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◆◆◆ -- 2011年2月のお話 -- ◆◆◆

 

-- 110217--                    

 

         

                               ■■ 風邪やってました ■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう。
 
 
 はい。
 ここしばらく風邪をひいておりました。
 こじらせておりました。
 
 ええと、先週の水曜に、急にころっときて、気付いたらマッハで39度を超えていたりして、
 あわわと狼狽えているうちになんか頭の中が色々適当になってきて、チャットにお休みのご報告を
 しなくちゃということくらいしか頭に無くなってきて、で、チャットの挨拶でも語尾に「w」とかつけて余裕
 っぽさを演出とか素で考えている私の額には冷たい汗がひやりと、ていうか全然余裕無いというか
 色々足り無くなってきて、取り敢えず寝込んでおこうとか思ってて気付いて目覚めたら半日経って
 いたっていうかガチで寝込んでいたっていうか。
 そんな感じで週末まで高温をキープして頭の中のお花畑の育成に勤しんでいたりしていて、
 でも少し体温下がってきたかなぁ、思ってたら寒波直撃。
 
 雪とか、降るなよ。
 
 寒さとかわかんないくらいに頭ふらふらのとき雪とか降るなよ!
 
 ていうか、初期症状がインフルっぽかったので、病院いこうと思った日が丁度金曜で祝日でどこも
 休診日で、しゃーない、次の日にしますか思っていたら次の日雪ですよ極寒地帯展開ですよ。
 行けるかぁー! こんな中行ったらインフルがインフル以外のなにかになってしまうわーっ!
 とまぁそれでも根性で行くべきだったのかもしれませんけれど、熱も少し下がり気味でしたし、
 なんか咳とかもあまり出なくて、それはインフル違うんちゃう?、と友人にも言われたので、
 ま、いいか、というお熱にやられていつもより数段いい加減さというか致命的さを獲得したお脳様が
 そう仰るので病院はやめ。
 おとなしく休養してようそうしようということで。
 
 気付いたら、今日になってました。 (微笑)
 
 
 うん。
 もう熱とか結構早めに下がったんですけどね、インフルとかだったらもっと続くらしいので、
 それは良かったのですけれど(結果論)、で、色々ともう一昨日辺りから始動していたのですけれどね、
 まだ本調子じゃ無いというか、なんかすぐに疲労が出るというかなんかだるさが抜けないというか、
 なんかいつもの風邪の病後とちょっと違うのよねー、あとなんかお腹の調子良くないし。
 夏に手術したとこが関係あると思うんだけどねぇ、なんかお腹が便秘でも無いのにすぐに張るし、
 それが原因かわかんないけどめまいとか吐き気も少々するし、で、さすがにそれは心配だったので
 病院行ったら医者の人はでどうなってんですか私のお腹は、という私の質問に対して、
 「心配しなくていいよ。(微笑)」の一点張りでロクに答えてくれないっていうか私もう駄目なの?(微笑)
 みたいな感じで、えーと。
 
 気付いたら、今日になってました。 (微笑)

 
 ということで、今日より、復帰させて頂きます。
 復帰宣言!!
 まぁまだ本調子じゃ無いですけれど、なんか画面特にネットを長時間観てるとめまいがひどいので、
 うん、無理しない範囲でゆっくりとした復帰になりますけれど、復帰ったら復帰なの!
 お腹の方も、うん、悪い冗談を言ってしまいましたけど、要は一時的な事なのでしばらくすれば治る
 という感じらしいので、うん、大丈夫ですので、ご安心を。
 色々と、ご心配をおかけ致しました。
 チャットの方も、本日より参加させて頂きます。
 日記も、今日から、はい、ていうかまぁ今日は復帰宣言だけですけれどね。
 刀語の感想は、来週から、という事になります。
 まだ本調子じゃ無いので、少し時間をかけてゆっくり書いていこうと思いますので、
 よろしくお願いします。
 ・・・・。
 なにこの全く落ち着きの無い復帰宣言は。 (まぁ落ち着け)
 
 
 
 
 
 
 
 うん。
 今回こんだけ長引いたのは、やっぱり一番キツい時にアニメ断ちしたのが原因だと思います。
 やっぱりほら、栄養はちゃんと取らないと、ね。 (微笑)
 
 
 
 ということで、今日はこの辺りにさせて頂きます。
 改めまして、色々ご心配頂き、誠にありがとう御座いました。
 
 それでは、また。
 ごきげんよう。
 
 
 
 
 
 
 



 

-- 110208--                    

 

         

                              ■■ 一大事にござる! ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 十 六 茶 飲 ん で る 場 合 じ ゃ ね ぇ ー っ ! !  (挨拶)
 
 
 ごきげんよう、とか言ってる場合じゃ無いです。
 ほんとにけいおんストラップ欲しさに十六茶とか飲んでる場合じゃ無いです。
 
 あ、私、前回のロー○ンとのタイアップでのクリアファイルを手に入れ損なった教訓から、
 今回は深夜0時には行って買ってしまおうと、残念な方向に全力を出しかけていたところ、
 ネット情報により既に販売が始まっているというのを知り、急遽予定を変更してそのまま最寄りの
 コンビニを四軒回ってゲットしてきたりしてたんですよ。
 うん、最初に行ったお店で、唯ちゃん、澪ちゃん、あずにゃんを発見して確保しましてね、
 やー、やっぱり澪ちゃんとあずにゃんは人気あるだけあって沢山あるなー、って、いやいやいや、違うから、
 ていうかなんで人気ワーストワンツーフィニッシュ(ぉぃ)のりっちゃんとむぎちゃんが無いの!?、
 前回のクリアファイルんときにりっちゃんだけ売れ残っていたりした惨劇を繰り返さないために、誰かが
 むぎりつだけ買い占めてったの?、でもよかったねふたりとも♪、と和やかな空気の中、
 次のお店はりっちゃんでした。
 オール、りっちゃんでした(微笑)、りっちゃんはやっぱりりっちゃんでした(微笑 ぉぃ)
 うん、わかってる、私欲しいのひとつだけだから、全員は連れてけないから、ごめんね、
 ということでおひとつだけ頂いて、んで次のお店に行ったら、全員居なさって。
 むぎちゃん以外。
 なんだこの展開、この展開はさすがの私も読めなかったぞ、どうしたむぎちゃん、むぎちゃんどうしたの、
 とまさかのむぎちゃん大人気の展開、よもやむぎちゃん探して四軒も回るなんて思わなんだ、
 というよりそれ以前にもうみんな売り切れてて、必死にせめて唯ちゃんだけはって感じで
 唯ちゃん探しに奔走する予定はあったけれどまさかのむぎちゃん、むぎちゃんゲットの旅開始、
 とか思ってたらあっさり四軒目で、勢揃い。 みんな居たー!
 最初からこのお店に来ていればよかったのにぃ、でもよかったむぎちゃん、これでまたみんな一緒n
 
 
 
 
 っ て 言 っ て る 場 合 じ ゃ な い 。
 
 
 
 
 
 ◆
 
 ちょ、え、ま、え、えぇええぇ!? (まぁ落ち着け)
 きらら本誌でけいおんが今春より再始動!?
 え?これ続編ってこと?そういうこと?んじゃアニメももしかして三期?
 
 
 どど、ど、どうしよう。 (おろおろ)
 
 
 そ、それは嬉しいよ?、う、嬉しいけど、続編て、いやいやまだ決まった訳じゃ無いけど、
 でももし仮に続編だとしたら、なに描くの?、大学生編?、それともあずにゃん達を主人公にしての
 後輩編?
 ど、どっちにしてもその・・・・・
 大 丈 夫 ? (おまえもな)
 
 あ、うん、大丈夫、私もう大丈夫、落ち着きました、うん。
 うん。
 そうね。
 うん。
 
 私的には、そりゃまぁ、嬉しいですよ、嬉しい、正直に嬉しい。
 ただ、原作は読んで無いのでわからないですけど、アニメはかなりばっちり綺麗に終わったので、
 あの終わりは終わりできっちり保護したい、というのもあるのですよねやっぱり。
 それに、あの作品は唯ちゃん達が高校生ってところが結構肝なとこあるかなー、なんて思いますし、
 大学生となると、あのゆるゆる~な感じが別方向にゆるゆるになっちゃいそうで、高校と大学じゃ
 ゆるさの質が違いますもんね、あれは高校という、ある一定の方向性というかまとまりという枠が
 ある場所の中でのゆるさが活きる作品であって、大学的な素な開放感になっちゃうと、これは
 なんかけいおんとはべつものになっちゃうっていうか。
 
