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◆◆◆ -- 2012年9月のお話 -- ◆◆◆

 

-- 120927--                    

 

         

                               ■■ パターン、アニメ。 ■■

     
 
 
 
 
 前略、紅い瞳です。
 
 
 今日はごく久しぶりにアニメ感想を書かせて頂きます。
 ここ半年くらいまともに感想を書いていなかったので、すっかりなていたらくです、文章的に。
 下手なのはいい、でもね、自分で感じたことを書けなくなるっていうか、どう表現していいかわからなく
 なるのはどうかとおもうな。
 語彙が無い以前に言葉が脳から消えてくー、おーいかえってこーい。
 
 ということで、リハビリがてらに、今期終了したアニメについて、ひとつひとつだらっと書かせて頂きますね。
 
 基本的に私の書く感想は、評論とか評価とかそういうのとは一線を画す、というよりもひと山越えた
 向こう側の谷間にあーれーと落ちていくような、小川のせせらぎのような、そんな感じのものですので、
 まぁつまりなんだ、ほんとにアニメ観て感じて想ったことをアニメの内容と関係あるかないかも関係なしに
 書くという、そういうものです。
 いつものことです、ひさしぶりですけれど、いつものことです。
 それが紅い瞳クオリティ。
 
 
 今回は、もやしもんリターンズ人類は衰退しましたアルカナ・ファミリアの三本立てでお送り
 致します。
 
 
 では、ごそっと。
 
 
 
 
 ◆
 
 
 もやしもん リターンズ:
 すっごい面白かった!、という反応にはならないのだけれど、ところどころに心地良いのものがあって、
 観て良かったかどうかという質問になら、観て良かったと答える。
 前半の及川を中心とした話は、なんというか私が及川みたいな人が好きなんだという事をよく私自身に
 こそ染み込ませて頂いて、なんか、たんのーした。
 ・・・。
 基本的に自分に忠実で、自分を信じていて、だからなんというのかな、好き嫌いというのはあるけれど、
 他人に対する「差別」というのが無い、だから他人のそのままの姿と向き合う事が出来るという、そういう
 人の姿を観ると、私はなんか力が湧いてくるんだよねー。
 樹先生とのやり取りなんかも、オヤジ転がし(ぉぃ)というよりも、及川の真摯な気持ちの表明が、
 そのまま年上の男性を喜ばせる言葉になっているだけで、なんかこう、清々しかった。
 あのふたりのやり取り、特に日本酒の話は私の趣味もあって非常に観ていて贅沢をさせて貰いました。
 
 後半は新キャラのフランス娘マリーに尽きる。
 この子も及川と同じく正直で、その正直さに忠実で力強く、そしてだから他人に対する誠実さに溢れて
 いて、なんだかなぁ、人と接するということは、自分と接することと同じなんだなぁというのを、まざまざと
 感じさせて貰いました。
 お世辞も操作も礼儀もなにもない、ただただ自分が素敵だと思ったことを衒いなく、自分のしたいと
 思ったことを堂々と、ただそれだけを告げて、そしてそれに対して相手がどうするかは相手にきちんと
 任せる。
 マリーは自分の中に生まれるあらゆる想い、欲望に対して、自分の反応を一切操作せず、完全に
 それらに身を任せて、そしてその自分の反応を尊重して行動しているように私には見えた。
 そしてそれがそのままに、マリーの他の人に対する態度、特に父親に対する姿勢によく現れていて、
 マリーの言っていることが「正しいか」どうかという事は全く関係無く、ああ、この子の言っていることは、
 マリーにしか言えない、そしてマリーが責任を負っている言葉なんだなぁというのが感じられて。
 
 気持ちよかった。
 
 なんかこう・・・しみじみと、心地良い。
 自分の気持ちをきちんと伝えること、そしてそれに対する反応をきちんと受け止めること。
 これが出来ることが、きっと・・・・きっととても、大切で、そしてきっと瑞々しい人生の礎になることなん
 だなぁ。
 そう感じたよ。
 相手や自分の反応が怖くて、相手や自分を操作してしまうこと、そうして自身を「守って」しまうことが、
 きっと多くの閉鎖的ななにか、すなわち不満や不安を生み出して、そしてそれを相手や自分にぶつけて
 しまうことで、差別や自信の無さを生み出してしまうんだなぁ。
 そう感じたよ。
 自分が好きなものを好きと言い、嫌いなものを嫌いという。
 好きなもののために生き、そして一生懸命に考える。
 あのワイン造ってるのにワインが飲めず、色々鬱屈していたマリーの父親が、マリーの提案でブドウ
 ジュース作りに目覚めるシーン・・・
 私の胸から、なにかが湧き出て飛び立っていくような、そんな上昇していく解放感を、そのとき感じたよ。
 観て、よかった。
 ありがとう。
 
 
 
 人類は衰退しました:
 頭がぼーっとする。
 なんだろう、この作品を観ていると、頭がぼーっとして、じぶんがどこかに行ってしまう。
 最初の頃は、なんというか自分の頭の表層的な部分にたむろしている、この作品の主人公のシニカル
 っぷりに対する嫌悪感があって、一歩距離を置いていたのですけれど・・・
 なんというか・・いつのまにかわたしは私が嫌いなだけで、その嫌いな自分のことが好きなのに、好きと
 言えずに嫌いということしか出来ない私が、それでもこの作品を見続けるという愛を持っているんだ、
 ということに気付く前に、もうその愛の世界の中に溶け込んでしまっていて。
 わかりやすくいうと、世界に没入してしまった。
 後半はもう、主人公の「わたし」の感覚がなんか肌で感じられて、そしてこう、胸の奥底が抉られるよう
 な、ああもう、ほんとこう、言葉ってうわっつらなものしか表せないんだなぁ、ほんとに自分の真ん中に
 あるものは言語化なんかできないんだなーって。
 
 割と、降参した。
 
 慇懃無礼というよりは丁寧におちょくっていて、嘗めているというよりはなんとか言語で世界を捉えようと
 していて。
 その主人公「わたし」の感覚が、ああ、とても胸を突く。
 作品とそして「わたし」の語りの中にある知性が、嫌味であることを大前提としながら、でもそもそも知性
 ってそういうもんじゃないのかなぁ、世界を語り、自分が把握可能なものとすることで、そして私という
 それとは一歩隔絶し、そしてその世界に左右されない、「変化させられない」、そういう絶対的に固定化
 された者でありたいという、そういう「わたし」の感覚がねぇ・・・・私は嫌いなのに、わかってしまって・・
 私は変化を求めて世界と溶け込みたいという「言葉」を使って世界を語り、そうして世界の変化を
 受け止められるという「自分」を作って、その自分の中に籠もることで世界から自分を守り、他者との
 間に線を引き、そして私は私だという想いに執着している。
 やってることは、「わたし」とおんなじなのに。
 ラストエピソード、すなわち「わたし」の過去学生編に於いて、「わたし」が泣きながら自分の寂しい気持
 ちを叫んで学校内を走り抜けたシーンに、私は衝撃を受けた。
 ああ
 叫びたいのに、叫ばないのは私か。
 そして、叫びたいのに叫ばないのは私なのに、叫んだ「わたし」に拍手を贈るだけで済ませている私が
 いる。
 私は叫んでないのに、「わたし」の叫びを観ただけで、自分も叫んだつもりになっている。
 そのことが一瞬にして私の中に広がり、それが衝撃となってやってきた。
 
 こわい。
 
 私にとってのこの作品の「こわさ」はそこにある。
 人類以前に、私はどんどん衰退している。
 自分と世界を言語化して、それで済ませてそれで良いと思っている私は、そうして日々語りながら
 衰退中。
 叫びたい。
 あらん限りの力を込めて、叫びたい。
 その衝動と、それを覆う言語化された自分と世界がせめぎ合いながら、足を引っ張り合いながら、
 もつれるようにして、滅んでいく。
 羨ましいんだ、「わたし」のことが。
 言葉を語りつつも、ひとつひとつ叫んでいく、「わたし」の生が、世界が。
 そしてその羨望こそが、それでも私をこの言語化された世界に押し留め、そして生存させている。
 叫びたい。
 叫びは言語では無い。
 叫びはなにも作らず、なにも破壊せず、なにももたらさない。
 叫びは、私そのもの。
 私って、なんだろう?
 生きたいから言葉を綴り続けているのに、生きるってそもそもなんなのだろう。
 
 私は、なんで生きてるんだろう。
 
 そんなこともわからずに生きている、ということの気付き。
 走る、走る。
 生きる理由なんていらないさという言葉を綴りながら、私はそれでも走る。
 あらぬ方向へ、しかし確かな元へ。
 忘れることなんて、出来るものか。
 私は、いたんです、ずっとずっと、ここに。
 言葉を綴り自分を守りながらも、そうしてまでも、生きていたいと激しく祈る、その私は。
 言葉を綴る私も、私なんですね。
 だから。
 もともとずっとここにいた、私をみつけました。
 泣いてます、うれしくて、かなしくて。
 ほら、そうやって自分の姿を、気持ちを言葉で表したって。
 私は、ここにいるじゃないですか。
 言葉とは、感情の感想でそれの説明だよ。
 初めから、言葉が世界を自分を作っていることなんて、無かったよ。
 この作品はきっと、そのことをなによりも的確に、そして感動的に言い放った作品なのだと私は感じました。
 旧人類の人間と、現人類の妖精。
 そう言葉で区分けして表現することでみえてくる世界というものはあれど、衰退というものはあれど。
 ここにいるのは、ひとりの人間と、ひとりの妖精、ただそれだけ。
 衰退を絶賛するわたしのシニカルさが、ああ、とても力強く感じられました。
 世界を悪く「言おう」と善く「言おう」と、私がここに生きていることにはなんら変わりがない。
 言葉は言葉、私は私。
 ソウルフルな時間を魅せてくれて、ありがとね。
 
 
 
 アルカナ・ファミリア:
 マンマ@井上喜久子が、エロい。
 ジョーリィ@遊佐浩二が、エロい。
 まずこのふたつは押さえとかないとね、これはもうあれですからね、ヤバかったですからね。(個人的見解)
 ・・・・。
 というか、それ以上上手く言えんのだよねぇ、この作品は愛というか、人を愛する者の姿を色々な意味
 で愉しむ作品というか。
 その愛の形がどうであろうと、たとえ健全なものでは無かろうと、その「愛」という気持ちがあること自体
 のよろこびを、素直に描いていて、それがこう、なんだか観ていて心地良いというか、好きというか。
 それでいて、じゃあ愛しているのならなにをしてもいいのかとか、愛されているのならなにをされても
 いいのかとか、そういうことにはならずに、きっちりとケジメをつける感覚が、ああなんというか、優しいなぁ
 と、なぜだかそう感じました。
 ちゃんとそうやってケジメを付けることで、逆になんだか「孤独」からキャラ達を救済しているような気が
 するんよねぇ。
 
 特にジョーリィ。
 
 ファミリーのパーパにして昔の兄貴分(?)であるモンドを救うためなら、どんな非情なことも、そして
 汚れ仕事もこなすジョーリィは、そうしてモンドに絶対の忠誠を誓いつつ、そのモンドのためになら周囲の
 者を道具として扱うことも厭わない、という姿をみせつつ・・・
 完全に、それが周囲の者達に対する、ツンであるということが感じられて。
 ジョーリィの立場から出来る最善のことを為していく、ただそれだけのことなのだけれど、逆に周囲への
 深い愛のゆえにひとりで全部背負い、なにも説明しないことで周囲が害を被っても、その罪をもジョーリィ
 が背負うという、これはもう、自分勝手というより、孤独だよ、ジョーリィ。
 そしてモンドを救うために娘のフェリチータが危ない目に遭い、その原因を作ったジョーリィに対して、
 モンドはしかし、自分のためにそれをやってくれたジョーリィを認めつつも、娘を危険に晒したこと自体は
 許さない、と、そうきっちりと「ケジメ」をつけることで、ジョーリィに救済を与えた。
 それは、決してデレることの無いジョーリィを、いわば「悪役」としてその存在を認めて、ファミリーの中に
 存在することを認めた、というような感じでした。
 悪役は役にしか過ぎず、そして悪は悪である、と。
 悪と役を分けたというか、なんというか。
 別の言い方をすれば、愛してくれる事には感謝するが、愛していればなにをしても良いというわけで
 は無い、なにが俺のためになるのかは俺自身が決める、というモンドの意志と、そしてジョーリィのモンド
 へのおもいに対する敬意でもある。
 そんな感じかなぁ。
 あとはまぁ。
 
