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◆◆◆ -- 2009年8月のお話 -- ◆◆◆

 

-- 090829--                    

 

         

                                 ■■ 狼と話の価値 ■■

     
 
 
 
 
 『ま、商売の話をしているときのぬしは実に楽しそうじゃからの。 その横顔を肴にしよう。』
 

                              〜狼と香辛料U・第八話・ホロの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 大海原が鳴いている。
 深みを目指して航海を続けながら、どこまでも水面の上の恐怖の中で踊っている。
 天蓋のように押し寄せてくる蒼穹が、どこまでもその涙を海底へと誘っていく。
 触れればそれで、縁が結ばれる。
 一度漕ぎ出せば、その船はもう海のもの。
 船の積み荷はすべて海の人質じゃ。
 海の幸に山の幸を娶せて、潤沢豊穣の夢を乗せ、その船はぷかりと泳いでいる。
 早く、早く、積み荷が腐らぬうちに。
 ひと嵐、来ればそれでお終いじゃ。
 たとえ沈まなくても、海の上にいる時間を延ばせば、積み荷の価値はそれだけ下がっていく。
 じゃが、誰もその嵐に弄ばれるを恐れて、商いを閉じる道など選んだりはせぬ。
 運命に逆らうのが人の定めと想い懸けて、諄々と諭すように波間に浮かんでいく。
 嵐に弄ばれるを恐れて諦めるは、愚か。
 じゃが。
 嵐そのものを恐れて、その航路に踏み込まぬ道を選ぶは、全く正しいことなのではないかや?
 このたわけ。
 ベッドの中で、縦横無尽に、たわけなロレンスの思考を読み、こうして考え続けている。
 
 
 
 嘘を嘘と見抜くは簡単じゃ。
 じゃから逆に、嘘を嘘と見抜かせることから、嘘は始まるんじゃ。
 バレる嘘は、それが見破られ難ければ難いほどに、その隠蔽としての価値と精度は上がっていく。
 なぜなら、その難しい嘘を見破ったときこそ、人は油断するからじゃ。
 見破られたときに、その嘘吐きが参ったという顔をすれば、尚更じゃ。
 確かに嘘を吐いた相手のその嘘を見破って、それで安心することなどは無い。
 一度嘘が吐かれれば、それを見破った分、また嘘を吐いているのではないかと、そう必ず疑うからじゃ。
 じゃが。
 疑うのは、その人物の心根をであって、第一の嘘が見破られた瞬間に成立した、その第二の真の嘘
 の正体を、では無い。
 というより、またこいつは嘘を吐くのではないかという疑いを持っているときには、もうその相手は既に嘘を
 吐き終え、そしてその嘘を見破られぬ位置に完璧に隠してしまっている。
 じゃから、その嘘を完遂してしまったそやつのその、次に吐く嘘を見破ることは出来ても、その完遂されて
 しまった嘘にはもう。
 絶対に気付くことが出来なくなるのじゃ。
 一度最初に見破った嘘には、もう目を向けなくなるからじゃな。
 その見破られた嘘の、その裏側にこそ、嘘の吐き手が隠した、最初からそれを成立させるのを目的と
 した一番大きい嘘が張り付いているんじゃ。
 新しく吐かれていく嘘を見破り、そして参ったという顔をして白状された本音と手を握り合っていく、
 そうして信頼関係を深めていく、と?
 それはまさに、たわけというものじゃ。
 ロレンスの背には、その疑うということを知るからこそに広がるその自信が張り付いとる。
 ぬしのその疑う力というのは、誰かを信じるためにこそあるものじゃ。
 疑って、疑って、それでも疑えぬものが出てくれば、それは本物じゃと、そうしてどこかに必ず信じて良い
 ものがあると思っての、その自信に溢れた背中なんじゃ。
 このたわけ。
 疑って疑って、それでも疑えぬものが真実じゃと?
 このたわけ。
 それが真実であるかどうかと、それを真実ということにしてものをみていく、ということは全く別のことじゃ。
 物事を見定め、また真に見破っていくのは、あくまで自分じゃ。
 見つけた真実自体が、物事を見定め嘘を見破るためにぬしを導いてくりゃる訳ではありんせん。
 真実というのは、あくまで指針じゃ。
 指針を立てるのは、それはすべて自らの選択と責任に於いてじゃ。
 真実などありんせん。
 ただ真実という名の指針を自ら立て、その指針に従うことで生じるあらゆること、それに向き合い、
 そしてなによりそれに対してどうすれば良いのかと巡らす知恵にこそ、疑うということのその本質的価値
 があるんじゃ。
 それは、疑いを経て導き出された絶対的な真実に従う、ということとは全く違うことじゃ。
 真実など、いくらでも疑えるし、いくらでも軽やかに反旗を翻して違う道を縦横に選択すればよい。
 真実とは、起点にしか過ぎぬ。
 基点はあくまで、ぬしという自分じゃ。
 それが真実かどうかを疑うことに価値などありんせん。
 それを真実とした場合、どうなることになるのかどうしていくことが出来るのかを、それを考えることこそに
 価値はある。
 じゃがの。
 
 
 それ自体を、罠にする嘘というものもあるんじゃよ。
 
 
 
 
 
 ◆
 
 柔らかく香る潮の匂い。
 透き通るように泡立つ酒の喉越し。
 噎せ返るような騒擾の中に降り立つ路地裏の静寂。
 それだけで楽しい、とは言わぬ。
 この楽しさを成立させる、その道筋も含めての、この楽しさなのじゃからの。
 無論、この楽しさを元手にして広げられるであろう、商売の可能性を肴にして飲む酒は無類に旨い
 ものじゃ。
 みんな繋がっとる。
 わっちはの、それだけで、良いんじゃ。
 いや、それこそが良いんじゃ。
 のう、ロレンス。
 ほどほどにしてくりゃれ、とわっちが言うた意味を、ぬしは考えておるかや?
 わっちはの。
 金儲けも商売も好きじゃ。
 悪知恵を働かせて、あくどく立ち回ることも大好きじゃ。
 手練手管を重ねて、あの手この手と頭を巡らせて戯れることほど胸がすくものは無い。
 わっちはそれが、好きじゃ。
 その好きな事共の中にこそ、懸命に頑張る愉しみがある。
 そう・・
 わっちはただ、その愉しみを酒の肴にして酒を飲む、その楽しさこそを求めているんじゃ。
 ぬしよ、ぬし様よ。
 ほどほどにしてくりゃれ。
 ぬしはどうにも、本末転倒に傾くきらいがある。
 なんのために働くんじゃ?
 なんのために考えるのじゃ?
 ぬしにとってわっちはなんじゃ?
 わっちは酔ってベッドに倒れ込んで、けれどぬしはそのわっちに優しい言葉をかけて部屋を出て行く。
 部屋を出て行くためにこそ、優しい言葉をかけていくんじゃ。
 一緒にベッドに潜り込んで優しくしてくりゃれ♪、とまでは言わぬ。
 言えば冗談にしかならぬしの。
 じゃが、わっちの横で、いそいそと懐にしまった金銀を広げ、これまでの愉しみとこれからの愉しみに
 奮える、そのぬしの可愛い横顔を魅せて欲しかった。
 酔うたが、潰れるほどでは無い。
 じっと、ロレンスを試した。
 じゃがロレンスは、わっちを置いて部屋を出て行くのを当たり前のようにして選んだ。
 のう、ぬし様よ。
 ぬし様は、酔うてはおらなんだか?
 この酔いのためにこそ、酔うてベッドに寝転び、嬉々として金勘定ながらに夢を語り恋を騙り合うために
 こそ、ぬしは商売をしておるのではないのかや?
 なにも、今部屋を出ていく必要はないではないかや。
 貪欲なのは結構じゃが、その貪るように欲して手に入れたものを放り出して、次なる貪欲に身を浸して
 部屋を出ていかれては敵わぬ。
 
 『尻尾を売られては敵わぬ。』
 
 尻尾を小刻みに振り、嘘と真の戯れにぬしを引き込んだは、わっちぞ。
 なぜわっちがそうするか、わからぬぬしではあるまいに。
 金儲けも商売も、酒の肴に過ぎぬ。
 酒も飲まずに酔いもせずに、酒の肴を探しにいくばかりでなんとする。
 いいんじゃよ? より良い肴を探すということそれ自体はの。
 じゃがの、それはより良い肴を得て旨い酒を飲んで楽しく酔うためにこそ、することじゃ。
 ぬしは、肴の亡者じゃ。
 わっちは、ぬしが稼ぐ算段を巡らし、稼ぎ出した銀貨の転がる音を愉しむことを指して、金の亡者だ
 などと言いはせん。
 そして、ぬしが本当に金を、そして肴を探し続けることそのものを求めることにその幸せを感じるのなら、
 わっちはそれもまた亡者と呼びもせぬし、また虚しいとも思わぬ。
 それは、豊穣の神として、そう認めよう。
 じゃが、ぬしは、ぬしが一番求めているのは、それでは無いのじゃろ?
 なんのために稼ぐんじゃ?
 本当に、稼ぐために稼いでおるのかや?
 本当にそうなら、それで良いと保証する神が此処にいることを、ぬしは信じても良い。
 じゃがぬしは、酔うためにこそ、わっちとの愉快な旅のためにこそ、稼ぐつもりでいるのではないのかや?
 ぬしがその目的を果たすために有効では無いどころか、本末転倒にして自滅的なやり方を選ぶから
 こそ、わっちはそれをこそ指して、亡者と呼ぶんじゃ。
 このたわけ。
 ぬしのやっていることが、本当にぬしのしたい事を叶えるために有効なものになっているのかを、それを
 こそ考えるためにこそ、ぬしこそを疑う必要がなによりもあるのじゃろうが。
 わっちをみよ!
 わっちはぬしのなんじゃ! 何度でも言うてみよ!
 わっちはそして、ぬしが稼ぐために稼ぐことに真実幸せを感じるなら、それを虚しいとは言わぬ。
 じゃが、わっちはぬしと旅がしたい。
 我が儘と言われようと、わっちはぬしがいい。
 たとえぬしが稼ぐために稼ぐ男じゃろうと、わっちはぬしをわっちのために稼ぐ男に変えてみせる。
 いや・・・・
 もう、ずっと、ぬしと旅を続けてきて、そうしてきたのでありんす・・・
 ぬしもそれに応えて、だからこそわっちとの旅のために頑張ろうとする、そのぬしに基点を置いてくれたの
 じゃろ?
 
 
 だったら、その基点と今ぬしがやっていることが、真っ直ぐ繋がれているかをちゃんと検証しんす!
 
 
 独り宿屋のベッドにくるまっておるのが、寂しゅうて堪らぬ。
 ぬしは、ぬし独りで色々と策動することが、寂しいとは思わぬのかや?
 いや・・・寂しいと・・・・・そう思うてはくれぬのかや?
 寂しくて、寂しくて、だから商人として懸命に働いてきたがゆえに、その寂しさに価値があるんじゃろ?
 寂しさを感じてくりゃれ。
 寂しさを感じて、その上で懸命に働いてくりゃれ。
 寂しさ無き商人なぞ、わっちは神として加護する気にはようなれぬ。
 そしてなにより、その寂しさに耐えるだけの男なぞ、わっちは御免じゃ。
 わっちゃあただ、寂しい寂しいと駄々をこねて男の帰りを待つ子供なのかや?
 いいじゃろう、ああいいじゃろう、子供で大変結構じゃ!
 じゃが、ぬしも子供になりんす。
 寂しくて、寂しくて、早く仕事を終わらせて、一刻も早くわっちに会いたい想いでそわそわしんす!
 今日稼いだ金で、わっちと盛大に愉快に酒を飲むために、丹念に丁寧に、そしてなにより賢く仕事を
 してきんす。
 子供のわっちが気になるだけなら、わっちはぬしなぞよういらぬ。
 そして、わっちに会いたくて堪らない寂しさに囚われる子供なだけのぬしは可愛いが、可愛いだけじゃ。
 わっちだとて、寂しさを感じても寂しさに囚われるだけではありんせん。
 ぬしもじゃから、しっかり働いてきんす。
 寂しくて、寂しくて、けれどそれをおくびにも出さずに、誰よりも素晴らしい仕事をしてきんす。
 それが良き大人というものじゃ。
 そして。
 その良き大人の稼ぎ出した金を、美酒に換え高嶺の花を添え、寂しくて堪らなかったと謳いんす。
 無論、わっちの御機嫌取りという意味でだけで無く、ぬしの寂しさをなにより満たすために、の。
 女を愉しませるだけでは足りんせん、当の男こそなにより愉しまなくてはの。
 それが、良き男というものじゃ。
 その男と女の交歓こそ、最も楽しいものじゃろうよ。
 男は、女に男を愉しませる事が出来るように計らうのも大事じゃし、じゃからこそ女が、男に女を愉しま
 せる事が出来るように懸命に働けるように計らうことに、その愛しさを感じることが出来るのじゃよ。
 
 
 
 
 
 虚しいの
 
 
 
 なんじゃ、なんじゃ。
 天井が妙に低い。
 毛布から顔を出すのが不安なままに、思い切ってひょいと顔を出せば、そこには迫る天井があった。
 ロレンスがおらぬ。
 毛布にくるまり、可能な限り耳を峙てず鼻を塞ぎ、口を閉じるままに暖かい闇の中でひとり呟くばかり。
 虚しい・・・というより、悔しいの
 結局わっちは、ロレンスを引き留められなんだ。
 どうしても、本気を出せぬ。
 どうしても、さっぱりと諦める自分を無力感に浸してそのまま受け入れてしまう。
 そのわっちの腑抜けな姿を以てしてロレンスを惹き付けようとするのなら、まだ救いもあろうがの。
 そうでは、無かった。
 どうしてもわっちは、孤独を選んでしまう。
 ロレンスにすべてを任せて、ロレンスは全部ちゃんとわかっていて、必ずわっちの思う通りに戻ってくると、
 誰よりもなによりもそれをあり得ないと思っておる、このわっちこそがそう空々しく諳んじてしまう。
 口にした端から、吐き捨ててしまえようその阿呆な言葉を、吐き捨てるたびに拾い上げ、読み上げる。
 それの、繰り返し。
 ロレンスは・・・
 わっちの話しか、聴いておらんのじゃろうか。
 そうじゃ聴いておらぬのよと、断言出来るわっちだけがいつも此処におる。
 信じるか、信じないか。
 信じられるか信じられないかを問うことこそに、孤独の淵からの脱出の手掛かりがあるというのに、
 それを捨て、信じるか信じないかというただ自らのみの責任と選択に縋り付いてしまう。
 ロレンスは、変わってきているのじゃろうか。
 そもそもロレンスは、わっちの話の動機と目的を、どこまで理解しておるのじゃろうか。
 その問いが、なぜか迫ってくる黒い天井の中に、鮮やかに敷き詰められておった。
 がばと跳ね起き、それを見つめた。
 恐ろしい文字じゃった。
 わっちは確かに、その問いを突き詰めんかった。
 わっちは恐ろしいことに、ロレンスが一体わっちのことをどこまで理解して感じているのかを、それをこそ
 検証してはおらなんだ。
 じゃが・・
 それよりも、仮にロレンスがわっちの予想を上回るほどにわっちを理解し感得していたとして、それなら
 それがどうした、ということこそが、最も恐ろしいことじゃった。
 わっちに足りぬのは、なんじゃろうか。
 わっちは今まで、わっちに足りぬのは、どうしようも無く足りぬロレンスを充実させる行為に没頭すること、
 それそのものじゃと思っとったからこそ、あの手この手を駆使して、覚悟も決めて頑張ってきた。
 
 ロレンスがわっちのことを理解して感得していると、それをわっちが確認し感じることの価値は、なんじゃ?
 
 もしロレンスが、わっちにロレンスを信じられるような事をし続けられるとして。
 わっちはそうしてくれるロレンスを、信じるべきなのじゃろうか?
 信じられること、とはなんじゃろうか?
 それは、わっちの話と、同じなのじゃなかろうか。
 もしかして、わっちがロレンスに高々と突き付ける言葉は、ロレンスにとってのわっちとの繋がりそのものに
 なっとりゃせんか?
 嘘、とはなんじゃ。
 あのたわけを騙すなぞ、赤子の手を捻るよりたやすい。
 それは、わっちの話の巧拙そのものには関係無く、ただロレンスがわっちの話を、ただ話として有り難が
 っておるからこそ、ゆえではないのかや?
 わっちは、嘘などなにひとつ吐かなくとも、ロレンスを騙せる。
 騙せて、しまうんじゃ。
 恐ろしいの、悔しいの。
 悲しい・・・の・・・・
 話を話としてしか聴いておらぬ・・・
 話として筋が通っているかいないか、その筋の通った話を受け入れた場合どんな損得が発生するか。
 ロレンスの頭に中にあるのは、それだけなんじゃ・・
 わっちは心配で堪らぬ。
 あれは騙しやすい。
 あれほど騙しやすい男はおらぬ。
 話を話としてしか聴かぬ、損得勘定でしか動かぬ、基点に置くものへの想いが弱い。
 騙しやすい。
 騙したと告白してやらなければ、下手をすれば一生騙されたことに気付かないタイプじゃ。
 逆にいえば、騙したという言葉に囚われて、もはやそれを騙されたとしか思えなくなる、哀れな男じゃ。
 騙されたときの痛手が最も大きく、また後に引きずるタイプ。
 そして。
 女に最も騙されるタイプじゃ。
 もし嘘をひとつも吐かずに正直に隠し立て無しに話す女と出会ったら・・・・
 あのたわけは、あっさりと騙されるじゃろう。
 わっちゃあ、賢狼よ。
 それは嘘でもなんでもなく、本当のことよ。
 じゃから、賢狼のままに正直に本音だけを話せば、それは嘘とは言わぬ。
 賢狼として、賢狼のままに、賢狼に忠実に。
 わっちは、賢狼であるだけでは無いのにの。
 わっちが賢狼であることは真実じゃが、わっちが賢狼であるだけじゃというのは大嘘じゃ。
 ロレンスのたわけは、その目の前に提出された真実しか見よらぬ。
 その真実を見抜く力は確かに非凡のようじゃが、だからこそ、騙しやすい。
 仮に、それが絶対的な真実では無うて、ただ真実とみなして見つめてみるという、ロレンスがそのような
 冷静なことをしたとしよう。
 たとえばわっちは賢狼であるという真実を仮定して、その通りに行動し算段をロレンスが立てた場合、
 そのときロレンスのその算段の中には、見事にその賢狼と同時にひとりのホロとしてのわっちが動いて
 いるという計算が、全く欠如しておる。
 真実だろうと真実と仮定することだろうと、それでは同じじゃ。
 賢狼以外のわっちがわっちにあることも想定したとて、それが複雑に同時進行していることまで見抜
 かねば意味が無い。
 どれかひとつではありんせん。
 本音と建て前のような主従関係は、わっちには無いんじゃ。
 ぬしを騙そうとする女も、おんなじじゃ。
 それが見抜けねば、ロレンスは必ず本質を見誤る。
 のう、ロレンス。
 話だけでは無うて、話をしている者をよく見よ。
 話だけでは無うて、その目の前にいるものの姿だけでは無うて。
 あくまで、今、話しているその者こそを見よ。
 その者の本質は、今話をしているということ、そのものにあるのじゃからな。
 その話に影響を受けているのは、その話を聴いている者だけでは無い、ということよ。
 じゃから・・・ぬしよ・・・
 
 
 
 
 
 
 
 次に気付くのは、夜明けか、はたまた夜明け前か。
 どんな足音が部屋に入ってこようと、どんな香りがしようとも。
 どんな手が伸ばされようと・・・・
 無視しよう。
 そうわっちは堅く誓い、そして。
 
 
 眠れない夜が、始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 ホロの気持ちが良くわかる。
 大変良く、わかる。
 なんというかこう、画面の端々から、ホロの想いが滲み出ていて、堪らない。
 だからホロの想いのままに、そのままに書けば、それ自体がもう、ホロの想いを顕していく。
 ホロが話せば話すほど、ホロが考えれば考えるほどに、それ自体がホロの苦悩を体現したものとして、
 見事に顕れてきている。
 
 ホロの、今話をしているそのホロの、その虚しさが、感じられて感じられて、私はもう、落ち着かない。
 
 正直、私は今回のロレンスに期待しています。
 というより、今回のお話は、前エピソードと対を為すお話になっていると思うのです。
 前エピソードでは、ある意味ロレンスがひとりで慌ててひとりで勝手に駆けずりまわって、気付いたら
 ホロはそのままホロだった、という構成ではあったのですが、今エピソードはそれとは逆で、今度はホロが
 ひとり不安に駆られ焦燥し、そして喚くのを耐えながら耐えながら実はそれは全く杞憂で、ロレンスは
 ホロが思う以上に成長していた、とそういう感じになるのではと。
 
 確かに、ホロの憂う通りに、ホロの話の通りに、ロレンスは危うい。
 今回のお話の肝は、「話」。
 冒頭にて酒を飲みながら、ホロが語った話は実に親切設計で、ロレンスに「話」の仕組みをすべて
 教えるためにある話で、これはただ理解するだけでいい。
 次に酒場の娘の商売トークは、目的がはっきりしているからこそ、その話のノリについていくだけで、
 その話のどこがその目的と繋がっているかを見極めるだけで済む話。
 けれど最後に、ロレンスが見据えた目的とは違う目的があったことを娘がネタ晴らしする、という今後
 へのヒントつき。
 その次の宿屋の主人アロルドとの会話は、如何に互いに自分自身を「騙して」演出して魅せるか、
 そしてそれをどれだけ嘘の無い誠実なものとして魅せることが出来るか、それを為すための話。
 そして最後に、あれです。
 謎の商人エーブの話。
 冒頭のホロと酒場の娘とアロルドの「話」だけを元手にした場合、ロレンスは100%エーブに騙されます。
 エーブはおそらく、嘘などなにひとつ吐いていません。
 それ以前に、目的をはっきり伝えていますし、はっきりさせることでその誠実さを表してもいます。
 そしてなにより、それらのものがすべて、明らかに自らの胡散臭さを晴らそうとする行為として、
 はっきりと相手に伝えることで、よりその誠実さを伝えてもいる。
 確かに俺は怪しいさ、否定はしない。
 だから出来れば、その怪しさをひとつひとつ晴らしていきたいものだ。
 そうはっきりと、示している。
 ロレンスはそれを受けて沢山の言葉をぶつけて行きますし、そしてエーブは見事にそれに応えていく。
 怪しいままに、けれど怪しさを前面に押し立てることで、相手に疑いを持つことを許す。
 ロレンスはおそらく、エーブによってこそ、エーブを確かめるための言葉が自分から引きずり出されている
 事に気付いていません。
 まるでボケがツッコミを引き出すためにボケるかのように、エーブは実に鮮やかな手並みで、ロレンスとの
 軽妙な「対話」を引き出し演出し、その感触の中からロレンスとの握手を獲得するのです。
 ロレンスは、明らかに調子に乗っています。
 確かにロレンスの底の見えない笑顔は、交渉事に於いてはひとつの武器にはなりますが、しかしその
 武器の有効性を散々確認させられれば、それに酔ってしまう事はまた必定。
 ある意味でエーブの戦術は、ロレンスに得意のツッコミを徹底させそれを成功させるという、そのような
 褒め殺しであるのです。
 エーブはなにひとつ嘘を吐いていません。
 けれど、エーブは確かに、ロレンスの疑い混じりの、けれど確かな信頼を獲得したのです。
 ロレンスの信頼を得たあの話法でなら、いくらでもロレンスはもう騙せる、ということです。
 
 ホロ的に見れば、ハラハラです。
 
 
 というより、ホロの目的ってなんでしょう?
 それはまぁ、ざっくばらんに言えば、人生を楽しもう、ということです。
 ひとつひとつのものを対象化して、それこそ酒の肴にしてすべてを楽しもうとしています。
 そんなホロからすれば、危険な商売に手を伸ばすロレンスは、大きな不安要素です。
 今回のお話では、合間合間にホロの想いが滲み出て、そしてホロがロレンスを試す形にもなっていて、
 観ていると、話が進むにつれ、そのホロの不安がどんどんと観る者の胸の中に広がり、そしてエーブ
 とのロレンスのやりとりを観るにつけ、それは最高潮に達します。
 ホロ自身はエーブのことは知らない分、ホロの代わりに私達がその不安感を感じていますし、そして
 だからこそ、ホロが自らの心配を言語化論理化して話すことで、それの突き詰めの権化として顕れた
 エーブのその姿が、そのホロの不安とひとつに繋がっているのがわかってくるのです。
 ホロも今回、負けずにロレンスに語りかけ、またいつもの如くに試しまくっています。
 ロレンスは、「話」に囚われとる。
 結局ロレンスは、「話」しか見えんのじゃろか。
 ホロの虚しさ。
 ベッドの中に蹲るホロのその姿が、それを縦横無尽に描き出している。
 けれど。
 
 私には、ロレンスが逞しく見えるのです。
 
 ホロもまた、「話」に囚われているのではなくて?
 今回私は感想で、延々とホロに語らせてみました。
 ひとつの話として、ホロはロレンスの話をするのです。
 虚しい。
 ホロは、「ロレンスの話」というものに、囚われているのではないでしょうか?
 話というのは、話を聴く者だけに影響を与えるだけでは無く、話をする者自身にも大きな影響を
 与えている。
 ぶっちゃけ、私はロレンスはエーブに騙されると思います。
 けれどロレンスは、きっと。
 エーブに騙されたロレンスを、その自分を生きる気は無いような気がするのです。
 つまり。
 エーブに騙された自分、それをこそ、愉しむことが出来るような。
 そう、ホロと飲む、酒の肴にして、ね。
 騙すも騙されるも含めて、商売の妙味だとは思わないか? ホロ。
 どうにも、私にはロレンスの調子乗りっぷりが、思い切り遊園地ではしゃいでいる姿にみえるのです。
 ここは遊び場だと決めているからこそ、敢えて騙される可能性もあるというそのアトラクションに愉しく
 乗っているような気がするのです。
 私には、ホロこそが、ひとりで空回りしているように感じられるのです。
 なんというか、それはどちらかというと、ロレンスの逞しい姿を見たからこそそう思うのでは無く。
 むしろ逆に、ホロのなにかに囚われている落ち着きの無さにこそ、そのホロの空回りという「理屈」を
 見つけられ、そしてだからこそそのホロの空回りを豊かに抱き留めてくれる、そのロレンスの勇姿が
 見えてきたのです。
 
 ロレンスは、わかってますものね、ホロの願いを。
 
 確かにロレンスはホロの「話」しか理解していない。
 けれど、ロレンスはその、ホロの「話」しか理解していないということを、なによりも自覚しています。
 そりゃーあれだけ隣でぎゃんぎゃん言われ続ければね、当たり前ですよ。 (笑)
 そしてロレンスはそこで、なんというかもう前エピソードで、その辺り吹っ切れた気がします。
 ホロの「話」しか理解出来ない自分に苦しみ、どうしたらその「話」の向こうにいるホロと出会えるかを、
 それを死ぬほど考えて藻掻く、それは前エピソードまで。
 今回のロレンスは、なんだか余裕というかなんというか、なんだかただならぬ懐の深さを感じられます。
 ぬしは「話」しか聴いておらぬ、なんじゃ、なんじゃ!、とホロが掴みかかってきても、困ったような顔を
 して焦りながらも、けれどすっきりと大きな笑顔で、ああ、そうだな、と言いそうな。 
 そう。
 ホロは「話」に、ロレンス批判に囚われて、肝心のその「ロレンスの話」の向こうにいる、そのロレンスの
 姿がみえていないのです。
 そのロレンスが、ロレンスとして、ちゃんと話をしているというのに。
 囚われているのは、実はだから、ホロの方。
 ホロのロレンス批判、不安、心配は、まさに的を得た実に賢い言葉の数々ではあるのですけれど、
 しかしそれはあくまで「話」であって、「話」でしか無い。
 
 
 
 その「話」を巧妙に使い、あの手この手で、嘘と真を交えている孤独の狼。
 
 それこそに、ホロ自身が、騙されているのです。
 
 
 
 孤独に囚われ、ベッドの中で蹲っている暇などありません。
 べつに、ロレンスに傅き、貞淑に待つ必要も無ければ、当て付けに他の雄に粉をかける必要も無い。
 ホロもまた、愉しめば良いのです。
 そこでもまた、ロレンスを置き去りにして、ひとりの愉しみに耽ると、そういうことではありません。
 ロレンスがめろめろになるほどに、妖艶に遊べばいい。
 愉しく、実に楽しげに、さっさとぬしもこっちに来て一緒に遊びんす、と笑顔で怒鳴れば良いのです。
 ホロこそが、ホロとの生活の楽しさを、ロレンスに魅せずしてなんとする。
 ロレンスはロレンスで、ホロとの生活を充実させると思えばこそ、ちょっと危険なアトラクションに手を出し
 ているのですから。
 おそらく、危なくなったら、賢狼様のお知恵を拝借して、楽しい逃避行に身を委ねることも計算して。
 或いは。
 そうして満足したホロの背に乗り、気持ちの良い明日を迎えるためにこそ、危ないながらもきっちりと
 納得のいく解決策を求めていくのかもしれません。
 勿論。
 ホロと、一緒に。
 
 
 ホロにとって、一番美味い酒は。
 そのロレンスとの大仕事を終えたあとの、その一杯なのですよね、うん。
 
 
 そのホロとの一杯があるからこそ。
 ロレンスは、もう決して、自分の身を軽んじたりすることはしないでしょう。
 私だってそうする。 (笑)
 そして、だからこそ。
 そうして酒を飲みに絶対に帰ってくるロレンスがいるからこそ。
 ホロは、自分の願い、つまり金儲けや商売を楽しむために続けていくことに、「自信」が持てるように
 なってくるのでしょう。
 私だってそうよ。 (笑)
 ホロの不安の根源にあるのは、そうして人の間で為していくことを、楽しむためにこそ続けていくという、
 実はまさにその事に対する「自信の無さ」こそだと、私はうっすらと感じています。
 その自信の無さに囚われたとき、ホロがする「話」はホロを孤独の淵へと突き落とします。
 けれど。
 ホロがその自信を得たとき。
 そのホロがする「話」の価値は、まさに膨大豊穣なものになっていくでしょう。
 なにせ、嬉々として憎たらしげに狡猾に話す、そのホロの横顔こそ。
 ロレンスにとって、最高の酒の肴なのですから。
 私も一体どれだけ、そのホロに酔わされたことか。 (笑)
 