 でも 正直
 けいおんに 挑戦して貰いたい、って気持ちも同じくらいある。
 
 高校生編は高校生編で、あれでよし。
 あれをけいおんと呼ぶのならけいおんと呼んでよし。
 だから、それはそれでちゃんと保護しといて、だから次いってみよう、みたいな、今度は、
 けいおんがけいおんをやらなくてもいいから、あの子達が大学に入ったらどう変わるのか、
 それは是非観てみたいんですね。
 けいおん的なゆるさというか暖かさというか、それを継続するのは無理ですし、でもだからって、
 大学でそれを全否定してなんかカチカチになっちゃってもしょうがない。
 
 だから。
 高校生編とは全く違う。
 そういう、新しいけいおんらしさ、けいおんらしいゆるさ暖かさを開発して欲しいな、って。
 
 高校時代には高校時代のゆるさがあり、大学時代には大学時代のゆるさがある。
 それぞれのゆるさを継続するのが無理なら、新規開発していけばいいし、それでこそ私はけいおん
 らしいと思うなぁ。
 大学編が終わったら、それこそ社会人編やったら、もっと面白いし、それすっごい刺激的。
 そしたらもっと、けいおんの世界が広がる。
 そして、私達もみんな、けいおんを現実としてもっと生きられる。
 それがいいよねぇけいおんは、けいおん的生き方を実践して自分のライフスタイルに取り入れる事は、
 とっても素晴らしくて素敵なことだと思うし。
 うん、だから、そういう観点で、私は仮に続編をやってそれが大学生編だったとしても、私は
 積極的にそれを歓迎できそうな気がします。
 うん、けいおんをただのアニメの中の世界で、それをアニメーションとして密やかにただ愉しむだけの
 ものとして取っておきたければ、確かにあのナイスな終わり方でよしとして保存しときたい、というのは
 あるけれど、んー、それはそれとして、けいおん的生き方を実践したいと思うことで、それって、
 両方ともあり、っていうか併用可能なものだとも思います、うん。
 
 うん、そう思うんだ。 ←十六茶飲みながら
 
 
 
 ということで、わたくしことけいおん馬鹿的には、あり、とのことです。
 ありだそうです。
 よろしくお願いします。 (なにを)
 
 
 
 
 ◆
 
 ということくらいでしょーか、今回は。
 っていうかなに書こうかなって考えてたらこんな事態になってしまったような感じです。
 けいおんだけ あればいい  (少なくとも今週は)
 
 
 とか言っておいてなんですけど、他になにかお話することあったかな?
 アニメは、んー、まぁ、うん、特に語ることも無い感じで楽しんでおりますれば、今回は特に無し。
 あー、でもそうですね、もう二月ですか、まだ早いですけど、来期の作品がどんなのあるかな、的な、
 そういうメモ的な、そういうのしときましょうか。
 
 
 メモ:
 
 もしドラ:
 ゆうめいだから。
 
 けんぷファー fur die Liebe:
 楽しみです。
 
 銀魂’:
 き た き た き た ー っ !! 
 
 戦国乙女~桃色パラドックス~
 どうか恋姫無双の跡目を。
 
 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。:
 これはあだ名じゃ無いなにかだ。
 
 [C] THE MONEY OF SOUL AND POSSIBILITY CONTROL:
 シリアス&スタイリッシュ! ←なんかカッコいいこと言ったと思ってる人
 
 STEINS;GATE:
 まるで目が死んだ魚のようだ。
 
 日常:
 こいこい、どんとこい。
 
 デッドマン・ワンダーランド:
 がんばって。
 
 DOG DAYS:
 ケモミミスト。
 
 ロッテのおもちゃ!:
 可愛くなれ可愛ry
 
 電波女と青春男:
 電波。
 
 緋弾のアリア:
 緋弾。
 
 花咲くいろは:
 咲けばいいじゃない。 (微笑)
 
 Aチャンネル:
 これは演出次第。
 
 ほんとにあった!霊媒先生:
 霊媒なら仕方ない。
 
 まりあ†ほりっく あらいぶ:
 お待ちしておりました、閣下。
 
 
 
 ・・・。
 現時点で、17作品に反応。
 ・・・。
 まだこれからも放送決定が告知される作品出現の可能性あり。
 ・・・。
 い、一体なにが起きてるっていうの?
 
 
  ・・・・。
 
  まぁあれだ。
  取り敢えず、今期に戻ろう、今期に。 (狼狽えるな)
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 P.S:
 次回更新は、刀語第十一話「毒刀・鍍」の感想を予定しております。
 ちょっと早めに更新出来ればと思っております。
 
 
 
 
 



 

-- 110203--                    

 

         

                                    ■■ - 命 - ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『やっぱり、だからどうしたって感じだよ。
  べつにどうでもいいじゃん、みたいな。』

 
  『気楽でよいな、そなたは。 少しは悩む事を覚えろ。
   ・・・ま、それもまたよいのか。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 


 

 

 


 
 
 
 
 
 
 
 
 私は、自分の目的を達成するために、命を捨てることが出来るのだろうか?
 
 いや、言い換えよう。
 私は、自分の命を捨ててまで、達成したい目的があるのだろうか?
 私が今達成しようとしているその目的は、果たして私の生に値するものだろうか?
 
 
 ・
 ・
 
 
 
 
 
 私は、父の仇を討ちたい。
 いや、必ず討ってみせる。
 私は父が殺されたその日から、私のすべてを仇討ちに捧げてきた。
 私の生も、そして、死さえも。
 まさに、先ほどの私の問いに対する答えを、私の人生が体現している。
 私は命を捨てても構わないほどに、仇討ちという目的を達成するため邁進した。
 ほんとうに、私のすべてを懸けて、だ。
 楽しいことなど、なにひとつ無かった。
 いや、楽しいことはあった。
 そして、その楽しいこともまた、仇討ちを遂行するために必要な駒として使った。
 すべてを肯定した。
 仇討ちを遂行するために。
 ただただ、そのために。
 
 私は、父の仇を討つために、戦うのだ。
 
 
 
 ではなぜ、私は父の仇をそんなにまでして討とうとするのだろうか。
 親の仇を討つのは子として当然だから?
 武家に生まれた者として、それは当然だから?
 そうであろう。
 私は肯定する。
 なぜなら、私は真っ先に、それらのくだらない当然を否定するからだ。
 父が親で、父が武士だからだ。
 私は父を否定する。
 父は親らしくない親で、武士らしくない武士だった。
 謹厳実直、不言実行と、まぁ武士を飾る言葉は多くあるが、我が父上殿は、そのすべてに反していた。
 口は達者、実直とはほど遠いひねくれ者、ましてや謹厳さなど、あのいやらしい笑みのどこにも無い。
 親としての事については、もはや語るのもおぞましい。
 そんな男に対して、娘として武家として当然のことをせねばならないなど、あろうはずも無い。
 あり得ない。
 だが、それでも父は親であり、武士だった。
 だから肯定する。
 父を否定するために。
 親らしからぬ武士らしからぬ父を否定するために、武家の娘らしき仇討ちの論理を肯定する。
 無論
 親らしからぬ武士らしからぬ事を否定するために、武家の娘らしさを肯定するのでは無い。
 あくまで、父そのものを否定することを肯定するために、
 私は方便として武家の娘らしき仇討ちの論理を肯定するのだ。
 父を否定出来るのならば、なんでも良い。
 武家の娘らしさと仇討ちの論理そのものは、そんなもの、くだらないと言うまでも無い。
 
 では、私が父の仇を討ちたいと思うのは、なぜなのだろう。
 簡単だ。
 私から父を奪った者が、未だ生きておるからだ。
 くそ忌々しい父から受けた我が苦しみの怒りと憤懣をぶちまける機会が、永遠に奪われたのだ。
 勝手に、私から父を奪ったのだ。
 言うなれば私は、父にこそ復讐したかった。
 男のくせに、女の私よりも感情細やかで、男のくせに、女の私より口が達者で、
 男のくせに、女の私よりも綺麗好きで、男のくせに、女の私より煌びやかで、
 男のくせに、女の私よりも計算高く、男のくせに、女の私より腹黒い。
 そしてそれらの全能力を使って、あの男は私に全力でぶつかってきたのだ。
 全く勝てなかった。
 そしてなによりあの男の嫌なところは、私の最も苦手な分野を突いてくるところだった。
 女の一番苦手なものは、男の最も得意なところと相場が決まっておろう。
 つまり、力仕事だ。
 当の父は、まるで男の美徳を全て否定するような巫山戯た男であり、
 無論、力仕事など最も恥ずべき行為だと言わんばかりに、それに関しては無能以下だった。
 当初私は、自分の得意分野では、さらにそれ以上にそれらを得意とする父には勝てぬと踏み、
 ならば父の苦手な分野でこそ台頭しようと、それこそ、鬼のように努力した。
 
