〜2004年9月の過去ログ〜

 

 

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                          ■■悪い女の子と優しい人殺し■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 見つめている。
 其れが其処にあるから、見つめている。
 其れを本質というのなら其れは本質。
 其れを真実というのなら其れは真実。
 其れが其処にあるという現実の中に生きている。
 人を殺した。
 その事があまりに悲しいだけで、だから其れが其処に無いと思ってしまった。
 其処に其れが無いと思えば、そう思い込めば、其れの存在は嘘になる。
 虚構の存在となる。
 其れは私じゃ、無い。
 だから私に、くっつけないで。
 私とひとつにならないで。
 でも私は其れを、ずっとずっと見つめている。
 目を瞑っても、ずっとずっと。
 私の瞼の裏に偽りの世界を映しながら。
 
 罪。
 人を殺した。
 それが恐ろしい事だから、その事は私から切り離された罪悪感となった。
 その罪悪感はそしてやがて独り立ちし、ひとりの人間として歩き始めた。
 だからもう、その罪は私のじゃない。
 私はなんにも悪くない。
 私はなんにも知らない。
 其処に罪で出来た人が居るのだから、私の代わりになってくれるのだから。
 
 
 ◆ ◆
 
 『真実から逃げてもいい。それでも構わない。』
 
 エリノアやヴァネッサが私に望んだのは、それはつまり普通の女の子として私が生きてくれると言うこと。
 私がお父様を殺した記憶を無くしたのなら、それでもいいじゃない、
 ふたりはそれこそ私の幸せだと言ってくれたの。
 ふたりの願いを叶えるだけなのなら、私はマドラックスを殺せばいい。
 私の中の罪悪感を、それを意識して得るものは何も無い。
 マドラックスという名の衝動、そして罪を背負って生きるのは、
 それはやっぱりヴァネッサとエリノアの願いを裏切るという事になるのかもしれない。
 罪は其処にそれを見つめるから初めて罪として有り得る。
 私には今、その罪を見つめるか、それとも見つめないまま消去するかの選択を迫られている。
 私がただ自分だけの事を考えて罪を意識してしまう事に、なんの意味があるんだろう。
 私がマドラックスという罪とひとつになってしまえば、私はどうなってしまうの?
 ヴァネッサとエリノアが愛してくれた「普通の」女の子の私はどうなっちゃうの?
 
 だから私、自分の罪に逃げ出す事はしたくないと、思ったの。
 
 私は罪から逃げ出す事よりも、罪に逃げ出す事をしたくない。
 だってそれはヴァネッサとエリノアの願いを無視する事になってしまうのだから。
 私が罪を背負って悲しむ人が居る。
 私が記憶を取り戻す事に満足して、ヴァネッサとエリノアから「マーガレット」を奪いたくない。
 私を此処まで懸命に守ってくれたふたりのためにも。
 私はマドラックスという罪を見つめる訳にはいかない。
 私は其処に罪を在らせない!
 なにが偽りでなにが真実なのかを、私には今、決められる。
 だから私はマドラックスという偽物の存在を、撃つ。
 今までの私の大切な時間を守るために。
 そしてヴァネッサとエリノアの願いを叶えるために。
 私は、お父様を殺してまでも生きたいと思ったマーガレット。
 私は、生きたかったの!
 それを認めてくれる人達が居る限り。
 
 
 
 
 でもそれなら。
 貴方はどうなるの? マドラックス。
 
 
 
 
 マドラックスは私の罪。
 そして私はマドラックスの存在を偽りの存在として切り離したまま。
 私が罪を感じて生きる事自体は構わない。
 そこから逃げるつもりは無い。
 私は罪を背負って生きられる。
 でもエリノアとヴァネッサが私を見ていてくれる限り、
 私はその罪を私とひとつにさせる訳にはいかなかった。
 ふたりのために。ふたりのために。
 其処に愛する貴方達が居るから、私は罪無き普通の女の子で居られたの。
 でもね。
 マドラックスが其処に居たの。
 私はそれを知っている。
 それが偽りだと思っている以上、それを偽りだと思う以前は確かにあった。
 そしてその最初から、マドラックスはマドラックスとして常に在り続けた。
 それは私の中には無く、ただ私の前の前に投げ出されたままの剥き出しの罪。
 そしてそれは。
 人間に、なった。
 マドラックスというひとりの人間になったの。
 それがどういう事か、わかる?
 私はもう、私の罪を私の想いのままに消したりしてはいけないの。
 だってそれはもう、ひとりの人間なんだもの。
 其処に罪にまみれた私が確かに居る。
 人を殺し続け罪を背負い続け、それを悲しむ事をやめられないマドラックス。
 優しい人殺しが、目の前に居る。
 私の罪が、目の前で生きている。
 
 私、この人の願いも叶えてあげなきゃ。
 
 私の中にある「私」が生きたいという願いを認めてあげなきゃ。
 もうひとりの私を消すことができるのは私だけ。
 そしてもうひとりの私を認めてあげる事ができるのも私だけ。
 だから、マドラックス。もう泣かないで。
 私の前で12年前から変わらず生きるために優しい涙を流し続ける罪。
 レティシア、ごめんね。
 あなたを独りにしてしまって。
 私はあなた達とも一緒に生きたい。
 そうしなければいけないのよ。
 
 
 私、言うよ。
 私の目の前にある罪を、私はやっぱり私に受け入れる。
 でもそれを受け入れたからって、それはヴァネッサとエリノアを悲しませたりする事にはならない。
 私はね、罪をみつめなければいけないんじゃないの。
 私はね、罪を背負わなければいけない女の子じゃないの。
 
 私は私の罪で、しっかりと私を生きさせる悪い女の子。
 
 私はもう罪を無視しなくてもいい。
 私はもうただ泣きながら罪を背負っていかなくてもいい。
 私は私の中に優しい人殺しが居る事を認めながら、
 それでも私は私の罪で人を殺す。
 私は罪から逃げない。
 そして私は罪に逃げたりもしない。
 私は罪で生きる。
 だからもう、そんなに優しい気持ちに囚われて生きる事を悲しむ必要は無い。
 泣きながら人を殺す必要も無い。
 私は私の中の殺意を認めます。
 その殺意を賛美する? そんなんじゃない!
 その殺意は私の罪。
 だから私はその罪を決して許さない。
 だから私は生きていてはいけない女の子。
 
 でも私は、こうして生きている。
 
 だから私は悪い女の子。
 私は私が生きる事を否定しない。
 罪を認めてそれでも生きながらえる事を否定しない。
 私は私のせいでたくさんの人を殺してしまった。
 だから私の罪は罪。
 どんなにそれを偽りとみても、それが私の真実。
 その真実は幻想じゃない。
 だって其処に、マドラックスが居るのだから。
 私がマドラックスをみているのは、それはもう其処にマドラックスが居るから。
 それはマドラックスが私の意志とは関係なく、ずっと初めから其処に居たという訳じゃない。
 マドラックスを私はずっと初めから其処に見つめていたから、マドラックスは其処に居るの。
 私、わかってた。
 わざわざ教えられる必要も無く、私は全部わかってた。
 私は私の罪を見つめたいのよ。
 その私の願いこそが、私の本質。
 
 
 私はマドラックスを見つめてる!
 
 
 だから私は。
 私にできなかった事をするよ。
 私は私の悪意で人を殺す。
 私がお父様に殺されそうになって私がお父様を殺したのを、
 それは私が生きるためにしょうがなかった、なんて絶対もう言わないよ。
 私は私の衝動のままお父様を殺したって、そう言うよ。
 お父様は私が殺しました。
 私が生きたくて私のために殺しました。
 私は悪い女の子。
 そして。
 私の優しい「罪悪感」を、私は抱きしめながら人を殺すよ。
 その罪悪感は私では無いから。
 だから私は其れを抱きしめられる。
 私は罪を背負わなくたっていい。
 だから其処に罪が居てくれる。
 だから私はマドラックスを抱きしめてあげられる。
 
 
 私は悪い女の子。
 
 そして貴方は優しい人殺し。
 
 
 ひとつでふたり存在するから、私達はこうして生きられる。
 すべてを私が背負う必要は無い。
 其処に貴方が居てくれる限り。
 そしてだから、私はいつだってすべてを背負う事ができるの。
 私は貴方をずっとずっと見続ける。
 それが馬鹿な事だっていいの。
 馬鹿だって言ってくれる貴方の優しい笑顔があれば、それでいいの。
 私はなにも貴方のせいにはしない。
 私は私の願いのまま、こうして私を生きている。
 私の願いを叶えた世界を生きるために、私は私の中の衝動を認めるわ。
 だから私は私。
 だから私の罪は私の罪。
 
 『ひとつになる必要は無いよ。
  だってマドラックスとして生きた時間は、紛れも無くあなただけの時間だもの。』
 
 私の生きた世界は、紛れも無く私の世界。
 だから私は其処に自分の意志で「普通」に生きていくの。
 私の中にある善意と悪意に揺り動かされても、
 私は私の罪を忘れずにそれでもゆっくりとこのまま生きていく。
 それが私の本質だと思うから。
 貴方はそれなのに・・・・・ 『悲しくないの?』 ときいてくれた。
 私・・・・私・・・・
 
 
 
 
 『ありがとう・・・・・・・・・私・・・・・・・ごめんね・・・。』
 
 
 
 
 悲しみを感じる優しさが、それでも私にあるって言ってくれて、本当にありがとう。
 その悲しみに囚われながらそれでも生きるひとつでふたりの私に、ごめんね。
 
 そして。
 
 私の愛する私のすべての罪に、本当に本当にごめんね。
 
 
 ◆◆◆◆
 
 其処に其れが居るから見つめざるを得ないのでは無く。
 其処に居て欲しいと願いながら見つめる故に其れは其処に在る。
 其れがその見つめる者の真実。
 罪もまたそれが在ると思わざるを得ない故にそれを悲観しならがも背負い込むのなら、
 それは無いに等しい。
 同じく、その罪を背負うを誇りとせばそれもまたその本質を見誤り見失い、
 其れを其処に見つけられないのならばそれもまた無いに等しい。
 マーガレットは自分の罪を生きる。
 それを優しく笑顔で見つめながら、そして謝り続けながら。
 
 MADLAXは凄い作品だと思う。
 ツッコミどころは多々あれど、それを突っ込む観点から理解して楽しめる上に、
 さらにその観点を変えても、いくらでも吸収できるものを備えている。
 演出過多・演出過剰の気配があるのも確かだが、
 その気配を別の何かの気配と感じる事もできる。
 それだけのエネルギーがある事はまず間違いない。
 私はその大元にあるエネルギーを使って、感想をこね上げるだけ。
 その上、ひとつの物語としてきっちりと組上げられているこの作品は、
 ただそれだけとして鵜呑みにできる嗜好品としても、なかなかの味わいを持っていると思う。
 勿論その味に見る者の好き嫌いはあろう。
 しかしMADLAXはその嫌いな味の裏に、さりげなくその他の様々な味を忍ばせている。
 どの味を引き出すかは、見る者次第。
 見る者が其処に何を見たいかによって、浸み出してくるその色合いは変化を魅せてくれる。
 その変化の可能性を、その過剰な演出や「無茶苦茶」な設定の醸し出す気配に感じられれば、
 MADLAXは何回見ても楽しめる名作と言えるだろう。
 この味で無ければ駄目、嫌い、という人にはたぶん迷作となるであろうとも思うけれども。
 しかし嫌いならばそれはそれでその嫌いという観点からツッコミを数多入れる事も可能なのである。
 そういう意味でMADLAXはツッコミ大歓迎の作品であろうし、
 笑われれば笑われるほど作者も苦笑いと共にそれでも作った甲斐があると思えるだろう。
 ちなみに私がツッコミ感想を書いたのは嫌いという観点では無いということは、
 読み続けてくれた方々には多少なりともわかって頂けてはいると思う。
 ツッコミを入れる事でも楽しめる、むしろそういう感覚で私は書いてきたつもりなのである。
 実際、私はもの凄く楽しかった。
 本日書いたような文章より、ツッコミ感想を書いていた方が楽しいとそう思えたほど。
 描かれた映像の意味を、それを見たままの型どおりとして受け取るか、
 それとも隠喩として見てみるか。
 そしてその見たままの型をどう評価するのか、そしてその隠喩をどう解釈してみせるのか、
 それぞれ分岐の発生するところは数限りない。
 MADLAXはこれみよがしに隠喩が散りばめられているが、
 その隠喩自体が既に作品に組み込まれているものや、隠喩だけの意味をすべて抽出して、
 その抽出されたものだけで綴る全く違うMADLAXを形成する事も可能であったりする。
 それもまた一本道では満足できないほどの嬉しい可能性なのだ。
 ま、だからツッコミのし甲斐があるんだけどね♪
 
 
 って事で、これでほんとのほんとにMADLAXは終わりでごぜーます。
 色々楽しかったっす。
 ありがとう。
 
 いやなんかもう、マドラックスvsリメルダ第二ラウンド開始とか私の中で妄想を尽きなくさせてくれて。
 
 
 
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「MADLAX」より引用 ◆

 
 
 
 

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                                ■■有終の美、炸裂■■

     
 
 
 
 
 
 なにかこう色々アニメ、終わりました。
 感想も書き終わりましたのがふたつほどあります。
 良かったですね。楽しかったですね。お疲れ様。
 そのあたりはいずれ追々語る事にはなるかもしれない可能性が少し残っていますが、
 ていうか気分次第。どーでもいい。
 という訳で今日は終わった他のアニメなどどこ吹く風で、
 昨日最終回を迎えたばかりのMADLAXでいってみようと思います。
 まずはちょっと適当に適当を重ねた主要登場人物紹介なぞ、如何?
 
 〜紅い瞳のマドラ主要登場人物紹介〜
 
 ■マーガレットお嬢様:(マーガレット・バートン)
  お嬢様。主人公。天然系。花も恥じらう時々素手で人を殺せる17歳。でも籠絡されやすい。
  独断専行を地で行きながらもエリノアさんには御されてしまうカワイイ面も。
  でも侮れない。隙を見せると発砲します。非常に危険。触るな危険。
 
 ■マドラックスさん:
  優しい人殺し。もうひとりの主人公。強い。ドレス着るとスーパー化する。
  あんまり人の話聞かない。たまに天才的な籠絡術をみせる。でもお嬢様にはまだ手を出してない。
  基本的に存在自体が嘘っぽいと思ってたら、本当に嘘だった。どうしよう。
 
 ■エリノアさん:(エリノア・ベイカー)
 メイド。バートン家至上最高のメイド。お嬢様に目が無い。
 お嬢様の起こし方その3という奥義を隠し持ちながら、既にお嬢様を御しているのはさすが。
 ベイカー家に代々伝わるお嬢様捕獲術を極めてるだけの事はある。
 得意技は飛び膝蹴り。お嬢様以外には冷たい。ものすっごく冷たい。でもたまにぬるい。
 
 ■ヴァネッサさん: (ヴァネッサ・レネ)
 元お嬢様の家庭教師。カッコイイお姉さん系美人。でもヘタレ。なんかもう、ヘタレ。
 回を重ねる毎にみんなに引っ張り回されて、トチ狂ってマドさん17歳を誘惑しようとするも微妙に失敗。
 ただしアンチリメルダ能力は脅威のひと言。脇役の意地。
 
 ■リメルダさん: (リメルダ・ユルグ)
 元王国軍親衛隊員。今はストーカーど真ん中。マドラックスさんが大好き。
 マドさんのためならなんでもするというのが言葉だけじゃない凄い人。やるときは殺る。
 でもヴァネッサさんに悉く邪魔され結構可哀想な人。でも怖い。惚れちゃうくらいに怖い人(紅い瞳談)
 
 ■ナハルさん:
 侍女。クアンジッタ様に仕えてる。アクションの出来るお笑い芸人という人も居るが、よくわからない。
 実力はマドラックスさんと同等かそれ以上なのだけど、
 お嬢様に寝言で殺害予告を出されてトラウマを受ける過去を持つ。
 お嬢様から逃げるためにはなんでもするつもりはあるのだけど、クアンジッタ様が怖くて逃げ出せない。
 それでもなんかよく画策してる。でも、基本的に策士策に嵌るの人。憎めない。
 
 ■クアンジッタ様:
 謎の美人。なんかみてる。傍観者。要するに暇人。
 自分に尊敬と注目が集まらなくなった途端、手首とか切り出す残念な人。
 頭は良いのにあまり有効に使わない。面倒くさいのかもしれない。
 でも結構いい人。きっといい人。
 
 ■カロッスアさん: (カロッスア・ドーン)
 アンファンの犬。フライデーさんの手下。やり手。
 お嬢様に接近するもエリノアさんにけちょんけちょんにやられる。
 そしてようやく近づいたお嬢様にもあんまり話を聞いて貰えない。
 しかしふたりと対戦するうちに徐々に腕を上げてきた才人。
 でも切り札は全部かわされ小技だけなぜかクリティカルヒットを奪える謎の才能の持ち主。
 そしていつの間にかお嬢様の籠絡に成功。以降エリノアさんの標的。
 
 ■フライデーさん: (フライデー・マンデー)
 アンファン総帥。変態。ていうか変態。
 世界は自分の変態行為の展開場所と心得ているステキ仮面。
 天然系のお嬢様には通じないのじゃないかと見せかけてバッチリ効いたその籠絡術は天下一品。
 強きを挫き弱きも挫き他にも色々挫いちゃってる人。でも自分だけは挫けない普通に嫌な人。
 けど憎めない。ていうか面白すぎ。
 
