
 誰も悪いことしてないのに、一生懸命なのに、お互いを思ってるのに、それなのに。
 それが結局お金の事に繋がっちゃうところがやっぱりとても悲しい。
 ふたりは貧乏だけど清貧なんかじゃなくて、しっかりとした倹約家で、美しいほどにお金を愛してて、その大
 事さも分かってて、そしてお金に換えられないものがあるのも当然知ってて、だからそれらを守るためにもよ
 りお金が大事なことを思い知ってて、だから頑張れたのに、それなのに。
 
 あー・・・、駄目だわ、ほんとやばい
 
 んで、そうした行き違い(って言葉もなんかやだな)から妹がぐぐーっと姉の方に向き合って、姉から貰った
 浴衣を見て号泣。
 キャラも良く泣く良く泣く。
 無論私も此処で貰い号泣。
 悲しみを悔しさに換えたんだよね、妹は。
 頭の中はお姉ちゃんお姉ちゃんで一杯にしてさ。
 それで浴衣着込んでお姉ちゃん探して突っ走るんだよね。
 でもなかなかお姉ちゃんは見つからなくて、花火に間に合わないかもしれなくて、だから妹はもう気が気で
 は無くて、また悲しくて辛くてだからどうしようどうしようって感じで、私も頑張れ頑張れと応援したし、
 そしてやっと、やっとお姉ちゃんと出会えて、また妹号泣。
 あれ、この声の人ってあずまんがのちよちゃんの人? この焦った声がいいよねーやっぱり。
 ということでした。
 次回も見ます。泣いても見ます。
 絶対、絶対見ます! (ちよちゃん風に)
 
 
 
 中田なー。  (特に意味はありません)
 
 
 
 
 

 

-- 060701--                    

 

         

                                   ■■カゲ待つ青■■

     
 
 
 
 
 『助けてって言え。』
 
                            〜XXXHOLiC・ 第十二話・百目鬼の言葉より〜
 
 
 
 
 
 
 
 青海を押し並べて指先でなぞりながら固めていく。
 さらさらの海水が指の間から零れていくのを眺めながらも、青く濡れた指先は止まらない。
 深奥の、さらなる深奥にまで息を詰めて潜り至る。
 おもむろに、決死の覚悟で、息をひとくちだけ、吸う。
 水が、無い。
 喉の奥にまとわりつきながら積み重なっていく埃まみれの木漏れ陽だけが在った。
 冷たい石床の感触が足に爪を立てながら這い上がってくる。
 穏やかに死んでいく額縁に囚われた一枚の絵。
 その燦々と輝く陽の光に照らされた絵の中の世界から漏れてきた陽。
 それは幻では無かった。
 それが、それだけが、ほんとうの。
 
 
 此処に、居る。
 居る。
 叫んだ。
 誰も応えない。
 でも知っている。
 誰かが其処に居ると。
 だから、沈黙する。
 叫ぶ必要が無いと知ったから。
 なんだ、あなた其処に居たの。
 それなら、安心。
 目の前のドアが開くまで、私は待っていましょう。
 待てど暮らせどそのドアは開くことが無いという思いを、ただ虚しい言葉に換えて。
 
 こ こ か ら だ し て 
 
 つまらない。
 つまらないわ。
 それだけじゃ、つまらないわ。
 だからもっと沢山、沢山我慢しましょう。
 我を忘れるくらいに耐えて耐え抜いて、なにに耐えているのかもわからなくなるくらいに絶叫して。
 それでも、あなたは私を助けてくれるのかしら?
 目の前から逃げ去っていくあなたの後ろ姿を眺めるのが愛おしい。
 私はこんなにあからさまに、浅ましく待っていると言ったのだから、あなたはどこまでもお逃げなさい。
 逃げて、逃げて、そして逃げて。
 さすれば私は、あなたが私を助けに来てくれるのを信じられます。
 
 『あなたはわたしに気付いてくれたかしら』
 
 
 