 父は 満面の笑みを浮かべながら 私を使役した
 
 今思えば、素晴らしく馬鹿だ。
 まるで、私に敢えて苦手な事をさせていたぶるためにだけ、
 父は娘の得意分野に関してのみ、さらなる自分の能力の向上を図っていたかのようだ。
 最悪な父親だ。
 というよりそれはもはや親以外のなにかだ。
 そしてその訳のわからない男の罠にはまって、泣きながら、しかし歯を食いしばりながらも、日々、
 使用人達と共に重労働に励んでいた私は、馬鹿以外の何者でも無い。
 無論、苦手分野に於いてはそれを克服させ、得意分野に於いては上には上がいることを教え、
 私の傲慢と怠慢を戒めようなどと、そのような心温まる話があの男の頭の中の、
 如何なる細胞の中でも語られたことは無いであろう。
 げんに
 私は、それ以後一切の肉体労働を放棄した。
 心に明確な傷を負った。
 そして、誓った。
 二度と、力仕事などせぬと。
 そして、創り上げた。
 堅牢な、私の自己像を。
 私を倒すのは障子紙を破るよりも、容易い。
 私は兎と戦っても負ける自信がある。
 か弱さよりもひ弱さよりもその弱さを誇るよりも。
 強さを、否定するための、その私の像。
 
 
 
 
 
 
 
 ◆
 
 
 
    - 『私が言いたいのは、一芸に秀でる者は万芸に秀でる、ということです。』 -
 
 
 
 
 
 私は私だ。
 私は女、女が肉体的に強くあらねばならぬ道理など無い。
 おまけに強くあらねばならないはずの父こそが、強さを否定しておるではないか。
 ならば尚更女たる私が強くあらねばならないはずなど無い、絶対に無い!
 そして、その私の言葉を肯定するためにこそ、私は自らの頭脳を鍛えに鍛えた。
 自分の得意分野を磨いてみせる、たとえそれで父に勝てぬともそれは構わぬ、
 いやむしろ、父と比べる時点で私は父に拘っているではないか、私は私だ、
 私はただ自分の得意分野を父との比較無しに磨けば良いのだ。
 私は、女なのだ。
 私は自らの得意分野で父に勝てぬからという理由で、父の苦手分野で勝負を挑んだが、
 同時にそれは私の苦手とする領域でもあった。
 父と勝負すればするほど、私だけが辛くなっていった。
 なにしろ、私が必死に重労働に身を投じている間に、父はのほほんと笑みさえ浮かべて、
 娘の足掻きっぷりを鑑賞していただけなのだからな。
 父は、なにひとつ辛くない。
 父は勝負にまるきり応じなかったのだ。
 馬鹿らしく、なった訳では無い。
 そのまま、父を無視して自分の苦手分野を克服する事自体には、それなりの意味もあったろう。
 だが。
 なにかおかしいと、そのとき私は感じていたのだ。
 あの父が、忌々しくとも頭脳の明晰さ賢明さにかけては他の追随を全く許さないあの男が、
 そんな道を私に選ばせるだろうか。
 ああ。
 選ばせるだろう。
 確実に、選ばせるだろう。
 私が、父を無視し、父との比較をせずに我が道を行くことに、あの男は誘導しているのであろう。
 なぜか。
 それが、可笑しいからだ。
 逆算して考えると、つまり、その道を行くことが、私としてなにか間違えているという事だ。
 あの男が笑うとき、それは確実に私がなんらかの罠にはまったことを示す。
 
 本当に、腹の立つ男だ。
 
 私が父を意識し対抗しようとすれば、それは私が父に囚われていることを示す。
 そして、それに気付き、父を無視し、父との比較無しに私が我が道を行こうとすれば。
 それもまた、父に囚われていることを、示す。
 なぜなら、それが、「父を」無視し、「父との」比較無しに、だからだ。
 父を無視し父との比較を無くすという一点に集中するあまりに、逆にそれは父を支点にして、
 反対側に振り切れてしまう事になった。
 父を無視し、父との比較無しに、私が自らの苦手分野を克服し、力強さを手に入れ、
 武芸者にでもなんにでもなったとしても、それで手に入るのは武芸のみで、それは私自身にとっては、
 なんの意味ももたらさない。
 虚しいだけだ。
 なぜならそれは、父を支点として振り切れて得た力だ。
 きっとその力は、父に見せつけたいがために得たものとして、その本質を有してしまうだろう。
 そして、同時に。
 私が父を無視し、父との比較無しに、私が自らの得意分野を錬磨し、賢さを手に入れ、
 策士にでもなんにでもなったとしても、それで手に入るのは策のみで、それは私自身にとっては、
 なんの意味ももたらさない。
 
 
  なんだろう
 
  私は一体  何者かになりたいと そう思っているのだろうか
 
 
 どうして私は、私は私だとこんなにも強調せねばならないのだろう。
 どうしてこんなにも、自分を鍛えたり磨いたり、果ては自己像を輝かしく描いたりするのだろう。
 私は、おそらく心のどこかで、武芸者にでも策士にでも、なんでもいい、なりたかったのだろう。
 いうなれば、何者かとして成長し、一個の人間として完成していきたかったのであろう。
 大人になりたかったのであろうな。
 父を意識しいつまでも大人に成り切れぬ娘というものに、嫌悪を覚えていたのは確かだ。
 しかし
 それはまた、おそらく本質では無いであろう。
 なぜなら、大人になれぬ娘である自分に嫌悪を覚える理由が、まさに、
 なにかとの比較に依っておるからだ。
 不安なのであろうな、父との関係の中で、周りから取り残されていく事が。
 それは、比較的早くに気付いたことであった。
 そして、私にとっては、これも早い段階で、どうでも良いことになっておった。
 周りなど、どうでもよい、くだらぬ。
 その辺りの矜恃は、まさに武家の娘として一応育ったことの賜物であろう。
 武家というのは、家を残すことを第一としているゆえに、家族の愛というものがほぼ存在せぬ。
 ゆえに家庭というものもほとんど存在し得ず、ただあるのは個だけだ。
 個の錬磨に打ち込み、そしてそれを次代に残す、ただそれだけだ。
 だから、私とあの男の関係は、互いを磨き合う存在同士だった。
 私は私だ。
 ゆえに、私にとっては、私が武芸者だの策士だのという、そういう何者かになりたい、
 ならなければならないという焦燥は、それほど強くは無かった。
 なのに、それでも不安を覚えた。
 それは、あの男から逃れたいがために。
 あの男との果てしなく深い戦いから逃れるために、私はたださっさと何者かとなり、ひとり成長し、
 ひとり一個の大人として完成し、そして完了したかったのだ。
 
 そんな私を あの男は暖かく 笑う
 
 笑うな
 武士が笑うな!
 あの男の笑顔を否定するために、私は武士の論理を採用し、そして武家の娘として大成したかった。
 それでも父は笑う
 傲然と笑い続ける。
 いいね とがめちゃん それでいいんじゃないかな
 よくその道を選んだね 僕は君の父として嬉しいよ
 嘘では無いのだろう。
 本気であの男はそう思っているのだ。
 無論、娘が個を極めるための戦いから逃げ出し、安楽な道を選んだ事が可笑しいからであろう。
 容赦の二文字は、存在しない。
 まるでその二文字は、私の名に刻み込み埋め込んで捨て去ってしまったかのようだ。
 私は、容赦の二文字をあの男から託されたのだ。
 いや、呪いとして背負わされた。
 一体、なにを容赦せねばならないというのだろう。
 一生涯、父と戦い、父と向き合い、個としての錬磨を続けていくことを、だろうか。
 それを否定してはならないのだろうか。
 私は
 それを咎める。
 嫌だ、なんで、なんでそうしなければならないと、決まっておるのだ!
 笑う
 あの男が
 爽やかに
 笑う
 とがめちゃんって
 いい響きだね
 僕は好きだよ
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 
   - 『苦手なものを、思い出したくも無い記憶を持たない者なんて、いないよ。』 -
 
 
 
 
 
 私は、私だ。
 そう私が主張するのは。
 私が私であることを、侵されているからだ。
 私は、私は私だと叫ばねばならなかった。
 私には、私が無い。
 空っぽだ。
 だから、本来なら、私にあるはずの私こそが、その重みと圧力で、
 外から私の輪郭を侵そうとする物をはね除けるはずのところが、私は空っぽゆえに、
 それが全く可能では無かった。
 私は、自己像としての私の輪郭そのものを強化するしか、無かった。
 輪郭の内側にあるはずの私というものが無いゆえに、輪郭そのものに私というものを埋め込み、
 その重みと圧力で以て、私は私の輪郭、いや、外との境界を守らねばならなかった。
 重くて、けれどとても。
 薄い。
 その薄い線のみで、己を守り、保つことしか出来無い。
 だからその私を象る線を分厚くし、中身の無さを補うしか無い。
 例えるならばそれは、日本刀に於ける、刀と鞘の関係だ。
 私は、中身の無い、鞘だけの存在。
 鞘だけを振り回し、ずっと戦い、そして鞘の頑丈さ分厚さを培うことに力を込めてきた。
 刀は、無い。
 だから私は、刀を持とうとしたのだ。
 鞘に収めるべき刀を。
 色々なものを、我が鞘の中には収めてきたものだ。
 虚刀流の七花も、そのひとつだ。
 私はあれを刀として扱った。
 空っぽの私の中を、輪郭ばかり分厚くなったその私の中を、埋めるために。
 