 ■チャーリー: 
 ヴァネッサの部下っていうか居たなそんな人も。
 スタッフと視聴者と他のキャラにも長い間忘れ去られ殺されるために思い出された儚い人。
 その死の功績として取り敢えず二階級特進して主役級キャラへとランクアップ。
 そして最終回の中で自らの存在を叫んで復活。
 なにかこう、楽しい。
 
 
 
 それではいつも奴、どうぞ。
 
 
 
 長い間とっても楽しい時間を過ごさせてくれた事に大感謝して最後までオマケと言ってみるテスト:
 変態さんさようなら(挨拶)
 時代を見つめる傍観者、クアンジッタ様がみつめる中、最後のドラマが始まります。
 マドラックスさんが真実を語ります。
 マドラックスさんは、父親を撃ったお嬢様の罪。
 そしてレティシアはその刹那の瞬間のまま残った幻影。
 そのふたりが今、お嬢様の前に姿を現したのです。
 これがお嬢様の真実。
 横合いから変態さんもこの出会いを祝福してくれますが、
 今までで一番マジ入ってるマドさんにより強制排除。
 お嬢様ばりに容赦なく発砲して黙らせっていうか当たってる当たってる。
 思う様ぶっ倒れたフライデーさんは舞台から消えて無くなってしまいます。
 もうなんでもありです。
 そしてマドさん、お嬢様に撃たれる前に自分の銃をお嬢様に渡します。
 この偽物お父様を撃ったのは私じゃないよ、と言わんばかりに。
 また誤解して撃たれたら堪らないマド姐さんの危険回避法のようです。
 でもその割には自分でこれが私の罪とか言ってるからフォローのしようがありません。
 そしてマドさんはいきなりマーガレットお嬢様とひとつになろうと言い出します。
 自分の罪から逃げないでとどの口で言ってるのか知りませんけれど
 マドさんとレティシアさんは三人がひとつになるかならないかをお嬢様に選ばせようとします。
 これもお嬢様の願いのため。お嬢様のためなのです。
 が。
 お嬢様: 「嫌だよ。怖いよ。」
 空気を読まない女、マーガレット。
 案の定レティシアから非難囂々。
 そうやって選ばないから私は独りになっちゃったんだとかなんとかネチネチ嫌味を言ってきます。
 さすがに人形に刃向かわれるとは思っていなかったお嬢様は珍しくたじたじですが、
 マドラックスさんは妙に優しくお嬢様を諭します。
 怖いなら私を撃って、私はそれでも構わないからと言うマドさんですが、
 逆にそう言われたら余計怖いと思うお嬢様。
 そんな事言われて普通撃てるはず無いですよねぇ。
 まー本来のお嬢様なら躊躇い無く撃ちそうですが、
 今のお嬢様は変態さんの操作から外れたばかりでリハビリ中の身。
 このレティシアの非難とマドさんの優しい脅迫により、お嬢様は大きく揺らぎます。
 そしてその狭間でテンパった末に、
 本当に消えちゃってもいいの? とか起死回生の超反応をみせるお嬢様。
 マズイ。このままでは、お嬢様がまた鬼になります。
 けれどここでひいてしまってはマドラックスの名折れ。
 マドラックス、いきます!
 
 マドさん: 「平気。それでも存在することはできるから。だって想ってくれる人達がいるんだもの。」
 それはリメルダさんを丸め込む時に使うセリフです。
 
 ここ一番で自分が言葉の選択を間違えてるマド姐さんたらステキです。
 でもこのままでは撃たれてしまいます。
 その様子をみつめるクアンジッタ様的にはちっ、つまらない事になってきたなおいみたいな感じです。
 レティシアも
 ところがここでお嬢様の超反応、再び。
 マドさんとひとつになりたいと言い出すお嬢様。
 今度はマドさんの方がテンパって、私は人殺しだよそれでもいいのとか余計な事を聞いてしまいますが、
 背後のレティシアの殺意のこもった視線を感じて、慌てて黙ります。
 お嬢様がレティシアに手を伸ばして、ひとつになってくれると言っています。
 レティシア: 「あなたが、それを本当に望んでいるのなら。」
 この子はきっと大したモノになると思う。
 人形なのに主役ふたりを操ってる不思議少女に乾杯。
 そしていよいよ合体。
 どんな化学反応をみせるのか、と思ったら、
 お嬢様、マドさんのドレスを装着。
 この世で一番怖い化学反応、ていうか核融合。
 原理とか理屈とかもうさっぱりですがていうかレティシアは人形に戻って転がってますが。
 ひとつになってないじゃん。
 ていうかマドさんはドレスだけの人ですか。
 いいんですもう、その辺りの難しい事はナシにしましょう。頭痛いです。
 とりあえずわかっている事は、鬼に金棒、お嬢様にマドさんのドレス。
 もうなにが起こるかわからない、っていう事でしょう。
 そしてなにもわかっていない変態がノコノコと再登場。
 もう本質とか古いんじゃボケ(マテ)
 しかしそこはそれドレス着ても中身はお嬢様ですから、あっさり籠絡されます。
 お父様を殺した事、そのときの殺意が本質でその事に気付いていたお嬢様に、
 その事をみんなに伝えてあげようとそそのかすフライデー氏。
 耳打ちするようにそっと教えてあげればいい、と。
 フライデーさんの嬉しそうな顔と言ったら、もう。
 ああ、お嬢様がフライデーさんに再び操られていきます!
 世界中の人々に世界に歪みがあることを!
 前回死んだチャーリーが普通に生きてた事とか!
 銃を使わなくても言葉で人を殺せると豪語するお嬢様は前科一犯ですのでマジです。
 フライデーさんの喜色に満ちた高笑いの中、お嬢様が世界を変える!
 と、不意をついてフライデーさんに銃を向けるお嬢様。
 フライデーさんの驚いた顔と言ったら、もう。
 もうすこしがんばりましょう>変態さん
 
 (CM)
 
 フライデーさんに銃を向けるお嬢様。
 けれどフライデーさんはそうして私に向ける殺意もまた本質と頑張ってこじつけてみますが
 そんなんじゃないよとお嬢様に一蹴されてしまいます。
 起死回生の一手がかわされてすっかり黙ってしまうフラーデーさん。
 その隙にお嬢様、喋る喋る。
 今までで一番喋ったんじゃないでしょうか。
 みんな自分の中に悪意があることくらい気付いてる、
 わざわざそれを教える必要なんて無い、と。
 お嬢様、とてつもなくフライデーさんを侮辱。
 だけどひとりだけわかってない人がいるから、私はその人に教えてあげると。
 そう、マドラックスさんに。
 みんなその自分の悪意を覚悟の上で背負ってるのだから、そんなに優しくしなくっていいよ、と。
 だから自分はマドラックスさんに、ここでフライデーさんを殺す私の悪意をみせてあげると。
 自分の悪意が犯した罪をしっかりと背負い、そして背負うからこそその罪は在る。
 だからマドラックスは居る。だからフライデーさんを殺す。
 フライデーさん、黙ってるうちに大ピンチ。
 気付けばいつのまにかお嬢様はフライデーさんを殺す方向に完全に向き直っちゃっています。
 やっぱり喋れない変態はただの変態だったようです。
 ほらー、なにも言い返せなくなったからって銃を撃たないの、そこ。
 その上そのお嬢様のポーズの意味もわからないくせに。
 ドレスアップマドさんのオートスキル・全弾自動回避が発動。
 そして銃をゆっくりと銃を構えるお嬢様。
 自分の悪意で罪を犯し、そしてその罪を罪として在らせ続けせるために。
 そう、そのためにこそあの人の優しさがある。
 
 
 そして。
 
 
 マーガレットお嬢様: 「私は悪い女の子です。」
 
 
 お嬢様、最高。
 
 
 MADLAXは私的にはお嬢様で始まりお嬢様で終わり。
 途中メイドストーカー変態にも立ち寄らせて頂きましたけど、
 お嬢様はやはり外せません! 属性力が違う!(違)
 くぅー、素晴らしすぎで御座います、マーガレットお嬢様。
 あの世でエリノアさんもさぞ嬉しさで目が眩んでいる事でしょう。
 そしてお嬢様の銃弾を受けて、変態、敗北す。
 瞬間、フライデーさんは現実世界に戻されてしまい、歯がみして悔しがります。
 が。
 その暇も無く、なんと紛れもないマドラックスさんが現われます。
 不可解だ、と本当にびっくりしてる変態さんをよそに、
 マド姐さん戦闘開始。
 もうドレスなんて無くても強い強い。
 ここぞとばかりにフライデーさんが兵士を召還しても、悉く打ち倒してしまいます。
 結構イケると思ってノリノリで兵士に攻撃させてフライデーさんがちょっと哀れですが、
 なんかあの悔しがる顔に萌えるんです。
 滅茶苦茶悔しがってるんですけど、もうなんかまだなにも全然わかってないところとかカコイイ。
 マドさんに最後の銃弾を撃ち込まれ、敢えなく最後を迎えるフライデーマンデー氏。
 思えばこの人は自分の真実をずっと信じて此処までこうやって頑張ってきた訳で、
 その努力は凄まじいわけで、それが報われないのは可哀想。
 そして突きつけられた現実を偽りと言い切り、最後の最後まで自分の真実を求めたフライデーさん。
 私、結構尊敬してるんですよ、彼の事。
 私の中にフライデーさんは確かに存在しています。
 最高の変態として。
 だから安らかにお眠りください。
 ていうか起きるな。
 
 そしていよいよお嬢様の願いが叶うときがきました。
 扉の向うでは、ヴァネッサさんとエリノアさんが優しく微笑んでいます。
 カロッスアさんも花を片手にこっちを見いやあんたは違うだろ。
 と突っ込みながら、終了。
 お嬢様が望むものはなんだったのかというと、
 それはやっぱりマドラックスさんとレティシアを現実の存在にした事でしょうね、やっぱり。
 お嬢様が世界や時代に望む者。
 そんなのはヴァネッサさんやエリノアさんやカロッスこいつは違うか
 彼らのようにお嬢様が愛せる人々が居る事に決まってるじゃないですか。
 マドラックスさんを抱きしめながら、レティシアに妹勧誘するお嬢様。
 そして死んでいるようにも見えるクアンジッタ様を見つめるナハルさん。
 もし亡くなっていたら大変ですよ、ナハルさん。
 遺体の側に居る者に無条件に発砲する誰かさんを忘れてませんか?
 ましてやそれがナハルさんなら、跡形もなく消されるかもしれません。
 此処までお嬢様から逃げ切ってきたのだから、もうちょっとセーフティーにいきたいところです。
 そして場面変わって。
 
 リメルダさん、至福の時間。
 
 なんとマドラックスさんとドライブです。
 実に嬉しそうにハンドルを握るリメルダさん。
 幸せに目が眩んで事故ったりしないか心配です。
 リメルダさん: 「見続けるわよ、あなたを」
 マドラックスさん: 「馬鹿ね。」
 リメルダさん: 「そう?」
 マドラックスさん: 「ええ、馬鹿よ。」
 リメルダさんの幸せそうな顔と言ったら、もう。
 紅い瞳的に一番幸せになって欲しかった人の笑顔は眩しいです。
 ほら、そこ、スリースピードからのビジネスの電話なんか切っちゃえ!(横暴)
 せっかくリメルダさんが上機嫌なんですから、それを邪魔しちゃったら駄目です。
 ほらほら、スリースピードもビジネス以上の繋がりが君との間にあったかなって言ってますし。
 マドラックスさん: 「あるわ、きっと。」
 え? 
 マドラックスさん: 「だってあなたの中に、私が居るから。」
 そ・・それは・・・・
 リメルダさんへのプロポーズの言葉じゃないですか。
 
 リメルダさんがみてる(殺意を込めて)
 
 
 
 

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                        ■■マリア様のパラソルの下の平等■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 衝撃でした。
 
 その衝撃をなにかにたとえようとしている自分のその手をそっと押さえて、
 そしてそのまま胸に手を乗せ撫で下ろす。
 目の前にあるはずのものがそっくり目の前から消えている事に気付いて。
 これは私が見ているものでは無いのです。
 これは私が体感しているものなのです。
 だから私は静かに落ち着いていく私の鼓動が、何処か遠くへと去っていくのを感じているのでした。
 私なんて何処にも居ない。
 私という輪郭の中に、今まで私の瞳の中に映っていたその光景がすっぽりと埋まっている。
 その私を見下ろす私でさえ、もう其処には居なかったのです。
 
 
 
 
 マリア様がみてる〜春〜最終話『パラソルをさして』、みました。
 凄かった、です。
 もの凄かった。
 今までのマリみてどころか、今まで私が見たすべてのものの中に類似するものが一切無い、
 そういうものを私は見ていました。
 なんなのでしょうこれは、と思いいつものように分析やら感想やらを頭の中にひねり出す、
 そんな作業を受動的にも意志的にもしようとする気がまるで起きない程の圧倒感。
 圧倒されたのは私。
 でも私は一体なにに圧倒されたのか、そのなにかに対してはまったく興味が抱けず、
 というよりも普段ならば当然抱けるそれを受け取ろうと思えば受け取れるモノ、
 それも確かに今回のお話にもあったのですけれど。
 でも、それを見ている余裕すらないほど、私は衝撃を受けて手一杯だったのです。
 
 最近のマリみてアニメを、
 「ちょっとひと言いえば済んでしまうような事を言わないで、そのせいで大騒ぎしてるそういう話」、
 そのように評していらっしゃる方の文章を良くみかけます。
 私は今回のお話をみて、初めてこの評の通りだと思いました。
 ああ、そういう事だったんだ。
 本当に今回のお話だって、祥子様がひと言祐巳さんに伝えれば、このお話自体有り得なかったのです。
 弓子さんと祥子様の御祖母様の仲だって、たぶん同じようなものだったはず。
 そう、そうなんです。
 祥子様が祐巳さんになにも言わなかった、いえ、言えなかったという事実。
 それがどれだけ些細な事で、そしてそれはどれだけ凄まじい事であるのか、
 私はこの『パラソルをさして』をみて、逃げること叶わぬほどに思い知らされてしまいました。
 祥子様は、なにも語らない。
 なにもかもを語る必要があったなんて、それはそれを「みている」人だからこそ言える事。
 そして「みている」限り、祥子様の「あの」凄みを感じる事はできない。
 私はずっとずっとそうでした。
 物語の構成だとか演出だとか、そういうものの不整合さを評価の対象にする事を厭うていても、
 祥子様が語るわずかの言葉だけを見つめて、これではなにもわからないとさじを投げる事は厭わない。
 まるで、なにも語ってくれない祥子様に不満をぶつける、かつての祐巳さんのようだったのです。
 
 
 祥子様はなにも語りません。
 けれど祥子様はもうすべて語っているのです。
 
 
 言葉というもの。
 それはそれだけで閉じて在るものではありません。
 語られる論理的展開の中にだけ、祥子様の語りたい事がある訳ではありません。
 紡がれた言葉の外から、それを冷淡にみつめている祥子様。
 言わなければなにもわからない、それはつまり祥子様を理解しないという事。
 そして祥子様をわかるとか理解するとか、そういうものもたぶん言葉の中にしか有り得ない。
 人というものがたとえすべてを言葉の中で捉えているのだとしても、
 それが「自分の言葉」でしかなければ、結局は「祥子様の言葉」を自分に取り入れる事はできません。
 祥子様は自分の言葉を祐巳さんに、だからかぶせなかったのです。
 そして。
 かぶせられなかったのです。
 
 祐巳さんに御祖母様の事を祐巳さんに話せば、祥子様は涙が止まらなくなる。
 だから祐巳さんにはすべてを察して欲しかった。
 でもそれは祥子様の甘えで、それを祐巳さんに求めた我が儘、それが悪かった。
 祥子様は、前回までの祐巳さんとまったく同じような事を祐巳さんに言います。
 祥子様は其処までわかっていながら、祐巳さんに語る事ができずにうずくまっていたのです。
 祐巳さんが来てくれたのを、夢では無いかと疑ったのです。
 本当は自分がいかなければいけないのに。
 それでも、行けなかった、祐巳さんの元に。
 悪いのは祥子様。なにも語らなかった祥子様が全部悪い。
 その罪悪感はけれど、祐巳さんの元にその身を走らせる事無く、涙を流してうつ伏せにさせていただけ。
 祥子様が祐巳さんになにも語る事ができなかった苦しみが、
 それがどういう事なのか、私には決して「理解」なんてできはしないでしょう。
 
 
 そして私は、理解する気もありません。
 
 
 綺麗にひとつのお話として受け取るつもりはありません。
 これはこういう事が「言いたい」お話で、だから私はそれに対してこう思う、なんて書きたくありません。
 構図化することは可能です。
 祐巳さんと祥子様のお話を類型化して、それにただ「萌える」事も可能です。
 そして簡単な形をより複雑に分解して、新しく読み解くという事も可能です。
 でも、今の私はそんな事はしたく無いのです。
 言葉で説明してこれはこういうお話だった、だから凄かった。
 それははっきり言って、今の私にとっては嘘です。
 確かにその説明する際に使われた言葉は、今回のお話の輪郭を描いてはいるでしょう。
 でも。でも。
 私はもうこのお話の輪郭を見ている訳では無いのです。
 私はもうこのお話の中に詰まっているものをすっぽりと吸い出して、私の中に入れてしまったのです。
 私が「言える」言葉は、ただひとつ。
 ああ・・・・そうだったのかぁ・・・・と。
 私はこのお話を見て、追って納得するだけなのです。
 そして納得した途端、それはもう私と一体となっているのです。
 勿論、そんなのは私の妄想にしか過ぎません。
 でもその「妄想を感じている」私は、確かに居ます。
 ええ。
 「妄想を感じている私」をみつめている私が居るのではありません。
 私を見つめている私はいません。
 なぜなら、私はその「私」を語らなかったから。
 ゆえにそれは「妄想」でも何でもなく、事実なのです。
 祥子様が祐巳さんを抱いて語った自分の姿を、それを感じているとは思えません。
 言葉を交えて事実を伝える祥子様だけが其処には居たのです。
 悪い悪い祥子様が、其処に。
 その事実を祐巳さんは否定する事無く受け入れるのです。
 祥子様が悪いのは事実。そして祐巳さんが悪いのも事実。
 ふたりがそれぞれ悪いと思っている限り、それは悪い事に他ならない。
 