 萌え。
 
 結構、好きでしたよ、わたしゃこの作品は。
 観ていて居心地の良さを感じることが出来たし、なんというか、ああやって互いへの親密さを正しい
 形にして結び直していく様には、私は本当に興奮を覚える。
 正しいというのは、つまり、彼ら自身がその親密さで互いの成長を阻害しないもの、ということね。
 逆にいえば、この作品の清々しさとそして暖かさは、誰もが皆、己の成長の過程として、他者への
 おもいと愛を胸にして生きている、その姿にあると、私は感じたよ。
 ジョーリィもそしてきっと、彼らとの触れあいを通して、成長し続けているのだなぁと感じるねぇ。
 ツンデレ万歳。
 そして成熟したマンマとして描かれるスミレもまた、子供達の姿を通して、自らの中のなにかに気付き
 成長していく、いえ、ずっと自分は今でも成長し続けているのだということに気付いていく姿もまた。
 あたたかい。
 いい女万歳。
 あと娘は誰にも渡さんとか、結局一番成長してないモンド萌え。
 成長しても成長しなくても、どっちでもいける。 しあわせ。 (はいはい)
 
 
 
 
 以上。
 
 ・・・。
 いやほんと、感想って難しいのな、あはは。
 ・・・。
 
 次はもっと頑張ろう、わたしならきっとできるよ、うん。 ←顔を逸らしながら
 
 
 
 アニメ感想は次回に続きます。
 
 では、ごきげんよう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

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                               ■■ 愛する あなたへ ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 触るとね、きもちいい
 触れられると きもちいい
 
 
 ずっと一緒にいたいし、ずっと見ていたい
 一緒にいないとさびしくて、一緒にいるとあたたかい。
 それが当たり前のことだなんて、一体誰が言ったのかしら。
 わたしはこんな気持ち、生まれて初めてよ。
 この気持ちを満たしちゃいけないだなんて言葉は、もういらない。
 しがみつくとかしがみつかないとか、ひとりじゃ生きられないだの生きなくちゃいけないだの、
 そんなの関係無い。
 
 貞一君といると、うれしい
 
 それだけ。
 それだけのことが、どんなに、どんなに素敵なことで、どんなに奇跡的なことなのかなんて、どれだけ
 言葉を費やしても語れるものじゃ無い。
 不思議よね、うれしくて、うれしくて、そうして涙が出てくるんだけど、泣いているだけで済んで
 しまうときって、まだまだその嬉しさをちゃんと満たせていないのよね。
 泣いている暇なんて無いくらいに、私は貞一君と一緒にいたくて、貞一君に触れたくて、触れられたい。
 それはもう衝動的というか、感動的というか、空が真っ赤になって、そのまま真っ青に塗り変わって
 しまうような、笑ってしまうくらいに劇的で、どうしようもないくらいに、正しいことだった。
 そう、正しいのよ。
 なんだかその言葉が、すっぽりと私の頭から抜け出して、目の前に現れてきたみたい。
 貞一君のキラキラした瞳に照らされると、なんだかこう、上擦った気持ちになってきて、落ち着け、
 落ち着けわたし、そうやって自分の想いを鎮めようとするんだけど、もうそうやって自分を鎮めようとする
 こと自体が、どうしようもなく楽しいことのように思われてきて。
 貞一君の前で、可愛くありたい、綺麗でありたい、みっともないとこみせたくない。
 ああ、そっか、わたし、ふつうの女の子、やっていいんだ。
 なんだかずっと、そのことに罪悪感みたいなものがあったような気がするのよ。
 貞一君には、わたしの全部を、本音を、正直にみせなくちゃいけないって、どこかでずっと思っていて。
 
 それは、私がずっと自分の感情を、みせちゃいけない、ってそう思っていたことへの反動。
 
 わたしは、結構だらしないのよ、いい加減だし、ずぼらだし、おっちょこちょいだし。
 でも、それを見せなくたって、いいのよ。
 綺麗に隠して、大好きな男の子のまえでかっこつけたって、いいのよ。
 貞一君に全部受け止めて貰って、すべての私を愛して貰えたとき、ああ、そういうことなんだって思った。
 自分を隠したい、綺麗にみせたい、美しくありたい、それだって、私の、私の大切な気持ちなんだって。
 私は、その自分の気持ちを受け入れたわ。
 私は貞一君に、私の汚いところ醜いところも全部認めて貰えたのだけれど、でもそれは、きっかけに
 しか過ぎ無いの。
 それは、私が、わたしこそが、そうした自分を認めることのきっかけになったんだって、今はおもうのよ。
 
 だから、貞一君の御陰ではあるんだけど、でも貞一君がいなければなにも出来なかったとか、
 貞一君がそれをやったというわけじゃ、無いのよ。
 私が受け止めなきゃ、受け入れなきゃ、意味無かったし、貞一君はそのきっかけというか、大きな
 助けになっただけ。
 だからね、私、今ちょっぴり、貞一君への感謝とともに、自分自身へもありがとうって気持ちが芽生え
 始めているの。
 ああ、こうして今貞一君の前に立っていられる私を、ここまで導いてきたのは、他ならない私自身なん
 だって。
 醜い自分も汚い自分も、それは全部私で、その自分を認めてくれた私こそに、ありがとうって。
 今は、言える気がする。
 貞一君に甘えたい、ずっとずっとしがみついて、どうしようもならなくなっても、子供のようにそのままで
 いようとする、そんな私は、そうしたい私の気持ちを、私によって許された。
 甘えても、いいのよ、しがみついても、いいのよ。
 それはうれしくて、うれしくて、もう。
 貞一君に甘えながらも、しがみつきながらも、私は、貞一君の前で、綺麗に振る舞い自分を隠そう
 として美しく貞一君と距離を取れる自分のことも、許せてしまう。
 がんばって、いいのね。
 がんばろう、わたしのために、そして、貞一君のために。
 
 ううん、気付けば頑張るだなんて言葉が頭の中から消えるくらいに、夢中になっていた。
 自分の中で、まるで暖かい春の風のようにそよぐ光が、ぐっと、私の腰に張りをもたらしてくれる。
 前はね、ただつま先に力を入れて、胸を張って、そうしてガチガチに柔らかな自分を無理に作っていた
 だけだったような気がするのだけど、今はなんだかこう、そんなことをしなくても、しぜんに私の胸の奥から、
 ゆっくりとしなやかに、力が溢れてくるのよ。
 なんだろう、いちいち考えなくても、自分がなにをすればよいのかがわかってしまうのよ、ううん、わかって
 しまうというより、もうそのまえに体が動いているというか、そんな感じね。
 ぴたっぴたっと、まるでずっとそこにはまるべきだったピースが、やっとはめられていくことに歓喜しているような
 、私もそうして自分の流れるままに当て嵌っていくことが楽しくて、うきうきと零れる笑顔を止められない。
 
   真っ白に積もっている雪が、私を歓迎するかのように、暖かく澄んでいく
 
 貞一君の周りをころころと子犬のようにまとわりつく、そんな自分の姿を感じられないほどに、
 私はわたしのままに、動き回っていた。
 ひとつひとつ、貞一君の前で重ねていく私の所作が、言葉が、全部丁寧にこの世界のひとつひとつ
 と手を取り合って繋がっていく。
 その中で、貞一君がみえる。
 貞一君の細くて綺麗な指、きらきらとしていて深く澄んでいる瞳、さらさらと爽やかに風に靡く髪。
 さくっさくっと、雪を踏みしめる音、しっかりと一言ずつ発せられる聞き取りやすい声。
 えいっ
 背中から抱き付くと、私の目線よりもちょっと下にある貞一君の目が、振り返る。
 あ、わたしをみてる
 ぱっと離れて、見つめられた喜びを思いっきり笑顔に込めて返すと、貞一君は、なにがしたいんですか
 夕子さんと、照れた頬を細い指で掻きながら目を逸らす。
 ああもう
 たのしくて たのしくて  しかたないっ
 もういっかい、抱きつく。
 なんなんですか、もう、と貞一君は呆れたように言う。
 そっか、わたし、抱きつくばっかりで、貞一君を抱きしめたことって、まだ一度も無いのね。
 
 
 
 
 +
 
 
 貞一君に、いつも膝枕してあげてた。
 でもそれは、私が貞一君の頭を膝に乗せて楽しみたいという、ただそういう私の我が儘を貞一君が
 叶えてくれただけのこと。
 だって、貞一君から、膝枕して欲しいだなんて言ったこと無いし、わたしはいつも貞一君を引き倒して
 無理矢理膝枕しただけだもの。
 でも、貞一君は、そうして私が彼になにかするという形で貞一君に甘えるということを、ちゃんと許して
 くれた。
 貞一君のためと言いながら、その実たんに私のためにやっているだけのことを、貞一君は照れながらも
 受け入れてくれた。
 優しいひと・・
 私はその優しさに浸るなかで、正直になっていった。
 さぁ、貞一君、膝枕、してっ!
 私は甘えたいんだから、素直に甘えればいいのよ。
 甘えることをいけないことだ恥ずかしいことだって、そう本当は思っていたから、私はただ甘えてるだけの
 ことを正当化して、貞一君のためとか言ったりして誤魔化していた。
 甘えればいいのよ。
 だって、貞一君はどうぞ甘えてくださいって、言ってくれてるんだもの。
 甘えちゃいけないだなんて言ってるのは、私だけよ。
 だから、素直に貞一君に飛びついて、膝枕して貰ったの。
 子供のように、わやわやと空を見上げながら手を伸ばしてね、頭では貞一君の膝の暖かさを感じて。
 なんだ・・わたしがしたかったことって・・・・ただこれだけのことだったんだ・・・
 たったこれだけのことが出来なくて、私は貞一君を膝枕してあげ続けていたのね・・・
 
  青い空の中に、純白の太陽が埋め込まれていて、まるで暖かい宝石みたい
 
 
 うん・・・
 貞一君にね、やっと初めてだし巻き卵をあーんしてあげられたとき、あのとき感じた達成感は、確かに
 とても嬉しかったのだけど、でもそれは、今この瞬間に感じている、私が一番したい事じゃ無かった。
 嬉しかったわよ、正直に言えば。
 だって、貞一君にだし巻き卵をあーんしてあげたいという、そういう恋人同士のイベントをちゃんと達成
 出来たんだもの、それを願っていた私も、貞一君はちゃんと認めてくれた。
 嬉しくないはずが無いわ。
 でも。
 私が求めていたのは、それじゃ無い。
 ううん、私が貞一君に甘えたいという気持ちを満たすには、そのやり方じゃ駄目だった。
 貞一君にだし巻き卵を食べさせてあげるという気持ちは、貞一君にこそ私にだし巻き卵を食べさせて
 欲しいという、わたしの本当の気持ちを隠したもの。
 勿論、貞一君が私のデートごっこにちゃんとお返しをしてくれたというのもあるんだけど、でも私は
 もっと素直に、あの瞬間を感じていたの。
 貞一君が、夕子さん、あーん、と言って、私の作っただし巻き卵を・・・・
 
 

まるで 潮が満ちていくかのように 私の胸に広がっていく光・・・

 
 ほんとうに、子供のように、大きくうんと頷くときめきを、はっきりと感じられる。
 ぞくぞくするほどに嬉しくて、貞一君が私に、あーんって・・・
 こんなに美味しいだし巻き卵は・・・はじめて・・・・
 ああ
 どうしようもなく
 癒されていく
 満たされていく
 たぶん、それが、私が、貞一君に対して、そしてこの世界に対して求めていた、最後の・・
 最後の、私の、私のすべてを受け入れて欲しいという、甘えだったのね・・・
 癒され、それが完全に満たされていくことのうちに、私は、終わりを感じていたの・・・
 
 
 
 

+ +

 
 

それはどこかせつない

 
 
 
 

恋のかおり

 
 
 
 
 

 

 

 
 
 
 ◆
 
 自分のなかのなにかが、まるでいちまいいちまい、皮を剥かれていくように。
 白々とした生身の、そしておだやかに光るなにかが、私の中で立っている。
 貞一君に、もう一度だし巻き卵を食べさせて貰おうと思ったとき、私は直感した。
 ああ、もういいのね、って。
 まるで長い眠りから覚めたときのような気怠さを感じて。
 それでも、充分過ぎるほどに満たされたわたしは、一瞬一瞬、目が覚めていくと同時に、清冽な
 気持ちになっていった。
 冷たくて、清いほどに純粋な、おもい。
 貞一君に撫でて貰った頭に感じるぬくもりが、私に囁いている。
 ありがとう
 そう
 よかったわ あなたが 満たされて
 わたしは・・・
 不思議よね・・・
 あの頃はずっと、ただそれだけを求めて、それがすべてだとおもっていたのに・・・
 
 わたしのぜんぶをみとめてほしい
 わたしのぜんぶをうけいれてほしい
 あまえさせてちょうだい
 ただただ、その私の気持ちを満たしてくれる人を、陰に陽に、あらゆる手段を、意識無意識のすべてを
 使って、求め続けていたのに。
 その欲求への渇望と懲罰の、そのふたつに引き裂かれたまま、がっちりと固まってしまっていたわたし。
 私は、ずっとそれが続くのだと思っていた。
 ずっと、ずっとこのまま・・・
 それはまっすぐな絶望と ゆがんだ安寧の世界
 