 父が 笑い転げている
 
 おまけに、転げ過ぎて足の小指を文机の角にぶつけた音まできこえてくる。
 
 なんだろう
 あの男がなぜ笑うのか、私はこのとき既に分かっていた。
 私は、七花を刀として受け入れることしか、知らなかったのだ。
 つまり、私は、自分の輪郭の外、そして自分と七花との境界線の向こうに、
 七花の存在を捉えることが出来無かったのだ。
 七花という他者を捉えることが出来ず、ただ私は七花を自分の内側に引き込んでしまった。
 私の、刀として。
 私の、私として、使うために。
 あの男が、目に涙を浮かべて大笑いしているのがみえる。
 さもありなん。
 私は、私の無さを補うために、七花を利用しただけなのだからな。
 それは自分の無さを、明らかにするだけだ。
 
 
 私は・・・
 どうして、自分が無いのだろうか
 私は・・・一体なにから、始めたのだったか
 私は・・・・・そうだ・・・
 女、なのではなかったか?
 女の私は、男の父と、張り合った。
 父は男のくせに、女の私よりも女らしき強さを持っていた。
 私は・・・
 どうして、父と勝負しなければならなかったのだろうか
 私は・・
 いや・・・・私の中に、私の鞘に収めるべきは・・・
 女
 だったのではなかったか
 それなのに私は、私の女を、鞘にしてしまった。
 鞘の煌びやかさ、鞘の賢さを、父と競ってしまったのだ。
 私はどうして、父の苦手分野で父と勝負しようとしたのだ?
 私は女のはずなのに、どうして男の真似事までして、父に勝とうとしたのだ?
 勝つ 勝つ 勝つ
 戦いばかりだ
 私は
 
 
    私は   なんのために  戦っているのだ?
 
 
 父は、いや。
 あの男は、初めから、本当に初めから・・・
 男としての勝負を、放棄していた。
 それはもしかしたら・・・私に、女としての勝負を放棄させる事を主眼にした企みだったのではないか?
 父は、男としての勝負、すなわち力比べの勝負を、私としなかった。
 懸命に努力し、男の父にも張り合えるよう努力した、その力を以て父に挑もうとした私を、
 父は暖かく、笑って、捨てた。
 私は・・・
 父と戦っていたのでは無く・・・
 自分と、戦っていただけなのではないだろうか
 自分とずっと、勝負していたのではないか。
 なぜ、戦う。
 なぜ、戦わねばならないのだ。
 
 
 父を振り返る。
 傲慢で、不遜で、口が達者で、狡賢く、陰険で、煌びやかで、いやらしい。
 男らしさの欠片も無く、武士道を鼻で笑ってそのまま鼻をかんで捨てていた。
 なのに
 なんだろう
 あの 落ち着いた様は
 自信に満ち溢れていた
 男らしさや武士らしさを否定する言葉を発したことすら無い。
 あの男は、あの男だった。
 そして、あの男の口から、ただの一度も。
 僕は、僕だ。
 という言葉を聞いたことが無かった。
 ただ笑っていた。
 
 
 ああ
 
 
   私はただ
 
 
         それが羨ましかっただけなのだ
 
 
 
 どうして 私は女として戦わねばならなかったのだろうか
 いや
 私はなぜ、戦わずして女でいることが出来無いのであろうか。
 女とは、勝ち取るものなのか?
 私は男たる父と勝負し、男から女を勝ち取ろうとしていた。
 だが、それは私の戦いの本質では無い。
 なぜなら、父は男らしくなく、むしろ女らしさを体現したような人間だったからだ。
 つまり
 私は
 女という鞘から、女という刀を、勝ち取りたかったのだ。
 言い換えれば、私を象る輪郭に埋め込んだ、女とはこういうものだ、という要素を、
 そのまま私の中に移植して、女としての充実を図りたかったのだ。
 それは
 七花を
 私の中に収めようとしたことと
 同じだ
 私は
 七花にはなれない
 どんなに七花を私の内に取り入れても
 それは出来無い
 私は
 女にはなれない
 どんなに女を私の内に取り入れても
 それは出来無い
 なのに・・
 我が父上殿は・・
 あの男は・・あの人は・・・・
 まったく男らしさの欠片も無く、むしろ私よりも女らしいというのに
 厳然たる
 男だった。
 堂々無比に
 私の父は
 男だった
 笑顔で自分でいられる、そんな父だったのだ
 
 
 どうして?
 私は身も心も女ではないか
 どうして・・・どうしてなのだ
 そして
 その問いそのものが、答えに直結していることを、知った。
 どうしてか 試しに答えてあげようか とがめちゃん
 それはね
 君が自分の内に取り入れようとしている女が それがどんなに君の感じている君の中の女と同じに
 見えても それは君の中のそれとは別のものだからさ
 つまり
 そうか
 
   私の中には
 
    初めから
 
 
      女が  あったのだ
 
 
 
 それが見えなかったのは、私がその私の中の女を、私を象る輪郭に投影していたからだ。
 私の輪郭に浮かぶ、女とはこういうものだ、というものはすべて、私の中に初めから存在している、
 その女の影なのだ。
 私はその影を凝視する事によって、その影を映し出した大元のものを見つめる回路を、
 それそのものを失ってしまっていたのだ。
 私の女は、私の刀は、ずっと。
 私の輪郭に埋め込まれた女に、鞘に、内側からぴたりと張り付くようにして、存在していたのだ。
 あまりにぴたりと張り付き嵌っていたがゆえに、私はそれを認識出来無くなっていた。
 そして、私は、私の鞘たる女を否定するとき、それと同型である私の刀たる女をもまとめて否定して
 しまっていたのだ。
 そして逆に言えば、私があれほど私の鞘に注力し、分厚くすることが出来たのは、他ならぬ、
 私の刀たる女、すなわち私の私が、その鞘の内側に張り付き、
 鞘と共にまとめて分厚くされていったからだ。
 私が私に感じている分厚さの、そのきっかり半分は、実は刀の分厚さなのだ。
 そして、私にとっては、刀と鞘は同型の上にひとつに交わりくっつき合ってしまっているゆえに、
 ひとつのもの、すなわち鞘として認識され、それゆえ、中身たる刀が無い、と感じていたのであろう。
 
 私に、私はあったのだ。
 
 だから、私は、私の中身に様々なものを収めようとしても、吐き出す事が出来たのだ!
 本人が無いと思っていようとも、もう既に、中身はあるのだからな。
 いや
 あるのでは無い
 
 私は
 
 女
 
 なのだ
 
 誰がなんと言おうと
 
 たとえ女らしくなかろうとも
 
 私はただ
 
 女なのだ
 
 
 女はなるものでは無い
 女はただ、そのままに生きるものだ
 私はずっと女になろうとするあまりに、女のままに生きることが出来無くなっていたのだ。
 捨てれば良かったのだ
 女を
 捨てる
 まず捨てる
 そうすれば、私が目指した女になる必要が無くなる
 なぜなら
 私は既に、私が目指した女であるのだからな。
 
 私が目指した女は、初めから、私と全く同じものだった
 
 それが、私の私
 
 自分ということだ
 
 まさに、無刀だな
 鞘と刀は同じひとつのもの。
 いや、既に鞘自体がもう刀そのものなのだと言ってよい。
 ゆえに鞘の中身は無くとも良い。
 そして、その刀たる鞘は、斬れぬ。
 いや
 斬ってはならぬ、という何者かの思いゆえに、その刀は鞘とひとつとなり消えたのだ
 大事なのは、刀それ自体だ
 守るべきは刀だ
 その刀そのものが攻めに回ってどうするというのだ
 だから、中身は消えた
 消えて鞘に内側から張り付いた
 刀が無ければ攻められぬ。
 無理に鞘で攻めようとしても、決して斬れぬゆえに、やがてそれを振る腕が力尽きる。
 いずれ、悟ることであったのであろうな
 私こそ刀。
 そして鞘を払い、その刀たる私で以て切り結ぶことでしか、私は私を保てなかったと思い込んだ。
 ならば
 斬らねばよい
 攻めねば良い
 なぜ斬ろうとする
 なぜ攻めようとする
 それは自分と戦うしか知らぬから
 自分を、こうあるべしと願う自分に変えようとするために、今の自分と戦うから
 愚かなことだ
 いや
 情けないとはこのことだ
 そのこうあるべしと願う自分の姿は、初めから私と同じであったというのにな
 自分と戦い勝たずとも、勝ったのと同じものが私は得られたのだ。
 戦う必要など無い。
 ただ戦わねば、なにかせねば落ち着かぬ、そんな弱い私がいただけだ。
 私が攻撃に重きを置いて足掻き続けていたのは、己の弱さゆえだ。
 刀などいらぬ。
 鞘だけで結構だ。
 鞘はただ中身たる刀のためにだけ存在する。
 そして刀は攻めて戦うためにだけ存在する。
 戦うこと自体をやめてしまえば、そもそも刀はいらぬ。
 そしてまた、刀が無くなれば、それを守る鞘もいらなくなる。
 それが
 私だ
 決して斬れぬ鞘と姿無き刀を使って、ただ無駄にそれを振り回す、
 その私の腕の疲れのみが。
 
