〜2004年8月の過去ログ〜

 

 

-- 040831--                    

 

         

                             ■■れでぃあんどですとろい■■

     
 
 
 
 
 こんばんわ、紅い瞳です。
 今日は今週のMADLAXが2本立てだったのをいいことに、
 MADLAX感想だけで日記を埋めてしまおうと思います。
 オマケが幅を利かせる時代です。
 
 実は今何話目なのか知らないのでいつ最終回になるか全然わからないのだけれど
 別にいつ終わってもどうでもいいすんなり納得できそうなマドラが大好きですというためのオマケ:
 それは無理(挨拶)。
 カロッスアさん、散る、の巻。
 ここにカロッスアドーンという偽りの人間がいます。
 そしてその人間はほんとうの自分をみつけるため、マーガレットお嬢様に導かれようとしています。
 いざゆかん扉の向うへ。
 そんな感じでお話は始まるのですが、あっという間に場面は変わって、マドラックスインベッド。
 荒い呼吸の元、随分と重態のご様子。
 しかしそれを見つめるヴァネッサさんの頭の中はマーガレットお嬢様で一杯。
 そう今回はマーガレットお嬢様が主役なのです。
 場面変わって、珍しい組み合わせ。
 ナハルさんとエリノアさん。
 お嬢様は扉を開きにいったと聞かされて、血相を変えるエリノアさん。
 時間は朝。
 お嬢様がカロッスアさんとデートがてら扉の元へ行ったのは昨夜。
 このメイドさんは一晩中、放置されていた模様。
 ナハルさんもはやく教えてあげればいいのに。
 そしてどこへいくと問うナハルさんにエリノアさんは、
 お嬢様をお守りするのは私の役目と毅然と言い放ちます。
 これはクアンジッタ様を守っているナハルさんにも通じる熱いセリフですが、
 ナハルさんはお前にマーガレットに関わる権利も無いその資質も無いと冷たく言い切ります。
 しかもマーガレットお嬢様には導く者、カロッスアさんがいると告げるナハルさん。
 エリノアさん: 「あの人が・・・・そんな事断じて認めません!!
 エリノアさん、怒り心頭に達します。
 よりによってあの男だなんて許しません、と今さっきナハルさんから受けた屈辱も忘れ、
 お嬢様とカロッスアさんを追って彼らの元に向かいます。
 急げエリノア。走れ、エリノアさん。
 愛しいお嬢様とにっくき悪い虫はもうすぐそこです。
 これってやっぱりナハルさんの挑発ですよね。
 エリノアさんを怒らせて、お嬢様達にけしかける。
 やっぱり自分だけおいていかれたのが悔しかったんでしょうね。
 で正面から抗議したって相手はクアンジッタ様、及び怖い人(お嬢様)。
 なにされるかわかりません。
 だからナハルさんもこのような姑息な手段にでて、嫌がらせをしたかったのでしょう。
 ああエリノアさんが走ってる、エリノアさんが走ってるよ。
 と場面変わって、お嬢様達。
 クアンジッタ様のあやしげな行為により、お嬢様とカロッスアさんは扉の向うへ。
 エリノアさんがたどり着いたときには、もうそこにはふたりの姿はありませんでした。
 そしてナハルさんは、独り思い煩います。
 なにかが自分の心に棘をさす、と。
 ・・・・。
 たぶんクアンジッタ様のお仕置きか、それともお嬢様の復讐への恐れかと。
 だってエリノアさんクアンジッタ様に見つかっちゃったんだもん。
 後をよろしくとクアンジッタ様に頼まれたのは誰だったか、覚えて無いはずはないでしょう。
 あとお嬢様には直感でバレてます。
 そこ、マドラックスさんのせいにしないこと>ナハルさん
 場面変わって、ヴァネッサさんの元にすごすごと退散してきたエリノアさんをヴァネッサさんが慰めるの図。
 ていうか今更事態に追いつく元お嬢様の家庭教師。
 教え子は遙か遠くですよー、せんせい。
 機を逸した元家庭教師にできる事といえば、傷心のメイドさんを慰める事だけ。
 マーガレットなら大丈夫、今あなたにできることもあるでしょ、とヴァネッサさん。
 エリノアさんにできる事と言えば、悪い虫を追いかけてヤキ入れる事だったんですけれど。
 とりあえずエリノアさんはそれができずに意気消沈。
 でもそれでもできることって言ったらなにがあるのかな・・・。
 
 ヴァネッサさん: 「パスタが食べたい。」
 エリノアさん: 「ここでは無理です (爽やかに)」
 
 エリノアさん、復活。
 ヴァネッサさんを爽やかに拒否してこそお嬢様付きのメイドさんです。
 これぞエリノアさんです。
 けれど、マドラックスさんは、ふたりのやりとりを聞いて「駄目・・いけない駄目・・・」と譫言を言います。
 ラブコメは駄目って意味でしょうか。
 いやいやいや、確かにお嬢様とヴァネッサさんとエリノアさんの激しく偏った三角関係ではありますけど、
 ラブコメってほどじゃあ無いですよ。
 それじゃなにが駄目なのでしょうか。
 ・・・・。
 パスタか。
 私だけおいてふたりでパスタ食べちゃ駄目って事でしょうか。
 この人は当分死にませんね、ええ。
 再び場面変わり、お嬢様とカロッスアさん。
 訳のわからない謎空間をふたりで歩いてます。
 でもなんだか凄く楽しそうです。
 手まで握り合っちゃってラブラブデートでエリノアさんが見たらハンカチを噛んだ上に十七分割しそうですが、
 って、マドラックスさんが駄目って言ったのはこれでしたか。
 いやなんかもうラブコメじゃん。
 なんですかこのバカップルは。
 私と君は十二年前に会っている、なんていつの時代のナンパのセリフですか。
 が、お嬢様は籠絡されやすいので全然待った無しで引っ掛かっちゃいます。
 マドラックスさんが必死に止めるのも聞かず、お嬢様はカロッスアさんの甘言に乗って、
 扉を導き出してしまいます。
 そしてお嬢様に私を導いてくれと言っておきながら抜け駆けで扉を開けようとするカロッスアさん。
 しかしお嬢様はその扉を開けるのは駄目と引き留める声がするとか、
 子供騙しにほどがあるやり方でカロッスアさんを先に行かせまいとします。
 ここに来て、醜いバカップルの共食い発生。
 ラブコメ、終了。
 なにを馬鹿なと言わんばかりにお嬢様を無視してカロッスアさんが扉を開いた瞬間。
 ・・・・・。
 よくわからなくなりました。
 
 お嬢様: 「風景がみえます・・・・これは夢なのでしょうか・・・」
 
 私に訊かれても。
 
 (CM)
 
 飛行機の中。たぶん12年前の事。
 幼いマーガレットお嬢様と不思議少女と一緒に居たウーウー言ってる少年が。
 そしてその飛行機を包む閃光が。
 その閃光の中で、巨大な変態が嗤ってます。
 そしてそのあまりの変態ぷりを目の当たりにしてやる気を無くした飛行機が墜落。
 しかしお嬢様と少年だけは無事で、
 ふたりはなんとか変態の嗤い声の木霊する戦場を駆け抜けます。
 嗤いっていうかなんかもう絶叫してるよ、この人。
 そろそろ彼の事を尊敬し始めている私ですが、しかしお嬢様も後年のツワモノぶりを垣間見せます。
 少年がくれるといったキャンデーを、「だって雨が降るから」いらないといいます。
 雨が降るから・・・飴が降るから・・・・お嬢様それはちょっと。
 ここで駄洒落とは末恐ろしいお嬢様です。
 ですが後にそのボケに見合うツッコミメイドが現われるまでは、しばらく自粛ということで。
 ボケっぱなしは変態だけで充分です。
 そしてなぜか本当に降った雨にお嬢様の脅威を感じつつ
 マーガレットパパご登場。
 しかしなんの因果か、一番ふたりっきりで対面したくない人とご対面。
 その人仮面をまだしてないフライデーさんは、例の本を片手にパパを謎言語で籠絡しようとしています。
 この人はこの頃からこんなことやってたんですね。
 が、パパは強かった。
 とりあえず訳わかんないこと言ったので撃ってみましたって感じで、もうノリノリ。
 パパ強しパパ強し。
 そしてパパの姿を見つけて駆けだしたお嬢様。
 危ないよ、こんな色んな意味で修羅場なところに飛び出しちゃ。
 そしてお嬢様をかばって飛び出した少年が代わりにパパの銃弾を受けてしまいます。
 そして場面は急に戻って扉の前のカロッスアさんの胸から血が滴り落ちてきます。
 これがカロッスアさんの真実。
 あの少年がカロッスアさんで、そして今のカロッスアさんは偽物。
 つまり今のカロッスアさんは幽霊のようなものなんですね。
 そして本当は自分はもう死んでいるという真実を知った瞬間に、成仏、と。
 
 たいへんよくわかりました。
 
 あ、そう。そうなの。へー。
 これが長い間謎だった真実って奴なんですねぇ。
 ・・・・・。
 いやもういい。
 カロッスアさんはもういい。
 カロッスアドーンよ、永久(とこしえ)に。
 そして降り立つ変態仮面。
 お嬢様とふたり倒れるカロッスアさんを見下ろしながら、フライデーさんはあっさり本を回収。
 一方お嬢様もまた真実を見ています(扉開けてないのに)。
 パパを撃ったのはマドラックス。
 それがマーガレットお嬢様の真実。
 お嬢様は別に死んでないから幽霊じゃないんですね。
 私はてっきりレティシア=お嬢様かと思ってたのですけれど。
 やっぱりそこにマドラックスさんが絡んでいるので、でも微妙に関係はあるのでしょうか。
 取り敢えず変態は居ようと居まいと関係は無いみたいですけど。
 
 この時点でまたエリノアさんとヴァネッサさんが置いてけぼり喰らってるのは、きっと秘密です。
 
 
 
 
 (ここから後半戦開始。ていうか修羅場開始。長くてどうもすみません。でもオマケだし。)
 
 
 
 
 お嬢様、キレる、の巻。
 場面は本を回収しお嬢様をゲットしたフライデーさんとレティシアとの会話から。
 えー基本的にふたりが何言ってるのかわかりませんけど、
 とりあえずフライデーさんがミスったのはわかりました。
 なんと回収した本の一部のぺージが抜けていたのです。
 これは大変です。
 なんとかして改めて回収しないといけません。
 でも、どうやって?
 ・・・・ならば。
 とりあえず、お嬢様を起動させてみました。
 フライデーさんの理屈はいつも不可解です。
 場面変わってマドラックスさん起床。
 おもむろに巻かれた包帯を解くと、何処にも傷が無い。
 ええとつまりマドラックスさんも幽霊なん?
 その辺り全然わかりませんけど、ていうかもうわかる気もしません。
 そうそう、普通になれないことなんて最初からわかってたさ☆
 所変わって、ナハルさんとクアンジッタ様。
 クアンジッタ様: 「マーガレットバートンは、扉を開けるのを拒みました。」
 ナハルさん、ピンチ。
 エリノアさんをけしかけて邪魔したのがバレたのかもしれません、
 と少なくともナハルさんは思い戦々恐々。
 そしてやっぱりナハルさんはマドラックスさんのせいにすることで自己完結。
 あなたはそれでいいのかと小一時間ほど問いつめたいです。
 そして場面戻って、お嬢様。
 なんかごっつい操られてます。
 ふ、フライデー貴様お嬢様に何したん!?
 目の色が変わって誰の目にも明らかな危険色をまといながら、恐ろしいモノが発進。
 お嬢様と同じ時代に生まれてきたことを後悔してください、世界中の皆様。
 そしてマドラックスさんはその恐ろしい気を感じます。
 あの山の向うに、と。
 あの山・・・・・・あそこの森にはリメルダさんが分布していますがいいんですか?
 ほらーリメルダさん怪我の治療も終わって殺る気満々だしー。
 ですが、それよりも恐ろしいモノが確かに森を歩いています。
 お嬢様がかつてこんなに怖かった事があるでしょうか、いや無い。
 様々な事を思い返しながらすべて思い出し、ただなにものをも視界に捉えず歩いている。
 その様は幽玄にして苛烈。
 奴は今、化物です。
 血も涙も枯れ尽きた体をひきづりながら、一歩一歩世界を破壊していく。
 人形・・絵本・・紅い靴・・お父様・・・・そして・・戦場で狂ったように嗤う変態・・・・
 
 お嬢様:「気持ち・・悪い」
 
 まだ少しお嬢様分は残っているようです。
 
 場面変わって戦場を往くマドラックスさんとヴァネッサさんとエリノアさん。
 危険だわ迂回しましょうというヴァネッサさんに、きっと平気と微妙に言い送って戦場に突入。
 敵味方分かれて撃ち合うど真ん中に突如現われた女。
 戸惑う兵士達の武器をあっという間に悉く撃ち落とした上に自らは全弾回避。
 兵士: 「人間業じゃねぇ・・・」
 同感。
 なんていうかドレス着たときより強いんじゃないですかってくらいにすごかった。
 これにはヴァネッサさんもエリノアさんもびっくり。
 そしてそれを見つめるナハルさん。
 そしてその状況を無線で聴くリメルダさん。
 きっと電波の中身は断末魔の叫びで一杯(ひとりも死んでないけど)だったでしょうけれど、
 リメルダさんにとってはなによりの獲物。
 きっとリメルダさん的には断末魔の叫びが聞えた方に飛んでいってるだけでしょうけど。
 そして余所見をしている間に、お嬢様ピンチ。
 いや、ピンチなのはお嬢様じゃ無いんですが。
 お嬢様に銃を突きつけ誰何する兵士登場。
 そして当然意味不明な返答しかしないお嬢様。
 そのお嬢様を突き飛ばした兵士さんを見るお嬢様の瞳が。
 お嬢様: 「痛い・・・いたい。」
 お嬢様の目が世界で一番恐ろしく光ります。
 響き渡る悲鳴。
 それを聞いたエリノアさんはひとこと言って走り出します。
 エリノアさん: 「まさか、お嬢様が!」
 まさかお嬢様が人を襲う事があるとは。
 一応どっちが加害者なのかわかってるのが、バートン家メイドのたしなみ。ベイカー家の伝統っ!
 今の化物お嬢様を止められるのは最強メイドのエリノアさんだけです。
 走れエリノアさん。お嬢様を助け・・・る前に哀れな兵士を助けてください。
 そして三人バラバラに行動するうちに、
 ヴァネッサさんは森の中で変態に遭遇。
 一番嫌な状況です。
 案の定フライデーさんは真実を片手にヴァネッサさんを籠絡しようとします。 
 ここで場面変わってついにリメルダさんに捕捉されたマドラックスさんは戦闘開始。
 が、かつてない実力の差を見せつけていうかマドラックス、踊ります。
 リメルダさんも置いてかないでよマドラックスゥとかいって、むしろラブコメ化し始めます。
 ていうかリメルダさん的には最初から戦闘行為は求愛行動でしたけれど。
 そしてお嬢様に破壊された哀れないち兵士発見。
 エリノアさん間に合わず。アーメン。
 場面また戻ってリメルダさんとマドラックスさん。
 あっさりと決着。
 しかしマドラックスさんは殺さないよとキザなセリフでリメルダさんの前から消えます。
 そして所戻ってヴァネッサvs変態。
 ヴァネッサさん脱力中。
 あわや変態の魔の手に、というところでマドラックスさん降臨。
 そうやって人を惑わし続けるの、と問うマドラックスさんに、フライデーさんは人々が求めているのだと反論。
 私はあなたを殺すわとマドラックスさんに銃を向けられると、変態さんは人々が求めていると言い訳。
 きっとこれでも助かりたくって必死なんだと思います。
 でも当然そんな動転したフライデーさんの言い逃れは通じる訳も無く、大ピンチ。
 しかしここで伏兵が。
 崖からリメルダさんが覗いてマドラックスさんに照準します。
 この人は見逃されて改心するっていうか改めて殺しに来る人ですから、
 リメルダさんらしさ全開というハリキリっぷり。
 けれど伏兵には伏兵が。
 ヴァネッサさんがリメルダさんに気づき、発砲。
 リメルダさんも同時に発砲。
 一方はリメルダさんの肩に着弾。
 リメルダさん、バランスを失って崖から転落。
 今度こそ殺しに帰ってこれないかもしれません。 
 ていうかヴァネッサさんのアンチリメルダ能力は脅威。
 でもこれでリメルダさんが帰ってきたら、どうしよう。
 アンチマドラックス能力のその最たるところは勝つに非ず。
 負けても負けても生き返ってくる事にあり。
 あかいひとみはりめるださんこそをもっともおうえんしています。
 そして。
 そしてもう一方の弾丸は。
 ヴァネッサさんの脇腹に着弾。
 瞬間そこはお花畑になり、ラブコメも真っ青の展開に。
 かつてこんなにわかりやすい臨終のシーンがあったでしょうか。
 両親と戯れる幼き日のヴァネッサさんの幻影。
 ていうかまだ終わりに臨んだだけで、そこから引き返してくる可能性もありますので(臨死体験)、
 そう決めつける訳にはいきませんけれど、ちょっと今回は本気っぽいので要注意。
 ていうか。
 それよりも。
 
 マズイのが来た。
 
 今一番此処に来たらすべてが最悪になるであろう人物ていうか化物が。
 史上最強の生物マーガレットお嬢様、降臨。
 ていうか、またエリノアさんは置いてけぼりですか。
 状況は、最悪。
 目の前には血を流したヴァネッサさんが。
 そして銃を構えたマドラックスさんが。
 そして巨大な悲鳴をあげるお嬢様が。
 そのお嬢様はマドラックスさんがパパを殺したことをもう知っています。
 図式は簡単。
 パパ殺した→ヴァネッサまで殺した→私マドラックス殺す。
 イエス、正解。
 サークスサーク。発砲。
 撃つまでが早過ぎ。
 マドラックスさんが状況を理解する前に撃ったね、絶対。
 むしろこの瞬間お嬢様が真の主役になりましたよね。
 この場合一番報われないのは、ヘタレヴァネッサさんに撃ち落とされた上に、
 大好きなマドラックスさんまでいいとこのお嬢様に撃たれたリメルダさんでしょうねぇ、やっぱり。
 まぁ素手で人を破壊できるお嬢様ですが。
 エリノアさん、お嬢様ははやくも二人目殺っちゃいました。
 
 ベイカー家に代々伝わるお嬢様捕獲術の発動が待たれます >エリノアさん
 
 
 
 
 
 以上終わり。
 読んでくれた人、ありがとう。
 そしてお疲れ様。
 
 
 

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                             ■■マリア様の滴が落ちる先■■

     
 
 
 
 
 『もしかしたらどこかに模範解答はあるかもしれないけど、丸写しじゃ、つまらないでしょ。』
 

                          〜 第九話の蔦子さんのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生きている。
 そう、私は生きているんです。
 なぜかそう実感してしまうたびに、私は当然のように戸惑ってしまう。
 私が生きているってわざわざ実感しなければ思い出せない程、私は此処に居る気がしないのだ、と。
 きっとそういう事の中で、私は独り辺りを見回している。
 
 冷静に薫る風を眺めているのが、それがいつから私を見つめているのと同じ事になったのか。
 桜の花弁が舞い落ちる、それがいつのまにか私の中から溢れ出す涙の代わりとなっていた。
 私は辺りを見回しながら、私を、みてる。
 でもしかし、それは鏡の中の私を見つめているのとは、決して同じじゃない。
 だって、その桜の中に映る私は、笑っているのだもの。
 
 
 
 『それは、まるで一年前の私と・・・・』
 
 忘れられないものがあると云う。
 それに縛られていると云う。
 けれどそれを自覚する事なんて、私には有り得ない。
 私は私の姿を言い表す事が、できない。
 私の中には確かに今もお姉様が居て。
 それなのに私は、そのお姉様との付き合い方をも知っていながら、
 それでいて私は私の歩く道に自覚を持つことができなかった。
 お姉様の意志が何処にあるのかも、そして私がお姉様に与えられたものを大事に抱きしめていられても、
 それがただ私の中に在る、という事実以外の物を派生させる事は、私にはできなかったのです。
 いいえ。
 私には、其処から自分でなにかを生み出そうとする事をしなかっただけなのかもしれません。
 かといって、私はお姉様と過ごした時間に還ろうとした訳でも、無い。
 私にとって今のこの時間というものは不動で、私にはただ目の前にお姉様の居ない世界が広がっていて。
 だから私には、逃げ場は、無かった。
 私にはそれがあったはずなのに、でもやっぱり、私の知らないうちにそれは掻き消えていて。
 私の踊る桜の姿に本物の醜い桜が降り積もるうちに、
 私は今の私を失っていったのです。
 一年前からずっとずっと時間をかけて塗り重ねていった私の色彩は埋もれて、
 その中にお姉様の笑顔を見つけることはできなくなっていたのです。
 気付いたら、目の前に乃梨子が居て。
 其処に、笑っていなければいけない私が居て。
 そして。
 此処に、なにもかも隠してしまった醜い私が、居る。
 
 私・・・・一体・・・なにをやっているんだろう・・・。
 
 お姉様・・・・。
 お姉様、と心の中で呟くたびにお姉様の姿が霞んでいく事を一番知っているのは私。
 それなのにただお姉様の名を叫ぶだけの、助けを求めている訳でも逃げる訳でも無い虚しい行為を、
 私はどうしてもしてしまうのです。
 私のお姉様は、ただ私が私のすることを自覚した事で行う事の手助けをしてくださるだけなのに、
 私はただ無為にお姉様の名を連呼するだけ。
 お姉様に甘える事もできない私に、一体なにができるというのでしょう。
 それ以前に、私は自分がなにをしたいのかがわかっていないのです。
 私はなんのために、そして誰のためにこうして私を見失っているのでしょうか。
 なぜ私はお姉様の姿を見失ってしまったのでしょうか。
 いえ、本当にそうなのでしょうか。
 違うんです。
 私はお姉様の姿を見失ったのじゃない。
 私はただ、お姉様の姿を・・・・隠した。
 きっと、それだけの事なのです。
 
 私の中で自立している私の笑顔を独りで歩かせる事に浮かれて。
 その後ろ姿を見つめる安楽に、私が歩いているこの道を誰が歩いているのかを、私は忘れていた。
 私はいつのまにか、お姉様の隣で私を歩かせていなかったのです。
 お姉様が居なくなって、そして私はそのお姉様と一緒に歩いている自分の姿を夢に見ていただけ。
 私には、夢にみる必要も無いくらいに確かにお姉様と歩ける私の道があるというのに、
 私は私をその道から遠ざけ、そして私をずっと待っていてくださる木陰のお姉様を隠したのです。
 ただ夢にみていればいい。
 私は夢だけみていればいい。
 だから私は、一年前の私に還ったのです。
 目の前に、幸せへの道を笑顔で歩く今在るべき私の姿を放り出して。
 私は私を生きていなかったのです。
 
 
 ----答えは、簡単なんです
 
 
 やること為すこと、空回りばかり。
 答えは全部わかっているのに、どうしてもそうなってしまう。
 空回りって、結局はなにもしてないのに等しい。
 私はただ私の中でぐるぐると回っていて、ただ辺りを見回しているだけ。
 そうしていくうちに、私の周りからどんどんと大切なものが離れていくというのに、
 私はそれすらを眺めているのです。
 それをどんなに悲しく思っても、それを自分の事とは思えていない私が、居る。
 それがもし私の姿ならば、どうすれば良いかという答えを得たところで、
 それはやっぱり答えでは無いような気がするんです。
 いえ。
 私に必要なのは、答えじゃないのかもしれない。
 私はきっと、答えを得てもそれを活かす事ができない不器用な人間なの。
 たとえ人の心がみえたとしても、やっぱり私にはどうする事もできないのよ。
 だって、あまりにも考えなければいけない事が多すぎて。
 答えなんて、通過点にしか過ぎない。
 人の心がみえて、それに対してどう接すれば良いのかわかって、
 でもそうなったときにそれには満足できな新しい要素もまたわかってしまって。
 その連続が私の目の前に広がっている。
 目の前に居る乃梨子の遙か彼方にまでそれはずっとずっと広がっていて。
 祥子様達の想いに応えようと思うたびに、
 私の空には決して陽を覗かせない分厚い薄雲が垂れ込めていて。
 だから私は、私の目の前だけを照らすべく、
 なんとか必死に見つめ続けていたの。
 見つめ続けていれば、きっとうまくいく、と思う事すら忘れて、ただひたすらに。
 私は悩んですら、いなかったのよ。
 