 
   わたしは
 
       その先に広がる    せかいと
 
 
     そして     新しい わたしに進むのが    こわかった
 
 
 
 
 不思議ね。
 ほんとうに、ふしぎ。
 今はもう、わたしのなかのなにかに導かれるままに、私はどこまでも行けてしまいそう。
 どんなに辛くても、苦しくても、それでももう、私はその辛さや苦しさを否定したり、我慢したりしないって。
 そうやって、ちゃんと自分と向き合ってくれる、そんな私を信頼出来るようになったから。
 だから
 どこまでも 行ける気がして
 もっと もっと がんばれるような気がして
 そして 気付けば ゆめのなか
 
 しんしんと 深まっていく おもい
 ふかぶかと 冴えていく からだ
 
 突き抜けるような青を湛えた空
 やわらかにただよう綿菓子のような雲
 渾々と、泉のように湧き続ける風
 すらすらと読み上げるように沸き立つ肌
 しっとりと胸の奥に丁寧に仕舞われていくぬくもり
 ああ 
 この静かな興奮が、私の笑顔をきらめきで滲ませていく
 どこまでも どこまでも
 遠く
 飛んでいける
 羽が生えたのかしら
 ほんとうに ただ座っているだけなのに わたしは
 貞一君の丸くて固い肩が、私の体をつつくたびに、ぴりぴりとしたよろこびが駆け巡る
 貞一君に預けた頭に、貞一君のやわらかい吐息が触れるたびに、甘く醒めた光が爆ぜる
 結構、緊張しているわ。
 甘えながらも、それでも可愛く、女の子らしく、それでもいやらしくならないように、丁寧に。
 丁寧に、貞一君の隣で、ひとりの女性の私を生きている。
 どこまでも、出来そう。
 今なら、わたし、もっともっと、可愛くなれる
 私のために?
 そうね、勿論そうよ、この胸のどきどきをどこまでも感じたくて。
 貞一君が、私の肩にしっかりと手を回してくれたとき、はっとした。
 嬉しかった、すごくすごく、貞一君が私のために、可愛く女の子を生きている私のために、そうして
 肩を抱いてくれたこと、それがとっても嬉しくって、わたしはもう、すこやかだった。
 
 
  あ り が と う
 
 
 そのとき貞一君は、口を真横に結んでいた。
 緊張しているの?
 ううん・・・決意したのね
 私のために、ひとりの女の子を頑張っている私のために、貞一君は、勇気を出して、私の肩に
 手を回してくれたのよ。
 ひとりの、おとこのひととして。
 ああ
 ああ・・・ていいちくん・・・あなたは・・・
 
 あなたは、私のために、意を決して肩を抱いてくれた。
 こみあげてくる、おもい。
 わたしは・・
 
  その貞一君の、勇気に    恋をした
 
 
 それは私の
 わたしのほんとうの恋の、始まり。
 
 
 貞一君の優しさこそに、私はどうしようもないほどに、魅せられてしまった。
 深く、深く、どこまでも深まっていく、その優しく振る舞おうとする貞一君への愛しさが、次々にわたしの
 なかの、今まで一度も触れられることの無かった、じぶんでも気付かなかった部分を、激しく刺激する。
 貞一君・・・あなたはずっとそうやって・・わたしをみつめて・・わたしのために頑張ってくれていたのね・・・
 見えるべきものが、やさしく私の肩を抱くようにして、その姿をあらわしていく。
 私の記憶を取り戻すために、ふたりのわたしがひとつになれるようになるために、さびしくてどうしようも
 なかった私を癒すために、あなたは、ずっと、私のそばにいてくれた。
 私が辛いとき、いつも私のところに来てくれた。
 私が悲しいとき、いつも私と一緒に泣いてくれた。
 なんだろう・・このきもち
 わたしは・・
 この子を・・・・甘えさせてあげたい・・
 わたしのために、ではなく
 
                そうして一生懸命 愛する誰かのために頑張り続ける
 
                          このひとのためにこそ
 
 
 貞一君の私への優しさを越えて、貞一君の優しくあろうとする気持ちに触れるたびに、私の心は、
 ひとつひとつ澄んでいく。
 ああ・・
 わたしは・・・この人と・・
 いっしょに  進んでいきたい
 そしてなによりも
 
  この人を  だきしめてあげたい
 
 優しくて、優しくて。
 でもきっと、ほんとうは、弱くて、小さくて、ほんとうはもしかしたら、いい加減な人なのかもしれない。
 でもこの人は、私への気持ちのままに、一生懸命に、優しく、そして誠実であろうと・・
 その努力と頑張りへの尊敬は、勿論あるわ。
 でもそれよりも、この人はその自分の弱さや小ささを、否定なんかしていない。
 だって、そうじゃなきゃ・・そうじゃなきゃ、わたしのすべてを受け入れることなんて、出来ないはずだもの
 貞一君は、弱いままに、小さいままに、そのまま、自分の気持ちのままに、私を愛してくれた。
 ううん、愛そうとし続ける自分を否定しなかった。
 私のために、そして貞一君の私を愛する気持ちのために。
 
  - 無我夢中で -
 
 ああ・・
 私はあなたのその姿を、なによりも愛おしく感じるわ。
 愛する人のためにひとりの男性として弱く強く歩き続ける、そのあなたの姿は、私の姿とそっくりだった。
 わたしも、わたしもよ、貞一君。
 私も、あなたが好きという私の気持ちのままに、そして、あなたのために・・・
 あなたを、抱きしめてあげたい。
 あなたを、守ってあげたい。
 そして
 あなたを、甘えさせてあげたい。
 あなたの悲しみに寄り添い、あなたが辛いときはいつもあなたの側にいてあげたい。
 私は、貞一君に
 この ひとりのおとこのひとに
 どうしようもなく
 深く共感した。
 
 
 
 
  ・
   ・
    ・
    ・
 
 
 どうしよう このきもち
 どこまでも醒めていく、どこまでもどこまでも深く深く、醒めていく。
 なんだか、私から私が全部いなくなっちゃったみたい。
 すごく、落ち着いているの。
 嬉しいままに、溶けるようにして、なにかが私の中から動き始める。
 嬉しくて、嬉しくて、あまりに嬉しくて、嬉しさを忘れてしまったかのように。
 愛しい気持ちが、胸一杯に満ちて、溢れて零れ続けて、すっかり胸がからっぽになったかのように。
 すっ
 ほんのりと 手を差し伸べる
 貞一君のために、私はなにが出来るかしら。
 その純粋で、そしてなにより冷静な思考が、頭では無く、すっきりと空室になった胸の中で煌めいている。
 とく とく とく
 生命を持った時計仕掛けの鼓動が、やわらかく私のおもいを包んでいく。
 ああ
 わたしは このひとと 共に感じて生きていきたい
 このひとを追いかけて、追いついて、そして一緒に並んで歩いていきたい。
 私のその凄まじいおもいは、どうしようもないほどに私の体に溶け込んで、圧倒的な力を以て、
 その姿を消していく。
 消えて、そしてどうしようもないほどに溶けていくように、私の思考の支えとなって。
 お願いよ わたしの願いを叶えて わたしの思考さん
 頭の悪い私でも、でも、こうして胸をからっぽにして、考えることだけに真実集中すれば、きっと。
 願いは、叶えられる。
 
 
 ふたつに分かれていた私は、今はひとつになった。
 ほんとうは、細かくみれば、もっともっと、私は沢山のわたしに分かれていたはず。
 やっと、ひとつになれた。
 ずっとひとりぼっちだったけれど、今はもう、ひとりじゃ無い。
 もうひとりの私のことを認めることが出来なかったから、それはふたりに分かれていても、実際には私に
 とって私はひとりだった。
 もうひとりの私のことは見えなかったのだから。
 見えないまま、分かれたまま、私はひとりぼっちだった。
 それが、やっと見えるようになって、自分がほんとうはふたつに分かれていたのだと初めて知って。
 そうして、ようやく、私は自分の半分を否定して、その力を使えていなかったことに気付いて。
 ごめんね。
 これからは一緒にいきましょうと、そういって、やっと私は、分かれていたわたしを得て、ひとりになった。
 長かったわ
 長かった・・
 私はきっと、この瞬間のために、ずっと、ずっと生きてきたのよ・・・
 願いが、叶った。
 満たされた。
 
 
  もう 終わりにしましょう
 
 
 自分の言葉に突き動かされる。
 別れましょう、貞一君。
 あなたは、私のために、こうして今までずっと頑張ってきてくれた。
 もう充分、もう充分なのよ。
 あなたにこれ以上、甘える必要はもう無くなったのよ。
 綺麗に、美しく、しっかりとひとりで歩けるようになったのよ。
 ずらずらと語り出す、わたし。
 別れましょう、貞一君。
 私の願いはもう叶ったわ。
 だから私は、もう消えるの。
 お願い、綺麗なまま、願いを叶えて満ち足りた、その私をこのまま・・・
 綺麗に、見送って。
 綺麗なまま、消えたいの。
                        − こわいの
 私のことはいいの。
 貞一君、貞一君は、私が消えても、自分のために生きて・・
 そうして私は、貞一君の前で、ひとりの女性として、貞一君のために振る舞う。
 貞一君のために、貞一君のために、わたしは・・・
 
                          − ごめんね
 
 
 
 
 
 
 夕陽に照らされた、その貞一君の顔は、驚きに包まれていた。
 驚きと、そして、悲しみと、焦り。
 ねぇ・・貞一君・・
 わたしに触れてくれて・・ありがとう・・
 あなたに会えて、私は・・
 わたしね・・・あなたにどうやって・・・感謝したらいいのか・・・・わからないの
 どうしたら、貞一君のためになれるのか、やっぱりわからないのよ。
 駄目な子よね、わたしってほんとに。
 頭悪くて、なのに意志だけは強くて、頑固で、馬鹿なことばっかり言って・・・
 そういう私のことを、私はまだ、否定することでしか、綺麗になることが出来ないのよ・・・
 それでも・・・
 それでも・・・・・・貞一君のために・・・・なにかしてあげたくて・・・・・
 それ自体がもう、私の甘えなのかもしれなくても・・・・・
 だって・・・だって・・・・・
 
    わたしのまえで
 
 
               必死に    必死に   叫んでいる  あなたが
 
 
 あなたのせいにしちゃうわよ。
 あなたのおもいが、私に届かないわけ、無いじゃない。
 届いて、届きすぎて、どうしてこの人はこんなに強いのって・・・・
 負けたくない
 あなたに見合う女でありたい
 焦ってるのは、わたしの方。
 でも、私の着飾り方なんて、陳腐な物語を語って、貞一君のためにと身を退くことしか無いのよ。
 情けなくて、情けなくて、語ってる側からもう胸が、胸がね、引き裂かれるみたいに、痛くて。
 それでも、情けなくても、どうしようもなくても、私はその貞一君のためにありたいという自分のおもいを・・
 どうして・・
 どうして・・・・わたしはこんなに・・・・こんなに・・・・・・・・
 
 
 
 
            素直に
                             なれないの?
 