 
 そしてふたりとも、その自らの悪など簡単に自分から取り払ってしまいます。
 
 
 御祖母様の死の悲しみに囚われた祥子様。
 祥子様の言葉を聞けなくて苦しんでいた祐巳さん。
 祐巳さんの元にいきたくてもいけない苦しみを感じていた祥子様。
 蓉子様に問われてそれでも祥子様が好きと答え祥子様の元に来た祐巳さん。
 これらひとつひとつの「言葉」により説明された構図を、
 ただそれだけでしか捉えられないなら、それはそれまで。
 そして。
 『あなたの事が、好きなの』とすべてを飛び越えて言えた祥子様。
 いいえ、飛び越えているように思えるのならそれはおかしいのです。
 すべて繋がっているその見えない祥子様の糸が見えた瞬間、
 ようやくにして祥子様を感じる事ができるのです。
 自分達の罪悪感をそれを言葉として切り離してみても、
 それでもそれは見えない糸でしっかりと繋がっている。
 その言葉で体を覆い隠してしまう嘘を言わない代わりに、
 だからこそ祥子様はその言葉を敢えて使って祐巳さんに伝えたのです。
 『あなたの事が、好きなの』、と。
 祐巳さんにも理解できる言葉を敢えて使って。
 祐巳さんでも受け取れる言葉を使って、敢えて祥子様は「祥子様」を伝えたのです。
 それが言葉でしか表わせる事ができない ものがあるのならそうするのです。
 たとえ自分の伝えたいものがすべて伝えられなくても、それでいい。
 それよりもまず祐巳さんが理解できるものだけでも渡したくて。
 それは嘘だっていい。
 正確で無くてもいい。
 でも。
 でも伝えたいものが少しでも入っていれば、それは既に伝える価値があるのです。
 そして、そうであるのならば伝えなくてはいけないのだと、祥子様は思ったのです。
 自分と祐巳さんとの間で「言葉」の使用が認められている限り、
 祥子様はなんといおうと自分を語らなくてはならないのです。
 祥子様の悲しみが、張り裂けんばかりに私の中に広がっていきます。
 そして祥子様の決心した瞬間の音が聴こえてきます。
 
 なにも言わなければなにも伝わらなかった事も、また事実。
 
 どんなに自分が表現してみても、それが相手に伝わらなければ、それは相手を困らせてしまうだけ。
 だから、祥子様は最後に語ったのです。
 祐巳さんへの想いを。
 それが正確では無くても。
 それが言葉で表された瞬間歪み切ってしまうものだとしても。
 それでも祥子様は御自分を語って魅せたのです。
 
 
 
 
 
 
 
 パラソルの下で、祐巳さんと同じ世界で想いを交わすために。
 
 
 
 
 
 
 
 どんなにすれ違っても。
 どんなに理解し合えないと思っても。
 どんなにお互いが悪いと思っていても。
 それでも祐巳さんが好きなのは、祥子様の想いである事に間違いは無いのです。
 すべてが祥子様の言葉に収束していきます。
 語ることを忌避していたはずなのに、
 このとき祥子様の想いは、その言葉のために変換されていきます。
 好きという言葉にすべてを詰め込んで。
 その言葉を、自分のすべてとするために。
 祥子様は語ります。
 そして今度は言葉ですべて言い表せるようにと願いながら。
 祐巳さんと繋がる事ができる大事な大事な言葉というものの価値を「実感」して、
 言葉こそが自分のスガタであらんと祈るのです。
 
 勿論、マリア様に。
 
 祐巳さんと同じ世界に生きられる事を。
 祐巳さんと同じ言葉で同じ想いを語り合える事を。
 祐巳さんと同じ罪悪感を同じ論理で展開できる事を。
 祐巳さんと同じになりたい。
 それは祐巳さんと同じものを食べたり同じものを着たり、
 そうやって普通の人達と並んで立ちたいと願い続けていた祥子様の想いの結晶。
 そうして初めて、祥子様が祐巳さんを「理解する事」に意味ができてくるのです。
 祐巳さんとひとつになるという意味ではありません。
 祐巳さんと全く同じになるという意味でもありません。
 祐巳さんと同じ世界を生きたいというだけ。
 祐巳さんとマリア様の下で同じ祝福を受けていたいというだけ。
 そして。
 祐巳さんとパラソルという名の言葉をさして、平等に理解し合いたいだけなのです。
 
 
 
 
 祥子様の言葉が祐巳さんに通じる事の凄さにこそ私は衝撃を受けたと、
 私はだから敢えて此処に告白させて頂きます。
 
 そして私は。
 祥子様をみている私とようやく出会えたのでした。
 
 
 

◆   ◆

 
 マリア様がみてる〜春〜は、これで終わりを迎えました。
 私は第一期とこの第二期は全然違うものとして受け取っていたことを、
 こうして最後の最後に少しわかったような気がしました。
 第一期はそれこそ聖様尽くしで、もう私は夢中になって聖様の中で泳ぎ回っていました。
 私の回りはすべて聖様でそして私は其処での泳ぎ方を良く知っていて、
 だからずっと泳いでいるうちにそれでもさらに良い泳ぎ方は無いかな、とそう考えて、
 さらに聖様を全身で感じられる泳ぎ方を考えていたのです。
 対象はほとんどすべて聖様。
 私にとってはわからない事などひとつも無い、
 ただわかり切っているものをさらにさらにわかり切りたい、その至福の遊戯の連続なのでした。
 それに志摩子さんが別の形で、それでも密接不可分にして加わったり、
 そして聖様的思考の対極に位置する結論を導く由乃さんを、
 敢えて聖様的思考に変換しないでそのまま由乃さんとして独立して書いてみたり。
 だから聖様と由乃さんは別の海なんですけれど、
 でも聖様の海での泳ぎ方を知らなければ由乃さんの海で泳ぐことはできず、
 由乃さんの海で泳ぐ事ができなければ聖様の海では溺れてしまう、そういう関係でもあります。
 いずれにしろ、私にすれば私の中にあるものを聖様や由乃さんにぶつけて、
 そして変化していく自分のその想いを描き込んでいたのが、第一期の感想だったのです。
 
 けれど第二期は、どうやらそうはいかないという事が最初の頃からわかっていました。
 第二期は旧白薔薇・現(?)黄薔薇関連の話が少なく、
 基本的には新一年生、そして祐巳さんと祥子様の物語が中心でした。
 そしてなにより、私は第二期は祥子様を中心にして受け取らなければいけないと、
 そう心に決めていたからです。
 第一期のときにまるで書くことができなかった祥子様について、必ず書く。
 そういう決意の元に見れば見るほど、第二期は祥子様的思考で捉えずにはいられませんでした。
 祥子様的思考というものを私は理解していないというのに。
 まずはゆっくりその思考というものを理解していこう、
 そう思っているうちにもうあっという間に其処には祥子様の海が広がっていて。
 物語があれよあれよと進むたびに、私はなにもせぬまま沈んでいったのです。
 そして私はわかったのです。
 今自分の中にあるものを元にして、それに沿って論理的に理解を進めていくのでは駄目なのだと。
 きっと祥子様は私の中にある言葉では、そのままでは理解できないのだと。
 私はこれから、私にはできない事をしなくてはならない、そう思ったのです。
 そうやって姿勢を正したところで、私は祥子様についてなにも書くことはできなかったのです。
 なぜなら、私はただ此処に覚悟を決めて座っているだけで、祥子様に手を伸ばさなかったのですから。
 私はきっと、祥子様に受け入れて貰えるのを待っていたのです。
 私は私の言葉で祥子様を語る事を恐れ、避けた。
 私の言葉で祥子様の言葉を語るという無理が、嫌だった。
 そしてだから、私は祥子様を語るという事をやめました。
 やめてそして、祥子様をみつめることもやめました。
 祥子様を探すことも、そして祥子様的思考を前提に祥子様を感じる事も。
 そして。
 私は遂に祥子様を見失う事に成功したのです。
 もう祥子様は其処には居ない。
 祥子様はもう、此処に居る。
 祥子様が何を言いたかったかなんて私にはまるでわからなくても、
 それをわかったふりをして書いたりしなくても良い。
 なぜって。
 最初から私には祥子様を「描く」必要など無かったのですから。
 本当言うと、今日書いた文章は蛇足なようなものです。
 パラソルをさしての祥子様に凄まじく納得して、それで終わりで良かったのです。
 でも、こうして書いたのは。
 私がそれでも祥子様についてなにか書きたいという想いが、確かにあったからなのです。
 それを誰かに知って頂きたくて。
 それを祥子様に知って頂きたくて。
 そしてなにより、私自身に知って貰いたくて。
 祥子様をみているだけでは祥子様を感じる事はできなくて、
 だからそっくり祥子様を私の中に取り入れその祥子様を外でみている私を失って、
 そうしてようやく祥子様を感じる事ができたけれども、
 でもだからこそ私はそうしている自分をみつめている自分が欲しくて。
 
 だって、私をみている私が居るからこそ、祥子様を感じている私が此処に居られるのですから。
 
 
 以上、長々と13回続いた私の感想は終わりで御座います。
 もはや私には語れる感慨は御座いません。
 でもだからこそ敢えて申し上げます。
 
 
 
 マリみて最高。
 
 
 
 ですから当然、第三期があると信じています。
 無ければ貴方を殺して私も死にます。 (誰に言ってるんですか)
 
 
 
 
 それでは、また第三期で
 ごきげんよう。
 
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 

-- 040924--                    

 

         

                        ■■『守りし者たちの交響曲』 2 ■■

     
 
 
 
 
 『私はね、ふたりが生きてさえいればそれで良かったの』
 

                          〜 最終話のシリア・マウゼルのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 ----私は、裏切り者----
 
 
 私の大切な弟と妹が居れば、それで私は充分だった。
 戦争は嫌。
 だって、みんな死んでしまうのだから。
 命さえあれば、生きていられる。
 だから生きていられるだけで、私は幸せだったの。
 そして私は、弟と妹にも生きて欲しかったのよ。
 私はただそのために必要な事をしただけ。
 私の世界は、ただそのためだけにあった。
 たとえその世界に歩むべき未来が無いのだとしても。
 
 私はふたりが生きていてくれるだけで良かった。
 ふたりがなんのために戦おうとも、そのせいで死んでしまうのなら。
 私はふたりからその戦う理由を取り上げてでも、ふたりに生き残って貰いたいと願うわ。
 だから。
 私は人類を裏切った。
 敵と戦う術を人類から奪い、そうすればもう弟と妹も戦わなくて済むと思ったから。
 でも駄目だったのよ。
 ふたりはその手続きの合間に死んでしまったの。
 今となっては、私にはもうなにもわからない。
 私の裏切りがふたりを殺したのか、それともただ間に合わなかっただけなのか。
 
 私は、ふたりを愛する者。
 
 私にわかるのはそれだけ。
 そして私にはそれで充分。
 私は生きたままこの世界を管理する中枢となり、こうしてひとり生き残った。
 ふたりの居ない世界を支配する、人類を裏切った神として私は生きている。
 私はただ、ふたりに生きていて欲しかっただけなのに。
 
 
 
 『私は、間違っていたのかしら?』
 
 
 
 自分にできる事をしてきたつもりだったのにね。
 ふたりのためになんとか手に入れた世界を、ふたりにあげられなかった。
 それなのにこうして今、私はこの世界を支配している。
 誰のために・・・・。
 そう・・・・誰のために・・・・・。
 私は誰のなんのために、安全な世界を欲しがったのかしら。
 
 私は、弟と妹を殺した者。
 
 パシフィカ。
 あなたはどう思う?
 
 
 ・・・・・・
 
 『私、わかる気がする。
  私にもお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるけど、もし私の力でふたりを守ることができるんなら、
  私、どんなことでもすると思う。
  たとえそれが何千年何万年かかる事でも。』
 
 私はさ。
 馬鹿だからよくわかんないだけどね。
 でもそれでも、私は自分の大切な人に生きていて欲しいって思うのは間違って無いと思うし、
 それにそのために一生懸命になれるんなら、それで充分だと思うし。
 正直、裏切り者って言われんのって変な気もするし。
 だってさ、別にシリアさんは誰かと約束した訳じゃないんでしょ。
 私はあんまり人類だとか世界だとか言われてもわからないんだよ。
 もしわかったって、それって結局私の勝手に想ってる人類や世界にしかならないし。
 でもさ。
 もしシリアさんもそうなら、シリアさんは自分の想った通りの世界を生きた訳で、
 別になにか裏切った訳じゃないと思う。
 そもそも戦争する事に賛成してないんでしょ?
 弟と妹のふたりが生きていれば、それで良かったんでしょ?
 シリアさんは最初からそうだったんなら、大体それはなんにも裏切って無いでしょう?
 シリアさんは最初っからシリアさんなんだから。
 ふたりを守るために最善を尽しただけなんだから、私はその事は間違ってないと思う、たぶん。
 自分でできる事を目一杯やって。
 大切な人達を守るために頑張って。
 それ、私わかるよ。
 私も大好きなお兄ちゃんやお姉ちゃんのためなら、命だって賭けられるもん。
 
 でもさ。
 
 『閉じ込められたその世界の中でみんなが安全に生きられるとしても、それはなんか変だと思う。
  もし間違った道を選んだとしても、それは自分達で選んだ道だし、自分で選ぶ事ができるってことだから。
  初めから選ぶ事ができない世界は、やっぱり間違ってると思う。』
 
 やっぱりさぁ、なんか変なんだよ、シリアさんって。
 だってさぁ、弟と妹の安全を祈る気持ちはそれは全然間違ってないけど、
 でもシリアさんはそれだけでしか動いて無いじゃない。
 それだけで充分ていうのもさ、それは謙遜って言うよりはどっちかっていうと怠慢だよ。
 確かに私だってお兄ちゃんとお姉ちゃんには生きていて欲しい。
 でもそれはお兄ちゃんとお姉ちゃんもそう思って始めて意味があることなんだと思う。
 ふたりの安全を想うのはいい。
 でもそれだけじゃ結局独り善がりじゃない。
 もしそれで満足できちゃうなら、それは幸せかもしれなけど、
 でもそれってさ。
 私は違うと思うんだよ。
 私がお兄ちゃんとお姉ちゃんの幸せを願い、ふたりがそれに答えてくれて、
 その一致の中に、私が生きる理由が初めて出てくる。
 シリアさん。
 弟さんと妹さんがなんで戦っていたのか、わかる?
 きっとふたりは自分が生き残る事より大切な物のために戦って居たんだと思う。
 きっとふたりは、とても生きていたかったと思う。
 けど、けど。
 それでも戦わなければいけない理由があったのよ。
 戦うって事はでも、生きたくないって意味じゃないの。
 私、それよくわかるんだぁ。
 きっとふたりはシリアさんの祈りを知っていたと思う。
 だから堪らなく辛かったと思う。
 なにもかも捨てて、お姉さんと一緒に生きたかったのかもしれないよ。
 でも。
 だからといってそうする訳にはいかなかったと思う。
 それはたぶん、人類とか世界とかそういうもののためじゃない。
 正義とか信念とか、そういうもののためじゃない。
 
 
 
 ふたりはきっと、愛するお姉さんのために戦っていたのだと思う。
 
 
 
 シリアさんとの間にあるもの。
 自分達の命の安全を祈ってくれるお姉さんの想いに応えるために、
 だからこそ自分達の意志を捨てなかったんじゃないのかな。
 シリアさんが、自分達が生きてるだけで充分と思うのなら、
 自分達もまた自分がこれで充分と思える限界までを見つけてみたかったんだと思う。
 私ね、ふたりは言えなかった事があると思うの。
 それはきっとシリアさんが間違っていたところ。
 ふたりはね、自分達が生き残る事をお姉さんに祈って欲しかったんじゃ無い。
 ふたりはお姉さんに自分達の幸福をこそ祈ってって言いたかったんだと思う。
 なぜなら、シリアさんが自分達に寄せてくれた祈りを、シリアさんの自分勝手にしたくなかったから。
 シリアさんに自分達の生の責任を押し付けたくなかったのだとも思う。
 弟さんと妹さんは、自分達で選んだ自分の生をそれをちゃんと自分で生きてみせるって。
 よく考えてみて、シリアさん。
 シリアさんがふたりに生き残って欲しいと願うその想いの中に、ふたりの想いは含まれてる?
 ふたりがどう思っていようと生きていてくれればそれでいいなんて、よく考えれば変でしょ。
 自分勝手、でしょ。
 結局それって自分が満足すればそれでいいって事だし。
 でも、シリアさんはそういうつもりでその祈りを捧げてた訳じゃない。
 ふたりはそれをちゃんと知ってる。
 でも、それはそういう事になっちゃうのよ、どうしても。
 私もね、お兄ちゃんとその事で長い長い間ずっと喧嘩してたと思うのよ。
 そしてだから、ね。
 弟さんと妹さんは、お姉さんのその祈りをお姉さんの独り善がりにさせないために戦い続けたのよ。
 自分達で選んだ生き方を生きる事で、シリアさんの想いを確かに存在させていたのよ。
 だからね、シリアさん。
 