 私はあなたを待っている。
 信じて、ずっと、待っている。
 待って、待って、待ち続けて。
 そうして此処に居る。
 待っています、あなたを。
 
 
 必死に逃げ回っている私の姿が、刻々と壁に刻み込まれていくのを、ただ眺めていた。
 
 
 ・・・・・・
 
 辛い?
 そんなこと無いですよ。
 ええ、だってたぶん生まれてからずっとそうだったんですから。
 でもね、実際は俺がアヤカシとか見るようになったのって、それってそれが他の人には見えないものだって
 知ってからだったと思うんですよ。
 それ以前は、やっぱりそれは「アヤカシ」じゃなかったんです。
 ただの不思議なもので、それは言ってみれば珍獣みたいなものだったんですよ。
 だからね、俺はよくそこに立ち帰るんです。
 世の中には不思議なことしか無いから、なにもアヤカシだけが特別じゃないってね。
 大体アヤカシ見たって気分悪くなるだけですし、そんなことよりももっともっと辛い目に会っている人達は
 沢山居るんですから、いちいちこんな事で辛いとか言っても興醒めなんですよね。
 うん、そうやって相対化して考えれば、なんとも無いって事ですよ。
 正直、全く辛くないかと言えばそりゃ嘘になるでしょうけど、でもそれよりも大きな苦しみが世界には
 あるんだって事を意識して比べてしまえば、自然どうでもいいようなものに思えるっていうか。
 あはは、だから、俺のことなんかそんな心配することじゃないんです。
 あ、でも、ひまわりちゃんに心配して貰えたのは滅茶苦茶嬉しいですけどね。
 やー、アヤカシ見るっていうこの体質も悪いことだけ運んでくる訳じゃないんだなーって思いましたよ。
 ま、百目鬼の野郎は心配なんか全然しちゃいないでしょうしね、っていうかあんな奴に心配されたくない
 ですけど。
 侑子さんはきっと・・・考えるだけで頭痛くなってきたのでなにも言いません。
  うん、そうですね、だから俺はあんまそういうのとか、別にどうでもいいんですよ。
 ただ頑張れればそれでいいっていうか、なるようになるっていうか・・
 結局、なんでも自分次第だと思うんですよね。
 俺がしっかり受け入れていけば、すべては丸く収まるんじゃないかってね。
 そう思えば、割と元気も出てくると思うんですよね。
 え?
 だから、たぶんそのときにはもうアヤカシの事とか考えて無くて、どうやったらうまく自分の気持ちを持ってい
 けるかとか、事を上手く運べるかとか、そう言うことを既に考えているのじゃないですか。
 ていうか、そのために考えなきゃいけないことは山積みな訳で、だから俺はいつもそういう現実的なことを
 考えているっていうか。
 
 え? 助け? 
 そんなの、要りませんよ。
 理由?
 無いですね。
 しいて言えば、助けて貰う理由が無いから、かな。
 
 
 
 ◆・・・・・・
 
 気分がずっしりと重く弾んでいる。
 空の果てまで海の底まで引きずられていくようにどこまでもいつまでも揺れていく。
 動悸を感じられない。
 体のすべてが激しく振動し、それがひとつの弾丸のように真っ直ぐと此処に突き刺さっていく。
 衝撃。
 目が眩み、息が止まり、耳鳴りが激しく、声は、声は、出ない。
 あはははははは
 音の無い笑い声が木霊する。
 そう。
 私、あなたを待っているの。
 あなたを待つために色々準備したわ。
 あなたに気に入られるように、あなたに相応しいように、あなたに愛されるように。
 この頑丈な此処を周囲に張り巡らした蠱惑の空間をあなたのために。
 降り注ぐ涙で濡らした真っ白に喘ぐ青い花。
 丹精込めて、あなたのために活けました。
 血も涙も肉も骨も、すべてを捧げてその花瓶に捕えました。
 意味ありげに、全くの無意味にその余命を決めた残骸を飾ってみました。
 その花は、その水が枯れれば死にます。
 その青い花に水をやったのは私です。
 あなたのために、あなたを待つために、私が此処に居るために。
 私はこの身を青く染めました。
 