 
 どうしたら・・もっとちゃんと、貞一君のために、ほんとうに貞一君のために、出来るのかしら
 我が儘ばっかり。
 貞一君のためと言いながら、私はただ自分が綺麗にありたいという口実を使って、本当に進むべき
 わたしの姿から逃げていた。
 ほんとうに綺麗になるためにしなければならない事が、こわかった。
 みっともない自己犠牲じみた物語を演じてみせたって、誰のなんの役にも立たない。
 ただ貞一君を傷付け、そしてなにより私自身を私の現実から目を背けさせるだけだった。
 私がすべきは、美しく消えることでは無く、美しく生き切ることだけなのに。
 消える瞬間を見せたくないだなんて、そんなの、最後の最後まで美しく生きようと足掻く、醜い自分を
 放り出すのと同じ。
 駄目ね・・・・だめね・・・わたし・・・・
 私にとって、たいせつなものは・・・・・唯一たいせつなものは・・・・・
 
   
 
 わたしは このひとと 共に感じて生きていきたい
 このひとを追いかけて 追いついて そして一緒に並んで歩いていきたい
 
 ただそれだけ
 
  ただそれだけの      たったひとつの    ねがい
 
 
 
 
 ねぇ、貞一君、幽霊なんていないのよ。
 この世に存在しない。
 私以外に、幽霊なんて見たことある?
 私は、貞一君が見たいと思っているなにか、ただそれだけの存在。
 幽霊なんていない。
 そして私は、幽霊なの。
 私なんて、初めからいないのよ。
 
 でも私は今ここに、確かにいる。
 
 そのことから逃れることが出来ないことが、こわくて、こわくて。
 私の体が消えかけているのは事実、でも、それが私の存在を完全に消してしまうものかどうか、
 そして私がもし完全に消えてもう二度とここに戻ってくることが出来ないのか、出来るのか、それも
 ほんとうはわからない。
 わからないのよ、なにもかも。
 だから、語らずにはいられないのよ。
 ねぇ、ねぇ、貞一君。
 わたし、消えちゃうのかな?
 消えたくないよ・・
 消えたくない・・・・消えたくないよ・・・・・
 
 貞一君のことを考えたいの・・
 残された貞一君の幸せを思い描いて、なにが悪いの?
 私は・・わたしは・・・・貞一君のために・・・・
 雪が降るように、風が吹くように、涙が私の中で張り詰めていく。
 私は、貞一君に甘えるだけの女で終わりたくないのよ。
 私だって・・わたしだって・・・・貞一君のしあわせのために、なにかしたいのよ・・・・・
 消えたくない・・・消えたくない・・・・・でも・・・
 でも・・・・せめて・・・せめて消える私の姿を・・・貞一君に見せないことで・・・貞一君に・・・
 
 どう考えても、駄目だということから逃げることは出来なかった。
 もう、訳がわからない。
 私は貞一君に甘えているの? 甘えていないの?
 貞一君を悲しませないように、ひとりで綺麗に消えて、そして私がいなくなった後の貞一君のことを
 おもって、貞一君にわたしのことを忘れてと言うことは、それは甘えなの? 甘えじゃないの?
 ぐるぐると胸の奥で暴れている。
 もう、訳がわからない。
 貞一君の前で喋り続けていることの違和感だけが、今の私を支えている。
 ねぇ、どうやったら・・どうやったら・・・貞一君を・・・貞一君を・・・私に甘えさせてあげられるの・・・?
 だいすきなのに・・・
 愛しているのに・・・・
 貞一君のこと、好きで、好きで、たまらないのに・・・・
 どうして、どうして貞一君は、私の言うこと聞いてくれないの?
 どうして、ひとりにしてくれないの・・・
 私のことなんかどうでもいいのに・・・
 綺麗なまま消えたいのは、それは私のためじゃ無く、貞一君のため・・・
 何度も何度も、おなじ言葉が胸の中を駆け巡る。
 
 
 貞一君の前で、あまりにもわかりやすいほどに、私はひとりに閉じていた。
 でも閉じていながら、その奥でずっと、私は貞一君に手を伸ばし続けていた。
 わたしをみて みて 貞一君。
 あなたの前で、自分の気持ちを押し殺して、綺麗にあなたのために消えようとしている女の姿を。
 その言葉だけが私の頭の中に羅列されながらも、その言葉に実感を覚えること無く、ただ私は
 呆然として、貞一君のまえで、なにかの姿を演じ続けていた。
 喋り続ける口が止まらない、わたしは、私は・・・・
 その演じた自分の姿を貫徹することも、その責を負うことも出来ずに、私は自分の中で路頭に迷って
 いた。
 きらい・・・・嫌よ・・・こんなわたしは・・・
 なにも言わずに、貞一君の前から消えればいいのに、わざわざこんなことを話して・・
 そうしたら貞一君が引き留めるなんて、絶対わかっていたことなのに・・・
  - きえたくない
 ねぇ、どうして、どうして私は貞一君のために、静かにひとりで消えていくことが出来ないの・・・?
 もうやだ・・・・どうして・・・どうしてよ・・・・・どうしてわたしは・・こんなにこどもなの・・・・
 貞一君に引き留めて貰いたくて、仕方ないのよ。
 貞一君に抱き締めて貰いたくて、仕方ないのよ。
 貞一君に夕子さんきえないでって言って欲しくて、仕方ないのよ。
 貞一君に夕子さん愛していますって言って欲しくて、仕方ないのよ。
 仕方なくて、どうしようもなくて、だからわたしは・・わたしは・・・・そんなわたしが・・・・ゆるせ・・なくて・・・
 泣きじゃくって、なにもできなくて、しがみついて、甘えるだけの、そんなわたしのことが・・・・
 ああ
  やっぱり・・
     そういうことなのね・・・・
 
 私が演じている、その私の姿が、私からまた離れて別れていってしまうことに、ようやく、気付いた
 私を支えている違和感が、もうひとりの私となって、いつのまにか私に寄り添っていた。
 
 
 泣いても、いいのに。
 ううん、泣くのが当然なのよ。
 なにもできなくて、しがみついて、甘えて、そんなの、そんなの、当たり前じゃない。
 消えちゃうのよ。
 わたし、好きな人を残して、この世界から、消えちゃうのよ?
 そんなの
 そんなの
 とてつもないほどに
 
   悲しいことに   決まっているじゃない!!!
 
 私はその感情を受け止め切れなかった。
 感情のままに振る舞う、こどもの私を置いてけぼりにして、私はまたひとりだけで先に行こうとしていた。
 私が・・・私が負うべきは、そのふたりでひとりの、この私のすべてだけなのに・・
 その私の感情を、気持ちを放り出して、それで・・それで私は一体貞一君の・・・
 
 貞一君の悲しみを、どうやって抱きしめてあげることが出来るっていうのよ!!!!
 
 貞一君が、私の目の前で泣いている。
 ずっと最初から、このひとは自分の気持ちのままに泣いている。
 泣かない私の前で、精一杯に、心を込めて泣いていた。
 貞一君の言葉が、貞一君の素直な心の音が、しんしんと、私の血に溶け込んでくる。
 氷の刃のように深く突き刺さりながら、私の血のぬくもりと合わさって、静かにおだやかに溶けていく。
 どろどろに固まっていた私の紅い血はやがて、ゆっくりと貞一君の心と混ざり合い、さらさらと流れ始めて
 いく。
 目の前の貞一君は、悲しんでいるのに。
 私はそれを無視して、ただただ、勝手に私が思い描いた貞一君の未来の話を彼に押しつけていた。
 貞一君は今、わたしの目の前で、こんなにもはっきりと泣いているのに。
 さめざめと、力強いほどに、雄々しく、触れれば溶けてしまうように、暖かく、熱く。
 なんて・・なんて・・・・美しいの・・・・
 なんて・・・・なんて・・・・・あなたは・・・・
 
 
 
 
    ++  素敵な  ひとなの
 
 
 
 
 私が綺麗だとか醜いだとか。
 貞一君と比べて私がどうだとか。
 子供だとか大人だとか。
 どうでもよくなってしまう。
 悲しかった。
 悲しくて、悲しくて、こんなにも悲しくて。
 悲しさに飲み込まれて、あらんかぎりに涙が駆け巡って、燃えるように血が泣いていて。
 その悲しみの中に心をひたしながら、それでも、それでも・・・・
 わたしは、貞一君の前に、立っていた
 涙で濡れた、その私はそれでも毅然として、泣きながら立っていた。
 貞一君が、泣いているわ。
 大切な愛する人が消えてしまうことの悲しみを、力一杯叫んでいる。
 悲しみの中で、それでも、それでも、心の底から声を振り絞って、愛していると叫んでいる。
 ああ
 
  ああ   ていいちくん
 
   わたしも   かなしいわ
 
    あなたを   あいしているわ
 
 そのわたしのかんじょうと、やっと私は手を繋ぐことができた
 最後の最期まで私と一緒にいると、貞一君が言っている。
 一緒に、ずっと一緒に最後まで、そばにいるって。
 私も悲しくて、そして貞一君も悲しくて。
 なのに・・・私が私の悲しさを隠しちゃったら、貞一君の悲しみは・・・
 私がひとりで隠れて消えちゃったら、消える私を貞一君はひとりで・・・・・
 ひとりにはしないわ。
 貞一君と声を揃えて、叫ぶ。
 あなたをひとりには、しない。
 
  − 愛する人が消える瞬間を 愛する人が残される瞬間を
 
                         共に抱き合い 寄り添い合いながら 過ごすわ −
 
 貞一君・・・・貞一君・・・・・
 ごめんね・・・・・ごめんね・・・・・・・そんなあたりまえのことにも、気付かなくって・・・
 悲しみを、愛しさを・・共に・・・一緒に・・・・
 あなたと・・
 愛するあなたと・・・・・
 
 
 零れ落ちる涙のなかに、光がみえた。
 とめどなく広がっていくその光が、甘く匂い立つぬくもりを、私の頬に注いでいった。
 涙が止まらなくて、止まらなくて、拭いても拭いても、どんなに我慢しても、止められない。
 まるで私のすべてがこの一瞬で解放されたかのように、立ち尽くす私を愛でびしょ濡れにするかのように。
 震えがとまらないの、声がかすれて、鼻がつんとして、肩に力が入らないの。
 貞一君に愛していますと言われるたびに、私はもう、どうしようもないほどに、私になっていく。
 愛してる、わたしも、わたしもよ、貞一君、わたしも、もう隠せない、隠せないわよ、このおもいを!
 どんなになったって、わたしは貞一君と一緒に、ずっと最後までいたくてしかたない!
 その私を、私が認めなくちゃいけないのよ!
 愛しています夕子さんと、貞一君がまるで私を促すかのように優しく囁く。
 貞一君の手が、震えている。
 貞一君・・・
 私も、貞一君のことを、愛しているわ。
 私も、あなたのそばから離れたりしないわ。
 あなたを、ひとりになんて、しないわ。
 あなただけに寂しいおもいは、させないわ。
 みんな、みんな知ってるもの、わたしも、ひとりの寂しさをこんなにもよく知っているのだもの。
 さびしくて、悲しくて、どうしようもなくて、それなのにそんな自分のことを責めてしまったり・・・
 いいのよ・・貞一君・・・
 あなたも・・・泣いて
 私のためで無く、あなたのために、もっともっと、沢山泣いて頂戴。
 私は、あなたのその涙と溶け合いたい。
 あなたと、ひとつになりたい。
 あなたは、ひとりじゃないわ。
 
 
 
 ひとつひとつ、丁寧に抱きしめられていく、ぬくもり。
 黄昏を背にして、零れ落ちる涙に震えている。
 ゆっくりと真っ直ぐに染まっていく髪の重みすら、感じ取れる。
 貞一君の悲しみが、私の悲しみとひとつになっていく。
 貞一君の私へのおもいが、私の貞一君へのおもいとひとつになっていく。
 貞一君の口元から発せられる音のすべてが、私の心音に溶けていく。
 とくん
 とくん
 貞一君の胸の奥が、紅く染まっている。
 ぼろぼろと涙で頬を濡らしながら、私は貞一君とひとつの時間の中にいた。
 どうして、どうしてこんなに・・・・
 好きで、好きで、そうして好きという言葉を叫び続けるうちに、私は貞一君の胸の中で泣いていた。
 貞一君が、私を抱き留めながら、震えるように泣いていた。
 今、この瞬間の中に、私達ふたりはいる。
 あなたと わたし
 そのひとりとひとりが、悲しくて、愛しくて、泣いている。
 私は、貞一君の前から消えてしまう自分の悲しみを感じながら、同時に、愛する私を失う貞一君の
 悲しみの中にいた。
 貞一君もきっと、そうなのね・・
 ああ・・ていいちくん・・・・かなしいわ・・・もっともっと・・・・わたしの悲しみをあなたにみせてあげる・・
 だから・・あなたもかなしみを・・・そのあなたのかなしみの海を・・もっとわたしに注いで頂戴
 貞一君が、私の腰に回した手に、そっと力を込める。
 優しくて、暖かくて、そして私への愛しさが伝わってくる、その貞一君の細い腕の重みが、私の体の
 あちこちに、小さな爆発を起こさせていく。
 薄い肌一枚の下に広がる、真っ赤な血のゆらめきが、私を内側から激しく震えさせていく。
 貞一君は私を抱き留めながら、そのまま、しっかりと正面から私を抱き締めている。
 私の体を確かめるように、私の存在を貪るように、貪欲に、それでいて、ただただひたすら、悲しみに
 咲く私の体を慈しむように、しっかりと離さないその両の手の逞しさは、ただ。
 ただただ
 私の胸に、溢れんばかりのおもいを、咲き誇らせてくれた。
 ていいちくん
   貞一君
        貞一くん
 
 しがみつくようにして、貞一君の背に手を回してかじりつく。
 貞一君よりほんの少しだけ背の高い私の、そして貞一君よりも何十年も長く生きている私の、
 そのふたつの手の弱々しさのままに、私は手を伸ばす。
 届いて、おねがい・・貞一君の背中に・・・私の手が・・・ふたつの手が・・・合わさって・・・
 無我夢中でしがみつくように手を伸ばして、それでも、それでも私のその両の手は・・・・
 しっかりと、貞一君を包むようにして、抱きしめていた。
 やっと・・
 やっと・・・・
  できた・・・・
 