 
 私はね、そう考えられたから、初めてお兄ちゃんとお姉ちゃんと生きたいってちゃんと思えたのよ。
 
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 『人たる者よ、聞きなさい。私はマウゼル。剣を収め、兵を退きなさい。』
 
 
 『災いの種は去りました。忌わしき猛毒は以後、二度と猛威を振るうことはないでしょう。』
 あなたは愛する者と分かり合えたのだから。
 
 『扉は開かれました。人たる者よ。貴方達に自由と新しい大地と本当の空を返します。』
 大地の上であなたの見つめる空にはいつも、あなた達の大切なあの人がいるのですから。
 
 『今後託宣が下ることは無いでしょう。これからは手を取り合い、自分の足で歩いていくのです。』
 なにかの理由に縛られても、その縛られた体をあなた達は愛しながら前に進めることができるのですから。
 
 『マウゼルは天上では無く、貴方達の中にあるのです。』
 世界の中にあの人がいるのではなく、あの人の中に世界があるのですから。
 
 『未来は、貴方達の手で紡いでいくのです。』
 あなたがあなたで、愛するあの人達があの人達であるのですから。
 
 
 だからあなたに、あなたの愛しい兄と姉を返します。
 あなたなら、自分の中にある世界をちゃんと見つめられると想うから。
 廃棄王女だったあなたに見つめられる世界なら、
 きっとすべての人間がその世界を見つめられるわ。
 『私はやっと弟と妹の元にいける。』
 ありがとう。
 かつて世界の猛毒だった者よ。
 
 
 そして、さようなら。
 
 
 パシフィカ・カスール。
 
 
 
 
 
 
 
 ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
 
 紅い雲の下にお兄ちゃんがみえた。
 その瞳はただただ驚きに満ちていた。
 私の体が此処に降りた事を信じられないみたい。
 自分はあれほど無謀に空の高みへと飛翔したのに、
 それなのにその上から置き去りにしたはずの私の体が堕ちてきて。
 私が無くしたはずの命の血が、私とシャノン兄の位置を変えてくれたのよ。
 どんなにお兄ちゃんが駆けていったって、私だって負けずに何処までも飛んでいくんだから。
 お兄ちゃんが誰よりもなによりも私を愛してくれてると思える限り、
 私は何度だってお兄ちゃんの元に降ってやるんだから。
 お兄ちゃんが私の元を目指して帰ってこようとしてくれるのなら。
 私はこの流れ堕ちた紅い水を命に変えずに、お兄ちゃんの元へと繋がる扉に全部変えるよ。
 私は死んだって、こうやってシャノン兄と一緒に居られるんだ!
 私には私だけが生きられる命なんていらない。
 紅い血にありがとう。
 でもそして、さようなら。
 私はパシフィカだもん。
 そしてなによりお兄ちゃんとお姉ちゃんの妹だもん!
 だからお兄ちゃん。
 
 帰ろう、お姉ちゃんの元へ!
 
 私ね、もうひとりの私と会ってきたの。
 その人は妹じゃなくてお姉さんだったけど、でもだから私は自分の事と、
 そしてなによりラクウェル姉の事がわかっちゃったよ。
 私、お姉ちゃんに一杯一杯ありがとうって言いたいの。
 そしてね、お兄ちゃん。
 お姉ちゃんに本当はごめんねって言わなくちゃいけないのよ。
 一杯心配かけて。
 私とお兄ちゃん、いっつもお姉ちゃん置いてけぼりにしちゃって。
 私達の事、世界で一番愛してくれてるお姉ちゃん。
 そして私とシャノン兄ももお姉ちゃんを世界で一番愛してるから、だから。
 だからありがとうって言ってから、そしてごめんなさいっていわなきゃ駄目なんだから!
 私達はこんなに愛されてるんだから!
 だから私達はお姉ちゃんの元を離れても、これだけ戦えたんだから!
 だから、いくよ、お兄ちゃん!
 
 
 
 
 真っ白い本物の雲の下にお姉ちゃんが見えた。
 顔中一杯に拾い集めた私の命を込めて、そして私を見つめてた。
 お姉ちゃん、泣いてた。
 一杯一杯、本当に泣いてた。
 私の消えていく体を押さえ込んでいたのに、私の体はそれでも消えてしまって。
 そうしたらいつの間にかその私の体がお姉ちゃんの前の戻ってきて。
 お姉ちゃん。お姉ちゃん。ほんとうにごめんね。
 もう私の止まらない血を拾い集めなくていいんだから。
 お姉ちゃん、私の堕とした紅い血を涙と一緒に投げ捨てて私を抱きしめた。
 抱きしめてくれたのじゃなくて、抱きしめた。
 お姉ちゃんの想いの丈を全部使って私の戻ってきた体を求めてくれたの。
 
 
 『ただいま』
 
 
 お姉ちゃんに私のこの体をちゃんと返すよ、私。
 お姉ちゃんから取りあげた私の笑顔を、私はまたお姉ちゃんに魅せてあげられるよ。
 もう神様に祈らなくてもいいんだよ。
 お姉ちゃんが私の側にいるために、当たり前以上の力を尽す必要ももう無いんだよ。
 私はもう、此処に居るんだから。
 ごめんね、お姉ちゃん。無理させちゃって。
 そしてすべての力を振り絞って私を救おうとしてくれて、本当にありがとうね。
 神様に祈ってくれて、本当に本当にありがとう、ラクウェル姉。
 もう大丈夫。もう大丈夫だから、お姉ちゃん。
 お姉ちゃんの黒くて暖かい髪が気持ちいい。
 お姉ちゃん!
 私、帰ってきたのよ!
 
 
 
 
 
 
 お兄ちゃんが、うしろで泣いている。
 
 
 
 お兄ちゃん・・・。
 私を置いて私の代わりに世界を救おうとしてくれた人。
 それなのにどうしても私の元に帰らずには居られなかった人。
 私はこの人がどれだけの苦しみを受けてきたのか知っている。
 何処までも何処までも続く地獄の青空を、私より多くの血を流して戦ってきたお兄ちゃん。
 自分の命の容量なんて遙かに越えて、私を求めてくれたの。
 そして最後の最後に私が消えちゃって。
 お兄ちゃん・・・・。
 お兄ちゃん・・・・・・。
 私はそのお兄ちゃんのその涙を、ずっとずっと前から見ていたよ。
 お兄ちゃんがそれを今初めて流せた事、私はとっても嬉しいよ。
 お兄ちゃん、良かったね・・・・本当に良かったね。
 今まで流せなかった分、思い切り泣いて頂戴。
 すごいよ、お兄ちゃんは。
 こんなに長い間涙を流せずに血だけを流してきたんだもん。
 でもだからもう今は。
 お兄ちゃんが泣ける事が幸せなんだって、私は思うよ。
 お兄ちゃん、今まで本当にありがとう。
 
 お姉ちゃんは懸命に涙を流すシャノン兄を抱きしめてくれた。
 私の横で輝くシャノン兄の涙が、私とお姉ちゃんの宝物。
 私とお姉ちゃんは、シャノン兄の涙を止めさせない。
 お兄ちゃん、もっともっと泣いて。
 泣いて私達を幸せにして頂戴!
 私達にお兄ちゃんの幸せをもっともっともっと沢山魅せてよ!
 
 
 
 
 
 
 私達は、カスールの姉兄妹なんだから。
 
 
 
 
 
 
 ラクウェル姉とシャノン兄と私が居て。
 笑顔と涙を魅せ合って。
 私はそれで充分。
 
 
 
 だからさようなら。
 
 もうひとりの私だった、マウゼルの神様。
 
 私はちゃんと生きて、お兄ちゃんとお姉ちゃんを幸せにしてみせるね。
 
 私が笑顔で生きていくことで。
 
 私は私の中の世界をみつめながら、それでもみんなの世界の中で生きていくよ。
 
 
 
 
 廃棄王女の幸せを愛しながら。
 
 
 
 
 
 スクラップド・プリンセス  -- Fin
 
 
 
 
 

                              ・・・以下、エピローグに続く

 

*エピローグというよりはオマケのようなものを、次週更新する予定です。
明日更新、ではありません。来週ですから。たぶん来週の木・金あたりに。
もしかしたら出来ないかもしれませんけれど、そのときはご容赦くださいませ。

 
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 
 

-- 040923--                    

 

         

                           ■■『守りし者たちの交響曲』■■

     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 『神様・・・マウゼルの神様・・・どうかパシフィカをお許しください・・・パシフィカをお許しください!』
 
 
 指先に垂れ込める血溜まりの臭いだけが立ち上ってくる。
 妹の頭を乗せた私の手になんの重みも無く、
 もはや私が其処に手を添えている意味が無くなり始めていた。
 軽い・・軽すぎるのよ、パシフィカ。
 響く私の叫びになにも反応せず、虚ろな瞳にはなにも映っていない。
 その金色の髪が私の黒髪に埋もれていく・・・・。
 それなのにパシフィカは・・・私を呼んで・・・シャノンを探して・・・。
 どうしてもう其処に居ないのに、そんな事ができるのよ。
 どうして血溜まりは深く広がっていくのに、あなたの瞳は光をそのまま失っていくのよ。
 
 どうして・・・・どうしてなのよっっ!
 
 
 なんでこの血は止まらないの。
 流れ出るこのパシフィカの血はパシフィカの命なのよ。
 一滴でも私には失えないその大切な滴が、流れとなってこんなに沢山無造作に消えていって。
 冷たい地面に堕ちたその命は醜い燃え滓となっていく。
 なによりも大切なパシフィカの命が、どんどん燃え尽きていく。
 妹の命を鷲掴みにしてでも、その体の中にその血を押し戻したくて。
 誰か・・・誰か助けて!
 もうこんなに、パシフィカよりも重くなった血の山ができてしまったのよ!
 ウイニアさん! レオくん! 助けてよ! 
 私のパシフィカを助けてよ!
 貴方達の大切な大切なパシフィカを救ってよ!
 この血を止めて!
 
 片手でパシフィカの血溜まりに手を差し入れ、命をひとつずつ拾い上げても、
 それはもうパシフィカの体に戻ってもただの命の通わない紅い水にしかなってはくれない。
 誰かが助けに駆け付けてくれても・・もう・・・・。
 必死になって辺りに救い主を探してみても、其処には私しかいなかった。
 レオくんの顔には・・・・私と同じ絶望しか・・・無かった。
 消えていくパシフィカの体をただ見つめるだけしかできない。
 どうしようもない・・・・。
 レオくんの顔を見たとき、ほんとうにそう思えてしまった。
 シャノンの居ないこの場で、一番パシフィカを守れるのは私。
 そして私はパシフィカを守りきれなかった。
 ほんの一瞬の間にパシフィカの体には絶望の傷口が開けられてしまった。
 私にそれを再び綴じ合わせる事はできない。
 私はパシフィカを守ることはできても、パシフィカを救う事はできないのよ。
 そして・・・・。
 今のこの場に居る誰ひとりとして、パシフィカを救う事はできないのよ。
 私が全てをかなぐり捨てても、この瞳をすべて開いて見つめ切ってみても、
 ほんとうに・・・ほんとうにどうしようも・・・・。
 
 
 だから・・・・・だから・・・・誰か助けて・・・・・。
 
 神様・・・・パシフィカをお救いください・・・・・。
 
 
 誰でもいいの。
 パシフィカの堕ちた血に再び輝きを与えてくれるのなら。
 たとえパシフィカを殺した張本人であろうと、
 たとえパシフィカの存在を許さないとすべての人に告げた者であろうと。
 嗚呼・・・・・マウゼルの神様・・・・・助けてください・・・。
 私はあなたにすべてを捧げます。
 私やシャノンがどんなに貴方を恨んできたかなんてどうでもいいんです。
 私はただ、妹を救いたいだけなんです!
 他の誰にもそれができないなら、もうあなたしか!
 たとえ私達に救われる権利が無いのだとしても! 妹に生きる権利が無いのだとしても!
 神様、お願いです。妹をお救いください!!
 私の想いはすべて妹を救うためにあるのです。
 この血を止めるためなら誰にでもなんにでも祈ります!
 もしパシフィカをお許しくださるのなら、私はあなただけに祈りを捧げてもいいですから!
 私が代わりに死ぬ事は勿論、全世界が滅びてもいいですから!
 私がこの子の姉で無くなってもいいですから!
 私が妹をこれから一度たりとも守れなくなってもいいですから!
 
 ただ今この瞬間だけ、パシフィカに再度命をお与えください!!!!
 
 誰か助けて! 誰か!!
 
 
 わかっています。
 それが神の使いを殺しに行ったシャノンに対する裏切りであるということも。
 滅茶苦茶だって事も。
 虫の良い願いであるという事も。
 私の中に祈るべき神なんて居ないという事も。
 でも。
 
 そんなの関係無いのよ。
 すべてはパシフィカを救うためにあるのだから。
 
 あのときレオくんの中には、パシフィカを救える人間なんて居ないという言葉しか無かったじゃない。
 だったら、後はもう神様しか・・・。
 屈辱なんて感じ無いわ。恥ずかしいだなんて思わないわ。情けないだなんて考えないわ。
 そんな事、どうだっていいのよ!!
 私の今までの人生すべてを否定したって、パシフィカの命をこの体に戻さなくてはいけないの!!
 私にはパシフィカとの別れを感じてる時間も無い。
 パシフィカと別れるなんて有り得ないのよ。
 消えていくパシフィカの軽量は、妹を支える私のいやらしい両手のせいだとしか思えないのよ。
 パシフィカのぬくもりを感じられないこんな手なんて燃やし尽くしてやるわ!
 パシフィカ・・・ 何処・・・隠れてないで出てらっしゃい。
 あなたは死んだりしないわ。
 この黒い水たまりだってきっと私の涙なのよ。
 
 だから神様、お願いします。
 パシフィカを、許して。
 
 パシフィカ。
 あなたの血はまだ流れ堕ちているのに、どうしてあなたの体はもう動かないの?
 
 
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 『殺してやるっっっ!!!』
 
 
 すべてを尽して殺してやる。
 俺はお前らを殺しにいく。
 王都の奴らを守りにいくと言うよりピースメーカーを殺す。
 許さねぇ、許さねぇ。
 ぶっ殺す。
 どけ! 消えて無くなれっっ!
 お前らを殺して俺はパシフィカの元に帰るんだ!
 俺が飛んでた空なんて、俺はもうとっくに飛び越えた。
 周りは俺のまったく知らない星々に囲まれ、俺を動かすのは俺の知らない殺意だけ。
 俺はパシフィカを守るために、お前らを殺す。
 そのためなら俺はこの世界から飛び出したっていい。
 なにも無い不毛の空を彫り上げて、それを神と拝んだっていい。
 俺はパシフィカの元に戻る。戻るんだ!!!
 そのためにお前らを殺す。
 俺はお前を殺す。
 パシフィカの元に帰るために。
 
 すべてから飛び抜けて、戦いの果てになにがあるかも求めず、
 邪魔するものを殺し尽して。
 すべてはパシフィカのために。
 それなのになんで今、俺は此処に居るんだよ。
 なんで俺はそれでも空を飛び続けてるんだよ。
 本当はもう俺の目指した空なんて俺の中から消えているのに、
 それなのに其処に殺意をめり込ませて、俺は。
 俺はなんでこいつらと戦っているんだ?
 ゼフィ、答えてくれ。
 教えてくれよ、シーズ!
 
 
 ほら、パシフィカの姿があんなに下に。
 
 
 もう手を伸ばしても届かない距離を、俺はひとりで飛翔してきていた。
 パシフィカの元に戻らなければ。
 力の限りを尽して、今こそ殺戮しなくては。
 『ゼフィ! 力を全部出せっ! 出せぇっ!!』
 そして俺はシーズを相手に、空を遙か越えた世界の中を疾駆する。
 俺がシーズに攻撃を加えるたびに、俺はさらにパシフィカから離れ、
 俺がパシフィカを救いたいと思えば思うほど、俺はパシフィカを見失う。
 俺は一体、何処まで来てしまったというのだろう。
 シーズとふたり此処まで何をしてきたというのだろう。
 間抜けな星の嘲笑を見下すつもりで高みへ高みへと向かっていたのだろうか、俺は。
 俺は結局パシフィカだけを見てるんじゃねぇか。
 まわりの光景が変わっていくのを無視して、パシフィカとの距離だけを見てただけだ。
 だから相対的に俺はパシフィカの位置を見失った。
 この空の中にパシフィカを見失った。
 俺はもう、この空の中を飛んでいないからだ。
 俺はもう、ただただ上を目指すだけだった。
 何処までも何処までも戦いながら。
 俺は世界を守りたかったのじゃないのか。
 俺は王都の人々を守るためにパシフィカの元から飛び立ったのじゃなかったのか。
 俺がパシフィカから離れたのは、それはなんのためだったんだよ!
 俺がピースメーカーと戦う理由は、なんだったんだよ!
 多くの人々の命を守るため、そのためにパシフィカの救えた命を置き去りにして、俺は。
 パシフィカの元に帰るためにピースメーカーを倒すなんて、嘘じゃないか!
 俺は・・・俺は・・・・・・世界を守るために此処まで飛んで来たんだ!!!
 