 あなたに会えるかしら。
 あなたは逃げたのに。
 でもあなたは私を此処に閉じ込めた。
 だから私は私を此処に閉じ込めた。
 あなたに会うためにあなたに会うためにあなたに待つために。
 考えれば考えるほど考えることができなくなり、ただただこの体には青い埃が降り積もっていく。
 青い、青い、海の亡骸。
 あの人はきっとあの海の彼方に逃げていったわ。
 でもあなたがこのドアの前に居るのは間違い無い。
 此処では無い場所はすべてドアの前。
 書く。書く書く書く。
 想いを、悲しみを、愛を、絶望を。
 此処に書く。
 
 それが、私があなたを待っているということ。
 
 
 
 ・・・・・・
 
 そりゃあ・・ねぇ・・・俺だってアヤカシなんて見ないで済むなたそれに越したことは無いですよ。
 あんなもの見て喜ぶ人が居るとは思えない・・・ってまぁ「見たいと思う」人は居るとは思いますけどね、
 少なくとも俺は御免ですよ。
 でも実際俺には見えちゃうんですからしょうがないですよ。
 俺がどんなに嫌がろうと喜ぼうと見えるものは見える訳で、それは俺達が呼吸したくてしてるわけじゃない
 のと同じですよね。
 だから俺はそこから始まってるっていうか、なんていうのかな、それを受け入れてからすべてが始まる、
 そしてそれが出来たことで始まることに意味があるっていうか、そう思うんですよ。
 俺にとって重要なのは、どうやって俺がこの体質を受け入れるかって事なんです。
 だからね、俺は・・・・・・・・
 
 
 
 ◆◆・・・・・・
 
 嘘。
 そう、嘘。
 なにもかも嘘。
 でもその事を全く実感していない私が居る。
 私に言葉は、嘘は、無効。
 騙せやしないわ。騙されやしないわ。
 黙れ、黙れ、つまらないリクツはもう見飽きたわ。
 もう少し真面目に語れないの。
 もっと激しくこの体に響く声を聞かせてはくれないの。
 こんな壁、引き裂いてやる。
 こんなドア、蹴破ってやる。
 全部、燃えてしまえ。
 
 煌々と落ちてくる太陽の冷たい日差しがこの体を青く閉ざしていく。
 
 燃やす? 蹴破る? 引き裂く? なんのこと?
 私は此処を愛してるわ。
 だってあなたが閉じ込めてくれたのですもの。
 此処は私がの居場所。
 あなたを待つに相応しい青い花。
 苦しいわ。苦しいわ。苦しいわ。
 でもでもでも。
 書かなくちゃ。書かなくちゃ。書かなくちゃ。
 でもなにを書けば・・・・
 部屋中に駆けめぐる無意味な言葉の群生に目を走らせながら戸惑ってしまう。
 なにを恥じらっているの。
 私はあなたを待てばいいだけ。
 あなたを待っていれば、いつかあなたがドアを開けて・・・・そして・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 え・・・・・
 
 
 
 
 私は・・・・・・・何処・・・・・・・・?
 
 
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 俺は、俺じゃなかったんです。
 そう、俺はただずっと、俺になりたかっただけで、俺なんかじゃなかった。
 
 
 
 ◆◆◆・・・・・・
 
 しんと、静まった。
 震えが止まり、震えを感じているなにかが此処に在った。
 ようやく、来たわね。
 あなた・・・愛しい愛しい私のあなた・・・・・・・そして・・・あなたの私・・・
 そう、此処に在るのはあなたの私。
 あなたが在るからこそ在り得る私の姿。
 面白い。面白いわ。
 滑稽すぎて死にたくなるわ。
 『あつい』
 じわじわと蒸しかえる肉体の狭間を駆けめぐる血潮。
 全然、全然この中に無いじゃない。
 私の中に、一体どれだけのものがあるというの。
 一体私は私の中のどれだけを生きているというの。
 私の中に走る血の一滴すら、私には感じられない。
 細胞とう細胞の間から零れしたたり落ちるように流れる紅い水しかそこには無い。
 