 貞一君・・
 貞一君・・・・
 やっと・・・やっと・・・あなたを・・抱きしめてあげることができたわ・・・
 気付けば、腰に回されていた貞一君の両腕は、私の背中の上で組まれていた。
 夕子さん・・
 貞一君が、独り言のように囁く
 貞一君の暖かい吐息が、耳朶を染める。
 まるで、ようやく貞一君を抱きしめることの出来た私を祝福するかのように、私を抱きしめる貞一君の
 両の手は華やかだった。
 そして、震えていた。
 悲しいのね、悲しくて、悲しくて、貞一君もわたしに・・すがりついて・・・
 気付けば私の両の手は、貞一君の頭を抱いて、胸に押し沈めていた。
 私の胸の中で 男の子がひとり泣いている
 愛おしいとおもった
 かわいいとおもった
 でも
 それよりもずっと
 わたしはこの人のことが世界で一番大切なんだという、そのおもいに、ただただ突き動かされていた。
 愛おしいほどに、かわいくて仕方がないほどに、でもそれ以上に。
 この悲しみを、この愛を、共に感じ合える、この人はかけがえのないおとこのひとだった。
 撫でる
 その小さな貞一君の頭を撫でずにはいられないほどに、ただ私は、やすらかだった。
 撫でて、なでて、溶け合うようにして、わたし達は抱き合うことが、出来たのね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
        ・ ・ ・ ・    なんだ       わたし       ばかみたい
 
 
 
 
 
 
 
 
 六十年・・
 私が死んでから、それだけの長い間、ずっとずっと苦しみながら生きてきて・・
 幽霊のように、廃人のように、ふたつに自分が分かれて、それでも必死に・・・
 貞一君と過ごした時間が、すべてそれを癒してくれた。
 でも
 それで、終わり?
 苦しくて辛くて、一生懸命頑張って、貞一君に助けて貰って、そして幸せを感じられるようになって。
 それで、おしまい?
 それで終われば、綺麗だから?
 楽だから、の間違いじゃないの?
 
 空虚だったわたし。
 わたしの本質は、そうだったでしょ?
 胸の奥の空洞。
 ずっとずっと虚しくて、苦しくて辛くて、からっぽで。
 その虚ろな穴の大きさは、世界を覆ってしまうほどで。
 でも、貞一君と出会って・・・
 愛するこの人と出会って・・・・・
 わたしは・・・感じてしまったのよ・・・・・
 どうしようもないほどに・・・・
 その私の胸の中の空虚な世界は、その巨大さの分だけ・・・・
 それだけ
 
  愛を 受け入れることが 出来るんだ って
 
 
 まるで、すべてがそのために用意されていたかのよう。
 わたしが、私が世界で一番大切な人と出会い、その人への愛を、そして私自身への愛を、たくさん、
 たくさん、誰よりも沢山この胸の中に満たすことが出来るようになるために。
 それは、虚ろなんかじゃなかったのよ、初めから、そこは巨大で深い愛の指定席だったのよ。
 それ以外のなにも受け付けない、特別で、不思議で、そしてなによりそれは、私の才能だった。
 虚しさを感じたのはただ、その胸の穴が愛以外の侵入を厳格に阻んできたからだった。
 その愛の才能のためにこそ生きる、ううん、生きられるようになるためにこそ、私という存在は、滔々と
 長い時間をかけて組み替えられてきたのよ。
 とてつもなく大きな愛の受け皿であるこの胸の奥の、きらめくほどに豊かな世界を、万丈に満たすため
 にこそ、きっと私は苦しみながら、すべてのわたしを解体してきた。
 
 わたしが死んで、そして幽霊になった意味も、そこにあった。
 
 ひとりが怖かった。
 普通じゃ無くなるのが、怖かった。
 みんなと外れて生きるのが、恐ろしかった。
 私の感じていた空虚さはきっと、その孤独の恐怖の裏返し。
 でも
 貞一君と出会ったわたしは・・・・
 私の胸に広がる愛の世界の広大さに気付いてしまった・・
 こわい
 でも
 それが、それこそが、わたしだった
 私のその世界には今、貞一君への愛と、そしてすべての私への愛が注がれ始めている。
 轟々と、それは揺るぎないほどに豊穣な勢いで、続いている。
 やっと
 やっと
 始まったのよ
 ううん
 始めることが、その一歩を踏み出すことが、やっとやっと出来たのよ。
 こわい
 でも
 
  心が震えて とまらないの
 
 
 それは、あまりにもやすらかな震動だった。
 なにかが解け、そしてそれが全く新しい形に組み上がっていく感覚は、ぞくぞくと、まるで世界中から
 選ばれた勇者達が馳せ参じてくるような、雄々しくも妖艶な、そして雄渾たる平安だった。
 わたしって、けっこう勇ましいのね、ふふ、生まれて初めて知ったわ♪
 その私も、今のわたしは受け入れられる。
 愛っていうのは、きっとそれ自体がなにかを受け入れるってことなのよ、私は弱くて醜い自分も、
 それ以外の自分も受け入れたし、そしてなにより、貞一君のすべてを受け入れた。
 というより 好きなのよ どうしようもない! ってほどに
 自分でも気持ち悪いくらいに、微笑みが零れちゃう。
 止めようと思っても止められないくらいに、どんどんと自然に笑いがこみ上げてくる。
 にやにやが止まらないのよ、まったくもう、貞一君に見られたら恥ずかしいぃっ!
 そうして恥ずかしがる自分の姿すら、私の胸の奥に広がる豊かな世界の一員だった。
 そしてわたしは、今ここにいる。
 
 なにも、怖いことなんて、無いじゃない。
 
 見栄っ張りでも
 痩せ我慢でもなく
 貞一君のためでもなく
 わたしはいつのまにか、沈んでいたかなしみの海から浮き上がり、ほろほろと心地良くたゆたっていた。
 不思議ね・・
 消えていく自分ですら、受け入れられちゃうなんて。
 ううん、むしろ、これから消えていく私と、残される貞一君の、そのふたりの時間を過ごすことを楽しみに
 しているような感じなのよ。
 きっとそれは、かなしみの海に沈むわたしと、かなしみに魅せられる貞一君を、否定せずに受け入れて、
 慈しむことが出来るようになったから。
 抱き合う力って、すごいのね。
 今までわたし、愛する人と抱き合ったことなんてなかったから、知らなかったわ。
 六十年生きてきても、知らないことばかり。
 でも、知っちゃった。
 とんでもないこと、知っちゃった☆
 世界で一番愛しているあの人と抱き合うのが、こんなに気持ちいいなんて、こんなのすごすぎる!
 六十年生きても知らないことばかりの駄目な私の悲しさは、六十年溜めに溜めて遂に知ったこの
 どうしようもない感動に抱きしめられて、大笑いの泣き笑い、そして思わず踊り出しちゃう♪
 
 終わりなんて、無いのよ。
 すべてはただ、形が変わるだけ。
 解体され、組み替えられ、組み上げて、また解けて。
 おんなじものなんて、ただのひとつもない。
 
 わたしは、だいすきなわたしと貞一君のすべてを受け入れた。
 でも私は、そうしてなにかを誰かを受け入れる、愛の一年生。
 まだ始まったばっかりで、だからしょっちゅう自分を否定したり、認めなかったり、逃げたりしちゃう。
 まだまだなのよ。
 わたしは・・
 そう・・・だからわたしは、貞一君と一緒に、これからのその長い道のりを、私達を愛で満たしていく世界
 を歩いていきたいのね・・・
 一緒に歩いて、一緒に変わって、一緒に成長して、愛し合って・・
 だいすき・・・・・ていいちくん・・・だいすき・・
 私の中には、無邪気に貞一君だーいすきっ♪とただ抱きつくだけだった私も、ちゃんといる。
 あの頃が懐かしいだなんて言ってみても、まるで実感が無いほどに、私の中のこどもなわたしは、
 バリバリの現役のリアルタイムで、私の中で遊んでいるの。
 それがね、とっても微笑ましい。
 そのこどものように遊んでいる私こそが、私に感情を、そしてこの瑞々しい時間を与えてくれているん
 だって、そう感じるのよ。
 うれしいわ・・
 胸がいっぱいになってしまうほどに、それは幸せだった。
 
 私は、貞一君の中の、こどもっぽさを知ってる。
 しっかりしてるようだけど、いつも私をここぞというところで助けてくれるカッコイイ男の子だけど。
 でも貞一君が、ほんとは自信の無い子だって、知ってる。
 いつもとても迷ってて、悩んでて、案外あっさり投げ出しちゃう子だっていうのも、知ってる。
 だってわたしは、そういう貞一君の弱いところを狙って、私に好意を持たせようとして操ったのだもの。
 あの子は、自分の弱いところを見せつけられると、それでも絶対にそれを乗り越えようとするのだもの、
 そうして乗り越えた先にいる私はだから、あの子の弱いところをツンツンと刺激してあげれば事足りる。
 ひどいことしたわよね、ほんとうに。
 わたしがかなしげに儚げにしていれば、きっとあの子は自分なんか打ち捨てて、最終的には私のところに
 来てくれるって、計算して。
 こういう悪い女に、貞一君はあっさり引っ掛かっちゃう。
 素直で、でもあやうい男の子。
 誰かのために、いくらでも自分を捨てて、自分を傷付けてでも自分から逃げ出してしまう。
 ひどい人ね。
 困った子よね。
 ふふ
 
  わたしと
              お揃いね
 
 
 甘ったれの嘘吐き女と、弱虫の自己犠牲男。
 お似合いのカップルよね。
 ほんとうに・・・天の配剤とはこのことね・・・・・あれ? ちょっと意味違ったかしら?
 うん、だからね。
 私は、この子と一緒に、変わりたかったの。
 この子、あんまりにも素直で、あぶなっかしくて、騙すこっちが悲しくなってくるくらいで。
 ほっとけない、でもね、それ以上に、それを越えて、貞一君は私を映すお見事な鏡だった。
 貞一君を見てると、わたしは私自身の問題に絶対に気付いてしまうのよ。
 貞一君は、もう馬鹿みたいに、素直に、あっけらかんと、策略無しに、私のことを信じてくれる。
 私が嘘を吐いていようと吐いていまいとに関係無く、絶対的に信じてくれた。
 そんなの、わたし、自分と向き合わないわけにはいかないわよ。
 誰かに無条件で信じられることの、なんてすごいことか、それは今でも言葉に出来ないくらい。
 だから私も、貞一君を信じるの。
 この子は、きっといつか、だいじょうぶになるって。
 それは私の望む貞一君の姿では無いものかもしれないけれど、でもそれはきっと、貞一君にとって
 意味のあるものだとおもうから。
 
 そうしたら・・・そうしたら・・・
 貞一君ったら・・・・わたしの想像以上に・・・素敵なひとになっちゃって・・・
 うれしいとかそんなんじゃなくて、わたしはほんとうにあっさりと恋に落ちちゃった。
 そしてなにより
 
 わたしも 負けたくなかった
 
 この人と一緒に成長して、この人と追い越し追い越され、生きていきたい。
 私だけ、甘ったれの嘘吐き女であるだけのままでいたくない。
 そしてね、それは同時に、だからいつでもそうやって成長して変わろうとしてるのは、紛れもない、
 その甘ったれの嘘吐き女であるこどもな私と、そして弱虫の自己犠牲男であるこどもな貞一君の、
 そのふたりの物語なんだって、おもったのよ。
 どうしようもなく
 おもったのよ
 ああ そっか
 私が負けたくないのは、貞一君にじゃ無くて
 貞一君という鏡に映し出された、私自身の姿に、だったのね
 私は、わたしを、ひとつだけの私を越えていきたい、そして新しい私と次々に出会っていきたい。
 それはね、自分を変えるのじゃ無く、自分を増やすことの連続なの。
 この成長という名の、自分との出会いは、きっととても気持ちいいものなのよ。
 わたしはね、貞一君。
 あなたと
 私の愛するあなたと一緒に
 その成長も含めて
 世界でいちばん最高に
 
 
  気持ち良くなってみたいの
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  さぁ    おわかれの時間よ
 
   いっしょにいきましょう
 
 
 
 
 
 
 
 ◆
 
    ◆
 
 
 