 『お姉様は私を妹にしたとき、どうやってご自身を納得させたのですか。』
 答えが簡単なら、問題も明白。
 だけれども、その問題の解き方の選択をする事が私には必要だったのです。
 私は、やっぱり私なのです。
 お姉様と歩いている私の姿を、私に戻すべきです。
 そして改めて。
 そう、改めて私は自分の意志で一年前の自分に戻るべきなのです。
 私がお姉様と一緒に歩く道を、一年前の私にするべきだったのです。
 私はきっと。
 お姉様という幸運に出会って、それに酔ってしまっていただけなのです。
 だからお姉様が居なくなっても、その幸運に恵まれていられるだなんて、真っ赤な嘘なんです。
 お姉様は、もういらっしゃない。
 私がたとえお姉様の意志を理解している事実があって、そして自分で歩く事ができるのだとしても。
 お姉様が居なくなってもお姉様と一緒に居たときと同じでは、駄目なんです。
 そう。
 私は私が自分の足で歩ける喜びに震えているうちに、どの道を歩くべきかを選ぶのを忘れていたのです。
 それは図らずも、お姉様と同じ。
 得た幸福に戸惑っているうちに、その幸福の海で溺れてしまったお姉様と。
 そしてそれは一年前の私と、まったく同じだったのです。
 ええ、ええ、そうなんです。
 私は今、一年前の私に確かに戻り、そして確かにお姉様と同じ道を歩いているのです。
 私は、最初から私の道を歩き直すのです。
 そしてそれはやっぱりお姉様に引っ張って頂ける、嬉しい嬉しい幸福の道なのです。
 私は今、この幸せな道を歩くことを選んだのです。
 紛れもない、私の意志として。
 お姉様のくださった、私のこの足。
 そして私の中で暖かく凍ったまま流れ出るときを待つ、私の本当の涙。
 私は確かに私を桜の中にみつけました。
 そして私は・・・・
 此処に乃梨子の姿をみつけたのです。
 灰燼と化したはずの春の滴を、分厚い薄雲の中にみつけた。
 あの中にこそ、私の涙はあって、そしてそれは私の中にあるのと同じ事。
 雨が降れば、私は泣いているの。
 泣き濡れた木陰の私を包む春の滴が、私の中に空を染み込ませていく。
 どちらも・・・失いたくない。
 私も・・・・この空も・・・。
 だってどちらも、私には大切なものなんだもの。
 私はお姉様と片手を繋いで歩きたいんです。
 でもお姉様はもういらっしゃらなくて、そして私の前にはもうあの優しい空しか残っていないんです。
 私はその空とさえマリア様の名の元に片手を繋いだはずなのに、
 それなのに私には、もうお姉様と繋ぐ片手しかみようとしなくなっていた。
 その事がなによりも祥子様達と繋ぐ片手を強く強く握らせて、
 そしてもう片方で繋ぐお姉様のぬくもりは段々と冷たくなっていって・・・・。
 ああ・・・お姉様・・・・・この降り注ぐ私の涙はなんでこんなに冷たいのですか・・。
 そして私はその冷たさに凍えるあまり、いずれ片手で繋ぐ祥子様達の片手を握り潰してしまう。
 お姉様を失いたくなくて、そのぬくもりを求めるために、
 お姉様の意志通り祥子様達と繋ぐ手をお姉様に誇示するように強く握りしめて・・・。
 このままでは、私はどちらかを失ってしまう・・・。
 私にはどちらを選ぶ事などできないのに・・・・・。
 そうしたら。
 気付いたら、乃梨子が。
 乃梨子が、私に。
 私に、春を。
 乃梨子は私に私を与えてくれた。
 そしてお姉様を与えてくれた。
 乃梨子は言った。
 あわてん坊な、志摩子さん、と。
 なにを言って、と言い募ろうとした瞬間、私は。
 この雨の温度が少し上がったのを感じたの。
 志摩子さんには自分が必要だと言った、乃梨子。
 それを自分の自惚れだといった、乃梨子。
 乃梨子は私に、乃梨子をくれたの。
 私が乃梨子に私を与えるのじゃなく、乃梨子が私に乃梨子を与えてくれた。
 そしてそれは乃梨子を必要とする私を、改めて私に与えてくれたのと同じ。
 乃梨子は、私と一緒に私の道を歩いてくれると言ったのよ。
 そして、乃梨子は。
 『片手で仲間を。もう片手で私を掴めばいい』。
 瞬間。
 私は一年前の私に還っていた。
 すべてが溶けて流れていく。
 私の中で完全に溶けて暖かく染め上げられた本当の本当の涙が、春の空から滴り落ちる。
 ああ・・・・私が・・私に還っていく・・・・・。
 私がお姉様に与えられた大切なものが、ようやく私の体に溶け出していく。
 凍ったまま私の中で私に眺められるだけだったその幸福の滴が、私の体を暖かく染めていく。
 そう・・そうなのよ。
 私がお姉様と共に学んでいく幸せの道の歩き方は、私こそが見つけなければいけないのよ。
 お姉様と片手で、もう片方であの優しい空達と繋ぐ幸せ。
 そしてなによりも大事だったのは。
 お姉様と繋ぐ片手だけでなく、空達と繋ぐ片手にもロザリオが巻かれている、という事だったの。
 どちらも既に断ち切ることなどできないものなの。
 そして断ち切る必要など、始めから無い絶対のものだったのよ。
 そして。
 乃梨子は、言ったわ。
 そのロザリオを、貸して、と。
 あなたのその片手を引っ張らせて頂戴、と。
 それはまさにお姉様と同じ、そして、違った。
 ロザリオを飾りとするのは同じだけれど、乃梨子はロザリオの重さを全然わかっていない。
 だから。
 だから乃梨子は、私の持っているロザリオの重みを分けて持ってくれる事ができると言うのよ。
 私とお姉様は、お姉様が持つロザリオの重みを一緒に見つめていただけ。
 私はお姉様の苦しみを分けて持って差し上げる事もしなかったし、お姉様も私にはそうしなかった。
 そしてそれで私達には充分だったし、そしてそれが私達の得た大切なものだった。
 お互い離れて歩いて、しっかりとお互いの歩みを見つめ合う。
 けれど今、私の隣にお姉様は居なくなった。
 誰も私を見つめて一緒に歩いてくれる人は居ない。
 だから、今度は。
 今度は私、私を助けて私の側にくっついて離れないで歩いてくれる、そういう人と出会ったの。
 私は、お姉様の用意してくださった幸せの地図に、新しい一筋を描き込む事ができたのです。
 みんなの中で独りで歩くための、そしてひとりの人間としてみんなと歩くために本当に必要で大切なもの。
 私は、その滴が確かにあの優しい空達の中から私に向けて降り注いでいるのを見つけたのです。
 私はこのお姉様から頂いたロザリオをヒントに、私の涙をみつけた。
 いいえ、やっぱり。
 やっぱりそれは、与えられたのです。
 乃梨子に。
 そしてお姉様に。
 そして・・・・。
 
 『不思議ね・・。こんなにずぶ濡れなのに、少しも寒くないの。』
 ふたりで見上げたその薄雲の中に、淡いマリア様の祝福があることを私は確かに感じたのです。
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

-- 040826--                    

 

         

                             ■■『聖なる崩壊の序曲』■■

     
 
 
 
 
 『お前らは俺達から多くのものを奪い取った。
  だが、信じる自由と疑う自由、お前はその自由までは俺達から奪わなかった。
  ・・お前を信じる。
  ピースメーカーを倒して、パシフィカを助け出す。
  ゼフィリス、お前の力をすべて俺に貸してくれ。』
 
 『・・・・ありがとう・・・・』
 

                          〜 第二十話のシャノンとゼフィリスのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 隣に立っている奴が誰だったか、俺はそれを知らない事はなかった。
 盲いた瞳を振りかざしながら、俺の見ているものだけをこいつらに示し続けたつもりだったのに。
 ずっと、ずっと、それは変わらなかった。
 けれどそのずっとという期間それ自体が、お前達には、そして俺達にとっても短かったんだ。
 俺達は、俺達の時間だけしか生きられない。
 人間は人間だというのは俺達にはどうしようもねぇ。
 お前達の時間の長さと比較されても、話にならねぇ。
 どこまでいっても平行線。
 お前らはお前らのやるべき事を自覚する事でこの世界を見下ろし、
 それで愚かな俺達を支配している。
 俺達は、あまりにも愚鈍で、そしてあまりにも短い時間の中で狭苦しく生きている。
 俺はこうしてお前と話しているたびに、お前が俺の隣に確かに居る事を感じた。
 俺は、お前を見ていない。
 いや、そもそも俺がお前の姿を捉える事などできはしないのだろう。
 それは、お前らが俺達の愚かさを理解できないのではなく、理解しようとする意識が無い故の不理解、
 それに溺れているのと同じ事なんだ。
 俺は、お前の事をわからないのだと始めから決めていた。
 お前らの理屈など知るか、と。
 知る意志が無ければ知る事はできやしねぇんだ。
 だから。
 俺が俺の隣に誰を立たせているのか、それはやっぱり俺の意志でしか、ないんだ。
 
 ピースメーカーの姿。
 それが人間の形を借りたものであることが、それが俺のお前の理解への一助となるか、
 そしてかつてスィンだったお前だからこそお前を無視しようとするのか、それは俺次第。
 其処に居るのが話の通じるバケモノか、話の通じないバケモノか。
 それは此処に居るのが耳の聞える愚か者か、耳の聞えない愚か者か、それで決まる。
 俺は、こいつを見ない瞳を掲げているのだから、そこにあるのはただ言葉だけ。
 敵味方も無い、ピースメーカーとガーディアンの違いも無い。
 だから俺は、シーズを理解した。
 お前の言葉を理解した。
 そして俺は、俺の意志をようやく形作り始めたのだった。
 
 
 
 俺は、支配されることは厭わない。
 俺は、俺が不幸であることに是非も無い。
 俺はピースメーカーの言葉を知った。
 シーズの意志が何処にあるのかを、理解した。
 俺達は、共存できる存在。
 本来、俺はお前らに知らぬ間に支配されている事になんの異議も持たない、
 従順でありながら意志的な奴隷であり、
 そしてその事実を知ってのちにおいても、俺はそれを否定し反抗する理由を持たないし、
 そしてその意志も持たない。
 俺は、シーズの話を聞いた。
 あいつは俺の支配者であって、倒すべき敵では、無い。
 俺は俺の意志でお前らの支配に甘んじる事だろう。
 俺には、俺を中心として動く世界に興味は無いからだ。
 だが、だからといって、誰かが中心となって動く世界の存在を否定する訳でも無い。
 俺は自分が興味の無いものを、蔑んだりはしねぇ。
 俺は世界の支配者を否定しねぇ。
 たとえ形ある支配者が無くとも、俺は俺以外のなにかに従い、
 そしてそのなにかと共存しようと、なんとか窮屈な世界に生きていこうとするだろう。
 俺は、いかなる世界の破壊者にもならない。
 ピースメーカーの手から人類がその支配権を奪還する事に、協力するつもりは無い。
 そのために多くの人が死ぬのを、俺は許さない。
 俺は俺にそっくり見合う世界を手に入れるために戦うなんて、しない。
 俺の幸せのために戦ったりなんて、決して、しない。
 俺は俺の適合できない世界になんとか溶け込もうと、静かに自分と戦っていくだけだ。
 自由なんて、クソ喰らえ。
 俺はそういう、純朴で愚かで従順で田舎の片隅で適当に生きて死ぬだけの男、なんだ。
 
 お前らがパシフィカを殺そうとすること、その理屈を否定するつもりも、俺には、無い。
 
 俺は、俺のしたい事をただしているだけなんだ。
 だが俺がお前を理解するということは、お前に同意する事じゃない。
 俺がお前を俺の隣に立たせた事は、俺がお前と同じ立場に立つ事を意味してはいない。
 俺はお前らに支配されているが、それはお前らの言いなりになると言うことではない。
 俺はお前らと、ただ共存しているだけだ。
 俺はお前らの存在を否定しない。
 俺はだから、俺の存在をお前らに否定させはしない。
 そのために、俺は戦っている。
 俺はお前らの支配する世界の中に居場所を作ろうと、ずっと戦っているんだ。
 だから俺は、
 お前らに、俺がお前らが俺の存在を否定することを認めない事を認めさせるために生きている。
 俺は俺が生きるために、お前らに支配されている事を忘れるな。
 そして。
 
 
 パシフィカもまた、そうであることを、決して忘れるな、シーズ。
 
 
 
 
 自由、か。
 俺にはそんな言葉など、必要無い。
 自由とはいつだって誰かから与えられたものだ。
 だからそして、その自由を俺から敢えて奪わなかった者へ俺はただ素直に感謝するだけだ。
 自由を奪った者への憎しみなど。ましてや反抗など。
 ありえる訳が、無い。
 自由が俺にあるかなしか、そんなのはどうでもいいことだ。
 俺には、そいつが信じられる者か否か、それがすべてなんだ。
 俺は長い間、ゼフィリスに奪われた自由のせいにして、ゼフィリスを無視してきた。
 俺は多くの間違いを為してきた。
 ゼフィリスが悪かった事など、一度も無い。
 俺は誰よりもこいつの話を理解している。
 だから俺はただ知っていたのだ。
 こいつとは共存できるのだ、と。
 そして共存しなくてはいけないのだ、と。
 俺はそれが嫌だった。
 なんで、お前と共存することまで強制されなくてはならないんだ。
 俺がお前と共にあるということは、既に俺の在り方の一端を担っている。
 俺がピースメーカーの支配を受け入れるのは、俺の意志。
 ならばドラグーンと共に戦いピースメーカーの支配から逃れるのは、一体誰が受け入れ居る事なんだよ。
 俺、なんだろう?
 論理の辻褄が合わないのが気に入らない、それは確かにある。
 だがそれよりも、お前の言いなりになってお前と共存しなければいけないのが、なによりもむかついたんだ。
 お前と共に生きる事、俺はそれを絶対に俺の意志に因って為したい。
 俺はずっと、お前がそれを理解しているのかを疑っていた。
 俺はシーズのまともさを感じるたびに、お前の言葉がどんどんと邪なものに聞えていた。
 俺の知識がピースメーカーに許されたものだけしか得る事ができない、という事実は認めよう。
 だが俺の意志が既にすべて決定されているものだと傲然と言い放つお前の言葉は、認めない。
 だから俺はお前を信じなかった。
 お前を信じない、という意志を俺自身が保証せねばならなかったこと、
 それが俺がお前を無視した、最大の理由なんだ。
 
 だが、お前は。
 
 ゼフィリスは、お前は、ようやく、言った。言ってくれた。
 多くの人が死んでまでも戦う事、それが俺の意志では無いと。
 俺の意志に従う、と。
 俺の中に、確かに俺の意志がある事を、お前はようやく認めてくれたのだ。
 だからもう、俺はお前を無視しない。
 俺の意志を認めたお前を、俺は信じよう。
 そしてお前と共に生きたいと、俺は願う。
 信じたいと思える神は、俺の存在及び俺が存在する俺の意志を保証してくれねばならない。
 俺がこの世界で生きることを俺が保証するなんて、
 そんなのは俺が自分の好きな世界を勝手に作ってるだけの事。
 俺は、それこそが一番嫌だったのだ。
 俺は誰かに許されて、此処に居たい。
 俺はいつだって、誰かの世界で生きるために生きたいのだ。
 それが、俺の意志。
 たとえ支配されようとも、たとえ自由を奪われてもいい。
 だが、俺がその世界を生きたいと願う俺の意志、それだけは奪われてはいけなかったんだ。
 だから俺は、ゼフィリスを信じなかった。
 そしてゼフィリスは最後に俺から意志を奪ってはいない、と告白した。
 俺の中にちゃんと俺の意志が在る事を、かつてそれを奪ったと公言したお前は保証し直してくれたのだ。
 それがたとえ嘘だって、いい。
 もう、いいんだ。
 俺のこの意志が偽物だって。
 俺のこの想いがお前らに操られたものだって、もういいんだ。
 お前は、俺にそれでもそれを信じるか信じないかの「自由」を俺から奪わなかった。
 だから俺はそれに感謝し、そして俺の中に俺の意志など無いということを「信じない」事を選ばせて貰った。
 だから俺は、お前を「信じる」。
 お前は、俺の中から俺の意志を奪い、改めてそれを俺に与え元から俺の中にあった事にしてくれた。
 俺がお前を信じる理由は、もうそれで、充分だ。
 本当に今まで、すまなかった、ゼフィリス。
 
 
 
 
 
 
 
 俺はゼフィリスと共存する道を選択した。
 そして、だから。
 俺はお前らと戦う共存の道を、改めて選ばせて貰ったぞ、シーズ。
 
 いいか、よく聞けよ。
 正直、俺は世界なんてどうでもいい。
 俺が俺を生きることの前に、そんなものは既に存在自体が無いに等しいんだ。
 いつだって、世界に先立って、俺がある。
 俺はだから、世界のために死なない。
 誰のためにも、死なない。
 俺は、生きる。
 生きるために、戦う。
 ただ、それだけだ。
 ステアとかいうピースメーカーは言った。
 パシフィカに、世界と引き替えにする価値があるのか、と。
 
 いいか、よく聞けよ。
 
 
 
 
 
 『価値? 世界の価値ってなんだ? 
 こいつを殺したら、世界の何が救われるんだ。
 世界ってこいつよりも価値のあるもんなのか。
 こんなちっぽけな妹ひとり存在を許してくれない世界の価値って、一体なんなんだ。
 俺は世界なんて守れない。
 俺は神でもピースメーカーでも無い。
 
 妹を殺すか守るかを選べってんなら、俺は最後までこいつを守ってやる。』
 
 
 
 
 
 パシフィカの存在が許せない世界に、存在価値なんて既に無い。
 世界の中で救うべきは、最初からパシフィカだけだ。
 世界はパシフィカを支配し従え不幸にし、そしてその存在を保証するためにだけある。
 パシフィカのために、世界があるんだ!
 いいか、シーズ。
 お前の言葉は間違っていない。お前は正しい。
 お前は俺達の世界の支配者として実に正しく振る舞っている事を、俺は認める。
 そしてその世界を破壊するパシフィカを抹殺しようとする事、それも正しいと思う。
 シーズ、お前はちゃんと俺達と共存している。
 だがな。
 それはつまり、俺達に選択の自由を与えたんだ。
 自由を奪わなかったので無く、それはむしろ押しつけがましく与えた自由。
 それは、妹を殺すか守るかの選択。
 わかったぜ、シーズ。
 俺はお前を否定しない。
 だから俺はお前らに与えられた、パシフィカを守ることを選ぶ自由を受け取らせて貰う。
 その選択肢しか残されていない事を恨むなんて、俺はしねぇ。
 俺は俺の意志で、選ばせて貰うだけだ。
 世界に適合できない自分の姿は、それはとても自然で・・・。
 そしてなによりも改めて・・・清々しかった。
 なにも今までと変わりはしない。
 俺は世界から与えられた虚しい選択肢に溶け込めるよう、自分とひたすらに戦っていくだけ。
 俺は、パシフィカを守る。
 その事の意味がわからないなんて、俺はもう言わない。
 俺は世界を信じてる。
 俺はパシフィカの存在が許される世界の価値だけを想いながら、
 それでもパシフィカの存在が許されない世界を信じて生きていく。
 
 俺が生きているのは、間違い無くこの世界なのだから。
 
 俺はパシフィカの存在を許してくれない世界を造り替える気は無い。
 俺は神でもピースメーカーでも無い。
 俺はパシフィカを守るガーディアンだ。
 それがすべて俺の意志と関係無い既に決められた事であったとしても、
 あくまでそれを俺の意志だと保証してくれたゼフィリス。
 そして。
 この世界はパシフィカの存在を許してくれ無い代わりに、
 パシフィカを守ることを俺に許してくれた。
 シーズは、パシフィカを守る俺の意志を否定しなかった。
 
 
 
 だから俺は、シーズを信じ、そしてシーズと戦う。
 
 パシフィカを、守るために。
 
 
 
 
 だからゼフィリス。
 俺はお前を、信じる。
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 

-- 040824--                    

 

         

                             ■■幸せ、満足、ご満悦■■

     
 
 
 
 
 うごくな!! ノンストップ!!(挨拶)
 
 
 ◆それはつまり、アレです。また紅い瞳の中が面白いコトになってきたという事です。
 前々から読もうとは思っていたんですよ。
 だってその、前作がアレですから。アレはもうこの世のモノとは言えないアレでしたし。
 もうたまんない! という感じな訳で、日々からだの中や外で弾けてぶつかってどっかーんとか、そんな。
 いややいや、意味、わからないから。落ち着いて。
 つまりね、これを手に入れた訳です。
 「よつばと!」。あずまきよひこ。あずまんがの人の。
 出会うべくして出会ったというか、運命というものを感じましたね。毎日感じてますが。
 あずまんがの四コマモードとは変わって、普通の漫画タイプに路線変更。
 そしてスタイルもズバリ、普通の漫画。
 すげーすげーコレすげーよ、とーちゃん。
 ゴーイングマイウェイを法定速度超過で逆走したままおうちに帰って清々しくただいま!って言いたくなる。
 もー!もー!もー!
 私は、この漫画が、大好き、です。
 紅い瞳の中で新世紀が3回くらい訪れました。
 時代を継ぐものが現われましたのです。
 ハイル、あずま。ハイル、よつば!
 1巻を読んだときの衝撃が他の誰かにわかるだろうか、いやわからない。
 2巻を読んだときの幸福感がいつか途切れる事があるだろうか、いや無い。
 とーちゃんもすごいがあさぎねえちゃんはもっとすごい。
 そしてよつばはジャンボよりおっきい。
 ああああ。
 わけわかんねー!!
 いいわけはじごくできく。
 
 
 
 ◆レッツWeb漫画ライフ。
 最近また元気にWeb漫画を読んでいる紅い瞳です。
 漫画は良いものです。以上。
 ・「徒歩一分」 ジャンル:マリみて
 燃え。エレガントドライブ。紅薔薇の伝統っっ!
 ・「ラブラブvオーバーザレインボー」 ジャンル:マリみて
 リリアンガ大王。由乃んサッカーをするの巻。世界の中心でヘタレを極める令ちゃん強し。
 ヴィーナスいけますがどうですかby三奈子様
 ・「おんぶの絨毯」 ジャンル:マリみて
 界王拳っ。祥子様がこんなにも変態なのになぜか違和感を感じないのはどうしてなのですか。
 ・「チルドレンズワールド」 ジャンル:マリみて他
 いきろ! いやいやいや素晴らしすぎるから。よしのさまと令たんふぉーえう゛ぁー。
 他にも凄い漫画があるからお腹一杯になりました。祐巳が増えた!!!
 ・「RECYCLED NICEGUYS」 ジャンル:マリみて他
 毎日かかさず読んでます。だって過去ログ無いんだもの。
 
 漫画では無いけれど、最近お気に入りなサイト様をひとつ。
 ・「辛子家族
 ちょっと前まで描かれていたブゥトンシャッフル話は最高でした。
 そこのけそこのけ由乃がとおる、なんて名フレーズですね、まったく(シャッフル話じゃ無いけど)
 
 
 
 ◆3人の方に同じ私信を送ってみるテスト。
 8/20の『母の嘆きの無言歌』のポイントは、最後の2行です。
 今まで自分はあの子の親の資格が無いと云う懲罰と裏表で寄り添う子供からの逃避及びそれに基づく
 自己愛を肯定していた事がそのすべての裏返しである無償の子供への愛を改めてすべてとした事と実は
 同じ事であると最初で最後に表明したこれを以て子への謝罪と為すしかなかった悲しみそしてその悲し
 みに囚われる暇も無いほどに最後はすべてがパメラで埋まっていたにも関わらず彼女に触れる事ができな
 かったエルマイヤのすべて、それがあの2行に込められていると私は想いながら書きました。
 よく、わかりません。 (テスト失敗)
 
 
 
 ◆今日は、マドラックスの感想が無いのでなにかいつもより沢山書こうカナ☆、って思っていたら、
 どんどん書く気が無くなっていく自分をただぼーっと眺めているだけでした。
 ・・・この子はいったいいつになったら大人になるんだろう。 (遠くをみつめながら)
 
 
 
 ◆ひとつ思い出しました。
 読んで無い人は読んだ方が少しだけ幸せになれます。
 こちらで、なぜか「あずまんが大王」が読めます。沢山。
 っていうか、コレ、サンプルっていうレベルを超越しています。
 こんなに読めちゃっていいんですか。いいんです(川○慈○風に)
 でもよつばと!は読めない辺り、謎な商売っ気があるようなないような、無いですね、うん。
 
 
 
 ◆本日のオマケ。
 当サイトが2周年を迎えました。よーするに3年目です、3年目。
 お時間おありの方はお祝い言ってくださると、紅い瞳も少しは可愛げを出して喜びます。
 うん、これからもよろしくです。
 
 
 以上。
 
 
 

-- 040822--                    

 

         

                            ■■マリア様の中の桜を踊る■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 本日は、マリア様がみてる〜春〜第八話「銀杏の中の桜」についての感想を書かせて頂きます。
 
 まず、始めに。
 私はこのお話を初めて見たとき、大変悩みました。
 見ても、なにがなんだかさっぱりわからなかったからです。
 志摩子さんが何に悩んでるのか、その悩みがどれくらいのものなのか、
 そういったものが最初私はなにも理解できなくて、
 そのおかげでそこから発生していく今回の他の面々の行動の意味も理解できず、
 本当に呆然としてしまいました。
 このお話が一体どういう事であるのか、それはもう徹頭徹尾わからなかったのです。
 これほど焦ったのは、マリみてを見始めて以来初めての事でした
 わからないなんて有り得ない、だからこれはこのお話が良くないのだ、とそうまで思ってしまったほどです。
 それくらい難しくて、そしてまったく理解する足掛かりも無いほどに、そこにはただ画像だけが流れていて。
 志摩子さんの一言一句がこれほど意味不明に聞えたお話はありませんでした。
 これほど山百合会の面々の行動に関連性が見えなかったのは、初めてのことでした。
 私のマリみてが壊れていく、なんて言ってしまうと大げさかも知れませんけれど、
 でも実際まるで今回のお話をひとつのカタチとして受け入れる事ができなかったのですから、
 少なくとも感想は書きたくても書けない、そういう事態に陥ってもおかしくない状況ではありました。
 でも。
 でも、2回目を見て、ようやく、本当にようやく理解する事ができました。
 良かった、とため息をほっと何度もついた瞬間です。
 ちょうど無くしたと思った大切なものが、すぐにみつかったときのようなせつない安堵感。
 あんなに完全に無くしたと思ったものが、あまりにもすぐに見つかってしまったので、
 その分次の瞬間にはもうその見つかったものは無くなってしまうんじゃないのか、そうも思えたほど。
 ですから、これからその私がみつけたものを改めて確かに在ると認められるように、
 なんとか感想を書いていこうと思います。
 
 すべての発端は、志摩子さんでした。
 なぜ、志摩子さんはそんなに自分が寺の娘であるのにリリアンに通っていることを思い悩むのか。
 確かに大きなお寺の事、檀家に知られれば色々と問題もありますでしょう。
 そういう意味で、志摩子さんがそういう他人への迷惑を考えているというのは、わかります。
 けれど私にはどうしたって志摩子さんのその弁は方便にしか聞えません。
 他の理由に言及しないために、そういう他人への迷惑をかけることをその理由へとすり替えた。
 勿論それはまったくの嘘という訳でも無いでしょうけれど、
 けれど他の人々に迷惑をかける事が志摩子さんの苦悩の主因では無いでしょう。
 むしろ問題なのは、自分が在学しているリリアンにおいての事。
 自分だけが異質であるという事、それが志摩子さんの苦悩の主因にはある。
 結論から言うと、志摩子さんの苦悩のひとつの原因は、彼女の勘違いにあります。
 寺の娘がリリアンに在籍する事、それは異質な事であって異質な事ではない、
 そうであることを志摩子さんは知らずに、自分はずっと異質で受け入れられざる存在であるのに、
 それなのにこうしていつまでもリリアンに居続ける事の罪悪感、
 それこそが志摩子さんの苦悩の主因。
 リリアンの誰もが寺の娘である事を非難したりはしないというのに、
 志摩子さんは非難されるはずと固く信じ続けていたのです。
 勘違い、といえばもう勘違い以外のなにものでも、無い。
 そして志摩子さんはそうやって異質な自分を責め、そしてそれでもリリアンから去らない自分、
 それを許してはおけないと、段々と思っていく。
 マリア様のお与えくださった祝福を受け取る事ができない自分の孤独、
 ただただ桜の木の下でだけ自分は存在することを許される。
 銀杏の中の一本の桜だけが拠り所。
 そしてその桜のいやらしさを一番自分が知っているからこそ、
 なおの事それにすがりついてまで銀杏の中に居続けている自分が許せない。
 志摩子さんは、桜舞う春の日差しの中で、そうやって独り踊っている・・・。
 