 
 
 一瞬の静寂が飛翔する体の中に入り込んできた。
 俺の目の前にあるパシフィカの幻の向う側から、確かにスィンの声が届いてきた。
 
 『ごめんなさい』
 
 次の瞬間、俺とパシフィカの距離を積み上げてきた俺の殺意がシーズの頭を貫き、
 その一体のピースメーカーは消滅した。
 スィンは俺にみせた。
 俺がなにをしているかを、己の務めの自害を以て。
 ピースメーカーとして俺に向き合い続け、
 そしてずっとパシフィカと一緒に居なければいけなかった俺を此処まで連れてきたことを、
 シーズはスィンになって俺に謝った。
 なによりも誰よりも大好きだった俺とパシフィカの距離を広げたのは自分だと言って。
 スィンが俺達に願ったずっとずっと一緒に暮らせる事を、それを願った自分が破壊せねばならなかった事を。
 それがピースメーカーとしての責務である以上、それに生きねばならなかった事を。
 そしてだから、死んだ。
 そしてさらに、自分が死を選んでしまった事、
 それが俺達とスィンとの絆を断ってしまう事も詫びて。
 シーズは殺されるために俺の前に来たんだ。
 スィン・・・・・・スィン・・・・お前は悪くない。悪くないんだ。
 そして・・・・。
 
 シーズ・・・・シーズ・・・・・・ジーズ!!
 お前が死ななくてはいけない理由なんて何処にも無いんだ!
 
 『シーズっっっっ!!!!』
 
 
 俺は・・・・俺は・・・・・・・
 
 
 
 『馬鹿野郎・・・・・・・・っっっっっ』
 
 
 
 スィンと俺達との絆が、俺が飛び越えた空へと懸命に帰っていく。
 くるくると回りながら、必死に輝きながらそれはパシフィカの元へ戻っていく。
 シーズの命が守り抜いたそのシーズの守護者としての証しは、その片割れの元へと降っていく。
 此処まで彫り上げてきた俺の大嘘の神像に一矢報いるために。
 俺は・・・・・シーズを・・・殺した・・・。
 世界のためにと言いながら、その事を忘れパシフィカの元に帰るために、殺した。
 その世界の忘却がパシフィカへの帰り道を忘れさせ、俺はパシフィカとの絆を見失っていた。
 俺には守るべき世界の中にパシフィカが居てこそ、戦う理由があったのに。
 俺はただもうなにもかもわからなくなって、ひたすら殺そうとしていた。
 
 そして本当は、パシフィカの中にしか世界は無いという事を俺は知らなかったのだ。
 
 シーズ・・・・・すまない・・・・・。
 最後までお前には教えられてばかりだ。
 
 
 だから・・・ラクウェル。
 俺は大馬鹿だ。
 
 
 なんのために俺は此処まで来たんだ。
 なんのためにお前は其処に残ったんだ。
 理由なんて初めからあってはいけなかったんだ。
 俺が此処までパシフィカ目指して飛んできてしまったのは、
 それは全部全部間違いだったんだ。
 理由なんていらねぇ!
 神様を彫ってる暇は無ぇ!!
 俺達は、俺達でパシフィカを守り救うんだ。
 その事の理由を他のなにかに求めてはいけねぇんだ!
 俺達は神にでもなんでもすがって全力で祈らなきゃいけなかったんだ。
 居ないはずの神に祈る事、それを無視してなにが全力か!
 
 俺が力を尽くさぬせいで、スィンを殺してしまった。
 シーズを道連れにして、スィンは泣きながら死んでいった。
 可哀想なスィン。
 そして・・・そして・・・・・。
 俺とスィンを最後に会わせてくれたシーズを、俺は殺してしまったんだ。
 俺達の絆のために、シーズは・・・・・。
 俺がパシフィカの元を離れた事で死んだシーズ。
 俺がパシフィカを守る理由に踊らされて此処まで来た罪の結果はこれなんだ。
 だから。
 俺はパシフィカの元に命を賭けて帰り着くぞ。
 今度こそパシフィカを救うために俺は飛ぶ。
 ラクウェル。
 だからそれまで、頼む。
 
 
 
 お前ひとりを絶望の淵で溺れさせないために、俺は。
 
 
 
 
 
 

                              ・・・以下、第二部に続く

 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 
 

-- 040921--                    

 

         

                            ■■湿った風、通り過ぎて■■

     
 
 
 
 
 ごきげんじゃー(挨拶)
 
 マリみての次回予告をこよなく愛している今日この頃。
 しかしその愛しさを表現する術を持ち得ずただ愛を叫ぶほか無い中、
 それってほんとに愛なの?とか問いかけてみたりしても笑っていて話にならなかったりします。
 誰がって。
 私が。
 
 前回のマリみて感想は私自身初めての祐巳さん視点で書いて仕上げた物です。
 文体的に聖様とあんまり差別化が図れていないような気もしますけれど、
 でも祐巳さんって作中でもあんなだったじゃん独白の仕方が。
 だからいいじゃんさ別に、と誰に言うとも無く独り相撲に勤しみながらも色々と読み返してみると、
 これがまたあれですいつも通りなかなかヒドイものです。
 内容自体はどうしようも無いけど、やっぱり主語述語の関係がおかしいところとか、
 指示語の使い方が不親切だったり(どれを示してるのか自分でもわからないところもあったりして)、
 それと微妙なところでは「が」と「は」の使い方が結構おかしかったりしました。
 推敲っていうか見直しの段階でなんとかなるはずなんですけど、なんにもしないんですよね、この人。
 自分で読み返してみてかなり気になってる癖に意地でも直さない。
 直すのめんどいというのはあるかもしれないけれど、ていうかやっぱりそれかよ。
 ・・・・・。
 えっとね、私はさ、ほんとはこんな事書きたくないんだよ。
 でも書いちゃうんだよ! うっかり書いちゃうんだよ! 書いて悪いかおおぅ!?
 すいません。落ち着きます。
 ほんとうはね、カッコイイ後書きみたいな感じで内容の続きみたいなものを書きたいんです。
 なのに気付くとこういう言い訳的な後書きみたいなものを書いてしまうのですよ。
 言い訳したいお年頃なんです。嘘ですそんなお年頃ありません。生涯現役です。
 つまりはその、言い訳するのもまた私の趣味のひとつな訳で御座いまして。
 自分の書いた文章のフォローって言うか墓穴を掘ってる感も否めないところですけれど、
 なにかこう自分がどういう態度で書いたのかというのは書いておきたい事ではあるんですよね。
 言い訳っていうのはだから正確なところでは無くって、
 感想作者の思い入れのほどの開陳、とそういう感じなのですね。
 好意的に良心的にこじつけて言えば。
 うん、そうなんです。そうに違いない。
 
 なんか疲れました。
 最近はホラ、あれです。
 残暑ですから(微笑)
 
 
 
 
 新アニメのおはなしー。
 またかよーとかそんな事言わない言わない。言ったら泣きます。
 こっちは残暑なんだから! 夏バテ本番なんだから! 秋口はキツイの! 優しくして!(本音)
 それではい。
 ここに来てやはり私はなぜか知らないけれどローゼンメイデン派。
 どうしてそうなのか自己分析を試みるもめんどいのでやめたのはこの頃のお話。
 もう完全片思いでイメージだけがどんどん先行していて、私の中では大変な事に。
 恋い焦がれて身悶えしてため息なんか漏らしています。
 これで大した事無かったら、あなたを殺して私も死にます。
 ・・・ふふふ(虚ろな目をしながら)
 そんな危険人物極まりない状態を憂慮してか、
 その対抗馬としてやはり月詠などを御用意させて頂きます(自分に)。
 対抗っていうかなにが対抗してるのか皆目わかりませんけれども、
 とりあえず今のところ紅い瞳が明らかに見る意欲を見せている作品は、この2つの作品です。
 他の作品はなにも期待せずにぼーっとみて、
 意外に面白いじゃんと気付いたときには時既に遅しで大後悔、
 そういう感じで楽しんでみたいと思います。
 ・・・・楽しいのか?
 あ、そういえばまたひとついけそうなアニメを見つけたのでした。
 サムライガン
 色んな意味で自分がどういう反応をみせるか想像もつかないところが気に入った理由。
 普通に1話で冷たく見放すかもしれないけど、最後までハマってしまうかもしれないし。
 ていうか評議会て。ノワールかよ。黒かよ(関係なし)。
 
 
 
 
 残念ながら今はノワールよりはマドラックス!さぁいよいよ過激になって参りましたと叫ぶオマケ:
 感動とは笑いの衝動(挨拶)
 改めまして、やんまーに。
 エリノアさん殉職の場面を引き継ぎ、お嬢様の前にマドラックスさん登場。
 エリノアさんのおかげでお嬢様はどうやら正気を取り戻したようで、
 ヴァネッサさんとエリノアさんの死を通して自らの悲しみを意識してしまいます。
 しかしここで変態が横やり。
 再びお嬢様を操りフライデーさんに向けたマドラックスさんの銃を撃ち落とさせます。
 さらに続けてお嬢様は発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。発砲。
 お嬢様、撃ち過ぎです。
 倒れ込むマドラックスさんにトドメとばかりにさらに発砲。
 ナハルさんの気持ちが良くわかる光景です。
 まーそれでもマドさんは甦っちゃうのであまり意味は無いのですけれど。
 でもお嬢様はエリノアさんの遺体に向かって、今日はパスタねとか言っています。
 なにも遺体にまでボケなくても。
 そんな修羅場を丘のかげで見つめていたのは、リメルダさん。
 リメルダさん的に愛しのマドさんが小娘如きに射殺される衝撃のシーン。
 「マド・・ラックス・・」と気の抜けた今のリメルダさんは、ただの普通のお姉さん。
 このままでは次はリメルダさんが危ない。
 それを知ってか知らずか、ナハルさん登場。そして駆け下りようとするリメルダさんを止めます。
 ナハルさん: 「踏み込むな。あそこはもう聖なる場所。」
 正確に言えばお嬢様が生息する魔境ですが。
 ナハルさんはあそこは資質あるものだけが立ち入れる、自分達は見届けるしかできないとか、
 なんやかや言ってお嬢様に近づかないでいい口実を述べます。
 ナハルさん的にはマドさんよりお嬢様が気になるのです。本当に危険だから。
 でもそんな適当なナハルさんの言葉も、
 マドさんに自分を見届けてと言われていたリメルダさんには通じるものがあり、
 リメルダさんは妙に納得して踏み込むのを諦めます。
 ああ、こいつも同類かと納得して。
 リメルダさん、ストーカー仲間ゲット。
 ナハルさんとリメルダさんがみてる(マドラックスさんを)。
 そしてクアンジッタ様はリストカットで暇潰し(違)
 ほらほらレティシアちゃんと不思議問答してるうちに血がぁー。
 気付けばそこに変態が。
 お嬢様が虐殺したマドさんから奪った本のページを合わせて、
 ついにフライデーさんはお嬢様を使って扉を呼び出します。
 あーあ、やっちゃった。
 キ○ガイに刃物、変態に三冊の本。
 もうなんかね、この人の笑いのいやらしさが数段レベルアップ。
 なんかもずっと笑ってるような変態さんですが、やることはキッチリ敢行。
 さっそくお嬢様にお嬢様の真実をみせます。
 こ・・これは以前もやった12年間の墜落事件の映像。
 そして・・・・・巨大な変態、再び。
 ここでお母様は死んだとお嬢様は言ってます。
 飛行機が堕ちたのは巨大な変態のせいなんです。
 その仮面を被ったいやらしい変態お父様は、お母様の仇なんです、お嬢様。
 そして再び本物のお父様登場。
 フライデーさんの片目を撃った瞬間、なんかすっきりしましたが、
 でもよく考えたらフライデーさんも可哀想。
 なんていうか、変身中に攻撃されたヒーローみたいな感じで。
 まぁ撃たれたのはヒーローじゃなくて変態ですが。
 それに自業自得だし。
 やっぱり可哀想じゃないや。
 それはさておき、娘との再会を喜ぶお父様。
 撃っちゃったブゥペの存在を素で無視している親子、
 それがいけなかったのか、傷を負いながらも本を掻き集め本質の言葉を唱えるフライデーさん。
 天罰覿面、というか罰を与えてきたのは変態ですが、やっぱり無視はよくないよね、うん。
 フライデーさんの言葉を受けて、目の色が変わり始めるお父様。
 そしてお嬢様に銃を向けてしまいます。
 フライデーさん的には起死回生の大逆転。
 そしてさすがにここで高笑いしてまたお父様に速攻で撃たれるようなヘマはしません
 学習しなきゃフライデーさんなんて命がいくつあっても足りませんからね。
 マドラックスさんは優しい人殺し。フライデーさんは賢い変態。でも変態。
 そして狙い通りお父様は引き金に指をかけますが、
 しかしお嬢様が銃を取り逆に発砲。
 撃てばお父様は死ぬ、でも撃たねば自分が死ぬ。
 そしてお父様を撃った自分は自分の体から抜け出し、目の前にマドラックスさんを生み出します。
 ちなみにこのとき落した人形がレティシア。
 その刹那の瞬間の象徴がレティシア。
 そしてこれがお嬢様の本質、真実。
 そのお嬢様の横で長々と自説を展開するフライデーさん。
 すべての生きとし生けるものに本質をみせてやろうじゃないかと。
 自分のうちにある衝動を開放しろと。
 そして遂に扉は開かれます。
 変態の高笑いと共に。
 ガザッソニカの至るところで殺戮が始まります。
 ヴァネッサの同僚も取り敢えず死んで出番を確保。
 十二年前の時間が再び動き出し、世界は衝動に包まれていきます。
 響き渡る銃声と断末魔の叫び。そして変態の高笑い・・・・・、
 って、うるせぇ、変態。
 いやだから、笑いすぎだから。
 ていうかずっと笑いっぱなしやん。
 途中から叫んでたし。必死すぎ。
 場面変わって倒れ込むリメルダさん。
 「この感じは・・・」と言うリメルダさんも変態さんの魔の手に落ちようとしている・・・・訳が無い。
 だってこの人は最初から衝動で生きてるもん。
 リメルダファンからしたら何を今更というところでしょうか。
 リメルダさん的には衝動っていうか、マドラックス分が切れただけなんじゃないかな。
 丸くなったとはいえ、やっぱりマドさんへの執着は並大抵のものではありません。
 でも私的にはリメルダさんはマドさんへの愛を殺意以外で表現する方法を知ったので、
 マドラックス分が切れたからといって暴れたりはしないと思います。
 たぶん大人しくストーカーするスキルがアップしたりするくらいで済むのでは。
 ちなみにナハルさんの衝動が開放されると、この場から全力で逃げ出すと思います。
 一番我慢してる人はナハルさんです。お嬢様から逃げ出したい衝動を頑張って抑えてますし。
 そして。
 一番我慢してない人はフライデーさん。もう叫びっぱなし。
 そのあまりの五月蠅さに遂にマドラックスさん、降臨。
 
 
 
 ぎゃー、マド姐さんカッコイイー!(色んな意味で)
 
 
 
 五月蠅い変態に発砲して黙らせるヒーロー登場!
 ここで「黙れ小僧!」とか言えば完璧だったんですけれど、
 とりあえずフライデーさんは止まります。
 ていうか私はもう完全にフライデーさんを尊敬してしまいました。
 カッコイイといえば、史上最悪最高のカッコ良さではあると思います。
 悪役万歳! 変態万歳!
 フライデーさん: 
 「そうだった。その名前を冠しているなら、私の理想を邪魔をするはずだ・・・・
  十二年前もそうだったように・・・・・・・マドラックス!」
 理想的なヤラレ役のセリフです、フライデーさん。
 カッコ良すぎです。
 尊敬です。
 ここまで笑いが取れるなんて。
 ほら、さっそく銃声のツッコミが入りましたよ。
 あやうし、フライデーさん。
 至福の変態行も此処までか!
 しかしあの銃声がマドラックスさんが撃って鳴らしたものとは限りません。
 
 お嬢様が撃ってたら、この変態は永遠です。
 
 
 
 
 

-- 040919--                    

 

         

                            ■■マリア様のくれた青い傘■■

     
 
 
 
 
 空が溶けて落ちてきた。
 私の背に従ってきた影はその冷たさに眉を顰め何処かへその姿を隠してしまった。
 私だけを切り離してほっと重荷が取れたように自分だけ逃げ出して。
 目の前の道の遙か先をお姉様は歩いている。
 この雨に打たれているのは私だけ。
 私を抱きかかえてくれた聖様の体の向うに跡形も無く消えたお姉様の影が在る。
 それはずっと溶けた空を流れながら私を見てる。
 歩いても歩いても私はお姉様の背中を見つけられず、
 そして私の体はびしょぬれになるまでお姉様の恐ろしい影に見つめられていた。
 そんなのって無いよ。
 聖様、私どうしたら・・・・。
 
 
 見開かれた慟哭の門がそれでも私の声を閉じ込める。
 助けてなんて言おうとさえ私は思わなかったの。
 今の聖様はこの降りしきる雨と同じ。
 ただ私の冷えた体の表面を滑らかに流れていくだけ。
 聖様の笑顔が無い事を私はちゃんと知っていたのだから。
 私を暖めてくれるものなんてなにも無い。
 私は暖まりたいなんて思わない。
 私は独りこの落ちてくる滴の尽きるまでずっとずっとなにかを探してる。
 お姉様のお姿。
 そして私を見捨てた私の影。
 雨の日はいつも目を閉じても歩いていられたのに。
 あのお気に入りの青い傘が私からお姉様と私の影を奪う雨から私を守り導いてくれていたのだから。
 聖様が青い傘の代わりになんてならない。
 誰も私を助けてはくれない。
 私は今なにも求めていないから。
 