 翡翠色にとっぷりと暮れた陽が、やわらかく胸を差す。
 貞一君の背に照らされたわたしの踏み出す一歩が、ひしひしと、足を伝って感じられる。
 恍惚としていながら、貞一君に声を向けられるたびに、ひっそりと情熱的に収まっていく、なにか。
 収められて、輝くように、わたしの胸の先に展示される淡い光。
 ゆらゆらと、それはなんともいえないほどに、芳しい薫りで、わたしをくらくらとさせる。
  − 貞一君のにおい。
 ささやかで、ひんやりとしていて、まるで香水のように整えられているんだけど、でもどこか、肉感的。
 それはもしかしたら、貞一君にみつめられることで感じる、私自身の静かな興奮なのかもしれない。
 それでもわたしには、そうして貞一君に囁かれ、みつめられ、だきしめられることで感じる、そのすべての
 ものが、貞一君からのものだと、そう感じられる。
 たとえすべてが、わたしの想像の、物語の中のものだけでしかないのだとしても、私はいまここで確かに、
 貞一君の前に佇んでいる私を感じていた。
 
 貞一君の後ろ姿が、しっかりと前に進んでいく。
 その貞一君の後ろを、しっとりと踏みしめるように歩いていく。
 貞一君に連れていって貰うのじゃなく、貞一君の向こう側に広がるなにかを見据えて、私は目の前の
 貞一君の歩みを楽しんでいた。
 なんだか、とても落ち着くわ。
 落ち着いて、やすらかで、それでいて、とてもすこやかな、こころとからだ。
 しなやかに揺れる貞一君の肩の震動が、わたしの鼓動を静かに揺らす。
 貞一君の小さくて優しい背中の広がりが、わたしの髪を高らかに靡かせる。
 ああそっか
 先を見据えて歩いていながら、わたしにとっては、こうして貞一君と一緒に歩いていることで感じる、
 このすべての感覚が、とてもたまらないほどに、大切なのね。
 先に進むことが歩くことがどうでもいいわけじゃ無い、でもきっと、先に進むことが歩くことが私がここに
 いる目的なんかじゃないことは、もう、あきらかだった。
 なんだ しってるんじゃないの わたし
 わたしのからだの、隅々までの細胞が、血が、息吹が、ただ淡々と、溜息のようにして、私に語りかけて
 いた。
 
 
 −
 
    わたしのままに      生きなさい
 
 
 溢れるままに、こぼれるままに
 愛なんて言葉を綴るまでもないほどに、豊穣に湧き続けるこのおもい。
 貞一君と歩いている、このすべての時間が、その歩みの先にあるものも含めて、ぜんぶだいすき。
 
 そしてなにより
 今 この瞬間が   すべてだった
 
 
  いま  わたしは  生きていた
 
 淡々と、私は思い出をなぞるようにして、貞一君に語りかける。
 貞一君と初めて出会った場所。
 貞一君は、あのときここで後ろを振り返って、そしてわたしをみつけた。
 そう わたし、貞一君が振り返る、その前から、貞一君のうしろをひょこひょこと歩いていたのよ?
 貞一君を求めて、貞一君に見て貰いたくて、貞一君と出会って、そしてわたしを変えたくて。
 そのわたしのおもいが、貞一君を振り返らせたと思うのは、可笑しいかしら?
 でもそれが可笑しいなら、貞一君がなにかを求め、それが具現化されたものが、私という存在だという
 ようなことも、可笑しいとはおもわない?
 
 わたしははじめからずっと ここにいて
 貞一君もはじめからずっと そこにいた
 
 そのふたりが出会えた理由なんて、いらないわ。
 出会うべくして出会った、ただそれだけよ。
 運命なんて言葉を示すまでも無いほどに、ひそやかに溢れ続けるこのねがい。
 会いたくて、会いたくて、どうしても会いたくて。
 でも気付けばわたしは
 あなたの腕のなか
 出会ったら、それでおしまいなのかしら?
 思い出を語る、このふたりの時間。
 それはお互いへのおもいの、その本当の姿を見せ合うようなものでありながら、でも話せば話すほどに、
 そんなことはどうでもよくなってきたわ。
 わたしの中のもうひとりの私も、貞一君のことが好きだった、その私が鈴を鳴らして貞一君に私を
 意識させたことで、貞一君は私を見ることが出来た、そのわたしもわたしだったのね。
 それはしんみりと胸を穿つ暖かい言葉だったけれど、その言葉を貞一君に語ることの出来たわたしの
 よろこびは優しかったけれども。
 でも
 わたしはただ、いま、その私の囁きをみつめる、その貞一君の姿をみつめていた。
 
 私語りをしている途中、私の声が消えた。
 その瞬間の貞一君の顔が、ああ、わたしの胸の奥の扉を開く。
 私の話を愛おしく聴いてくれている、この目の前の暖かい男の子の瞳が・・・
 まるで、拳をぎゅっと握り締めるかのように・・・
 私には、私の声は聞こえていたわ。
 だからきっと、貞一君のその瞳を見なければ、私は自分の声が消えていることに気付かなかった。
 でもわたしは 貞一君をみていた。
 この人に、私の声が聞こえているのかどうか、だからすぐにわかってしまった。
 わかることが、出来たのよ。
 私はわたしを語りながら、もう、その私の語りの中にしか映らない世界を生きなくて済んでいた。
 私の目の前で、今、確かに、まるで世界が終わったかのようにして瞳を見開く男の子がいて・・・
 そして・・・その男の子の前で、その男の子の瞳に気付いた、これから消える女の子がいて・・・
 ああ
  ああ
 
     なんて
 
         なんて
                    
 
        しあわせなの
 
 
 
 笑顔が湧き出てくるのを、止める必要も無かった。
 私が声を失い、そして貞一君の愛する人の声が消える瞬間に出会えた、この透き通るような肌触
 りは、もう、愛おしくて堪らないほどの幸福感だった。
 撫でるように、ゆっくりと笑みが立ち上がってくるのを感じたわ。
 嘘なんて言えないもの、もう。
 正直な貞一君の青い瞳に照らされて、嘘吐きな私の紅い瞳は、素直に微笑むことが出来た。
 私が声を失った瞬間を悲しんでくれていること、そして、絶望してくれていること。
 びりびりと、すさまじい怒りのエネルギーのようなものを肌で感じて、私はもう、もう・・・・
 貞一君のその感情のために泣くことすら思い浮かばないほどに、その甘い感触に酔っていたわ。
 私がこの世で一番、そしてただひとり愛したおとこのひとが、わたしのことでそんなに感情を・・・・
 どこか私のすべての感情を抱きしめて貰えたような、私の体のすべてを撫でて貰えたような、それは、
 残酷すぎるほどに最高の陶酔だった。
 
 
 
 
 もう、関係無かった。
 貞一君のことも、わたしのことも。
 それはあまりにも、恍惚と、陶酔と、淡いほどに暖かさで満たされた別れの時間だった。
 正直者の貞一君が、ただただ心配そうに、私をみつめている。
 私の声を探して、祈るように、すがりつくように、そして気遣うように。
 そのひとつひとつの貞一君の所作が、消えゆく私の肌を、うっすらと紅に染めていく。
 上気していくままに、次々と青く透き通っていく自分の姿に、愛おしさを感じる。
 貞一君が、わたしに、わたしだけに、ひとつひとつ、大切に言葉を贈ってきてくれる。
 ほんとは嘘を吐く勇気が無いだけの弱虫な貞一君が、どんなに力任せに嘘を吐いたって、バレバレよ。
 でも
 私はその嘘に騙されてあげることで貞一君に返してあげられるものなんて、なんにもないと思った。
 ただもう、ただもう
 掛け合う言葉の、ただただ そのぬくもりだけを、求め合って。
 その言葉が嘘であってもなくっても、すべての貞一君の言葉が、わたしを暖かく涙で濡らしていく。
 
 ノートに、私の言葉を書く。
 ごめんね、貞一君。
 わたしの声を聞かせてあげられなくて。
 貞一君は、なにも答えなかった。
 ううん、僅かに揺らしたその肩のぬくもりが、答え以上に最高の贈り物だったわ。
 心地良くて、気持ち良くて、愛するこの人の腕に抱かれて、ただ暖かい言葉の響きだけが私を包んで。
 貞一君の悲しみが溶けた言葉が、一生懸命、消えていく私への花束になっていく。
 『元気でね。』
 『泣かない?』
 『ほんとの、ほんとに?』
 
 貞一君は、きっぱりと、そしておずおずとしながら、私のためだけにこう答えてくれた。
 
 
 『夕子さんの心残りになるようなことはしません。』
 
 
 私の嘘吐きな紅い瞳が、声をあげて泣いている。
 貞一君に贈られた言葉の花束が解けた、花の海に埋もれて泣いている。
 泣いて、泣いて、すべてが溶け出してしまうかのように、泣いて
 正直過ぎる自分が怖くて、だから、だからなんとか嘘を吐いて生き延びてきたこの瞳が・・・
 今、私の隣で、正直な嘘を、弱虫なのにきっぱりと叫んだこの男の子に・・・・
 元気なわけないのに、泣かないわけないのに、馬鹿みたいに我慢して、大切な愛する人のために・・・
 抱きしめるようにして、大切に、大切に嘘を吐いてくれたこの人に・・・わたしは・・・・
 どうしようもなく 泣かされてしまった
 それは悲しい涙でも、嬉しい涙でも無かったわ。
 ただただ、滂沱として流れていく涙を、わたしは大好きな微笑みを以て抱き留めるだけだった。
 
 そしてその涙の勢いのままに、私の中に貞一君が現れた。
 優しくて優しくて、どうしようもないひと。
 美化されて綺麗にラッピングされた、かわいらしいおとこのこ。
 そのおとこのこの存在を、私に与えてくれる、素敵な人。
 わたしの大好きな男の子。
 わたしのたいせつな、そして尊敬する男の人。
 あなたのこどもらしさとたくましさが、私を甘く包み、そしてその中で私はあなたをだきしめる。
 ああ ああ
 流れる涙に付き添われるようにして、わたしはひとつ深く、頷く。
 この人の優しさに溶けたわたしのおもいのままに、わたしもただ、言葉を、言葉を。
 
 『やっぱり私のこと忘れて。』
 
 一切の拒絶が、目の前で静かに流れている。
 この人のその怒りと絶望が、心地良い。
 だから
 だから
 『心配させないで。』
 甘ったれの嘘吐き女に出来る、最後の嘘吐きごっこ。
 絶対に誰も騙せない、自分さえも騙せない、それはもう、正直な心の叫び。
 『安心させて。』
 それで安心できるのですかという問いに、頷きを以て答える。
 『それで心残り無くいけるんですか?』
 その問いに対して、うん、とただ一言だけ言葉を書く。
 頷かぬ、ままに。
 
 かわいらしい、ひと。
 ほんとうに、わたしにいつも、夢をみせてくれる。
 光に溶けながら、薄く広がっていく翡翠の海が、柔らかく胸を突く。
 詰め襟の黒い学生服を清純に着込んだその人のシルエットが、月光に照らされて力強く座っている。
 いつまでも、いつまでも、ずっとそこに、いてくれそうな、そんな希望に溢れた逞しさ。
 泣いて、泣いて、泣き崩れても、きっと、きっと、前を向いてくれそうな、闇。
 貞一君がひとつひとつ、言葉を織るようにして、私のために自分の未来を示してくれるのを聞きながら、
 私はそのとき、無性に、この人のことを信じることができた。
 私のことを忘れて、前を向いて、これからの世界をしっかりと歩いていく。
 その言葉の力強さも決意もすべて、ただただ、消える私のためをおもっての言葉であるだけ。
 もしかしたら、貞一君はわたしが消えたあと、私のために、私のことを忘れようとすることに執着して、
 本当に自分のために生きることは出来なくなってしまうかもしれない。
 でも
 だいじょうぶよ
 このひとは
 
  きっと   だいじょうぶ
 
 安心なんか、必要無かったわ。
 だって・・
 だってあなたは・・・・こんなにも・・・・こんなにも・・・・・
 
  やさしいのだもの
 
 愛するわたしのために、こんなにも言葉を尽くして
 わたしを愛する自分の気持ちのために、こんなにも涙を流して
 あなたの優しさが、私だけでなく、なによりあなた自身こそを深く包んでいるのを、感じるわ。
 真っ青に溶け落ちた夜空が、まっすぐに、貞一君の魂を護っているのが、見える。
 あなたのしあわせが、みえた。
 残されるあなたが、私と自分自身への愛に包まれて、深く深く、静かに生きていく姿が・・
 愛しているわ 貞一君
 あなたのしあわせを どうしようもなく 信じているわ
 私を包み抱きしめてくれたそのあなたの優しさが、あなたを抱きしめないはずがないわ。
 わたしを愛してくれた、あなたのやさしさと、そして
 あなたのやさしさに護られる、あなたを     愛してる
 あなたに愛されたわたしの喜びが、全部綺麗に、ひとしく、あなたに向かって流れ始めていく。
  