 
 しかし。
 
 
 もし志摩子さんの姿を「私」がそう捉えるなら、私はこのお話を理解することはできないのだと、
 そういう事に私はここで気付いたのです。
 それこそが1回目みたときなにも理解できなかったのはそれが原因なのだと。
 私はここで私自身が重大な勘違いをしている事に気付いてしまいました。
 この志摩子さんの姿は、一体誰の視ているものなのか。
 私は当初それが志摩子さんの思考の結果として「私」が視た志摩子さんの姿だと思っていました。
 でも、違うのです。
 この孤独に打ちひしがれている志摩子さんの姿を視ているのは、実は乃梨子ちゃんなのです。
 桜の下で話す乃梨子ちゃんと志摩子さんをみて、私はこう思ったのです。
 ああ・・・これは志摩子さんの茶番なんだ、と。
 よく、みてみました。
 志摩子さんは、なにも苦しんでいませんでした。
 いえ、苦しみを苦しみとしないで見事に受け入れている志摩子さんが、そこにはいました。
 そしてその志摩子さんの苦しみであるはずのものだけを取り出して、
 懸命に慰めて差し上げようとしている乃梨子ちゃんがそこには居たのです。
 勝手に志摩子さんが自分と同じ苦しみに沈んでいると解釈した乃梨子ちゃん。
 志摩子さんは、ただ微笑んでいたのです。
 そんな乃梨子ちゃんが可愛くて、堪らなく優しい気持ちになってしまった志摩子さんが、そこに。
 銀杏の中で咲く桜の邪さを憂いながらも、
 けれどそれすらマリア様の祝福として受け入れられている志摩子さんは、
 その桜の下でうずくまる乃梨子ちゃんを抱きしめてあげたかった。
 だから志摩子さんは、敢えて乃梨子ちゃんに同調したのです。同調しただけなのです。
 私は、前回から志摩子さんの姿には違和感を持っていました。
 桜の下で踊る志摩子さんに、確かに苦悩や憂いはあったかもしれません。
 でも私には、どうしてもあの踊りがそういう感情の元に為されていたものとはどうしても思えなかったのです。
 志摩子さんがその悲しみを表現する事の違和感。
 志摩子さんが泣き崩れる先は聖様の元だけであるのに。
 確かに聖様との思い出が灯る桜の木の下で踊るのを、
 その聖様への逃避とみる事もできます。
 
 けれどそれでは、志摩子さんが聖様との間で培ってきたものが何処にも無いじゃないですか。
 
 私は、ですね。
 志摩子さんをみる上で、やっぱり聖様を除外することはできないのじゃないかと、改めて思ったのです。
 ええ、そうです。
 志摩子さんは確かに今も孤独を感じているのでしょう。
 志摩子さんは苦悩し憂いに満ちた眼差しを桜に向ける事もあるでしょう。
 そして懐かしいお姉様の元だけで落ち着ける、癒しの踊りを踊る事もするでしょう。
 自分だけの世界に入り込んでしまうこともあるでしょう。
 奇しくも同じような乃梨子ちゃんが、志摩子さんの姿にそういったものを見出させてくれます。
 けれども。
 その志摩子さんの孤独や苦悩や憂いは、一体志摩子さんにとって、
 果たしてそれは乃梨子ちゃんの視た通りの意味として受け止められていたでしょうか。
 私は、乃梨子ちゃんの視点で志摩子さんを視るたびに、違和感を得ることを禁じ得ません。
 志摩子さんは、すべて受け入れ、そして乗り越えています。
 そして或いは、自らがリリアンの中で異質であることさえも受け入れていると、そう思います。
 私は、祥子様達が志摩子さんが自分がお寺の娘である事に苦悩し、
 そしてそんな事は誰も気にしていないのに志摩子はそれを気にしていると仰っていたこと、
 それ自体祥子様達の勘違いであったと思います。
 志摩子さんは乃梨子ちゃんに、まだリリアンを去りはしない、と言いました。
 なんで、まだ、なのでしょうか。
 志摩子さんは異質である自身を責める乃梨子さんを、微笑みで以て見守っていました。
 なんで、悲しそうな顔をしなかったのでしょうか。
 そう、なのです。
 此処に私の最大の勘違いがあったのです。
 『私の事が公になることで誰かに迷惑がかかるのなら、やはりこの学校に居てはいけないと思う』
 志摩子さんは、自分の事が公になり自分の異質さが明るみにでることを恐れているのでは無いのです。
 志摩子さんは、その事で誰かに迷惑がかかること、それを恐れています。
 そして。
 志摩子さんには、もうわかっているはずです。
 なにが迷惑なのか、ということを。
 迷惑をかけない事、それ自体が誰かにとってなによりの迷惑となることを、志摩子さんは知っています。
 自分がリリアンが好きだから、それを理由にリリアンに留まるという事は勿論志摩子さんはしません。
 けれど志摩子さんは、誰かのために自分が消え去ることも選びません。
 それが、その誰かのためにならない事を知っているから。
 誰かのためを思うまえに自分の事を考えて、そして自分の責任として生きていくことを、
 志摩子さんは選んだのですから。
 志摩子さんは、お寺の娘のままリリアンに在学していくことに、もう既に覚悟を決めています。
 自分の存在を否定してまで与えた誰かの幸福を、それを決してその誰かは受け取ってくれない事を。
 聖様、そして先代の薔薇様方が志摩子さんに魅せてきた、その事が、
 私はもう志摩子さんにしっかりと組み込まれている事を感じています。
 
 志摩子さんの乃梨子ちゃんを見るその瞳は、まさに聖様そのものです。
 自分と同じ孤独の世界で苦しむ者を見つめる、その冷静な眼差し。
 そしてその瞳には、聖様とは違う一点の光が新たに灯されます。
 この子を導いて、あげたい。
 志摩子さんが通ってきた道を、乃梨子ちゃんはとても拙い方法で歩こうとしています。
 その乃梨子ちゃんの姿をあまりにも良く理解できてしまうがゆえに、
 自分もまたかつて通った道を逆戻りしてまで、乃梨子さんの元に駆け寄って抱きしめてあげる。
 そしてだから、志摩子さんは自分がただ来た道を戻っただけで、
 決してこれから歩む自分の道を失ってはいない事を知っています。
 志摩子さんは乃梨子さんと同じのひとつとなる快感を乃梨子さんに与える素振りを見せながら、
 それでも決してかつての聖様のようにそれにのめり込む事無く、あくまで冷静に乃梨子ちゃんを見ている。
 志摩子さんと同じなんです、という乃梨子ちゃんを心配しているのです。
 そしてだからこそ、志摩子さんは桜の下で再び踊って魅せたのです。
 
 本来。
 春になると志摩子さんはいつもあのような感じなのです。
 いつもひとりで孤独の世界に籠もり、其処だけで許される自分の体を抱きしめながら踊る・・。
 それは自らの癒しであると同時に世界からの逃避でもありました。
 けれど聖様に出会って。
 志摩子さんは桜の下で悲しい踊りを踊るのやめました。
 志摩子さんは桜の下の外に歩き出し、そして桜の下でさえも外の世界に染み込ませ、
 懸命に自分の歩く道を切り開こうとしてきました。
 銀杏の中の桜の下で踊る悲しみに耽る事無く、もう敢然と幸せに向かっていけるのですから。
 でも。それでも。
 聖様が卒業なさって、志摩子さんはまた独り。
 でもなによりも聖様が志摩子さんに示してくださった幸せへの標が、
 志摩子さんを見守ってくれている。
 聖様の居ないリリアンに悲しみを感じる、その逃避への帰還はでも、どうしても行われてしまう。
 確かに桜の下で踊る志摩子さんに、悲しみはあったでしょう。
 けれど。けれど。
 その悲しみと手を繋ぐ事は、決して志摩子さんはしないのです。
 その悲しみを聖様と繋ぐ片手に浸みこませはしなかったのです。
 聖様を懐かしむ事、それすなわち悲しみに非ず、
 それはただただ聖様の示してくれた幸福への標の確認、それに他ならないのです。
 志摩子さんが聖様の見守る桜の下で、喜びの踊りを踊っているのが見えます。
 そしてその中に確かに志摩子さんの悲しみがあるのも見えます。
 そして。
 其処に乃梨子ちゃんが現われたのです。
 志摩子さんは、その既に受け入れた自らの中の悲しみを乃梨子ちゃんに見たのです。
 自分は受け入れ喜びと成す事が出来たその悲しみを、
 未だ悲しみとしてしか受け取れない乃梨子ちゃんを、自分の癒されきった悲しみの代わりに癒してあげる。
 志摩子さんの幻想の桜の降る元で、その茶番めいた儀式は行われたのです。
 志摩子さんは、桜の下で、桜自身を演じたのです。
 銀杏の中で独り佇む桜の悲しみを、乃梨子ちゃんに踊って魅せたのです。
 私はこのカタチに気付かなかったからこそ、最初なにも理解できなかったのです。
 
 祥子様と令様は、その志摩子さんの一連の行動を誤解します。
 志摩子さんもまたかつての聖様と同じように、乃梨子ちゃんとひとつになってしまうのでは、と。
 唯一祐巳さんは別の観点から志摩子さんの姿を見抜きます。
 志摩子さんにはもう頼れる者が居ない、その悲しみが志摩子さんに確かにあることを。
 その悲しみがある事は、やはり事実なのでしょう。
 けれど、それがあるからこそ、志摩子さんは乃梨子ちゃんを導いていこうとしたのでは無いでしょうか。
 私は志摩子さんが、乃梨子ちゃんがどういう子かわからないはずは無いと思っています。
 誰かに頼る事ができない、そうであるからこそ今度は自分が誰かに頼られる存在になりたい、
 その自らの意志にこそ頼ろうとするのだと思います。
 そして乃梨子ちゃんは、志摩子さんを頼ってくれるはずの人。
 祥子様達の茶番劇が志摩子さんに与えたものは、確かに大きいです。
 なにより、志摩子さんの「異質さ」が改めて異質では無いと認められたのですから。
 けれど志摩子さんは、もう既に己の異質さを受け入れてしまっているのです。
 ある意味、志摩子さんにとってはどうでも良かったのです。
 宗教裁判の様相を呈したあの場面において、
 志摩子さんの頭の中にあったのは、ですから乃梨子ちゃんの事ばかりでした。
 正直、志摩子さんが自分がお寺の娘である、と告白した事は、さして重要な事とは思えません。
 
 志摩子さんにとって最も重要なのは、
 異質でありながらその自らの異質さを受け入れられない乃梨子ちゃんが、
 その異質さを異質では無いという形で皆から認められる事だったのです。
 
 どうしたって、私は志摩子さんが自らの苦悩に打ち沈んでいるとは思えなかったのです。
 志摩子さんが見ていたのは、志摩子さんでは無くて、乃梨子ちゃん。
 それは志摩子さんが自分の事から逃げるために乃梨子ちゃんを見ていた訳でも、
 自分の事を投げ打ってでも乃梨子ちゃんをまず救おうと思っていた訳でも無いと思うからです。
 だって、志摩子さんは聖様の妹なのですよ?
 あの時間を、あの人と一緒に過ごしてきた志摩子さんが、そんな事をするはずが無いのです。
 それこそそんな事をしたら、聖様への冒涜になってしまう。
 ですから、志摩子さんは自分から逃げる必要も投げ出す必要も無いくらいに自分を生きていて、
 そしてその上で乃梨子ちゃんを見つめていたのです。
 乃梨子ちゃんには、ちゃんと銀杏の中で銀杏として生きて欲しい。
 でもそれは、銀杏の中で桜として生きる自分の姿を、志摩子さんは否定している訳では無いのです。
 ですから、志摩子さんのその異質さが異質では無いと認められたその「癒し」は、
 乃梨子ちゃんに譲り渡されたのです。
 勿論、それは手つかずのままの譲渡では無いところはポイントです。
 志摩子さんだって、やはりそれなりの安堵は得られたでしょう。
 それはやはり祥子様達の功績です。
 でも。
 その安堵に、やはり志摩子さんはすがることは無いでしょう。
 志摩子さんは、聖様の評したように「生真面目」な人。
 みんなからその異質さを異質では無いものとして受け入れられても、
 自分自身は誰よりも敬虔なクリスチャンであっても、
 けれど自分の家が仏教の寺である、という事実は事実。
 志摩子さんはその事実を否定することは、絶対にしません。
 異質であることは、志摩子さんにとっては絶対で、そして。
 そしてその異質さゆえに発生する誰かに降りかかる迷惑の責を、志摩子さんは絶対に手放しません。
 その異質さが異質では無いとみんなが認め、迷惑はそれは迷惑じゃないんだとみんながいっても、
 それでも志摩子さんはそれをすべて承知の上で、尚その異質を異質として受け止め、
 そしていつでもリリアンの中で異質なものとして生きていくのです。
 志摩子さんはそれらをすべて受け入れているのですから。
 真面目というか頑固というか、と令様の仰られる通り、
 志摩子さんはその自分の姿を聖様と並べてずっと歩かせているのです。
 それが、志摩子さんの幸せへと至る道の歩き方なのですから。
 
 
 
 
 今回のお話は難しくて、そしてなによりも希望に満ちた素晴らしいお話でした。
 新入生をマリみての世界へ迎え入れるに、最適なお話では無かったでしょうか。
 志摩子さんのお話も、そして祐巳さんのお話も従来のマリみてらしさから決して逸脱せず、
 今まで継承してきたものを重ねつつ、
 それでいてしっかりと乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんの存在も受け入れて。
 乃梨子ちゃんは当然の如く、瞳子ちゃんの在り方も面白くなってきました。
 立場としては今回、祥子様、令様と並んで薔薇様の位置にありましたよね。
 今回の余興は祥子様、令様、そして瞳子ちゃんの企画によるものでしたけれど、
 これは先代薔薇様方が為してきた数々のイタズラ(笑)とはかなり趣が異なっていましたよね。
 まさに迫真の演技というのでしょうか。
 もう悪意に満ち満ちた悪役揃いのイジメ劇で、最後にさらりとネタばらし。
 先代薔薇様達の陽気に翻弄されて、後で気付くとからかわれていた事に気付く、
 そういうその真意に気付くのに時間がかかる手品がかった余興とは一線を画した、現薔薇様の余興。
 いいですよね〜令様はともかく(笑)、祥子様があそこまでおやりになるとは思いませんでした〜。
 けれど毎回あんなのやられたら、やられる方は堪りませんよね。 
 祐巳さんがやられたら、トラウマになりそうです(笑)
 瞳子ちゃんは瞳子ちゃんで、本来の目的を忘れて悪役になりきっている、
 というより彼女は本来の目的からしてアヤシイところでしたけれど(笑)、
 それでもちゃんと乃梨子ちゃんに微笑んでネタばらしをできたあたり、
 やっぱりこの人も私は好きだな〜って思いました。
 あとでしっかりと乃梨子ちゃんに叱られてきてください。逆ギレも可(笑)>瞳子ちゃん
 それにしても。
 今回のお話で珍しい事がひとつ。
 それは祐巳さん。
 あれだけ志摩子さんの事を考えていたのに、今回一切志摩子さんと直接関わらなかったのですよ。
 これって、結構珍しいですよね。
 たぶんあの中では一番祐巳さんが志摩子さんを理解していたと思うのですけれど、
 でもあの中で一番直接なにもしなかったのは祐巳さんでした。
 あ、今回由乃さんは蚊帳の外です(笑)
 祐巳さんが解した志摩子さんの笑顔の意味は、半分は間違いだけど、半分は的を得ていたと思います。
 志摩子さんの笑顔は乃梨子ちゃんのためのものだけれど、
 その事で微笑む事ができる志摩子さんの姿そのものが、なによりも志摩子さんを楽にさせたのです。
 奇しくもそれはお姉様と別れた辛さを志摩子さんを得た事で乗り越えた聖様と同じなのです。
 きっと聖様に誰よりも近くに居た祐巳さんだからこそ、
 この志摩子さんの笑顔の意味に、ちょっぴり気づけたのではないかと、私は思っています。
 そして。
 このお話を聖様との関連を無視して理解しようとした私の失敗を気付かせてくれた事を、
 なによりも祐巳さんに感謝致します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 祥子様はどんどん変わり果てていかれますが、応援しています、祐巳さん。 (次回予告にて)
 
 
 
 
 

-- 040820--                    

 

         

                             ■■『母の嘆きの無言歌』■■

     
 
 
 
 
 『私は私の意志で貴方を助けたい。
  忘れないでくれ。必要な時には我を呼べ。
  私は、貴方のそばに居る』
 

                          〜 第十九話のゼフィリスのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 何処までも途切れた暗闇。
 その狭間に揺れる月光の罪深さを恐れるには、あまりにも私は無力だった。
 敷き詰められた岩壁の昏黒に溶け込む意識さえ、私には有り得ない。
 私に私を考える暇など、無い。
 私にはもっともっと大事な大事な物があったのだから。
 私は今もそれを離さない。
 何度も何度も目の前で手放したその瞬間を思い出しながら、
 あの子のぬくもりだけは忘れられない。
 嗚呼・・・・嗚呼・・・・・嗚呼・・・・・・・・。
 
 
 --如何なるときにもあなたを助けられなかった私が此処に--
 --如何なるときにもあなたの側に居てやれなかった私が此処に--
 
 
 王妃の立場を捨て。
 ひとりの女の立場を顧みず。
 そしてエルマイヤというひとりの人間の想いを崖の下に投げ捨てても。
 私には絶対に絶対に離せない物があった。
 私には、母などという言葉は有り得ない。
 母親だからなんて言えないわ。
 私はあの子に名前すら付けてあげられなかった。
 私はあの子に始めの始めから本当になにもしてあげられなかった。
 私はあの子を捨てる事しかできなかった。
 ただただ、あの子の無事を願う事と、
 そしてあの子をあの場で殺さなかった事、本当に私にできたのはそれだけだった。
 あの子が無事に生き延びられる保証など何処にも無く、
 それを保証するはずの私さえ、あの子には与えられなかったのよ。
 私はあの子に与えられるために生まれてきたのよ。
 私はあの子が生まれたときから、ずっとずっとそう思ってきた。
 それならあの子の側に居ない私になんの価値があるというの?
 それでも、私は死のうとは思わなかった。
 私が死に逃げる安息に浸る暇なんて、私には無かったのだから。
 私の想いはすべてあの子の元に。
 私の体の到達できぬあの子との距離を飛び越えて、私の心はすべてあの子の側に。
 あの子を想って想って想い続け、そしてそれがただの無駄な行為であることも知りながら、
 それでも私はひたすらあの子の元への言葉を語り続けた。
 愛してる・・・・愛してる・・・・私は貴方を愛してる・・・!
 その虚しさに胸が張り裂けそうになるたびに、
 私はそれを振り切って、なによりも一番にあの子を想う人間で在り続けた。
 私は・・・・あなたを想わぬ時間など無かったのよ・・・。
 
 
 『名前も付けられなかった。付けたらもう手放せなくなってしまいそうで。
  でも手元に置いておくことは、どうしても出来なくて』
 
 
 降り注ぐ懲罰が牢獄の礎を築いていく。
 あの子の始まりをあの子に与えられなくて、そのときから私の居場所は決まっていた。
 あの子を捨てる事しか出来なかった悲しみが、それが罰となりて空から落ちてくる日を待つことなく、
 私はひたすらあの子への想いを重ねていった。
 あの子に許されない事を考えるたびに気が狂いそうになり、
 そしてそのたびに私はあの子を思い続けた。
 それが悲しい事だなんて思う暇は、私には無かったのよ。
 私なんてどうでもいいの。
 私にはただただ想いたい人が居るのだから。
 私の想像が、あの子になにかを為すなんて思ってない。
 私がただひとり此処で悲しみに埋もれている事が、あの子の助けにならない事も知っている。
 その事実が堪らなく私の体を滅ぼしてしまいそうになるたびに、
 私は何度も何度もあの子のぬくもりを思い出していた。
 私は死にたくなかったんじゃないの。
 私は生きたかったんじゃないの。
 私はあの子をただずっと守り続けたかったの。
 誰でも無い他ならぬ私が、あの子の側に居て。
 誰にも代わり得ぬ私こそがあの子を守るべき一番の張本人なのに。
 私だけが、あの子の側に行けなくて。
 私だけがあの子を手放してしまって。
 私は・・・・私は・・・・私は・・・・私は・・・・・・
 私は・・・・なにもできない私の体を・・・・。
 
 饒舌な囀りの中に満ちる不動。
 駆け回る脳髄の下で蠢く欲望を窘める前に、溶け出せ無い涙が体を満たしていく。
 私はなにをしたいというのでしょう。
 そう問う暇が無いことに疑問を感じる事は無かったわ。
 私はあの子の事を想う事で充分だったのでしょうか。
 絶対にあの子の側にいけない自分をそれでもなんとか励まして、
 心だけでもあの子の元に飛ばす事に努める自分の姿に満足していたのでしょうか。
 それとも私は、あの子に会いたかったのでしょうか。
 会いたい・・・・会いたいのよ・・・・・・私はあの子にどうしても会いたいのよ!
 私は罪深い人間。
 あの子に名前すら与えられず、あの子を守ってやる事もできず、
 そしてあの子の側に居てあげられる事さえ出来なかった私。
 そんな私がどんな顔をしてあの子と会えば良いのかわかるはずも無い。
 責められて当然、許されなくて当然、そして無視されても当然。
 私に母親の資格が無い事は、誰よりもあの子が知っている。
 私もそして知っているわ。
 私がなにもあの子にできなかった事を。
 私が今更あの子に会ったとて、それがあの子の今までに見合う償いになるとは思えない。
 それなのに、私はあの子にどうしても会いたくて。
 私はあの子の事を想う。
 想って想って想い続け、その末にあの子に会いたいと私は願ったの。
 
 
 でもね、私はあの子の側に居なかったの。
 ずっとずっと居てあげられなかったのよ。
 
 
 私があの子に会いたいと私が願うそれは、私に罪の飛礫を投げつけた。
 私は私を責めなければいけないの。
 だってあの子は、私の事を知らないのだもの。
 私がここでこうしている事を、まったく知らないのだもの。
 あの子は私が母親だって事すら、知らないのだもの。
 私が今更あの子に会う事と同じくらいに、あの子に私を責めさせるのも罪なの。
 私は私を疑問に想わなければいけない。
 私はただ、あの子の幸せを念じ続けなければいけない。
 私はあの子の成長した姿を見られる権利なんて無い。
 あの子の幸せな笑顔を見てはいけないのよ。
 私には、あの子に微笑んで貰える訳無いの。
 そしてあの子にそうさせては駄目なのよ。
 だから私は・・・・・・。
 私はあの子のぬくもりだけを胸にずっとずっと生きてきたの。
 私だけがこうして生きていられる事に感謝して。
 私は王妃エルマイヤ。
 そして廃棄王女は私の娘になるはずだった子。
 私は・・・・・・嗚呼・・・・・嗚呼・・・・・・・・・どうしようもなく・・・・哀しいわ・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 完成した牢獄の中に、その最初で最後の出会いは訪れた。
 
 
 
 
 
 
 
 隣の房に入れられた少女は、今、確かにこう言った。
 
 自分は、廃棄王女だと。
 
 言葉を失った・・・、いえ、私はそのとき私自身さえ失った。今度こそ、完全に。
 この壁の向うに、あの子が。
 私の届かぬはずの声に答えるあの子の声が、こんなにも近くに・・・・。
 信じられない・・・・あの子が・・・・あの子が・・・・・此処に!
 私と同じ石壁にぬくもりを染み込ませているあの子が、此処に居るのよ。
 ああ・・・・ああ・・・・・・・なんということ・・・・・・
 ただあの子の幸せを願い、ただ私の罪を責め苛む事で捨て切る事ができたはずなのに、
 その捨てたはずのあの子が、ただ、此処に。
 瞳の中で膨れあがる涙の重みが、私の体を閉じ込める。
 私は・・・嬉しくて・・・嬉しくて・・・・嬉しくて堪らなくて。
 私はその歓びの内に囚われていく体に必死に想いを差し伸べて、
 決して離さぬように懸命に私の体を抱きしめたの。
 離さない・・・・絶対に絶対に離さない・・・。
 あなたと出会えたこの私を、絶対に私は離さない。
 実体の既に無いこの私を、私は決して離さない。
 私とあなたの間には、壁があるわ。
 どうしても絶対に越えられない壁があるわ。
 でもその壁はすべて私のせいによって作られた、私の罪の壁なの。
 だから、私はあなたと壁越しにしか出会えない。
 あなたに見せる顔も無くて、そしてあなたの立派になったであろうその顔を見ることもできない。
 でも・・・それでいいの・・。
 私はそれでもいいの。
 あなたは記憶を失ったと言った。
 当然私の事もわからない。
 でも、それでいいの。
 それで充分だから。それでもいいから。
 私は嬉しくて、ただあなたに出会えて幸せなの。
 だから・・・御免ね・・・・私がどうしても言いたかったことを言わせて。
 私が今この牢獄に居る理由を。
 私を許して、なんて言う前に、それでもあなたは私を許してくれた。
 私は全然私を許す気なんて無いのに、姿の見えないあなたの声は、私を許してくれた。
 この罪の牢獄は、すべて私の物だというのに。
 嗚呼・・・嗚呼・・・・・私の可愛いあなた・・・。
 