 
 つまりまぁ。
 騙すも騙されるも含めて、商売の妙味だとは思わないか? ホロ。 (2回目)
 騙されたら商売が出来ない訳じゃ無い。
 賢い奴だけしか出来ないというほど、商人の道は狭くは無いさ。
 上には上がいる。
 だが、上を目指すことと、上に行かなければ商売が出来ない、というのは全く違うことさ。
 俺達は、此処にいるんだ、ホロ。
 俺達だって、生きている。
 上を目指しながら此処にいて、此処にいながら上を目指している。
 此処にいるうちに、騙されることなど沢山あるし、それはただ反省し上を目指すためのものとしてだけ
 利用していたら、とても身が持たない。
 それになにより、勿体無い。
 騙されることも失敗することも、それ自体も充分楽しめてこその、商人じゃないか?
 というより。
 相手を騙すためには、それが一番重要なことなんじゃないか? ホロ。
 なぁ、賢狼様。
 俺達の旅というこの生活も、同じことのように感じられるんだ。
 それを教えてくれたのは・・・・お前なんだ、ホロ
 
 
 
 と、ぴかぴかに輝く笑顔で言うロレンスを、思い切り張り倒すホロも是非観たいですけれど(笑)、
 この辺りでびしっと、ロレンスの魅力にぽとりと溶ける、そのホロの笑顔こそを是非観たい気持ちです。
 さて。
 まぁ、今回は結構ざっくばらんに書いてしまいましたけれど、こういう方が書きやすいな、やっぱり。 (笑)
 で、今回のお話はなによりエーブと、そして酒場の娘(名前まだ不明)の登場でしょう。
 エーブはもとより、あの酒場の娘もなにか陰謀に関わってる感じ(ロレンスに伝えた情報って、あれって
 ミスリードな感じがしますし)ですし、なんだかまたスケールの大きな話になりそうで、さりげにドキドキして
 います、ホロに酒瓶を投げつけられそうですけれど。(笑)
 それとエーブですけれど、あれも面白そうなキャラですねぇ。
 あれは、ロレンスを騙せる余地を作るその腕が凄かったですけれど、正直、あのキャラはそのままロレン
 スを騙すことに持っていくことも、軽快にそのままホロの如くに、ロレンスと親交を結べる気もするのです
 よねぇ。
 俺はこうして凄腕だから、付き合うのには常に注意しとけよ、ははは、なんて、楽しそうにお酒飲みながら
 言われたりとかしたら、是非お友達になりたい感じですよね。 (笑)
 騙しても騙されても成り立つ関係というか、逆に騙し騙されることも出来ると言えるからこその、
 互いの絶妙な均衡が成り立ち得るというかね、そういう意味で、ロレンスやホロと張り合える意味での
 「友人」の存在というのは、是非ひとつ欲しいところではありますね。
 まぁ、同確率で盛大にロレンス騙してトンズラする可能性もある訳ですけれど。 (笑)
 それにしても、『化粧をしてかつらをつければ、自分の顔が男の目にどう映るかは把握している。
 そこを褒められるのも好きじゃ無い。』って、エーブさん滅茶苦茶嘘臭いwwというかどう見ても罠じゃ
 ないですかそれw
 一瞬「褒められるのも好きじゃ無い」が「褒められるのは嫌いじゃ無い」って聞こえたものww
 だからより相手を騙す布石にはなる訳ですけれどね、うん。
 
 
 
 ということで、本日はこの辺りで終わりとさせて頂きましょう。
 萌えポイントは今回は特に無しですね。
 袋の中の肉当てクイズのときのホロの策士っぷりのキレ味さには惚れましたけれどw、あとはまぁそれと
 ベッドの中の寂しそうな虚しそうな感じとの繋がりっぷりが結構胸に浸みた、というくらいでしょうか。
 それと一応、エーブさんのああいう話術には好感を持つタイプな私ですので、割とあっさり騙されると
 思います。 (笑)
 
 
 それでは、また。
 いよいよ動き出しそうなお話に期待しつつ、そしてホロとロレンスの行く末を見据えつつ、
 次回お会い致しましょう。
 狼万歳♪
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                              ◆ 『』内文章、アニメ狼と香辛料U」より引用 ◆
 
 

 

-- 090825--                    

 

         

                            ■■七周年で御座います。■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう、皆様に愛されてはや七年の魔術師の工房管理人、紅い瞳で御座います。
 
 
 七周年ですよ、七周年。
 ちょっと今緊張しています。
 だって、七年間も続いてきたのですよ?
 それだけ愛されて守られてきたということですよ?
 そうですよね?、そうなりますよね?
 だって、紅い瞳といえばロースペックさに定評のある、ひとりじゃなにも出来ないヘタレの中のヘタレの
 呼び声も高い駄目な奴ですよ?
 それが誰にも愛されずに守られずに、七年もなにかを続けることなど出来るでしょうか?
 いや、出来るはずも御座いません。
 愛されてきたのです、守られてきたのです。
 ああ、私はひとりじゃ無いんです。
 そう思えるからこそ、この魔術師の工房を七年もやってくることが出来ました。
 皆様に、今日この日に於いて感謝申し上げたく存じます。
 魔術師の工房を愛し守ってくださり、本当にありがとう御座いました。
 
 ・・。
 さすがですね、紅い瞳さん。
 見事、七年続いたという事実から、自分は愛されキャラだという設定を獲得しましたね。
 ふふ、私が愛されていない事などあるはずもなかろうて、なにせ七年も魔術師の工房が続いている
 のだからね、これを証拠と言わずしてなんといえようか! むはははは!
 はい。
 という感じで早速小心&臆病者なこの人のロースペックさを、ひとつこうしてご紹介させて頂きました。
 愛されてますよね? 私愛されてるって思っていいんですよね? ←びっくびくな人
 まぁうん、愛されているかどうかはともかく(ぉぃ)、皆様にお世話になってきているという事もまた、紛れも
 無い事実ですし、なにより私自身がそれで発奮したり妄想したりして、こうして今まで頑張れてきた事も
 事実です。
 というか、少なくとも私の方は、皆様を愛してます。
 みんな、愛してる〜♪
 ・・・。
 
 おかしいな、私的には今ちょっとツンデレを狙ってみたつもりなのですけれど、なんか非常に胡散臭さしか
 漂ってこないのは、これは一体どうしたことでしょうか。
 というかぶっちゃけ、今自分の言ったことのどこがツンでどこがデレなのかよくわからないのですけれど。
 あれ? まぁ落ち着け。
 ・・・・。
 どうもすみません、なんだか落ち着かなくて。
 なんかこう、今日は全力で空回りです。 いつもより多く回っております。
 七周年ということで、ちゃんとこう、色々とお話させて頂こうと思っているのですけれど、思えば思うほどに
 頭の中から言葉が抜けていってしまって。
 そうですね、そうですよね、まずは感謝の心というか、あ、そうだ、今日は感謝の話ということでいって
 みましょうか。
 
 うん、ありがとう御座います。
 
 ええ、いつもこうしてアホな事ばかり書いてみたり、結構一生懸命にアニメの感想書いてみたり、試行
 錯誤を重ねて文章の上達を図っているのかと思いきや書きっぱなしだったり、やっぱりアホだったり、
 そのまま泣き崩れて書いてみたり、と見せかけてしっかり狙って書いてたり、頑張ってたり、やる気無かった
 りしたり。
 そうしながらも、こうして皆様の目に触れるWeb上に公開することで、それがたとえどのような文章で
 あっても、それが見られているという事の緊張の中で書かれそして発表されている事は、確かです。
 皆様が実際に読んでくださったり見てくださったり、手に取ってふんと鼻で笑ってくださったり、全く冷徹
 に無視してくださったり、そもそも日記なんて書いてたの?と真顔で言ってくださったり、そういった私の
 書いて作ってきたこの魔術師の工房という存在に関わる、すべての皆様の行為が、それこそが私に
 とっては得難いもので、そしてそれが私が自分の書いたものを机の引き出しに入れて鍵をかけたりせ
 ずに、こうして皆様の目に触れる日の当たる場所に出していることの、その最大の理由です。
 読んで貰える可能性がある事、それ自体が目的なのです。
 そしてそれは、読んで貰える事を求める事とはイコールではありません。
 可能性があるだけで充分。
 ある意味で、この魔術師の工房というものの存在理由は、魔術師の工房がこうして人様の目に触れ
 るWeb上に存在している事自体にあるとも言えます。
 ですから、私は正確に言えば、私の想っていること考えていることを誰かに伝えたくて読んで頂きたくて
 この魔術師の工房を作り運営している、という訳では無いのです。
 魔術師の工房上で書いた文章を、私は「日記」と総称しまたそれを構成の枠組みとしていますけれど
 、しかしその「日記」を便宜上サイトのメインにしてはいても、実は「日記」はこの魔術師の工房に於いて
 は、決して「メイン」では無い。
 メインはあくまで、この魔術師の工房が此処に存在し続けること。
 
 そしてその魔術師の工房が存在しているという「メイン」をなによりも支えているのが、他ならない、
 皆様の存在そのものなのです。
 
 大変失礼な物言いになってしまいますけれど、皆様がこのサイトにどう接されようとも、この魔術師の
 工房というものの存在が揺らぐ事はありませんし、もっと言えば、皆様の存在だけがあれば、それを
 この紅い瞳という管理人が感じることさえ出来れば、あとはどうでも良い。
 そして改めて逆に言わせて頂きますと、つまり、皆様がなにをこのサイトに対して為されても為されなくて
 も、為して為さぬということのそのすべてが、この魔術師の工房にとっては非常に有益で、かつそれを
 管理しその主体としてある紅い瞳にとっては、それがなによりも嬉しいことなのです。
 そして、だからこそ。
 
 
 その中で、その魔術師の工房が存在出来るといういわば「当たり前」の歓びがあるからこそ。
 なお、それ以上のこと、つまり日記の感想を伝えてくださったり、私と一緒にチャットなどで遊んでくださ
 って頂けることが、どうしようもなく、果てしなく嬉しく、また愛おしいことになるのです。
 
 
 話変わりますけれど、ウチとこには、Web拍手というものがあります。
 まぁ、日記でもなんででも、このサイトについて感じたことがあれば、適当に拍手頂けたら嬉しいなと、
 そういうスタンスで設置しているのですけれど。
 拍手と同時にコメントも書き込めるのですけれど、しかし私としては拍手を頂けるだけで充分。
 それで、先日知り合いのブログを読んでいたらですね、拍手数は多いけれど文章の内容に則した
 コメントが無くてやる気が出ない、ブログやめようかしらん、と書いてあったのですけれど。
 ・・・・。
 ウチとこなんて、拍手ある日の方が珍しいですよ?
 というか、複数回あった日なんて、小躍りが止まらないですのよ?
 ブログということで、その知人のところは記事ごとに拍手が為される仕組みで、だからどの記事に対して
 拍手されたかは一目瞭然。
 けれどウチはトップページに拍手ボタンがあるだけなので、ぶっちゃけどの記事に拍手されたのかどころ
 か、そもそも何に対して拍手されたのかもわからないような仕組みになっています。
 日記の内容に関してなのかもしれないですし、たんに紅い瞳がチャットでアホな事やってたことへの
 ツッコミのつもりで為されたのかもしれませんし、気紛れという優しさを分けてくださったのかもしれません。
 でも私にとっては、そのどれもが大変に嬉しいことですし、また逆に何に対して為されたのかを自分で
 妄想もとい想像することで、ぐんと楽しくやる気を出すことも出来ます。
 そして勿論、拍手が無いからこそ、拍手があったときの歓びは、ひとしおなのです。
 拍手無いこと自体も放置プレイということで愉しむのも可能
 そして。
 だからこそ。
 
 私の妄想もとい想像だけでは無い、拍手してくれた方のコメントがあったときの歓びなど。
 それだけで、もうゴールです。 (笑)
 
 正直、「アニメの感想読みました。」というコメントだけで、滅茶苦茶嬉しいです。
 ああ読んでくださっていたんだ、ああ嬉しい・・
 そしてそのまま、ふむ、じゃあこの人はどう感想を読んだんだろう、妄想もとい想像してみよう、と、
 色々と「特定」の読み手を想像して、改めて自分でその自分の感想文を読んで楽しんだりもして
 います。 うわ、なんかちょっとヤらしい感じ。 (笑)
 そういう意味で、ウチとこのこの魔術師の工房にとってのWeb拍手というのは、それを設置すること
 自体で、もう皆様の存在することと繋がっているとも言えるのですし、またその繋がり自体がひとつ
 この魔術師の工房というサイトを続ける動機のひとつになり得るのです。
 
 
 
 って、なんか話がヘンな風にこじれるのはいつもの私の良い癖です。 (微笑)
 とまぁ、つまりなにが言いたかったのかと言いますと、単純に、皆様には感謝していますということを、
 一体どうやったらお伝えできるか、というのを試行錯誤していたら訳わかんないこと喋ってた、という
 いつもと変わり映えの無い展開になったというだけのことなので、どうぞその辺りご容赦頂ければ幸いで
 御座います。
 うん、アニメの感想とかであられも無く踊っていられるのも、なんだかこう、皆様と陰に陽に繋がっている
 という感覚があるからですし、チャットではっちゃけられるのも、やっぱり皆様の存在を感じられるから
 こそなのですよ。
 でもですね、私はその皆様との繋がりというものに囚われるつもりはありませんし、繋がりのためにこそ
 モノを書いたりサイトを作り運営するということは致しません。
 そこはそれ、私自身の問題というか、むしろ私が私として忠実に頑張るからこそに、その皆様との繋がり
 に価値が出てくるのだろうとも思っています。
 皆様の存在に頼ろうなどそんなことはしないと、臆病ながらヘタレながらにも、気丈に思っているのです。
 だから褒めてやってください拍手ください。
 ・・・そういうのは口に出さない方が効果的、じゃがぬしは言わねばわからんじゃろ、と私の大好きなアニメ
 が言っていたので、つい言ってしまいましたけど、拍手お願いね♪ (ぉぃ)
 
 まぁ。
 なにはともあれ。
 この七年間、お世話になりました。
 ありがとう御座いました。
 
 
 そして、これからもどうぞ、よろしくお願い申し上げます♪
 
 
 ちなみに七周年は昨日です、24日。 まぁ気にしない。
 
 
 
 ◆
 
 
 空回りしすぎて調子が全くでないので、今回は以上。
 うんまぁ、なにはともあれ、今までありがとそしてこれからもお願いということに尽きます。
 で。
 
 んじゃ、化物語プチ感想。たぶん第七話で、するがモンキー二話目。
 冒頭で阿良々木君が動けないことをいいことに、やりたい放題しまくる戦場ヶ原様は置いといて。
 阿良々木君を動けなくした張本人が阿良々木君が動けるようになってもやりたい放題しまくるという
 プレイを魅せてくれた神原駿河に拍手。
 というか、大爆笑。
 やっぱしこの子ひたぎに似てますねぇ、ボケて相手のツッコミを引き出すのが狙いというか、それでだか
 らその得たツッコミに満足する神原が、それで満足したと見せかけて冷たくあしらう戦場ヶ原様に惚れる
 のもなんだかよくわかる。
 もうあの手この手で、自分に関する様々な事柄を利用して阿良々木君のツッコミを引き出して愉しむ、
 その神原の積極的なアホっぷりが面白くて面白くて。前向きな自虐プレイって感じよね。(ぇ)
 まぁ基本的にはそうして笑える感じにすることで、自己紹介を完璧にこなそうとする神原駿河の羞恥心
 がある訳だけど、けれど自己紹介して相手に自分の事を伝える事も勿論そうだけど、それ以上に
 その笑いの方に重心を於ける余裕っぷりもあって、なかなかどうして、面白いキャラだこの子。
 おまけにエロさをあくまでツッコミ待ちで披露して阿良々木君を揺さぶったり、うん、こういう子とは何時間
 アホ話してても飽きないだろね、頭の回転も速いし、これは話が途切れない途切れない。
 でも逆に、これは阿良々木君的には難しいかも。
 わからない、訳じゃ無いのだよね。
 答えはわかってる、けどその答えが二つあって、そのどちらかがわからない。
 神原駿河って、どっち?
 阿良々木君を怨んでる?怨んでない?
 どちらの答えを取っても、ちゃんとその答えが成立するものを、神原駿河は提出してる。
 怨んではいても、その怨みを昇華して自分と戦場ヶ原先輩のためになんとかしたいと、それが優等生な
 答えだけど、神原駿河がそう言ったとしても、それが嘘か本当かの確率がほぼ同じな気がする。
 神原駿河が阿良々木君への怒りや嫉妬を激しく示すとき、それはどうしてもそれを告白してあっさりと
 笑うことが目的のようにみえる。
 神原駿河が阿良々木君にあっさりと笑って自分の内面を告白するとき、それはどうしてもそう笑うことで
 より阿良々木君への怨みを深めているようにみえる。
 でもそれらのことは、同時に阿良々木君自身の中身のわからなさと溶け合ってもいる。
 神原駿河が冗談でスパッツの下にパンツを履いてるかどうかと振ったときの、あの阿良々木君の反応
 ってあれはエロい意味での或いは健全な意味かでの、スポーツ少女か露出狂かの分水嶺だっていう
 悩みなのかいまいち判別がつかない、というか明らかに阿良々木君の視線はエロいんだけど、自分の
 後輩が変態になってしまうかどうかという心配もまた同時に存在している。
 いやらしいし、それを隠すために健全な心配をみせてもいるのだけど、同時に本気で阿良々木君には
 エロさ抜きの追求が犇めいている。
 これは戦場ヶ原ひたぎとのやりとりの中でも彼には見えてくる感じのものだし、そして。
 それがこの神原駿河とのやりとりの中にもこうして出てきているからこそ。
 なんだか、怨みも笑いも、それぞれがそれぞれのままあってもいいんじゃない?、という感じになってくる
 から、ああ不思議なものです。
 
 
 ということで、今日はここまで。
 お疲れ様でした。
 来週こそ、来週こそちゃんとやるから!
 
 
 

 

-- 090821--                    

 

         

                            ■■ その狼の手に口付けを ■■

     
 
 
 
 
 『じゃから、醒めぬように魔法をかけ直してくりゃれ♪』
 

                              〜狼と香辛料U・第七話・ホロの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 自分でもわからぬ。
 この頃、わからぬことばかりじゃ。
 いや、わかるわからぬの話では無かったのかもしれぬ。
 そのまま、空を見上げた。
 からからと締め付けるように回る荷馬車の音が、薄暮の中に眠気を誘う。
 紅を帯びて細く磨かれた紫紺が、硝子のような水面を梳いている。
 眠い。
 けれど耳はようよう動きはせん。
 どうにも眠れぬ。
 気付いたとき、鬱蒼と白を孕んだ闇の冷気が、耳を震わせておった。
 ロレンスはそれで、その狼が寝入ったと知る。
 狼の耳は、眠っておっても敏感に外の音に反応する。
 それはつまり、こちらの動きに対して耳が反応すれば、それはその狼が寝入ったということ。
 単純じゃな。
 そうしてたっぷりと、寝入ったとみた狼の横で尊大に散らかすロレンスの、その間抜け面を見ておった。
 耳を動かすことは当然起きておっても出来る。
 そんな当たり前なことすら、狼に対することで得た特別な知識を持てば、翳って見えのうなってしまう。
 眠れぬ。
 そう思うと、本当に眠れぬ。
 
 眠れぬ。
 眠れぬ。
 百ほどそう唱えたあとの記憶が無いままに、眠っておった。
 目覚めてのち、今眠っておった事に気付いた。
 どれくらい寝ておったのじゃろうか。
 陽の光の加減と辺りの温度と、隣の間抜け顔が寒さで程良く凍り付き厳めしくなっていることで、
 なかなかの時間が経っていたと知れる。
 本当に寝とったのじゃろうか。
 ふと、頭になにかが触れる。
 暖かくも包み込むような、それでいてどこか透き通るようなほどに巨大な男の手。
 優しく、その優しさを込めるという演技と、この頭を撫でたいという欲望と、目覚めた者に対する礼儀と。
 そして、微かに感じられる自信の無さ。
 それが五の指先から染み込み掌に満ちて、そう、それが優しく伝わってくるのを感じた。
 けれど、感じたものでこの身を震わせたのは、その男の優しさと。
 その優しさを感じられる、わっち自身の演技と欲望と礼儀と。
 そして、はっきりと感じられる自らの孤独に対する自信の無さじゃった。
 撫でる掌と撫でられる頭とに、それらがぎっしりと詰まっておった。
 荷馬車に揺られる。
 小刻みに伝わる石ころの感触が、ごとごとと骨を暖かく軋ませる。
 鮮やかに、音も無く轟く白光が頬を濡らしていく。
 とろけるような寒さが、男の膝枕の温度を上げていく。
 奥深く開けた、遠大な白墨に浸みた世界が、朧ながらにして、燦然と夥しく広がっていた。
 ごそりと荷台の中に潜り込み、蓑虫の幸せを享受する。
 ひとり男を御者台に座らせての、この良い身分さ加減の贅沢が堪らぬの。
 その贅沢の大元におる男の背中目掛けて、するすると顔を出していく。
 くふふ。
 時が流れ、景色が変わり、なにひとつとて同じものが無いままに消えていく。
 孤独であること自体の哀しみよりも、その哀しみをこの変わり続ける冷たい空気の中で感じ続ける
 だけの方が、寂しかった。
 くるくると口を回す。
 寒暖なるままに、すべてを映し出す木漏れ陽のままに、落ち着かなさを明らかにするために、
 ひとつひとつ、筒抜けに剥けていく寂しさを補強していった。
 寂しいのう。
 緑が光洋としておる。
 欠伸が長々と続く。
 白い溜息が、吐息なるままに、黒く焦げて凍り付く。
 ロレンスの背をちろりと舐めとうなる。
 小作りな笑いを噛み締めながら、小さくたわけに巫山戯て遊ぶ。
 可愛げも手管も無い、ただの溜息混じりの遊びじゃった。
 この時間が、わっちを此処にいさせているように感じるのは、一体なんの欺瞞じゃろうか。
 子供のように、けれどどこか素直なように、思いつくままに捻り出すままに、なにも考えずに口先で
 転がした幼い言葉達を、掌で撫でていた。
 ころころと、よう回りんす。
 段々と興が乗れば、隣の男の脳漿が反応せずにはおられぬほどの、手の込んだ理を投げかける。
 そら、きた、小さい雄の脳髄が、ぴくりと反応しよる。
 それでわっちは、ロレンスがわっちに向き合ったことを知る。
 けれど強情で狭量なこの男は、その己の臆病さを悟られまいと、今までと変わらずにさらりと理には
 理のみをぶつけて応じようとする。
 まだまだじゃな。
 そう、わっちは呟く。
 聞こえよがしに、呟いてやる。
 そうすれば、ぬしはさっと頭の中身を真っ赤にして、これまでに倍する勢いで、全霊でわっちのその言葉
 に反応し、なりふり構わず真摯に考えてくりゃる。
 わっちゃあそれが、嬉しい。
 そう、呟く。
 呟いてやる。
 
 
 それしか、無いんじゃろうか・・・
 
 
 
 そこに、手管を入れる。
 懸命に考えるロレンスの前で、ちろりといやらしく嗤って魅せる。
 そうするとぬしは、はたと気付きよる。
 目の前の狼が、なにを求めているのか、と。
 目の前で展開した七面倒臭い理が、一体なんのために提出されたのか、と。
 冗談でもなんでも、抱き締めてくりゃれ♪
 このたわけな雄は、そこで抱き締めたら負けじゃと思っておる。
 このたわけ。
 わっちゃあ、本気じゃ。
 なんのために、ぬしにも簡単に見抜ける悪戯を仕掛けたと思っておるんじゃ。
 自分のことしか考えよらん。
 それはわっちも同じかと、しかしそんな惨めな思考に閉じるほど狼の執念は浅くはありんせん。
 わっちゃあぬしの、すべての行動の基準におる。
 ぬしの欺瞞と怠慢を暴くのは、ぬしの基準、ぬしの神として当然のことじゃ。
 わっちゃあぬしが信じる限り、ぬしの前で傲岸に踊ってくりゃる。
 自らを苛むことは必要じゃが、その自責の念を満たすことそのものは、ただのそやつの欲望を満たすこと
 とおんなじじゃ。
 わっちは自責という欲望に囚われたりはせぬ。
 わっちゃあぬし様が、自らを顧みること無きたわけなことを言えば叩きのめすが、自責の念に囚われて
 道を見失えば噛み付いてでも目を覚まさせてくりゃる。
 自責の念持つは、すべて我らふたりが歩く道への想いを逞しくするがためぞ。
 そうして、強く唱えている。
 ひたすら胸の中で唱えておる。
 そのわっちを、一体誰が抱き締めてくれるのかや?
 わっちゃあ、ぬしがいい。
 それだけのはずなのに。
 いや、それだけというそれが、実はとても大きなものなのではないかや?
 
 灰色に閉ざされた街。
 絵に描いたとしたら行ってみたいとは思えぬほどに、陰惨な黒を湛えた街。
 けれど行ってみれば入ってみれば、そんな絵を見ながらでも、かえってそれが嬉しくなるような、そんな
 気分にさせてくれる街じゃった。
 その中で、ただ呆然と立っていた。
 立つままに、手取り足取り踊らされ歌わされ。
 そして、怒らされている気がした。
 わっちゃあぬしに求められたい。
 それは、わっちがぬしを求めとるからじゃ。
 わっちはなぜ、こうも必死に傲岸であろうとするのかの。
 無論それはぬしに、敬虔にそのわっちに照らされるそのぬし自身を求めて欲しいからじゃ。
 その輝くぬしを与えるのが、わっちじゃ。
 わっちゃあぬしにそれを求められたい。
 わっちが自責の念に閉じ、ひっそりとぬしになにも与えずにおるなど許せんかったからじゃ。
 じゃが・・・・
 わっちはただ・・・ぬしになにかを与えることに・・・・
 その対価として、ぬしからなにかを得ることに・・・・・囚われとりゃせんか・・・・
 この頃、わからぬ。
 わっちゃあそのことでこそ、わっちに問うておる。
 
 わっちゃあそうしてわっちを問い詰め、責めとうなる。
 
 たったひとつの水面の下には、どうしようもない奔流がびっしりと湛えられておる。
 ふと空を見上げると。
 青じゃ。
 重厚な壁に覆われながら、その壁の遙か高みで、その空の青は咲いとった。
 気付けば、灰に満ちたその壁たる街が、さらさらとその青を浴びてこそばゆく輝いとった。
 暖かいのう。
 心細い。
 こんなに暖かいのに。
 こんなに明るいのに。
 穏やかに、ぬしを求められぬことの不安が、肌の上を締め付けるようにして這っておるんじゃ。
 笑うたびに、そっと、気力が尽きていく。
 不安で堪らぬ。
 無理をしているはずは無いのに、どうしても無理をしていることにしかならない。
 さらさらと、この街の甘い輝きのままに崩れて消えてしまいそうな感触。
 なのに。
 辛くは無い。
 なんじゃろう。
 ロレンスとの戯れで、どれだけ溜息がこの首を絞めようとも。
 このわっちの小作りな笑いとたわけな演技が、間違っているとは思えんのじゃ。
 くつくつと笑いながら、軽々と踊り、空を超えよとばかりに歌い。
 そっと溜息を吐いてそのまま消えてしまいそうになった、その瞬間。
 
 
 
 
    −  柔らかい その男の口付けが   

優しく 等しく

 
        わっちのいやらしく伸ばした 手に 

 

       触れた  −

 
 
 
 
 わっちゃあ・・・
 そうじゃ・・
 ロレンスとの戯れが、その戯れこそが嬉しいのでは無いんじゃ。
 その戯れがあるからこそ、その戯れの中にこそ、戯れの皮を被ったどうしようもないぬくもりが芽生えて
 くるからこそ、なんじゃ。
 ロレンスが本気だか冗談だか、どっちでもいい。
 いや。
 本気であり冗談でもあるからこそじゃ。
 ロレンスに魔法をかけられてしもうた。
 そして・・・
 ロレンスがわっちに魔法をかけたのは・・・・
 わっちこそが、ロレンスに、もうとっくの昔に魔法をかけて。
 そして、常にこの淫靡な手練手管と共に、わっちこそがその魔法をかけ続けていたからじゃ。
 
 
 
 
 
 嬉しいのう
 
 
 
 涙を堪えることしか出来なくなりそうじゃ
 
 
 
 
 わっちは・・・・
 
 
 間違ってなかったんじゃな・・・・
 
 
 
 
 『ぬしはいつ取り乱してくれるのかや?』
 『そうだな、お前がこういうことをしなくなったら、かな。』
 『ぬしの知恵の巡りもなかなか良くなったのう。』
 『まぁな。』
 『本当にぬしは口が上手くなったの。 誰かに教えて貰ったのかや?』
 
 『いや。』
 
 
 『とっさに思いついただけだが。』
 
 
 
 なんという嬉しいたわけじゃ。
 本当に、魔法を強くかけすぎじゃ。
 わっちがこういう戯れをし続けて、そしてだからこそぬしも戯れの技量を磨いて、わっちを凌ぐほどの
 腕前になった。
 それもまた嬉しいことじゃが、じゃが。
 なにより、ロレンス自身が、誰にも、わっちにも教えて貰わずとも言われずとも、とっさに自然にすらすら
 と素直に思いつけたとは、これは一体なんの愛の告白なのかや♪
 くふふ。
 『わっちがなにもしなくなったら、かや♪』
 じゃからやめられぬ、わっちの努力はすべてこうしてほれ、目の前の男の、その照れと悔しさに染まった
 紅い頬にすべて実を結んでおったんじゃからの。
 こんなに美味い実はありんせん。
 尾が揺れる。
 狼は喜ぶと尾を振るという約束の元に。
 わっちゃあそうして演技に引きずられる。
 本当に嬉しくて堪らないのにの、この尾はそれを侮辱するかの如くに、これみよがしに揺れおるのよ。
 じゃが。
 わっちがそうして、尾を振り続けておったからこその、この魔法の瞬間よ。
 たとえ戯れだろうと演技だろうと、それがそれだけで終わることなどありんせん。
 尾が揺れるのは、尾自身が皮肉混じりにそれを振るからだけではありんせん。
 耳が震えるのは、寝たふりを見破られぬためだけに震えるのではありんせん。
 手を伸ばすのは、ぬしへの手練手管の愉しみと虚しさに染まるためだけに伸ばすのではありんせん。
 わっち自身もまた、尾を振っておる。
 懸命に、必死に、尾自身とこの麦束尻尾を取り合いながら、小刻みに振っておるんじゃ!
 少しでもこの喜びをこの世界に顕したくて。
 わっちはぐっすりと誰よりも安心して耳に任せて、狼らしくぬしの膝枕で眠りたいんじゃ!
 ほんの少しでも、わっちの魔法を続けさせるために。
 わっちは嘘を吐き続け、本当のことを言い続ける。
 