 私 なのだ
 
 
 
 
 
 
 
 あーあ 最後の最後で振り切れちゃった さすがは とがめちゃん
 
 うんうん 言わなくてもわかっているよ 無駄に振り回したいんだろう?
 そうかいそうかい いいよ 認めてあげる
 君の寿命が尽きて死ぬまで たぶんあと何十年もあるだろうけれど
 勿論 君ひとりでやってよね
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 掘る
 掘る
 なにを掘る
 そればかりを問うていた
 掘る
 掘る
 どうして掘る
 そればかりを問うていた
 掘る
 掘る
 
 誰が 掘っている
 
 私だ
 なにを掘ろうとどうして掘ろうと、掘っているのは私だ
 掘っている限り、掘ることをやめる事は出来ない
 
 
 真っ直ぐに問うことが出来ぬ。
 いや、問うという事そのものが、既に真っ直ぐでは無い。
 私は、私が感じていることを、言えない。
 言えないから、私が感じているものはなんだ、と問う。
 問う。
 問うゆえに、その問いの狭間に欺瞞が紛れ込む。
 誠実に
 問えたことなど、ただの一度も無い。
 問いそのものに、常に、答えが埋め込まれていた。
 問いなど関係無く、答えはあるというのに。
 私は、その純然たる答えを回避するために、問いの中に埋め込まれた答えばかりにしがみつく。
 しがみつき、回避し、逃げ回る。
 私の戦いは、それそのものだ。
 戦わずにはいられない。
 戦いに拘らずにはいられない。
 そして
 生きる事自体が戦いになってしまう。
 私の生は
 その戦いとは別に 純然として存在しているというのに
 私はその純然たる生を回避するために、戦いに埋め込んだ生にしがみつく。
 
 
 だから 何度も言っておろう
 
  私は女なのだ
 
 
 ははん またどこかで変なこと覚えてきたね とがめちゃん
 いいよ 話してご覧
 私が話す前に、あの男は喜々として自ら話し出す。
 とがめちゃん 君は女っていうのがなにか 知っていてそう言うのかい?
 私が答える前に、あの男は脳天気に自ら話し出す。
 僕はね 知らない
 うん 僕は男っていうのがなにか 知らない
 でもねとがめちゃん だから矛盾するようだけれど 実は僕には女がわかるんだ
 私が咎めようとする前に、あの男は笑顔のまま自ら沈黙する。
 教えてあげない、と目だけで語る。
 嫌な男だ。
 父がどういうつもりでそういう事を言ったのか、そしてまた、父の言っていた事がどういうことか、
 それはどうでもよい。
 重要なのは、私が、私こそが、そのいやらしい男の言動を目の当たりにして、どう感じたか、という事だ。
 ああ、そうだ、そうなのだ。
 私は父の言葉の意味とその裏に潜むものを、それこそ知恵熱を発するほどに賢しく考えあぐねた
 ものだが、しかし私は、そのときその私の思考の内側にぴたりと張り付いて、こう感じていたのだ。
 
 
  どうして 父上は 私を褒めてくれないの?
 
 
 どうして、抱き締めてくれないの?
 どうして、頭を撫でてくれないの?
 私は、その私の気持ちを、饒舌過ぎる自らの思考によって、封じた。
 私の瞳は、父の深くて硬い胸板を捉えて放さずにいるというのに。
 私の心は、父の膝の上の暖かさを思い描かずにはいられぬというのに。
 いつのまにかそれは、自らの思考を妨げる雑念と成り果てていた。
 いや
 そういうものへと貶めたのが、私なのだ。
 しかし、その雑念とやらは、根強く私の思考と言語の内側にぴたりと張り付き続けていた。
 私は、愛されたかったのだよ。
 そのまま抱き締めて貰える事が叶わぬのならば。
 父に勝とう。
 父の求めに応えよう。
 そうすれば、きっと。
 私の思考の中では、ただ父への反発だけが取り沙汰されていたが、むしろその激しい反発は、
 その私の形を変えた雑念、いや、本心の隠蔽のために存在したのであろう。
 私の戦いはすべて。
 この本心としての雑念の隠蔽、いや、払拭のためにあった。
 
 私の思考と雑念は、段々と、その形を同じくしていった。
 いや、元々は形が違うように見えていただけのものが、その本質を見抜くことにより、
 同型のものとして我が目に映るようになったのだ。
 ひとつのものに、それと全く同じ形をした、なにやら薄いものが、ふわりと被せてある。
 私は、そのふわりとした薄いものを見つめ続け、戦い続け、そして悦に入っていた。
 が、苦しかった。
 その苦しさを解消することは、私の如何なる策を以てしても出来無かった。
 そして
 その苦しさを解消出来ぬ、そのことの中から生み出されるのが、我が奇策の数々よ。
 私は奇策士だ。
 自称だ。
 そんな職業はこの世に存在しない。
 だが私は奇策士だ。
 生きるために策を練る。
 また同時に、生きるためで無ければどんな策も出てこない。
 ゆえに、奇策。
 おそらく、それが私の本質と繋がっている。
 
 
 
   私は
 
           私のために戦っている
 
 
 
 
 
 ・
 ・
 ・
 
 ・
 
 
 私はただ 生きたかったのだよ
 私のままに あるがままに
 私が策では無く奇策などというものを練るのは、その私の本心が、私の思考と一致しているがゆえだ。
 策は思考より出づる、雑念は本心より発する。
 ならば、そのふたつを兼ね備えれば良いではないか。
 私はそう愚考した。
 正確にいえば、その時点で私は雑念を本心とは思わず、ただ思考の妨げとなるものであり、
 それを排す事叶わぬのならば、いっそ取り込んでしまえ、と、ただそういうものとしてあっただけであるが。
 つまり
 私は、策士として大成する事も、父に受け入れられる事を求めるあまりに大人になれぬ娘でいる事も、
 その両方ともを放棄したのだよ。
 どっちも嫌だ。
 わかりやすかろう?
 だから、第三の道を探したのだ。
 私が私らしさを持ちながら、あの男の前で大見得切って踏ん反り返る事が出来る、その道をな。
 おかしな話さ。
 私には、私らしさがわかっていないというのにな。
 それ以前に、私らしさなど、存在せぬ。
 あるのはただ、我が本心だけよ。
 私に必要だったのは、ただ本心のままに生きることだけだったはずなのだ。
 それなのに、私は、その本心と全く同じ形をした、私の思考に則り、その思考の側から生きようとした。
 その結果が、奇策士、という訳だ。
 私は、己の思考を捨てるところから始めるべきだったのであろうな。
 だが、実はそうしようとすると、私は苦しかった。
 それはな、己の思考を捨てようとすると、それと全く同じ形の我が本心をも捨てるような気が、
 おそらく確かにしていたからなのだろうよ。
 父が笑う
 とがめちゃん ならいっそ 両方ともまとめて捨ててみるっていうのは どうだい?
 そして そのときもう一度拾い上げたい と君が思った方が本物だって 考えてみたらどうだろうね?
 捨てられる訳が無かろう!、もし両方とも拾い上げることが出来無かったらどうする!!、
 と私が叫び切り、ぜいぜいと息を切らす中、あの男はいとも簡単に、そして涼しげに答えた。
 諦める 
 なにか問題あるかい?
 
 
 諦められる訳が無かろう!
 