 私の拙い瞳の先に咲き誇る絶壁の中で光が瞬いている。
 溢れ出てくるその光を押し戻そうと手を伸ばす私のその冷たい手は、
 それでもその光を掴む事をやめられない。
 この壁を・・・・この罪を・・・・どけたい・・・。
 ああ・・・・・私を・・・・私を助けて・・・・。
 私をあの子に会わせて・・・・・。
 
 
 それでもあの子は、私のその願いを聞き届けてくれた。
 
 
 『手、冷たい』
 『あなたの手は、暖かい・・・・』
 
 懸命に、懸命に伸ばした私のその冷たく罪深い手を握って・・。
 私はやめられなかった。
 私は私を意識する前に、私の罪を意識する前に、私はどうしてもその手を伸ばしたかった。
 罪の中の光に届けと願う私のその手のいやらしさを顧みる前に、
 私の体はどうしようもなくその手を伸ばしていたの。
 嗚呼・・・あの光の元へ・・・・行きたい・・・・。
 そしてその願いは、いとも簡単に叶えられたのよ。
 私の願いが、初めて本当に叶ったの。
 これがあの子のぬくもり。
 あの子が私が居ない中で立派に築き上げてきた、本当のぬくもり。
 私はこのあの子の手の温かみの分だけ、罪を犯してきたの。
 私はこの子のぬくもりを育ててあげる事ができなかったのだから。
 本当に本当に、ごめんなさい・・・・。
 私には、今あなたがどうやって生きてきたのかを聞いてあげられる事しかできない。
 私には、今あなたがどうやって生きてきたのかを聞きたいとしか思えない。
 姿の見えないあなたを、姿を見せられない私は想う事しかできない。
 それでもあなたにあなたの本当のぬくもりを与えられて、それで私は決心した。
 
 
 
 『いつかまた会える日が来るように、ずっと、祈っていたの・・・・』
 
 
 
 私はそう、自分の意志で言うことを、自分で許したわ。
 私はもう、絶対にあなたに会うのだと、そう誓ったわ。
 私の今までの生の意味が、すべてあの子に会うためだったと、どうしようも無くそう言いたくて。
 だってあなたは、あまりにもしっかりと優しく育ってくれたのだもの。
 私は、あなたの母にはなれない。
 でもそれでも、恥を忍んでもあなたに母として会いたいのよ。
 顔の見えない罪に遮られた私とあなたの距離を、私はいつの日にか飛び越えたい。
 あなたが多くの人達に育てられ育ってきた事、その事にひたすら私は感謝する。
 私、見たかったわ・・。
 『あなたがそうやって色んな人と楽しそうに暮らしてるところを。』
 私はそう言えたのよ。
 私だけがそのあなたの暮らしの中に居なかった事を哀しみ罪に感じるよりも前に、
 私はその事実を受け入れ、そして私はそれを心から喜びたい。
 私の願いは、あなたの幸せだけ。
 私が側に居なくても、こんなに幸せな声で自分の事を語れるあなたの存在を、
 私はなによりも嬉しく思うのよ。
 そしてそれが・・・・・・私の・・・・幸せ。
 あなた・・・・
 あなたには・・・この罪の牢獄は合わないわ・・・。
 あなたは・・・・・生きなさい・・・・・。
 
 
 
 ----罪なる部屋のうちに漂う昏黒に、安らぎの白光が灯り始めた
 
 あなたの声が聞けて。
 あなたの赦しが得られて。
 あなたの幸せを知る事ができて。
 私はもう・・・・・・。
 私は・・・・・・・わた・・・し・・・は・・・・・
 あの子の名前を、まだ付けてあげられない。
 そして私には絶対あなたに名前を付けてあげられない。
 だからせめて・・・・私の知らないあなたの幸せの始まりを・・教えて・・。
 
 『パメラ・・さん・・・・・?』
 
 パメラっていうの・・・良い・・名前ね。
 本当に・・・ほんとうに・・・・・良い・・・名前・・・・。
 あなたの名前を・・・私は・・・やっと・・・・・やっと・・・呼べた・・・。
 私が付けてあげられ・・・・なかった・・・・・・その・・名前。
 私は・・・・やっぱり・・・悔しい・・・わ・・・。
 私の・・・・私の・・可愛いこの子に・・・・名前を・・・・・付けられなく・・・・て・・・・。
 でも・・・・みんなに・・・世界中の人々に・・・愛されて・・・欲しいから・・それでも・・・よかったの・・。
 でも・・・・でも・・・本当の・・ほんとうは・・・・
 
 
 この子は・・・・・私の・・・子。
 
 
 だから・・・・だから・・・・・・・・・・だから!
 
 
 
 
 『呼んで欲しいの・・・最後に・・・・・・おかあさん・・・て・・・・・・』
 
 
 私の・・・・最後の・・・・我が儘を・・・・きいて・・・頂戴・・・・。
 おかあさんて・・・・呼んで・・・・・・お願い・・。
 
 
 
 
 青空の遙か彼方で私を呼ぶ声がする。
 
 おかあさんと呼ぶパメラの姿が、其処に。
 おあかさんと呼ばれた私の姿が、此処に。
 
 
 
 
 
 
 
 『ごめんなさい・・・・・・・パメラ・・・・・・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あなたを・・・抱きしめてあげられなくて。
 
 
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 

-- 040818--                    

 

         

                             ■■今日はマドラックスです■■

     
 
 
 
 
 久しぶりにマドラ単独の日記となりました。でもオマケ:
 無敵にだってなれます(挨拶)
 三冊の本を手に入れると扉が開く。
 そして12年前、その扉を開いたのがフライデーマンデー氏。
 彼がなにを求めたのかはよくわかりません。
 本を集めましょう、エリノアさんは言います。
 集めれば、お嬢様の記憶は戻ります。
 けれどきっと扉を開くとお嬢様もフライデーさんみたいになっちゃうんだと思います。
 素質があるってそういう意味だったんですよね? >ナハルさん
 カロッスアさんも赤信号灯ってることですし、
 ここまで来てお嬢様のキャラまで変更されてしまったら、もうMADLAXじゃないやい。
 といってるうちに、もう既にお嬢様は本を集める気満々というか、
 本はもうすぐ集まる、もう其処まで来てるとか言っちゃってます。
 そんな様子を見守るマドラックスさんの耳にリメルダさんの聞えるはずのない声が届きます。
 もはやこのお二人も色々な意味で繋がっているのですね。
 一方的にですけれど。
 素敵よマドラックスとか、マドラックスさんに幻聴させない>リメルダさん
 そして当のご本人は「それでこそあなた。だからこそ私」とかカッコよくキメていらっしゃいます。
 意味はよくわかりませんけれど、それでこそリメルダさんです。
 時間は過ぎ、夕方に。
 ヴァネッサ・エリノア会議。
 真実を知りたいというヴァネッサさんとの共闘をエリノアさんが宣言します。
 それがお嬢様の記憶を取り戻すことにも繋がるからなのですね。
 エリノアさん的には昨日の敵は今日の友、でも明日は敵という感じなのでしょうけれど、
 とりあえず同盟成立。
 今のところ他より一歩出遅れてるおふたりですから、これは非常に理に適っているものでしょう。
 エリノアさんもやる気満々。
 エリノアさん: 「お嬢様のためなら、私は無敵にだってなれます。」
 エリノアさん、ここで無敵宣言。
 あかいひとみはむてきのめいどさんをおうえんしています。
 そしてリメルダさんは水浴びで鋭気と殺意を養い中。
 場面変わって現在トップをひた走る主役ふたりの会話発生。
 ヴァネッサを助けてくれてありがとうというお嬢様に、
 ヴァネッサを助けるために人を殺したというマドラックスさん。
 そんなマドラックスさんをかわいそうな人と涙で以て慰めます。
 人を殺すのに慣れたというマドラックスさんに首を横に振って答えるお嬢様。
 見透かさないでよ、と正直にマドラックスさんもそれには思わず言ってしまいます。
 マーガレットお嬢様: 「私、あなたが好きです。あなたは優しい人だから。」
 マドラックスさん: 「優しい人は人なんか殺さないわ。」
 マーガレットお嬢様: 「優しい人・・・あなたは、優しい人殺し」
 これなんてなかなかの名場面でしたよね。
 でもツッコミどころが無いので却下でしたけど。
 ツッコミどころを探して時は流れ、マドラックスさんはクアンジッタ様を訪ねにいきます。
 しかし部屋に踏みいるといきなりナハルさんがナイフを突きつけます。
 お嬢様の居ないところではかなりの熱血漢なナハルさん。
 なにをしていると問うナハルさんに、クアンジッタ様に会いに来たと告げるマドラックスさん。
 そして、恐い人(リメルダさん)が来るから急いでいる、と。
 ナハルさんにとって恐い人と言えばお嬢様の事ですからさぁ大変。
 はやく決着をつけないとアレが来る!
 マドラックスさんも急いでいますが、ナハルさんはもっと急いでいます。
 と言ってるうちに背後で声がして、思いっきり狼狽えるナハルさん。
 けれど声の主はクアンジッタ様だったので、ほっと一息。
 この際活躍の場がひとつ消えたくらいどうって事無いですよね。
 片手をマドラックスさんの顔にかざすクアンジッタ様はどんどんとマドラックスさんの過去を引き出します。
 かつて行った戦場でのレティシアとの会話を思い出し、
 そして私は真実が知りたいというマドラックスさんに、クアンジッタ様はサースタリを差し出します。
 お嬢様にあげるんじゃ無かったんですか?というツッコミをよそに、
 マドラックスさんはサースタリを手にします。
 ここで場面変わり、山並みを向うに見据える丘の上にカロッスアさんご到着。
 その山の向うでドンパチ光ってるのはリメルダさんの準備運動ですか?
 また場面戻り、マドラックスさんはサースタリを開きます。
 そして時を同じくしてお嬢様もセカンダリを開きます。
 真実の、始まり。
 やはりマドラックスさんは自分の父親を撃ってしまった模様。
 そしてそれをお嬢様が目撃していたようです。
 本を閉じてのマドラックスさんの第一声。
 マドラックス: 「あれが真実だと誰が証明してくれるというの」
 逃げましたね。
 いとも簡単にスルーしてクアンジッタ様に本を返して逃げましたね。
 あー、今の無し無し、無しねと見なかった事にするようです。
 それが真実だと証明するのは自分の中の確信だというナハルさんは、
 その確信がお嬢様への恐怖を増大させている事に気付いていませんけれど、
 マドラックスさんは無意識に気付いているのかも知れません。
 逃げるが勝ちを実践するマドラックスさんの追い風となるかのように、
 都合良くここでリメルダさんの襲撃。
 のろのろと外に出るマドラックスさん的にはでも、やはり一度観てしまったものはなかなか忘れられないモノ。
 罪深い自分の罰して貰うため、無防備にリメルダさんの射程の範囲に姿をさらしてしまいます。
 全然やる気なさげなマドラックスさん。
 心なしか涙まで流してしまいます。
 しかしその涙をどう勘違いして受け取ったのか、
 「私も好きよ」ともう狂いっぱなしのリメルダさんは容赦ありません。
 もはや無抵抗のマドラックスさんを撃つことに戸惑いなんか微塵も無く、発砲。
 もうマドラックスさんならなんでもいいらしいです。
 しかしそこでナハルさんが飛び出しマドラックスさんを救います。
 なぜ救ったのか疑問に思うナハルさんですが、ふと目を転じるとそこにはマーガレットお嬢様が。
 お嬢様: 「あのとき思った・・・・死んじゃえって」
 ナハルさん、とりあえず物陰に身を隠します。
 今私はなにも聞かなかった。そう私は確信している(ナハルさん談)
 と、そこへカロッスアさん登場。
 お嬢様の標的が変わりましたので、ナハルさん的には一安心。
 で、物陰でマドラックスさんとお戯れ開始。
 お互いがそれぞれ自分の存在の肯定の仕方を確認しあいます。
 お嬢様の視線から逃れたナハルさんの余裕の優しさが小憎らしいほどに可愛かったですが、
 けれどお陰でマドラックスさん完全復活。
 さぁお祭り戦闘開始!
 マドラで一番面白いマドラックスvsリメルダの始まり始まり♪
 そして場面変わって、元々出遅れているのにさらに出遅れたオマヌケさんふたり。
 ヴァネッサさん: 「マーガレットはみつかった?」
 エリノアさん: 「それが、どこにも」
 ほんとに良くご主人様を見失うメイドさんです。
 そしてそのご主人様は、
 下剋上を完遂して意気軒昂、というよりちょっとイっちゃってるカロッスアさんとご一緒中。
 開口一番いきなり自分はアンファンだとぶっちゃけてしまうカロッスアさんですが、
 ファースタリと甘言を餌にお嬢様を籠絡。
 カロッスアさん: 「私には君が必要だ」
 お嬢様: 「(はにかみながら)・・・・恐い・・・」
 このバカップル。
 エリノアさんが見たら泣く・・・っていうか飛び膝蹴りが飛びますねカロッスアさんに。
 前回のクアンジッタ様もそうでしたけれど、
 本の所有者はお嬢様に本を与えるのが当たり前のご様子。
 やっぱりお嬢様を扉を開く実験台にしたいんでしょうね、みなさん。
 やっぱりあーはなりたくないですもんね>フライデーさんの変態っぷり
 場面戻って、マドラックスvsリメルダさん。
 リメルダさんの背後を取ったマドラックスさんですが、
 リメルダさんにうまく返され、銃を突きつけ合う均衡状態に。
 そして例の如くお喋り開始。
 長いので割愛しますけれど、リメルダさんカッコイイというところでしょうやっぱり。
 マドラックスさんを殺す事で自分の存在を許せるいうあたりとか。
 といってもあのふたりの会話を見てれば、リメルダさんはマドラックスさんを殺せない事は一目瞭然。
 というか殺してしまえばもう二度とマドラックスさんを殺す事が出来ないのですから、
 リメルダさんは必然的に自分が存在する事が許せなくなることをわかっています。
 だからリメルダさん的にはどういおうとマドラックスさんを殺すよりも、殺そうとする事にこそ意味がある。
 この死闘の決着にでは無く、死闘の連続の中にこそ自分の存在があるんですよね。
 友達になって抱き合えたかもしれないというマドラックスさんに、
 そう思うなら私を殺して、私を殺すために闘ってと言うリメルダさん。
 その瞳は実に悲しそうで、そして楽しそうです。
 で、そんなお楽しみ中(注:リメルダさんビジョン)にヴァネッサさんが乱入。
 愉悦(注:リメルダさんビジョン)の均衡状態を壊したヴァネッサさんの発砲を契機に、
 リメルダさんも発砲。
 あーあ、当たっちゃった。
 大事な大事なマドラックスさんに当たっちゃった。
 
 
 リメルダさん: 「ヴァネッサレネ! なんていう邪魔な女。あの女さえいなければ・・・・っっ!!」
 
 心中、お察し申し上げます。
 
 
 だってどうみたってあれはヴァネッサさんのせいだもの。
 あそこでヴァネッサさんが来なければ、お互いうまく撃ち合いながらも決闘の場から離脱できたのに。
 「私はあの子と踊り続けられたのに・・・!」と悔しがるリメルダさんの言は至極ごもっとも。
 でも、撃ったのはリメルダさんなんですけどね。
 よしよし、リメルダさん泣かないの。
 そして倒れ込むマドラックスさんの元に駆け寄るヴァネッサさんとエリノアさん。
 マドラックスさんは腹部に被弾してかなりの重傷。 
 にも関わらず、エリノアさんはごく普通にお嬢様の行方を真っ先に尋ねます。
 ほっといたらマドラックスさんの襟首掴んでガクガクとイワしそうなので、
 ヴァネッサさんはエリノアさんを先にお嬢様捜索にいかせます。
 そしてお嬢様はクアンジッタ様の部屋で三冊の本を見つめています。
 いますぐ扉に向かいますかと問うクアンジッタ様にお嬢様はヴァネッサさん達を待つと言いますが、
 カロッスアさんは急がせます。
 アンファンの追跡を恐れているというか、もはや無敵のエリノアさんを恐れている故に。
 ナハルさんを留守居に残し、三人は扉の元に向かいます。
 しかしここでナハルさんの直観モード発動。
 妙な胸騒ぎがするそうです。
 まーそれの大半はなにするかわからないお嬢様の存在に因るものだと思いますけれど、
 しかしまだなにかあるとこだわるナハルさん。
 ・・・・。
 『あぁぁ・・・美しい旋律がきこえる・・・・』
 変態、復活。
 
 お嬢様が大変心配です。エリノアさん、急いでー。
 カロッスアさんは、覚悟を決めてください。
 
 
 
 

-- 040817--                    

 

         

                               ■■ひとり感想遊び■■

     
 
 
 
 
 私って結構自分の書く文章好きなんだよね。
 そりゃーあれだよ、ヘタだよ馬鹿みたいに。
 でもそれでも時々「おっ」て自分でも感心するくらいに面白い表現が出来たりとか、
 そういうのをキメてしまったときというのは、これはまたなんとも嬉しい限り。
 ネチネチネチと頭の中で暴走するイメージをしゅぱっと綺麗にまとめられたものが、
 それが意外に見映えだけじゃなくて、そのイメージを表すのに最適な表現だったりするときもアレだし、
 そうなってくると、もう次から次へと止まらないエネルギーというかリビドーというか、
 そういうのが滾々と湧き出てくるんだー。涌くっていうかはみ出しちゃってるというか。
 元々私の書く文章っていうのはあくまでなにか作品をみて、それについての思いの丈をぶちまける、
 そういう私の排泄行為の亜種みたいなものなので、
 そもそも自分の書いた文章に思い入れなんて無いんはずなんだけど、
 でもそれでも段々となにかこう欲が出てきて、ちらほらと手先を弄して言葉をいじってみたりして、
 で、そういうところから始まっていくうちに、いつのまにかその言葉いじりが中身と一緒になってて。
 
 今書いてる文章は、主にマリみてとすてプリについてなんだけど。
 たとえばマリみてなんてすっごく面白くて、そしてそれと同じくらいにそれについての文章を書くのも面白くて。
 今の私はほんとはもう言葉いじりという段階なんか通り抜けちゃって、
 ほとんど素ですらすらと奇形な言葉が連なり出てて、それもほとんど隠喩ばっかりなんだけど、
 それでも私の中ではそれはその隠喩の意味するそのものの形として確かにあって。
 だから別に比喩表現にこだわってる訳でも、それを殊更磨いてカッコつけようとかそんなんじゃなくて、
 もう既にああいう一連の表現が当たり前となっているし、
 そして表現された物が次々にまた私自身に読み込まれて、次の言葉が繋がって出てくる。
 文章の全体のバランスもさりげなく考慮してある構成なんだけれど、
 やっぱり絶対的に基本は行き当たりばったりで、そういう意味で一行づつくらいを目安にして、
 文章をぼんやりと眺めてみると、結構すっとイメージできるものが浮かんできて良い感じがする。
 マリみての第二期の感想文に限定して言えば、
 私は7月25日の「マリア様の遺す言葉は愛せない」が一番うまくいったと思ってる。
 私的に一番書きやすいのが聖様的思考及び聖様的ビジョンな上に、 
 あのときのお話の内容が非常にそそられるものだったので、万々歳。
 あれだけ書きたい事が全部綺麗にすっぱりと書けたのは初めてという快挙。
 うわーすげー紅い瞳ーやったよー、という心持ちを実は今でもちゃっかり持ち続けていて、
 アレに続けというか二番煎じというか、なんだかもうだから感想書くのにワクワクドキドキしっぱなし。
 といっても、そこはやはり私らしく私らしさの維持なんてこれっぽっちも勘定にいれないまま書き続けて、
 毎回それなりにオリジナリティが出た良き感想文を続けて書くことができたように思う。
 8月1日の「私とマリア様の終わりの日」は大幅にスタイルが変わってしまったけれど、
 それもやっぱり結果論な訳で、スタイルの統一なんてはなっから問題じゃなく、
 あれはあれで無茶苦茶書くのに苦労したんだけど、とても「独自」なものが書けたと思うし、
 そしてその独自さなんてのはやっぱりどうでも良く、ただ書きたいモノがちゃんと書けた、というのが大きい。
 私はさぁ、このサイトで書く文章は推敲しないから、書いたら書きっぱなしで、
 それはつまり要するに文章の体裁にこだわらないって事なの。
 ぶっちゃけ、誰かに読んで貰う事を前提になんて全然してないし。
 私はただ言いたい事をわーわーとひとりで楽しんで書き殴ってるだけで、
 まーつまりそれだけのお話なのさ。
 それを見て褒めてくれる人が居ればてへへと照れたりするし、
 私と一緒に楽しめる人なんかが居たら思わず一緒に歓喜の踊りを踊っちゃったりもするんですよー。
 それはま、置いといて。
 
 で、なんのお話だったっけな?
 そうそう。
 私的にお気に入りなのは8月12日から書き始めた「マリア様の消えた楽園」シリーズ(?)なんだよね。
 これは最初に志摩子さん、次に聖様、そしてまた志摩子さんの視点という風に3つに分けて書いたので、
 なかなか普段なら手の届かぬところまで書き込めて、我ながら力作と思ってる。
 しかしそれにしても志摩子さんは難しい。
 なかなかその自分の中に広がっている志摩子さんなるものを、どう言葉で表せばいいのか、
 それがわからなくて、だからすっと普通に言葉が続いて出てこないんですよー。
 聖様だとごく普通によくもまぁこんなに無抵抗にスルスルと出てくるもんだね、と、
 そう自分でも感心してしまうくらいの簡単さなのに、です。
 でも、やっぱりそうやって考えあぐねればあぐねるだけ、それによって引き出されてくるモノもちゃんとあって、
 だから最終的に志摩子さんの文章の帰結は非常に良い感じで成ったし。
 聖様と志摩子さんの対称とかも、ちゃんと書けたし。
 聖様と志摩子さんが同じで違う有様も書けたし、いいんじゃん? って感じでした。
 
 あとはやっぱりすてプリでしょ。
 あれはもうなんというかかんというか、すごくね、勉強になる。
 すてプリのを書くたびに、色々考えが進んでいくというか。
 きっとすてプリについては、全部書き終えたら結構圧巻だと思うし、自分でもよくやるなーって思う。
 毎週自分で文章書いてて、自分が今書いてることってどういう事なんだろう、
 そういう風に思っちゃって、その問いがそのまま文章に向かっちゃう。
 ほとんどすべて登場人物の一人称で綴るすてプリ感想なので、
 そろそろネタと根気も尽きる頃だなぁと実は毎週思っているのですけれど、
 でも実際それは全然無くて、ごくごく当たり前のように真剣にガンガン書き進めちゃう、
 そういう自分でも感心しちゃうところがあって。
 メインキャラのカスール兄姉妹のそれぞれのイメージを、
 それぞれひとつづつの「思想」として完結させたいという欲望も勿論あるんですけれど、
 でもやっぱりそこが笑えるところなんですけれど、
 それはやっぱり結果的にそうなるかもしれないことであって、
 書いてる当の私は毎週見て感じたことをその場限りの想いに乗せて書いていくだけなのですよ。
 それが全体としてこういうことである、というのはそれはもう全部書き終わってから偶然言えるだけであって、
 やっぱり私はこのすてプリの感想は大成功だと思う。うん、まだ終わってないけど。
 だって私は一応すてプリは既に一度最後まで見てるし、
 だからどうしたってそういう体系的な感想文になりそうな気配でハラハラしてたんですけど、
 って別に体系的にすっきり綺麗にまとめる文章群が嫌って訳じゃないけど、
 私が今やりたいことでは無いからねぇ。
 一話一話を順に見ていって、キャラひとりが順番に考えを重ねていって、
 そうして少しづつその考えや想いの全体像が見えてきて。
 つかまぁ、だから「シャノン像」や「パシフィカ像」なんて、全然無くって当たり前なんだよなぁ、
 とか、そういう風な事をぼんやり思いながら、
 ぐちぐちとこの文章を書いてたりすんだよね。
 
 
 なんでこんな文章書いたのかわかるのは私だけで充分なので、気にしないこと。
 ・・・・。
 わかってるよな、私・・・(汗)
 
 
 ちなみにマドラ感想は、私がチャットで話題について行くためにあるというのがその存在理由です。
 
 
 