 『そうかや〜、そんなに構って欲しかったのかや〜♪』
 『くふ、ぬしは本当に可愛いの♪』
 
 そうして男の頭を撫でたこの手が。
 やがてゆっくりと、その男の手に抱き締められる。
 陰惨な灰に抜ける青が照らす、輝く白銀。
 その孤独に魅入られ、小刻みに震える狼の手。
 なんて、小さいんじゃ。
 我ながら、震えるこの手が哀れで堪らない。
 いや。
 悔しゅうて、堪らぬ。
 求めて、いいんじゃな?
 男の優しい手に支えられて、ずっとこの先も豊穣を求めていいんじゃな。
 そのロレンスの手こそが、わっちに伸ばされたその大きな手こそが、それを保証してくれていた。
 『ここで手を叩いたら、ぬしにかけた魔法は解けてしまうかや?』
 そうして叩いたわっちの賢しらな手を、その男は優しくその口付けで抱き締めてくれた。
 なんじゃろうの。
 ようわからぬ。
 この頃、わからぬ。
 気怠い目覚めの中に、朝靄を透けてきた翠が浸みてきよる。
 物憂げに小刻みに廻る孤独の言葉達が、頬のぬくもりを青冷めるほどに固めようとも。
 この眠りが嘘では無いことを、その濡れた頬に触れるこの手が柔らかく教えてくりゃる。
 艶やかな微風の香りが、芳しくこの耳と尾のままに安らかに眠れていたことを伝えていた。
 目が、覚めたんじゃな。
 そうじゃ、今日のための、魔法を考えよう。
 目覚めの微睡みの中で、無邪気に考えるそのほろ甘い愉しみに。
 少しだけ。
 少しだけ。
 瑞々しい幸せを、感じた。
 赤茶け踏み締められた街の道を歩きながら、そっと大きく手を翳す。
 さぁ、今日の始まりじゃな、ぬし様よ。
 その伸ばした手に、口付けを。
 挨拶よりも愛しいその小さな抱擁が、あっさりと為されていくことが・・・・
 なんだか・・・
 わっちを、わからぬままに導いてくれた気がしたんじゃ。
 歌も、踊りも、戯れも、嘘も、皆その街の空の青に抱かれて、優しく輝いておる。
 白銀に輝く店々の軒先が、琥珀と見紛うばかりに鋭く磨かれておる。
 わっちゃあそんなこと、初めから知っとった!
 わっちゃあ、ぬしと出会ってからこの方、ずっとなにをやるにしても楽しかったんじゃからな!
 金の麦穂と銀の轍はずっとずっと広がり続いとる。
 じゃから・・
 わっちは、その楽しさに負けずに、わっちのこの耳とこの尾と、そしてこの伸ばす手と向き合っていく。
 じゃからこそ・・・
 
 
 

 『じゃがぬしよ。』

 
 

『ほどほどに、してくりゃれ。』

 
 
 
 無理をするだけが能じゃありんせん。
 古き良き変わらぬものの哀しみに囚われるだけが、このホロ様ではありんせん。
 いこう。
 なにものにも囚われずに。
 あらゆるものに拘るために、の。
 いこう。
 ぬしの言う通り、新しき世界への船出には、この街中に続く黄金の道がなによりも相応しい。
 ほれ、ぬしの大切な姫様を先導せぬか。
 
 
 そして
 鮮やかに 並び立つ道が拓けていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 狼と香辛料という作品は、この狼無くしてはありえない。
 というより、この賢狼ホロこそ、紛れも無い主人公だということを、その衝撃と共に再認識させられた
 次第です。
 圧巻、衝撃、圧倒的。
 まさにホロに語彙が無いと怒られそうですけれど(笑)、ただもう驚いています。
 ホロで描き出すこの狼と香辛料という作品の、その絶対的な深みがそこにはありました。
 改めて、ホロ万歳。
 そして、涙がひとつ、またひとつ、ぽろりと零れてしまう私に乾杯。(笑)
 
 ホロは、自分ひとりで生きる道を選びませんし、ひとりで悟り切って、ひとりでも生きられる道を歩こうと
 はしません。
 そういう意味でホロは、敢えて人と交わり、人と生き、そしてそうするためにこそ、人無しでは生きられない
 ようになるために腐心しています。
 ホロは、ひとりの孤独を知っています。
 もう何百年も、たったひとりの白銀の森での孤独を生きてきたのですから、たとえ世界が滅びようと
 すべての生物が死に絶えようと、ホロは此処に在るホロのままに生きる事は余裕で出来ます。
 そして、出来るからこそ、出来てきたからこそ、それこその、本当の愚を悟るのです。
 ひとりは、嫌じゃ。
 ホロは人の中での孤独にすら生きられますし、供も連れずに一日中市場を観て回る生活の愉しみに
 充足し収束することさえ出来る、賢く気高い狼です。
 孤高の象徴の狼に恥じぬ、いいえ、その狼の最も高みにいる狼神賢狼のホロなのです。
 けれど。
 その高みでぬくぬくとひとり勝ちを決め込むことを、ホロは何百年かの生活の果てに、それを孤独への
 逼塞として捉えるのです。
 ひとりは、嫌じゃ。
 ひとりを独りと言い換え、そして孤独の哀しさを寂しさに換え、人を他者を求めて旅をする。
 ひとりは、嫌じゃ。
 ホロにとって、ロレンスがいようといまいと、関係無くホロは生きられます。
 けれど、そんなことはもう、ホロにとっては当たり前に当たり前過ぎること。
 それは出来て当然の事じゃ、で、だからなんじゃ?
 その当たり前のことを目的として、孤独の森に逼塞しようとする、そのわっちこそはなんじゃ?
 だから、ホロは自らの「独り」を、誰かを求めたくて仕方無い、つまり「寂しい」という想いを得るための
 口実にするのです。
 独りは、嫌じゃ。
 だから、旅に出て、ロレンスと出会い、街に入り、商売の道に生きる。
 人と共に、人の中で。
 他者ある世界が、其処には圧倒的に無限に、そしてなにより豊穣に広がっている。
 それらのものを求めることは浅ましいことかや?
 愚かで虚しいことかや?
 ぬし、なぜ自分がそう想うかをこそ考えよ。
 それは、苦しいから、じゃろ?
 そうした欲望がすべての苦しみの根源にあるからこそ、それらを捨てて、ひとりでも生きられるように
 孤独の森に逼塞するのじゃろ?
 ぬし、そんなに苦しいのが、怖いのかや?
 苦しいのが、嫌かや?
 人と共に生きるのが苦しいからこそ、ひとりを選ぶのかや?
 ならばわっちは、その苦しみを得るためにこそ、人と共に生きよう。
 わっちゃあ賢狼じゃ、その苦しみを克服出来ぬほど弱くも愚かでもありんせん。
 わっちの賢狼としての知恵と力を、すべてその苦しみに向けて使ってみたい。
 
 だからこそ、ホロにはなにより、人が、他者の姿がみえてくる。
 
 そうして少しずつ人との時を重ねていくに連れ、ホロは段々と「人間」になっていきます。
 人の間に生きる者、という意味での人間。
 そうなってくると、もうホロにとっては、人無しでは生きられないという、その「愚かで浅ましい」苦しみが
 身についてくるようになってきています。
 そしてもう、その苦しみを乗り越えるためにこそその苦しみに染まっているという、その当初の意識は
 綺麗に掻き消え、ただただその苦しみの中でのたうち回れるようになってきている。
 ホロが、紛れも無く、本気で、そしてなにより賢いからです。
 今回ホロの、その瑞々しいばかりの苦しみの中でのその生活の、その活写ぶりは見事の一言でした。
 街の門番に受けた尾に関しての無礼に憤慨して文句を言ってロレンスの気を引くも、ロレンスはその
 ホロの文句の論理を同じままにただ別の言葉を繰り返すばかりで、ホロが受けた屈辱そのものに寄り
 添おうとはせず、そしてホロ静かに激怒。 当然です。(笑)
 しかしホロは一瞬で切り替え、そして諦めずに第二手。
 宿にて、明るい部屋と暖かい部屋のどちらが良いかとロレンスに聞かれて、暖かい部屋に決まっている
 と言いながら、実際ホロが選んだのは明るい部屋(窓側の部屋という事はたぶんそう)。
 寒いからこそ暖かい部屋と言ったのに、そこでホロはさっさと服を脱ぎっぱなしにして、如何にもロレンスに
 乾かしておけと言わんばかり。
 当然、ロレンスを試してのこのホロの行為なのですが、しかしロレンスはあろうことかホロの服を乾かしな
 がら、爆睡。 ホロ裸のまま放置。 ホロ憤怒。 当然というのも憚られます。 (笑)
 ここでロレンスの爆睡の罪はふたつあって、ひとつは勿論ホロを裸のまま震えさせたことで、そしてもう
 ひとつはこれがホロの試練だと気付かなかったことです。
 気付いていればそもそも爆睡するほど気を緩めること自体無いはずですし、そして気付いていないから
 こそロレンスの謝罪はホロを裸で震えさせた事それ自体に対してしかなされない。
 というか、ベッドから尻尾だけ振ってみせたことで、これは門での尾に受けた無礼と繋がっておるんじゃぞ
 と、ちゃんとホロはサイン出してたんですけどね、ロレンスはその尾に反応してその尾を褒めて、だから
 ホロはロレンスが気付いたと思い安心していたんでしょうけど、それは甘いよホロ。 (笑)
 ロレンスはこうしたことに気付けるほどには成長しているのですけれど、しかしまだまだ板についていない
 というか、むしろ逆に、状況的に危機で無ければ気付けない、つまりまだまだホロを中心にしてものを
 見ていない、基準にして考えられていない、とも言えます。
 けれどホロはここでひとつ、我慢します。
 ロレンスにたっぷりとご馳走させ(ロレンスの分が無くなるほどの予算オーバー 笑)、そしてその食べっぷ
 りとご馳走を見せ付けるだけにしてしまいます。
 ホロは諦めていません、というか一回の試練でネタ晴らしせずに、試練を継続させようとしたのです。
 なぜか。
 
 不安だからです。
 
 試練のたびにロレンスがたわけな間違いをして、そしてそのたびにネタ晴らししてホロが怒る、その繰り返
 しに、ホロは寂しさを感じたからです。
 翌朝ホロは耳のトリック(?)を使ってロレンスをからかおうとするも、ロレンスに見破られ失敗。
 そして続けざまに、少々ホロにしては強引な言い掛かり(ですね)を付けてロレンスをへこまそうとするも、
 ロレンスに大人の態度を取られて、ホロも大人的に笑ってその背を見送るしか無い。
 笑い終えたあとの、あのホロの余韻が、もう、ね。
 からかって言い掛かりまでつけて、ロレンスに気付かせようとしても、結局はその「からかい」と「言い掛かり
 」のみクローズアップされて、それ自体の愚かさだけ突き付けられて終わりとせねばならなくなったら・・・
 力尽きますよね、それ。
 けれど、ホロはそれを見抜いている。
 その理不尽な構造を見抜いているからこそ、その卑怯な「愚かさ」を受け入れ、謙虚に健気に反省
 して、試練じみた一連の行為をやめる、などということをホロは絶対しないのです。
 ホロはあくまで、ロレンスとの一騎打ちを諦めない。
 ホロにとっては、ロレンスとの距離を取った大人な付き合いというのは、人の中での孤独に奔るのと
 大して変わらない。
 けれど、ホロは諦めずとも、半ばやけくそになっていますし、そしてある意味諦めてもいます。
 ロレンスが、わっちと真に向き合ってくれるのは、それは当たり前では無く、むしろ奇跡と思わねばなら
 ぬのじゃろうか。
 そうして、呆然としながら、諦めずに「なにもせずに」、ある意味ロレンスに合わせたレベルのやり取りの
 中で生きてしまう。
 
 第二期になってからのホロには、それがあります、根本的に。
 
 そして。
 
 
 それこそを。
 
 ロレンスこそが、突破してくれる。
 
 
 これが、ホロがなによりも求めていたこと。
 あのホロの手になされたロレンスの口付け。
 あれ、狼と香辛料という作品そのものが求めているものですよね。
 ホロは、あれが、あれこそがあれば、絶対生きてけますもん。
 いえ、あれこそがあれば絶対に生きていけると、なにはなくとも絶対に生きていける、そしてそれが
 ほぼ永遠に続くだろうその絶対的な自分の生の上で、そう思えるのです。
 ロレンスの魔法が無ければ、わっちは生きてはいけないのでありんす、よよよ。
 ホロって、神様なんですよね。
 ホロって、賢狼なんですよね。
 ていうかホロって、ロレンスよりでっかい巨大で強い狼なんですよね。
 ホロは強く、逞しく、賢く、その上で滅茶苦茶長生き。
 
 だからこそ。
 弱く、脆く、愚かで、その上で儚い刹那の瞬間にすべてを懸ける。
 
 男の大きな手とかって、ぷぷ、ホロの前足どれくらいの大きさあると思ってんのよ。
 ・・・そんなこと言う奴は、馬に蹴られて死ねばいいと思う。 (笑)
 ホロの耳とか尾とか、そういうのを書いてみたのは、そうした巨大な狼としての体と、小娘としての体の
 ギャップ、というかそこから発生してくる不安とのホロの向き合いを考えたかったからなんですけどね。
 そういう意味では、華奢で可憐な少女の姿は、孤独の森でも強く生きられる、そのホロの想いそのもの
 がきっちりと受肉して顕現したものであるとも言えましょう。
 大きいから、強いから、孤独にも生きられるから、それがなんじゃ?
 わっちらは、大きくなるために強くなるために、孤独に生きるために生きているのではありんせん!
 ロレンスがいれば、いえ、ロレンスがいるからこそ、生きている。
 それは、生きることそのものに理由も動機もなにも無いからこそ、です。
 そういう意味で、ホロこそ、自分が此処にあるということ、存在しているということの、その哀しみを
 誰よりもなによりも知っているのです。
 ひとりは、嫌じゃ。
 そして、その哀しみから逃げるのでも無く、その哀しみに逃げ込むのでも無く。
 ホロはひとりのままに、而して独りは嫌じゃと叫んで、その寂しさを晴らすためにこそ誰かを求めていく。
 それが、人と他者と生きるということ。
 門に着く前に、ロレンスと理屈のやり取りをして、そしてその勝者としてホロが求めていたのは。
 ロレンスの、抱擁。
 それは勝者を称えるものとしての抱擁であっても、それ以上のものもその抱擁から手に入れることが
 出来るほどに。
 ホロという名のひとりの狼は、貪欲なのです。
 そして私には、その狼が。
 なにより愛おしく感じられるのです。
 
 
 ホロがひとつひとつロレンスを試していく様の哀しさに。
 胸が締め付けられます。
 ホロがひとつひとつ自分の諦念と戦っていく様の寂しさに。
 涙が止まりません。
 こまめにこまめに自分を切り替え、必死に平静を装うホロが、ああ。
 ああ、なんでしょうか、このどうしようもなく私の中を流れていく、それでも犇めくこの歓びは。
 それは、ああ。
 目の前に、誰かがいるから。
 ホロのひとつひとつの仕草が、熱い。
 ロレンスを目の前にしたときの、ホロへの想いが深まっていく。
 そして。
 ロレンスに、ほどほどにしてくりゃれと、そう言ったホロに。
 尊敬の念を抱かずにはいられない。
 あの言葉は、諦めでも無く現状への固執でも無く。
 ただただ、不安にまみれながらも、ロレンスを求められるその自分自身のためにこそ。
 ロレンスが消えてしまうかもしれないことのどうしようも無い寂しさに向けての、その言葉なのでした。
 わっちゃあ、ぬしがいい。
 そしてなにより。
 わっちに囚われることと、わっちに拘ることは違いんす。
 一個の男として、ひとりの人間として、ただ在るがままにでも生きられるものとして、そうしてちゃんと
 してから向き合って欲しい。
 ホロはロレンスがそう出来るかもしれないと思ったのですね。
 ロレンスが「とっさの思いつき」で、ホロに自然に魔法をかけることが出来たのですから。
 ・・・・・どうだかの。 byホロ と私の心の声(笑)
 
 
 
 ということで、今回はこの辺りでお終いとさせて頂きましょう。
 今回はまさに、珠玉なお話で御座いました。
 ド派手で劇的な展開に左右されない、それが無くてもこの作品の根源は揺るがないということを、
 堂々と描いてくれた回でもありました。
 或いは劇的なものが無いからこそ、よりこの狼と香辛料という作品の魂が見えるのかもしれませんね。
 せんね。
 私もそれに応じんがために、色々と苦心して感想を描いてみましたけれど、如何でしょうか。
 ホロの瑞々しさを色彩的に描いてみたのですけれど、私としましてはもうちょっと色を深めて書けば良
 かったかなとも思っています。
 ホロみたいなキャラって、どうしても説教臭い強い言葉でつい書いてしまうのですけれど、ホロというのは
 そういうものを書くに適したキャラであると同時に、瞳と肌の感触のままにざっくりと鮮やかに書くことが
 それ以上に出来る、なかなか素晴らしいキャラでもありますので、その辺りもっともっと精進して是非
 そのホロこそを描き出したいと思っています。
 ぶっちゃけ半二人称的に説教的な言葉で書くのって苦手なんですよねぇ、そういうキャラ自体は好きな
 のですけれど(笑)
 一番得意なのは、完全一人称でどろどろに情景的に書くことだったりします。 書いてて気持ちいいし。
 ホロはあのホロ語がネックというか、その一人称で書くときはむしろ邪魔なのよね、すごく好きなんですけ
 れどね、やっぱり。 (笑)
 
 それと今回の最萌えポイントは・・難しいな、一杯ありすぎて。 (笑)
 テーマ的には(?)ロレンスの膝枕の上で目覚める、そのホロの物憂げな冷たい顔、なのですけれど。
 可愛いという意味ではどれにも絞れません、おこげ!も可愛かったですし、ロレンスに抱き締められるの
 を期待して敢えてきりっとしていた待ち顔とかそのあとの寂しげな顔とか、後ろ目で門番を睨み付ける
 眼差しとか、裸で待たされたときの憤怒の形相とか、ひとりで思う様に貪ってどうじゃ!という顔とか、
 舌打ちとか、勿論ほっぺたについた食べかすをロレンスの指に食べさせ貰うとか、ぽんと手を叩くときの
 ひょいっとした顔とか、色んなものを噛み締め堪えながらきっちり演技がかってロレンスに囁くとか、
 必死に嬉しさを嬉しがろうとするとか、眼差しは強くとも手は震えてたりとか、ほどほどにしてくりゃれとか、
 変わってしまった街の中で変化の象徴船を見に行こうと誘ってくれたロレンスに応えるそのホロの豊かな
 意志溢れる笑顔、とか。
 まぁ。
 レナスの街には度の強い酒があり、大雪で一冬足止めされても平気だとロレンスに教えられて、
 大雪が楽しみじゃ♪と楽しそうに笑う可愛い酒飲みさん(うわばみ)の笑顔辺りが妥当でしょうか。
 ロレンスはまぁ、跪いての口付けで終了。 クラフトロレンスさんがゴール致しました。 (笑)
 
 
 それでは、これにて。
 また次回お会い致しましょう。
 狼万歳。
 そして、ホロに乾杯♪ というかホロで一杯やろうっと♪ (笑)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                              ◆ 『』内文章、アニメ狼と香辛料U」より引用 ◆
 
 

 

-- 090819--                    

 

         

                                    ■■ zen kai ■■

     
 
 
 
 
 頭の中が真っ白というか、真っ白だということにようやく気付いたら夏だったというか、あれもう8月とか
 思ってたらもう8月も半ばっていうか後半だし、それで頭が真っ白になる訳じゃ無くて気付いたら真っ白
 で。
 なにを考えてもなにを感じてもそれがひとつに繋がらなくて、でもバラバラという感じでは無くてよくわからな
 くて、どうしたらいいのかわからないとかそういうのでも無くて、どうしようとも思わないというか、楽しいとか
 面白いとかそういうことでも無く。
 なんというか、あーそうかとただ納得、え納得?、なんか違うな、納得というよりあーそうだったのよかった
 ねというか、息を吸ったらちゃんと空気中に酸素があったというか、んでも酸素自体を体感出来るはず
 も無い訳だから、こうして呼吸をしてもむせるとか死ぬとかしないからこそ、あ酸素あるね大丈夫、
 というか、ていうかむしろ酸素が無くても生きられるような体になってたらどうしようとか、ていうかむしろ
 酸素以外のなにか毒物的なものが満ちてたりするんじゃないかとか、そんなことを考える間もなく。
 あれ?、酸素あった、これ酸素だよね?
 なぜだか知らないけれど、頭とか胸の中で、酸素を手掴みしてる。なんだこれ。
 ころころしてるようなごろごろしてるような、手触りがいいんだか悪いんだかわからないくらいにこねくり回し
 てたらなんだかどうでもよくなって、それを放り投げちゃう。
 でもそれが投げられて割れて飛び散って、それが目の前の空気に溶けてあるような感じで。
 ぐるぐる。
 頭の中ぐるぐる、と思ってたら回ってるのは目だったりして、立ち眩みかと思ったら全然そんなことは無く
 ただ暑さでぼーっとしてるだけだったり。
 その辺りから、なんというかこう、しゃんとしてくる。
 自分の輪郭というのがぽつぽつと出てくるというか、でも出てきた瞬間にはそれに気付かなくて、気付いた
 ら体が動くようになっていたというか、熱いシャワーをびしっと浴びたような、あとからじわじわくるような
 目覚めの感じで、その辺りで付け足しでコーヒーを飲んでみたり、そうして余分なものをぽいぽいと
 自分の中に投げ込んで、一体どれが自分の目覚めと輪郭のしゃんとさと結びついているのかわからなく
 、あ、わからないのは見た目的にであっててちゃんとわかってたりして、でもなにかこう、そういう余分なもの
 もあった方が心強いというかなんというか、そうするとこう、すらすらと言葉が転び出てくる。
 
 ああ、気持ちいい。
 
 なんかさぁ、書きたいこと一杯出てきちゃって。
 なんというかこう、また一段ステージが上がったというか、むしろ逆に上に行く前に今いる自分の階層
 がまたひとつ広がってしまったというか、それがこうなんだか寂しいやら哀しいやら、寂しいやら哀しいやら
 という感情が嘘のような、どっちでもいいような。
 というより、一段上がったとか広がったとか、そう思うことで、今自分が触れているものとの距離の取り方
 を得ていっているのかもしれない。
 ぐるぐる。よくわかんないけど、なんかわからないけど、すごく、そわそわしてる。
 なんていうか、わかったことを書こうということはあるんだけど、それ以上にやっぱりずっとわからないものが
 、そのわからなさと触れ続けてきたことで、なんだかわからないままに書き出せるようになってきたかもし
 れないというか、そういう感じ。
 どっちかというと、んや、明らかに私はわかるものを書くよりも、そっちのわからないものをわからないままに
 書いていく方が、調子いい。
 私にとって書くということは、わからないものとの触れ合いそのものだったりする。
 わかんないだけど、なんだか染み出てきて、その染み出てきたものに、ぽかんとして、ああそうかとか、
 えマジでなんか違くないとか、そういうわかったことが読み取れたり、やっぱし全然わからないままのもの
 が素直にわからないと別の言葉で書かれてたり。
 なんだろ、今すごく、やる気無い。
 全然わからない、訳わかんない、どうしたらいいのかわかんないっつーかどうする気も無い。
 だけど、それがそのまま、もの凄いやる気と繋がってる。
 どうしようも無いほどに、この胸の中から溢れ出さんばかりに、なにかが蠢いてる。
 やっべー、そう、やばいと思ってるから、手に負えないと思ってるからこそ、私は防衛的にやる気を
 無くして見せてなにもわからなくなるけど、その私が守っているのは今までの「私」であって、その私の
 殻というか輪郭が破られることの、たぶん哀しみなんだろーけど、その哀しみっぽいなにかこそ、実は
 なによりその自分の形を破ろうとするものを求めてたりする。
 
 ぶっちゃけ今、わかってることしか書いてない方が多い。
 だから今、なによりわからなくなりたい衝動が大きい。
 
 気付いたら、わからなくなってた。
 わかっていることの執着を手放して、自分の外に広がっているわからないものとの繋がりと触れ合いを
 求めてる。
 今ね、なんていうかね。
 プリミティブなものを求めてる。
 求めてるっていうか、それとの触れ合いの中にある私こそを再考したいというかなんというか。
 プリミティブ、意味としては、根源とか根本とか、むしろそっちの意味よりは、原始とか衝動とかそういう
 感じの意味としてのそれね。
 たとえば。
 
 萌え、とかね。
 
 萌えと笑いと優しさと私。
 アニメ観てるときに、近年私が大切にしてるものね、これ。
 てかぶっちゃけ今日の日記のタイトルはこれにしようと思ったんだけどね、面倒だからやめた。
 萌え、ってなんだろう?
 私は上の四つの要素を生かすためにこそ、「考える」とか「感じる」とかそういうものを使っていく方が、
 よりアニメというものの可能性を活かせる気がするのよね。
 私は元々アニメは「考える」ものとして、まぁ読み解くとはちょっと違うけど、そういう風な畑の住人として
 アニメに入っていったけど、でもアニメを観ていくうちに、それはアニメというもののごく一面しか捉えられな
 い在り方だと思ってきて。
 したら、萌えとか?
 昔はただ否定するだけだったけどさ萌えって、別にカマトトぶってる訳じゃ無いし潔癖性って訳でも無い
 し、単純に「考える」ものとして捉えるに於いては、邪魔なものだと思ってたからね。
 「考える」ことが先行してた。哲学的だったというか。
 でもさ、違うんだよねぇ、それ。
 じゃー、なんでアニメなのよ?
 私が小説でも映画でもドラマでも無く、他の何でも無くアニメを選んで色々書いてるのよ?
 「考える」だけなら、なんででも出来るし、なんででも出来てこその「考える」ことの意義と価値。
 ゆえに、「考える」ことそのものは目的では無いし本質でも無い。
 考えることなぞ、当たり前じゃ。
 じゃがなぜぬしが、そんなに必死になって考えるのか、その動機と背景を考える必要はあるじゃろ?
 うん。
 愛だろ、愛。
 私はアニメが好きだけど、それ以上にアニメのキャラクターが好き。
 そして、そのアニメのキャラ達が、あらゆるものを膨大に含んで、そして駆け回ることが出来る、その
 フィールドとしてのアニメが好き。
 萌え、ってなに?
 萌えと好きは違う。
 好きっていうのは結果というか評価というかそういう感じだし、そうなると萌えっていうのは感触そのもの
 の表現かなと思う。
 気持ちいいやらもぞもぞするやらどうしようもないやら、それが萌えであり、その萌えがあるからこそ、
 その萌えを含めて、好きと言う。
 私はそういう意味で、小説とか映画とか、そういうものの人物は好きであっても、特段萌えるということ
 は無い。
 あったとしても、それこそ性的な感触のそれにしかならない、ってそれは言い過ぎか。
 まぁファッションとしての「可愛い」という意味での萌え、いや萌えというのは抵抗あるけど、それはわかる
 し、それを性的な意味で捉えることもまた無いし。
 
 萌えって、気持ちいい。
 
 それだけというか、まぁなんというか、どこにだって萌えはあるし、それは性的な意味を含むとは限らない
 し、私の場合は個人的にそこに性的なものは観てない。 たぶん。嘘吐け。ちょっとだけよ。
 でも気持ちいい。
 萌え=エロという図式しか無かったからこそ萌えを排斥することしか出来なかったたわけな私。
 でもよくよく考えれば、私に先行してあるのは好きという評価では無く、萌えという感触が先行してあって
 、そしてその感触の中には性的なものは無いはずなのだから、そこに自信を持てばいいし、持てなか
 ったからこそ自分を疑い、もしかして私はただエロいだけなんじゃないかと疑って、それで萌えを否定して、
 ただただそのキャラを「考える」ことしかしなかっただけだったり。
 私はホロが狡猾に嘲笑うだけで萌える。
 私はロレンスが顔を覆って蹲るだけで萌える。
 なんだかどきどきする、なんだかそわそわして、うわーいいこれいいと狼狽えて、それで次々とホロとロレン
 スの情感たっぷりけれんみたっぷりのその莫大な所作にこそ、動かされていく。
 感動。
 そこから、無限に「考える」と「感じる」が始まっていく。
 表情で語るという意味での、その「深い表情」それ自体から「考える」と「感じる」ことは無論出来るし、
 その深みを出すためにアニメのキャラというのは凄い可能性を秘めてるけど、でもそれは他の媒体でも
 出来る。
 でも。
 そういう。
 意味の。
 無い、あっけらかんとした、当たり前の、あまりに記号的ながら普通の、その表情の萌えは。
 それは、アニメにだけにしか、無い。
 ストーリーに頼らなくても、哲学的命題に頼らなくても、いくらでもアニメの中で駆け回る、そのキャラ達
 の豊穣かつ単純な表情と仕草の中にこそ、圧倒的絶対的に、言葉では言い表せない萌えがある。
 訳わかんないけど、そわそわする。
 わからないのに、どきどきする。
 私はそこから、あるいは、そこで書いている。
 私が書くって、そういうこと。
 萌えて、笑って、優しさに染まり、「私」という主体が顕れて。
 そして。
 むくむくともりもりと、私は書いていく。
 「自分」という、この新しい私の輪郭を、ね。
 なんだかそういうとき、無性にしゃんとする。
 厳かというかすーっと透き通るというか、真面目というか見栄っ張りというか、周りを気にするというか、
 誇りというか、なんというか、そういうものが全部、ひとつに繋がっていく、その目の覚めるような感覚。
 ていうかここまで来ると、ぶっちゃけ萌えがエロかどうかなんか関係無く、そもそも私のプリミティブさに
 繋がっていく。
 なんかこう、私にとってエロって、本質的に恥ずかしいものなとこあるんだよね。 いやんこのカマトト。
 だから逆に、「恥ずかしさ」を逆手にとって、エロとは秘めたり自重したりするからこそ、より気持ち良く深い
 ものになっていくという、欺瞞的な感覚があった。 ・・・・ていうかこう書くと普通に変態っすね。
 たとえば「艶っぽさ」とかが逆に好きなのはそこから出てるんだよね、艶っていうのはある意味はったりだし、
 そのはったりはエロという性的なものを隠すための、敢えての擬似的性的行動な訳だし。
 でもさ、その艶っぽさが、エロを隠すためとしてのはったりなのは、つまらないんだよねぇ、やっぱり。
 だからこそ、その艶っぽさを隠蔽のために使うのでは無く、なにか別のものを得ていくための、そういった
 手段として使うときにこそ、実は私の場合、その「艶っぽさ」に萌えが発生してくる。
 艶っぽさにエロだけを見るのも、エロを否定するだけなのも、それって等しくエロに囚われて、「艶っぽさ」
 というモノそれ自体が持つ大切なものが見えなくなっちゃうんだよね。
 だからぶっちゃけ、その艶っぽさが「色っぽさ」として性的快楽と結びついてあっても、ほんとはそれでこそ
 の、「艶っぽさ」の萌えの保証に繋がると思う。  手練手管とか見てるだけで楽しいし。
 恥ずかしかろうがなんだろうが、エロ自体の快楽を否定はしないし私はエロいし、だけど、それをただこう、
 無機質的な快楽としてのエロとしてまとめられてしまうと、それが陰惨で陰鬱でなんか虚しいというか、
 だから私はエロを軽く道具的に扱う感覚はそういう意味でこそむしろ嫌いだし、まぁこう言うとたぶん
 全力で引く人と全力で頷く人とにきっちりと分かれられてしまうと思うけど、愛があってこそのエロじゃろ、
 とか言ってみる訳ですけど、ていうか愛とエロって滅茶苦茶字面的に相性悪いなぁせめてエロスとか
 言ってみましょうかうわ余計泥沼な感じが出ていいね云々。
 