 だから、それが既に答えじゃないの。
 
 
 
 私は、此処に、居る。
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 私の中に私が流れているのを感じられないのは、私が既に私の中を流れている存在だから。
 私はそれを語る言葉を持ち得ない。
 私は私、と言うのも、きっと嘘。
 私は私を語る術を持ち得ない。
 そしてそれは、私が何を語ろうともすべてその行為自体が私だということになるだけ。
 だから。
 いいえ、だからでは無いのよ。
 理由は、無い。
 だから、じゃない。
 ただ。
 『まっているの』
 
 そして、そう言う私の前に広がり始めた言葉が、色鮮やかな青を取り戻し輝き始めていた。
 そうよ。
 私は、私はあなたを・・・・・・
 あなたを・・・・・愛して・・・・・・・・憎んで・・・・・・
 
 私は・・・・
 あなたを愛せるようになりたかったわけでも、憎みたかったわけでもない。
 私はただ、あなたを愛し、憎んでいたわ。
 そして。
 あなたを待っていたかったのでも無く、そして、あなたに此処から出して貰いたかったわけでもない。
 「ここからだして」?
 馬鹿じゃないの。
 そんな言葉は、意味無いわ。
 私の想いは、そんなものの中には無い。
 私が想い、そして「言いたかった」ことは・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 ・・・・・・
 
 百目鬼の奴に「助けて」と言葉にすれば、一日だけアヤカシから身を守られる契約が成り立つって。
 いくらひまわりちゃんがそれを望んでいたからって、百目鬼なんかに助けを乞うなんて真っ平ですよ。
 いや、ひまわりちゃんが一生懸命になって色々考えてくれたのはすんごい嬉しいですけど。当然ですよ。
 でもそれとこれは別ですって。
 俺はあんな奴に助けて貰うほど落ちぶれちゃいませんよ。
 俺はひまわりちゃんのその気持ちだけで充分なんです。
 アヤカシが一杯で海で俺だけ泳げなくても、ひまわりちゃん見てるだけで幸せですって。
 むしろ俺が海で泳げないことで、ひまわりちゃんが俺のために頑張ってくれたことで、ひどく得した気分
 ってところですよ。
 あー、もう、ひまわりちゃん可愛いなぁもう。
 え? だからもう侑子さんもしつこいなぁ。
 そりゃ俺だってよく考えれば助けが必要かなって思うときはありますよ。
 でもその助けを得て得られるものと、そもそも助けを得ないで自足することで得られるものとどっちが良い
 のか考えたら、俺としては後者を選びたいと思うんですよ。
 今回の件だって、結果的に俺は満足してますよ、しかもかなり。
 そりゃー色々怖かったけど、その分全部事が済んだあとに考えてみると、そういうの全部ひっくるめて楽し
 かったって思えるっていうかですね、まぁこれはこれで良いのかなっていう想定外の幸せを感じられたって
 ことでしょうかね。
 だから、全然問題無し、っていうかこれで良し、みたいな感じです。
 
 ◆・・・そして目の前に顕われる絶対に消えることの無いわたしのすがた
 
 ってことで、まぁ今回の件はこれで終わりってことで。
 
 ◆・・・馬鹿なわたしが嗤っている
 
 じゃ、ちょっと飲み物のおかわり用意してきますね。
 
 ◆・・・ほら、取り澄ました必死の想いで嘘をついて
 
 あれ・・・・?
 
 あ・・・・れ・・・・・・・・・・・
 
 あんな・・・とこ・・に・・・・・・
 
 ◆・・・こんなとこに
 
 
 『窓・・・・・?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ふふふ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『あぁ・・・・・・・・・やっと、出られる』
 
 
 
 
 
 
                             ◆ 『』内文章、アニメ「XXXHOLiC」より引用 ◆
 
 
 

 

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