 とはいえなにげなくもさらりと先週分のマドラの感想を心優しく書いてみるオマケ:
 懐かしい(挨拶)
 カロッスアさんすっとばす、の巻。
 部屋でひとり銃の手入れをしているヴァネッサさんの元に、
 マドラックスさんに連れられたマーガレットお嬢様とエリノアさんのご登場。
 お嬢様は大胆にもヴァネッサさんに走り寄り抱きつきます。
 エリノアさんも笑顔でヴァネッサさんの無事を祝いますけれど、目が笑ってません。
 いきなり流血沙汰は勘弁ですよ、エリノアさん。
 そしてマドラックスさんはマドラックスさんで、ひとりおいてけぼり。
 仕方ないので、お嬢様との出会いを思い返しています。
 マーガレットバートンと名乗ったお嬢様を見つめて、「あなたは誰?」と問い返すマドラックスさん。
 なんかもう徹底的に人の話を聞く気が無いようです。
 おまけに「私は誰?」とかいう始末で、すっかり現実逃避中のマドラックスさん。
 大丈夫ですか? byお嬢様
 そんなマドラックスさんをスルーして、子猫のようにヴァネッサさんにまとわりついてるお嬢様を横目にしつつ、
 エリノアさんはヴァネッサさんと作戦会議。
 これから、どうするのか。
 ヴァネッサさんは戦うと言います。真実を知るために、生きるために。
 自分の近くに居るとお嬢様達も危険になるといい、これからは会わない方がよいと言うヴァネッサさんに、
 お嬢様は私も居ると言います。
 それをたしなめようとするヴァネッサさんに対して、お嬢様がここで爆弾発言。 
 お嬢様: 「私、もう危険だよ」
 それはお嬢様が危険な目にあっているのか、それともお嬢様自身が危険な存在なのか。
 そのあたり一同の間でうすうす暗黙の了解となっているところかと思います。
 そして話はさりげなく進み、お嬢様の本の話題へ。
 自然注目のあつまるお嬢様はしかし、「これは駄目。なにかが消えそうで」といいます。
 その言葉に反応するマドラックスさんですが、
 たぶんこれを聞けばもっと過激に反応する人をひとり私は知っています。
 お嬢様は、殺る気です。
 なんだかんだで、とりあえずみんなで戦場へレッツゴー。
 勿論お嬢様も同行。
 きっと恐ろしい事が起こります。
 ほら、早速乗った車が爆撃されましたよ。
 あらあら、みなさん車から降りた直後に吹っ飛ばされちゃって。
 お嬢様なんて早速走馬燈見ています。
 懐かしいってなんやねーん。
 と、そんなことを言ってるうちに、リメルダさんも戦場の到着。
 いよいよ修羅場の予感。
 そして下剋上の予感。
 火! 火つけて笑ってるよ、カロッスアさん!
 (CM)
 森の中を往く御一行。
 あたりの様子を窺いながら慎重に進むマドラックスさん。
 久しぶりに真剣です。
 が。
 お嬢様があっさり小枝を踏んでマドラックスさんの邪魔をします。
 マドラックス: 「このままだと、すぐに相手に見つかる。」
 マドラックスさんが初めてまともに見えます。
 完全無欠のお荷物をヴァネッサさんに押し付けて、マドラックスさんは走ります。
 ていうか、ヴァネッサさんに守らせてる時点でもうなんかどうでも良くなってきてるような気もします。
 また死ねない理由が出来そうっていうか、あんなのと一緒に死にたくなかったのが本音ですか。
 そしていつのまにかまた背後をとられるマドラックスさん。
 でもマドラックスさん的には後ろを取られてからが強いので全然平気。
 ちょちょいのちょいで敵を壊滅させますが、けれどどうも敵の数が少ない。
 これで終わり?といぶかしむマドラックスさん。
 リメルダさん: 「邪魔なんかさせない。あの子は・・私の物・・・・」
 やはり貴女でしたか。
 とにかくもうむしろ殺せるならなんでもありっていうところが本音っぽいところがステキです、お姉様。
 と、そちらに気を取られてると、ヴァネッサさん達ピンチ。
 私守ってみせる、と粋がるヴァネッサさんですけれど、動かない的に一発当てたくらいで随分な自信です。
 しかし不思議なのはエリノアさん。
 お嬢様を抱きしめてるだけで、一切戦闘に参加しません。
 武闘派メイドらしからぬご様子ですけれど、さすがにエリノアさんでも実際の戦闘は無理だったのかも。
 でも本当のところは、
 むしろどさくさに紛れてお嬢様を抱きしめる快感に酔っていただけでしょう。
 闘いなんて汗臭いヴァネッサさんにやらせとけばいいんです(エリノアさん風に)
 そんなこんなで必死に応戦するヴァネッサさんですけれど、
 やっぱり師匠のマドラックスさんと同じ背後を取られてしまいます。
 弾は全然当たらないのにそういうところは良く学んでいるヴァネッサさん。
 そして自分の背後は見ないのに他人の背後は良く見てるマドラックスさん。
 
 マドラックス: 「うしろーー!」
 
 ここでドリフですか。
 
 そりゃーお嬢様だって思わず立ち上がりますよ。
 
 しかしお嬢様のボケならともかくツッコミでは事態を打開する事はできず大ピンチ。
 と次の一瞬見覚えのあるナイフが敵傭兵に突き刺さります。
 ナハルさん、再登場。
 お嬢様を前にして堂々の出で立ち。
 目は怖くて閉じたままでの登場でしたけれど。
 マドラックスさんに「襲ったり助けたり(逃げたり)、わからない人」と言われたりもしますが、
 なんとか目をこじあけてお喋り開始。
 そして別場面同時進行。
 フライデーさんとカロッスアさん、そしてクアンジッタ様に対峙するマドラックス御一行。
 カロッスアさんはフライデーさんにファースタリを要求し、
 マーガレットお嬢様は本についての説明をクアンジッタ様に求めます。
 色々と謎が明かされていきます。
 要するにファースタリ、セカンダリ、サースタリの三冊の本を手に入れれば、
 プリミティブなものを手に入れられるのだそうです。
 記憶とか戻っちゃうそうです。
 クアンジッタ様は、お嬢様にファースタリを手に入れれば自分の持ってるサースタリを与え、
 あなた達を扉へと案内すると言いますけれど、嘘臭い。
 クアンジッタ様がお嬢様のセカンダリかすめて終わりのような気がするんですけれど、
 相変わらずお嬢様は籠絡されやすいのであっさりと了承。
 平和的解決です。詐欺だけど。
 で。
 一方では、発砲事件発生。
 ていうか。
 カロッスアさんが下剋上完遂。
 フライデーさんの安否が気になり・・・・・ませんね。
 仮面が落ちたって変態は変態です(横暴)
 むしろ気になるのはカロッスアさん。
 いくらなんでも「私の可愛い天使」は無いと思う。
 記憶が戻ることで父の生死及びそれに自分が関与したかもしれない事実を恐れるマドラックスさんは、
 マーガレットお嬢様を行かせる事を拒否し叫びますが、黙っとき。
 これからが面白いところじゃないの。
 天使ですよ、天使。
 
 カロッスアさんに幸あれ。
 
 
 

-- 040815--                    

 

         

                               ■■マリア様の桜の下■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 本日は、マリア様がみてる〜春〜第七話「チェリーブロッサム」についてお話させて頂きたく思います。
 
 今回のお話は一体どういうものであったかというと、
 それは勿論新入生のお二人、二条乃梨子ちゃんと松平瞳子ちゃんのお話、
 それと大学生になった聖様のお話、
 そして志摩子さんについてのお話でした。
 とはいえ、やはり一番注目したいのは新入生お二人についてです。
 これから私もお付き合いさせて頂く方々ですから、此処は丹念にどういう方なのかを知りたいと思う願望、
 それはどうしても一番に置いておきたい事ですね。
 と言っても、それほど事細かに言葉で語り尽くせるはずも無いので、
 まだ印象的なものにおいてしか、お話する事はできませんけれど。
 
 それで、私のおふたりの第一印象ですけれど。
 乃梨子さんは、もうこう言ってしまっても良いと思うのですけれど、まさに白薔薇的ですね。
 自分だけが受け入れられるはずの無いところに平然としている絶対的な違和感、
 そしてそれに対する不安感から独りだけで生きていこうとする、そういうところがですね。
 聖様も志摩子さんも形は違えども、そういう風に言い表わせるところから始まっていました。
 ただ。
 乃梨子ちゃんは、このふたりとはちょっと明らかに違う部分もありました。
 なんというのでしょうか。
 その不安感の要因が、非常に即物的・具体的というのでしょうか。
 本当は仏像が好きでそもそもリリアンに入るはずの無い自分、
 その「事実」が乃梨子ちゃんには目の前にずっと広がっていて、
 ですから受験の日に大雪が降らなければ本命の学校の試験を受けられたのにとまだ言っているし、
 また、他の生徒達と自分は違う、という意識はすべてその事に依拠しているように感じられました。
 そしてそれは自分だけが他とは違う異質な物で、だから自分は此処にいてはいけない存在なんだ、
 と、そういう罪悪感のような不安に囚われているのでは無く、
 むしろその自分の異質さを大雪が降った事のせいにしていて、
 ですから自分自身はそれに劣等感を感じるどころか、むしろ独り居丈高でいられる。
 構内ですれ違う他の生徒達を振り返って、そしてふんとばかりに鼻を鳴らすように踵を返すあの表情。
 それは不遜とも大胆不敵とも言えるほどの気高さがあるのですけれど、
 でもやはりその気高さを保っていられる大元が、あの日雪さえ降らなければ、という、
 そういう幼い言い訳によって形成されている事で、どうしても小賢しさが垣間見えてきます。
 きっと乃梨子さんの「問題」はそれだけで終われるはずの物では無いのに、
 当の本人はそれがすべての原因だと思い込んで、そればかり駄々っ子のように言い募り、
 そして独り風を切って歩いている、それが私の乃梨子ちゃんの第一印象でした。
 聖様や志摩子さんにも、それぞれ目に見える、具体的な問題はありました。
 例えば聖様なら栞さんの事、志摩子さんは今回の話で示唆されていたように、
 寺院の家の娘なのにカトリックの学校に来ている事、というように。
 でも私には、それらの問題はふたりにとってはそれだけであって、それ以外では無かったと思っています。
 たぶんおふたりはそれぞれそれらの問題を通して、まったく別の大問題を解こうとしていたと、
 そう思っているのです。
 そしてその大問題は一生をかけて解いていく物だと。
 違う言い方をすれば。
 桜の木の下に佇む志摩子さんの姿を見たとき、
 乃梨子ちゃんはきっと自分の思っていた言い訳事なんて忘れていたと思います。
 そしてたぶん後にただ自分の考えていたことを恥じた事でしょう。
 志摩子さんの姿を見つけたときの乃梨子ちゃんの見開かれたままの瞳になにが映っていたでしょうか。
 そして乃梨子ちゃんが忘れてしまったのは、あのとき言葉だけだったでしょうか。
 ふたりで桜の下でクスクスと笑い合い、そして桜を見上げたその瞬間から、
 乃梨子ちゃんのそのあまりにも「簡単」な問題が解決されるのは、もはや時間の問題となったのです。
 聖様や志摩子さんならば、決してそのような事はありません。
 聖様を桜の木の下に初めて見つけたとき逃げ出した志摩子さんの姿が、その良い象徴です。
 そして。
 乃梨子ちゃんの第一印象より導き出せる私の感情は、とても良いものでした。
 この乃梨子ちゃんのタイプは、今までの山百合会の面々には全く無かったタイプというのもありますけれど
 (敢えて近いタイプを挙げれば、令様がたぶんそうだと思いますけれど違う部分の方が多いです)、
 それ以上にその乃梨子ちゃんのタイプ自身に興味が沸いたからです。
 あの日雪さえ降らなければ、という言い訳にすがっていた自分が変わっていく過程をどう感じていくのか、
 一体志摩子さんの中にどういう自分を乃梨子ちゃんは見つけていくのか。
 志摩子さんに抱いた想いを乃梨子ちゃん自身がどう解釈していくのか。
 そしてただふたりで其処に立っている事が乃梨子ちゃんが出来た瞬間をどう捉えるのか、
 私には興味が尽きないところです。
 まだまだあれだけのものしか見れなかった訳ですから、
 これからどんどんと乃梨子ちゃん研究を進めていきたいと思っています。
 
 一方、瞳子ちゃんですけれど。
 こちらはわかりやすい、と言えばわかりやすいけれど、
 絶対わかりやすいなんていってられない程わかりにくいものを備えているのをしっかりと感じてしまいました。
 なにしろ、薔薇の館での振る舞いと乃梨子ちゃんとの接し方があまりにも違うのですから。
 それぞれの態度の意味とそれらの関連を考えていく形になるでしょう、
 という事くらいしか今はわからないです、というのが正直なところです。
 と言いつつも。
 印象、という意味でならば少々感じたものはありました。
 殊に乃梨子ちゃんと話をしているときの瞳子ちゃん。
 というより、あのふたりが会話している姿を見ているのが、私はとても楽しかったです。
 瞳子ちゃんの知ったかぶりで色々リリアンの行事について語るその素振りは、
 それはある意味嫌味ったらしい印象を与えますけれど、
 でも私はそうは感じなく、あのときの瞳子ちゃんの姿には実に瞳子ちゃんの「歓び」が純粋に出ていて、
 とても心地良いものがありました。
 自分がこれから過ごす場所を徹底的に全部愉しもうと頑張って、目一杯に幸せを甘受しようとする。
 彼女の嬉しそうに語るその横顔は、やっぱり見ていてとても楽しかったです。
 其処に私は嫌味は感じませんでした。
 薔薇の館で祐巳さんをやり込めた意図的な嫌味は、其処にはありませんでした。
 乃梨子ちゃんにはむしろ自分の好きな場所を見つけて3年間ずっと其処で過ごして楽しむ、
 そういう印象を最初に受けましたけれど、
 瞳子ちゃんは、3年間を使って楽しめるだけ楽しめる場所を作る、そういう印象を強く受けます。
 私はこういう方も好きです。
 それはある意味で蓉子様的なお節介気質を無意識に表に出しているものでもあり、
 そしてそれが無意識であるからこそ嫌味も其処に発生しない瞳子ちゃんの優しさでもあるのですから。
 彼女の行動が、「結果的」に嫌味になったり親切になったりもするのだと、私は思います。
 
 そして。
 あのシーンでの乃梨子ちゃんも良かったです。
 あのときの乃梨子ちゃんて、今回のお話の冒頭での乃梨子ちゃんとかなり変わっています。
 冒頭のままの乃梨子ちゃんならば、きっと瞳子ちゃんの話は煩わしいものとしてしか聞けなかったはず。
 でもあのとき乃梨子ちゃんは、ちゃんと瞳子ちゃんの話を聞いていましたし、その話に感心し、
 自分がなにもリリアンの事を知らない事に落ち込む事も無く、
 そして瞳子ちゃんに対して私はリリアンの話なんて興味無いのに聞いてやっていると思う事も無く、
 ただちゃんと話を聞いていました。
 それはやっぱり、「あの人」こと、志摩子さんに出会ったからなのでしょう。
 自分のつまらない言い訳でなにもかもをつまらなくしてしまう事の虚しさを一瞬に理解させられ、
 そしてもうその後には自分の中には劣等感も優越感も残ってはいない。
 ここでひとつ、前言を撤回させて頂きます。
 私はやっぱり、乃梨子ちゃんは最初からわかっていたのだと思います。
 自分がしていたこと、つまりつまらない言い訳で学園生活を棒に振ろうとしていたことを。
 でも自分がそうであることを認めることだけはしたくなくて、いつまでも意地になっていたのだと。
 そして志摩子さんに出会って、乃梨子ちゃんはやっと素直になることを自分に許したのではないか。
 そうなれた乃梨子ちゃんには今、瞳子ちゃんと異質なはずの自分が同じ場所に立っている事、
 それになんの違和感も感じる事は無かったから、だからちゃんと普通に相対する事ができたのです。
 虚しい劣等感も、つまらない優越感も感じる事の無い瞳子ちゃんへの眼差し。
 このふたりは、まったく違う道を歩きながら、「対等」なのでは無いでしょうか。
 私は、このおふたりは良いお友達になれるのではと思います。
 そしてそうなって欲しいと思っています。
 このふたりは、この場面だけを取ってみれば、非常に均衡が取れた関係をとっています。
 さしずめ瞳子ちゃんと乃梨子ちゃんは、無邪気な蓉子様と素直な聖様という感じですよね(笑)
 
 
 さてと。
 次は志摩子さんについて少しだけお話させて頂きましょう。
 本当は今まで書いてきた数々の感想の流れとしては、
 今回の感想に於いても志摩子さんを重視して然るべきところだったのですけれど、
 逆にそうだからこそ影薄くなってしまいかねない新入生に華を持たせてあげようと思い、
 このような次第となりました。
 それで、ですけれど。
 志摩子さんについては、次回以降から本腰を入れて書くべきだと思っています。
 今回の志摩子さんについては色々と私なりに思うところもあるのですけれど、
 けれどそれはどう書こうとしても今までの延長を書くことでしか書けないと思うのです。
 私はこの今の状態の志摩子さんを書くのには、
 どうしても志摩子さんがお寺の娘であるのにリリアンに来ているという事、
 それを中心とする私の見方を作ってからにしたいのです。
 なぜって、せっかく似たような問題を抱えた乃梨子ちゃんが居るのですから。
 ふたり同じ観点に並べて別々に答えを描き出していこうとする作業にこそ、
 今は私は魅力を感じています。
 ですので、桜舞う日の光の中で佇む志摩子さんを、
 聖様との関係という観点から書くことは容易ですけれど、
 今回はその手法は不採択と、そうご理解頂ければ嬉しいです。
 
 最後に。
 聖様が大学生におなりになられました。
 髪、さらに短かくなさったのですね。
 一瞬、令様が飛び級なさったのかと思いました。
 おまけに今は佐藤さんと呼ばれるのが聖様のマイブーム(死語)だとか。
 もう聖様とお呼びしてはいけないのですか!?(涙)
 今回のお話では、新入生ふたりの新鮮っぷりを目の当たりにして、
 既に世代の移り変わりを肌で感じてしまい、最近の若いもんはと腰を叩きながらも、
 我が事のように感じられるほどにマリみてにハマっている私ですけれど、
 そんな私と同世代(?)の聖様の方に同意を求めて振り返ってみたら、
 年柄にも無く若作りしてハシャぐその姿を目の当たりにしてしまったような、
 そんな感じがしています、今。
 聖様なんて、頭丸めちゃえばいいのよ(マテ)
 きっと聖様はそれでも笑って許してくださると信じていますから。
 目だけは笑ってくれないでしょうけれど。
 
 それでは、みなさま、ごきげんよう。
 そして新入生の方々、宜しくお願い致します。
 
 
 
 
 P.S:
 今回の次回予告。
 もう制作スタッフさん達は壊れたと思って良いのでしょうか?
 ステキすぎ。
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 
 

-- 040814--                    

 

         

                           ■■マリア様の消えた楽園 3 ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 ---人間の消えた楽園 〜その彼方へ〜
 
 
 透き通ったままの瞳が垂れ込める桜を掻き分けて行くその姿。
 どこまでも突き抜けていく想いの集積が解き放たれずにいるのに、
 それなのに決して消え去る事の無いその美しい眼差し。
 私はその姿を見てから、どうしても身動きが出来なくなりました。
 まるでその姿に突き動かされるようにして勝手に歩き始めようとするこの体を押し留めるように、
 私の瞳の向かう先には、必ずあの方はいらっしゃるようになったのです。
 この人を通り抜けてでしか前に進めないと、あたかもそう思っているかのように。
 
 
 
 『ロサギガンティアの印象はそのたびに違っていた。
  神秘的だったり恐かったり優しかったり。
  それでも其処に彼女の姿があるだけでほっとできた
  独りじゃないんだ、そういう安心感を与えてくれる存在だった』
 
 
 
 私が立ち戻ろうとする綺麗な楽園が、あの方の彼方へと霞んでいくのを私は感じました。
 薔薇の館で得た私の居場所に溶け込むことで、私の楽園の存在の美しさを無視できても、
 それはやっぱりどうしても私には見過ごせない甘えで。
 どんなに人の中で生きていようと、どうしても独りで生きていく事を常に想定する。
 もし、今この周りの優しい人達が居なくなったとしたら、私はちゃんと独りでは生きていけない、
 そう何度でも考え直して、そうしてたとえそれが嫌でも綺麗に潔癖に孤独に生きたいと願ってしまう。
 私はいつまで経っても、その願いを越えることが出来ないのです。
 でも、あの方は。ロサギガンティアは。
 そんな私の足踏みを嘲笑うかのように、ただどんどんと私の前を通過していくのです。
 目の前を横切ってはまた引き返して今度は私から離れていったり、
 そうかと思うといつのまにか私の側にぴったり近寄ってきたり。
 私はロサギガンティアの千差万別の姿を見続けているうちに、
 私が何度でも戻ってしまう楽園への道筋を忘れてしまっていたのです。
 私の前には、ロサギガンティアの駆け回るとてもせわしなくも色とりどりの世界が広がっていて。
 そして私は自分が今、どうしようもなくその世界に居ることを感じてしまったのです。
 何処までも広がる世界。
 そして私は見つけました。
 其処にマリア様がいらっしゃるのを。
 そして。
 其処にマリア様が居ない楽園があるのを。
 
 空を見上げると其処には空があって。
 道を歩けば其処には道があって。
 そして私が見つめれば其処には確かに人間が居て。
 でも、私には今までずっとマリア様の消えた楽園を見つけることだけはできませんでした。
 私が造り上げようとした真っ白でなにも無い世界の絵図面に最も欠けていたものが、
 それがなんであるのか、私は長いことわかりませんでした。
 誰も居ない世界を造る事はできても、マリア様だけは必ず其処にいらっしゃったのです。
 私はどうしても、その真っ白なマリア様の存在を消す事だけはできなかったのです。
 私の思い通りの色に塗り替えられるその偶像のいやらしさを肌で感じていながら、
 でもそれが本当は私が何処に存在していようとも、其処に「幸せ」を見つけようとしたことは無い、
 それを示す証拠であるという事には気づけなかった。
 そう、私はどのような世界と自分の中で生きようとも、幸せになりたいとは思っていなかったのです。
 私はマリア様からなにかを与えられるとは、全然思っていなかったのかもしれません。
 私にとってはただ私が在るべき場所としての世界の選択権を、それだけをマリア様に与えられたのだと、
 たぶんずっとずっとそう思っていたのかもしれません。
 そして私は私の生きる世界を造り選んだ時点で、あとはどうでも良かったのかもしれません。
 だから。
 私が立ち止まっていたのは、ほんとうはそれ以上進む気が最初から無かったからなのかもしれません。
 すべてはマリア様の思し召すまま。
 そういうマリア様の色彩で染まるスタートラインの上で、私はずっと佇んでいたのです。
 本当は、私はすべてマリア様のせいにしたかったのです。
 
 
 私は、とぼとぼと私の出発点の上を歩いていました。
 青い日の光が私を迎えに来ても、私は微笑んでそれを断り続けていました。
 だから・・・・。
 だから私はどうしようもなくわかっているのです。
 今だけは、今だけはほんとうに独りで生きなくては、と。
 誰かの誘いを受け入れられない以上、誰かの甘やかしを拒否する以上、
 私はこの私の生真面目さを押し通したまま生きなければいけないんです。
 私は、ロサギガンティアの姿を見つめるたびに、その事を強く強く噛みしめます。
 人間の消えた楽園から助け出されたのに、その助け出された先で溺れているあの方。
 それなのにその誰かによって助けられたことの是非を問う事無く、
 なんとかして泳いでいこうとしているロサギガンティア。
 その冷たく強い眼差しを見るたびに、私の体は凍り付き、
 そしてどこまでも溶けて飛び出して行きたい衝動に駆られてしまうのです。
 嗚呼・・・此処に確かにマリア様がいらっしゃいます・・。
 そしてマリア様の消えた楽園が今、はっきりと見えます。
 与えられたものを甘受してそれでも独りで生きようとし、
 それでも誰かに見守られる事を拒否せず、
 にも関わらず自分の居場所から飛び出す事をやめないロサギガンティアの居る世界。
 真っ白なマリア様の上に、徹底的に塗り潰された姿さえ恥じないマリア様が舞い降りてくる。
 私は・・・・・・もう・・・歩き出さない訳にはいきません。
 私は幸せを求めずには、もういられません。
 世界と同じ色に塗り込められた人間という名のマリア様の影を追いかけたくて、
 そして一緒に歩きたくて。
 私によって自由に塗り替えられても良い、私に束縛されたその偶像だからこそ、
 私はマリア様を失い、そしてマリア様に見守っていて頂けるのです。
 
 私は、マリア様の手助けを拒否します。
 私は、マリア様をもう見つめません。
 ただただ、私が歩いている姿を見つめているマリア様を感じながら、
 私はあの方を見つめながら生きていきます。
 その先に、私はきっと幸せがあるのだと思っています。
 そして私が歩き出した理由は、その幸福を求めての事だと、そう信じています。
 そして私の目の前には、懸命に前へと進もうとしているロサギガンティアと、
 それを見守るマリア様の消えた楽園があります。
 
 
 その楽園を、一緒に歩いてくれる人が、ひとり、此処に居ます。
 
 
 私を束縛しない。
 私を自由にしてくれる。
 ロサギガンティアは、私のすべてを知ってたとえ私から離れていっても、
 それでも良いと私が初めて思えた人。
 そして。
 
 『私達は出会ってしまったのだ。
  長い旅の途中で同じ木陰を選んで休んだ者達のように。
  互いに自分の事を語り合わなくても一緒にいられる。
  いずれまた離ればなれに旅立つことを知っていながら、
  束の間の魂の安息を感じられる相手と。
  なにかを与えるためでも無く、なにかを求めるためでも無く、ただ其処に存在してくれればいい。
  ・・・そんな人と、私は出会えた』
 
 
 
 『あなたの妹にしてください。』
 
 
 
 私達は、一緒に歩けるんです。
 私は、お姉様と別々の場所で歩いたとしても、それでも私達が此処に居ることを感じられる。
 私は私の見えないマリア様と、お姉様はお姉様の見えないマリア様と共に、
 このマリア様だけがいらっしゃる世界の中で、ずっとずっと歩いていけるのです。
 片手でマリア様と、そしてもう片方の手でお姉様と確かに繋がって。
 私はもしかしたらいつかお姉様と繋ぐ手だけしか見なくなるかもしれない。
 ずっとその片手だけにすがってこの楽園の中で立ち止まってしまうかもしれない。
 でも。
 私はそのお姉様と繋ぐ片手にはロザリオが巻かれている事を、絶対に忘れません。
 私はこの片手を絶対に離さない。
 マリア様に見守れたこのお姉様と繋ぐ片手こそが、私の居場所だと思うから。
 何時だって何処でだってそして何だって、マリア様は見ていてくださいます。
 だからもう、私はこの片手を繋ぐことを恐れない。
 お姉様とふたり、幸せを目指すことを恐れない。
 この手がいつか離れてしまう事を恐れる事を、もう無視したりしない。
 不真面目なお姉様に優しさがあるのなら、生真面目な私にも幸せを目指すことだってできる。
 だから私は、なにかを恐れ立ち止まる事を忌避したりしない。
 私はいつでも立ち止まる。安心して立ち止まる。
 生真面目に考えあぐねて立ち止まり、一生懸命に自分なりに綺麗な世界を夢見る事もやめません。
 なぜなら、お姉様が必ず私を連れてそこから駆け出してくれるのですから。
 だから私は、自分の生真面目さを大事にしたいんです。
 お姉様が引っ張ってくださるまで、私は何度でも自分独りで生きてみます。
 お姉様が待っていてくれるはずの木陰を目指して、私は独り歩いてみます。
 本当はお姉様が迎えに来てくれているのだとしても、それでも尚私から迎えにいっているのだと、
 それでも絶対に私はそう言います。
 きっと、お姉様も自分こそが私を迎えに来ていると思っていらっしゃるのでしょうから。
 私もだから、負けてはいられないんです。
 片手を引っ張られてお姉様についていく私のその追随が、
 お姉様を幸せへと連れ出している事になるように。
 私とお姉様は同じで、そして違うんです。
 お姉様は不真面目で、私は生真面目。
 そしてその差異を互いに幸せの標とするからこそ、私とお姉様は同じこの楽園に生きていけるのです。
 私とお姉様は、マリア様に見守られた片手で繋がっているのですから。
 