 ああ
  
 
   あなたに愛されて  しあわせよ
 
  私の大好きな、大切なわたしを愛してくれて  ほんとうに ほんとうに    ありがとう
 
 あなたも  感じてくれているのね
 
 
 わたしの あなたへの愛しいこの気持ちを
 
 偶然でも奇跡でもいい あなたと同じ気持ちでいられるこの瞬間をなによりも大切におもうわ
 
 貞一君 貞一君 
 
 だいじょうぶよ あなたはひとりじゃないわ
 
 わたしは あなたを愛してる
 頭がおかしくなっても平気なくらいに、いてもたってもいられないくらいに、あなたのことが好き
 どんなになっても、だいじょうぶだったわ。
 愛する人のために、愛する人をおもう自分の気持ちのままに生きて、それでいいのよ。
 あなたなら、そのすべてを受け止められるわ。
 だいじょうぶ
 だいじょうぶだから
 あなたの優しさは、あなたを護り、そしてあなたと他の人達との繋がりを豊かに広げていってくれるわ。
 そして
 たとえ世界中の人があなたの姿を見てくれなくなっても
 わたしは
 
 これからも
 
 ずっと一緒だよ
 
 
 
 
 
 
  最後に触れた 貞一君の唇は   ちょっぴり しょっぱかった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 なーんちゃって
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あーあ
 
 やっぱりね
 
 貞一君ったら、涙ぼろぼろで、姿の見えない私を捜しておろおろと、もう、ほんとに正直な子よね。
 私が見てないと思ったら、こんなにも自分の気持ちに素直になっちゃって。
 ねぇ貞一君、私のことは全部忘れるんじゃなかったの〜? ふふふ♪
 あら、今度は私との思い出の品を掻き集めて、ひとつひとつ大事そうに・・・
 ああもう
 この子ったらもう
 
  だいすき・・
 
 
 貞一君には私の姿は見えなくなったのかもしれないけれど、私にはわたしがちゃんと見えているわ。
 ええ、貞一君と最後まで一緒にいると決めて、貞一君と抱き合ったその瞬間から、私はわたしの姿を
 取り戻したのよ。
 
  わたしの姿は 見る者の見たいようにしか見えないの
  それは、見る者が私であっても、おなじこと
 
 私から見ても私の姿が消えていたのは、それは私が自分が消えることを暗に望んでいたから。
 箸が持てなくなったり、靴が履けなくなったり、服の袖に腕を通せなくなったり、ほんとうに消えちゃってて。
 でも。
 貞一君に抱き締められたとき・・
 なんだ・・
 わたしがどうおもおうと、わたしは、ここにいるんじゃないのって・・・どうしようもなく・・わかっちゃって
 私の姿がわたし自身にすらどう見えていようと、消えて見えていようと、私はここにいるんだって・・
 私の「最後」は、ああ、今じゃ無いんだって気付いて・・・そうしたら・・・・
 
 そのときから、「消えゆく夕子さん」の姿は、貞一君の目の前にしか、存在しなくなったのよ。
 私には私の声は聞こえていたし、私の姿も見えていたし、服や靴もちゃんと履けるようになっていた。
 ふふ、最後にノートに別れの言葉を書き綴っていたとき、ペンが倒れたのは、あれは私の手が消えて
 ペンが持てなくなったからじゃなくて、わざとペンを手から離して、手が消えたようにみせただけ。
 つまり
 
  い・た・ず・ら♪
 
 
 
 
 こうやって、私の姿が貞一君に見られないのって、とても穏やかなことだったのね。
 誰にも気付かれない、誰にも見られない、貞一君にさえ見て貰えないのに、それなのに私の心は、
 なんだかとても、順風満帆だった。
 おそろしいほどに澄んだ、快晴の真っ青ど真ん中よ。
 なんだかもう、しみじみと愛しくって、しみじみと可笑しくって、なにが転んでも笑っちゃうくらいに、
 私はすっかり子供だった。
 それは瑞々しいほどにしっとりと輝く、私の落ち着いた心映えそのものだった。
 はしゃぐ必要も無いほどに、こみ上げてくるこの多幸感。
 まるでなにかとても大きなものに、抱かれているような心地。
 さびしくないのよ、自分でも信じられないくらいに。
 いてもたってもいられるのよ。
 貞一君の目の前から姿を消しても、貞一君に見られなくても、触れられなくても。
 
 それでも
 私はこうしてここにいるということが、とてつもないほどに、私を支える幸福の礎になっていた。
 
 そして私には、貞一君の姿が、はっきりとみえている。
 
 ああ
 わたしは、私の姿を見ることが出来ない貞一君を含めての、この世界のすべてに抱かれているのね。
 わたしはただやすらかに、貞一君を見守る、このわたしと私の世界という暖かい海に浮かんでいたの。
 そのことがもう、絶対に溶けて消えることが無いという確信を以て、わたしに迫ってきていた。
 どうする? どうしよう、この気持ち。
 どうしようも、ないっ☆
 だって、貞一君のことを信じられちゃうんだもん。
 貞一君は、いつだって私の目の前にいるんだって。
 私も同じ。
 私は私のことを信じられるし、そして私がいつだってここにいるんだって、どうしてもわかっちゃう。
 
  わたしはその、わたしへのギフトを、受け取ることが出来たのよ♪
 
 そしてね。
 私には感じられるのよ。
 貞一君が、絶対に私のことを忘れることなんて、出来ないって。
 それは、私が貞一君の姿を見失っても、それでも最後に貞一君の姿を見つけることが出来るように
 なったのと同じ。
 それはずっと、私の言葉や意志とは関係の無い、もっと深い、私の胸の奥に刻まれているもの。
 貞一君が、私のためとか自分の人生のためとか、そういうもので私の姿を消すことが出来ても、
 それでも、貞一君の私への想い自身を消すことなんて、絶対に出来ない。
 
 そしてそれは。
 わたしもおなじ。
 
 
 貞一君の前から姿を消しても、貞一君に触れることも触れられることも、抱きしめ合うことも
 出来なくなっても
 
 わたしの、貞一君を愛する気持ちには、なにも変わりが無い。
 
 ううん、むしろより確かに深まっていくのを感じるわね。
 だって、そういうことが出来なくなったら、消えてしまう愛なんて、それはほんとうの愛じゃないから。
 姿を消すのがなによ、触れることや触れられることが出来ないのがなによ、抱きしめ合えないのが
 なによ。
 そんなものが、私のこの深い貞一君への気持ちを、そしてその愛の世界を生きる私の存在そのものを
 消滅させることなんて、出来るわけないじゃない。
 図らずも、それが実証された形になったのだから、これほど嬉しいことは無いし、なにより自信におもうわ。
 わたしはここにいる。
 消えてなんて、いない。
 ただ、貞一君や他の人達にはみえないだけ。
 私には、私の姿がみえている。
 私には、彼らの姿がみえている。
 そして私は、貞一君を愛している。
 そして
 そして
 
 私が消えても、貞一君は、こんなにも私を、愛し続けている。
 
 ほんものよ、これは。
 あーもう、なんて言ったらいいのかしら。
 貞一君は、何日にも渡って私との思い出を味わい尽くしたのちに、部室から出ていった。
 きっとそれを最後にして、私のことを忘れよう、考えるのをやめようと、一生懸命になるのかもしれない。
 実際、私はそれ以来貞一君から、夕子さんという言葉を聞いたことが無い。
 けっこう、やるわね、貞一君。
 たのしかった。
 なんだか、我慢比べしているみたいで。
 他の人達から見たら、必死に愛する人を忘れて自分の世界に一生懸命に生きようとしている、
 そんな健気な男の子の姿なんだろうけれど、でも私から見るとそれは、究極の痩せ我慢だった。
 一生懸命に、私のために、嘘を自分に吐き続けている。
 だーめ、だめだめよ、貞一君。
 それ、貞一君のために、じゃ無いじゃない。
 その時点で、アウトだから。 スリーアウト、チェンジ!
 全然自分のために生きてませんから、自分の気持ちのままに素直に生きなくちゃ駄目じゃない。
 だから言ったのに、私が貞一君に私のことを忘れてというのは、私の嘘だって。
 あ、言ってなかったっけ、てへへ☆
 
 
 そんな風にして、貞一君を眺める毎日。
 つかずはなれず。
 以前のようにべったりでも拒絶するでも無い、適度な距離感。
 今の私の立ち位置は、成仏してもう消えていることになっている、幽霊の夕子さん。
 つまり、今の私がなにをしても、私のせいにはならないってことよね?
 ・・・ふふ・・自分の悪巧みの止まらなさに、恐怖を感じるぜ♪
 とまぁ、そんな感じで、私は日々、適当に学園内を闊歩して、好きなように悪戯して回ってるの。
 あーほんとうに、自分がこの学園の中で生活しているんだっていうのを、改めて、でもほんとうの意味で
 感じたわ。
 誰にも見られない、触っても貰えない、それなのに、私は今、この生活を受け入れて、そして、
 ひとつひとつ楽しみをみつけて生きている。
 なんだか、たくさんのものと、繋がっている気がするわ。
 誰かに見られなくても、誰かに触られなくても、ひとりでも、貞一君にさえ見つめられなくても。
 私は、生きている。
 世界の中で、確かにここに存在している、その私を感じるの。
 
 ああ
 きっとこれが
 
 私が 私のために生きるということなのね
 
 
 貞一君から離れて、独り立ちした気分。
 貞一君無しでもちゃんとひとりで生きられる、そんな誇らしさ。
 ほんと、わたしったら、強くなったわよねぇ
 しみじみと、用務員室から失敬してきたお茶をすすりながらそうおもう。
 頭の中が貞一君でいっぱいでは無くなっていたし、そうね、この学園って知らなかったけど、面白い子が
 たくさんいるのよね、そういう子達についていって、色々面白い体験をさせて貰ったし。
 今まではほんと、私にとっての他人って、私を見て私に触って私を愛してくれるかどうか、ただそれだけの
 存在だったのに、今はとっても大きく選択肢が増えた気がする。
 世界が広がったわ。
 まぁ、学園内からは出られないのは変わりないんだけどね。
 それはまぁ、私にはどうすることも出来ないことなのだから、受け入れる。
 ううん、むしろ、わたしはやっと、それを受け入れる勇気を得たのかもしれないわね。
 私は、受け入れたその私の出来ることを、目一杯、そして思う存分に楽しんで生きていた。
 たのしくて、たのしくて、でもたのしいだけじゃ無い、寂しさや辛さもぽつぽつと感じられるようになってきて。
 でも、寂しくても辛くても、やっぱりもう私は、そういう自分の気持ちを否定せずに、それをそれとして
 感じることが出来るようになっていた。
 さびしさを、さびしさとして、たのしむことが出来るようになっていたのよ。

 
 不思議よね。
 貞一君が目の前にいて、私はここにいるんだけど、触れ合うことも出来なくて、でもそれなのに、
 私はその貞一君が、こうして貞一君には見えない私という存在を含む、世界のすべてに見守られ、
 そしてその中で生きているということを、肌でひしひしと感じられるのよ。
 そういえば、霧江には私の姿はどうやらばっちり見えているみたいなのよね、私が消えたことになっている
 あの日の次の日に、ばったり目が合ったときの、あの残念な子を見るような表情ったら、まったく、
 失礼しちゃうわよ。
 最初、私がここにいることを口止めしようとしたけれど、よく考えたら意味無いのよね、私が見えるのは
 霧江だけなんだし、霧江が私の姿を見ることが出来るのは、それはきっと霧江にその必然性があるから
 なのだし、同時に貞一君に私が見えないのは、きっと彼にそうである必要があるからなのだろうし。
 霧江もそれはわかっているみたいで、貞一君にはなにも言っていないみたい。
 
 あれから少し経つけれど、霧江には一体、今の貞一君と、そしてその隣で遊び回っている幽霊の私の
 姿は、どう映ってみえているのかしらね
 もし私が霧江だったら・・・そうね、やっぱりきっと、なにも貞一君のことで心配することなんてないんだって、
 そう思えるかもしれないわね。
 貞一君はわたしを見ることが出来なくなってしまった、きっとそれは彼になにかが起きているからで、でも。
 でも
 だいじょうぶ、だいじょうぶよ。
 だって、貞一君には、彼と繋がっている人達や、こうして幽霊の夕子さんまでついているんだから♪
 彼はきっと、なんとかなるわ。
 自分がなにを求め、なんのために生きて、そして。
 なにをどう、自分のためにこそ、変えていくのかが、わかるようになってくるわ。
 
 
   そして それはもう
 
      彼の   貞一君の問題。
 
   わたしは一切 ノータッチ♪
 
    私は貞一君を信じるだけよ♪♪
 
 
 
 
 − ああ
        ほんとうに      しあわせね  −
 
 
 
 そうするとね、見えてくるのよ。
 わたしにも、わたしのしたいもの、しなければならないものがあるということが。
 そう、私にも、変えられないものと、そして変えられるものがある、ということが。
 私には、私がこういう存在であるということは変えられない。
 でもだからこそ、私はその私を受け入れることで、逆に不変の、そして絶対のわたしを得られた。
 変えられないということは、それだけの強みがあるということでもあるのよ。
 そしてね。
 私に、変えられるものは
 ううん
 私が、変えたいと、ほんとうに願ってやまないものは、なに?
 