 まぁつまりなんというか。
 エロっていうのは萌えでもあり、萌えというのは好きになれてこそというか。
 そして私的には、好きなものは愛せるのが一番じゃと思う。
 
 だから、萌え=エロとして、安易にエロアニメ化的にされても全然萌えないし、そういう意味では全く逆に
 そこにエロさを見たいとは思わんのね。
 でも。
 プリミティブ的には、それもまたあり。
 まぁ私なんかはもうちょっと自分の「輪郭」を気にした方がええよって感じで、オタクの騒ぎ方には注文を
 つけたいし、エロに傾き過ぎはどうかとも思うけど、根源的なところで、そういった自分の感じた原始的な
 ものと向き合うという事自体は、なんか逆にすごくいいことだと思うんだよね、最近。
 私なんかあの手この手でそのプリミティブなものを装飾しているんだけどさ、そのプリミティブなものと向き
 合ったからこそのそれの隠蔽では無い純粋な装飾が出来てるのだし。
 だからその、まぁね、自分の中にあるわからないもの、この場合エロだね、それを短絡化してわかった
 風なものと道具化して安易に扱うのはどうかと思うし、逆にわからないもの汚らわしいものとして徹底し
 て排斥無視することは、それと同根だとも思う。
 そういう意味では、アニメで萌えるって行為は、エロの短絡化として道具的に扱われてしまうと良くない
 と思うし、エロス的に臆病でその代替として萌えに走るというのも、それはそれで自分から逃げてる。
 或いは逆に反動的にアンチ萌え主義者になってもしょうがない。
 アニメってどっちにしろ、萌えるだけじゃ、終われないんじゃない?
 だって面白いじゃん、ストーリーありテーマあり、その他にも語れて考えて感じられることは沢山あるし、
 なによりもそういったものを総合的にひとつのものとして触れ合わせていくことで感じられる、そのアニメ
 自体への萌えが、ただアニメキャラ自体への、ただエロとしての萌えに自分を閉じ込めていくことを、
 これは許してはくれないんじゃないかな。
 私なんてすごいものね、Mになって転げてみたり、それが笑いだったり、んー、なんつーかアニメ観てそう
 いう自分の嗜好とかそういうのがよくわかってきたりしてるし、そういうものを馬鹿にするとか茶化すでも
 無く、ただ頑なに真面目面で語るものだけじゃなく、ほがらかに大らかに笑いとして語れるというのは、
 これは正直私にとってはアニメ無しには出来なかったことだと思う。 私がほんとにMかどうかはさておき。
 笑いも大切な要素よね、テーマにしろなんにしろ、そういうものはただ突き詰めて考えるだけのもの
 じゃ無いし、真面目に語りゃいいってものじゃないし、なにしろそのテーマと触れ合ってるのは他ならない
 生身の私達自身なんだものね、そりゃーテーマをネタにしてボケたりツッコミ入れたりして、そうすることで
 ひとつ親近感というものを得ることに大きく貢献してる。
 卑屈でも自嘲でも無い、その当たり前にからっと笑えるからこそ、私らは色んなものとしぶとく触れ合って
 いけますし。
 そしてしぶとく色んなものとしぶとく触れ合っていきたいと思えるのは、それは優しさがあるから。
 なんかこう、じわっと自分の中に広がっていく優しさって、滅茶苦茶大きな力になりますし、動機になり
 得ますもん。
 萌えをただ眺めるだけじゃ無く、主体的に目の前のそれと触れ合っていこうと思うからこその優しさで
 あり、その優しさって誰にでもあるものなのよね。
 その優しさを引き出すのが萌えだったりしたら、これってめっちゃ嬉しくない?
 その優しさを「感じる」ことに浸り、そしてそれを突き詰めて「考える」ことを深めていけば、これでまた
 ひとつ大きくアニメというものとの触れ合いの度合いが上がる気がするよ。
 
 なんつーか、だから。
 「私」なんですよね、アニメって。
 
 「私」と向き合って深く潜っていって、そこで色々感じたり考えたりしながら、萌えや笑いや優しさと出会い
 ながら、そうして自分を新しく創っていく、そのためにアニメというのは大きなものを持ってる。
 うん。
 この間NHKで、ミュージックジャパンだったかな? アニソン特集やってて。
 で、なんか、感動して。
 なんだろ、アニソンがオリコンで一位だか二位だか取ったりすると、オタ自重とか思うんだけどさ。
 なんか、こう、ああ、って。
 すっげー、すっげーみんな、本気出してる、みたいな。
 なんかもう全然自分を疑ってないというか、もうなんかさ、うん。
 涙、出ちゃった。
 アニメって、なんてすごい力持ってるんだろう。
 上手く言えないですけどさ、うん、なんかもう、これって完全に、巨大な新しい動きになってる。
 情熱的だった。
 まさかNHKでけいおん!のワンシーンが出るとは思わなかった。
 なんかこう、なんかこう。
 セクシーだった。
 野卑でも野暮でも無く、けれど洗練というほどにお高くはとまってない。
 けど。
 観てて、思わずうっとり拍手したくなるような。
 なんだ、こんなにちゃんと意識してんじゃん。
 あの画面の中には、アニメをちゃんと主体的にやっている人達がいました。
 アニメが、生きてる。
 そこにあったのは、もはやアニメという趣味対象のものじゃなく。
 
 アニメという文化が、はっきりと息づいていました。
 
 
 あーこりゃ、私もその文化の中で生きたくて堪らんよ、これ。
 
 全壊なるままに、全開で、ね。
 
 
 さて私も狼がんばろっと。
 
 
 
 
 
 ◆
 
 
 まぁ狼は狼でいいのですけれどね、今期はそれでいいのですけれどね。
 というか今日は、最初ボケボケで、途中で素に返って、だけど面倒なのでそのままいっちゃったとかいう
 文法はどうかとも思うのだけれども。
 で、それはともかく。
 来期は、どうすんだ。
 次に繋げていこうよ次に、そりゃ狼は頑張るよ?頑張りますよ?
 で、来期は、どうすんの。
 それですよ。
 あのね、あなた、わかってます?
 あなたね、去年の夏の夏目友人帳以来、アニメの感想の対象に、新作を選んでないのよ?
 夏放送の夏目の次の秋開始アニメはなにも書いてなくて、年が明けての冬開始はマリみて4と続夏目
 を書いて、それで春開始は書いて無くて、夏開始は狼U。
 次! 次が始まってないよ!
 そろそろいい加減、続編では無い新作アニメの感想を書きましょうよ。
 秋開始アニメこそ、なにかみつけていきましょうよ。
 ということで、来期アニメチェック第一発目!
 
 
 ・にゃんこい!
 ・戦う司書 The Book of Bantorra
 ・夏のあらし!〜春夏冬中〜
 ・ささめきこと
 ・君に届け
 ・乃木坂春香の秘密 ぴゅあれっつぁ♪
 ・聖剣の刀鍛冶
 ・DARKER THAN BLACK -流星の双子-
 ・天体戦士サンレッド 第2期
 ・とある科学の超電磁砲
 ・真・恋姫無双
 
 
 一番の注目作は、「DARKER THAN BLACK -流星の双子-」なのですけれど続編です。
 どんなに注目しても続編です、というかそれ以前に第一期も感想書けるタイプじゃあなかったなかった。
 はい、次。
 次点は「真・恋姫無双」ですこれも続編です感想は・・・・そういえばプチ感想は書いてたねこれ。
 今回も書くかなプチは。
 次。
 「とある科学の超電磁砲」ですけどこれも続編っていうかスピンオフです感想は書きません次。
 「天体戦士サンレッド第2期」ですけどこれも続編っていうか感想は書きません次。
 以上!
 全くやる気御座いません!
 
 
 
 
 ◆
 
 化物語感想〜たぶん第6話。
 前回は総集編だったのでパスしましたご了承くださいませ全くの事後ですがすみません。
 で。
 新登場の神原駿河は置いといて。いや面白いキャラではありましたけどね。つかひたぎに似とる。
 それ以上に、阿良々木君をイジり倒す戦場ヶ原ひたぎが楽しすぎ。
 ツッコミを追い詰める冷静なそのボケっぷりが絶妙。
 こんなに怖いデレは初めてだwww
 如何に阿良々木君から心地良い絶叫言葉を引き出すか言わせるか、そしてそれが成功するたびの、
 してやったりな僅かな表情の変化。
 うわー楽しそー。
 阿良々木君からすれば命懸けな訳ですけどw、しかしひたぎ的にはこんなにイジり甲斐のあるツッコミ男
 はいないよねぇ。
 阿良々木君はアホだけどしっかりついてくるし、自らのツッコミに引きずられてるからこそ、容易にボケと
 して追い詰めて遊べるし。
 うわー楽しそー。
 そして時折こっちからも愛の言葉を埋め込んだりして、阿良々木君を撃沈。
 そして嫉妬という名の下に阿良々木君を追い詰めていくその戦場ヶ原様の狩人っぷりに乾杯。
 ほんとこの人いつか絶対人殺すww
 しっかしほんと、阿良々木君もすごいやら可愛いやら、ほんと粘り強くついてきてくれるよね。
 というかもうついてくとかそんなじゃなくて、完全に戦場ヶ原ひたぎの狩り場に捕らえられて、必死に藻掻
 いているようにしか見えな・・・・・いえなんでも御座いません。(戦場ヶ原様を恐れながら)
 そして、その阿良々木君こそが、そうして遊んでいるひたぎ自身が背負っているものを、別のレベルで
 受け止めてくれる、その可能性がなんだかとても暖かい。
 なんかこれ、ひたぎ的にはすごく安心できるような。
 だってこれ、阿良々木君がひたぎから離れてくのってあり得ない気がするし、だから色々とひたぎが
 阿良々木君にちょっかい出すその嫉妬が、あくまで遊びのレベルで済んでる気もするし。
 なんかもう、彼氏彼女というか夫婦な感じですしね、うん。
 
 
 とまぁこんな感じで、今回は(も)いい加減にして、この辺りでおしまい。
 
 来週はちゃんと更新・・・・・すると思います。
 
 
 
 
 

 

-- 090815--                    

 

         

                            ■■ その狼の瞳はなぜ紅い ■■

     
 
 
 
 
 『忘れてたよ。 
  諦めが悪い奴ってのは信じられないような希望的観測をする奴ばかりで、俺もそのひとりだってことを。』
 

                              〜狼と香辛料U・第六話・ロレンスの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 市場の足並みが揃わぬとき、そこに豊穣の一手が生まれ出る。
 淡々として、星空を見上げた。
 闇など何処にも無く、ただ星空に開けていた。
 じゅくじゅくと熟れる果実のように、ベッドが軋む。
 ひとつ足を動かすたびに、人には聞こえぬ音が産声を上げる。
 いつのまにか、ベッドに転がり、言葉を指先で突いていた。
 なんじゃろうの、この感覚。
 そわそわとしていながら、鳥肌が立つまではいかないほどに、静かに興奮が鎮まっている。
 特段なにかをした訳では無いのにの。
 やれやれという風に、尾が揺れる。
 大きく、深く、回すように倒れ込むように、しなやかに背を嘗める麦束尻尾。
 ひとつひとつ毛先を摘み、ひとつひとつ別々の方向に捻ってみたくなる。
 じゃが、それは捻り上げた途端に、しんなりと、そのヘタレぶりも鮮やかに、真っ直ぐに毛並みの眷属と
 しての誠意に染まりおった。
 わっちの尾は、一糸乱れぬほどに、その毛並みに従順じゃ。
 どんなに逆撫でにしようとも、一晩明けぬうちに、寝返りを打つままに、綺麗にその毛の流れを統一
 してしまう。
 なにが麦束尻尾じゃ、このたわけが。
 愛しさも怒りもなにも無く、ただ夜風に吹かれあっさりと祭囃子を嘯く、その無下なる我が尾に微笑んだ。
 今もし、窓から驟雨が降り注ごうとも、わっちはこのままでいられそうじゃった。
 濡れようとも、冷えようとも、逆撫でに乱れようとも、わっちはその尾に微笑んでやる。
 狡猾に、陰険に、残酷に、見飽きるほどに見下すままに。
 その麦束の名を駆る狼の尾を睨み付けてやる。
 それで、しまいじゃ。
 そして、終わりのままに。
 始まりじゃった。
 ああもう、ああもう。
 なんじゃわっちは、なにをこんなに落ち着いておる。
 にやにやと尻尾に噛み付きながら、凄惨な殺意を孤独の闇に向けていく。
 ぎょろりと光る、紅い瞳。
 ぎらりと光る、黒い牙。
 つん、つん。
 紛い物などでは元より無く、紛れも無い生身のその瞳と牙に触れる。
 ただ恐れ、ただ怯え、ただ利用され。
 その利用されるわっちこそを、ただ鬱蒼と利用しているわっちだけが此処におった。
 くくく。
 可笑しさは無いが、笑わずにはいられんかった。
 虚しくも無ければ嘲笑う気も無い。
 どうじゃ?
 わっちの狂いっぷりも、様になっておったろう?
 執念深くどこまでも、殺して喰ろうて、壊して消してしまえと、すべてをわっちの体に込めたのじゃからな。
 嘘などどこにも無く、ただ真実のままに嘘を吐いたんじゃ。
 騙し?
 たわけ、誰も騙しとらん。
 騙された、阿呆な男がひとりいただけじゃよ。
 しかもその男を騙したのは、その男自身じゃ。
 わっちはただ、その男の前で、踊っただけじゃ。
 ごろん。
 転がるように立ち上がり、背を伸ばす。
 しっくりと頭の先に抜けていく、なにか得体の知れない、得体の知れないだけの、わっちにはとても
 懐かしいそのなにかが、真っ黒に咲いていく星の宴に繋がっている。
 やがて、時が動き出す。
 繊細に解けていく、髪の流れがシーツに広がっていく。
 理屈を繋げる気にはなれんかった。
 ただ忍び寄る、狡猾な狼の嗅覚だけが、わっちの求めるものをわっちに与える、その計算の魂に
 なった。
 
 
 − わっちは、わっちじゃ
 
 
 
 迷いなど無い。
 いや、迷っているわっちを放って、わっちは狼のままに計算に勤しんでおった。
 わっちの迷いとはただ、わっちの怒り、わっちの憎しみ、わっちの殺意、それらの顕れにしか過ぎんかった。
 それらは決して、わっちの魂、わっちの命では無かった。
 あのたわけの前で、わっちゃあ本気で怒り、本気で狂い、本気で猛った。
 本気じゃ。
 言い訳のしようも無いほどに、訂正する気も無いほどに、現に今でもわっちはその猛るわっちの顔を
 呼び出すことが可能じゃ。
 その顔の中には、計算の息吹は無い。
 じゃが。
 その無心の怒りに満ちたわっちのその顔を魅せた事自体は、立派な計算じゃ。
 いや、正確に言えば。
 わっちが真に激昂したからこそ。
 その発生した激昂に基づいて、如何にその激昂をより良いものとして利用出来るかと、そういう計算が
 生まれてきたんじゃ。
 じゃから、わっちの怒りは、紛れも無く本物よ。
 わっちゃあ、なにかを求めるがゆえに、怒ったのではありんせん。
 怒ったからこそ、わっちが求めるものの大切さを切実さを、はっきりと感じたんじゃ。
 のう、ぬしよ。
 わっちは危機じゃったんじゃぞ?
 ヨイツの森が消えたと聞いて、わっちは本当に、我を失ったんじゃ。
 ぬしは、我を失ったあとにすぐにわっちは我に返ったと言うたがの、お笑いじゃ。
 わっちは確かに、我を失い、そして。
 今も、失っておる。
 ヨイツの森は、滅びたんじゃ。
 その喪失の甚大さは、もはやわっちですら計り知れぬ。
 ぬしは、それを無視するのかや?
 わっちがこうして今、ぬしと話していることが出来るからと、それで安心を決め込むつもりかや?
 顔に青が差し、耳が止まり、凄惨な怒りが浸みてくる。
 瞳は紅く燃え牙は黒く轟き、張り裂けんばかりに尾を萎れさせ。
 冷厳な横顔を晒し。
 
 たわけ。
 わっちはぬしに、そう、微笑みを以て、応えてくりゃる。
 
 まったく、本当にぬしはわかっておるのかや。
 なんじゃ、その腰の引けっぷりは。
 そこから一歩でも後ずさってみよ、あの若造を嫌でも盛り立ててぬしより立派な男に仕立ててやる。
 わっちゃあ・・・
 ヨイツの森がたとえ滅びてしまったとしても・・
 もう一度、帰りたいんじゃ。
 わっちが失われたとて、わっちはまたそのわっちを取り戻したいんじゃ。
 わっちはの、ロレンス。
 故郷を失い我を失い、それでもこうして此処に狡猾にして存在している。
 それがわっちの求めるものであろうと無かろうと、そんなことは関係無い。
 わっちは、わっちじゃった。
 そのまま、動いとった。
 ぬしは、そのわっちのことを、信じとったかや?
 ぬしが信じとったのは、わっちが我を失ったとて必ず我に返り、今まで通りに戻ると、そういうわっちの
 ことでは無かったかや?
 わっちは、神じゃ。
 わっちがどうなろうと、わっちが此処にあることは絶対じゃ。
 じゃがの。
 その前に、わっちはわっちじゃ。
 ただのホロじゃ。
 ぬし、ぬしが信じとるのは、なんじゃ?
 ぬしが信じとるのは、一体なんじゃ?
 ぬしがその胸で三度抱き締めたのは、一体誰じゃ?
 わっちゃあ、神じゃ。
 ぬしは、わっちを信じていい。
 わっちゃあ、賢狼のホロじゃ。
 たとえどんなことがあろうとも、絶対に諦めぬ、豊穣を求め続ける者達の神じゃ。
 じゃが。
 
 わっちは、滅びた。
 
 わっちは、わっちを失った。
 
 ぬしが三度も抱き留めた、可憐で哀れで小さいわっちは、あのとき確かに死んだんじゃ。
 ぬしは、それをどう思うんじゃ?
 ああ、わっちは何度でもわっちを生み出せる。
 何度でも、わっちは怒りと憎しみに堕ちながらも、その裏でしっくりと狡猾に計算を回せるんじゃ。
 なにせ、狼神賢狼のホロじゃからの。
 その神を、ぬしは信じていい。
 じゃが・・・
 じゃが・・・・・
 そのわっちの、ヨイツの森と共に滅びた・・・
 そのわっちのことを・・・愛おしんでくりゃれ・・・
 ふん。
 わっちゃあ、激怒しながらも、ぬしがそのわっちの死に対して同じく怒り、怒鳴り込んでくるのを待って
 おった。
 そして、思い切り、張り倒してやろうと思っとった。
 たわけ。
 冷徹に冷酷に、けれど、微笑みながら。
 雄の甲斐性は魅せるだけで充分じゃと、何度言うておる。
 認めてくりゃれ、ロレンス。
 さればわっちは、ぬしの信じるままに、賢狼ホロとしてぬしの横で生きようぞ。
 じゃから。
 ぬしには、その失われたわっちのことを信じて欲しかったんじゃ。
 怒りを、哀しみを、絶望を。
 そしてなにより、その怒りと哀しみと絶望のままに。
 くるくると凄惨に圧倒的に、わっちが求めるままのものに頭を回すということを。
 試練、じゃと?
 わっちがあの若造に加担したじゃと?
 
 
 『こ の た わ け が っ !』
 
 
 それが試練に感じられたのなら、それはぬしがぬし自身に騙されとったからじゃろう!
 ぬしがあの若造とのやり取りに終始しておったからこそ、ぬしはわっちと戦っておる気になったんじゃろう!
 このたわけ!!
 ぬしの相手は最初から、わっちのことを信じられぬ、わっちに任せられぬ、その弱いぬしじゃろう!
 『わっちの苦心をなにもかも台無しにしおって!』
 ああ、もう、腹が立つ。 煮えくりかえる!
 わっちゃあ最初から、いや、ヨイツの森が滅びて、わっちが我を失ったそのときから、ずっとずっと、わっちの
 為すべきことに身を投じていたんじゃ。
 それがなんじゃ、試練じゃと?
 ぬしは、わっちが冷たく絶望に拉がれながらも、それと同等に熱く希望に邁進してたとは、考えんかった
 のか?
 ああ、そうか、ぬしはそこでこう考えた訳かや?
 絶望しながらもなんとか希望にすがろうとして、俺を信じてずっと待っていた、と?
 たわけ。
 本当にぬしは、そういう健気な心映えの雌が好きなようじゃな。
 たわけ。
 何度でも言うてやる。
 このたわけっ!
 それならわっちの苦心が、ぬしにはわっちの絶望ぶりにしか見えないのは当然じゃ。
 わっちはぬしに、なにひとつ頼うてはおらぬ。
 わっちはぬしのその愚かな想定以上に冷静じゃ。
 ずっとずっと、わっちは圧倒的に変わらぬわっちのままに、失われたわっちを取り戻す戦いに勤しんで
 おったんじゃ!
 いつも通りじゃ!
 ぬしだけが、わっちに健気で愚かな雌の影を見て、勝手に独り善がりに駆けずり回っておっただけじゃ!
 わっちのためじゃと?
 巫山戯るなや!
 わかっておらぬではないかや!
 なぜにぬしは、ぬしとわっちの、このふたりのために戦わんのじゃ!
 あの若造、アマーティはの。
 確かに騎士じゃったが、騎士でしか無かった。
 あやつめ、わっちのことを守ることしか頭に無く、わっちの頭の中身のことなど慮外なんじゃ。
 わっちが、雌のことを守り愛することしか頭に無い、そんなつまらぬ愚かな雄に惚れる訳が無かろう。
 そんなことは、ぬし、あの若造と話をすればすぐにわかったことじゃろう。
 いや・・・ 
 少しでも、わっちがあの若造の元に奔るなどと思った、ぬしの事が気に喰わぬ。
 わっちがぬしを選んだ、その本当の理由に未だに気付かぬとはの。
 それも、わっちの怒りを加速させた。
 じゃがの。
 
 それが、わっちをぬしの元から去らせる理由になぞ、なる訳もなかろう。
 
 ぬしが、わっちがぬしを選んだ理由に未だ気付かぬことは、ただそれだけのことよ。
 ただ、それだけのことよ。
 
 
 
 
 

 
 
 俯き加減に、目の前の顔を見る。
 言いたい放題重ねながら、いつまでも言葉がひとつに繋がらぬままに。
 そっと、伸ばされたロレンスのその手に、唇を重ねていた。
 突き立つ黒い牙の先に、紅く滲む甘い血が、堪らなく、胸を締め付ける。
 引き伸ばして埋め立てた、わっちの闇の孤独が、ただ為す術も無く消えていく。
 ロレンスには、わからぬ。
 ロレンスに、わっちと同じ理解に至らせることなど、出来ぬ。
 それが当然じゃと言うには、わっちはあまりにも、賢すぎた。
 当然か当然で無いかなど関係無く。
 わっちはロレンスに語り続けている。
 一喜一憂しながら、激怒に憤怒を積み重ねながら、冷厳に横顔を焦がしながら。
 わっちが、生きていた。
 ロレンスの背に手を回す
 虚しさも悲しさも、愛しささえも、この両の手には囁かぬ。
 計算が、収まってくる。
 ゆっくり、おやすみ。
 どちらからとも無く、互いに囁きあって、怒りと計算は私の胸の中に浸みて還っていく。
 故郷の、ヨイツの森の、あの白銀の大地へ。
 孤独の闇の中へ。
 わっちゃあ、頑張った。
 よう頑張った。
 怒り、叫び、叱り付け、それらが健気さからは程遠いという意識と戦いながら、その戦いを笑いながら。
 わっちは、わっちとロレンスのために、頑張ったんじゃ。
 褒めてくりゃれとは口が裂けても尻尾が折れようとも、言わぬ。
 じゃが。
 いや。
 
 美味なるものを、ぬしの稼いだ銀によりをかけて、わっちにたらふく喰わせてくりゃれ。
 
 むくむくと、当たり前のように、肌のうちからなにかが沸いてくる。
 それはぺたりと肌に内側から張り付いて、薄っぺらに勇気と名乗りを上げておる。
 そんなもの、くだらぬ。
 ぴしゃりとそれを叩き落とし、わっちゃあちろりと舌なめずりも鮮やかに。
 口舌を肌に滑らせて、たおやかに目の前の男に語りかける。
 手練手管。
 そこにすべてが詰まっておる。
 わっちはそのわっちの手管の保証など、もう求めぬ。
 ぬしがどうあろうと、わっちゃあこの口と、この足と。
 そして、ぬしの腕に巻く、このわっちの腕を放しはせぬ。
 頼らずとも、頼っておる。
 頼っておっても、頼るという言葉なぞよういらぬ。
 ぬしとの旅は永遠ではありんせん。
 ぬしの胸に抱かれるままに居たくとも、それは一夜の宴の、その前の気付けにしか過ぎぬ。
 闇が目を剥く。
 わっちゃあひとりでも平気じゃよ。
 平気じゃからこそ、このロレンスという、大たわけの胸をこそばゆく突くことも出来るんじゃ。
 その指先にこそ・・・
 愛を、感じて。
 わっちゃあ、ぬしがいい。
 ぬしにしか、わっちの相手は務まらん。
 
 
 じゃから。
 ぬしの相手はわっちにしか務まらんと、ぬしに言わせてみとうなった。
 
 
 あのディアナとかいう小娘めが余計なことをしおったしの。
 わっちゃああれに、ぬしにヨイツの森は滅びてはいなかったと嘘を伝えてくれと言ったのじゃが、
 あれはそれを断りよった。
 ふん、わっちゃあぬしがヨイツは滅びていなかった、という事実を盾にして、わっちと旅を続けようとしても、
 それでも良いとすら思っとったんじゃ。
 じゃがあの小娘め、正体は年経りし巨大な鳥じゃが、あの小娘の昔の男、相手は無論人間じゃが、
 それとのことを考えて、余計な気を回しよった。
 浅はかな奴よ。
 人間とわっちらでは、生きている時間の長さが違う。
 御陰でわっちはもうロレンスに抱いてくりゃれなどと、言えようも無くなってしまったわ。
 冗談でロレンスをからかいながらも、それに孤独を感じずにはいられのうなってしまったわ。
 ロレンスの胸がこんなに暖かくてはの、洒落にならぬとはこのことよ。
 じゃが・・・
 だからこそ・・・・
 わっちはわっちの冗談に、手練手管に、ロレンスの胸を意地悪く突くこの指先こそに。
 わっちの想いを願いを、そしてわっちが生きるということのすべてを染み込ませたいと感じられるのよ。
 冗談だろうと本気だろうと関係無く。
 ロレンスの胸に埋めた、この人間のほっぺたが、ただ。
 暖かい。
 わっちがロレンスに、失われたわっちを愛おしんで欲しいのはただ。
 わっちがロレンスに、美味いものを奢らせようとするのはただ。
 この男の胸が、暖かいからじゃ。
 そしてわっちには。
 それで、充分だからじゃ。
 健気なだけのわっちなど、御免じゃ。
 ロレンスに守られて愛されて、駆けずり回られるだけのわっちなど嫌じゃ。
 わっちは賢狼じゃ。
 御免じゃからこそ、嫌じゃからこそ。
 
 
 
 わっちは、健気な雌を、よよよと演じるのでありんす。
 
 わっちは、ロレンスを振り回して駆けずり回らせるほどに、激しい怒りを魅せるのでありんす。
 
 
 
 なぜそれを演じるのか、なぜそれを魅せるのか、その背景にあるものを考えてみんす。
 わっちは神じゃ。
 麦束尻尾のホロウと語られた狼じゃ。
 ぬしより劣っているはずがなかろ?
 ぬしより愚かで弱いはずがなかろ?
 それをわっちの見栄と、わっちの強がりとぬしは見るのかや?
 たわけ。
 たわけがここにおる♪
 そうして再び考え詰める、ぬしのその真摯な顔に、ひとつ。
 下手な考え休むに似たり。
 雌の健気に頼っては、雄は終わりじゃ。
 雌の怒りに戦きあたふたと駆けずり回ってばかりでは、雄はヘタレの誹りを免れぬ。
 わっちゃあ、ぬしのわからぬことを、沢山沢山魅せてやりたいんじゃ。
 いや、ぬしと共に、この世界の豊穣をすべて手に入れていくためにこそ、そうしたいんじゃ。
 わっちには、沢山のわっちがおる。
 そのひとりひとりのわっちを、愛してくりゃれ♪
 たわけ。
 そうすれば、考えなくとも、わかるようになるんじゃよ。
 ひとりのわっちに拘っても、正しい答えは決して出ない、とな。
 
 ああ・・
 そうじゃ・・・・
 
 
 
 

『わっちは故郷に帰りたい。

 

 たとえ、無くなっていても。』

 
 
 
 
 
 