   と 叫ぶ
 
         その私の瞳に映っているのが 誰か
 
 
          初めて   ちゃんとわかったのだよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 あの男がいる
 炎の中
 実に涼しそうな、腹の立つ顔をしている
 これでそれが痩せ我慢の笑顔ならば許せるが、この男の場合。
 本当に涼しいのだ。
 もし
 もし あのとき
 父の首が 落ちなかったら
 父が
 死ななかったら
 
 おそらく、なにも変わらないであろう。
 私がこれまで戦ってきた理由は、仇討ちそのものでは無い。
 仇討ちはあくまで口実にしか過ぎぬ。
 いずれは、この道は通る道だったのだ。
 父が死んでいようと、生きていようと、私は自分がなにと戦いなぜ戦うのかと、そう問う、
 その問いから外れた、その向こうにある私の真実と向き合わねばならなかったのだ。
 それが出来ずして、どうして我が父の死と向き合えようか。
 ああ、向き合えなかったさ。
 向き合えなかったからこそ、仇討ちにしがみついたのだ。
 父の死と向き合えなかったからこそ、父のために戦うなどと嘯いたのだ。
 戦っているのは、よくも悪くも自分のためだ。
 それなのに私は、父のために生きているのだと強弁する。
 なぜか。
 逆算して考えれば、我が言の葉の内に埋め込んだ真実から読み取れば、それは。
 
 
   父が    苦手だからだ
 
 
 
 ああ
 わかっている
 逆算せずとも、続けて言おう。
 私は
 父が好きだったのだ
 とてつもなく
 どうしようもなく
 ただただ
 好きだったのだ!
 
 
  ああ
 
      もう
 
 
    ほんとうに もう
 
 
 
 
      腹が立つ!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 なぜ父が好きなのか、教えてやろう。
 それは私が父の事を苦手に思っておるからだ。
 またまた そんな小さい嘘を吐くほど とがめちゃんは素直な子じゃ無いだろう?
 うるさい、小さかろうと大きかろうと嘘は嘘だ! 嘘を吐くこと自体に意味があるのだ!
 ほー それは面白いことをきいたね 
 ねぇ聞いたかい? とがめちゃん とがめちゃんがまたこんな事を言っているよ
 ほざけ、私が父を苦手としているのは、それは私が父の事を好きだからに決まっておろう。
 あれ 元に戻っちゃったね どうしようか
 どうもこうもないわ、好きなのに苦手ということは、あの男がその私の好きという気持ちを、
 全く微塵も満たさせる事をしなかったからであろうが。
 そして私は父に受け入れられる事を諦めようとしても、私が父の事を好きなのはどうすることも出来無い、
 真実なのだ。
 へぇ 面白いね 続けて
 続けるもなにも、それがすべてだ。
 
  私はあの男が、私の父であるという事そのものが、苦手だったのだ。
 
 単純明快にして真実を突く言葉だね
 で とがめちゃんは 僕になんて言って欲しいのかな
 愚問だな、その手にこの奇策士とがめがかかるとでも思うたか?
 なにも言う必要など無い、それ以前に私は父にもはやなにも求めてはおらぬ。
 僕のために戦っている って言っていた気がしたけれど 気のせいかな
 気のせいでは無いよ、私は確かに父のために戦っている。
 父が好きだからでも
 策士としての父の有能さに惚れているからでも無い
 
 だから何度も言っておろう
 
  私は女なのだ
 
 
    そして  あの男の娘なのだ
 
 
 
 
     最期の最後に あっさりと 私の事を大好きだったと言った
 
 
 
        あのくそ忌々しい父上殿のために 戦ってやっているのだ
 
 
 
 
 私の父が、あの男であったからこそ。
 私は、父のために戦うのだ。
 それが、私の戦いだ。
 私のために戦っているということだ。
 気が済んだかい?
 いや
 まだ全然だな。
 僕はもう全然報われた気がしているのだけれど 娘の我が儘にもう少し付き合ってあげるのも
 父としての愛の深さの見せ所かな
 そっちこそ見え透いた嘘を吐くでないわ、なにが報われただ、あの男が私のためにしたことなど、
 ただの一度しか無いわ!
 でも とがめちゃんは そのただの一度 すなわち 君のために 僕が僕のしている事を歪め
 君を守り助けた事に それに囚われている訳では無いのだろう?
 当たり前だ、私が囚われているのはただ、父が死ぬ以前のすべてに対して、思い切り復讐してやりたい、
 という事のみだ!
 相変わらず 愚直だね 愚かだから 真っ直ぐに 歪んでいる 可愛いね
 相変わらずなのはお互い様だろうに!
 もう やめないかい?
 断る!
 そうかい じゃあ せいぜい楽しんで頑張ってみてよね
 ああ そうさせてもらおう
 
 
 
 
 
   - 『私の悲願なんて達成されようが達成されまいが、それこそ否定的なだけよ』 -
 
 
 
 

相変わらず、不愉快な女だ
 

 
 
 
 
 
 

- 『君はこの過酷な歴史に、生き残る事になる。

武士道に従うのなら、僕はここで君を殺してあげなきゃならないんだろうけど、

いくらそれが歴史の間違いを正すために必要な事であっても、

それだけは出来無い。
 

         自分の娘は、殺せない。』 -

 
 
 
 

相変わらず・・ほんとうに・・・

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆
 
 
 
 
 
 

- 『私の命を犠牲にして、君はなんのために戦う?』 -

 
 
 
 
 
 
 私はなんのために戦うのか。
 私のために、戦っている。
 私のために、とはなんのことか。
 
 最初の問いに戻ろう。
 私は、自分の目的を達成するために、命を捨てることが出来るのだろうか?
 私はこれまで、七花を使って、多くの命を奪ってきた。
 それは、私の命を奪っていることにも通ずる。
 人をひとり殺すたびに、私は一回ずつ、死ぬ。
 私のしている事が、ひとりの命と等価であるか?
 この問いは、欺瞞だ。
 そもそも、命は等価では無い。
 私の命と、他の者の命の重さは異なる。
 他の誰でも無い、私のために、私は他者を屠る。
 私が、生きるために。
 私のために、殺す。
 
 ならば、こう問おう。
 私は、自分が死なないとでも思っているのか?
 人をひとり殺すとき、そこには命のやり取りが発生している。
 私達がこうして生き残っているのは、私が強いからでは無い。
 運だ。
 断言しよう。
 強い者が生き残るというのなら、そもそも私は強さを求めて武芸者にでもなんでもなっていたはずだ。
 私は力では無く、知恵で強さを手に入れていると?
 違うな、言ったろう、私は策士では無く、奇策士であると。
 私はな、私は・・・・
 本当は・・・・
 捨てたかったのだよ・・・・
 仇討ちという、目的を・・
 それが、奇策士の目的だったのだ。
 奇策は、私が生きるために練るものだ。
 私がこうして生き残ってきたのは、私の力としての策の御陰では無い。
 私の、運としての奇策の御陰だ。
 奇策は、仇討ちという目的を叶えるために練るのでは無い。
 あくまで、私が、生きるために練るものだ。
 そして、仇討ちは、常に我が死と隣り合わせ。
 人を殺すということは、自分が殺される事に晒されるということだ。
 どんなに強くても、策を練っても、殺されるときは殺される。
 そもそも、だ。
 
 私は
 仇討ちを果たしたのち、どうするつもりだったのだ?
 
 なにも考えてはおらなんだ。
 仇討ちを完遂すれば、私はただでは済まされぬ。
 間違い無く、処刑されるであろう。
 私は、それを回避するための策を全く練ること無く、仇討ちに望んでいるのだ。
 つまり。
 死ぬ気だ。
 いや
 生きることなど、どうでもよいと思っているのだ。
 仇討ちという目的を果たすまでは、死ねぬ、というだけだ。
 なのに
 面白いものだ
 いや 不愉快なものだと言えばよいのであろうか
 私が練るのは、それでも、奇策なのだ。
 生きたい、のであろうな。
 私にとっての真の目的は、私が生きること。
 その目的を叶えるためには、私は仇討ちという目的を捨てねばならない。
 私は、生きたい。
 父との思い出を読み直し、生き直したい。
 刀として受け入れるしか無かった七花を、人間として、私の輪郭の向こう側に受け止める事が
 少しずつ出来るようになってきたのだ、だから・・七花との旅の楽しさを改めて噛み締め直したい・・
 それなのに、その生きたいという言葉を抜き出し、仇討ちを遂行するために生き残る、
 という言葉にそれをすり替え変換して、私はその真の目的を最終的に・・・
 否定する。
 私の肯定はすべて。
 否定のためにある。
 だから・・・・・
 だから・・父は・・・・・・・
 そんな私を・・・憂えて・・・・・
 
  容赦の 名を
 
 
 無論それは、私が自分を生きることを肯定する、すなわち自分のそのままの生を容赦する、
 という意味でもあり。
 そして・・・
 それは・・・・・
 私が、それを否定し、あくまで仇討ちに臨むことでしか、自分を保てぬこと、
 そしてそのための戦いに身を投じてしまうことも・・・・・
 容赦する
 認めて、くれたのだろうな。
 どっちに転んでも 君は君だよ とがめちゃん
 生きたり 死んだり 色々やってみるといいよ
 それでもきっと 君は死なないよ とがめちゃん
 なにせ 君は 僕の娘なんだからね
 僕が愛した そして 唯一認めた 賢いおちびさん
 君なら 僕とそっくりに育って 僕を否定して 戦って
 その果てに 僕と逆対称でそっくりな君を乗り越えて 君自身に到達出来ると
 僕は 信じている
 いや
 知っている というべきかな
 女って
 娘って
 そういうものなんだよ
 男も
 きっと そうなんだろうけどね
 僕は
 それを体験する前に 死んじゃったからね あはは 残念だな
 