 
 
 わたしは
 
       貞一君と   出会いたい
 
 
 
 待つだけの女じゃ無い、なんて陳腐な事は言わないわ。
 私は、私の気持ちのままに動く、ただそれだけのことよ。
 その私の気持ちを満たすことは、貞一君にだって譲れないものなのよ。
 貞一君が痩せ我慢でもなんでも、そうして私への想いとの葛藤と向き合っているのなら、わたしだって、
 自分の気持ちと、この押さえきれない胸のどきどきのために、するべきことがあるのよ。
 貞一君がどう想おうと、どうしようと、関係無い。
 これは私の問題で、私の決めること。
 わたしは確かに、貞一君を愛している。
 世界がどうだろうと、どうなろうと、関係無い。
 わたしは間違いなく、貞一君が、だーいすき♪♪
 
 言えたわね わたし
 
  いえちゃったわね わたし
 
 
 
 
 
 それじゃあ
 会いにいきましょう。
 
 
 ええ
 会いにいくわ。
 貞一君無しでも生きていられる、この私への愛のままに。
 しっかりと根付いた、豊穣な大地を踏みしめるかのように。
 私は、貞一君に会いにいく。
 最高に、最高の出会いのために。
 深く凄まじく、貞一君と同じように、私自身もこの世界と繋がっていく、その私の姿がこの世界の中に
 こそ顕現することを求めて。
 そういうことなのね、やっぱり自分のために生きるって。
 私が求めるもののために、次々と増していく自分と、その私達が求めるものを手に入れ続けるために。
 私はまた、新しい場所に到達したのね。
 幽霊の私にも、人間の貞一君と同じように、生きる未来がある。
 それを思い描いて、ひとつひとつ実現していく、怪異調査部の活動だって、学校生活だって、他にも
 ある新しい出会いだって、その先にあるものだって、みんなみんな、ぜーんぶ、私を待っているんだから♪
 わたしは、その私の絶え間ない時間を、生きていきたい。
 貞一君だけ幸せになるなんて、許さないんだからっ
 わたしだって、負けないわよ!
 愛するあなたと、この広く深い世界の中で、永遠に共にあることを謳いながら。
 同時に、互いに離れても、己のために生き合うことを誓いながら。
 私が消えようが貞一君が消えようが、このふたりの出会いが消えることは絶対に無いことを示すために。
 わたしたちは
 ここに、いるわ
 愛し合いましょう
 共に生きていきましょう
 さぁ
 貞一君
 
 
 
  勝負よ!
 
 
 
 
 私と、そして、あなたの胸の奥の扉。
 開けたら、呪われます。
 いいえ、呪います。
 それは、愛の、欲望の呪いです。
 開けますか?
 開けませんか?
 選ぶのは、あなたです。
 
 
 愛に無防備な貞一君は、あっけらかんと扉を開けた。
 馬鹿みたいに、ほんとうに、この人は大事なところでなんにも考えないんだから。
 でも・・
 でも・・・・
 
 
 
  準備はいい?
 
      いくわよ?
 
 
 
 
 
 
 

『 あーあ 』

 
 

『 開けちゃった☆ 』

 
 
 
 
 
 
 
 甘く立ち籠める桜の香り。
 鋭く研ぎ澄ました最高の声音を、響かせる。
 万感の想いを塗り重ねて、上気する目元に笑顔を差して、さらりと色づく黒髪を湛えながら。
  ただいま
 − 貞一君 −
  おかえりなさい
 ああ
 あなたの瞳が、驚きと、困惑と、そして見逃さないわよ、その奥で、光り輝く涙で溢れているのが。
 みえた。
 わたしには、はっきりとみえているわ!
 燦然と、愛するあなたの瞳に映る、私の素敵な姿。
 ようこそ
 わたしたちの世界へ♪
 
 あなたとのキスがあんまりにも気持ち良かったから、戻ってきた。
 そう嘯きながら、うっとりとしなだれていく私の体が、貞一君の瞳に照らされるのを感じながら、
 床に手をつき、鬱蒼と舞う欲望のように、愛する男の子の元に這い寄っていく。
 胸の重みを感じながら、男の子の視線を感じながら、私の瞳に膨大に流れ込んでくる、目の前の
 貞一君の甘い甘い薫りの大元の、そのあなたの姿に、ただただ吸い込まれていくかのように。
 飛び込んで、抱き付いて、思い切り、目一杯、唇を吸い合わせて。
 気持ちいいこと、いっぱいしよっ♪
 もっと
 もっと
 気持ちいいこと、いっぱいしよ、ていいちくん♪♪
 
 
 
 わたしと あなた
 愛する気持ちのままに
 責任取ってよね♪
 
 
 
 
 
 
 
       貞一くん、だーいすきっ♪
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  − F i n −
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                        ◆ 『』内文章、アニメ「黄昏乙女×アムネジア」より引用 ◆
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

-- 120913--                    

 

         

                            ■■ せいぞんほうこくてきー ■■

     
 
 
 
 
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 
 すみません、しばらく更新しておりませんで。
 ちょっと忙しくて書いてる暇がありませんでした。
 忙しいっていうか、壮大に時間の使い方を間違え中。
 赤点です、ちょっと追試で100点取ってきます。
 
 
 と意味のわらかないことを口走りつつ、もうちょこっとこの状態は続きそうなのです、残念。
 
 ということで、この状態でもちゃちゃっとできることをします。
 そろそろ来期が始まりますので、現時点での私的に興味ある作品についてちょこっとな。
 勿論アニメのことです。
 いえーい。
 
 
 
 
 
 
 
 新世界より :新しいホラーを期待!
 原作者の貴志祐介の作品はホラー的には怖くて面白いんだけど、差別的な感覚が私は嫌いなので
 すけど、アニメになったときにそういう要素が消えて純粋ホラーになったらどうなるか。
 予告動画を見る限り、おぞましさとおどろおどろしさの中にキャラの可愛さが入っていて好感触。
 
 となりの怪物くん :おとこのこもおんなのこもかわいいなおい。
 要するに馬鹿をやると。馬鹿やり合って、それが青春でラブでストーリーなんだな、わかった!(黙れ)
 
 神様はじめました :主従モノは好物なので。
 ええとお気楽脳天気系女子と、性悪陰険系男子の組み合わせですね、了解致しました。(黙れって)
 主人公女子が神様の修行をするというところが斬新ね。そういう神様的な世界観とか描写とかでも
 愉しませて頂けるとよござんすね。
 
 ヨルムンガンド PERFECT ORDER :やばい、なんか出そう。(ぉぃ)
 丁度こう、今ね、この作品が観たいという気持ちが高まって頂点に来ていたところなのですよね、
 なんかもう策略謀略奇略狂気あらゆるものを使って色々魅せてやってください、ココさん!
 ・・・でも同時に、そういうココさんの内側に秘めているものも激しく語って欲しいです、なんかもう、
 表と裏の両方を観たい衝動、衝動というかなんかもう、ヨルムンガンドが帰ってきた!ひゃっはー!(壊)
 
 うーさーのその日暮らし :サイト読者だったので。
 しかしアレが宮野守声って想像つかんな、これ。 てかこれほんと登場するのあの一匹だけなの?
 
 中二病でも恋がしたい! :すればいいじゃない。
 実は私は本気で中二病を発症するキャラは好きなので、そしてその中二病患者を取り巻く周囲の空気
 が好物なので、そしてその空気の中で中二の人がどうなっていくのかがたのしみなわけで。
 つか京アニかよ、よし。 (なに)
 
 銀魂 新作エピソード&特選再放送 :嫌な予感しかしない。ほんとしない。
 これどういうこと?再放送の合間に新作エピソードを挟むって感じなのかな?
 新シリーズとなっていないところが怖い、中途半端なのはやめておくれよ! がっつり銀魂食べたいよ!
 
 BTOOOM! :だって爆殺とかいうから。
 それ以上でもそれ以外でも無く。
 期待しております。 ←悪趣味
 
 ひだまりスケッチ×ハニカム :これもまた、今観たかったのよ。
 取り敢えず、けいおんとかゆるゆりとかある意味イカ娘とか日常とか、そういうのがいけるクチの人は、
 是非お試しあれ。
 これらの作品を全部合わせたら、なんか全然違うモノが出来た、という感覚かな。
 でも毛並みは違うんだけど同じ種というのがわかるというか、わかり合えるというか、異文化交流?、
 人類皆兄弟?、まぁ、そんな感じ。(意味わかんねー)
 
 絶園のテンペスト : かっこいーっ!
 、と叫ぶにはどうなんだろなな中身なんだけど、ちょっと恥ずかしいかもだけど、そう叫ぶこと自体が気持ち
 いいのでちょっと叫んでみました。さりげにひどいなおまえ。
 耽美系と中二病の中間系な感じ? 完全にストーリーとかネーミングとか中二前提な感じがするんだ
 けど、ネタ系なんだけど、でも不思議とそういう設定の中に耽美的にしっかりした世界観の構築も感じ
 られる、逆にじゃあなんで私は中二臭を感じたのかって不思議に思ってしまうような、あれ?どっちだった
 っけ? (知らんがな)
 
 K : 新体験。
 赤い和傘を肩に乗せて、しなっとしたなよなよ系お調子者美少年とか、やばい、これはやばい。
 風流に着流して酒とかほろほろ飲んでるおじ様系とかはよくあれども・・・・
 むぅ、これはなかった、いままでなかった、赤は男子の隠れた魅力を引き出しますよね!(同意を求めて)
 
 お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ :くるしゅうない。
 こういう、えーって感じの残念なタイトルは、意外と二番煎じでも食傷しないなわたしゃ。 これはこれで。
 内容も驚く程に二番煎じ全開な感じなのだけども、不思議と違和感ない。 麻痺したのかこれ。
 
 リトルバスターズ! :んー。
 エンジェルビーツとかクラナドと同じスタッフとかそういう系?そういうところだけ観るとちょっと期待しちゃう
 んだけど、PVだけ観ると、私の第一印象は、んー、って感じ。んーって。
 キャラが丸っこいのが、なんとなーく、私のこの作品に求めていたイメージと合わないのかなぁ。
 まぁ、あんま考えずに観てみます、見始めて号泣とかし始めたら笑ってくれたまえよ、諸君。(なに)
 
 好きっていいなよ。 :・・・・。
 もうタイトルで陥ちたね、やられましたね、というか既にスタンバってるんですよね、わたし。
 はやく始まれーはやくはやくー! ←テーブルを叩きながら ←静かにしてください
 
 マギ :ハガレンっぽいやつって友人が言ってた。
 まぁ私も思ったけどね、ただそれは世界観に広がりを感じて、なんかそれだけでたのしそー、豪華ーって
 いう感覚が愉しめそうで、私は好印象。
 1シーズンにひとつそういう作品があると、華があってよいんよね、お酒飲みながらとか最高! (はいはい)
 
 さくら荘のペットな彼女 :ペットですから。
 要するにひとりじゃなんにも出来ない女子を世話焼きする男子の話ですか。まぁやってみたまえ。(なに)
 
 めだかボックス アブノーマル :アブノーマルってなにをいまさr
 めだかちゃんがどこまで上から目線性善説を貫けるか、そして深められるか、興味津々です。
 その度合いによって、私はこの作品の価値は決まると思っておるです。
 
 ROBOTICS,NOTES :女の子が可愛かったから。
 久しぶりに言うけれども、可愛いは正義だから。
 それだけだから。 (うん)
 
 
 
 
 はーい、こんな感じですよ。
 わたし的には、続編モノであるヨルムン、銀魂、ひだまり、めだかに期待しているのはまぁ前提として、
 他にはそうですねぇ、今のところはとなりの怪物くんとか好きっていいなよとか、そのあたりのラブっぽい系
 が上手いこといってくれると嬉しいですね、たのしいですね、しあわせですね。(微笑)
 
 
 とまぁ、はい。
 今回はここまで。
 あ、大変お待たせしてしまっている黄昏乙女のSSの完結編ですけど、そろそろ出来そうでござるー。
 とか言ってまた延期とかそういうことは無・・・いとは言い切れませんけれど(ぉぃw)、近々Upの予定で
 いかせて頂きます。
 これまで待っていてくださった方には、感謝でございます。
 
 
 そういうことで、んじゃ、またね。
 暑さもまだまだ続いてるから、皆さんからだに気を付けてね。
 私はちょっと色々ガタついてて、たいへんでござんすよ。
 健康第一、うん、ほんとこれ座右の銘にしようそうしよう。(微笑)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

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