 片手だけにすべてを詰め込んで、私は永遠に途切れない幸せを求めて生きていく。
 私の居場所なんて、もう必要無い。
 私が何処に居るかなんて、どうでもいいんです。
 お姉様が私のすべてになっても、一向に構わないのです。
 なぜならば。
 
 
 
 片手だけ、つないでいるのだから。
  
 
 
 ◆◆◆◆
 
 ごきげんよう、紅い瞳です。
 以上で、マリア様がみてる〜春〜第六話「片手だけつないで」の感想は終わりです。
 全三部作の感想となりまして、ようやくそれを終わらせる事ができてほっとしている状態です。
 そしてそのほっと力の抜けていく体の奥底には、静かに落ち着いていく幸福感があります。
 このお話についての感想をこれだけ書けたことが私は嬉しくて堪りません。
 私の今書けるだけのものをすべて使い切って書きました。
 そうまでしても書き切れなかったものは、勿論あります。
 けれど、今はそれで充分。
 なぜなら、いつか書き切れるようになるために頑張れる、
 そう思える自分を眺められる幸せに、今の私が酔っているからです。
 そして。
 私には絶対にそれを書き切れる事は無いという永遠を感じられる、
 そういうどこまでも不真面目で生真面目な貪欲な姿勢が確かにあることを感じられるから、
 私はそれが私の今のすべてであると思えるのですし、
 そしてその「今」の連続がすべてなのだと思っています。
 そしてそのちっぽけなすべてを背負って生きていく事に幸せを感じられる、
 だから私はそれで良いのだと思えるのです。
 いえ、それがたぶん私のしたい事なんだと思います。
 志摩子さんと聖様、そのふたりのそれぞれの姿がその私のしたいことの姿であることを、
 私は秘かに、そして確かに信じています。
 
 最後に、この志摩子さんのセリフを示して、この感想を終わらせて頂きます。
 
 
 『また桜の季節が来る。出会いと別れの繰り返し。今年もまた、春が来る。』
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 
 

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                           ■■マリア様の消えた楽園 2 ■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 濡れていない地面が無い。
 辺り一面水浸しで、どんどんと水嵩は増していく。
 黙ってそれを眺めている内に、周囲はすべて海と化した。
 潤いに満ち満ちた、幸せの海が私を取り囲んでいた。
 『そう・・・大した事じゃない・・・』
 ただ溺れていけば、いいのだから。
 
 春の露払いのはずの桜は未だ其処に居座り、空への道筋を閉ざしている。
 後からついてくるはずの優しい春は、堰き止められたままの勢いでその奔流を形作る。
 其の形相は、あくまで寛容。
 ひたすら笑顔で待たされている私に向けて、春の流れは押し寄せる。
 それは、あっという間の出来事だったのかもしれない。
 気付けば私は、桜の木にしがみついていた。
 貴女達が私にくださった幸せは、私には少し重かった。
 おいでおいでと深海の淵へと引き込もうとする新緑達の指先をほどく前に、
 私は何度もこの身を波間に投じようと試み、そして何度も此処に逃げ帰った。
 御免なさい・・・お姉様・・・私・・・まだ・・・。
 
 
 
 
 まるで幼子のように、桜の木にへばりつく。
 一度は失ったその木肌を、今は唯一の拠り所として生きねばならない。
 胸中に積まれたままのロザリオを、はやく捨ててしまいたい。
 でも、私にはそれを捨てる事など出来ないのは分かり切っていること。
 ロサギガンティア。
 私の名は既にその称号と共にある。
 そしてその称号を私に付着させている限り、私の元からロザリオが消える事は無い。
 そして、お姉様は言った。
 すべては、あなたの未来の妹のためにと。
 私は勿論反発した。
 私に妹なんて要らない。
 私はお姉様に恩返ししたかったのに、なんで妹なんかに・・・。
 それでもその私の反発は、結局お姉様に伝わる事は無かった。
 いや、私が伝える事ができなかったのだ。
 私も、お姉様の言葉が正しい事を知っていたのだから。
 
 鬱々と水の中に沈みながら、浮かび上がる気泡に幸福を重ねる。。
 夢じゃない。
 でも、悪夢なのかもしれない。
 私は与えられた祝福を受け入れる事ができたのに、すっかりとそれに飲み込まれてしまうだなんて。
 私は、その幸福の海の中での泳ぎ方を知らなかった。
 私はそのたびに桜の木にすがりつき、そしてそのたびに閉ざされているはずの栞の元にまで逃げ帰る。
 
 藤堂志摩子。
 
 彼女が栞に見えたなんて、ほんとうにどうかしてる。
 でも私にはそうにしか見えない私を肯定する事しかできなかったのだ。
 そして私は桜の木の上のお姉様の元に逃げ帰るたびに言い訳をする。
 志摩子は栞じゃないんです。私はちゃんと幸せにやっていけてます。
 ほんとうに、大した事じゃないんです。
 私はその私の姿がお姉様によってその正体を見破られている事を知っている。
 私の言い訳なんて全然通じない事をわかった上で、それでも桜にしがみつく。
 大丈夫。大丈夫よ。
 私は懸命に幸せの海に飛び込み、そして幸福達を蹴散らしながらまた桜の元に戻ってくる。
 どうしても息が続かないときは、栞の事を思い浮かべるんだ。
 栞。栞。栞。
 助けてよ、栞。
 
 冷徹に固まったロザリオで我が身を切り刻む。
 私は、志摩子を見ない。
 誰が栞に助けを求めるものか。
 栞なんて、もう此処には居ない。
 私のつまらない反抗が、それが私の死に至る道筋を切り開く。
 嗚呼・・・・溺れていく・・・。
 栞の事が忘れられないから、敢えて栞を否定する。
 まるで子供じゃないか。
 そんなに私はこの幸せの海で泳ぎたいのか。
 私はもう、充分なはずだ。
 蓉子、もうやめて。
 これ以上栞を私に突きつけるのはやめて。
 『栞とできなかったスールごっこを、あの子としろっていうの?』
 わかってる。
 志摩子が栞の代わりなんかじゃないって事も。
 私はもう栞だけと繋がっている訳じゃないんだから。
 でも、蓉子は知っている。
 私がそれでも栞と繋がっている手だけを意識している事を。
 私はその事実を否定するためだけに、蓉子達と繋ぐ手をわざとらしく強く握ろうとしている事を。
 志摩子は栞じゃない。
 でもそう言われるたびに、私には志摩子が栞にしか見えなくなってしまう。
 蓉子、もうやめて。
 これ以上栞を私に突きつけるのはやめて。
 栞の名が出てくればくるほど、私はあなた達の手を握り潰さなくてはならなくなってしまうのよ。
 蓉子、わかってるでしょ?
 私も本当はわかってる。
 私がどうしても幸せになりたいということを。
 
 
 漆黒に咲き誇る黒椿のような顔。
 静かに私の周りを回転しながら、幸せの海の上に私を引きずり出す。
 怖い、女。
 誰も居ない部屋の中に、いったいいくつの道筋を切り開いているのだろうか。
 泳ぎ方を知っている、女。
 さざめく陽光のさらに上にまで到達する手をこまめに使い、
 いとも簡単に私を再び幸せの海に連れだした。
 志摩子が私に似ている?
 ということは、蓉子は私の弱点を知っているのね。
 私が潤いの無い荒野での走り方しか知らないという事を。
 そしてそれを知っていながら、蓉子は何度も何度も私を恐ろしい幸福の海に突き落としているんだ。
 優しい、女。
 馬鹿・・・・。
 わかってるくせに・・。
 私はあなたのその怖いくらいのお節介が大嫌いで、そしてなによりも愛してるのよ。
 そういう自分が嫌いだなんて言われたら、一体私は。
 私はどうやってあなたに感謝すればいいっていうのよ!
 
 黒い髪の切っ先が陽光よりも先に私の元に到達する。
 ひび割れた荒野の復活さえ願う私の瞳に、いつだってその黒い光は振り返ってくる。
 蓉子は言った。
 『でも私はあなたのそんな弱いところが好きよ。』
 そう蓉子が言うのならば、尚一層私は努力しなくてはならない。
 蓉子に、聖の弱いところが大嫌い、と言わせるための努力を。
 私が、蓉子の強いところが好きよ、と言えるための努力を。
 そして。
 私も私の弱いところが大嫌い、とそれでも言えるようになるために力を尽さなくては。
 今思えば、それがこの広大で美しい海での泳ぎ方だったのかもしれない。
 蓉子。
 あなた、やっぱり馬鹿だよ・・・。
 
 私はまだずっと、逃げ回っているだけだというのに・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 人間が目の前に居た。
 その瞳の色が私と同じであることが、私にはわかった。
 『似てるどころじゃない。志摩子は私そのものだ』
 すべてを遮る淫靡で懐かしい硝子細工の窓に囲まれても、
 私はなぜかもう何処にも隠れる事ができなかった。
 
 
 ・
 ・
 ・
 ・
 
 栞、わかったよ。
 私はまだ少し溺れてなければいけないんだ。
 溺れながら、そこから泳ぎ方を学んでいくしか無いんだ。
 海に飛び込むのは、死ぬためだけじゃない。
 私と栞は、ふたつでひとつだった。
 栞は私の中に居て、私は栞の中に居た。
 だから栞は私と一緒に死んでくれる人だった。
 私は、栞を絶対に忘れないと云うことを、今改めて誓うよ。
 あなたの浮かぶ空を無視するなんてもう出来ない。
 きっとあの青空も、お姉様達は支えてくださっていると思うから。
 私はお姉様に、だからもう言い訳はしない。
 栞の事、お願いします、お姉様。
 そしてね、栞。
 最初栞にそっくりだと思った志摩子は、私そのものだった。
 だから私は、志摩子とひとつにならないで済む。
 同じものをひとつに重ねたところで、なにも変わりはしないのだから。
 私はもう私で、志摩子はもう志摩子なんだから。
 もうお互い、ひとりでひとつなんだから。
 蓉子の指摘が、そういう解釈を私に与えてくれたよ。
 そして志摩子は私とまったく同じだから、志摩子もまた、この生暖かい幸福の海で溺れてる。
 私と、同じなんだよ。
 だから私は、志摩子の溺れる姿を見守りながら、一緒に溺れる事ができるんだ。
 志摩子もきっと、私が無様に溺れているのを眺めながら、自分もなんとか泳ごうとするだろう。
 お互いがひとつに重なり合ってる暇なんて、無いんだ。
 私達は、それぞれ自分の戦場を持っている。
 私達はそれぞれ自分の力で泳がなければ、海の底に沈んでしまうんだ。
 だから私は、志摩子を見つめる。
 志摩子を見つめられるってことは、やっぱり志摩子は私とひとつじゃないって事なんだよ。
 私と志摩子は、しっかり離れてる。離れてるんだ。
 お互いが張り詰めた波間に浮かびながら、寄せる高波にその姿を互いに見失っても、
 それでも全然平気。
 
 だって私達は、間違いなく此処に居るんだから。
 
 でもね、志摩子。
 私達はこの暖かい海の中でも、やっぱり凍えるんだよ。
 どんなに優しい眼差しで取り囲まれていても、ぶくぶくと音を立てて平気で沈んでいっちゃうんだよ。
 私はね、昔あなたと同じように考えてた。
 綺麗な世界に生きなくちゃって。
 そのために失われるものがたとえたくさんあっても、それでも良いと。
 でもね、志摩子。
 私はやっぱり、目の前で溺れている者を助けない訳にはいかなかったんだ。
 それが例え私の世界を汚す事になろうとも、私はやっぱり無視したくなかったから。
 私がゴロンタに餌をやるのは、やっぱり放っておけないから。
 そしてやっぱりね。
 私は餌をやるだけの存在、それ以上であってはいけないんだと思う。
 ゴロンタの面倒をすべて見るのでも無く、ゴロンタを無視して通り過ぎるのでも無く。
 ゴロンタが困っている。だから私はちょっとだけ助けてあげた。
 あとはだから、ゴロンタ次第なんだよ。
 与えられた幸せをどう受け止めていくのか、ゴロンタはそれを考えなくちゃいけない。
 私のぬくもりを忘れられなくたって、でもそれでもひとりで生きられる術はちゃんとある。
 それなのに、相手を甘やかす事で相手がそれに溺れてしまう事を恐れて甘やかせない、
 そんなのって、なんだか悲しくないかな?
 確かに残酷な事かもしれない。
 でも、やっぱり必ず誰しもがその道を通り抜けなければいけないような気がする。
 相手が嫌がったって何度でも幸せを押し付けて、自立を促そうとする友達が居るのよ。
 それなのにそれになかなかうまく応えられなくって、自分の世界に引き籠もっちゃう奴も居るのよ。
 私はね、志摩子。
 ゴロンタにはひとりでちゃんと生きていけるようになって貰いたい。
 でもそのためには、やっぱりひとりで生きさせてるだけじゃ駄目なんだと思う。
 全部なにもかも自分一人でやって生きていく、本当にそれで良いとは私はどうしても思えない。
 私はね、志摩子。
 ゴロンタはきっとこれからもずっとリリアンで生きてくと思う。
 みんなにおやつを貰って、長い夏休みや冬休みにはじっと独りで生きる事に耐え、
 休みが明ければまたみんなに可愛がって貰い、そしてみんなが卒業したら・・・・。
 
 志摩子、春はまた来るんだよ。
 
 私と志摩子とゴロンタは、同じ。
 お姉様と蓉子が私にしてくれた事に、私はどうしても応えたい。
 そしていつか、私も桜の木の上で笑えるような人間になりたい。
 そのためには、この広い広い水浸しの海を泳ぎ切らなきゃいけない。
 だから私は、まだ此処に居る。
 だから、志摩子。
 私達は、泳ぐんだ。
 宙ぶらりんのままだって、一向に構わない。
 ロザリオなんて飾りだよ。
 でもね。
 私はこのロザリオを捨てられない。
 このロザリオが、私と桜を繋ぐものだから。
 私は、ロサギガンティア。
 私は白薔薇様と呼ばれる存在。
 私はいずれその存在に追いつかなくちゃいけない。
 私の遙か先を往く私の名前を追いかけて、私はなんとか泳いでいきたい。
 だからこのロザリオは私にとってはもはや標であって、呪縛では無いんだ。
 そうだ、志摩子。
 呪縛は解くことは出来ないけど、標はいつでも変えられるんだよ!
 だからあなたに、このロザリオをあげる。
 
 
 
 『期限付きだけど、私の妹になりなさい』
 
 
 
 私はあなたを束縛しない。
 私はあなたとひとつにはならない。
 私はあなたを決して見捨てはしない。
 私も薔薇様っていうのがなんなのかは、まだよくわからない。
 だから、志摩子。
 適当に泳いでロサギガンティアを探しに行こうよ。
 私は私のペースで、あなたはあなたのペースで。
 そして目指す先は、このロザリオが示してくれる。
 
 
 お姉様・・・私、お姉様への恩返しができそうです。
 栞・・・私、やっぱり逃げ回ってばかりだけれど、逃げ回りながらもなんとか前に進んでみるよ。
 
 蓉子・・・・これからも、色々宜しくね。
 
 
 
 
 
 『しょうがない、じゃ、行くか。志摩子、ダッシュ!』
 
 
 

                              ・・・以下、第 三部に続く

 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 
 

-- 040812--                    

 

         

                            ■■マリア様の消えた楽園■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 ---桜が虚しく祝杯を挙げてゐた
 
 
 私が歩くこの道の上で咲く笑顔の意味が、私にはわかりません。
 わからなさすぎて、それでいてわかる振りだけは絶対に出来なくて。
 白い空の蔓延するその雲の中に、マリア様が確かにいらっしゃる事を、私は信じていましたから。
 マリア様だけは私をお守りくださると、ずっとずっと信じて、
 だから、私は。
 この桜の祝福を胸にして歩くことだけに専念できるのでした。
 この世界が全部桜だったら良いのに、とはでも、私は絶対思いません。
 その代わり、私は綺麗な世界が欲しかったのです。
 ただただ、それを念じて・・・。
 
 少しでも綺麗になればと、それがマリア様への奉仕となることも丁寧に計算して、
 そうして引かれた私の願いの絵図面はしかし、どうしても描き終えることはできませんでした。
 なにが足りないのか、私にはわかっていました。
 それは、私が綺麗にしなければ、そう思い消してしまった物達の中にあるのです。
 汚く醜い物は消さなければいけない、とそうずっと考えてきて、
 それでもその考えを実践し続ける事が、私自身になにももたらさない事に気付いていたから、
 だから私は、ただ歩いていたのです。
 なにも考えずに居る事を恐れるかのように、なにかを考えようとしながら。
 そうして決して当たり前以外の事を考える事はできずに、私はただ歩いていたのです。
 私にはそれがどういうことなのかは、まったくわかりませんでした。
 私の見上げる空はいつも、寒々しく白いままだったのです。
 
 
 
 
 なんで私がそう思うようになったのか、それはもう覚えていないと思います。
 でも少なくとも、誰かを犠牲にして成り立つ存在が許せないという想いは確かにあって。
 私はいつのまにか私の中にあったその想いを元に考えを発展させることで、
 そうやってずっと生きてきました。
 許せない物を許せないと言い、その許せない物への攻撃の手を緩めること、
 それが他ならぬ私の存在の否定に繋がるのだと、ずっとそう思ってきたのです。
 だって、あんなにひどいことを許せる訳無いじゃないですか。
 私はそのひどさがどれほどの物であるのかを徹底的に調べ尽し、
 そしてそれを改正するにはどうしたら良いのかを必死に考え、
 ただただその考えを元に行動し、そしてさらにその考えを発展継承させていきました。
 そういう意味で、私はこの世界を綺麗に浄化したかったのですし、
 それが目的でもあったのです。
 そしてその浄化された世界がどうなるのかをはっきりと思い描ける段になっても、
 私はその世界の姿を肯定することに、なんの異議もありませんでした。
 空が真っ白になっても、私が真っ白になっても、それでも、いい。
 だって、あんなにひどいことを許せる訳無いじゃないですか。
 
 私は正義感、というものとはそれでも無縁でした。
 私以外の人達も私と同じように行動し、私と同じように考え、同じような世界を目指すべき、
 そう考える事はありませんでした。
 私はあくまで私だけがそうするべきだと思っていたのです。
 それは私以外の人達を、私が綺麗にすべき世界の一部として捉えていたからと、
 そう言えないことも無いでしょうけれど、でもそれはちょっと違うのです。
 私にとって、他の人達はあくまで他の人達なんです。
 みんなそれぞれに世界を持っているんです。
 ですから、私の世界の中には最初から他の人達は居ないんです。
 そうであるから、私はただずっとマリア様を見上げ続ける事が出来たのでしょう。
 私はだから、綺麗な世界を造りたいだなんて思えたのでしょう。
 そうして、私は自ら進んで自分の体を白く塗り潰していった・・・。
 きっと、無表情な癖に嬉々としながら・・・・・。
 
 
 --逃げる体に桜の嘲笑が執拗に追いすがる
 
 
 私は最初から知っていたのかもしれません。
 でも知っている事に気付く事だけはしてはいけないと、たぶんそう考えていたと思います。
 私が本当にしたいと思っている事が何処にあるのかを、
 それを考える事からすべてを始めること、それがマリア様を冒涜する事になると考えていましたから。
 私は本当は、なにをしたかったというのでしょう。
 なにを求めて、こうして生きているというのでしょう。
 綺麗な世界を細々と独り造っていくことの果てにあるのが、
 それが醜い私自身をも消し去る物であることを知っている癖に、
 それでいて心の中でたぶんそのときが来てもきっと自分だけは消えないだろう、
 そういう予感を消すことはできなくて。
 私は自分の考えに相応しい世界を造りたくて、その世界には相応しくない私の存在を消したくて、
 それなのに、私はどうしてもその世界のために自分を消すことだけはできなくて。
 それが私の大切なマリア様への冒涜だと気付くのに、だいぶ時間がかかりました。
 自分だけが助かる世界のおぞましさを、決して私のマリア様は許しませんし、私も許しません。
 そして。
 そのとき私は同じくらい遅れて、大事な大事な事に気付いた、いえ、気付いてしまったのです。
  私は、なんのために生きているのでしょうか、と。
 私が消えなければならない世界を、そもそもマリア様が私にお与えになることなどあるでしょうか。
 私は、世界を綺麗にすることになんて、そもそも生き甲斐を感じていません。
 思えば、私はなぜか私の中に居座った居心地の悪い真っ白な想いを元に、
 ただただ考えを紡ぎ、その中に身を置き歩いていただけなのです。
 それがマリア様の思し召すところのものであるなんて、本当は後から勝手に私が言っていただけですし、
 逆に言うと、少なくとも原初に於いて其処にマリア様の御姿が無かったことは確かなのです。
 私は、本当に独りだったのです。
 そしてそれを知っていながらも、それでも別に良いと私は無意識にずっと思っていたのです。
 これを冒涜と言わずしてなんというのでしょう。
 マリア様の愛する私が居ない世界。
 それはつまり、マリア様の居ない世界。
 私はそれに、気付いたのです。
 
 
 
 
 それからの私は、なにも変わっていないようで、なにもかもが変わった道を歩き始めました。
 私の目の前には次々に人影が現われ、
 どんどんと私の造ってきた白く爛れた綺麗な世界を踏み荒らしていきました。
 たくさんのマリア様達が入れ替わり立ち替わり、私の世界に色彩を加えていきました。
 私の清冽で、そしてなによりも淫靡な楽園はその姿を内から蝕まれ、
 そして遂には最初からなにも無かったかのような音を立てて、そうして崩れ落ちていったのです。
 残ったのはただ、私が紡いできた虚しい白色に落ちぶれた未完成の世界の絵図面だけ。
 私は私が今まで築き上げてきた私の論理が体から剥がれていくのを、嬉しく感じていました。
 たぶん、私にとっての生き甲斐という物が生まれたのは、このときが初めてだったのかもしれません。
 私はもう、ただ馬鹿みたいになって自分の事を懸命に考え想い始めました。
 マリア様の見つめてくださる私とは、一体どういうものなのでしょう。
 私は見上げるマリア様の瞳の中に、私の姿を探し続けました。
 其処には、どうしようも無く当然な私の姿が在り続けていました。
 私はそれを嬉しく想いました。
 私が私の事を考える事が、こんなに楽しいだなんて知りませんでしたから。
 私はそうして刻々と変化していく私のありのままの姿の連続を、ずっと探し続けました。
 探せば必ず見つかり、そして見つけたものは必ず自分の胸に染み込んでいって。
 私はこうしている自分が、きっと大好きになったのだと思います。
 そして改めて、マリア様について考え始める事になったのです。
 
 自分すら消さなければいけない自分の造る世界の中で自分を消さなかったのならば、
 当然こうして浮き上がってきた当たり前の世界の中から、自分の姿を消し去る事もしはしない。
 自分自身のためと考えていけば、そういう答えに至らなければ間違っている事になってしまいます。
 だから私はその答えを肯定したのです。
 私は私のために生きるのだ、と。
 でもそれは、往々にして自分勝手な響きを以て私の心に届いてしまう結論でもあるんです。
 私はこの世界から消えなくても良い、それをなんの理屈も無く肯定してしまうのは、
 どうしても私には納得がいかない事なんです。
 ですから、私はこう考えたのです。
 
 『こんな私でも、必要としてくれる場所があるのなら』
 
 私は、マリア様にすべてお任せしたのです。
 私が必要とされるのなら、それが私の存在理由になるのです。
 だって、私が此処に居る事を求めてくれているのですから。
 それは私が存在する事を許されている、そういう事なのでしょう。
 私は私の意志で、私の存在することの是非を他の方々に委ねたのです。
 それはとても卑怯で、そしてなによりも私には正しい事のように思われたのです。
 もし誰にも必要とされなくても、私は生きています。
 どうしてって、マリア様はいつでも何処でも私を必要としてくださっているのですから。
 だから私は絶対にこの世界から消えなくても良いのです。
 それが私が考えた私の理屈です。
 大事な大事な、私の理屈。
 私が、考えたのです。
 ですから、私はこの私の考えに生き甲斐を感じているのです。
 その考えに立ち戻るたびに、私は強く一歩を踏み出せるのです。
 そして改めて、マリア様へ感謝する事ができるのです。
 すべてを私の胸の中に染み込ませて頂いて、ほんとうにほんとうに有り難う御座います。
 私は私のしたいことをするために、今、こうして自分の足で立っていられるようになりました。
 マリア様から頂いた小さなマリア様達のお陰で、私は生きていられます。
 私にとって、やっぱりまだ桜降る道はあります。
 その道をただ歩くときだけが特別に私が世界の中で消え去らないでいて良いと、
 そう思ってしまうこともまだあります。
 どうしたって、マリア様の「せい」にして私が此処に居る事を否定したくなるときもあります。
 私は自分に厳しくする事が、それ自体が甘えだという事を知りました。
 甘えられない事が甘えなのだと、私は桜の降り落ちずに続く止まらない道の上で知りました。
 私はマリア様に甘えさせて頂いています。
 けれど、絶対にマリア様の「せい」にしてなにかをしたりはしません。
 全部マリア様に投げ出すことで、それがすべて自分の胸に吸い込まれていく事を私は感じました。
 マリア様に甘える事で自分の足で歩けなくなるなら、それは悲しい事。
 でも、だからと言ってそれを恐れ甘える事から逃げるのは、私はしたく無いのです。
 マリア様のぬくもりが忘れられなくて、マリア様の祝福を拒否するのなら、
 もう其処に私が居て良い理由なんて無いし、そして私もその理由を造ろうとはしません。
 きっと、私が一番したかったのは、そう自分に言い聞かせる事だったのだと思います。
 なによりも、私が清冽で厳しい白い世界の絵図面を完成させる事にまだこだわっているのですから。
 だから・・・・
 だから私は・・・・どうしても・・・・辛くて・・・
 
 
 --真っ白な嘲笑がマリア様の色彩を決定する
 
 
 黄緑色に漏れる安らぎの手前で立ち竦むこの体を動かすために、
 一体どれだけの物を得てきたのだろうか。
 それと同じく、綴られる言葉が消し去っていくはずの醜い物の重みは一体どれだけ増していっただろうか。
 なにかが、決定的に違っている気がする。
 けれど、違っている事を無視して駆け抜けなければいけないような気もする。
 