 
 不安で堪らぬ。
 不安で、不安で、じゃから、わっちは。
 不安のままに、やってみただけじゃ。
 色々、わからぬ。
 わからぬが、わからねばわからぬほどに、わかるままに動いとった。
 その結果どうなるかなど、わっちは知らぬ。
 知らぬが・・・
 なぜだか・・・
 あっさりと、賭けておった。
 勝つことが決まっておると、信じて疑わない。
 不安じゃ。
 不安じゃからこそ。
 最も不確かなことに、身を投じとった。
 その中で、わっちゃあ最善を尽くし続けた。
 これでよしと思うことなどひとつも無く、あのたわけが気付くまで延々と先が見えぬままに頑張った。
 恥も外聞も無いままに、恥と外聞もひとつも捨てずに。
 なんだか、楽しかった。
 これほどの絶望に支配され、今なお取り憑かれているというのに・・・
 わっちゃあいつのまにか、その絶望という名の孤独を抱き締めとった。
 わっちは壊れても、此処におる。
 どうしても消えはせんのじゃ。
 それは恐ろしゅうて、どうしようもなくて。
 じゃが。
 今は孤独は、怖くは無い。
 ただ。
 寂しい。
 
 寂しいから。
 
 わっちゃあ、あのたわけを、あの稀代の阿呆な雄を、どこまでも諦めずに求めることが出来るんじゃ。
 
 ロレンスの胸の向こうに、輝く闇がみえる。
 わっちゃあその闇も、連れていきとうなった。
 一緒に帰りんす、ヨイツの森へ。
 たとえ無くなっていても、わっちは此処におる。
 わっちが此処におる限り、わっちが此処にあり続けるということは絶えはせん。
 ロレンスの胸のぬくもりはもはや、わっちの孤独からの、孤独への逃げ場所では無くなっていた。
 わっちと孤独の闇を愛しく繋いでくりゃる、わっちの大切な・・・・・
 なんじゃろうな、わっちにとってロレンスとは。
 わっちもロレンスのことをよう言えぬ。
 
 じゃが。
 
 
 『このたわけ。』
 
 
 わっちの行動を読み、わっちと横に並び、そして胸を張るでも無く当然のように事を為す。
 わっちと軌跡が交錯したあの瞬間。
 わっちは初めて。
 深く。
 どうしようもなく。
 満足した。
 
 
 答え合わせは、宿に帰ってからじっくりとするから、覚悟しときんす。
 
 
 
 たわけ。
 わっちをよう見ておけ、ロレンス。
 端から見てどんなに自分勝手じゃろうと突拍子も無いことじゃろうと、わっちゃあわっちを信じとる。
 なにも迷っとりゃせんよ。
 
 
 
 
 『ぬしまで酔ったら、誰がわっちを介抱するんじゃ、このたわけ!』
 
 
 じゃから。
 ぬしも、ぬしを信じよ。
ぬしに出来ることは、たんとある。
優しくしてくりゃれ♪
 
そして
それでも
 ぬしの信じられる神は、ほれ。
 
 

ここにこうしておるわいな♪

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 
 
 『ああ、ぶっ飛ばしたい。
 
  思いっ切り殴りたいよ、自分をな。』  byロレンス
 
 
 
 
 正直、やられたと思った。
 
 
 
 『商人は計画を立て予測をし、事実と照らし合わせて商売をする。
  あれを売ればこうなり、これを買えばああなる。そういった仮説も大事だ。
 
  正直、仮説というのはいくらでも立てる事が出来る。
 
  だから、あまりにも立て過ぎるとすぐに迷ってしまう。
  どんな商売でも危険に満ちているように思えてしまう。
  そこで迷わないように、ひとつの道標を持っておく。
  それが商人に必要な、唯一のものだ。
  その道標が信頼出来るものなら、どんな突拍子も無いものも、信じるべき、なのかもしれない。』
 
 
 このロレンスの台詞に、今回の話、いえ、今回の一連のエピソードが集約されていました。
 ああ、気付かなんだ、ああほんとに気付かなんだ。 ←地団駄を踏みながら
 恥ずかしげも無くいえば、ディアナのところに黄鉄鋼を買い付けに行ったのは、アマーティでは無くホロ
 だということはわかっていました。
 ディアナの態度からすればそうでしたし、なによりアマーティに知恵を授けて行かせるよりも、ホロが誰に
 も秘密で行った方が、少なくともロレンス的には予想のつかない脅威になり得る、と思っていましたから。
 一体ホロは、ロレンスにどういった「試練」を与えてくるのか、それこそドキドキしていました。
 そして、それを如何にロレンスが乗り越え、そしてホロがそのロレンスから安息を得られるのかを。
 そしてなにより、そのホロが安息を元手にして、一体どれほどの罵声をロレンスに与え、ロレンスの
 未だ足りぬところのものの可能性を広げてくれるかを、期待していました。
 
 ・・・・。
 
 この。
 たわけがっ!
 
 はい。
 しばらくロレンス的に考え感じてばかりで書いていたので、すっかり馬鹿になっていました、私。
 というより、なんというより。
 ホロはもう、とっくに先に行こうとしていたのですね。
 第一期で培ってきたものの補強とか、その培ってきたものを元手にして、自らの孤独と向き合うとか。
 なんだかもう、そういうの全部を、一気にロレンスの胸に埋めた頭の中で蠢き、そして。
 終わっていたことでした。
 完全に、遅れを取ってしまいました、ホロに。
 悔しゅうて、悔しゅうて、涙で溶けてしまいそうでありんす。 (涙ながらに)
 ホロはただただ、最初から自分の中のものをすべて背負っていたのです。
 そしてやるべきことをやり、そしてロレンスにもまたそれを求め続けていた。
 ロレンスは、そして私はその事に気が付かずに、最初から自分の立てた言葉に囚われ、そのホロをまず
 探し出すことをしなかった。
 自らの仮説を証明することにしか、頭がいかなかったのですね。
 仮説は、仮説でしか無いのに。
 仮説は、いくらでも立てられるのに。
 仮説に囚われたロレンスと私が、いくら前提自体が間違っている仮説の論理を高めたとて、それは決し
 てホロの歩む道と交差することは無かったのです。
 ああもう、ああもう!
 
 とまぁ、すっかり動揺しているヘタレな私ですけれど、えっと、どうしよう。 (ぉぃ)
 正直、もう書くこと無いです。
 ロレンスの仮説と道標の話を、ホロで体現して書いてみた本文のままです。
 ・・・・いや、正確にいうと、ホロのままに書いていたら、そのロレンスの話と同じじゃんということに、後から
 気付いただけなのですけれど。
 というか、ロレンスの話そのものが、今私が言ったことそのものを表していたり。
 さらには、ロレンスとそして私が今エピソードに関してやってきたことの、その全てを表していたりもする。
 諦める訳無いじゃん。
 ホロの貪欲さと、ロレンスの真摯な誠実さの根っこにあるものは、全く同じもの。
 ですからある意味、ホロを解題するためにロレンスで書いても、結果だけは実は同じところに行き着く
 のは、至極当然のことだったとも言えます。
 ホロを捕らえているのは、孤独。
 そして、ロレンスを捕らえているのは、なんのことは無い、リアリティのある仮説、つまり現実です。
 ロレンスに見えている「現実」こそ、仮説にしか過ぎない。
 その仮説に様々な想いを好き勝手にぶち込むからこそ、そこにリアリティというどうしようも無い、かつ
 手前勝手な「しかたなさ」が生まれてくるだけで、それこそその「現実」を共有していない者、つまり
 紛れも無い目の前のホロには全く通じなくて、当然。
 仮説は仮説にしか過ぎなく、「現実」は「現実」にしか過ぎない。
 そして、仮説はいくらでも立てられるがゆえに、その頼りなさに怯え、たったひとつの仮説に固執して、
 その仮説を頼り甲斐のある、そう、リアリティの感じられる「現実」というものにして、自らをそこに閉じ込
 めてしまう。
 
 でもじゃあ。
 ロレンスが、私が、頼るべき、信ずべきはその「現実」でいいのか。
 
 ぬし、その「現実」とやらがどうやって作られてきたかを、考えてみんす。
 ロレンスは延々と、そのことを考えてきました。
 自らの欺瞞と、怠惰と、逃避の結晶として、その強靱な仮説にしがみつく、その自分を感じてきました。
 その仮説は、いくらでも仮説が立てられることの不安、頼りなさに怯えるがゆえにこそ確立された、
 強靱な「現実」にしか過ぎません。
 ですから、新たな仮説が立てられる余地が見つかろうと、その「現実」の椅子に座ったひとつの仮説を
 守るために、それらは戯言として、あり得ないものとして処理されてしまう。
 そういう意味で、ロレンスはそのことを理解して、新しい仮説を立てる事に成功しながら、今度はその
 新しく立てた仮説にこそしがみつき囚われ、その仮説自体が本当に正しいものであるかに気が付け
 無かったのです。
 私も、そうでした。 試練論に完全にやられてました。 (涙)
 そりゃホロも怒るわ。
 わっちの苦心を台無しにしおって!
 そこで、ホロにいく訳です。
 
 ホロはなんだったんでしょ?
 ホロが怒るのはどうしてか、すっかりやられてるロレンス脳で考えても、これは根源的に無理です。
 ロレンスはまだまだです。
 なぜなら、ロレンスは新しい仮説をさらにもうひとつ立てて、それがたまたま一致して、少なくともホロが
 その腕に手を回してくれて、おそるおそるホロに添削して貰って、ホロに合格点を貰ったからこその、
 その仮説の「正しさ」にこそ、頼っているからです。
 んー。
 私は今回はやっぱり、ホロでした。
 なんというか、うーん、結果はホロの求めたものと確かに同じなんだけど、うーん、なんか足りない。
 というより、これで満足しなければいけない、という感覚がどうしても抜けない。
 そのホロに、なによりそのホロのままに書けてしまいました。
 ホロがロレンスの解答をイライラしながら聞いてたのは、その解答自体は合っているけれど、その解答の
 出し方が、あくまでロレンスの仮説を証明するという形でしか行われていないのを、ぐずぐずと聞かされて
 いたからです。
 このたわけっ! 
 ぬしが信じとるのはなんじゃ!
 ぬしはわっちのなんじゃ!
 ですよね。
 ロレンスは自分が立てた新しいその答えは合ってる仮説が無ければ、なにも出来ないんですもん。
 そんなもの無くたって。
 
 ロレンスが、信ずるホロのままに感じれば、あんな言い訳じみた説明することなんて無いはずなのに。
 
 ロレンスが打ち立てた強靱な「現実」というのは、ロレンスの様々な想いなりなんなり、それをそのまま
 欺瞞的に怠惰的に逃避的に好き放題詰め込んで出来ているもの。
 それをロレンスは今まで信じて生きてきました。
 『君は神を信じるか?』 byロレンス
 少なくとも、自分が信じてからそう言いんす、このたわけっ! (ホロ風にw)
 ロレンスが信ずべきは、ホロ。
 ロレンスがその信ずべきホロに詰め込むは、ホロへの想いとそしてホロとのすべて。
 そしてなによりそれを、真摯に誠実に、どこまでも貪欲に諦めずにやり続けること。
 それが、その信ずべき神としてのホロを、圧倒的に強靱に、そしてなにより豊穣なものへと成していく。
 そこに私は、そしてホロもまた、狼神としての賢狼の姿を見ているのです。
 だから、ホロは、ホロ的な私は頑張れるんです。
 そう思えば思うほど、感じれば感じるほどに。
 イライラ、いらいら。
 ヘタレなロレンスが、腰を抜かしながら顔色を窺いながら、下手な考えを並べ立てるのが気に入らない。
 けど。
 それで我慢すべきかのとか、それで満足すべきかのという、そういう後ろ向きな「諦め」と、その「諦め」
 にこそ負けないという意味での「諦めない」の言葉しか無い、その一番惨めで小さい自分の頭を
 掻きながら。
 
 
 その満ち足り無さを含めて。
 そのヘタレな雄のロレンスを含めて。
 
 ホロは、大いに満足するのです。
 
 捨てるものなど、妥協するものなど、諦めるものなど、無い。
 だって、楽しいもの。
 イライラして、そうしてロレンスの前でイライラ出来る自分が、楽しいんだもん。
 真剣に、一点の曇りも無い紅い瞳で以て問い詰められて、それでびくつく不甲斐無い男の前で、
 それでもこうして何度でもふんぞり返って説教を並べ続けられる、それが楽しいんだもん。
 そしてなにより。
 答えすら頓珍漢なズレっぷりだったものが、ぴったりと一致するようになった、その些細な変化こそが。
 ちょっぴり、嬉しい。
 だから、容赦なく。
 ロレンスを小刻みにこそ、試す。
 嘘だろうと何だろうと、大きく暖かく嘯いてみせよ!
 
 『俺はお前と旅を続けたい。』
 
 感動? 感激?
 嬉しい? 楽しい?
 そんなものはありんせん。
 満ち足り無さは途切れぬ。
 安心などよう出来ぬ。
 答えだけ合っているだけの言葉なら、思い切り噛み付いてくりゃる。
 その言葉がたとえ好きでも、正直に噛み付いてくりゃる。
 でもそうして。
 ぬしがそれでも、ヘタレでもたわけでも阿呆でも。
 何度わっちを失望させても絶望させても。
 それでも。
 たわけなその言葉に、ぬしの想いを込めて言ってくりゃるのなら。
 
 わっちは何度でも、いつまでも諦めずに、ぬしに想いを込めて、噛み付こうぞ。
 
 なんていうか。
 そうホロが、そして私もホロほどでは無いけれどそれに類することが出来るのは。
 可能性を、信じられるから。
 いつかロレンスが、自らの仮説に囚われずに、しっかりと自分と向き合ってくれるかも、ってね。
 そして。
 その可能性が開かれようとそうでなかろうと、それとはなんの関係も無く。
 ホロが、私が、此処にあることの幸福を、祭の夜を焦がす紅い星空に、想いました。
 そして、今回最も私が心震えるのは、そのホロでした。
 宿で答え合わせを終え、ロレンスの胸に顔を埋め、そして。
 自らの孤独、此処にあるということのどうしようも無さを見据えながら。
 その闇の中にこそ、真っ赤に燃え盛る、此処にいるということのぬくもりを見つめていく。
 狼の瞳に映るは、紅い闇。
 そのぬくもりが、その孤独のどうしようも無さの中にいる自分を支えてくれることなど、実は無い。
 けれど、それが自分を支えてどこまでも旅を続けさせてくれると。
 そう信じることでなんとかなるかもしれない、いえ。
 なんとかするしかないと、ひとつ深い決意をその紅い瞳に湛えていく、そのホロの哀しみにこそでした。
 それでも、隣にロレンスがいれば。
 ロレンスに紅い決意の笑顔を魅せられる、そのホロが、私は愛しくて堪らないのでした。
 今回ロレンス自身は、ホロの瞳の紅さ、その辺りのホロが全然見えていなかったので、駄目駄目。 (笑)
 逆にいえば、ホロはそうして自分の決意の笑顔の中身など、慮られたくは無いほど誇り高い狼なの
 ですし、今回のロレンスのようにその笑顔の決意だけを受け取って認めて貰うのは、賢狼冥利に尽きる
 訳ですけど、でもひとりのホロとしてはそれはどうしても寂しいし哀しいし、けど。
 その寂しさと哀しさも含めて、ロレンスとこうしたやりとりを続けられることこそに。
 きっとホロは、その自分の生き場所をみつけたのでしょうね。
 そのホロの生活を諦めることなど、ホロが神たる賢狼で無くならない限り、無いですよね、うん。
 そして、ホロが此処にある中で此処にいるを続ける限り。
 その狼の瞳の紅は深く輝き続けていくのでしょう。
 
 そして、今回の最萌えポイントは、はい、ずばり。
 市場にて黄鉄鋼を並べてどんと置き、ロレンスに怒りを込めて「このたわけ。」と呟き、そしてそのまま
 ぐいとロレンスに腕を巻き付けた、そのホロさんの勇姿にで御座います。 
 というかロレンスさんもよくホロさんを離しませんでした、グッジョブw
 ちなみに次点は無論、可憐で謎めいた美少女ホロへの愛を、ロレンスの前で叫んだ少年ラントです。
 ・・・・この子育て甲斐があるかも。 (ぇぇ)
 
 
 という辺りで、今回は終わりにさせて頂きましょう。
 久しぶりにホロ万歳なお話でしたので、いつにも増して興奮するままにずらずらと書いてしまいました。
 おまけにまだ全然書き足りないので、始末に負えません。(笑)
 大体、今回は萌えすぎたw なんというか青天の霹靂的な幕切れでしたけれど、考えてみたらこれ以上
 の深みのある気持ち良い終わり方は無い感じでしたし。
 私はその気持ち良さを指して萌えと呼んでおります♪ていうかもう本当に、ぴっちりハマりすぎな最良の
 終わり方でした。
 改めて、この作品の無尽大な凄みを感じることが出来ました、うーん、なんか震えが止まりません。
 あとさりげにディアナねえさんが人外だったとか、あまりにさりげなさすぎてまだ実感無いんですけど。 (笑)
 これまたよく考えたら、ホロを除けば人外キャラが出てきたのって初ですよね。
 
 
 それでは、また次回お会い致しましょう。
 それまで良い旅を♪
 
 そして、狼万歳。
 そして。
 最後に。
 
 
 『これを言ったら、ロレンスさんにぶっ飛ばされると言われました。
  でも言います!
 
  私はひと目みてから、ホロさんの事が好きですっ!!』 byラント
 
 
 
 ホロ万歳♪ ←満面の笑みで
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                              ◆ 『』内文章、アニメ狼と香辛料U」より引用 ◆
 
 
 

 

-- 090812--                    

 

         

                              ■■ 理想と現実と今日 ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 

ごきげんよう  こんにちわ

 
 
 
 
 
 
 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 
 
 
 
 『なにがあったか知らないけれど、何があってもあなたは全力で迷いながら、
  自分の願いを叶えればいいわ。』
                           by xxxHOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル
 
 
 
 
 
 
 
 夏が暑い。
 空は青くて、だけど狭いような、広いような。
 青だけが際立っているようで、青などどこにも無いような。
 いや、青という色は見えるだけで、無いのだけれど。
 其処に青が見えている。
 目を背けようが背けまいが、空が青くて、青い空があって。
 取り敢えずそれが青に見えていることで、それが空だと思っている。
 ではもし、そこに赤があったら?
 それを空だと思えるだろうか。
 それが空だと思える前に。
 それでもそれが空であることは変わり無いと言う前に。
 それはただ、空だった。
 空があろうが無かろうが、それは空だった。
 広いような狭いような、あるようなないような。
 私の紅い瞳の中にしか、それがないような紅いような。
 気付けばそこに、空がいた。
 渦を巻きながら、悪魔が犇めきながら、紅く爛れたり青く抜けたり。
 なんだか知らないけれど、空はそこにいた。
 空とはかくあるべしという文字を読みながら、空とはもともとこういうものだという話を聞きながら。
 空はこうであってはいけないこれは正すべき空であると、書きながら。
 その空を見上げながら、今日もゆっくりと生きている。
 
 
 大沢マリアが好き。
 エリオット・ナイトレイが好き。
 だけど、化町婆娑羅は好きじゃ無い。
 けれど、積極的に嫌いと言う勇気は持てなくて。
 嫌いという言葉は、大嫌いという言葉のために、温存されている。
 私は、私が大嫌い。
 化町婆娑羅は私にとても似ている。
 同じと言ってもいい。
 私は私であるために、嫌いという言葉を、私は私が大嫌いと言うために、取ってある。
 私は私が大嫌い。
 だから、私は私で、化町婆娑羅は化町婆娑羅。
 私は私が大嫌い。
 私はそして、化町婆娑羅は、好きじゃ無い。
 それでやっと、私と同じ化町婆娑羅を、化町婆娑羅と同じ私を語る勇気が持てる。
 ここまで屁理屈でまとめないと。
 私は。
 
 てめえを生きろや。
 お前がお前を背負っていないというだけの話だけだろうが、馬鹿野郎。
 自分の体質を治したいだと? こんな体で生まれてきたくなかっただと?
 おめでたいと言うには、あと百回は生まれ変わらないとな。
 馬鹿野郎、このゲス野郎。
 巫山戯るんじゃねぇよ、お前のそれは立派な才能だろうが。
 それを才能にするのはお前じゃねぇかよって言ってんだよ、馬鹿。
 なに人任せにしてんだよ。
 ほんとにお前の体質を治したいと思うなら、自分でやれよ。
 なにが願いだ、願いを叶えてくれる店だ。
 あの店主に尽くして治して貰うだと?
 お前のそれは、お前にしか無いものだ。
 それから逃げる気か?
 逃げられはしない。
 なぜならそれが、お前自身だからだ。
 お前という世界だからだ。
 お前から逃げるな。
 世界から逃げるな。
 お前がお前の体質を治そうと思っていること自体、お前の逃避をまっすぐに表しているだろうが、馬鹿。
 そして化町婆娑羅は延々と、絵解きをしていく。
 お前という人間はこういう奴で、お前がしていることはこういうことだ、と。
 いちいちごもっとも。
 その化町婆娑羅の説法じみた舌鋒には、拍手喝采雨あられ。
 私がもしそうして化町婆娑羅に切り刻まれたとしたなら、私はとても喜ぶだろう。
 化町婆娑羅の言い方なり、こちらの事情を一切斟酌せずに正論を突き刺してくること自体を、
 好きじゃ無いと言う精神は、私には無い。
 私にとって、化町婆娑羅の言葉は宝だ。
 自分でもわかっているようでわかっていない、そしてその中に紛れて消えてしまいそうな、わかっていない
 ことをわかっていると言い切ろうとする、自らの怠惰さの発見のために、化町婆娑羅の舌鋒はなにより
 有効なものだ。
 私は。
 化町婆娑羅の言葉が好きだ。
 だが私は、化町婆娑羅は好きじゃ無い。
 
 化町婆娑羅自身が、怠惰だからだ。
 
 化町婆娑羅はしつこい。
 化町婆娑羅は未練がましい。
 それを化町婆娑羅自身は、その胸のうちで相手のためという言葉で射止めている。
 無論その言葉には唾を吐きかけて、優しさを免罪符にする奴は人でなしだと言い、隠蔽する。
 化町婆娑羅はしつこい。
 一旦誘いを断られて、それですっきりと別れた潔さを魅せたかと思えば。
 最後にそっと一言、背後に忍び寄り。
 お前は絶対にお前から逃げられない、と脅迫の一手を刻む。
 好きじゃ無い。
 私は私が大嫌い。
 私は化町婆娑羅が好きじゃ無い。
 化町婆娑羅の言葉が、化町婆娑羅自身には全く効いていない。
 いや。
 或いは、自分自身の言葉に囚われ、言葉の奴隷になっている事に気付かない。
 化町婆娑羅は確かに自分を背負っているのかもしれないが、自分を背負うことだけしかやってはいない。
 化町婆娑羅は。
 その自らの言葉無しには、成立し得ない。
 空はこんなに、青いのに。
 空はこんなに今日も、そこにいるのに。
 私は私が大嫌い。
 だから私は、化町婆娑羅と同じタイプの人間のことが好きじゃ無い。
 同族嫌悪などと絶対に言いたくないほどに、好きじゃ無い。
 化町婆娑羅は言葉の価値を貶めている。
 言葉は道具。
 言葉は主人じゃ無い。
 言葉は決して、主体じゃ、無い。
 化町婆娑羅は、化町婆娑羅と良く似た私は。
 言葉に操られ、言葉に支配され、そして。
 言葉に、身を委ねてしまっている。
 なにかが違う。
 感じる。
 そう、化町婆娑羅を好きじゃ無いと思うのは、化町婆娑羅の言い方でも無く、こちらの事情を一切
 斟酌せずに正論を突き刺してくること自体にその理由がある訳でも無い。
 私が化町婆娑羅を好きじゃ無いというのは。
 化町婆娑羅が、言葉の奴隷だからだ。
 私には、化町婆娑羅の姿が見えなかった。
 私には、化町婆娑羅を探す私の姿が見えなかった。
 そして。
 化町婆娑羅がそうして自分の姿を言葉で隠そうとしている、その姿はよく見えた。
 私がそうしてその化町婆娑羅の姿で私を隠そうとしている、その姿がよく見えた。
 
 私は私が大嫌い。
 私はそうして、私の大嫌いな私を見つめながら。
 その大嫌いな私の奏でる言葉を操りながら。
 今日を、こうして生きている。
 私はその今日を生きる私が。
 大好きです。
 
 だから・・・・・
 
 
 
 私は大沢マリアが好き。
 けれど私は大沢マリアのファンじゃ無い。
 私は大沢マリアが好き。
 それは、大沢マリアが、私に私を生きさせてくれるからだ。
 私は大沢マリアにも、大沢マリアの言葉にも頼らない。
 大沢マリアのせいにもしなければ、大沢マリアの言葉と存在の是非を論じたりしない。
 私は大沢マリアと出会った。
 大沢マリアによって、深く、深く、引きずり出された、私の中の私がいた。
 大沢マリアは、切っ掛けにしか過ぎ無い。
 大沢マリアが持っている言葉は、私も私の奥深くに持っていた。
 大沢マリアは必死だ。
 大沢マリアは懸命だ。
 大沢マリアはそして。
 本気だ。
 負けられない。
 大沢マリアは常に不安だ。
 自らのその言葉が、相手の事情を斟酌出来ていないもので、現実を知らない理想論だということに、
 常に怯えている。
 負けられない。
 私の中には常に、その大沢マリアの怯えに頼ろうとする私がいる。
 大沢マリアを駆逐しようとする私がいる。
 でもそれが。
 その情けない私こそが。
 私の今日を作ってきたとは、思わない。
 大沢マリアの言葉に抱かれて、それに導かれることの中にこそ、その私の今日があるとも思わない。
 大沢マリアによって、動かされる。
 ゆんゆんは、動かされた。
 その動き出したゆんゆんと共に、今日はある。
 大沢マリアの言葉を信じて大沢マリアと共に歩もうとも、それ自体はなにも決めはしない。
 大沢マリアの言葉を否定して大沢マリアを無視しようとも、それ自体はなにも決めはしない。
 ゆんゆんの今日は、日常は、変わっても消えることは無い。
 ゆんゆんも、私も、大沢マリアになる必要は無い。
 ゆんゆんも、私も、大沢マリアによって動かされた、その自分自身と共にあるだけ。
 現実にひれ伏し、鬱々と生きようとも、大沢マリアと出会い、大沢マリアに感応し、大沢マリアの言葉の
 正しさを知っている。
 一歩を踏みだそうと、踏み出さなかろうと、関係無い。
 
 そう。
 カナンは、それを知った。
 水の中で。
 日常無き、今日無き自分の死を感じていくカナン。
 ああ。
 私は私なんだな。
 マリア。
 
 私はなんだかんだと理想論を言う。
 理想か現実かでは無く、ただ現実の中で如何に理想を叶えていくのか、そのためにこそ粘り強く末永く
 注力出来るようになればいいと言う。
 そのためにこそ、現実的な力を手に入れよと説く。 現実を知れと語る。
 その理想が現実的に達成されるのは、百年先でも二百年先でも、全然問題無い。
 私にとっての、私が愛すべき今日というのは。
 生きるために必死に現実にしがみつきながらも、その自分を蔑みながらも、理想を捨てず、理想を理想
 だけに貶めず、じっくりとゆっくりと現実に換えていくその自分を誇りに思いながら。
 しっかりと、理想と現実に満ち満ちた今日を生きること、そのものだったりする。
 べつにカナンは人を殺してもいいと思う。
 そしてそれを責め苛んだ挙げ句に、憎しみに走ってしまってもいいと思う。
 その今いいと思ったことを、全霊で否定してもいいと思う。
 それでも。
 カナンは、カナンだよ。
 私は大沢マリアにも、大沢マリアの言葉にも絶大の信頼を寄せる。
 大沢マリアのせいにもたっぷりとして、大沢マリアの言葉と存在の是非を精一杯論じたりもする。
 私が、私だから。
 大沢マリアが、そこにいるから。
 私と大沢マリアとゆんゆんとカナンが、今日いま此処にいるから。
 でも同時に。
 私は大沢マリアが好き。
 不安に染まる、そのマリアが好き。
 弱くて情けなくてなにも知らなくて、今自分が言ったこととすべて矛盾するようなことも言ってしまったり、
 なにも出来なくなってしまったり。
 だけど。
 一晩寝たら、また今日が来たら。
 なんとなく、段々、やがてはっきりと、マリアはまたマリアの言葉を使っていく。
 必死に考えて、感じて、日々マリアは生きていく。
 そのマリアに、私も、ゆんゆんも、カナンも。
 負けてらんないよ。
 そして。
 
 マリアは、私達の、大切な友達。
 
 こんないい奴、ほっとける訳無いじゃん。
 
 私には知らないことが沢山ある。
 大沢マリアの知らないことを知っている私だからこそ、大沢マリアしか知らないことがあることを知っている。
 カナンもゆんゆんも、それをみてる。
 大沢マリアに引きずり出された自分のままに強く生きる覚悟が決まりながら。
 そうして、目の前には、大沢マリアという、希望がいる。
 化町婆娑羅には、それが無い。
 自らの覚悟にしか生き無いのならば、それは自分の中にしか世界が存在しないのと同じこと。
 世界は私達の外にこそ、無限に広がっている。
 だから。
 化町婆娑羅と良く似た私の他に、大沢マリアと良く似た私もまた。
 どうしようも無く、この私の中にいることを感じていく。
 ほっとける訳無いじゃん。
 カナンを、ゆんゆんを、ほっとける訳無いじゃん。
 感じていく。
 ひとりひとり、そのひとりひとりの今日の中に生きている、その人の空の色のままに。
 感じていく。
 その人にとってのその空の色の感触と。
 そしてなにより。
 その空の色を抱き締めた、私自身の感触を。
 たとえその感触をすべて失ってしまったとしても。
 それでも私は今、今日ここに、いる。
 今日の私。
 日常の私。
 私という言葉無くとも、既に圧倒的にそこにいる世界。
 私は道具。
 私の言葉のままに。
 そういう意味で。
 エリオット・ナイトレイには惚れざるを得ない。
 散々化町婆娑羅的に力強い言葉で切り裂いてくれながら、その言葉に反抗してしまいつつ、弱々しい
 言葉で、化町婆娑羅的な力強い言葉に切り裂かれたその自分の言葉のままに。
 心情を吐露出来たオズに、感応出来ない私じゃ無い。
 そうか、と、綺麗に言い切れる、そのエリオット様に惚れない私じゃ無い。
 