 
   というより とがめちゃん
   僕は
   僕の歴史を正すためにこそ
   生きて
   戦ってきたんだよ
   本当に
   そうするに値するものだと 思ったのだから
 
 
 そういうこと、であろうな。
 今ならよくわかるよ。
 ああ、私は全然釣り合わぬ。
 わかっておる、わかっておるから、足掻き続けてきたのだ。
 そして、わかっておるだけだから、その足掻きをやめることが出来ぬのだ。
 いや
 わかっておる以上のなにかに到達することを・・・
 絶対に諦めぬゆえに
 
 私は 足掻き 戦い続けているのだよ
 
 そうであろう?
 父上。
 私は・・・
 素直になれぬのだ。
 いや、素直になれぬだけで、初めからずっと、私自身の最も大切で、最も必要なものを求めるために、
 そのために、大切でも無く必要でも無い、ただ口実だけのものを得るための戦いに身を投じたのだ。
 釣り合わぬ。
 が、釣り合わぬがゆえに、どれだけ釣り合っておらぬのかが、やっと己の体験としてわかるのだよ。
 私が求めていたのは、それなのであろう。
 私は・・・
 父になったのだよ。
 あの男と同じ道を歩くことで、私が乗り越えるべきあの男を身を以て知ろうとしたのだ。
 あの男が、己の身はおろか、家族親族一族郎党、丸ごと顧みずに戦いに打ち込んだことを、
 私は幼き頃から憎悪していた。
 そして、私はその父を否定しながら、しかし気付けば父と全く同じように、戦いに身を投じていた。
 娘や家族を顧みなかった、という一点に集中するあまりに、私はそれを反発否定する形で、
 家族のために、父のためにと想える、そんな人間になりたいと思ってきた。
 だが、私にはそう思うことは出来ても、ではその目的を叶える手段となると・・・・
 
 戦い、しか、無かった。
 
 なぜなら
 目的達成手段は、父から学んだのだからな
 
 娘を顧みずに戦い続けた父に反発した娘は。
 父を顧みて父のために戦い続ける女になった。
 情けない限りだとは思わぬか? ふふ、いや、逞しいと逆に言えてしまうのかな、これは。
 なぜ、だと?
 そんなものは決まっておろう。
 その姿は、そうして戦い続けるその私の姿は、見事に我が父上殿そのものであろうが。
 これだけぴたりと本物通りの作品に仕上がったのだ、一体どこがどう間違っていて、そして・・・
 どこが
 それでも正しく
 そして
 
 私がそれを引き継ぎ なお それを乗り越えるものへと至れるか
 それを発見する事が可能になるのだよ。
 
 父を否定したのは・・・
 父の、いや、私にとって本当に必要だった父の姿を、言葉を肯定するために、だったのだ。
 私は思い出したのだ。
 そして、まるで今まで閉ざされていた扉が開かれるようにして、父のことを知ったのだ。
 父が、戦っていた理由。
 あの男め、なにが自分は体験する前に死んだだ、死ぬ前に、きっちり体験しておったではないか!
 私に、あの男は最期の最後になんと言ったのだ。
 父親が、私のような可愛らしい娘に向けるたったひとつの言葉に、一体なにが込められていたのだ。
 すべてを解く、鍵。
 鍵は、最初からあった。
 私だとて、父が己の凄まじき不器用さを隠すために器用であった男である事なぞ、
 初めから知っておったわ。
 だが、鍵は、鍵穴が無ければ、ただの鉄の塊よ。
 私はずっと、その鍵だけしか無いことを否定し、必死に鍵穴を作り続けていたのだ。
 そして・・・
 完成した
 やっと
 出来たのだよ
 
  父の 愛を
 
    受け入れることの出来る     私の生が
 
 
 
 堂々と
 父の前に立てる。
 父に抱き締められる。
 父はいなくとも
 私は ひとりで 父を乗り越えられる
 そうして、父を乗り越えた先に、ようやく。
 本物の、ひとりの策士としての、男としての父が顕れた。
 ああ
 私も
 残念だよ
 大乱の首謀者にして稀代の策士飛騨鷹比等が、ひとりどのような戦略を描いたのか。
 そして臆面も無く娘をからかい愛し続けた、一個の馬鹿男がなにを考えたのか。
 ひとりの女として
 いや
 一個の
 奇策士として
 是非、聞いてみたかったよ
 酒を酌み交わしながら、語り明かしたかったよ
 
 
 
 
  それで満足か?  父上。
 
 
  ああ
 
  満足さ
 
  でも ありがとうとは言わないよ
 
  お疲れ様、とも言ってあげない
 
 
 
  だってとがめちゃん まだ奇策士なんてへんてこなもの引きずってるじゃないか
  格好悪いよそれ それになんだい? その服は 前から言おうと思ってたんだけど
  もしそれ僕の格好を真似しているんだとしたら それは死者の冒涜も甚だしい限りだと思うね
  じゃかあしい! これはあくまで私の趣味だ! 奇策士を名乗るのは、世の程度の低い策士共
  と並べて語られたくないからに決まっておろう!
  なんだ、堂々と出来るようになったのは嘘を吐くことだけかい? 君が並べて語られたくないのは、
  この国はおろか世界にも類をみない圧倒的な賢人たる僕と、だろう?
  僕と比べて語られたら、君なんて・・・・ええと、なんだろうね?
  っっ! 一体どこまで貴様は性格がねじ曲がっておるのだ!
  それは勿論娘譲りだからね、僕は結構気に入っているのだけれど。
  突っ込む気も起きぬわ!! ふん、ならばその娘と勝負してみるか?
  昔はいざ知らず、今なら貴様相手でも全く引けを取らぬ自信はあるぞ!
  嫌だよ 嫌だね 嫌に決まっている どうしてこの僕が実の娘が敗北して泣き崩れる姿を見なきゃ
  ならないんだい 娘のそんな姿を見たい父親なんていないよ まったくもう
  きぃいぃ!! 散々今までそんな娘の姿を見て楽しんできたのはどこのどいつだ!!
  ってぇ、誰が泣き崩れるかっっ!!
  とがめちゃんとがめちゃん いいね いいよ 相変わらずノリが良いところが君の美徳だね
  あ あとなにもそんなに懸命に自分が負ける事を前提にしなくてもいいよ 悲観主義は悲しいよ
  ええい黙れ黙れ!、私は負けぬ、負けない、負けないんだからぁっ!!
  あはは とがめちゃんお得意の大暴走が始まったよ 僕はこれが楽しくて堪らないんだ
  
 
 
 まぁ、こういう奴なのだよ、我が父上殿は
 腹が立つ。
 ええい本当に腹が立つ。
 その私の正当なる気持ち、正当なる本心こそが、我が正当なる本当の始まりなのだ。
 私はな、父に自らの境界線を侵され、おまけに私自身の輪郭さえもぶち壊されたのだよ。
 あの男はがんがん攻めてくる。
 文字通り容赦無くな。
 だがな、その御陰というのは癪だが、私はそう父にされた事によって、
 境界線というものがあり、また私の輪郭というものの存在を知ることが、最終的に出来たのだよ。
 そしてなにより、それを深めることが可能な道筋を開くことが出来た。
 言うなれば、私という一個の存在をより深め磨き尽くせる形に、私を変更したのだ。
 私は未だに、激しく父に腹を立てている。
 いいね とがめちゃん その意気だよ あはは
 腹が立つ。
 そして、腹が立つことにより、父への反発そのもので自らを育てるのでは無く、
 私はその己の本心、すなわち己の気持ちを誠実に掴むことが可能になった。
 
 
 それが、自分だ。

 
 その自分の重みと圧力によって、私は自らの輪郭を生成し、そしてその感情で以て、
 他者との間に境界線を引く。
 おそらく、私にとってその在り方が、最も私の力を引き出し、そして敢えていうのならば、
 それが私らしい充実した幸せへと、真摯に私を導いていくことになるのであろう。
 あの男が、父が、それを見抜いていたかどうかは定かでは無いし、知りたくも無い。
 しかし確かなのは、私が父に愛されるままにそのままを生きる事より、そして無論、
 父の圧倒的な攻勢に屈し、父に従順な女として堅実に生きる事より、
 それは私にとってためとなり、そして。
 なにより。
 今の、この今ここにいる私を、最も満足させるに至る私の現出へと、それは繋がったのだ。
 私の目標は、父に愛される事では無い。
 私はただ、そのままを生きるのみだ。
 私は未だに、腹が立つ。
 腹が立って、腹が立って、煮えくり返る。
 そして
 父は
 その私に
 容赦の名をつけた
 私はそれを咎める
 そして私は
 それを含めて、肯定する
 