 
 --道の両脇に添えられる紫陽花の世界--
 
 崩れ落ちる白い空の欠片が点々と鮮やかな色彩を灯していく。
 匂い立つ花弁の輪郭を掴む前にその薫りは嘘にまみれて視る事が叶わない。
 薄霞に照らされて綺麗に並べられているだけの花束が奇妙な事に其処に生きていた。
 なんで、こんなに生きているんだろう・・・。
 私は花達の群を見たとき絶句してしまった。
 紫陽花紫陽花紫陽花。
 それだけで満ち足りていられる命の歓びがこんなに広がっているだなんて。
 冷たい雨の裁きが酷薄に空を切り裂き続けているというのに。
 私、見惚れずにはいられなかった・・・・。
 なんだかとっても幻想的でとても人の住めるところでは無いと思ったのに。
 此処は紫陽花達の世界。
 私が歩ける道なんて無い。
 それなのに私は此処で。
 無造作に助けられていた。
 
 こんなに微笑みを抱きしめて生きていられる花達がそれでも現実的には見えてこない。
 美しいものはいつだって嘘だったのだから。
 私は信じない。
 私はだって逃げ出したのだから。
 綺麗なものから輝かしいものから雨に打たれながらもその誘惑に惑わされて此処まで逃げてきた。
 逃避した先に安住があってはいけないと思うからだから逃げてきたのに。
 私は楽になりたかったんじゃない。
 私は・・・・私は・・・・・・。
 
 違う、違う。
 私は紫陽花にぬくもりなんて感じ無かったじゃない。
 私にはあのとき紫陽花なんか見えなかったじゃない。
 私はあのとき紫陽花の上に暖かい幸せを勝手に重ねて視てただけじゃない。
 本当は声をかけたら消えてしまう事を知っていた癖に。
 私には紫陽花なんて汚らわしいだけの存在のはずなのだから。
 あの花は幻。
 冷たい冷たい雨が照らした魅惑の罠。
 私、そんなのにひっかからないんだから。
 私は誰にも助けられない。
 私はみんなに迷惑かけたくない。
 だから・・・・だから・・・・・・。
 
 
 
 
 
 ありがとう御座いましたと言いました。
 
 
 
 
 
 小さな物をしっかりと失っていった。
 ひとつづつ丹念に丹念に。
 一番大きなものを一番最初に無くしてしまったあとはもうズルズルと色々と失っていってしまった。
 でもだから私はその失っていったものをひとつずつ探そうと思ったの。
 探して見つけてそしてまた私のものにしなくちゃ。
 無くしたもの全部をみてしまうと途方もなく絶望してしまうけれど、
 でもひとつずつだったらなんとか探していけそうな気がして。
 みんなに心配かけないようにするためにも私頑張らなくちゃ。
 だからこうしてひとつずつ少しずつ・・・・。
 小さなものからコツコツと頑張って探してもう紫陽花の幻なんて見ないようにしなくちゃ。
 
 それなのにどうしてこの流れ出る滴は止まらないのだろう。
 
 瞳子ちゃんが言った。
 『大事なことから目を逸らしてどうしてそうヘラヘラ笑っていられるんですか!』
 どうしてそんな事が言えるのなんて勿論言い返せなかった。
 私がヘラヘラ笑っているのは事実。
 笑えないはずなのにみんなのために笑っている私が居るのは確か。
 そして。
 目の前にある小さな悲しみばかり見つめて目の前から消えてしまった大事な悲しみを私は・・・・・。
 私は本当にみていなかったのだから。
 それを見てしまうとなにも出来なくなってしまうからだから出来る事からやろうって。
 まずは周りの人達に迷惑をかけないよう自分がしっかりできるようになってからお姉様を探す。
 つまり私は今確かにお姉様を探していない。
 みんなに迷惑をかける事は確かに嫌。
 でもそれを口実にして今の私はお姉様から目を逸らしていたの。
 目を逸らしてる訳じゃないと自分に言い聞かせるたびに私の涙はその終わりを失い流れ続けていく。
 かつて私はこれとまったく同じ状況を体験していた。
 お姉様は私がお姉様を見ないで自分の中だけで答えを出してしまう事が最もお嫌いだった。
 だから私は自分の中に明確ななにかが出来上がっていないその状態すらお姉様にお見せしようと思った。
 それなのに。
 それなのに私は。
 他の人達に心配かけたくないという言葉を使ってその事を誤魔化してしまった。
 そして私はだから聖様の笑顔を勝ち取る事もできなかった。
 なんのために誰のために他の人の事を想うのかそれを考えなさい。
 いつだって聖様は私にそれを教えてくれていたのに。
 私を心配してくれる人がなにを心配してくれているのかそれを良く考えもしないで私は。
 聖様・・・・ごめんなさい・・・・。
 私・・まだ・・・私独りでしか笑えない・・・・。
 
 私、今、最低です。
 
 
 
 紫陽花の群の主人が私を導いてくれた。
 この人の背に従いこの人の影となるとなぜか道端に居る紫陽花達の姿がみえていた。
 不思議な花。
 こんなに一杯在るのにまだその中に沢山咲いているなんて。
 貴方達がそんなに自信たっぷりに生きられるのはなぜ?
 弓子さんは答えてくれた。
 なぜ貴方は自信を持って生きられないのと。
 紫陽花達の上で砕けていく雨空の涙をどうして喜んで受けられるのだろう。
 私にはなにもわからない。
 お姉様の消えていく背にどうして触れられなかったのだろう。
 私・・・私わかってるんです。
 お姉様が私を手放したりなんかしないって事。
 私の事を大切に思ってくださるから色々ときつい事を私に言うということも。
 でもそれでも私から離れていってしまっているのは事実じゃないですか!
 私がお姉様を見失ってしまったのは本当なんです!
 だから私は・・・・それでもなんとかお姉様を・・・・。
 私のお姉様の背中を私に返して!!
 
 
 
 
 
 でもそれは。
 
 
 
 
 
 私が他ならぬ祥子様の背を追う祥子様の影だったという事では無いの?
 私がお姉様の影になってしまったから私の背を押してくれた自信たっぷりの影は消えたのじゃないの?
 私をいつまでもみつめていた姿のみえないそのお姉様の影は私自身だったのじゃないの?
 私が消えていくお姉様の愛しい背中を取り戻し私が影で居続ける事を求めていたから、
 そればかり考えていたから私はきっと。
 私は幸せの青い傘を無くしてしまったの。
 そしてその傘の下でだけ沢山のものたちと笑い合える幸せの紫陽花の笑顔がみえなかった。
 あの空と紫陽花の世界の間にはその降り積もる涙を祝福に塗り替える門がほんとうに開いていた。
 世界は其処から広がっていると加東さんは言った。
 私は。
 その傘をさしながらただその雨を堰き止めることばかり考えていた。
 私の前には今世界そのままに変化しながら咲き乱れる紫陽花が確かに在った。
 そして私は加東さんの笑顔を確かに其処にみてしまったの。
 
 
 お姉様。
 私・・・・なんだかわかりました。
 聖様。
 私・・・・ようやくわかりました。
 マリア様のくれた大切な大切な青い傘はきっと私の元に戻ってきてくれるって。
 私はもうその傘をさしながらこの体に冷たい雨を染み込ませる事を恐れません。
 私、頑張ります。
 私、お姉様を信じて待ってます。
 お姉様もこの傘のように絶対戻ってきてくれるって。
 私はもうお姉様の背中を見つめるだけなんて、そんな事しません。
 私はお姉様のその背中がどんなに揺れ動いたり消えたりしようとも泣きません。
 私はお姉様の影じゃありません!
 私は私。
 そして私を励ましてくれる私の優しい影達をちゃんと取り戻します。
 それは。
 それは私が私の影とだけの世界に閉じ籠もるって意味じゃありません。
 私はもう無くしてしまった小さなものを見つけて準備万端になってからお姉様を探すなんて言いません。
 私は!
 聖様や由乃さんそして他のみんなへ心配かけないためにも、
 なによりも力を込めてお姉様を探しにいこうと思います!
 それが聖様の笑顔をまたみられる事になります。
 そしてまた私も聖様達と一緒に笑えるようになるんです。
 だからお姉様。
 私、お姉様を信じて待ってます。
 お姉様を信じて待っていられる自分を信じて待っています!
 紫陽花の色彩がどんなに移り変わって心許なくても、
 でも私はもう紫陽花の輪郭を見つけられたのです。
 青い傘におじいちゃんが刻んでくれた私の名前があったからこそ、それは私の元に帰ってきてくれた。
 だから私は。
 お姉様の中に私が刻まれている事を信じて待ってます。
 青い傘はお姉様。
 そしてそれは、私。
 もしお姉様が私の元に帰ってきてくださらなくても、
 私の中にお姉様が居続ける限り、私はお姉様への想いの元に帰ってこれる。
 そして私を囲む沢山の優しい世界の影達が私を此処に居させてくれる限り、
 私は強く強くこの雨の中を幸せに向かって生きていけるような気がしました。
 
 聖様、加東さん、弓子さん、そして由乃さん、本当にありがとう御座いました。
 
 
 
 そして。
 
 私は雨空の下、お気に入りの青い傘をさして笑顔でお姉様を待っています。
 
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 

-- 040917--                    

 

         

                        ■■『限りあるものの聖』  2 ■■

     
 
 
 
 
 『許してくれ・・・王子として民を護る・・・・・・・・せめて妹と・・・・一緒に・・・・・・』
 

                          〜 第二十三話のフォルシスのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 目の前で消えていくものがいる。
 それを止めることを忘れてまで、その消滅に魅入っていた。
 くるくると廻りながら犇めく空気が全身に突き刺さっていく。
 
 俺の前に完全に崩れ落ちたパシフィカが居るのを、俺はようやく其処で気がついた。
 私のわずか先であっさりとそのぬくもりを逃していくパシフィカの影が、助けてのひと言もなく消えていく。
 
 パシフィカ・・・・パシフィカ! パシフィカぁっっ!!
 
 目の前の世界が閉じていく。
 瞳を限界を超えて開き切っているのにも関わらず、そのパシフィカの姿を世界から見失っていく。
 頭上より降り注ぐ砲火の轟きに鼓動を重ねても、それほどまでに震えてみても、
 パシフィカの存在が終わっていくのを止めることはできなかった。
 シャノン・・シャノン! どうするのっっ!
 わからねぇ! わからねぇよ!
 ドラグーンの形相干渉能力を使えば、このパシフィカの崩壊を止められるかも知れない。
 だったらすぐにそれを!
 駄目だ。
 今すぐ王都にいかねば、ピースメーカーのやつらが人々を殺すと言ってるんだ!
 でも・・・でも・・・・でも! シャノン!!
 俺だってわかんねぇんだよ!
 でも、でも、でも、でも! パシフィカがっっ!!
 わかってる。わかってる!
 
 だから。行ってくる。
 
 俺の目の前の振動が、一気に収まった。
 瞳がもう、揺れてないんだ。
 ゼフィリス・・・行くぞ。
 
 シャノン・・・・・・シャノン!!
 パシフィカ・・・・。
 
 
 
 
 
 ----空に飛び立つ兄を地に這い蹲るもうひとりの兄が見つめている----
 
 信じられるだろうか。
 妹が世界を滅ぼす存在だなんて。
 そしてそれを信じる信じないに関わらず、現実に妹のせいで多くの人達が死んでいくなんて。
 そんなこと、無いわけがいいに決まってる。
 それは妹だって同じなのだろう。
 好きでそういう存在になった訳では無い。
 妹のパシフィカは、たとえようもない辛酸を舐めて、今までを生きてきたのだろう。
 僕にはそれを、少しも軽減してやることはできなかった。
 一国の王子としてそれができなかったという言い訳を、僕は肯定することしかできなかった。
 母上のようにただただ娘の事を案じる事は、僕にはできなかった。
 案じても無駄なのを知っていたから、なのかもしれない。
 僕がここでこうして安穏と生き残った双子の片割れとしてしてやれる事は、なにもない。
 僕にはだから、最初から妹には謝ってあげることしかできない。
 謝って、そしてそれですべて終われたらいいのだと、僕はずっとそう思ってきた。
 そう思うべきだと思い、そしてそう思うことが王子としての責務に合致する好都合が、
 それが絶え間なく僕の妹に対する負い目を覆い隠し続けてくれた。
 僕は、どんなに妹の事を想っても、妹の事を想い切る事はできないんだ。
 だって、僕にはこの国の人々の命を守らねばならない立場にあるのだから。
 僕は一体この言い訳を、この人生の間に何度繰り返してきたのだろうか。
 
 虚しいことの繰り返し。
 その繰り返しをこそさらに虚しいと思い、なのにそれでも消せないものがあった。
 僕にとって大事なものってなんだろう。
 僕にはたぶん、大事なものが沢山ありすぎる。
 僕にとって不要なものなんて無くて、そして殺してもいい人なんて居なかった。
 人は僕の事を優しいだとかそういう風に言うけれど、僕はただ欲深いだけなんだ。
 あれもこれも全部守って、それができなければただ虚しい気持ちに囚われてしまって。
 苦しむ人々を救ってやる事ができなくて、それでただ王室の一郭で悶々としている王子。
 だから僕は、なにもしてはいない。
 なにもしなければ何ひとつ守れはしないのに、それなのにただこうしてひとり憂いているだけ。
 それがどれだけ虚しくて、そしてそれがどれだけ愚かなことか、誰よりもそれは僕がわかっている。
 今すぐここから飛び出して、ひとりでも多くの人を救いたい。
 でもそうやって目の前の人だけを守っているうちに、その何万倍もの人々を不幸にしたままでいる事、
 それがその人々を無視しているのと同じだって、そう思ってなにもできない。
 要するに僕は、完璧で無くては駄目なんだ。
 だって、その完璧で無い部分の害を被るのは、いつだって弱い民なのだから。
 それだったらなにもしない分だけ、僕の行為の被害を受けて苦しむ人もでない、
 そういう大嘘まで平気で思えてしまう。
 僕はいつだって、自分に嘘ばかりついていたような気がする。
 
 妹を殺さなければ世界中の人々が死ぬ。
 その事実をできるだけ自分の元から離しておいて、
 そうして僕はただ妹に対してなにもしてあげられない事を憂いていた。
 なにもしてやれなくて、すまなかった、その言葉を妹に与える事の意味が、
 それがどれだけ虚しい事かなんて、たぶん妹が一番良くわかっているはず。
 僕には妹に謝っていい資格など、最初からありはしないのだから。
 謝ってそしてこれからは妹を守ってやれるなんて事、初めから有り得ないのだから。
 僕の謝罪の言葉は、嘘にしかならないんだ。
 僕の横に離れていてもはっきりと居座る人々の苦痛が、
 それが僕に近づいてくるたびに、僕には妹を想う事がなによりも悲しい事になっていく。
 僕は妹を守りたい。
 けれどその妹は僕に殺される事が決まっている。
 
 教会を埋め尽くす死傷者の群れを見たとき、僕はようやく重い腰を上げた。
 僕がやるべきことを、僕はするだけ。
 僕は僕のしたいことをする。
 僕は妹を殺す。
 妹を殺してこれ以上死んでいく人を出さないために。
 僕には、妹を守る資格が無い。
 けれど僕には、この国の人々を守らなければならない義務がある。
 だから僕は・・・・悲しくて・・・。
 
 でも、やっぱり。
 それ以上に、この人々の苦しみを見ていることだけはどうしてもできなかった。
 義務なんていうのが嘘で、そして欺瞞で、そしてそれは言葉だけみたいなもので、
 本当は僕はただ僕の大切なこの国の人々を守りたい、その気持ちだけでしか、僕を動かせない。
 僕には、妹にしてやれる事はない。
 そればっかりは本当にどうしようもない。
 妹を育ててくれたあの姉弟のように、僕は一緒に彼女を守ってあげる事がどうしてもできない。
 なぜって。
 そう・・・・なぜなんだろう。
 どうして僕は、妹の傍らに居てあげられなかったんだろう。
 あのシャノンという妹のもうひとりの兄も、あの悲しい空へと飛び立っていった。
 必ず妹に寄り添うようにして守護してきた彼でさえ、そうして王都の人々を守りにいった。
 だったら。
 僕は一体どう考えたらいいのだろうか。
 だから一度たりとも妹のそばに居なかった僕が、妹の元にいけなかったのは当然と考えるのか、
 それとも、いつも妹を選んでいた彼でさえ人々を守りに行ったのだから、
 僕が人々を選ぶのは当然以上の事であると考えるのか。
 そこで僕は、気がついてしまったんだ。
 僕はそのどちらかの解釈を選ぶ術を、持ち得ていないのだということを。
 僕にとって、たぶん結局のところどちらが大事かなんて選べない。
 だから必然的に、僕がすべき事という僕の意志とは関係無いものに従う事になるんだ。
 僕はだから、王子としての役割を後から追って自覚する、そういう風に言わなければいけない。
 本当は王子の役割だなんて意識じゃなくて、ただ人々を守りたいという純粋な意志であるのに。
 僕はただ、みんな守りたいだけなんだ!
 それなのに、どうして僕は王子にならなくちゃいけないんだ。
 僕は言われなくてももう、王子なのに。
 
 妹は殺さなければいけない。
 その事を悲しむ時間がもう少し欲しかった。
 でもきっとそれは際限の無い欲求であることもわかってた。
 僕はその悲しみに囚われる事で、それが妹への贖罪に代われると考えた罪深い人間だ。
 どんなに妹を想ったって、妹を殺す事に変わりは無いのに。
 僕は卑怯な人間だ。
 そしてまわりの人々に僕をそう呼ばせなかった、一番悪い人間なんだ。
 僕がもっと積極的に妹を殺そうとしていれば、こんなに多くの人達が死ぬ事は無かった。
 僕がもっと妹を想う事をはやくに諦めていれば、こんなになにもしないでいる事も無かった。
 嗚呼・・・嗚呼・・・・僕は何処に居る・・。
 僕は僕の守りたい人々を、こんなにいい加減に殺してきたんだ。
 僕がしっかりしていれば、こんな事には・・・・・。
 僕は・・・・僕は・・・・・・。
 妹に会った事も無いのにこんな事を考えているよ、母上・・・・・。
 