 頑張るか、頑張らないか、じゃ無い。
 頑張れる余地を、見つけられるか見つけられないか、それが大切なのよ。
 
 
 
 
 
 
 たぶん。 (お約束)
 
 
 
 
 
 

 

-- 090808--                    

 

         

                                  ■■ 狼と戦う男 ■■

     
 
 
 
 
 『失礼を承知で参りました。 白い羽を仕舞う箱を買うべく。』
 

                              〜狼と香辛料U・第五話・ロレンスの言葉より〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

空に満ちる星が

常に俺を包んでいた

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 和やかな風に溶け入るばかり。
 酒場の騒擾と闇夜の喧噪が溶け合い、星空の静寂にひびを入れていく。
 逆落としに転げ落ちるままに、足の骨がすべて折れるままに、滑り落ちていく。
 意味などは無かった。
 ただ考えていた。
 考えるままに、訳などわからぬままに、泥沼の道を歩いていた。
 叶えたかった。
 願いを。
 けれど、その願いを支えていたのは、俺の胸のうちにあるものだった。
 それはずっと変わらない、そして変わるということを知らない代物だった。
 ぐずぐずに溶けて、解けて、そのまま止まってしまいたくなるほどに、俺には・・・
 俺にはなにも・・・無かった・・・・
 それなのに・・・
 俺にしがみつく闇の手触りは、決して離れていく事は無かった。
 わからない。
 なにも無い。
 そう叫ぶ俺以上に、その俺の叫びに震える、その真っ青な夜空の星々があった。
 怒りではち切れそうになる。
 消えろ。
 この世丸ごと消えてしまえと。
 けれど同時に、その広がる世界のままに、圧縮され押し込められて、俺が今此処にいる気がする。
 その俺を押さえつけている、俺の輪郭そのものの粘り強さが、なぜか、俺の胸のうちのなにかのしぶとさと
 繋がっている気がした。
 それこそを断ち切りたい。
 すべて消えてしまえ。
 すべて消えてしまえと唱える俺ごと消えてしまえ。
 そのためにこそ、辛辣な俺を切り裂く言葉があった。
 どこまでも饒舌に、それは月明かりに照らされるままに、俺の胸の水底を干し上げようとしていった。
 だが。
 その俺を責め俺を砕くいかなる言説も、それがたとえどんなに磨かれ研ぎ澄まされた鋭利で聡明な
 言葉であろうとも。
 それが本当に、水底に穴を空けようとも。
 そこから吸い落ち、枯れるのは、ただその水底に息づく命達ばかりだった。
 俺は幾度となく、その命達を凄惨に殺してきた。
 無惨に、冷酷に、果てしなく殺してきた。
 残虐に、一糸も纏わぬ死を与えてきた。
 荘厳に作り笑いを浮かべて、非道の限りを尽くしてきた。
 何度、俺の胸の水底の眷属達は、滅びてきたことか。
 幾度俺は、彼らに絶滅の二文字を刻んできたことか。
 その事を大仰に懺悔し、高らかに勝利の宣言を吐いてきた。
 だが。
 俺の胸のうちに広がる、その白銀に犇めく涙が、枯れることは無かった。
 水底は、砕け散ることが無かった。
 穴が空こうが、其処に住まうもの達が絶えようと滅びようと。
 俺の胸の水底は、決して消えなかった。
 轟々と、満々と、其処には真っ青な世界が広がっていた。
 その満ちる水の囁き達が、絶えず俺の胸を縛り付け、そっと瞳を夜空へと向けさせる。
 その先には、ひっそりと輝く星がいた。
 俺の胸の水底に生きていた、あの命達が、其処に生きていた。
 その命達は、俺の水底の世界と繋がっている。
 点々と、新たな息吹達が、俺の白銀の涙に迎えられていく。
 いる。
 常にその小さな命達が、俺の胸の中で息づいている。
 滅びては生まれ、絶えては現れ、どれほどの間を開けようとも、その生命の芽吹きは止まらなかった。
 その事自体は。
 たとえようもなく。
 嬉しいのに。
 俺は、死にたくなる。
 そこに、俺を断罪する、いかなる言葉も生存は許されない。
 俺を俺の言葉で殺せるほど、俺の輪郭は甘くは無かった。
 死にたい。
 殺せないのなら、死んでしまいたい。
 幾度水底の住人を虐殺しようとも、それを誇らしげに笑える自らのおぞましさのままに死ぬことなど。
 出来なかった。
 全く、そよとも出来なかった。
 死にたい。
 嬉しいのに、死ねないから。
 死にたい。
 消えたい。
 消えてしまえ。
 言葉で消せぬのなら。
 俺が消えることを認めてくれる、その言葉が欲しい。
 俺が感じた嬉しさが、その言葉の妨げになるのなら、俺はもう水底の住人を殺さない。
 これ以上、再生を、絶望を、見たくない。
 いるならいるがいい、俺はもはやお前達を殺しさえしない。
 星空を決して見上げず、俺はただこの夜道にしがみつき、その道を照らす松明にこそ。
 俺の言葉をみよう。
 俺を守り俺を救う、俺を死へと導く安楽の言葉に身を委ねよう。
 それこそが、俺の言葉だ。
 俺の、ものだ。
 死にたい。
 消えたい。
 死にたい。
 消えたい。
 沸々と凍える手をさすりながら、その言葉で暖めていく。
 そうして、そういう形で。
 俺の輪郭は、俺をその中に閉じ込めていく。
 死にたい。
 消えたい。
 そう呟くことこそが、俺をより死にたいと消えたいと叫ばせていく。
 そうして俺は、生きていた。
 生きながらにして生きていた。
 その俺に授けられる言葉は、その俺を生きる言葉ばかりだった。
 その言葉の数々を元手にして、俺はその俺の生きる言葉を作り続けていった。
 それでも星は輝いている。
 それでも俺の水底は囁いている。
 妥協など初めから無かった。
 俺は初めからずっと、この俺の生の戦いの中にいた。
 けれど。
 いつしか俺は、俺の生の戦いの中にいるのでは無く。
 その俺の生とこその戦いの中にいる、その存在を知った。
 それは紛れも無く、俺の胸の中の水底にいた。
 俺はそれを、殺すともなく、無視して消そうとした。
 けれどそいつは、そいつが生きている時間の分だけ、俺の殺意を高まらせていった。
 こいつは果たして再生したものなのか、もしかしてこいつは俺の虐殺を生き延びて、ずっと・・・
 こいつだけは、殺さなければ。
 少しずつ膨らんでいく、俺の水底の中でのそいつの息吹の恐ろしさが、俺に戦慄を呼んでいった。
 俺には、俺の言葉があるんだ。
 この俺の言葉は、俺のものだ。
 探り当て掴んだ俺の大切な言葉はただ、その水底の息吹を無視せよと命じてくる。
 俺はそうした。
 俺の言葉のために。
 俺のもののために。
 ひとりは、いやだ。
 だから俺は俺の言葉に従うままに、恐怖に耐え、殺意を嘲りに換え、俺の胸の水底に満ちる、その
 愉快で爽快で、実に楽しそうに遊ぶ命を、言葉を以て無視していった。
 くだらない。
 どうでもいいものだ。
 そう叫ぶために、その叫び声には一層に力が溜まっていく。
 それを見抜いた俺は、その力を抜くためにこそ、叫ぶことすらやめた。
 無視するともなく、無視した。
 いるなら、いるがいい。
 消そうとすればするほど消えなくなるのなら、消そうとしなければいい。
 現状維持で充分だ、今の俺には、その現状を守ってくれる、俺の言葉があるのだから。
 ひとりは、いやだ。
 俺の言葉がある限り。
 俺は、独りでも生きられる。
 冷淡に、嗤っている。
 嗤われて、いた。
 驚いて振り向くと、そこには銀色に輝く裸身のままに、麦束色の尾と亜麻色の耳を靡かせた、
 荘厳にして甘く笑う、ひとりの息吹が立っていた。
 それは、あっさりと噛み砕くようにして、俺を笑った。
 このたわけ。
 ひとりはいやじゃ、それがぬしのすべてであろう。
 ぬしよ。
 ぬしにはこの、目の前のわっちのこの美しい姿しか、無いのかや?
 ぬしを見つめてみよ。
 ぬしの、その胸に手を潜めて、ゆっくりと浸してみよ。
 どうじゃ?
 聴こえるか?
 愛の囁きが、聞こえはせぬか?
 たわけ。
 ぬしの胸の中の、得体の知れぬ化け物共がぬしに愛を捧げている訳ではありんせん。
 ぬし。
 気付かなんだか?
 いや。
 ぬし。
 ずっと、ずっと。
 気付かなんだのじゃな?
 囁いとるのは。
 愛しいと、愛していると。
 そうどうしようも無く叫んでいる、その逞しい声は。
 ぬしの、声ではないか。
 ぬしが愛しているものは、ぬしの中に、無限に広がっておる。
 ぬしはただ、その存在を感じながら、それと出会えぬ不安の、その孤独感にこそ耐えられずに、独りの
 世界に逃げ込んだんじゃ。
 ぬしよ。
 ぬしを知れ。
 ぬしを愛せよ。
 それに応えてくりゃる、ぬしの体は、必ずある。
 わっちゃあ、わっちが好きじゃ。
 この尾も、耳も、髪も、全部好きじゃ。
 人間の体も、狼の体も全部好きじゃ。
 小娘の言葉も、賢狼の言葉も全部好きじゃ。
 ひとつひとつ、わっちゃあそれを、丹念に丁寧に感じとる。
 感じるためにこそ、わっちはあらゆる手を尽くす。
 わっちの体の愛しさこそが、わっちをさらに美しく輝かせていくのじゃからな。
 俺は叫ぶ。
 自分を美しく輝かせるためにこそ、自分の体を愛するというのか。
 そんな事が出来るはずも・・・・・いや、そうか、そうした愚かな事をする自分ならそれを理由に断罪出来
 るという訳なん・・・
 この、たわけっ!
 商人が商人の魂を侮辱するようなことを言うなや!
 金を稼ぎ儲けるのは、なんのためじゃ!
 金とは、なんじゃ!!
 ぬしが本当にわかっていることを、そのわかっていることのままに、考えてみんす!
 瞬間、反転した。
 巨大な欺瞞が、音を立てて、叫んだ。
 笑わせるな、と。
 実に膨大な、そして、なにより遠大な怨みの籠もる、その断末魔の魂のままに、叫んだ。
 俺は、その絶叫の中で、考えている。
 俺は・・
 俺の体を愛している訳じゃ無い。
 少なくとも状態としては、愛しても愛せてもいない状態だ。
 そこに、愛したいとか愛さなければいけないという言葉は、存在していなかった。
 愛して、いないからだ。
 確かに、不安でどうしようも無かったんだ。
 俺には、愛というものがどういうものか、感じたことが無かった。
 わからない、ああわからないんだよ。
 孤独だった。
 不安だった。
 だから、言葉に縋った。
 そうか。
 俺は知った。
 そうか、つまり、俺の体を美しく磨くために俺の体を愛する、というのは、方便なんだ。
 俺はただ、俺のことを愛していない、つまり俺という存在しか此処に無いことが不安だったんだ。
 だから俺は、俺の体を俺のものに、俺と共に永遠に居続けてくれるものにしたかったんだ。
 ひとりは、本当に、本当に、いやだったんだ。
 俺の体を愛するためにこそ、俺の体を愛するのは俺の体を美しく磨くためという、そういう大義名分を
 掲げるんだ。
 俺は、俺の体を愛していない。
 だが。
 ひとりは、いやだ。
 ああ、なんだ。
 俺は、俺の体は、其処に、ずっと。
 ずっと、いたんじゃないか。
 俺は、溶けた。
 ああ。
 ああ、そうだったのか・・
 俺の体という、俺の孤独を癒してくれるそのパートナーを手に入れたことが嬉しかった事を越えて。
 俺はただ、その体が俺の此処に最初からずっと居てくれていたことの、その愛しさで胸が一杯になって
 いた。
 お前・・・お前はずっと俺を・・・・待っていてくれたんだな・・・
 そして。
 それは、俺だった。
 俺の体は、俺の体という意識を越えて、俺だった。
 俺の体は、俺のものだということを越えて、それこそ俺だった。
 俺の体が其処にいることで、俺は俺の独りを癒せた。
 独りじゃ、無くなるからだ。
 そして。
 俺の体が此処にある、つまり俺の体もまた俺だと感じることで、俺は俺のひとりをこそ。
 愛せた。
 俺が俺というひとりであるという事自体がもはや、孤独では無くなったからだ。
 たわけ。
 銀色の息吹はそして、優しく微笑んで言った。
 だからこそ、自分の体を美しく磨くことにも、意味と価値がそのまま出てくるのじゃろ?
 胸の中の水底と、星空を繋ぐ、その俺の瞳の中で、紛れも無く、その甘い銀色は言い切った。
 自分のことを愛せぬものが、他人を愛すことなど絶対に出来んせん。
 出来るというのなら、その愛は、恐るべき欺瞞の影じゃ。
 いや。
 恐るべき、孤独の狼じゃ。
 俺が俺を愛するということは、俺の外にいる俺と同じように愛しい自分を抱える誰かを愛するというのと
 同じこと。
 だからつまり。
 俺が誰かを愛するということは、俺が俺を愛するということ。
 俺が誰かを識るということは。
 俺が、俺を識るということ。
 俺が本当の俺のことを知らなければ、俺が本当のお前のことを知ることも出来ない。
 だから俺は・・・・
 このたわけ。
 麦束尻尾を撫でながら、そのひとりの狼は余所見をしながら、適当に言った。
 ぬし。
 なにもわかってはおらぬの。
 ぬし。
 ぬしの前に、なぜにわっちがおると思う?
 ぬしよ。
 わっちの前に、なぜにぬしがおると思うのじゃ?
 ぬしの水底の中にも、確かに白銀に輝く狼はおるじゃろ。
 それは毒にも薬にもなる、愛しき狼じゃ。
 じゃがの、ぬしが愛すべきは、そのぬしの中の狼かや?
 それとも、わっちの中にもおる、そのぬしと同じ狼をこそ、ぬしは愛するのかや?
 ぬしよ。
 そんなものは、幻影じゃ。
 そんな狼もまた、ひとつの孤独の影の姿よ。
 幻でも影でもなんでも無い、ほれ、紛れも無い狼が、ぬしの前にはいるではないかや。
 たんと美しく磨いた、世界で一番魅力的で賢明な、賢狼のホロ様がここにおるではないか。
 そして、紛れも無く。
 わっちの目の前にも、威張り散らしながらもしっかり小心者な、ぬしがおる。
 そっちが、本質じゃ。
 見失うで無い。
 わっちをこそ、見失うで無い。
 ぬしを信じよ。
 わっちを信じるな。
 ただただ、わっちを追うぬしを信じよ。
 ぬしの追うわっちは、確かに、ぬしの中にでは無く、ぬしの外にこうして駆け出しておるぞ。
 気が付けば、星空は消えていた。
 胸の水底は静まっていた。
 ああ
 そうだな
 星空と水底を結ぶ瞳の、その奥には確かに、俺の識っている、ひとりの狼がいた。
 その狼と、目の前のホロは、別人だ。
 だが。
 別人だと、そう今教えてくれた、この俺の中の狼は、確かにずっと、ずっと、此処にいた。
 俺の知らないホロと、俺を置いて俺に本気で牙を向いてきた、あの紅い瞳の狼と、戦うために。
 俺は
 
 
 
 
 
 ホロの前に、なぜ俺がいるのかを、胸に手を当てて感じていた
 
 
 
 
 
 
 溢れ出る想い
 それを、商人の体の輪郭が、言葉へと落とし込んでいく。
 綺麗に鋳込められ縁取られたその言霊が、ちゃりんちゃりんとコインの音を奏でている。
 滑らかにその音に浸す耳朶が、紅く染まっていた。
 胸がざわめく。
 言葉と、計算と。
 胸の底に住まう命達と、星々の瞬きと。
 ともに、感じていた。
 ただ一個のことを。
 孤独を感じた。
 全てが濡れそぼる、泥道の中にあった。
 
 『荷馬車がぬかるみにはまって立ち往生すれば、私達はそれを見捨てる事と、意地でもぬかるみから
  取り出すことを天秤にかけます。
  積み荷の商品価値、利益、手持ちの資金、日程、それに誰かに手伝ってしまったとして、報酬。
  または、まごまごしているうちに性質の悪い連中に見つかるかもしれない、危険。
   そういった諸々のことを考えて、積み荷を捨てるかどうか判断すると思います。』
 
 囁く。
 囁いている。
 無言で、こちらを見ている。
 その視線の先にいるのは。
 俺だ。
 俺だけが、その泥道の中にいなかった。
 俺は、どうした。
 言葉に守られ、言葉に縋り雲隠れを決め込んでいた俺は、どこにいる。
 俺はいるぞ。
 俺は此処にいるぞ、ホロ!
 もう、二度と!
 俺は俺から目を逸らさないぞ!
 俺は思いきり。
 その目の前の、無様に傾いた天秤に飛び乗った。
 
 
 『私は、積み荷を諦めたくないのです!
 
  それを再び荷台に載せられるのなら、多少の無理は通します。』
 

 
 月光高く空低く。
 戦うべきは。
 
 
 『行商人の敵は、いつだって積み荷です。
 
  その価値を計り、扱いを熟慮し、送るべき先を吟味する。
  そのどれかひとつを見誤ったら、行商人は負けてしまいます。
 
  今、私は、荷台から転げ落ちそうになっている積み荷を元に戻そうとしています。
  その価値と、扱いと、送り先を再検討した上で、その積み荷は荷台から絶対に落とす訳には
  いかないと思ったからです!』
 
 
 泥道に転び出た俺を待ち構えていたのは。
 積み荷のぬくもりと。
 そして。
 泥と水に溶けた、その道に濡れる俺の体のぬくもりだった。
 暖かい。
 捨てられるものなんて、俺には無い。
 こんなにも愛おしく、ひとつひとつ優しく抱いてしまいたいほどなのに。
 いや。
 俺はそうして、優しく、ひとつひとつ、抱き締めた。
 捨てるにしても、拾うにしても、それは変わらない、俺の想いだったんだ。
 その繊細とさえ言えそうな俺の想いのままに、積み荷を捨てねばならない状況にあった俺は、
 その俺の繊細さに耐えられないからこそ、積み荷を捨てるべきという言葉に身を委ね、そしてこの身を
 隠したんだ。
 だが。
 それは、商人としては・・・・・二流だったのだろう
 俺はただ・・・俺の繊細さを活かすことが出来ず、それに耐えられずに商売の幅を狭めてしまっていた。
 俺にはこうして、俺という、圧倒的な切り札があったというのに。
 積み荷の息吹を吹き消すどんな言葉よりも重く深く、そしてなにより強い、この俺があったというのに。
 俺をその泥道の中の天秤に投げ込めば。
 がらりと、その積み荷の価値は、変わってしまう。
 捨てられる訳が無いどころか、とんでもない、絶対に捨ててはいけないものだとすぐに知れる。
 月満ちて雲は流れ。
 そしてなにも無い虚空が、爽やかに吹き流れていく。
 煌々と輝く、銀。
 俺の中にこそ、積み荷のなによりな価値が輝いているのを感じていた。
 こんなにも・・・俺には必要なものだったんじゃないか・・・
 商人として、積み荷への愛が根本的に足りないことを、俺はようやく、識った。
 
 いや・・・
 
 
 
『愛は金では買えないと、詩人は言う。
 
金より大切なものがあると、説教師は言う。
 
ならば、金を稼ぐことにすらこんなにも苦労するというのに、
 
どうしてそれよりも大切なものが、我々の手の中に入るのだろうか。』

 
『苦労して苦労してようやく手に入れたものなら、迷わず大事だと思えるだろう。
だが、本当に大事なものが意外と簡単に手に入っちまう事もある。』
 
 
 
 俺は俺だ。
 俺には、よくわからないが、俺がある。
 俺には、なんだか知らないが、ホロがいる。
 わからないからこそ、俺は必死に稼いで働いて、男らしく逞しくなにかを守ろうとした。
 いや、そうして守ろうとすることでしか、わからないと思っていた。
 だから・・・・
 いつだって、守り切れないままに、わからぬままに、見捨ててきた物達が沢山いた。
 金の、商人の価値と誇りを下げていたのは、その俺だ。
 俺は・・・
 俺は商人だ。
 行商人の、クラフト・ロレンスだ。
 それ全部で、俺なんだ。
 大切なものを守るためにこそ、金が、商人がある。
 金が商人が無くても、俺がなにかを守ることには変わりが無かったはずだ。
 だから、金と商人で、守ることも勿論可能なんだ。
 だから。
 俺は・・・ホロを守っていたんだ・・・・
 ちゃんと俺は・・・
 ホロを守ろうとして・・・守りきれずに諦める言葉さえ思い浮かべながら・・・・
 それでもまだ・・・全く違う論理で・・・・・俺が守るべきものの価値を計り直して・・・・
 守り続けているじゃないか・・・
 
 
 
 
 『たまたまアマーティがいいとこの出だから、お前にはそっちの方が騎士に見えたのかもしれんがな。』
 
 
 『弱気になるな。』
 
 『この物語の主役は、お前なんだ。』
 
 
 俺はホロのなんだ。
 顔を覆う。 どうしようもなく、顔を覆った。
 それを問うて言葉を重ねていただけの俺がいた。
 答えは初めから、この胸の中にあった。
 わからないことなど、初めからありはしなかった。
 問うまでも無い。
 だが。
 ホロには伝えることがある。
 
 
 紅い瞳が、見向きもせずに俺を射竦める。
 ぞっとすることも無く、俺はその狼との遠大な距離を測ってしまう。
 ホロは、アマーティに加担している。
 ホロが、アマーティの隣にいる。
 嫉妬よりも、絶望が先だった。
 ホロの絶望が、俺の中の狼に広がっていく。
 ああ・・・
 ああ・・・・・・・・
 顔を覆う。
 だが。
 だが。
 だが。
 俺は戦闘態勢を整える。
 戦うべき相手は、目の前の騎士では無く。
 あくまで、狼。
 紅い瞳に震える、巨大な孤狼。
 ホロの小さな横顔が、彫像のように固まっているのがみえた。
 胸が締め付けられる。
 ホロの想いを感じるたびに。
 やがて。
 真に震えて泣き叫ぶ、俺の中の狼が牙を剥く。
 ひとりは、いやだ。
 ホロの口が動く。
 アマーティに向けて。
 ホロの瞳は誰も捉えてはいない。
 だが、俺にでは無い、他の誰かにその狼の言葉が向けられている。
 今はあいつと話せない・・・あいつは話しているというのに・・・俺は・・・
 ああ・・・
 俺はまた見誤っていた。
 だが。
 だが。
 だが。
 俺はもう。
 
 俺の曇った瞳に、感謝する。
 
 目の前で冷たく凍り付く、その狼の紅い瞳に感謝する。
 すまないとは、もう言わない。
 ありがとう。
 俺は。
 そのありがとうと、堅く結んだ口の中で抱き締められたその言葉のぬくもりのままに。
 その言葉に見合うことを為すべく。
 俺は、ひとつ、大きく。
 投げ込んだ。
 俺を。
 
 希望に飢える、その目の前の、ホロに向けて。
 
 たとえ賢狼が相手だろうと。
 いや。
 賢狼が相手だからこそ。
 俺は、絶対に、勝ってみせる。
 お前を、守るために。
 お前を、本当に識るために。
 
 いや。
 
 もう。
 
 
 
 お前を、守るままに。
 お前を、本当に識り続けるままに。
 
 
 お前を、愛するままに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 どっちかっていうと。
 私はホロに近い。
 言い換えれば、ホロ的な私にとって、ホロはその私にとっての理想型に近い。
 無論、ロレンス的なものも私の中には大いにあるのだけれど、根本的には私はホロの感覚で、
 ものを考えたり感じたり、または書いたりしてきました。
 そして、だからこそ。
 そのホロとしての私にとって。
 ロレンスの可能性というのは、計り知れない。
 なんというか。
 今私が無性にしたいのは。
 
 男の優しさの、発掘。
 
 ロレンスを見ていると、こんなに力強いことは無い。
 たとえば私の中のロレンス的私にとって、ロレンスというのはその私にとっての理想型に近い。
 というよりむしろ、その私の理想をひたすら破り、進化し続けている。
 優しさを進化させられる男。
 それは、真の誠実とか、誠の真摯とか、そういう言葉無しには語り得ない。
 誠実とか真摯というのは、絶えず進化して深化していくことにこそ、その本質がある。
 もし男が、自らに原初から息づいている、その裸の優しさを、隠さずに誤魔化さずに、きっちりと育て、
 また大きく進化させてこの世に発現させることが出来たなら・・・・
 私はそれを、人が持つ最大の力のうちのひとつに数えるかもしれません。
 ロレンスにしろ誰にしろ、まぁ本当いうと男に限らず女もそうですけれど、そうした自らの「優しさ」という
 ものは、実はとても恐ろしいものだったりします。
 なぜなら。
 たぶんそれは、その自らの「優しさ」を発現させるためには、それ相応の労力と、覚悟と。
 そしてそれをいざ発現したときに発生し得る、あらゆる「対価」が膨大だと感じられるからです。
 だからそれを見越して、自分の優しさを甘さとか理想論だとか言って貶め隠して、都合良く見つめる
 べきものから目を逸らしたりして、また同じく覚悟を必要としない優しさをちらつかせて、自己満足を
 得たりする。
 ロレンスは、そういう男の象徴でした。
 というより、ホロと出会った現在に至るまでも、ロレンスの本質は変わりません。
 怖い。
 
 自分に素直になるのが、怖い。
 
 素直になれば、素直なものをしっかり加工して、どんな注文にも応えられるものにしなければならないと、
 そう思うからです。
 無論、ホロも、ロレンスに「純朴な優しさ」など、これっぽっちも求めてはいません。
 優しさがあることそのものに意味と価値は無く、それに意味と価値があるというのなら、それは優しさを
 免罪符にしているだけのこと。
 優しい気持ちがあるなら、なにをしても許される、ということがあるはずも無い。
 優しい気持ちはただ、動機にしか過ぎないのですから。
 ならばぬし、考えてみよ。
 なんのために、優しい気持ちがあるのかを。
 ロレンスは、そのたびにふと、考え込むのです。
 ホロからしたら、ロレンスがそうして本気で考えている姿は、嬉しくて堪らないものですよ。
 ロレンスはずっと薄々、わかっていたのですね。
 このままじゃいけないと、自分の優しさから逃げ回っているだけで、それでひとりの人間としての地位を
 獲得していても、楽しくもなんともないどころか、どんどんと虚しくなっていくだけなのだと。
 そしてその虚しさに耐えることこそ美徳だと人間だと、その認識には、どこにも未来が無いじゃないか。
 いや、それ以前に、俺が無いじゃないか。
 ロレンスは考えます。
 今まで培ってきた商人としての論理と経験を最大限に回転させて、なによりその回転の仕方だけでは
 足りないということを知るためにこそ、深く考えるのです。
 ホロにとって、これはもう、なんという輝きでしょう。
 
 ああ
 ここにおる
 我がパートナーが
 
 ホロは、何百年も生きてきたんですよね。
 間違い無く、ロレンスよりも経験と体験を重ねてきています。
 だから、ロレンスを含む人間どもの嘯く、「誠実」や「真摯」がどういうものか、もうわかっています。
 なにより、ホロ自身がかつて通ってきた道なのですから。
 ひとりの人間として小さく固まり、それで満足出来るのは。
 それは、人間の寿命が短いから。
 せいぜいがところ、年老いてのちに、自らのやってきた事に虚しさを感じて、そこで打ち止め。
 ホロは、そこからさらに何百年も生きている。
 虚しいだけで、終わるはずも無いでしょう。
 いえ。
 なによりも虚しさに圧倒的に長い期間逼塞してきたからこそ、孤独の森にとてつも無く長い時間閉塞
 してきたからこそ。
 ホロは、旅に出たのです。
 虚しいのは当然じゃ、孤独なのは当たり前じゃ。
 で?
 だから?
 ぬしは、それでどうするのじゃ?
 ホロからすれば、人間達の欺瞞など手に取るようにわかる。
 人間にはこれが美徳だと、いい年した大人達が有り難がっているものが、どれほど愚かで醜いものかを
 わかっている。
 それは、人間の子供が無邪気に抱く大人への感想とは似て非なるもの。
 けれど、ホロが出した結論は、等しくおなじ。
 本質はすべて原初にあり。
 年を経るということは、その原初の本質を負っても生きられるようになっていくということ。
 子供は原初のままに、大人は原初を越えられぬその時点での身の程を知り原初を捨てる。
 そして、大人を遙か越えた年経りし巨大な狼神は、あっさりとその原初に身を浸し生きる旅に出る。
 優しさを、そのまま剥き出しでみせたところで、それは子供の愚かさそのものです。
 ですから、ただその子供のような「純朴な優しさ」に立ち戻ったところで、それはただの子供返り。
 ロレンスがそんなことをした瞬間に、ホロの罵声が響き渡ること間違いありません。 (笑)
 ホロは年経りし狼ながら、可憐な少女の姿を取り、而して狡猾なる小さな脳漿を豊かに回す存在です。
 
 要は、ぬし様よ。
 前にも言うたが、賢いお人好しになれ、ということよ。
 
 そういう意味で、ロレンスの粘り強さには、もうホロの希望が沢山無限に詰まっている。
 ホロに言われて仕方が無く、なんてとんでもない。
 ロレンスは、どうしようもなく、自分の求めるなにかのままに、ホロの言葉に耳と心を傾けて考えている
 のです。 
 ロレンスが今まで培ってきたものを、それを自らの中にある原初的な優しさを、鋭く磨いて発現するため
 にこそ使ったら。
 それこそ、膨大な「利益」を生み出すことになるでしょう。
 それが、一流の商人の基本でしょう。
 ロレンスの頭脳を、ロレンスこそがどう使うか。
 どこに動機を求めるのか。
 動機としたものを、どうやってさらに深めていくのか。
 そういった思考の過程を、子供の無邪気さでやったところで、結果は知れている。
 そんなものは、一撃で人間の小ささによって砕かれてしまいます。
 優しさを発現させるために使うべきは、なによりも、大人の力。
 ロレンスの、商人としての力強い論理と、経験と、人間関係と、それらに基づくあらゆる「力」そのもの
 でしょう。
 そういう意味では、マルクや、第一期に登場したマールハイト支店長などは、その最たるモデルでした。
 
 そしてロレンスこそ。
 私達今の人達にとって、最も等身大な人物なのです。
 
 ロレンスは、それこそスーパーなことはなにもしていない。
 けれど、スーパーな結果だけは、次々と残しています。
 これは、私達にも充分可能な、優しさの発現の在り方なのです。
 男の優しさこそ、とてもとても大きな力になる。
 ゆえに、その優しさを発現させるためにはどうしたらよいのか、そこにこそ、最も注力すべきことが、実は
 なによりもみえてくる。
 ホロの言葉はすべて、ロレンスへの問いとなっています。
 なにが一番誠実と言えるのか、なにが本当に自分とホロのためになるのか。
 なにが、利益か。
 勿論それらは、ロレンスの優しさがすべて動機となっています。
 そして、なによりそのロレンスへの問いとしてのホロの言葉は、同時にそうして、ロレンスから優しさを
 引き出す言葉になっているのです。
 ロレンスは、ホロがいなければ、ここまで自らの優しさと向き合うことは出来なかったでしょう。
 
 そして。
 今。
 
 ホロは、ホロこそは、ロレンス無しには、旅を生きることは出来なくなっているでしょう。
 
 
 
 もうね、あのラストのホロの横顔にね、がしゃんと感じてしまったもの。
 私の中のなにかが、随分と高いところから投げ落とされて、粉々に割れてしまった音。
 ホロは本気だよね。
 本気で、ロレンスを試しにかかってる。
 ロレンスへの試練が過酷であればあるほど、ロレンスを深い問いへと至らせることを確信してる。
 私だって、そうする。
 そうせずにはいられない。
 ロレンスが、欲し過ぎる。
 どこまでも研ぎ澄まされていく、そのロレンスの優しさの、進化という本質が大切すぎる。
 これ、徹底的にやらなきゃ満足出来ないよ。
 たぶん、というか。
 ホロがロレンスに嫌われるために、「身をひく」ために、ロレンスを追い詰めることは、無い。
 いえ、そうと言うことはある。
 でもホロは、必ずその孤独の狼に囚われる自分を、引きずり出してくれる、そのロレンスのことを。
 もう、どうしようも無く、信じてる。
 あるいはホロは、このまま独りでヨイツに向かうかもしれない。
 ホロは全身全霊をその紅い瞳に込めて、ロレンスを無視し続けるかもしれない。
 でも。
 ロレンスは、そのホロの無言の言葉にこそ、問いを得ていく。
 ロレンスはもう、優しさの発現を止められない。
 
 止められないのは。
 もう。
 ロレンスが、ホロのことを愛している、その自分と向き合っているから。
 
 
 あーもう、くっそう。
 第一期で必死こいて、恋だの愛だのを持ち込ませないような感想の書き方してきたのにー!
 全力でロレンスを阻害してきたのにぃっ! (ぉぃ)
 これじゃまるで私、ホロじゃん。
 こんだけロレンス無視してきて、気付いたらロレンスに惚れそうですよwwどうしてくれるのwww
 ・・・。
 いやこれはもしかして、わざわざホロで書かなくても、ホロのままに在れるようになったって事?
 もうなんか、ホロにシンクロしすぎで酔ってきた。
 すっごいロレンスを開発したくなってきた。
 ていうか、このままいったら、ロレンスが男性キャラの最萌えになりそ。どんだけ変わり身だよ。(爆)
 うん、だからこそ。
 私は今無性に、ロレンスの優しさを発掘するためにこそ。
 ロレンスとこそ、シンクロしたかったのだろね。
 最近そうなんだよね、私。
 優しさを上手く表現出来ない人にこそ、その可能性を感じてる。
 なぜ、優しさを貶めてしまうのか。
 なぜ、優しさから目を背けてしまうのか。
 なぜ、優しさを否定するのか。
 なぜ、わからないと言うのか。
 なぜ、仕方がないと言うのか。
 それら問いの答えをひとつ、今回は書いてみました。
 そして私は、その人の優しさを、その人の力を、活かしてみせたい。
 その私の活力はきっと。
 私の、人間への、他者への愛にある。
 そしてその愛は。
 ホロのように、自らへの絶対的な愛から、始まっています。
 楽しく、生きよう♪
 みんなでの方が、全然楽しいし。
 それは、他者がいてくれるという、その孤独感の癒しがあるからというのも、勿論あるけど。
 
 
 それより、みんなで力を合わせた方が、もっとすごいこと、出来そうな気がしない?
 