 
   私が、父に未だに腹を立てているのは、紛れも無い、我が本心。
   そして私の、気持ち。
 
   ならばそのままを、生きれば良いのだ。
 
 
 私が父に未だ腹を立てている事には、それの善し悪しを問わずに、必ず意味がある。
 いや、敢えて言えば、それ自体になんらかの効用があると言っても良い。
 父への怒りがあるということは、私がなんと思おうと、どう悟ろうと、私の心自体は、
 未だ父からの浸食を受け、そしてそれに抗して線引きをしようとしている、という事なのだ。
 私はそれを、ただ感じればよい。
 私は私のその心の声に従えばよい。
 私がこの期に及んでも、仇討ちを遂行する事に拘るのであれば、それ自体に必ず意味があり、
 そしてそれを選択する事により、なんらかの効用が、私自身に対してある、ということだ。
 つまり。
 私が仇討ちを続ける事を選択する事に。
 私にとっての、初めての価値があることを、私自身が認識出来た、ということなのだ。
 私は父のためと、私のためと言いつつ、本当のところ、今までなんのために自分が戦い、
 自分が己の死の危険を顧みずに仇討ちに没頭するのかを、わかっていなかった。
 ゆえに様々な理由を、無理矢理私の中に詰め込んできた。
 釣り合わぬ。
 それは自分では無い。
 私は、私の気持ち、すなわち私の私のままに、生きたい。
 初めて。
 そう
 初めて、今
 私は、自分の気持ち、自分の心の声がきこえたのだよ。
 父に、愛されたい
 だが父が苦手だ。
 一発ぶん殴ってやりたい。
 そして私は、自分自身で父の最期の言葉を思い出し、父の愛を受け取り、手に入れた。
 そして私は
 父が苦手だという認識に、改めて至り、そして、だから。
 
 一発、父をぶん殴りにいくのだよ。
 
 それが、私が戦う理由。
 私が、仇討ちを続ける理由。
 充分だ。
 他者の命を奪い、自らも死の危険に晒されるに値する理由だ。
 私の中で、やっと釣り合いが取れたよ。
 私は、その理由のためだけに、その私の気持ちのためだけに、仇討ちという目的を果たす。
 とがめちゃんとがめちゃん 君の真の目的は 君が生きることじゃなかったっけ?
 ええい、先に言うな、これから私が言おうとしていたのだ!
 私は
 ああ
 生きたい
 だから 死なぬ
 絶対に 仇討ちを遂げるまで  いや 仇討ちを遂げた後も 死なぬ
 絶対に死にたくないなら 仇討ちをやめれば早いと思うけれどね というか矛盾しているよ
 黙れ、というか貴様が言うな! 家族を顧みずに戦いまくっていた貴様が言うな!
 それにな、私は戦わねば気が収まらぬのよ、だからと言って、その戦う気そのものを捨てるなど、
 これはたんに能力の問題として、私には出来ぬ。 無理なのだ。
 そして、私が今回学んだのは、無理に努力して目的を果たそうとせずとも、目的を果たす事は可能、
 ということなのだ。
 どういうことだい? 後学のために聞いておきたいね。
 死人がなにを言っておる。
 それはこっちの台詞だよ とがめちゃん 人は死ぬまで一生学び続け成長し続けるものなんだよ
 いやだから貴様は死んでおろうが!
 違うよ 僕は死んではいない だって僕は今 こうして君と話して 此処にいるじゃあないか
 つまり、貴様は私の一生を懸けて、私をからかいいたぶり続ける技術を磨き続ける、という事か!
 ご名答 さすがは僕のとがめちゃんだよ これからもよろしくね
 つまり
 
 この私が感じている、凄まじい怒りを解消するためには、怒りを捨てたり抑えるのでは無く、
 むしろその怒りに任せてそのまま戦い続ければよいのだよ。
 
 戦い続けるのと、戦いを捨てようとして一生足掻き続けるのと、どちらが楽であろうか?
 答えるまでも無かろう。
 飽きるまで、戦えばよかろう。
 私がそれを必要としなくなるまで、存分に戦い続ければよいのだ。
 いずれはそのときがやってくる。
 私が、戦いを捨てようとして無理に足掻き続ければ、それだけ私は生きづらさを感じるだろう。
 今度は、戦いに代わって、その足掻きが生きる事そのものになってしまうであろう。
 意味が、無いのだよ、実際。
 私にとって最も重要な事は。
 生きる事自体が戦いになっている、という事を変えることだ。
 戦いも、生きることのうちのひとつ、ただそうなればよい。
 戦いに拘ることに必要を感じているのなら、それで良いのだ。
 そうする自分を自分で認め、そして許すことが肝要なのだ。
 問題なのは、戦いに拘り過ぎる、ということ。
 それは、戦いにしがみつき過ぎる事と、戦いを無理に捨てようとすることの、両方だ。
 自分の必要と拘りが、釣り合っているかどうか、ただそれだけでよいのだよ。
 そして
 もし、必要に対して拘り過ぎていると感じており、その拘りを無理に捨てようとしたり、
 あるいは力ずくで減じようとしても、それ自体が私の生をそれに閉じさせてしまう。
 どうすればよいか。
 考えてみれば、至極簡単なことよ。
 父への愛憎に囚われ戦い続ける女を、自分の生に引き戻すために一番有効な方法。
 それは
 
 
  別の男も 愛して 憎めばよいのだ
 
 
 つまり、拘りを否定するのでは無く、拘りを肯定する。
 すなわち、拘りをひとつに限るのでは無く、増やしてやればよいのだ。
 そうすれば、単純な話、ひとつの拘りに対する私の負担が必然的に減じる事になっていくのだ。
 敵の戦力を分散させての各個撃破、戦術の基本だよ。
 ゆえにそれが、そのままを生きたい、という私の真の目的を果たすことに、素直に、そして。
 楽に、繋がっていく。
 そのために戦う必要も、苦しむ必要も、努力する必要も、全く無い。
 我が心根の必要のままに、そのままに生きれば良いのだ。
 というより、もう既に、そうする事自体が、私のそのままを生きている事になっていると言えよう。
 私は、七花を愛している。
 そしてそれは
 もはや、愛でも無ければ恋でも無く、己自身の人生に対する、私の深い同情から発している。
 私は、父への想いを七花への想いにすり替えている訳では無い。
 それは本質では無い。
 私が求めていたのはただ、父との間に線を引き、ひとりとひとり同士、対等に向き合いたい、それだけだ。
 その満たされなかった想いのすり替えを、ただ父への愛憎という形で行っていただけさ。
 私はただな。
 愛でも無ければ恋でも無く。
 ただ ただ
 
 
  七花と
 
   そして
 
      父と
 
             並んで歩きたかっただけなのだよ
 
 
 父から七花へ、では無い。
 父も七花も、だ。
 私は女だからな、それなりに愛という言葉に感じるものはあるが、しかし、だからこそ、
 その愛という言葉を、この際だ、上手く使わせて貰おう。
 私は、七花を愛している、と言う。
 それはつまり、私が七花に囚われ、父に対するのと同じように拘ってしまう、その自分をも認めよう、
 そういうことだ。
 それはつまり。
 そうして、七花に囚われ拘るのが、すべて、七花との間にきっちりと線を引き、向き合い、
 そして並んで歩きたい、ひとりの女として、私として、ひとりの男としてのひとりの人間としての七花と、
 共に生きていきたい、その私の真の目的を叶えるためにこそあるのだ、という自覚が、
 私に芽生えたからなのだよ。
 
 
 
  『俺はとがめのために戦っている。
 
    それが俺の出した答えだ。』
 
 
   私は 七花と生きたいその私のために 戦うのだ!
 
 
 それとついでに、未だに私の胸の中に巣喰うあの忌々しい男と戦う私のためにも、な!
 そして
 ひとつ分
 すっきりと
 そして
 
 晴れやかに
 
 
 父との死別を
 
  感じることが出来たよ
 
 
 
 
 
 
 
  『 僕 は 、 君 の こ と が 大 好 き だ っ た 』
 
 
 
 
 
 
 
  ありがとう
 
 
 
 
 
          父上
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 これぞ
 あるがままの、そのままを生きたいという目的を果たすために練った、我が渾身の奇策よ!
 そして私は、その策の実行のために生きていると、敢えて言えようかな。
 まさに
 命果てる
 そのときまで
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  まーたまた 素直じゃないんだからとがめちゃんは 
  素直に父上愛してます大好きです私はあなたのために生きています って言えばいいのに
 
 
    ・・・・ほんとにもう 仇討ちやめようかな
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                        ◆ 『』内文章、アニメ「刀語 第十話 誠刀・銓」より引用 ◆
 
 
 
 
 
 

 

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