 
 
 
 
 だから僕は、妹に会おうと思った。
 
 会ってそして、妹を殺してこようと思った。
 
 
 
 
 
 僕がたぶん予想していたとおりの、ごく普通の明るい人が其処に居た。
 勿論、僕が願っていた殺されて当然という姿をしてなどいなかった。
 君がパシフィカだね。
 ひと目会えて嬉しかったよ。
 そして、今まですまなかったね。
 そして、本当に、ごめん。
 だから僕は君を殺すよ。
 
 そう。
 僕は世界を救ったんじゃない。
 ただ妹を殺しただけ。
 だから、僕は死ぬ。
 はじめから、その答えが僕の中には在った。
 たぶん、それでいいのだと思う。
 僕が妹を殺したのは、あくまで僕の勝手。
 そして僕が死ぬのも、僕の勝手で勝手に死の刑に服しただけ。
 それでたまたま都合良く世界も救われてくれれば、それでいい。
 僕にとって僕の生と死は、等価値。
 僕の命は僕の大切なものを守るために使われるためにだけあるのだから、
 それが上手く使われたのなら、それ自体に価値の軽重ははじめから無いんだ。
 僕は僕が死ぬ事に興味は無い。悲しくもない。
 僕はただ、妹を殺した事だけが悲しくて。
 人々の苦しみを取り除けた事を喜ぶ気持ちなんて、これっぽちも無い。
 それは僕の中にあってはいけないものだから。
 僕は、妹を殺したのだから。
 だから僕は。
 
 僕は妹を殺した悲しみの中に這い蹲っている。
 
 僕が死ぬ事で妹を殺す罪が贖えるなんて思わない。
 僕は僕の負ったこの罪の中に居続ける。
 僕は妹を殺さなければいけないと思ってしまったから、それでも妹を想う悲しみに囚われ、
 そして妹を殺してしまったから、その妹の苦しみを想う悲しみに囚われるんだ。
 可哀想な・・パシフィカ。
 結局僕は君になにもしてあげられず、苦しみだけを与えて君の最初の朝を終わらせてしまった。
 世界のために死んでくれ、なんて僕は言いたくない。
 僕は弱き人々の笑顔を、妹の死の上に立たせてあげたくない。
 あなた達は、当然の事をしてきただけなのです。
 妹が生きる事が妹の我が儘では無いというのなら、
 あなた達が死なねばならない理由も、どこにも無かったのですから。
 だから、妹は僕が殺した。
 僕は僕の我が儘でパシフィカを殺した。
 
 
 お願いです!
 僕が僕の大切なもののために妹を殺したと告白させないでください。
 
 
 嘘でもなんでもいい。
 でも僕が命を賭けて護ったものだけは、それだけは完璧に護りたいんだ。
 僕の民の幸福をすべてその成り立ちから護ったと、そう思って死にたいんだ。
 そのような僕の自己満足ができれば、僕はそれで安心して死ねる。
 僕がどうなろうと、それで多くの人の幸せが購えるなら、それで僕は幸福だよ。
 だから僕が妹を殺したのは、それは僕の勝手だったと伝えて貰いたい。
 僕がこの世界の幸せを妹の命を代償にかすめ取ったなんて、絶対言わないで欲しい。
 出来うるならば、そういう考えしかできない僕を余すところ無く貶めて欲しい。
 僕はひとり英雄気取りで死んでいった愚か者、そういう風に言って貰えたら・・・・。
 僕はもう、安心して妹と共にいくことができるような気がする。
 死んでからしか、こうして手を取り合えることができない僕の存在の愚かさを、
 君にはだから永遠に恨んでいて欲しい。
 すまない・・・・本当に・・本当に、すまない・・・・パシフィカ。
 
 
 
 僕はそれでも、世界と君を一緒に護りたかったと思い続けているんだよ。
 
 
 
 君の元から飛び立たずにはいられなかった、もう一人の君の兄。
 その悲しみが途切れずに空の彼方へと続き、それが彼を空に縛り付けている。
 それとまったく同じ強靱な鎖を何処にも結びつけること無く生きてきた僕は、
 一体本当に君の兄であったのだろうか。
 いや。
 そもそも妹の君の元に居続けるのと、君の元から飛び立ち世界を守るのと、
 それのいずれが守護者といえるのだろうか。
 僕の居場所なんて、だから最初から無かったのさ。
 どちらにせよ始まりが君の元では無かったのだから。
 そしてやっぱりどちらの道を歩もうとも、君の兄は間違いなく彼だよ。
 僕はね、君のお兄さんなんかじゃないんだ。
 僕は結局、ただの王子にしかなれなかったんだよ。
 王子にだって、君を殺してようやくなれただけ。
 
 だから。
 
 僕は本当は言えない言葉を、もう一度だけ言うよ。
 
 ごめん、本当にごめん。
 
 
 
 
 そして。
 この世界の人々の笑顔が燦然と輝く新しい朝日に照らされる事を、心より僕は願っている。
 
 
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 
 

-- 040916--                    

 

         

                           ■■『限りあるものの聖』■■

     
 
 
 
 
 『生きることが我が儘だなんて、そんな馬鹿なことがあってたまるか!』
 

                          〜 第二十三話のシャノンのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 ----最初で、最後の朝が私の前で煌めいている----
 
 
 
 
 
 
 私の幸せな夢を誰かが持っていってしまうのを、それを目撃したとき、
 私はいつも小さくあっと叫んで、そしてそれっきりだった。
 お父さんとお母さんの笑顔が蝋燭の向うで優しく揺れているのを眺めて、
 ただ無邪気になって元気に振る舞えた私の幸福、それを思い出したとき、
 私は必ずそれを大事に抱いたまま、そしてそのまま何処かにやってしまっていた。
 私のささやかな幸せを返してなんて、言えなかった。
 だってそれは。
 それはささやかどころか、なによりも大事なものだったんだもん。
 今更返してなんて、なかなか言えないよ。
 
 あの時言えなかった事を、でもそれでも私は言わなくちゃならない。
 気力を尽して智恵を凝らして、それでできるものなんて私の場合たかがしれてるけど、
 でも私は常に本気の全開で、まっすぐに明けていく夜空の終わりを見ていたいんだ。
 お兄ちゃん。
 私が生きるのを許してくれるお兄ちゃん。
 私がどんな存在だって、それだけで認めてくるお兄ちゃん。
 私が私を生きることを許すんじゃない。
 私はだって、私の大事な大事な夢を、それをすっかり廃棄王女のせいにして見捨てちゃったんだから。
 私はどういったって、一度普通の女の子でいようと思うことを諦めた。
 そして何度も何度も私は死ななくちゃならないって、そう思った。
 だから私は、その事を無かったことになんてしない。
 私は死ななければならない自分を否定する事無く、それでも生きていく。
 だから私は、自分で生きてる理由を作っちゃいけない。
 私は自分を見捨てたんだから。
 私が生きてるのは我が儘って、ずっとそう言い聞かせて自分を殺し尽してきたんだから。
 今更、自分を生きたいなんて言えないよ。
 けれど私は、それでも生きていくと言った。
 死にたくないって、お兄ちゃんにはっきり言った。
 そう言った私は、たとえ自分の夢を取り戻せなくても、それを取り戻したいと願い続け、
 そして生きられない理由に納得しながらも、それでも笑顔で生きて行かなくちゃいけない。
 私はね、もうこの止めることのできない私の笑顔をそのまま一緒に連れてく事にしたのよ。
 私がたとえ懐かしい思い出を取り戻せなくても、お兄ちゃんがきっとその記憶を覚えていてくれる。
 私が死んじゃおうって思うたびに、お兄ちゃんが巫山戯るなって、きっとその事を叱ってくれる。
 私がどんな人間でも、お兄ちゃんが私が生きるのを許してくれる。
 世界中の誰が許してくれなくても、お兄ちゃんは許してくれる。
 私はそして、お兄ちゃんが許してくれるから生きられるって、そう言って甘えられる。
 私は、お兄ちゃんに生かされてる!
 なんかね、すっごく、嬉しかった。
 世界の中にそうしてくれる人が居る、ってことがじゃなくて。
 私がそう思えた、って事が。
 ほんとに・・・・・ほんとに長かったよね・・・・・お兄ちゃん。
 此処までくるのが、どれだけ大変だったか・・。
 今日はだから・・・・新しい私の生命の始まりの日。
 この朝日にありがとうって、何遍も言いたいよ。
 過ぎ去った昨日の夜空にごめんなさいって、何度も何度も言いたいよ。
 だから。
 
 『行こう、シャノン兄・・!』
 
 
 ・・・・・・
 
 そうか。
 よく、わかったよエイローテ。
 こいつの背中見てて、なんだか無性に虚しくなった。
 自分が今までやってきた事が、それが絶対でもなんでもねぇって事が、
 それがどんよりと肩にのしかかってきた。
 何気ない小川の前にしゃがみ込んで呑気に洗濯してるこの馬鹿は、
 自分はこれくらいしかできないから、とか言ってやがる。
 なんだかな、もう全然むかつかねぇんだよ、こいつ見ても。
 俺の前にはずっとずっと薄汚い世界しか無かった。
 それなのに目の前のコレは、なんだかとっても清々しいじゃないか。
 其処にあるがまま、それが醜いってずっと思ってて、なんとかそれを作り変えたいと思って、
 そしてそれが正しい事だと何度も唱えて、今まで生きてきた。
 それが、これだぞ。
 もうなんにも言えやしない。
 こいつ、世界からつまはじきにされてる癖に、世界そのまんまなんだぜ。
 誰だよ、こいつが世界から棄てられるべき廃棄王女だなんて言った奴は。
 この脳天気はどういう訳か、其処にいやがる。
 たぶん私がぶっ壊したって、たぶんこいつはずっと此処にこうして居る。
 コレが此処で生きてるって事、それ自体がもう既に正しい事なんだな。
 そう考えると何かが正しいっていうのは、それが其処に在る、ということと同じなのかもしれないな。
 私は世界から罵られて獣姫になり、そして汚された私の正義を磨きながら戦ってきた。
 私の正義を認めさせるために必死になって戦って、そして戦いもしないアイツを罵倒した。
 私は、自分がなにと戦っていたのか、たぶん知らなかったはずだ。
 私はただ、自分の存在が認められないと思い、ただそのために世界を破壊しようとした。
 だが、コイツの浮ついた顔見てるとそれがなんだか不思議に思えてきた。
 そもそも世界って奴は、なにが正しいとかそんなの言ってやしないんじゃ無いのか?
 世界は、誰かの存在を許したり許さなかったりできるものなのか?
 それが出来てると思うから私は戦ってる、だからお前も私のように戦えというのはなにか変だった。
 もしこの世界をそう言う風に見ていない奴がいたとしたら・・・・。
 
 私はなんだか、とても涼やかな気分になった。
 閉じ込められた私の視界が、ゆっくりと広がっていく気分だった。
 『良いことばかりじゃないが、この世界も悪くはないのかもな』
 私は、もう少しお前の笑顔の由来を知りたいと素直に思った。
 
 『今度、お前の村に連れて行けよ。』
 
 
 ・・・・・・
 
 僕にはすべきことがあった。
 そしてその中で、したいことを見つけた。
 それが嬉しくて此処まで来て、それに後悔することも無いという事も嬉しくて。
 後悔しないということは、なにかをすることで失ってしまった事を無視し忘れるって事だ。
 でも僕は、その事がわかっていてもそれで充分だった。
 人は忘れる事ができる。
 でも誰かは必ず僕のした事を覚えている。
 僕はだから、その人の視線だけは無視できない。
 だから。
 僕はその人の瞳を通して、これから生きていけるんだと思ったんだ。
 僕はその人の事だけは、決して忘れない。
 僕はその人の言葉をいつまでも待っている。
 僕の事は君が教えて。
 だから僕は忘れていける。
 だから僕は生きていける。
 
 『忘れるから、生きていけるんだ。』
 
 
 ・・・・・・
 
 私は、シャノンはわかってると思うわ。
 パシフィカが誰の妹なのか。
 そして。
 パシフィカが此処に確かに生きているということを。
 私はシャノンの横顔を見ているだけで、充分幸せよ。
 だから。
 もっとパシフィカを信じてあげましょうよ。
 あの子の笑顔を見れば、私の言葉なんかよりよっぽど説得力があるわよ。
 でも。
 
 私が貴方の寂しさと同じものを持っているのを、忘れないで頂戴ね。
 本当は、なにもわからないのだから。
 
 
 
 ◆◆
 
 夜は時間が経てば明け、そして朝を迎える。
 それが自然の理のはずだが、その摂理から見放された奴にはそんなのは関係ねぇ。
 夜はいつまでも残酷に居座り、そして朝は誰かに見つけて貰えるまでずっと地平の彼方で眠ってる。
 それが嫌なら自分でなんとかするしかねぇ。
 だが。
 自分でなんとかしようってところから、そこから既にその摂理から外れてる事で、
 それが原因だとして明けない夜と来ない朝があるとしたら。
 そうしたとき、その摂理自体を壊すと思うか、それとも自分でなんとかしようと思うのを諦めて、
 そして従順にその摂理の中に溶け込んでいくのか。
 俺はな、パシフィカ。
 お前が横に座るまで、そんな事を考えてた。
 俺にとっちゃ、この世界は信用に足るものだ。
 だがそれなのになぜか、俺は常にその世界を全く信じていないんだ。
 こうやって目の前に朝日が上がってのを見張ってると、だから少しは安心するんだろうな。
 なんで信じてるのに信じてないのか、そんな事は知らん。
 信じてる物に対して信頼を寄せるって事が、
 俺の猜疑を越えてそれでも盤石であることを確認するために、だから敢えて信じていないのか。
 違うな。
 俺は世界を信用してる。
 つまり、世界が絶対にパシフィカを許さないということを信じている。
 だから俺はパシフィカを守らなければいけないって事を、この朝日を見るたびに確信させられる。
 そして。
 それなのに俺はまだ、信じ切れていないというのが本当のところだ。
 この世界は、本当にパシフィカを受け入れてはくれないのか、と。
 長過ぎたこの夜を明けさせるのは、それは俺達の力によるものなのか、
 それとも最初からこの夜は明けるようにできていたのか、と。
 
 だが、俺のその問いに答える前に、俺は既に答えを不要としている自分をみつけていた。
 パシフィカが、俺の隣に居る。
 それだけで、俺には充分だ。
 だが。だが。
 俺はパシフィカを許しながら、それで。
 ではパシフィカを許す俺は、誰が許してくれると言うのだろうかと、そう考えずにはいられない。
 パシフィカを許す俺が許されないのなら、パシフィカが許される理由など。
 だから俺は。
 俺はすべて俺が決めると。
 俺がする事を俺が決めると言った。
 俺がすることの正しさなんて初めから、だから無い。
 そして。
 パシフィカを守る俺は、パシフィカが俺にそうせよと命じたまま動いている。
 だから、それでいい。
 俺はパシフィカの正しさなんて、証明できん。
 だが俺がパシフィカを守るという事の正しさは、パシフィカが証明してくれる。
 そのパシフィカの命令が正しいというのは、誰にも本当は証明されない。
 証明してくれるはずの世界を、ならば俺達は作るのか?
 作れる訳、ねぇんだ。
 それを作ったら、
 今度はやはりその俺達の正しさを証明してくれる世界の正しさを証明するものが必要になる。
 最初から、俺達に都合の良い世界なんて作れやしないんだ。
 そして。
 それならば、元から其処にある世界の正しさを証明する者もまた、最初から居ない。
 だから俺は、正しさなんて知らねぇ。
 正しいとか正しくねぇとか、そういうのでパシフィカを守るつもりはねぇ。
 
 だが、な。
 
 だから、この世界を守らないでいて良い理由もまた、俺の中の何処にも無いんだ。
 あいつが俺達とあの王子のどちらを選ぶのかわからないのと同じように、
 俺には究極的なところで世界を放り出す事ができるかどうかわからない。
 だから。
 俺は、パシフィカを世界と視た。
 パシフィカを通して生きようと思った。
 俺が守る世界はパシフィカなんだ。
 目の前のこいつを生きる事が許されない世界とひとつにするつもりは無い。
 俺は妹を殺させねぇ。
 それが世界を守るのと同義だと、そう言い切ってなにが悪い。
 パシフィカが生きるのは、俺が許す。許すんだ!
 