 
 ひとりじゃ出来なかったこと。
 ひとりじゃ、諦めるしかなかったこと。
 もしかしたら、優しさも、その中に含められていたのかもしれない。
 あなたがいれば、あなた達がいれば。
 私はもっと、変われるかもしれない。
 貪欲に尻尾を磨く狼が、私の中にもぎっちりと詰まってます。 (笑)
 というか、ホロの願いは、一番そこな気がしますし、だからこそロレンスとのロマンス(惜しいw)をメイン
 にしていくというのは、この作品としては的が小さく感じられてたんですよね。
 まぁだから、逆にロレンスへの愛の交換もまた、そのホロがロレンス達と共に築いていく愛しいものの、
 そのうちのひとつになっていく、という感じになるのでしょうけれどね。
 つか、ロレンスに陥ちてもホロはホロですし。
 ・・・・・なんだか、負け惜しみにしか聞こえないんだが。 (顔を覆いながら ぉぃ)
 といいつつ。
 今回の最萌えポイントは、ロレンスの顔覆いシーン×2だったりする私ももう駄目なのですがww
 
 
 
 という感じでしょうか。
 うん、ホロの魅力がロレンスの胸で泣くこと(私的に異論ありw)にあるのなら、ロレンスの魅力は深く顔を
 覆って考え詰めることでしょうか(私的に異論なしw)。
 他にもバトスさんやらディアナねえさんやらも、ぞっとするほどの魅力ぶりで、マルクも含めて、登場人物
 のすべてで感想が書けてしまいそうな、とてつもない凄みがありました。
 バトスさんとディアナねえさんについても、一本ホントに書きたくなってきた。(笑)
 さて、今回は言い訳も謝罪も出来ないほどに長くなってしまいましたので、改めまして。
 ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
 私としては、書きたかったものを書き尽くせて満足でした。 (人はそれを自己満足と言うww)
 
 
 それでは。
 ここまでロレンスで引っ張られてきたことで、私の中のホロ欲求は爆発寸前で御座いますので、
 そろそろ是非、賢狼ホロの叫びを期待しております。
 むしろロレンスにシンクロして書いてきたからこそ、ロレンス的にホロを求めて書かずにはいられなくなって
 きた。 まずい、ホロの魅力が半端無い。
 次回は意地でもホロで書いちゃおうか。(笑)
 
 では、また次回お会い致しましょう。
 狼万歳! 商人万歳! そしてすべての男の優しさに乾杯♪w
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                              ◆ 『』内文章、アニメ狼と香辛料U」より引用 ◆
 
 
 

 

-- 090804--                    

 

         

                            ■■ 憎しみに向き合う義務 ■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 
 梅雨が明けたのだかまだまだやる気満載なのかわからない、そんなきっかり晴れたり土砂降りだったり
 の繰り返しの今日この頃ですけれど、皆様如何お過ごしでしょうか。
 
 さてと。
 今日はちょっとお話ししたい事がありますので、それ以外のことをまず先にさくさくっと書いてしまいたい
 と思います。
 まずはお酒から。 (またかい)
 
 
 ・純米吟醸「まほろば」: 全然覚えとらん。・・・・・あれ?飲んだよね?これ。( たぶん)
 
 ・「風よ水よ人よ」: 特に記載が無かったので普通酒かと。
  某人から前にダウンしたときの快気祝いにとミニサイズ版を頂きました。 今更あんがとです。 (ぉぃ)
  古酒のような甘さ、あれはなんかの果物の甘さとそっくりなんだけど思い出せない、飲んでたときも
  思い出せなかった、なんだろなんじゃろ、と考えているうちに飲み終わってました。 あれ?
  うーん、古酒みたいな甘さはジュースっぽくて全然味わいが足りないので、あまり好みでは無いなぁ。
  病み上がり一杯目としては、優しいお酒でグッドでしたけどね。
 
 ・純米大吟醸「加賀鳶」: 極上原酒だそうです。
  某人の誕生日祝いに持ってって、一緒に飲んできました。 (笑)
  辛さの中から甘味がじんわりと引き出されてくる、私の好きなタイプの逸品でした。 香りも華やか♪
  こういうのが飲みたいのよ私は、今度私に飲ませてくれるときの参考にしてください。 (ちょ)
 
 ・吟醸「辰泉」: 一火生詰。 ぇ、なにそれ、美味しそう。(意味は知らん)
  涼宵仕立て、と銘打ってあるように、さらさらとして飲みやすく口の中に残らない、けれどちゃんと広が
  っていく感じが、夏の宵に相応しい出来でした。
  ただまぁ、敢えてもうひと味アクセントが欲しい感じがしましたね、悪く言えば茫洋とした感じのお酒で
  したので。
 
 
 あと、本。 借りてきました。
 最近読書欲モリモリです。 まー読みやすいのばっかですけど。だって暑いし。
 
 ・池田晶子「知ることより考えること」: 前からちょっと読んでみたい哲学者だったし、タイトルも
  なかなか興味深かったのでチョイス。 短編エッセイ集。
  んだけど・・・いくつか読んでみたけど・・・なんていうか・・・小さい。 (ぇぇ)
  もうちょっと言えば、考えて出した答え、それ自体に対する問いがもうひとつ欲しいものばかり、でした。
  知ることより考えること、それは当たり前なので、いつまでも考えることに拘って無いでもっと知りなさい、
  みたいな、つい一言言ってやりたくなってしまうというか・・・・やめとこう、全部読んでからにしよう。 (うん)
 
 ・西尾維新「xxxHOLiC アナザーホリック ランドルト環エアロゾル」: 原作は無論CLAMP。
  いやこれは原作っていうか原案ってことなのやろか? 原作漫画のエピをノベライズしたという感じでも
  無いし。まぁいいか。 で、ホリックは元々大好きですし、西尾維新はネコソギラジカル読んだときに
  文体が肌に合わなくて即切りしてしまったけど、アニメ化物語が面白いので、西尾にサイトライ。
  で、最初のアレといい、この人って結構京極夏彦の影響受けてますね。あと上遠野浩平。
  ちょこっと最初読んだだけだけど、まぁ確かに読みにくい。
  だけど・・・・「やれるものなら、やって御覧なさい。」by侑子 、で陥ちた。
  ・・・・いやこれは西尾維新っていうか侑子さんなんじゃ・・・
 
 ・岩井三四二「一所懸命」: 今ハマってる人なので。 歴史小説です。戦国時代の下っ端武士や
  中間的立場というかその世界からのお話。結構くる。
 
 ・童門冬二「義経を討て」: 前に巴御前(というか義仲)の小説を読んだので、ついでにというか
  流れ的に。と思って読み始めたらメインは後白河法皇でした。この作家は歴史上の人物や出来事
  を現代的に読み解いたりマニュアル化して解釈する人なので、どう読むのかと期待してたけど、うーん、
  ちょっとイマイチ。たんに法皇には公的私的の二面性がある、というくらいしか言ってなくて、えー。
 
 ・童門冬二「参謀力 直江兼続の知略」: なにも言うな。言わんでもわかっとる。
 
 
 という感じで、以上。
 以下、今日の本題です。
 
 
 
 
 
 ◆
 
 
 

 『憎しみには、義務で当たらなければ、救われない。』

 
 
 これ、アニメ「CANAAN」のいちセリフなのですけれど。
 考え込んでしまって。
 色々と、がーっと一気に頭と胸の中に噴出するのだけれど、すきっとまずは、二択を提出する。
 この義務というのは、どちらの意味か。
 社会的世界的常識的法律的、そういったシステム的なものに於いての義務か。
 それとも。
 目の前の「憎しみ」に対して、全面的に向き合い、その憎しみの意味をこそ考えなければならないと
 いう意味に於いての義務か。
 なんていうか・・・・
 迷うことなど無い気がするんだけど・・・
 それなのに、まず真っ先に、憎しみには憎しみで当たろうとする自分がいて、その自分を誤魔化そうと
 するときに、前者の意味の義務を選択する気がする。
 憎しみはなにも生まない、というのは嘘。
 少なくとも、憎しみはなにも生まない、というかけがえの無い実感を産み出すためには、憎しみに染まる
 事は必須条件。
 逆に、憎しみに染まらなければ、憎しみのなんたるかを、人を憎むということの、その泥のような感覚と
 地獄を真に知ることが出来ないからこそ、目の前の憎しみに満ちた人間と向き合うことも、そして
 その人間と向き合う憎しみに満ちる自分とも向き合えない気がする。
 人を憎んだことが無ければ、人を憎む人のことなんて、化け物にしか見えないでしょう?
 その化け物は、うっすらと隠蔽のベールを被って、自分の中にもはっきりといるというのに。
 前者の意味での義務でその憎しみに当たるということは、その化け物としての復讐者の存在を抹消
 したいという、なによりな自分の「憎しみ」の顕れに他ならない。
 それじゃ、憎しみに憎しみで当たっているのと、同じ。
 いやいや、それなら憎しみに憎しみで当たっているという自覚がある方だけ、マシ。
 憎しみは、なにも生まない。
 憎しみに満ちていると自覚しているからこそ、憎しみとはなにか他の目的を果たすための「手段」に
 しか過ぎないと認識出来、そして同時に、「手段」としてなにより必要なものだという認識に至ることが
 出来る。
 けれど、自らの中の憎しみを自覚せずに憎しみを否定するだけなら、そのなにかを果たすための手段
 としての憎しみは認められず、そして結果として。
 なにも生み出さない、無為な憎しみだけが、残る。
 憎しみを、社会的世界的常識的法律的、そういったシステム的なものに於いての義務によって抹消
 せんとしたとき、その憎しみはその大切な生産力を失う。
 そしてなにも生み出さない憎しみと、その憎しみを破壊しようとするだけの、やはりなにも生み出さない、
 けれど隠されたさらなる憎しみが、ただ殺し合う世界だけが顕れる。
 
 憎しみを否定すること自体が、憎しみの連鎖を生むのじゃないか。
 
 大体、憎むってことはそこに満たされないなにかがある訳だし。
 んじゃー満たされたいとか思わなきゃ憎しみなんて発生せんでしょ、とか言う訳だけれど、それってつまり
 既に満たされてるからそう言えるだけの話で、それこそ「満足」のレベルはひとそれぞれなのだから、
 自分が満足出来てるから他人にもそれを押し付けるっていうのは、それは究極におかしいかぎり。
 満足を求めない、ということ自体ひとつの満足に至ってるしね。
 満たされない気持ちをいつまでも追い掛けているからこそ満たされない訳で、そういう馬鹿な奴らの
 怨みなり憎しみなりとに付き合ってる暇は無い、とか平気で言っちゃえるからこそ。
 憎しみは、消えないのだと思う。
 それってひとりひとりが自己完結に「上がり」を得れば終わりってことだし、他の奴の事は知らんと言って
 るのと同じ。 しかも普通にそのあがりはその人ひとりの力で得た訳じゃ無く、他の人達の多大な犠牲
 の上に成り立っているものだったりする。 そりゃ怨まれるでしょ、それでそんな事言ってたら。
 憎しみや怨みというのは、目的を叶える手段だし、「CANAAN」ではその手段としての憎しみを元手に
 して欲しいものを莫大に手に入れていくスーパーなアルファルドお姉様がいるのだし、憎しみ自体を悪と
 見なして殲滅する事こそに、最も恐ろしい憎しみが込められていると思う。
 
 
 憎しみを否定する。
 それはきっと。
 孤独への囚われの象徴。
 他者の存在から目を背けたい、ひとりに逼塞したいという、人の弱さの顕れ。
 
 
 哲学でも文学でもアニメでもなんでも良いけど。
 憎しみなりなんなり、それ自体の悪さ愚かさを説いたとしても、それこそなにも生み出さない。
 ただそうして、そういうものの悪さ愚かさを見抜ける、その自分の賢さを顕示することにしか成り得ない。
 憎しみなりなんなり、あらゆるそういった「悪」や「愚」は、一体なんのためにあるのか。
  人から、他人から、目を逸らせないから、なんとかして人と向き合い、そして。
 なにより。
 他者と「協力」して、莫大なものを手に入れたいからこそ、憎しみはあるのじゃないか。
 その莫大なものとは。
 無論、幸せ。
 ひとりじゃ出来ないことなんて、沢山ありますもの。
 だから、協力体制を整えるためにこそ、互いに「フェア」であることを求めるためにこそ、その「手段」もし 
 くは「道具」として、憎しみや怨みはあるのだと思う。
 逆にいえば、憎しみや怨みを否定するのは、その「フェア」であろうとすること、他者と協力して幸せを
 掴もうとすること、他者と向き合っていこうとすること、孤独への囚われから脱却しようとすること、
 それら自体を否定せんがためのものなのじゃないかな。
 だから私には、カナンやアルファルドお姉様と、あのマリアが同じものを目指しているように感じます。
 アルファルドお姉様が憎しみから戦い憎しみを越えていく、その一連のテロ行為と、カナンの復讐心に
 駆られるその中でのシャムへの想いと、そしてマリアが自分の名を連呼して目の前の人と話したい
 わかりたい知りたいと叫ぶことが、同じに見える。
 憎しみっていうのは、相手に自分と、自分と目の前の人との関係を、必死に伝えようとする行為。
 もし私達が幸せを求めるのなら。
 
 私達には、その憎しみと向き合う義務があると思う。
 
 その義務で向かうからこそ、憎しみというものの存在意義と価値がある。
 私は、幸せになりたいなぁ。
 欲しいもの、一杯あるよ。
 幸せを欲望を捨てるだなんて、とんでもない。
 だから憎しみから目を背けたくない。
 ううん。
 ちょっと、本当は違うのかもしれない。
 ・・・・。
 んや、ちょっとというか、うん、確実に違う。
 
 
 私は、目の前のその人が、なにより私と同じに幸せを求めて必死になっていると、なによりもわかるから。
 だから。
 私は、その人から目を背けられないどころか、背けるはずも無い。
 もうひとりの「私」が、幸せを求める「私」が、目の前の其処にいるのだから。
 私が幸せを求めることを捨てない限り、私がその人を捨てることも無い。
 無論、その人を捨てるためにこそ、私の幸せを、その人の幸せを見捨てることなど、ありはしない。
 
 今、私の中できてるキーワードは、「協力」。
 そもそも、そのシンプルな言葉で、私の考えていることが集約されていることに、私は全然気付いて
 なかった。
 カナンの共感覚だって、たとえば見えざるものが見えるとかだって、そうやって、自分の外にもうひとりの
 自分、つまり協力し合えるための「有力」なパートナーを見出す、その大切な発掘行為に他ならない。
 そしてそのパートナーの数を、人の数と同じにするためにこそ、私達には「私」というものがある気がする。
 他者に感応出来る力、角度も色彩も変えて物事を見つめられる力。
 その力に捉えられる事で、他者との交渉の余地が拓かれていく。
 ああ、懐かしいなぁ、太陽が青いといえる表現は。
 たとえばそれは、べつに青くなくてもいいんだよね、普通に赤とか黄色でもさ。
 みんなと同じ色に見えてたっていい。
 恵みの太陽、燦々と輝く優しい太陽。
 でも、では無く。
 それが、地獄。
 恵みの太陽が燦々と優しく地獄を犇めかせていくという、感覚。
 私の文章の書き手としての、ひとつの原点だなぁ、それ。
 岩井志麻子とかでやられたものね、その辺りのことでは、散々。 (笑)
 カナンの共感覚にしろなんにしろ、そこに見えているのは、自分の外にいる「私」。
 自分達の当たり前の世界に、当たり前のようにして、私達と同じものを見て同じものを触りながら、
 全く違う感覚でそれらを捉えている人達がいる。
 んや。
 
 自分と同じ人なんて、ほんとはただのひとりもいない。
 
 それが孤独。
 私の周りには、勿論さらにその周囲にも、その孤独の哀しみに囚われている人達が結構いる。
 憎しみや怨みこそを憎み怨み抹消することで、ひとりのままにあってしまおうとする人達。
 私はその哀しみを、よく感じるよ。
 自分と同じ「私」がいると信じて、必死に憎しみから怨みから戦う人達を、憎み怨み消すことでしか、
 それで生まれ続ける自分の哀しみから目を逸らせない。
 それは・・・・泥のような憎しみの中で生きることよりも、苦しいこと。
 苦しみを生む憎しみから逃れようとして、かえってどうしようもなく、苦しみに囚われてしまう人達。
 以前はただ・・・そういう人達を批判するだけだった。
 でも今は・・
 ああ、その人達からこそ、私は目を逸らせないじゃないか、と、どうしようもなく感じています。
 
 
 憎しみに染まりつつそれを元手にして莫大なものをフェアに手に入れていこうと孤独から抜け出す人達と。
 憎しみを否定してアンフェアな安定に染まりながら孤独の哀しみに囚われ抜け出せない人達が。
 
 協力したら。
 協力できたら。
 
 これは一体どんなに莫大で豊穣な幸せを、私達にもたらしてくれるだろうか。
 
 
 私はすぐに、私の中の「協力」と「幸せ」という文字を消す。
 私はただ憎しみに染まる。
 私はただ孤独の哀しみに囚われる。
 その中で圧倒的に駆けずり乱れる、憎しみと孤独の織り成す世界を見て、生きていく。
 「CANAAN」を見る。
 うわ、すっごい。
 色んなことをやってるし、描いてる。
 そしてなによりすごいのが。
 それらがすべて、互いを見つめずとも、同じたったひとつのものに向かっているということ。
 速度も違う、色彩も違う、抱く欲望も違う、守るべきものも違う、幸せのイメージも違う。
 なのに。
 いえ。
 そして。
 
 私達はそうして、自分の目の前で、生きている「私」がいることを、識るままに。
 
 希望の地へと、ひたすら歩を進めている。
 
 
 現在自らが踏んでいるその大地が絶望で満ちていることと。
 希望の地があることと、その地を目指して歩き続ける自分がいることとは、それぞれ別のこと。
 絶望の果てに希望あり。
 そして。
 希望とともに絶望がいる。
 私の目の前にあなたがいて。
 あなたの目の前に私がいる。
 
 あなたがいるから、私は・・・
 
 ひとりじゃ、無い。
 
 
 
 
 
 
 
 姉様・・・・・・・ ←うっとりとアルファルドお姉様をみつめながら
 
 
 
 
 
 
 ◆
 
 べ、べつにボケてなんていないわよ、私が姉様を好きなのはほんとなんだからねっ!
 
 ・・・・。
 さて、忘れてましたけど、化物語のプチ感想をちょろっとな。
 何話かな、第5話でしょーか、たぶん。
 で。
 
 ・・・・・。
 阿良々木君の魅力ってなんだろ。
 うーん。
 なんかね、やられた、って思ったんだけどね。
 そりゃー戦場ヶ原様もあいらぶゆーと言うわ。
 いや。
 そういう意味では、説得的な魅力は無いというか、たぶん逆に戦場ヶ原様があらいぶゆーを言ったのは
 それとは全然関係無いところにあるというか、あいや、そういう部分を保留というかお楽しみとして確保
 しておけるからという、その「可能性」に惹かれたというか、いや惹かれたという言葉もなんか違うな。
 ぶっちゃけ、私が戦場ヶ原様だったら、やっぱり阿良々木と付き合いたい。まぁ落ち着け。
 うーん。
 阿良々木君の魅力ってなんだろ。
 なんかね、彼は馬鹿なのか馬鹿じゃないのか、よーわからん。
 いや馬鹿なんだけど、誠実ではあるというか、で、その誠実さというのが無理矢理やらされてるとかしょう
 がないとか、そういうものがまるで見えない、彼にとってはあまりに自然な「心の動き」であり、それ以上
 に彼の滑らかな意志を感じるんだよね。
 なにかに対する当て付けでも無いし、そういう意味では、「無償」の優しさを感じさせる。
 ていうか。
 優しさが、当たり前すぎさりげなさすぎ。
 かといって、それが普通だろとか常識だろとか言っても、全然普通とか常識のせいにはしてないし、
 勿論逆に俺がしたいことをしただけだとか変な我の張り方もしない。
 なんていうか、その優しさが主体的なのが、ひどく伝わってくる。
 結構普通に馬鹿だしロースペックさなんだけど、そういう誠実関連に於いては、全く馬鹿さを感じない
 というか、むしろ圧倒的に想像もよらないなにかをやってくれそうな気がする。
 あまりにもあまりにな、当然な優しさを、どうしてそんなに当たり前に・・
 無償な優しさとしてそれを感じられるからこそ。
 なにより、それを「有償」な優しさにも換えていきたい・・・・
 戦場ヶ原様が感じたのは、それだろうなぁ、やっぱり。
 有償なのは無論、戦場ヶ原様への専用の優しさ、ってことね。
 ってことで、阿良々木君周りはそれで終了。(ぇ)
 ていうかむしろ、今回は戦場ヶ原様がメインだし。
 なんていうか、今回はネタ晴らし回で、色々と今回の怪異の説明がされた訳だけど、その中での戦場
 ヶ原様の表情での語りっぷりが、尋常じゃあ無かった。
 べつにこの作品は、「テーマ」的になにか新しいことをやってる訳でも無いし、むしろ「テーマ」なんてもの
 を一切置いてやってない気がするし、だけど充分成り立っているし、鳥肌が立ちまくり。
 それはすべて、戦場ヶ原様のハイスペックすぎる、その自らの内面の表現技法そのものにある気が
 する。
 彼女の内面自体に語るべきものはそれほど無い、けれど、その「語り」そのものの作法の、圧倒的
 そして芸術的なその計算された「歪さ」が、なによりもこの作品に魂を吹き込んでる。
 やべー、この人見てるだけで面白い。
 ここまで完璧に記号的にやりながら、一切の取り繕いが無い、その力強すぎる「はったり」さ加減が、
 ああもう、なんていうかもう。
 戦場ヶ原蕩れ。
 同時に、色々といじることが出来ながら想像を超えてくれる、その阿良々木君へ彼女のドキドキ感
 が、ああもう。
 化物語蕩れ。
 この作品はたぶん、今の私ではまだまだ私の中で充分に活かし切ることが出来ないと思う。
 私はとても今、勿体ないやり方でしか、この作品を捉えられていない。
 だからきっと、またいつかこの作品を観たときに、その作品の魅力の伸びは私の中で膨大になること
 でしょう。
 今はその可能性を実感しながら、まだまだな私の切り口の少なさのままに、この作品と向き合い続け
 ています。
 そしてたぶん、そのいずれ観たときに、私はこう言うでしょう。
 
 やっぱ、蕩れは無いわ、と。
 
 
 
 
 では、ごきげんよう。 (ぇー)
 
 
 
 
 

 

-- 090801--                    

 

         

                            ■■ 狼の商人、商人の狼 ■■

     
 
 
 
 
 『ったく、わかりやすくて可愛い奴だ。 そんな顔を魅せるんじゃ、そりゃ姫様も大胆な事をしたくなるさ。』

                                〜狼と香辛料U・第四話・マルクの言葉より〜

 地響きが、胸の中に星の穴を空けた。
 ぬらぬらと細く絡み付く祭囃子が、ひと繋がりにして歌を奏でている。
 剣戟の響きよりも重く満ちるその灯りの下の闇が神々しく、どうしても近づくことが出来なかった。
 闇夜の影を踏んで回るが如くに、堂々と人混みの中に逃げ込んだ。
 触れる人の肩の吐息が、涼やかに背を嘗めていく。
 祭りだ。
 いつ終わるとも無く、それ以前にいつ始まったともしれない、永劫の静寂。
 なのに、それが明日までには終わると、誰もが知っている。
 埋め尽くされる怒声。
 巨大な咆吼の中に、人々は皆、犇めいていく。
 皆がひとつに咲いていく。
 祭の夜。
 その断末魔の振り翳す夜陰の中で、俺はコツコツと靴音を叫ばせている。
 まだ死なないのか。
 これでもかこれでもかと、煮えくりかえる冷静に剣を突き立て。
 そして俺は、腑分けしたその祭の息吹の値を、ひっそりと。
 探っていた。
 なんだ、なにを間違った。
 その問いこそが間違っていることだけは、どうしようも無くホロの紅い瞳に照らし出されていた。
 いや。
 ホロの見据える俺の影の中に、俺はなによりも俺の胸の中のどよめきを感じていた。
 馬鹿な。
 俺は・・・俺は・・・・
 瞬時にホロへの想いと気遣いを巡らす俺を、今度こそは本当に断ち切っていた。
 だがそれは、断ち切られ細切れになったそれは、確かに祭りの音曲に溶けて、この夜に犇めいていた。
 気付かずとも俺は、それは間違いだと知ろうが知るまいがに関係無く、その夜に犇めくものを身に纏い、
 すらすらと胸の中で数えていた。
 身と心に浸みた、商人魂。
 俺はそれを疎ましいと、それこそすべての元凶だと思いながら、しかしその商人魂に身を委ねる安息
 のみを切り刻み、残りに残った、その商人の命の息吹だけのままに、動いていた。
 計算。
 瞬時にそれは成され、またその次の瞬間にはそれを踏まえた計算が、またさらに為されていく。
 不思議なものだ。
 今俺はその計算とひとつになっている。
 その計算とひとつになっている俺というのは・・・・
 俺が見たホロを識る、紛れも無い俺だ。
 