 私は。
 まだ。
 走れない。
 
 
 『そのときの私は彼女の事をなにも知らなかった。薔薇様と呼ばれる立場にある人だという事でさえ・・・』
 
 
 
 

                              ・・・以下、第 二部に続く

 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 
 

-- 040806--                    

 

         

                              ■■『路地裏の哀歌』■■

     
 
 
 
 
 『きっと、何処かに行こうとしてたんだろうな。
  こいつが行こうとしていたのが何処であれ、もう其処には行く必要が無いことを・・・、
  行きたくても行けないことを誰かが教えてやらなきゃ、こいつは休む事も出来ないんだ。』
 

                          〜 第十八話のシャノンのセリフより〜

 
 
 
 
 ---- 『此処にはもう、居られない』 ----
 
 そういう事になるな。
 そして俺にはそれに対する用意が、心の中に既に在った。
 自分でも知らない内に醸成されていたそれは、今この瞬間が俺の動くべき瞬間だと囁いている。
 俺はそれを耐え難い耳鳴りとして無視しようとしても、どうしても疼くこの体を止めることはできなかった。
 行くしかない、そしてやっぱり出ていくしかない、此処から。
 
 ずっと、ずっと走り回っていた。
 同じ所をぐるぐると。
 それでいて自分が走っているなんて全然思わずに、ただマヌケに寝転んでいるだけだと思った。
 だが、俺の体はそれでも正直過ぎるほどに正直で、
 どんなに休んでいても細かく刻み続けるこの鼓動の音を、俺に伝える事をやめようとはしなかった。
 走っているんだ、俺は。
 俺はそれを知らないと言い、そして半ばムキになってこの川のほとりで生きていた。
 俺は此処に居る。此処でずっと休んで居る。
 それが幸福かどうかとは全然関係無く、ただそれだけで良いような気がしてな。
 だからそんな俺には走る必要などどこにも無く、むしろそれは邪魔なだけの事だった。
 俺は走ることをやめた。
 そう俺は決め、そしてそのままなにもしないまま自分の体をこの部屋に投げ出した。
 どうにでもなれ、だなんて投げやりな気分に到達するには、俺には俗っ気が足り無さ過ぎた。
 俺は最初からどうでもいいんだから。
 今更したり顔でなにかを諦めるなんて、そんなアホな事は俺にはしたくてもできないし、したくも無い。
 だから俺はなにもしてない。してないはずなんだ。
 そう。
 走るのをやめる、という事も俺は全然しようとしなかったのだ。
 
 馬鹿野郎。
 自信なんてあるかってんだ。
 でも自信があるから走るってのは、もっとずっとおかしい事なんだぜ。
 俺が此処から出ていくのに、自信なんていらない。
 所詮何処に向かう事も、それはすべて逃げる事に変わりは無い。
 行き場所なんて何処にも無い。休んでいられる場所なんて無い。
 自信も目的も無い逃避行以外、俺が為す事のできるものなんぞある訳が無い。
 戦って戦って、それでずっと走り回って得られるものが、それが幸せだなんて嘘でも言わねぇ。
 なにも卑下したりはしない。ただ俺は自信を持たないだけだ。
 俺がパメラと共に逃げるのに、自信なんていらねぇし、信頼も信用も無用だ。
 そういうのが必要なのは、騎士様だけだ。
 俺は絶対にパメラを守り切れるなんて言わない。
 俺が絶対にパメラを守り切ると思っているのを知っていいのは、俺だけだから。
 そして俺は、そんな俺が嫌いだし最高の馬鹿だと思う。
 そういう俺に、俺は無茶苦茶腹が立つ。
 だが、なぜ腹が立つのかはわからない。わかりたくもない。
 わかっていない事にしておきたいから、それだけはだが、言える。
 ほんとうはなんにもできない自分を見るのが、一番嫌だったんだ。
 
 俺は行き当たりばったりでいい。
 必要な物は後で手に入れればいいし、知らなければならなかった事も、後で気付けばいい。
 別に無我夢中に突っ走るって訳じゃ無い。
 そもそも俺は俺が走ってることを認めて無いんだから。
 なにもかもどうでもいいから、だから何も気にする必要は無い。
 なんで俺がパメラと一緒に此処から出ていこうとするのかなんて、俺は別に知りたくはないし、
 知らなくても俺の体はもう此処から逃げ出せと言っている。
 別にパメラに固執してる訳じゃない。
 でもパメラにこだわることを否定するつもりも無い。
 
 だから、笑った。
 
 笑いながら走る俺を冷静に見つめている俺は、何処にも居なかった。
 きっと俺のこの姿を見たら、見て見ぬフリをする俺は、何処にも。
 俺はただ自分の前に広がる道を見つめていた。
 その道の 行き着く先が必ずまた此処であることを、俺はこの時知っていただろうか。
 どこまでも続くと信じられる道が、俺にこの時見えていたとは、やっぱりどうしても思えない。
 だからたぶん、俺は本当は自分が走ってるこの道なんか見ちゃいなかったんだ。
 きっと隣で笑ってるパメラの事さえ見てなかったはずだ。
 そうだ。
 俺はこのとき自分が走っている事、その事しか見ていなかった。
 自分が確かにこの場所から逃げ出そうとしている瞬間を、何度も目に焼き付けようと、それだけだった。
 そして俺がなにを見ているか、もうこの時の俺はわかっていなかったと思う。
 俺は一体、俺のなにを見ていたというのだろう。
 
 『逃げるって言ったって、何処まで逃げれば安全なの? 安全な所なんてあるの?』
 パメラはそう言った。
 俺はそれには答えられない。
 そして逃げ切った先にある場所がその場所で、俺は何処までも逃げ切った事は無いし、
 だから俺には答えられない。
 今居る此処が幸せな場所じゃない事は、パメラが良く教えてくれた。
 パメラは、何処かにきっとある俺の幸せとやらを俺に見せてくれたに過ぎない。
 そして俺は、その礼にパメラに幸せを返してやることもできない。
 だから、逃げようと、言った。
 お前を連れて此処から逃げ出して、その安全で幸せな場所に行ってみようと。
 俺がどこまでも行ってもきっとまた此処に戻ってくるこの道から逃げ出さない限り、
 俺は結局のところ、どうでもよいとしかなにに対しても思えない。
 そして。
 俺にはやはり、パメラが良く見えない。
 俺は一体誰のために戦ってるのか、わからない。
 俺はただ走ってる途中で戦いに巻き込まれたに過ぎない。
 なぜ、俺は馬を下りた。
 なぜ、俺はあの騎士見習いにパメラを託した。
 わからないが・・・・だが、今の俺はそれを説明できてしまうのだ・・。
 
 パメラなんてどうでもいい。
 俺なんかもっとどうでもいい。
 どうでもよくないものなんて、無い。
 冷徹になにをすれば良いのかを考え、ひたすらそれを実行するだけしかできないこの俺には、
 パメラの事も俺の事も、ただそれら自身を達成するための標的でしかない。
 だから俺は。
 パメラを守る男じゃない。
 俺はパメラを逃がす男。
 俺は俺を生きる男じゃない。
 俺は俺を逃がす男。
 いつだって、俺は主体にはなりえない。
 パメラを守る男のために、俺はパメラと男を逃がす。
 そして。
 何処か安全で幸せな場所で、もう一人の俺が生きられるように、俺は俺を逃がす。
 だから・・・。
 俺はパシフィカと守れもしない約束をした。
 なにがかすり傷ひとつしないで必ず無事に帰ってくる、だ。
 こんなに矢を突き立てられて、これじゃ死んじまうじゃねぇか。
 俺には最初から約束を守れる術なんて持ってやしない。
 俺の身の安全なんて、一番俺の手の届かないところにあるんだから。
 俺はただパメラの安全を考えるだけで、パメラを其処まで逃がす事だけしか考えられないのに。
 それなのに俺は・・・・俺は・・・。
 
 ちくしょう・・・・・ちくしょう・・・・・・ちくしょう・・・・
 
 なんで・・あいつの事ばかり・・・思い出すんだ・・・
 なんで・・今更になって・・・・この道は何処までも続いているんだ・・・・
 くそ・・・くそ・・・・・・なんで俺の体は走らない・・・・
 走りたかったのじゃなかったのか・・・・
 ちくしょう・・・・俺はまだ此処で走らなきゃいけないのか・・・・・
 ちくしょう・・・ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・
 
 パメラ・・・・・すまん・・・・お前と一緒に・・・逃げられなくて・・・・
 俺は・・最後まで・・・此処で・・・・独りで・・・・・走って・・・・・・
 
 ・・・・・・・・・・・・ちくしょう・・・・・・ ・ ・ ・ ・
 
 
 ◆◆
 
 雨の中を歩く俺を見るのが怖いくらいに清々しい。
 夢中でかけずり回る俺の愚かな瞳が男の亡骸を捉えることがこんなに悲しいだなんてな。
 誰か止めてくれだなんて絶対言えないよな。
 あいつを守り切るまであいつから目を逸らす事なんて出来ないよな。
 そしてすべてが終わった後に待っている静寂が決して自分を許しはしないことを良く知っているよな。
 自分だけ勝手に粋がって無闇に突っ込んでそれが一体誰のためになるっていうんだ。
 どんなに命を賭けて走ってもそれだけじゃなにも意味が無いということをそれを承知で走り続ける、
 それが虚しいだなんて一瞬でも思わずにはいられない自分が許せないんだよな。
 そして絶対にその一瞬が途切れる事は無く故に俺達を包む雨滴は決して居場所を与えてはくれない。
 
 いや、あるんだろうな、此処に。
 この、冷たい冷たい雨の中に。
 
 俺は俺を止めない。
 だから俺は止まれない。
 
 俺が止まるのは、俺が終わるときだけ。
 
 
 なんで俺は止まることを考えねばならないのか、それが一番どうでも良いことだと、
 そう言い切るために、俺はずっとこの雨の中でしゃがみこんでいた。
 
 
 
 

-- 040804--                    

 

         

                              ■■滴り落ちる直滑降■■

     
 
 
 
 
 こんばんわ、紅い瞳です。
 マリみてはやはり素晴らしいですね。
 熱い夏は良いですね。
 今言いたいのはそれくらいです。
 ていうか日記めんどくせー。
 
 ・・・・。
 最近更新ペースがあまりにもきっちり一定なので、少し飽きちゃったのだと思います。
 きっとほんとはそんなことどうでも良くてはやくゲームがやりたいだけなのかもしれません。
 あーウイイレやりたーい。
 ウイイレ言えば先日のサッカーの試合でセルジオ越後が、
 日本チームが中国の人達からのブーイングを受けていることを指して、
 このブーイングを日本の糧としてどんどん頑張ったらいいし、もっとブーイングがあればいいね、
 みたいなことをのほほんと言っていたのですけれど、決勝の相手は中国です。
 さーて、いつまでそんなことを言っていられるかな☆
 日本チームが生きて帰って来られる事を祈っています。正直負けてきてもいいから。
 越後ちゃんはたまに無意味な挑発をするところが結構好きです。
 というようなボケをチャットでしようとしていたら眠気に負けて落ちてしまったのですけれど、
 そういえば私は今どれくらいアニメを見てるのかと数えていたらあんまり寝付かれなくなってしまい、
 少し落ち着きをなくしているところです。
 見てるアニメはええと、マドラックス十二国記彼氏彼女の事情天上天下すてプリハガレンマリみて。
 それにクラウと桜をたまに見たりみなかったりのペースで、今のところ録画したままでまだ見てない、
 そういうのがひとつも無い流通ぶりを発揮中。
 でもすてプリとマリみて以外はちゃんと見ているかどうかは心許ない限り。
 いまさっきみたはずの内容をまるで覚えていなかったりするときもあるから、お手上げ。
 そして気付くと見る前にビデオ上書きとかしたのに気づきもしないで、
 次の週のお話をなんの疑問も無く見てたりとか、って録画したのが溜まってないっていうか消してんじゃん。
 ええと大丈夫なんでしょうかこの人は。
 
 きっと薔薇様方が卒業しちゃったのが悲しくて仕方ないんだと思います。
 
 
 本を借りたり読んだり御縁が無かったりしました。
 借りてきたモノ:
 ・薄暗い花園 岩井志麻子 双葉社
 ・占い師の娘 野中柊 角川書店
 意気込み/頑張ります。
 
 読んだりしたモノ:
 ・爆笑問題の日本史原論グレート 爆笑問題 幻冬舎
 感想/つまり爆笑問題でした。
 
 御縁が無かったモノ:
 ・星空のエピタフ上下 冴木忍 富士見ファンタジア文庫
 ひと言/無理。
 
 
 やる気ありません。
 
 
 お知らせ。
 紅い瞳は生意気にも今週の土曜日から旅行に行ってきます。
 行き先は長野という涼しいところです。みんな知ってますか?
 帰りは予定では来週の水曜日頃になると思いますけれど、案の定適当なので割りとあやふやです。
 まー、帰ってこれるとは思うけれど・・・・たぶん。
 
 帰ってこれるけれど。
 
 マリみてが見れません。
 
 ・・・旅行行くのやめようかな。
 
 注:ということで来週のマリみてとマドラックスの感想は帰ってきてから書きます。
   普通にUpされてたらマリみてに負けて旅行サボったと思ってください。
 
 
 MADLAXってやっぱり面白いと言うためだけにある限りなくおまけなマドラ感想(豪華版):
 そういうことか(挨拶)
 リメルダさん、開眼す、の巻。
 マドラックスさん達からガザッソニカの内戦に関する真実の情報を手に入れたリメルダさん。
 興味無さそうな顔しながらしっかり見て、
 着崩した和服にウイスキー片手に発砲という、リメルダさんのキャラの変更がありました。
 ていうかリメルダさん色っぽすぎーカッコよすぎー。
 自分達がアンファンに操られていたのに国のためと思っていた現実を、
 なんて幻、と憎々しげに睨み付け、そしてガザッソニカの国旗(?)に発砲。
 リメルダさんのたったひとりの戦争の始まりです。
 場面変わって、ヴァネッサさんの行方を追いガザッソニカに彼女を捜しに来た同僚チャーリーさんと、
 マーガレットお嬢様が出会うシーン。
 君は、とお嬢様のことを思いだしたののも束の間、マーガレットお嬢様に怖がられてしまう彼。
 なんで怯えるの、と笑って疑問に思うチャーリーさんですが、たぶんその髪型が嫌なんだと思います。
 また場面変わって、ヴァネッサさんの射撃訓練シーン。
 素人さんのヴァネッサさんは全然的に当てることはできません。
 とりあえず撃ち続けて、というマドラックスさんの当たり前過ぎる熱血指導の元、
 ヴァネッサさんは素直に撃ちまくり。
 ヴァネッサさんには頑張って頂きたい。
 そしてまた場面は戻り、チャーリーさんとお嬢様御一行。
 どうすればヴァネッサさんの行方を掴めるのか、相談中のご様子。
 と、そこで珍しくお嬢様が一計を案じます。
 マーガレットお嬢様: 「ヴァネッサを追いかけてる人に訊いてみればどこに居るのかわかるんじゃないかな」
 エリノアさん: 「なにを言ってるんですかお嬢様。」
 エリノアさん思わず素でツッコミを入れてしまいます。
 ヴァネッサさんを追いかけていうのは犯罪組織アンファン。
 それに訊いたりしたらむしろこちらが拉致されるか殺されるかしかねません。
 いくら武闘派メイドのエリノアさんでもこれには冷静さを失わずにはいられません。
 でも・・とさらに言い募ろうとするお嬢様に、でもじゃねぇ!となおもツッコミを入れたかった事でしょう。
 しかしそこでチャーリーさんが犯罪組織とはなにかと話に水を差してきたのでそれもならず、
 エリノアさん的にはイライラが臨界点突破寸前。
 彼らを車の中から観察していたカロッスアさんは、部下に放って置いていいんですかと問われると、
 放って置いても害の無い者達だよ、とどの口で抜かすのかと言いたいほどの余裕ぶりですけれど、
 もし今のエリノアさんの前に姿を見せたらただでは済まないと思います。
 最近ちょっとエリノアさんをやり込めたからって調子に乗ってると、痛い目に合いますよカロッスアさん。
 今のエリノアさんはきっとすごいです。
 所変わって、ガザッソニカ王国軍の親衛隊室。
 リメルダさんが隊長に自分の手に入れたこの国の真実を見せます。
 それを読みなんの冗談だこれはありえん話だ、とまるでなにも知らない素振りをみせる隊長。
 しかしリメルダさんはそれを無視して、やはりご存じでしたねと強硬に問いつめます。
 しばらく間を置いて、隊長が「もしそうだと言ったら」とひとことボソリ。
 リメルダさんの鎌かけ大成功。
 マドラックスさんといいリメルダさんといい、真実に触れると知力が上がるんでしょうか。
 当然隊長が知っていたと肯定すれば、リメルダさんは撃つ気です。
 それがわかりきってるからこそ、隊長は撃ってどうなる無駄な行為だ、と理屈で応戦。
 撃たなければ今までの自分の行為が無駄になると撃つ気満々のリメルダさんの鋭鋒をかわすため、
 君がこの事実を受け入れ任務に忠実になれば親衛隊の栄誉を失うことも無く、
 つまり軍の命令がアンファンの命令に変わっただけでなにも変わらないと言います。
 隊長さん的にはまさに人生の中での最良の演説を披露できてご満悦でしょうけれど、
 リメルダさんを甘く見てはいけません。
 ごく普通に銃を向けられた隊長に「馬鹿な女だ」と言われても、「知ってるわ」のひとことで一蹴。
 ここにすごい人がいます。
 そして兵士に囲まれたリメルダさんはひとり恍惚状態。
 
 リメルダさん: 「どうしてかしら、あの子の顔しか、浮かばない・・・あの子しか・・」
 
 リメルダさん、開眼。
 もう誰も、止められない。
 
 マドラックス、インライブラリ。
 ヴァネッサさんをほっぽって本の調査に勤しむマドラックスさんですが、
 そこにナハルさんの声が。
 姿の見えないナハルさんの気配を感じようと警戒態勢に入ったマドラックスさんですが、
 そこか!とばかりに振り返った瞬間に背後を取られます。
 最初から背後に居たのにマドラックスさんがカッコつけて振り返ってハズしただけの気もしますが、
 いずれにせよマドラックスさんナハルさんにナイフを背後から突きつけられ大ピンチ。
 そもそも背後を取るのに自信のあるナハルさん的にしてやったりのところですが、
 しかしマドラックスさんは背後を取られてからが強い女
 この時点ではまだ五分五分。
 お互い心理戦と洒落込むかの如く話を始めます。
 アンファンじゃ無いなら放って置いて、あなたと闘うとどちらかが死ぬから、というマドラックスさんに、
 ナハルさん、たぶんそれはあなた、と強気に返しますが、
 マドラックスさんは私は死なないと強気を越える電波発言とさらに返します。
 この話の応酬の不利を悟ったのか、ナハルさんいきなりマドラックスさんの前にゆっくりと回り込みます。
 正面から向き合う二人。
 先手を取ったのは、ナハルさん。
 ナハルさん: 「あなたは、違う」
 
 マズい。
 
 非常にマズい。
 マドラックスさんはこのセリフにはトラウマを持っています。主にフライデーさんのせいで。
 案の定フライデーさんとのことで呼び覚ました記憶を再び呼び起こし、大混乱。
 ナハルさん機と見るや冷酷に、だがあなたは違うとさらに強調。
 私を否定しないでと無我夢中に叫ぶマドラックスさんに、さらにあなたは本を持つに値しないと駄目押し。
 この人嫌すぎです。
 ついにキレたマドラックスさんは正面すぐそばにいるナハルさんに発砲。
 が、ナハルさんよけます。
 しかもマドラックスさんの肩に手を置き空中前転後、背後に着地。
 いくらなんでもマドラックスさんでもここまではできませんでした。
 ナハルさんってもしかしてマドラックスさんより強い?
 しかしマドラックスさんの必殺技のひとつ、標的を見ないで三連射をかわすも、
 すべて攻撃をよけきることは叶わず、わずかにかすらせてしまいます。
 マドラックスさんは自分の必殺技が外れたことに驚いていますが、
 ナハルさんもかすった事に驚いて(謎言語で誤魔化しながら)いるのですから、まだまだわかりません。
 場面変わって、カロッスアさんを待っているリメルダさん再登場。
 やはりこの人を止めることは誰にもできなかったようですね。
 無傷ですよ、この人。
 そしてカロッスアさんがアンファンのエージェントだということを見破り、そして銃を突きつけます。
 カロッスアさん大ピンチ。
 アンファンの目的を問うリメルダさんに、それを知っても君にはどうすることも出来ない、
 と先程そういう理屈を言って殺された人が居るのを知らないカロッスアさん。
 駄目です。そっちは崖ですカロッスアさん。
 ああほら、いわんこっちゃない。早速リメルダさんに「それはどうかしら」と切り返されちゃってます。
 カロッスアさんはけれどまだことここに至ってもまだそれに気付かないらしく、
 君はもっと聡明な人だと思っていたよ、と挑発をしますが、
 挑発の試練は前回で通過済みのリメルダさんには全然通じません。
 が、ここでカロッスアさん起死回生の反撃。
 カロッスア: 「もう少し、君の肌に触れていたかった・・」
 
 カロッスアさんのキャラの変更がありました。
 
 いきなりなにを言うかなこのエロエージェントは、と思う間もなく、
 リメルダさんに「私もよ、カロッスア。 でも」、と無表情で切り返されてしまいます。
 リメルダ: 「私はこれ以上踊らされたくないの。この国にも、あなたにも」
 この人が踊らされてもいいのはマドラックスさんだけなんです。
 カロッスアさんの起死回生の反撃も全く通じず、リメルダさんの裁定待ち。
 ああ、隊長さんの笑顔が見え・・・・・
 あ。
 ハズした。
 でもカッコイイです、リメルダさん。
 取り敢えず訳わかんなくなったらハズしておく、というのを前回でよく学んでいらっしゃる。
 あなたも! 「情を残してるとはな」とか余裕の顔でボケかましてるとかじゃなくて!>カロッスアさん
 大体リメルダさんは元から情しか持ってません。
 主に殺意ですけれど。
 
 ・・・・。
 あなたも!一発当てたくらいで大喜びしてるとかじゃなくて!>ヴァネッサさん
 
 スナイパー銃をケースに入れ担いで街を歩くリメルダさん。
 そしてすべてがまやかしにみえる・・とかちょっとアブナイセリフを垂れ流しながら眼を光らせてます。
 カッコイイ・・・あなた今一番輝いてるよ(主に殺意で)
 本物はあの子だけと言いながらも、それに報いる想いはやっぱり殺すだけ。
 リメルダさん、もう眼開きっぱなし。
 いまのところリメルダさんが一番の成長株です。
 場面変わって、マドラックスvsナハル。
 正直、ナハルさんに完璧に翻弄されてるマドラックスさん。
 あっさり持ち武器を弾かれて、ナイフを突きつけられてしまいます。
 けれど口だけは弾かれていないようで、まだ死んでないとか言って頑張ります。
 が、ナハルさんここでついに本領発揮。
 マドラックスさんは事態の外側に居るもの、そして資質を持たないといいます。
 そして。
 ナハルさん: 「少しだけ、混じっている。」
 混じってるってなにが。
 まさに文武三道に於いて多いに打ち負かされてしまったマドラックスさんですが、
 その窮地をなんとマーガレットお嬢様が救います。
 なぜ此処に、と驚くナハルさんの隙を突いて、マドラックスさん発砲。
 しかしナハルさんは忽然と姿を消し、勝負はお預け。
 マドラックスさん的にひとり戦果分析。
 マドラックスさん: 「逃げた・・・・ううん、見逃してもらった」
 いいえ、ナハルさんは逃げたんですよ。マーガレットお嬢様から。
 近くの柱の背後でブルブルと小刻みに震えているナハルさん発見。
 ナハルさんのトラウマは根強いです。
 そしていきなりマドラックスさんの名前を呼ぶお嬢様に怯えて銃を向けるマドラックスさん。
 まことに正しい判断です。
 マドラックスさんもナハルさんより危険な人物が目の前に居る事に気付いているようです。
 ついでに状況によっては武器を取るメイドも居ることにも気づけたらさらに良し。
 前途多難のマドラックスさんに乾杯。
 
 場面は細かく切り替わり、各キャラがそれぞれ主役の二人の名を呼んでいます。
 ヴァネッサさんは、マドラックスと銃口を向けて呼んでいます。
 クアンジッタ様は、マーガレットバートンと忌々しげに呼んでいます。
 リメルダさんは、マドラックスと本当に嬉しそうに呼んでいます。
 カロッスアさんは、マーガレットバートンと尊敬の意を込めて呼んでいます。
 マドラックスさんは、私マドラックスと呼ん・・・あ、これは自己紹介ですか。
 とまた場面変わって謎言語の伝道師不思議少女レティシアちゃん登場。
 マーガレットお嬢様は真実を知らぬ者、
 マドラックスさんは偽りの真実しか知らぬ者と呼び、
 そして真実は私、と言います。
 真実は私。
 ・・・・。
 要するに構って欲しいんだよね。
 
 きっとこの子の将来は薔薇色です。
 リメルダさんみたいな。
 ハイル、リメルダ。
 
 
 
 
 楽しくて楽しくて仕方がありません。
 
 
 

-- 040802--                    

 

         

                         ■■私とマリア様の終わりの日 2 ■■

     
 
 
 
 
 『薔薇様達と同じ時期の高等部で過ごせて、私・・すごく幸せでした・・・・・
  私ったらなに・・・・やだ・・ごめんなさい・・・・・・・』
 

                       〜 第五話の三奈子様のセリフより〜

 
 
 
 
 
 

 ・    ・    ・     反応としての  「答辞」  〜紅い瞳の場合     ・   ・   ・

 
 