 『ホロさんのような美しい女性の悲しみを包み込んで癒してあげられないようでは、男として失格です。』
 

『馬鹿な。』

 俺の中の騎士の囁きを、打ち消すことの出来る俺は、確かにホロと繋がっている。
 ホロがその騎士の囁きのままに、俺を、男を、人間を求めることなどあり得ない、俺は確かにそう知って
 いた。
 俺はホロを識っている。
 ホロはそんな程度の奴じゃ無い。
 俺はあいつを信じている。
 俺はなにを間違えたのだろうか。
 俺はいつも通りに、ホロの誇りに値するような、そんな口車を回せる誠実な男であろうとした。
 なにが間違っていたのだろうか。
 俺がホロに馬鹿な事を言い、そして憤激したホロが、強く立ち直る。
 いや、今度こそ俺は、ホロの本音が聞きたかった。
 いや、俺は今度こそ、ホロにホロ自身の本音と向き合い、それでもきっちりとそれを背負い俺に罵声を
 浴びせられる、そんなホロの英姿を見たかった。
 この祭を、心底、最高にふたりで楽しむために。
 だが俺は間違えた。
 ホロを決定的に追い込んでしまった。
 俺が間違えたと言えるのは、そのホロが追い込まれた姿があるからだ。
 いや、いや、いや違う!
 俺の間違いは、そうして俺が間違えたという意識を、ホロの姿の中にしか見ていないことだ!
 間違いは、俺のこの胸の中にある。
 ホロが追い込まれていなければ、では俺は間違っていなかったということになるのだろうか?
 それはただたんに、それだけホロが耐えているというだけの事ではないか。
 だから俺はホロが耐えているのかいないのか、それを見抜くことだけに執心した。
 ホロは、簡潔だった。
 ホロはあっさりと、自分は耐えているが、耐えることもまた愉しみのうちよと、けらけらと笑いながら酒を
 飲んでいた。
 そうしてふたり、苦しみを肴にして飲むことが出来ていた。
 だから俺は・・・・・・・
 油断した
 苦しみを楽しみに換えられるのなら、それでいいのだと、ならば俺もホロと同じようにして生きていこうと・・
 
 馬鹿な
 俺は・・・
 俺はずっと、俺がなにを間違えているのかのその内実を全く知らずに、ただホロの姿という結果だけを
 見つめて、その結果に合うか合わないかで、俺が間違っているか間違っていないかを勝手に決めていた
 だけだった。
 その結果が、一体誰の力に依ってのものか、俺はその分析を全く見事に欠いていたんだ。
 それは、すべてホロの力によって、ホロの笑顔に依って成り立っていた、楽しい結果だった。
 俺はだから、その結果を安らかに踏まえて、だからじゃあそこから一歩踏み出そうと、そうして高らかに
 拳を突き上げていた。
 俺のその靴底が踏んでいるのは、ホロの笑顔だったというのに。
 ホロは自らの孤独から脱出するためにこそ、自分が苦しみに耐える笑いでは無く、その笑いを軽やかに
 踏み台にして遊ぶ、巨大で豊穣な人間達との幸せを求めたんだ。
 そして・・・
 ホロの本音は、ああ、そうだ。
 もう、ひとりで踏み台にされているだけの事が嫌だと、そういうことだったんだ。
 無論それは、俺にも踏み台になれという事では無いだろう。
 ホロはそして、もう踏み台になるのが嫌だから、孤独の森に還りたいという訳でも無かった。
 いや、そのいずれでも無いからこそ、だからこそ、敢えてヨイツの森に帰りたいなどと言っていた。
 ホロに引っ掻かれるかもしれんが・・・ホロは俺にそのことに気付いて欲しかったんだ・・
 だが、ヨイツの森は滅びた。
 もはや俺にひとりは嫌という事を気付かせるための、その交渉道具としてのヨイツの森は消えてしまった
 んだ。
 絶望・・・・だろう・・・・・・・それは・・・・・・とてつもない・・・・
 このまま俺に笑顔を晒し続け、苦しみ続け、踏み台にされ続け、そしてその上での幸せを求め続ける
 という、その地獄の構図を修正する可能性の、その大元のものが消えてしまったんだ。
 もう本当に、自分の求めるものは、そうすることでしか手に入れることが出来なくなってしまったのだろうか。
 ホロの静かな叫びが、夜陰に乗じて、俺にめり込んでくる。
 俺はそして・・・あのときホロに・・・・
 俺がどう思っていようといまいとに関係無く・・・俺は・・・
 俺はホロに、その地獄絵図の継続を求める、その魔の手をそっと、伸ばしたんだ。
 まるでそうするのが、そうされるのが当然と、言わんばかりに・・・・

『とどのつまりじゃ、あれは器の小さい商人でしかなかったということじゃ。』

 ならば俺がホロを愛すればよかったというのか!
 俺は正直嫉妬している、だがホロのために、あいつの求めるもののために、その嫉妬を鼻で笑いお前
 と俺の旅にとただ努力すればよかっただけなのか!
 お前は一体どれだけ俺から搾取すれば気が済むんだ!
 響く靴音が、実に根気良く饒舌に、闇夜に満ちる欲望を吸っている。
 錯綜と混乱と欺瞞が一気に噴出して、爪先に溜まっていく。
 そして、俺は。
 馬鹿野郎!
 冷静なる怒声に、冷静な罵言を突き刺す。
 怒りがあっという間に夜の中に突き立っていく。
 俺は馬鹿だ。
 祭りに浮かれて儲け話に一歩出遅れたどころの話じゃ無い。
 俺は一瞬、猛る。
 膨大な、ホロへの憎悪、理不尽さへの叫びが木霊する。
 胸に犇めくその思いが、脈々と俺の描いた俺の絵図面に心臓を掴まれているのを、ようやく。
 ようやくこのとき俺は。
 本当の意味で、識った気がした。
 俺にとっての夢の絵図面は、ホロにとっての地獄絵図。
 ホロの欲しいものはその絵図の中にしか無い、なら仕方ない地獄を生きるしか無いだろう。
 そうして俺もホロも、ホロをそうして苦しみの中に生きさせることを認めてしまう。
 お前だけじゃない、俺も、他の誰もがそうなのだから、と。
 馬鹿な。 本当に馬鹿だ。
 なら、なぜホロがいる。
 なぜ、ホロと旅を続けたいと思う俺が此処にいるんだ。
 俺は・・・
 俺の夢の絵図面を守っているだけだ。
 そんな俺の事が嫌で、どうにしかしてそれだけでは無い、もっともっと凄まじい豊穣な世界に生きたかった
 、その俺が、その俺だからこそホロと出会い、ホロと生きたいと思っているんだ。
 なのに俺は無意識のうちに、自らの絵図面を守ろうとしてしまう。
 ホロへの恨み辛みはすべて、そこから出ている。
 ああ、くそっ、頭が沸いてくる。
 なにが理屈だ、なにが間違いだ、なにが、なにが・・・・っ
 俺はその猛りのまま、一瞬商人の頭脳を回してみる。
 そうすると、その頭は綺麗に、俺の夢の絵図面を描き出していった。
 これは、逃避だ。
 それは、俺は商人でしか無い、だから商人としてやれることをするだけだという、逃げ込みだ。
 だが。
 俺は商人だ。
 ホロなら言うだろう、あくまで俺を罵倒するだろう。
 商人として。
 
 俺は、商人でしか無い商人じゃ無い!
 俺は確かに、商人でもある、俺だ!
 商人というものをどう使うか、それは俺次第。
 俺は、商人というものを見縊っていた。
 俺の商人としての誇りは驕りであり、そしてまた商人というもの自体への俺の自信の無さの裏返しだ。
 俺は商人の可能性を大幅に狭めていた。
 商人魂。
 ふつふつと、本質に迫る。
 根本に泳ぎ着く。
 気遣い。
 思い遣り。
 金儲け。
 利益。
 それはすべて、ひとつのもの。
 利益があると思うからこその、思い遣りの発生。
 そして同時に、思い遣りのままあるからこそ、そこからさらなる利益を生もうとする。
 それを実践するために必要なものは、なんだ。
 商人にとって一番大切なものは、なんだ。
 
 そんなもの。
 情報の分析に、決まっている。
 それも徹底的な、本質的な、決定的な。
 どうしようも無く、目を背けることが出来ないくらいの、その紅い瞳の凝視のままに。
 その瞳に適うもので無ければ、どんな思い遣りも利益も、なんの価値も生まないんだ。
 舌足らずに、ひっそりと消えていく、祭の過ぎた道の灯り。
 その灯りを看取り続けながら、その死を恐れるようにして、先を急いだ。
 祭の中に、祭の先へ、いやだ、ひとりは嫌だ。
 忽然と雑踏の中で人肌に触れ続けているうちに、俺はどうしようも無く酔っていった。
 憤激。
 気付かない。
 商人の計算高い脳漿が、地響きを立てて、圧倒的に回っていることに。
 なのに俺は、俺はなのに、そこに、果てしない命を感じたんだ。
 商人のままに、純粋無垢に行動している。
 俺は思い遣りを気遣いを切って捨てた。
 今はただ、計算のままに。
 その別々に為されていくふたつのものが、合わさったとき、俺はなにを考える?
 今まで俺は、その提出されたふたつのものに、矛盾を感じることしか出来なかった。
 だからどちらか一方か、互いに譲歩を求めて、形だけでも整えてきた。
 それが、矛盾すること無き、最高にしてすべてを満たす奇跡の、希望の一手となることなど考えもせずに。
 俺はそのふたつを向き合わせることを、恐れていた。
 だから、俺は思い遣りに、計算に、それぞれ逃げてきたんだ。
 ホロ・・・
 俺は・・・・・
 わからない・・・・
 だが・・・
 だから・・・・やっている・・・
 思い遣りと、計算の結果を突き合わせるためにこそ、今純粋にそれぞれを別個にやっている。
 そして、おそらく。
 お前の求めるものは、思い遣りと計算の、そのどちらにも無いということを、俺は確信した。
 俺は俺の孤独を、ようやく、識った。
 ・・・・・・
 ホロのやつ・・・アマーティとの婚姻証に署名するなんて・・・
 アマーティは俺との勝負に勝つことで、そのホロの名が刻まれた婚姻証を手に入れる権利を得る。
 衝撃と怒りと、そして、なによりも深い閃きがあった。
 俺は・・・調子に乗っていた・・・
 元々、アマーティが俺との勝負に勝ったとしても、ホロが俺の元から離れていかないということは、俺の
 見たホロの姿として識っていた。
 だからただ、アマーティとの勝負を愉しみ、そしてそれを元手にして商売の手を広げられないかと考えて
 いた。
 それ自体は、ホロも望むところのものだったろう。
 だが、そのアマーティとの勝負の愉しみと、商売の拡大を享受出来るという、その礎は一体なんの上に
 立っていたのだろうか。
 それは、ホロが俺から離れていかないということ。
 ホロがそれを望んだ。
 孤独から抜け出して、俺と旅をして幸せを掴みたい、それに応える俺が居続ける限り、そもそもホロが
 アマーティの元に行くことなどありえない、俺はそう考えていた。
 だが。
 そのやりとりを続けられるのは、そのまま続けられるのは、俺だけだったんだ。
 ホロはそのやりとりを、今のまま続けていたら、いずれ耐えられなくなる。
 いや、本当は俺もまた・・・
 迂闊だった。
 迂闊どころか、なんという・・・・
 そもそもが、ホロの孤独とは、そういうものだったはずじゃないか・・・・
 だから、ホロは判を押した。
 俺に挑戦状を叩き付けた。
 わっちを見事、競り落としてみせよ、と。
 無言で、あいつの紅い瞳は、そう言っていた。
 涙を耐えて、月明かりに堪えて、抜き差しならない、自らの孤独を懸けるままに。
 ホロとの祭の夜の楽しみを奪ったのは、俺だ。
 俺はおまえを信じていると、そうホロに言った。
 だが。
 なにより、なによりもホロこそが、俺のことを信じていたんだ。
 ホロが俺から離れていく訳が無い。
 これはそう俺が信じていることのものでは無く、ホロがその俺の信頼に応えているがゆえのものだ。
 ホロは絶対に、俺から離れない。
 だが。
 それはすべて、ホロの努力によるもので、ホロの功績だ。
 御陰で俺は、ホロが俺から絶対に離れていかないと信じることが出来た。
 自信が持てた。
 だが、ホロは?
 ホロはどうなんだ?
 ホロは、俺がホロから絶対に離れていかないと信じることが出来ているのか?
 いや。
 俺は、そうホロが信じるに足ることを、してきたか。
 俺は・・・・
 俺は・・・・・・・
 俺はただ、ホロが俺からは絶対に離れていかないと信じて、その安心に自信を持っていただけだ。
 その俺の安心と自信は、ホロが全部、俺に与えてくれたものでしかなかった。
 ホロは信じている。
 俺が絶対に、ホロからは離れていかないということを、ホロに信じさせてくれると。
 俺はそのホロの信頼を、裏切り続けていた。
 俺は、信じるも信じないも自分次第だ、なんて思わない。
 そう思わざるを得ない状況自体が、既に孤独に負けた結果だと思っていたからだ。
 だからこそ、ホロを信じるも信じないも俺次第、などと愚かに嘯く暇も無いほどに、圧倒的にホロの存在
 を信じさせてくれた、そのホロにこそ深く惹かれたんだ。
 そして・・・
 それはホロも・・・同じだ・・・・
 いや・・・・同じだということを知っていたからこそ、俺はホロに・・・・
 ああ・・・なんてことだ・・・・
 俺も、孤独なのじゃないか。
 俺の胸の中で、今までにホロは三度泣いた。
 俺は、ホロの涙で濡れた俺の胸の中に、孤独の水底を感じていた。
 俺が・・・本当に望んでいるのは・・・・
 それを考えたとき。
 ホロの見えない涙が、俺の瞳の中に広がっていくのを、またようやく、識った。

『そう、あなたに決闘を申し込んでいるのです、アマーティさん。』

 無論、商人として。
 ひとりの男として、商人のままに、騎士道精神逞しいアマーティさん、あなたと戦います。
 商人としての俺に、俺のすべてを懸けて。
 いや。
 俺に、商人の持てる力と頭脳を湯水の如くにすべて注ぎ込んで。
 戦います。
 ホロを勝ち取るために。
 主体は俺なんだ、ホロ。
 俺の欲しいものを得る手立ての結晶、それが俺の商人魂だ。
 商人の魂に殉じるつもりは欠片も無い。
 だがその商人としての俺の命を捨てる気も無い。
 俺はお前を見失わないぞ、ホロ。
 なんのために稼ぐのか、なんのための商人の論理か。
 すべては自分が求めるもののために、だ。
 マルクに教えられたよ。
 その自分の求めるものこそが、より商人として大きなものを得るための礎になるのだと。
 俺には、それを信じさせてくれる、ホロ、お前がいる。
 それを元手にして俺は。
 その元手をさらに確かなものとするために、お前に俺の存在を信じさせるために力を尽くそう。
 そしてきっと。
 そうしてなによりも確かな自信を得た、俺とお前が組んで為す商いはきっと・・・・
 − 世界の豊穣へと 確かに深く ほんとうに繋がっていける気がするんだ
 ホロに怒鳴られる自分の姿は、もう見えなかった。
 俺の中に、俺がいる。
 囁き、俯き、顔を覆うままに、怒り狂う俺こそが此処にいた。
すべてが勢いづいた、その嫉妬の炎に裏打ちされていく。
負けるものか
誰にも渡すものか
俺の力をみせてやる
俺の力がこのときのためにこそあったということを、知らしめてやる
圧倒的に
絶対的に
姑息に、陰険に、使えるものはすべて使っての
完全勝利
俺こそ
本当に
怒っていた
アマーティとの婚姻誓約証にサインしただと?
嘗めるなよ、この狼が
商人を、嘗めるなよ
俺は
俺の胸の水底に浸る俺の狼は
やっと
その商人の息吹に、頼りを寄せた
意地でも、俺を信じさせてやるぞ、ホロ
そして
覚悟して
待っていろ
 
勝利の暁には

 
俺を信じるお前を少しでも諦めようとした、
 
その一匹狼丸出しの、そのお前の尻尾を
 
思い切り、踏みつけてやるからな
馬鹿野郎
賢狼の 名が泣くぞ
ホロ。
信じる必要も無く
俺の胸の水底には
賢狼と呼ばれた
ただのホロが
優しく 甘く ずっと いた
夜明けまで程遠い
この夜風を肩で切りながら
俺はしっかりと大地を踏み締めて闇の中へ走り出していた。
このたゆまぬ足が、この夜道を越えていくことを、やがて限りなく感じながら。

 ◆ ◆

 基本的に。
 私はホロの頬を張り倒したい。
 今一発、殴りたい。
 ただ、ロレンスのその想いとは少し、意味合いが違います。
 というよりむしろ、ロレンスのそれは、ホロに頬を張り倒し返されてこそ意味があるようなものです。
 私の場合は、違います。
 それについて、少しお話させて頂きましょう。
 なんとなく、違和感を覚えてはいたのです、第一話から。
 ホロは、なんというかこう、とてもおかしな事をしているような気がするのです。
 というより、ただたんに、ロレンスに甘えようとしているようにみえる。
 いえ。
 本当は、ホロはなんだかんだと、色々わからなくなっているような気がするのです。
 ある意味ホロは、非常に上手く自分がしたかったことを成し遂げ続けていられるように感じています。
 けれど、だからこそ、そうして得た権益を、守ることに重点を、ふと、置いてしまおうとした。
 途端に、不安が増大します。
 そしてその不安の中のひとつとして、ふと、本来ならその程度の不安では捉えられないはずの、
 とあるものが浮上した。
 それが、孤独。
 ホロの、孤独。
 正直、この第四話のホロを見て、少しがっかりした部分があったのです。
 たとえ引き金が小さな不安だったとはいえ、そこからしっかりと膨大にホロのあの孤独の問題の本質を、
 再度改めて、そして今まで以上のものとして向き合えていくようになれば、それは全く問題無い、
 いえそれどころか、全く面白いことになるのだと思っていました。
 少なくとも、前回の話までは。
 事実、そういう流れになっていましたので、私は非常に期待していたのです。
 ところが、今回のホロのあの表情を見て、そういうことでは無い、というのがわかったのです。
 アマーティとの別れのあとに、すっとロレンスに向き直った、あのホロの顔。
 あれは、覚悟の決まった顔です。
 そして、なにより、覚悟が決まったという事を、ロレンスに示すための、その顔です。
 ロレンスは、ホロがアマーティと素早く会っていたこと、そして婚姻証にサインしていたことは驚きだったの
 でしょうけれど、私からすると、これは当然のことです。
 ホロは、絶望など、全くしていない。
 絶望を、道具として、ロレンスを誘っているだけです。
 婚姻証にサインしたというのは、ロレンスとの絶縁宣言では無く、ロレンスに復縁のチャンスを与えたもの
 であるということです。
 絶縁状をわざわざ突き付けるという行為そのものが、既に復縁を前提としたもの。
 それが、ホロの魅せたホロの覚悟の表情の正体です。
 私はてっきり、前回の様子からして、今回ホロはただ呆然となにもすることなく、宿舎のベッドにもたれて
 いるだろうと思っていました。
 ホロが絶望の淵に落ち、そして本当に孤独に攻め落とされていたのなら、そうなるはず。
 なのにホロは、ロレンスと別れてのち、あまり時を置かずにアマーティと接触を図っています。
 確信犯です。
 いえ。
 ホロは確かに不安に囚われてはいた。
 ですから、前回までのあれは本当なのですし、間違い無く、あの時点でホロは絶望の淵に落ちたの
 です。
 でもホロは、絶望と孤独の淵に着地した瞬間に、そのまま跳び上がり、一瞬で元に戻ってきたのです。
 いやじゃ、ひとりはいやじゃ。
 これまた正直に言えば。
 ホロは、その絶望と孤独とは向き合えなかったのです。
 絶望と孤独に対する絶対的嫌悪感が、そして、目の前にこうしてロレンスが、絶望と孤独に触れながら
 も共に生きられる男がいながら、その絶望と孤独に地獄へ連れていかれるのは、絶対嫌じゃと、
 その圧倒的な欲望がホロを跳ね上がらせたのです。
 そういう意味で、この第一話から続く一連のエピソードは、いわば第一期までで行ってきたことの、補強
 にしか過ぎません。
 まだまだ、その次の段階に行っている、という訳ではありませんでした。
 私はホロの頬を張りたい。
 それは、ホロも同じことでしょう。
 ホロも、ホロの頬を張りたい。
 ええ、そうなのですよね。
 この一連のエピソードは、そうして今までの自分の幸せを補強するための、危険なギャンブルである
 事から本質的には逃れられない、そういう意味でのホロの自責の念と。
 そして。
 そうして自分の頬を張りながらも、そうして紅く腫らした頬を暖かく濡らしてくれる、ホロ自身の幸せな
 涙があるゆえの、その殴打なのですよね。
 馬鹿馬鹿しくて涙が出てきそうなのだけど、その涙はこうしてロレンスと楽しく旅をすることが出来る
 事のその嬉しさと、実はしっかりと繋がっているのだと、ホロは感じるでしょう
 マルクの言うとおり、あんなに懸命に真摯に、けれど賢く商人としても全力を出し切れる、そのロレンスが
 自分目指して駆けてくるその喜びと、そしてそれを放っておけるほど慎ましくも倹しくも愚かでも無い、
 あのホロさんの強さがあるということは。
 これは、なによりな、希望。
 そのロレンスの頑張りが、どんなに阿呆でたわけなものであっても、それに激怒して噛み付ける、その
 ホロさんの怒りが、絶望的であればあるほど。
 ロレンスもまた、手前勝手ながらも、少しずつホロに近づきながら、食い下がっていく。
 ホロにはロレンスがあり、ロレンスにはホロがある。
 そして実は、ホロが孤独のホロを見つめれば見つめるほどに、自分の中にもロレンス的な素直なものが
 確かにあることを感じることが出来、そしてロレンスが愚かなロレンスを見つめれば見つめるほどに、
 自分の中にもホロ的な哀しみがあることを知ることが出来るのです。
 狼の商人、商人の狼。
 そのふたりがいれば。
 きっと、本当に絶望と孤独の淵の中でさえも、生きられるようになるのだと、ホロは思っているのでしょう。
 ある意味これは、ホロの怪我の功名です。
 転んでもただでは起きないどころか、転んだことですべてが氷解するホロ。
 ホロは無心です。
 無心ながら、その無心の外に、もうひとりの自分はちゃんといる。
 けれど、主体は確かに、その無心のホロにあるのです。
 ホロは演技もしていなければ、危険なギャンブルをしている気も、実は無い。
 無心のホロは、そうです。
 もうひとりの、自分のやっていることは本質的にはそういうことなのだと言い切れる、そのホロはその無心
 のホロの中にはいない。
 腑煮えくりかえり、耐え難きを耐え、絶望の淵に確かに浸りながらも、その激情が荘厳に淫らに圧倒的
 に動かしていく。
 その無心のホロの境地からは、ロレンスへ与えた絶縁状は、まさに絶縁状そのものです。
 ホロは、本気で絶縁を迫ったのでしょう。
 当て付けというのは、復縁の責を相手に押し付ける事と同時に、純粋な怒りで以て成り立っています。
 ですから、ロレンスがあくまでホロの絶縁状を、復縁委任状としてしか受け取らなければ、それは
 ロレンスによるホロの「ツンデレ」化に他なりません。
 そして。
 おそらく、冷静なもうひとりのホロは。
 無心なる自分の様を責めつつ、さらにそれよりも遙かに冷静に、そのロレンスこそを見定めていたのです。
 絶縁状として受け取るか、復縁委任状として受け取るのか。
 本当にホロが怒っているのか、ほんとは素直になれないだけなんだろと受け取るのか。
 そして、なにより。
 本当に怒っているとして受け取りながら、だからこそロレンスこそもまた怒り、絶対に見返してやると
 一大奮起して駆けずり回る、その誠実にして有能な、そのパートナーの姿を、ホロは望んでいるのです。
 途中途中はかなり怪しいですけれど(笑)、その最後の「怒り」という部分は、きっちりとロレンスは、
 ホロの願いと繋げることが出来ていたのだと思います。
 わっちはぬしのなんなんじゃ。
 ホロのその叫びはつまり、ロレンスはどうしたいのか、ということ。
 いつまで、わっちの顔色のせいにしている気じゃ!
 『わっちはぬしのなんなんじゃ。』という、そのホロの、本来ホロが向き合うべき孤独の問題に於いて、
 (どちらかというと悪い意味で)重要なその言葉の意味が、そう変換されたことからみても、今回の
 お話が、そうしてホロとロレンスというコンビの強化自体のためにあったというものを、さりげにネタ晴らし
 してあったりしたのかもしれません。
 うん、そういう意味では、ロレンスは滅茶苦茶すごかった。
 もうね、うん、感動っていうか、感激した。
 ほんとマルクの言う通り、あんな顔されちゃ大胆な行動に出れちゃいますよ。(笑)
 おまけに、行商人ロレンスとしての能力の高さが、なんだかやっとある意味解禁された感がありました。
 なによ、あれは。 あのアマーティとのやり取りは。
 すげー、ホロを敢えて「ツンデレ」化して扱って見せることで、アマーティの頭に血を上らせるなんて。
 『ホロは旅の途中私の腕の中で三度泣きました。そんなときはなかなか可愛いんですが、あいにくと
  意地っ張りでね。本心と違う言動を取りたがるんです。』って、おい、よく言う言う。(笑)
 そうなんですよね、潜在的にロレンスはホロをツンデレ化しない、というかツンデレという概念を知らずに
 (当たり前だw)それが自分の精神的怠惰ゆえの選択だと認識しているからこそ、常にホロを大らかに
 生暖かく受け止め手前勝手に自分を上位に置く、など考えない。
 まぁ、ホロにはあっさりと見透かされて虚仮にされるだけなので、やるにやれないだけかもですけど。 (笑)
 けれどそれがやっぱり、ホロが見抜いたロレンスの天性の誠実さであって、逆に見抜いているからこそ、
 ホロこそがそのロレンスの誠実さを育成する事に大きく寄与しています。
 ホロがからかうたびにロレンスは真面目に憤激しますけど、そのたびにロレンスはその憤激の意味を
 ちゃんと考えますし、同時に自分がどうすれば良いのか自分のために考えます。
 そう、勿論、ホロのそれをただの「挑発」として捉えて、ふん乗らんぞ俺はそんな事で揺らぐ男じゃ無い
 とか言って誇りだか小さいんだかわからないまとまり方を、ロレンスはしない。
 まぁ時々あまりに負け続けで悔し紛れにやろうとするけど、それこそホロさんは狙い撃ちに粉砕してくる
 ので、なんかもう、ロレンスさんは絶対に頭が上がりません。(笑)
 でもま、この作品に於ける男の魅力は、その女への頭の上がらなさにありますし、そしてそれはなにより、
 それを踏まえた上での、さらに深いレベルでの女を包み込み導く、その意外性に満ちた「優しさ」にこそ
 あると思いますから、むしろロレンスさんの株は上昇の一途。
 そして今回は、稀代の恐妻家マルクさんのその「優しさ」が、商人としての徹底した損得勘定を踏まえ
 た上での、それを元手にした優しさになっていて、ああもう、マルクさんいいなぁみたいな。落ち着け。(笑)
 このマルクさんの理詰めの優しさは、第一期のマールハイト支店長の賢明な優しさに通じていて、
 なんだかこう、狼ファンとしては嬉しい限りです、と思わず陳腐に呟きたくなってしまいます、ああもう (笑)
 はぁ、しっかし。
 今回はほんと迷いました。
 感想をどっちで書くか、そうしてどちらの方向に向けて書くか。
 最初はホロで書く気満々でしたけど、ロレンスにあそこまでやられちゃったらねぇ。
 でもロレンスで書くと、この作品自体がどちらの方向に向かっているのかを示すまでは書けなくて。
 どちらの方向というのは、つまり、この作品が今までの補強に走ったのか、それともその次の段階に
 行っているのか、ということです。
 だからそれを考えると、ほとんど描かれていなかったですけど、暗い部屋の中でベッドにもたれている、
 あのホロのままに色々と書いていこうかな、とも思ったのですよ。
 そっちの方がなんか狼らしいし、私の感想らしいし。
 だけど、ロレンスに負けちゃった。
 ロレンスの頑張りの魅力に負けちゃった。
 でもなんかホロ的なことは書きたいんで、あ、そだ、あとがきで書いちゃえばいいんだと閃いて、
 方向性とかもそれでついでに、みたいにして、こうして今回の感想文はこのような体裁となった訳です。
 ・・・構成としては、あきらかに今回の感想は大失敗です♪ (微笑)
 でも。
 ロレンスは、「発掘」しなくちゃ。
 この作品はもう、ホロだけじゃ足りないですもん。
 もう、ロレンスが、ホロと、私の前で、そのやる気を魅せてるんですから。
 ホロと、ロレンス。
 ロレンスと、ホロ。
 私はこの狼と香辛料というものを、そういうものにしていきたい。
 勿論、感想の書き手として、ね。
 今までホロに翻弄されホロに惹かれるだけだったロレンスが、今度はそのホロを翻弄しホロを惹き付ける
 ようになってくれれば・・・・
 ホロ的な私にとって、これほど嬉しいことは無い。
 ええ。
 今までのロレンス的な私にとって、今までのホロの存在がなによりも嬉しいものであったのですからね。
 そして。
 勿論。
 そのロレンス的な私にとって嬉しいホロの存在もまた、これからどんどんと深まっていくのでしょう。
 今回の一連のエピソードには、肩透かしを喰らわされた、という方向で今回感想を書きましたけれど、
 それは同時に、その肩透かし自身が築いたものはやがて、いずれ訪れるであろう本当に強大ななにか
 と向き合うための、その礎となったのだと、私は受け取っておきます。
 私はロレンスが、ホロと同じものに向き合えると、信じていますから。
 『一寸先は闇だな。』 byマルク
 
 その怒りに満ちたホロの闇の中にこそ、歩むべき道があるよね、きっと。
 それを今回、私はロレンスに、優しく、深く、信じさせて貰いました。 
 やっべ、そろそろ本気で惚れてきたよ。(爆)
 と言いつつ。
 こう書いてきたままに考えると。
 むしろどんどん逆に、ホロの深い闇こその恐怖が、がくんと音を立てるほどに感じられたり。
 次回、ホロこそにご注目。
 私が今回書いたようなホロの内実こそ、ホロが私達とロレンスの目をくらませるための道具である
 可能性も高い。
 なにかやってくれると、むしろ私は今回のある意味見え見えなホロの有り様に潜むものこそに、期待
 しています。
 というか、次回またロレンスと私に顔を覆わせてくれるような展開を期待。(ぉぃ)
 ということで、今回はこの辺りにて。
 なんだか回を追うごとに文が長くなってきてしまいまして。 自重自重。
 でもわざわざ書きませんけれど、というかもう分量的に書いたらアレなので書かないだけですけど、
 諸々のひとつひとつの仕草の陰影とか、それとマルクの家族という感触の広がりぶりと、そして次には
 またもうバトスとディアナが絡んでくるというその繋がりぶりとかで、もうほんとそれで御飯三杯を肴にして
 お酒を一本空けられちゃいそうです。・・・・・自重自重。 (笑)
 
 それでは、また次回お会い致しましょう。
 狼万歳! そしてロレンスに拍手! 頑張れ!(笑)
                              ◆ 『』内文章、アニメ狼と香辛料U」より引用 ◆
 

 

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