 あっちへいけ、デコチン(挨拶)
 改めまして。
 ごきげんよう。
 そして。
 
 薔薇様方、御卒業おめでとう御座います。
 
 ええもう、ええもう、私は泣いてしまいました。
 拍手拍手でズルズルと鼻をすすりながら泣きました。
 三奈子様ばりに大いに取り乱して泣きました。ちょっと逃げ出したりもしてしまいました(顔を洗いに)。
 なんという事なんでしょうか。これが卒業式なんでしょうか。
 今回のお話について、私が語ることなどほとんど御座いません。
 全部そのまま、卒業式そのものなのでしたから。
 私はただ色んなものに反応して、そしてそのたびに涙で一杯になった目を凝らして、
 ずっと画面に見入っていました。
 なんで泣いたのか、それは前回の感想で描かせて頂いたものに詰め込ませて頂きました。
 そちらの解釈は、皆様の方でよろしくお願い致します。
 ですから今回は、あの画面のどこを良く私が見ていたか、その点について少し触れさせて頂きます。
 
 さて、今回のお話は蓉子様。
 正直、格好良かったです。
 答辞を贈るために壇上に向かう際の蓉子様の想い、最高じゃないですか。
 そしてやはり怠惰なる紅い瞳は憧れる訳です。
 そして憧れるだけで終われない、そういう胸騒ぎを感じさせるに充分なほど、
 あのときの蓉子様は光り輝いていました。
 祥子様の送辞の失敗を令様にフォローして貰ったのをみて、
 あとは全部自分が仕切直さなければいけないと、少しづつ頭をもたげながら歩くシーン。
 もし蓉子様という人の人となりをどなたかに紹介するとしたならば、
 まさにこのシーンを語ることが最も相応しいと、私は思いました。
 『此処は優等生を全うして、しまりのある卒業式に戻るしか』
 蓉子様にとって優等生、というものがどういうものかが、
 これと冒頭の教室で最後まで優等生ぶる自分に感じた憂鬱、それを比べてみるとよくわかります。
 優等生であるってこと、真面目であろうとすることって、蓉子様にとっては当たり前だけど当たり前じゃない。
 というよりあまりにも当たり前なことだったので、
 自分にとってなにが当たり前であるべきかがわからなくなった、そういう感じなのです。
 そして、優等生であることを心懸けること、それを最後に蓉子様は自分から引き剥がして、
 そして自分のひとつの「道具」とすることができたのじゃないかと、私は思います。
 自分が頑張る事に、それがたとえ嘘でも「理由」をつけられるようになったのですから。
 蓉子様の悩みって、一見わかりにくいですけれど、実は結構私にはよくわかることなんだ、
 そう今頃になって気付く自分がおかしかったですけれど、
 でもやっぱり蓉子様ってどういう感じなのかを理解できて嬉しい限りです。
 
 そして蓉子様が築いてきたもの、それ自体が既に蓉子様を押し出す力になっています。
 それがどういうものなのかは、言うまでも無いことでしょう。
 祐巳さんが祥子様をリラックスさせるシーンを目撃して、
 それがどんなに自分にとって凄い事なのかを、蓉子様は知ります。
 マリア様を背に自分を送り出してくれる山百合会の後輩達の姿が、
 一体どれほど蓉子様に眩しく映ったことでしょうか。
 そしてだから、蓉子様はもう決してあのマリア様の元には戻れません。
 自分が作ったモノだから、だからもうそれは自分じゃ無いんです。
 もう蓉子様にとってマリア様の下は夢見る場所になっています。
 そして同じくこの場所から離れていく大事な二人の仲間にも別れを告げます。
 夢の中の美しい場所に生き残る人々の幸せを願い、
 そして自分と一緒にその場所を作ってくれた友に別れを。
 でもそのふたつの別れは特別なもので。
 絶対にわかたれたりはしない、絶対に繋がりが失せることの無い別れで。
 でもそれでも、どこかきっぱりと勢いよく断ち切られていて。
 だって、誰も遺言しなかったんですから。
 もうあとは、あなたたちの幸せを祈るだけ。
 そういう事なんです。
 なんだかもう、言葉にうまく書き表せません。
 ちょっと顔を洗ってきます。
 
 
 (しばらくお待ちください)
 
 
 もうなんか語ることはやっぱりなにも無かったようです。
 私の想いは形を変えて前回の文章にすべて織り込んでしまいましたので。
 いいえ、まだ言い足りないことがあります。
 こればっかりは、やっぱりどうしても言わなくてはいけません。
 
 やっぱりみんなが居たから、卒業できたんですよね。
 
 自分の中ですべて自己完結して解決することは当然の事だけれど、
 そこに強引でも後付でもこじつけでもなんでも良いから、
 どうしても他の人達との連関を縫い付けなければ、やっぱりそれは「嘘」になってしまう。
 自分ひとりが学校に居たわけでも無いのだし、他の人を無視していたとしたって、
 それは無視する対象として確かにそこに他人を存在させていたのですから。
 どんな形にせよ、自分を語るのに他人は不可欠。
 私はマリみてのお話をすべてそこに行き着かせて語りたいと想っています。
 そして前回の文章は、敢えてその点を省いたつもりです。
 それはよく読んで頂ければ、なんとなくわかると想います。
 誰かとふたり歩いている自分を見つめるのじゃなく、
 たくさんの誰か達の中で立っている自分を見つめる。
 自分と歩くその人は、やっぱりたくさんの中の誰かのひとりじゃなくちゃ、
 どうしたって自分の姿がよく見えなくなってくると思います。
 そして一番最初に自分を見つめるのは当然としても、
 いつまでも自分だけを見ていては、結局のところ自分を見失う。
 自分を見つけるのって、やっぱりただの結果論。
 蓉子様達のようにただ当たり前の事を他の人達との間で為していくことで、
 なんとなく見えてくるような、そういうむしろどうでも良いもの。
 私には、この薔薇様達の卒業式が一番だとそう思われてなりません。
 蓉子様が聖様と江利子様に、聖様が蓉子様と江利子様に、江利子様が蓉子様と聖様に、
 それぞれ別れを告げるのは、それはもうやっぱり完全な断絶で。
 きっと薔薇様方が再び出会うときは、同窓会などを除けば、偶然以外にしか無いと思います。
 自分の道をひたすら歩いていったら、かつて一緒の道を歩いていた人とばったり出会う。
 ほんとうにそれだけで充分で、そしてそれだけで終わりなんです。
 そしてその「終わり」がどういう事なのか、それがすべてなのだと思いました。
 
 以上、言葉にならない感情を言葉にして書いた私の答辞でした。
 以下、後始末。
 
 
 そうして来ると、今度は聖様と江利子様の出番です。
 これは正直、チビ聖vsチビ江利が一番すごかった。
 『あっちへいけ、デコチン』はマリみて史上に残る名言じゃないでしょうか。
 チビ江利子の『逃げるの?』っていうセリフも幼稚園児のレベルを超越しててすごかったですし。
 まさにチビマリ大戦。
 ああ、この凄さをどう言葉で表現して良いのかわかりません。
 けれどどうしてもこのシーンが頭から離れなくて、とても印象に残っています。
 他の回想シーンにおいての印象もやけに強い。
 それはなぜか今回の作画全体的におかしい出来だった中で、
 回想シーンのみはまともだったというのもあるのかもしれません。
 なんでこの大事な卒業式の回に作画があんなだったのかはわかりませんけれど、
 逆にその理由を知りたいという願望も芽生えたのでおあいこという事にしておきましょう。
 でも、今回の聖様と回想の中の聖様が同一人物はどうしても思えませんでした。
 髪型が違うっていうか、顔が違いました。
 
 あー、なにかこう今回は全然感想書く気が続きません。
 続き物になどしなければ良かったと今更不満たらたらなわたくしですから、
 きっと今回は良い思い出として心に残る事でしょう。
 主に反省材料として。
 涙でぐちゃぐちゃになるのも考え物だと思わずにはいられません。
 でもだからといってこの涙を止める気などさらさら無い事もわかっているので、
 あまり反省する気は無さそうですけれど、それはそれで良いですよね。
 とにもかくにも、お疲れ様でした。
 こんな文章に付き合ってくださる皆様。
 そして。
 誰よりも卒業していかれた蓉子様、聖様、江利子様、お疲れ様で御座いました。
 そして。
 またお会いできる日を、「私」は楽しみに信じて待っています。
 残された山百合会の面々と共に。
 
 そして。
 共に別れを告げたふたりの友に、さようなら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 祥子様@次回予告: 『わかっとらんのぅ。臭いでーと、繋いでーをかけとんのや!』
 
 
 
 これからはこの人の時代です。
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 

-- 040801--                    

 

         

                          ■■私とマリア様の終わりの日■■

     
 
 
 
 
 『言い足りない言葉ががまだまだあったかもしれない

  でも今はただ願うだけ

  幸せに・・みんなみんな幸せに

  この学校で

  あなた達と出会えて

  良かった。』

 
 
 

                       〜 第五話の紅薔薇様、黄薔薇様、白薔薇様のセリフより〜

 
 
 
 
 
 

 ・    ・    ・     「送辞」     ・   ・   ・

 
 
 私にとって、卒業という行事はそれはいつもとてもナイーブな事だった。
 
 
 なにかが終わった、という事実を卒業証書の授与という形でしか感じることができない、
 その事にひどく冷質感を味わい、それでいて決してそれ以外の事をこの日に感じる事ができなかった。
 懸命になにかを見つけようと在校生の顔をじっとりと見つめ、そして隣に座る気心の知れた友の顔を見、
 そして何百人という卒業生を何回も何回も同じ顔で見送ってきた恩師達の顔を見ながら、
 彼らが一体なにを考えているかを一切慮る事もできず、ただただ流れていく短い時間を過ごしていた。
 どうしてもその流れを止めることもできず、気付くと在校生達に見送られ、私は校門の外に立っていた。
 まだ門の内側にはたくさんのモノが置き忘れられたままなのに、
 私はただもうそこに立ち尽くす事しかできなかった。
 その私にとってきっと大事なものを私に届けてくれるような人は皆無だった。
 私を追い越して私よりさらに遠く学校から離れていく友達の背を見つめながら、
 それでも私は狂おしい未練の心を断ち切れないでいた。
 門の内に駆け戻ることも、先を行く友の背に追いつくことも、私にはできなかったのだ。
 
 いつもと違うはずの陽が差し込む教室は、それでもいつまでも当たり前のその姿を晒していた。
 なにに泣いているのかもわからない級友の泣き顔を愛想笑いで慰め、
 楽しそうに思い出を語る仲間に隠した泣き顔で相槌を打つ。
 この静かな喧噪のただ中で、いつもと同じ時間を迎えていたのは、このとき私だけだったのだろうか。
 はっとして私と同じ時間を迎えているようなしまりの無い顔を探し回ってみても、
 周りにはいつもよりも数十倍くらい美しい顔を引っ提げた人達がいるだけで、
 どうしてもそれだけは見つけることができなかった。
 澄まし顔で教室の真ん中で物思いに耽る私の背を、何人もの優しい友が叩いていった。
 それらのひとつひとつの私との接触が、私にはとても悲しくて仕方なかった。
 なぜ私は彼らに別れを告げられねばならないのだろう。
 なぜ私はこの別れの告白を従順に受け入れねばならないのだろう。
 今まで一度も話したことの無いひとりのクラスメイトが、私に声を初めてかけた。
 そのかけられた言葉は、別れの言葉。
 私はあんたの事を全然知らないのに、なぜ別れられるっていうんだ。
 あんたも私の事、この澄まし顔くらいしか知らないだろうに。
 でもそれでも。
 私は毎日いつも楽しく巫山戯合ってきた友たちとの別れさえ信じられないのだ。
 今更別れに適する相手など、私に居はしないのだ。
 ねぇ、ちょっとさぁ、静かにしてくんない?
 私はあまり嫌味ったらしくならないように努めながら、その顔しか知らないクラスメイトに告げた。
 戸惑っていた。
 そして、ごめんね、とひと言行ってまた私の知らない世界にその人は戻っていった。
 私は今、この教室の中で一番自分が馬鹿なのだと、初めて知った。
 
 卒業式に参加するために歩いた体育館へ向かう道。
 卒業生達の列が出来て、私はやはりそこでまた自分の居場所を得てしまった。
 隣から話しかけてくる友の話を聞き流しながら、一体この人は今日なにが終わるというのだろうか、と、
 そういうことばかり考えていた。
 この列の向かう先がどこなのか、それを知っている人はいったい何人いるの?
 私に答えられるのは、少なくとも私は知らないと、それだけだった。
 昔私とテストのヒドい点数を見せ合ってクスクスと笑い合ったあの人は、
 列の中に入り込んできた部活の後輩らしき子となにか話をしていた。
 あの人の顔が、あんなにはっきりと見えたのは初めてだった。
 あんなに色々な表情に、それぞれにしっかりと力を込めて後輩と話すその人は、
 きっと今日なにかが確かに終わった事を知っているのだろうと思った。
 そして。
 私はやっぱりこう思ってしまうのだ。
 みんな笑ってる。
 なにげなく無邪気に笑うその笑いに、いったいどれだけの意味が込められているのか、
 私には今日それを知ることはできないのだ、と。
 私は、私がどうしても作ってしまうこの私の居場所の中で、
 今日と云う日をやり過ごすしかない。
 そして気付くともう、その私の居場所の外にはなにも無くなっているんだ。
 私の中にはただ、本当にただの紙切れの卒業証書しか、きっと残らないのだ。
 私は終わりへと向かう列の中で、ようやく無意味な悲しみに囚われる事ができた。
 
 冷たく透き通るほどの暖気に包まれる中、私は無防備に座っていた。
 読み上げられていく同級生達の名を、それを今初めて知ったかの如く、
 なんの抵抗も無く私の急所に吸収していった。
 私と彼らとの付き合いは此処から始まって、此処で終わる。
 そして此処だけがすべてだった。
 あのときからなにも変わらない。
 私にとって、彼らとの終わりは彼らとの始まりを繰り返す事でしか無かった。
 私は、何度も何度も彼らの名を唱えてみた。
 私にはよく馴染む心地良いその名前達の味を私は覚えることが無かった。
 私の中に入るたびに聞き惚れ、そして忘れ、また同じ名を聞き、それに酔い、そして忘れ。
 それでも私はその事には至って明快に無自覚で、てんで不思議に思うことなど無かった。
 私が思いだしていたのは、私の事ばかりだった。
 私が学校に居る間に、私が一体なにをなしてきたのかを。
 それをひとつづつ思い出して、磨いて、美化し、独りで尊び、そして弄んだ。
 そして私はその事に至っては明快に自覚していて、とてつもない罪悪感に身を苛まれていた。
 なにをやってるんだ私は。
 誰のための卒業式なのか、私にはもう全然わからなくなっていた。
 否。
 私は最初からわかってなど、いなかったのだ。
 
 友の名が呼ばれた。
 私はその立ち上がり壇上に向かう友の背を見なければいけないと必死に念じ、
 そして壇上から降りてきて私の顔を見ようと彷徨わせているその瞳を絶対に見てはいけない、
 なぜかそう思っていた。
 それなのに、心無しか残念そうに項垂れるその友の首筋に、
 ざまあみろと嘲笑を浴びせたいなんて思わなかった。
 私は悔しかった訳じゃ無い。
 悲しかった訳じゃない。
 私はただ、怖かった。
 私が此処でこうして無防備で居る事が怖かったんだ。
 私は友の背に、見ていたのだ。
 これが誰のための卒業式なのかを。
 そして私は振り返る前の友の瞳に、その中に決して私の姿が映らないという予感を抱いたのだ。
 私は、友の背に心よりお祝いを申し上げたい。
 卒業、おめでとう。
 そして私はあなた達に取り返しのつかないくらい感謝しているのだと、
 あの壇上に立って叫びたかった。
 そして私は・・・・。
 
 在校生の送辞が始まった。
 泣きたくなった。
 なにか無性に悲しくなった。
 感極まって声が震えているその壇上の後輩の顔を見ていられなかった。
 私が代わってあげたかった。
 私が代われる理由なんて無かったけれど、でも代わりたい理由なら逃れられないほど、ある。
 でも私が泣きたくても泣けないのと同じように、代わりたくても代われはしないのだ。
 私には送辞を受ける権利なんて無い。
 そして私には送辞を送る権利も無いんだ。
 私は不適格ながらも卒業生の席に座らされているのだから。
 私は友たちへ贈る言葉を、決してこの胸の内から出すことは無いのだろう。
 私は涙の出ないこの瞳にだけ力を込め、なんとかこの席に踏みとどまった。
 ぐずぐずと醜い音を立てて崩れていくはずの無防備なこの体を、
 なんとか壇上の在校生への憧れでもって支えていた。
 頑張れ、頑張れ、頑張れ。
 私の心の中はこの言葉で一杯になっていた。
 ほんとうに一体誰のための卒業式なのだろう、そう自嘲気味に問う事はもうしなくなっていた。
 
 驚き、だった。
 その壇上の輝かしい光を見上げながら、本当に嬉しそうに拍手してるあの人がいた。
 教室で私に声をかけてきた、顔しか知らなかったクラスメイト。
 ほんとうに心の底から嬉しそうに笑うこの人の顔がなんで私にはこんなにも美しく見えたのか、
 そんな情けない事を平気で疑問に思っている自分、それを私が全然気にしないのだ。
 私の中に広がるその素敵な驚きは、そして私の心をとても優しく休ませてくれた。
 あー・・・私はこの人の笑顔の意味をちゃんと知ってるんだ・・・。
 私は、壇上の光がなによりも美しく、そして触れがたいものである事を知っている。
 だからその触れがたいものになんの障壁も無く笑顔で接す事のできるこの人もまた美しいのだと、
 私はごくごく簡単に理解していたのだ。
 そしてさらに驚くべき事に。
 私は。
 私は・・・おめでとう、と・・・・確かに小さくそのとき呟いていたのだ。
 私には理解し得ないはずのものは、ほんとうは私はちゃんともう持っていた。
 私はこの卒業式が誰のものであるか、そしてこの終わりがなにを意味するのか、知っていた。
 そして私には言えぬはずの祝福は、それを私がどう思おうと勝手言える言葉だったのだ。
 私はこの学校からなにを与えられ、そしてあの人達からなにを貰ったのか、知っていた。
 知って、いたんだ。
 
 
 私はもう、自分で自分の卒業式をする気にはなれなくなっていた。
 
 
 細切れにさざめいていく日差しに照らされる廊下の中、私を待っていた人が居た。
 や、久しぶり、と冗談めかして私だけにその瞳を向けてきたその人。
 私の、親しい友。
 その様子からしてきっと卒業式はサボったに違いないその人は、少し照れ臭そうに私の顔を覗き込んだ。
 喧嘩したときの事、覚えてる? と、いつものようになんの脈絡も無しにこの人は訊いた。
 私はそれには答えずに、ただその人の姿を見ていたんだ。
 覚えてる・・・覚えてるさ。
 本当に些細なコトが原因だった。
 でもその些細なコトはでも私達には非常に重要な事で、ふたりとも真剣だった。
 些細なコトで生じたすれ違い、これ自体に私達は怒ったんだよね。
 そしてお互いがお互いにそのすれ違いを生じさせた責任を問い、そして喧嘩した。
 ふたりとも同じモノに対して怒っていたはずなのに、どうして共闘しようとしなかったのか、
 その疑問にふたりが偶然同じタイミングで行き着いて、そしてうやむやのうちに笑って仲直りしたんだ。
 あのとき私達は、私達がすれ違うこと、それがなにより怖かった。
 元々まったく違う種の人間同士だった私達が一緒に居た事自体奇跡なのだから、
 こうして一緒に居続ける事、それだけは奇跡に頼らずに自分達で叶えよう、そう思っていたのに、
 いざすれ違いが生じてしまうと、なにもできない自分の姿に気付いて、そしてお互いに助けを求め、
 そしてお互いが助けられない事を感じ、そしてどうしようも無く怖くなってしまったんだと思う。
 私はそのとき、いつもひとりでいるのに全然孤立しないで人の中でも楽しくやっていけるあの人が、
 こんなに弱いとは思わなかったし、
 たぶんあの人もそのとき、いつも人の中で楽しそうにやっているのに虚しい顔して沈んでいる私が、
 こんなに強いとは思わなかっただろうと思う。
 あの人はきっと私が言う事を聞いてくれると思っていて私にいくつか要求してきたけれど、
 私はそれに応じて否と答えを出したのにあの人はそれを受け取れる能力が無くて、
 あの人は少し取り乱しながら私を責めた。
 そしてあの人はそのとき、私に絶交を迫ったんだ。
 私はそれでも私の答えを変えずに、そうしてますますあの人と私はすれ違っていった。
 あの人は口をきかないどころか、顔も見せてくれなくなった。
 そうまでなりながらも、私達はなんとかこの日まで漕ぎ着けた。
 いつ仲直りしたのかなんて覚えていない。
 それでもこうして今、日差しの中で私とあの人は見つめ合っている。
 私とあの人が今まで共有してきた時間、
 それがすれ違っていた間に起きた共有し損ねた出来事に押し潰されてしまったこと、
 その事実が私の前に無造作に、無遠慮に転がっていることは否めない。
 でも・・・でも・・それでも。
 私達は今日、卒業するんだね、と、そうはっきりとあの人に言えた。
 あの人はそれに、やっぱり恥ずかしそうに笑いながら頷いてくれた。
 ああ・・この人は私が卒業していいって認めてくれるんだ・・。
 私が今までしてきた事を、それを認めてくれるんだ。
 そして私は・・・。
 
 私はあの体育館の中にあなたの姿を見つけられなかったし、見つけようともしなかった。
 結局自分の事ばかり考えていただけだったし、それは今までの時間もそうだった気がする。
 でも私は。
 でも私はちゃんと卒業式にでて来て、そしてただの紙じゃない卒業証書を受け取ってきたことを、
 今、この私の親しい友に報告したい。
 私は自分の卒業を祝い、友の卒業を祝い、そして在校生達に卒業を祝って貰えた。
 そしてあなたの卒業も、私は今、祝ってあげられる。
 卒業、おめでとうございます。
 私は、あなたの進路すら知らない。
 あなたも私の進路すら知らない。
 私達はお互いがどんな夢を語り合ったのか、それすらもう忘れてしまっていた。
 でも。でも。
 この美しい笑い声が響く廊下の中で、私と笑い合えるあなただからこそ、
 私はもうなにもあなたを心配していない。
 あなたももう私を心配してはいない。
 そして私はもう私を心配していないし、そしてあなたもきっともうあなた自身を憂いてはいない。
 卒業、おめでとう。
 
 そして・・・・さようなら。もう二度と会う事も無い私の親しい友よ。
 
 
 私は今回も門のうちにたくさんのものを置き忘れ、
 そして走り往く友の背に追いつけない。
 でもそれでも、私はこの学園から一歩外に足を踏み出した。
 その一歩は本当は私の力で踏みだしたものじゃなく、きっと誰かに背を押されて踏みだしたものだと思う。
 でも。
 私はその誰かの優しい優しいその背に残る数々のぬくもりを大事に抱いて、
 そして歩いていこうと思えたのだった。
 
 その夜、電話が鳴った。
 私のよく知っている、私のもうひとりの親しい友。
 そして私の尊敬する、人。
 きっと卒業式には出ていない友は私に卒業の祝いを述べ、私もそれを返した。
 そして最後に、ひとことづつ。
 じゃあね、と。
 私はこの友の事をよく知っている。
 この友がどれだけの努力を払って生きているのかを知っている。
 私はこの友の努力の一助になればと、何度も援助をし、応援もし、そして一緒に戦ったりもした。
 私はこの人が為してきたことを知っている。
 私は本当にあなたは凄いと、何度この同い年の友人に言ったことだろうか。
 そして何度その賞賛を無視された事だろうか。
 私は知っている。
 あなたは自分のしてきたことに、決して満足する事は無いという事を。
 あなたはわかっている。
 私の賞賛に対する返礼を、私があなたに要求しないことを。
 要求しないでいることが、それこそが私のあなたに対する要求だということを、あなたはよくわかってくれた。
 そしてなにより私は、あなたが私に返礼をしたいのにそれをしないでくれという私の要求を
 ずっとずっと飲み続けてくれたこと、その事になによりも感謝し、そしてなによりも謝りたい。
 あなたは、私があなたを尊敬していることを知らない。
 私とあなたの間には、最初から大きな溝があって、そしてその溝があることすらあなたは知らなかった。
 私はただただ一縷にあなたを見上げていただけなんだよ。
 努力家で、人の気遣いばっかりしてて、それでいて自分の事をなんにも知らなくて、
 それなのにどこまでも強く強く歩いているその姿。
 正直、私には眩しすぎる姿だった。
 それなのに、あなたは私の事を羨ましいと言った。何度も何度も、言った。
 私には今もなぜあなたがそう言ったのかはわからない。
 そしてあなたは私があなたを尊敬している事を、知らない。
 
 でも。
 
 やっぱりあなたは言ってくれた。
 卒業おめでとう、と。
 そして、私の拙い卒業祝いを、あなたは受け取ってくれた。
 私がなんとかギリギリで受け取ることができた祝福、それが必ず私の元にくることを知っていたかのように、
 あなたは私の祝福を認めてくれた。
 卒業できたんだよね、私達。
 もう、終わったんだよね。
 私も、あなたも。
 ありがとう。ほんとうにありがとう。
 卒業式に出る必要も無いほどにすべてを終えていたふたりの友。
 そして卒業式という最後の最後の機会にようやく終わらせる事ができた私。
 そしてすべてが終わったあとに、私に真の卒業証書をくれたあなた。
 私はただ憧れるだけの対岸のあなたから、確かにそれを受け取った。
 あなたにとっても、此方の岸は明るく眩しいものなのだと、知った。
 だから私は・・・・。
 
 
 
 『努力する姿を隠さない優等生、か。興味のあることにしか熱中しない私とは違う。
  蓉子を面白いなって思ったのはそのときから。
 
  でも、蓉子も私ももうこのタイを結ぶことは無い。』
 
 
 
 さようなら。私が一生かけて渡り切る事を目指す対岸にいる、尊敬する友よ。
 
 私はそれでも信じている、きっとまた会えると。
 
 
 

                              ・・・以下、第 二部に続く(予定)

 
 
 
 *この感想はいい感じにフィクションです。
  登場するすべての人物や語り手は、実在する人物やマリ○てのキャラとは、
  一切関係が無いように見えて関係があります、と言い切ったら嘘っぽい、そういう感じの設定です。
  とにかく適当に。
 
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 

 

 

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