 なぁラクウェル。
 ほんとにあいつの兄は俺なんだろうか。
 「本当」なんてものが無いって言うんなら、それなら。
 俺のこの気持ちは、一体どうなるんだ。
 俺は俺は・・・・・。
 
 
 
 どうしようも無い悲しみの空へ羽ばたくこの翼を、一体どうやって止めればいいんだよ。
 
 
 
 
 『ラクウェル・・・・パシフィカを・・・・・・・・・・・・』
 
 
 
 

                              ・・・以下、第 二部に続く

 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 
 

-- 040914--                    

 

         

                                  ■■巨星、堕つ■■

     
 
 
 
 
 今日は昼間は死ぬほど蒸し暑くて生きるのを七割くらい諦めていたところでしたが、
 夜はしんみりと涼しくなって幸福感に満ち溢れていたりする安い管理人の紅い瞳です。
 ごきげんよう。
 
 さて今日はなんのお話を致しましょうかと考えてるときは既になにも書く気が起きていない兆候ですので、
 慌てて今日はこの話をするのさと断定形で迫ってみるも無いものは無い訳ですから致し方なく、
 ええとめんどくさいので今日はヤメー。
 
 あでもなんか書きたい。そう思うと逆になんか書きたい。
 今ちょうどゲームやってないからゲーム口実にサボるとか偶然プレーできない。
 ていうかカオレギのハードモード難しいからキライあっちへいけデコチン(作品が違います)。
 そうだそうだマリみてかマリみてなー面白いし楽しいしうんいいんだけど、
 やっぱり旧薔薇様達が居たときのほうがもちょっと面白かったかなぁなんて不謹慎に言ってるよこいつ。
 うわなんだこいつ散々感想たのしんで書かせて貰っているくせにその欲張りっぷりは非国民めぇ。
 でもさでもさこうなんていうのかなこううんつまり聖様分が足りないのである。
 といってる端から次回は聖様登場らしいので余の目論みは大いに外れる事となろう。
 すいません、なんか今日はもういいです。
 
 あでも最後にひとつ。
 今使ってるサーバでの、ウェブ上に置けるファイルの総容量が新たに増える事になりました。
 今まで10MBだったのですけれど、新たに100MBに。
 10倍かよ。ていうかなんでやねん。
 料金変わらないのにこの変わり身というかフリーザの変身ばりの大幅パワーアップはちょっと違和感あり。
 でもまぁ私としては舌なめずりモノですので据え膳喰わぬはなんとやら、とかいう、
 かくも嫌な言葉を地でいかざるを得なくありがたく頂きました。結局嬉しい。
 でもね。
 もう少しだけ、はやくして欲しかったナ ←既に許容量を超えたのでファイルをいくつか削除したばかりの人
 
 
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと、だからその、オマケです(マドラ編):
 お嬢様お風呂場で眠らないでください(うっとりしながら挨拶)
 我らのエリノアさん万歳。
 まぁ落ち着きましょう。
 物事には順番というものが御座いますゆえ。
 と言うわけで、なんといおうと今回の一番手はマドラックスさん。
 いやもうMADLAX見てて本当に良かった。
 面白すぎ。ていうか笑いが止まりません。
 兵士: 「ドレスを着た女が、目の前に現われました!」
 も、最高。
 ここぞとばかりにベスト装備で戦場登場のマドラックスさんの意気や良し。
 やる気満々絶好調のエージェント、ここにあり。
 そして王国軍もなかなかわかっている人達揃いで、いきなり戦車の主砲を発射。
 たったひとりの相手に随分過激な反応ですけれど、マドラックスさんには効きません。
 いえ、言葉のあやとかじゃなくてほんとに効いてません。
 どうみたって直撃してますが、傷ひとつどころかドレスにほころびすら出来てません。
 さらに歩兵の一斉射撃を喰らうと、なぜか通常服のマドさんがボロボロになる映像がでて、
 それがドレスのマドさんから剥がれおちていくかのようなシーンになります。
 あれですか、ゲームでいう一基死んだとかいう奴でしょうか。
 マドラックスさん: 「死ねないのが、それがマドラックス。だから、おいで。・・・いい子ね。」
 ものすっごく怖い光景です。
 いやもう、私はお腹抱えて転げ回ってたんですけど。
 しかしそこにリメルダさん登場。
 お互いになぜか銃を交換し合って至近距離から撃ちまくり。
 リメルダさん、新しい境地に達した模様。
 しかしマドラックスさんは一向にリメルダさんにはあててくれません。
 リメルダさんも同じく何発か外して魅せますが、たぶん何発かは当たっててもわかりません。
 マドさんならなんでも良かったリメルダさんですが、
 でも弾当てても殺せないマドさんにはさすがに失望して思わず自暴自棄に。
 あなたを殺せないなら私を殺してっていうのは理不尽モードのような気もしますが、
 しかしここで大事件が。
 「あなたの中に、私を居させて」byマドラックスさん
 
 まるで告白じゃない by リメルダ・イルガ
 
 終わった。
 これでリメルダさんは普通のストーカーに落ち着くことになることでしょう。
 リメルダさん、今までありがとう御座いましたby紅い瞳
 さてそしていよいよ今回の主役、エリノアさん。 
 最強のメイド、エリノア・ベイカー。
 森の中で兵士に見つかるも、すぐさま得意の足技を駆使し、
 ひるんだ隙に兵士に銃を突きつけます。
 素晴らしいメイドさんです。
 けれどエリノアさん的には、こんな事をしてる自分をお嬢様はどう思うだろう、
 と悩んでしまいます。
 でもね、エリノアさん。
 お嬢様は素手でひとり爆破した上に逆上した勢いでひとり射殺(死んでないけど)してますので、
 その、全然大丈夫。
 ほらーそんな事言ってるから撃たれちゃったじゃないですか。
 エリノアさん、絶体絶命をいきなり一歩踏み越えてしまいます。
 ここに来てお嬢様への想いが足枷になってしまうとは、つくづく哀れなおかた。
 そして深く傷つきながらも、なんとかお嬢様をみつけたエリノアさんですが。
 ですが。
 お嬢様: 「あなたは、誰?」
 お嬢様!!! (血涙)
 この期に及んでボケなくてもいいじゃないですか、と思ったかもしれないエリノアさん。
 でもまた記憶を失ったのかも知れないと思い直し、懸命に自分の事を説明していると、
 お嬢様: 「なんだ、エリノアか。」
 やっぱりボケてたんじゃん。
 なんかその、お嬢様はやっぱりお嬢様です。
 エリノアさん的にはここぞとばかりにお嬢様を誘います。
 お嬢様が籠絡されやすいのは周知の事ですので、ナフレスへ帰ろうと。
 私の家は此処だよとか電波るお嬢様など見慣れた光景なので、
 違います、とあっさりと押し切ってお嬢様への想いを語ります。
 記憶が戻らなくても、いつもの普通の生活をお嬢様のためにして、
 それで私は充分なのですとエリノアさんはいいます。
 さすがはエリノアさん。これでお嬢様はエリノアさんのモノ。
 が。
 お嬢様: 「そんなことして、なんになるの?」
 え? い、今なんて?
 お嬢様: 「ただ生きてるだけだよ。死んでるのと同じだよ。そんなの嫌だな・・・私」
 お、お、お嬢様っっ!?
 かつてこんなにお嬢様がエリノアさんの魔の手言葉に従わなかった事などあるでしょうか。
 そんな! ベイカー家に代々伝わるお嬢様捕獲術が通じないだなんてっ!
 あまりの出来事に驚くエリノアさんの前に、奴が現われます。
 お嬢様: 「あ、お父様。」
 
 誰ですか、あなた by エリノアさん
 
 でたな、変態。
 最強メイドの全能力を開放し言葉に殺意を込めて問います。
 お嬢様を帰してくださいと恐ろしい顔で問いつめるエリノアさんに、
 フライデーさんは、彼女の本質が決める事だと答えます。
 逃げたな、変態。
 しかし優秀なお嬢様ハンターのエリノアさんはフライデーさんに銃を向けて逃がしません。
 お嬢様にひどい人と言われようが関係ありません。
 どいてください、お嬢様。そいつは旦那様ではありません。変態です。
 しかし先手を打ったのはフライデー氏。
 お嬢様に本質の言葉をエリノアさんに向けて言わせます。
 途端、エリノアさんはマドラックスさん達を襲った混乱に襲われます。
 危うし、エリノアさん!
 そして衝動に支配されたエリノアさんは、お嬢様に銃を向けてしまいます。
 メイドという時代錯誤な存在、そういったものに対する社会からの抑圧、
 そして平凡な日常の抑圧をお嬢様のせいと言い換えるその本質の言葉が、銃をお嬢様に向けさせます。
 フライデーさん、なんかもう大喜び。
 これは理性ではない、衝動的な行為ダ!
 しかし侮る無かれ。
 エリノアさんが最強メイドたる由縁、此処にあり。
 お嬢様に向けていた銃口を、フライデーさんに向け変えます。
 すごいやエリノアさん。変態の罠を破りましたよ!
 ほらそこ、本質が愛を示すかとか否定になってない言い逃れ禁止>怖じ気づく仮面の人
 なんといおうと、今のエリノアさんは最強です。
 そのお嬢様を見つめる瞳の美しさ。
 その変態を見つめる瞳の怖ろしさ。
 そして。
 
 
 バートン家メイド、エリノア・ベイカー:
 「お嬢様から、その薄汚れた手を離しなさい!」
 
 
 ・・・・・もう、好きにして・・(うっとりしながら)
 エリノアさん、万歳! 万歳万歳万々歳!!
 これはもう世界史に残る名ゼリフです。
 ファースタリとかセカンダリとかどうでもいいです。
 それよりエリノア語録のほうが大事ですよ。
 ほらね、お嬢様だって偽お父様をほっぽって戻ってきてくれたじゃないですか。
 もうあれですね、変態なんて目じゃないよね。
 ここにエリノア・ベイカー、バートン家メイドとしての最高点に達しました。
 そして、
 そして。
 ・・・・。
 エリノアさん、此処に大往生。
 戻ってきたお嬢様の伸ばしてくれた手に触れる事ができなくて、大丈夫。
 だって、だってお嬢様は・・・・エリノアさんの・・・・・家族。
 もう充分・・・もう充分・・・・。
 お嬢様に最後にひと目出会えてそれでエリノアさんはもう。
 ・・・・・。
 
 エリノアさんの安息のために、黙祷。
 
 あまりに心安らかなるエリノアさんの死に顔をみて、
 エリノア死んじゃったとボケっというお嬢様の葬送の言葉で以て、
 エリノアさんの短くも太くてとっても強い上に過激だった一生は幕を閉じました。
 エリノアさん、安らかにあちらの世界でお休みくださいませ。
 
 これからこっちは修羅場ですが。
 
 

-- 040912--                    

 

         

                            ■■マリア様から見た雨の色■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよう、皆様。
 本日はマリア様がみてる〜春〜第十一話「レイニーブルー」について感想を述べさせて頂きます。
 
 それで。
 うーん、私としましてはまたよくわからなかった、というのが正直なところです。
 ただそれは「銀杏の中の桜」のときのように、描かれている事がさっぱりわからなかった、というのではなく、
 このお話から私は一体なにを感じればいいのでしょうか、という、
 そういう訳のわからない本末転倒も甚だしいわからなさ、でした。
 ええ。
 なにを感じればいいかわからない、ということはつまり、その、
 あまりこのお話を見て感じることが無かった、あるいは少なかった、という事です。
 或いはそれは、たぶん今回は次回の準備段階としての感じがした、というところにも、
 その原因があるのかもしれません。
 とりあえず、今回のお話は祐巳さんが祥子様の浮気を疑う、という形でしたけれど、
 これも正直申しまして、私は今回の主役である祐巳さんに対して特に言うべき事はありません。
 というより、もし我が事のように考えた場合、私には祐巳さんに対して厳しい言葉を申し述べる、
 たぶんそうなるだけですし、おそらく私の中にそれ以上の思考の発展の余地は残されていません。
 祐巳さんを抱きとめた聖様ならば、色々と優しく接してあげられるのでしょうけれど、
 私個人ははっきりと祐巳さんを叱る方の立場に立ってしまう気がします。
 なんでかと申しますと、その言いにくいことですけれど、祐巳さんの事があまりにもよくわかるから、です。
 辛いことや苦しい事を知るとその事で悩む人により優しくなれると言いますけれど、
 そういう場合も勿論あるのですけれど、この場合に於いては厳しい言葉を投げかけたくなります。
 なにをやってるんだあなたは、しっかりしなさい、というそういう批判では無いです。
 そうでは無くて、その苦しみがわかるからこそ尚の事それには立ち向かっていかなくちゃいけない、
 そういう私自身を顧み過ぎているきらいがあるゆえの、叱咤、
 それを以てしか、私は今回の祐巳さんを考えることはできませんでした。
 同情することはできます。
 祐巳さんの哀しみの種類を解析して説明することもできます。
 祐巳さんの立場に立って、瞳子ちゃんと祥子様を批判する事も可能です。
 そしてすべて誰のせいにもしないで、ただ雨の中絶望に打ちひしがれるだけしかない、
 そういう祐巳さんの姿を徹底的に描いてみせる事もできます。
 
 でも。
 
 私は祐巳さんが甘ったれてるとは思いません。
 でもだからこそ私は、此処が頑張りどころだと言わずにはいられません。
 祐巳さんが最後の一歩を踏みとどまれずに、感情に押し流されてしまった事、
 その事を情けないとか無責任に言うつもりはありません。
 でもだからこそ私は、祐巳ちゃんの頬を引っぱたいてやりたいのです。
 此処で負けてどうするんだ! って。
 だって今回の祐巳さんは、あまりにも自覚が無いのですから。
 私はもう完全にこの祐巳さんに対する態度を決めていました。
 今回の祐巳さんが囚われた絶望は、本当にどうしようも無い事なの?
 わかっていてもどうすることもできない、答えがわかっているにうまくいかない、
 或いはどうしてもなにかをしようとは思えない、そういう類の絶望でしたか?
 違うのです。もう全然違うのです。
 祐巳さん、自分を忘れないで。
 祐巳さんがひとりで空回りするのはいつものこと。
 祥子様をちゃんと見ないで、いつも試行錯誤の上失敗ばかり重ねてしまったり、
 或いはどうすればいいのかわかっても、どうしても最初の一歩を踏み出せない、
 祐巳さんはそういう事はしても、
 でもそれはつまり自分だけはちゃんと見ているという事に他ならないのです。
 でも今回の祐巳さんは、たぶんなんにも考えてない。
 それを指して祐巳さんらしくないと言う意味で批判するつもりはありません。
 祐巳さんらしさなんて関係ない。
 それよりなにより、なにも考えない、自分を見ない祐巳さんを許してあげるなんてできないんです。
 それを許してしまえば、祐巳さん的な存在すべては醜く雨の下の地べたに埋もれて消えてしまうだけ。
 その姿を消してしまうまでその流れる涙を流させてしまえば、それは。
 それはやっぱり許せない事なのです。
 だから私は、祐巳さんを許せない。
 祐巳さん頑張れ、なんて応援してる場合じゃありません。
 正面きって、はっきりと私は怒ります。
 祐巳さん、落ち着きなさい。自分の事をもう一度ちゃんと考えなさい!、と。
 私はこのとき、ふと聖様では無く、蓉子様を思い浮かべました。
 おそらく蓉子様は、私と同じような感想を抱くと私には思われました。
 蓉子様の生き方は、やっぱりそういうものだったと思うから。
 私と蓉子様の生き方は確かに違うけれど、たぶんその一点はまったく同じ。
 絶望に囚われた祐巳さんに寄り添ってそのまま一緒にズブズブと泥の中に溶け込むのではなく、
 その絶望の淵から無理矢理でも引っ張り上げて、ちゃんと立たせてあげる。
 転んだ祐巳さんのスカートの泥をぬぐって、そのまましゃんと立たせてあげる蓉子様の姿が見えます。
 私も、今回だけは本当にそう強く感じました。
 たぶん次回祐巳さんは聖様に暖かく迎えられて、
 そして聖様一流の、適当に甘やかしておいてしばらくしたらほうりだして歩かせる、
 そういう待遇を受けた上で祥子様と再び向き合う事でしょう。
 それはそれで勿論宜しくて、あ、聖様の模範演技が見れるのですから大歓迎なんですけど(ぉぃ)、
 でもやっぱりもし私が祐巳さんだったらと思うと、その展開には歯がみしてしまう想いです。
 そしてもし私が祐巳さんに近しい人だったらと思うと・・・・やっぱり落ち着いていられません。
 
 
 祐巳さんに同情はしません。
 ここで同情しちゃったら、負けですから!
 
 
 今回のお話を見て、感じる事があまり無かった、というのは、それは。
 それはつまり、私が完全に祐巳さんに感情移入しきったから、という事だからなのです。
 感じるもなにも、私はそのとき祐巳さんだったんですから。
 そして途中から蓉子様が混じり込んできて、私は完全にあの雨の中に居ました。
 青冷めた醜い絶望に塗り込まれていく雨の景色を、
 私は決してそのままにしておきはしませんでした。
 今回は、特別。
 私は、青い雨の中に沈んでいく福沢祐巳に反対します。
 これはつまり、私の感想ではなくて、私の意見です。
 祐巳さんの事なんにもわかってない、と言われればそれまで。
 私はなによりもよく祐巳さんの事をわかっているつもりだから、
 だから私はその祐巳さんに反対しただけ、そう言うしかありません。
 なによりも祐巳さんが可哀想と思うから、だから・・・・。
 だから祐巳さんがどうすべきかを考えてみただけ。
 そしてそれは、絶対に祐巳さんに可能な事だと私はなによりも考えている事だから。
 というより、そう強く信じたいからなのです。
 だって、祐巳さんは私なのだから。
 
 
 今回出てきた紫陽花の花言葉は、「心変わり」「移り気」。
 私は花というのはあまり好きでは無いのですけれど、
 なぜか昔から紫陽花だけは好きなのですよね。
 たぶん色の種類が沢山あるところや、ひとつの色自体もどんどんとその色彩が変わっていく美しさ、
 そしてなによりたくさんの小さな花がその彩りの移ろいを形作っていくところ、
 それが私は好きなんだと思います。
 「紫陽花」というひとつのものの中にあまりに沢山のものが詰め込まれていて、
 単調さの塊のような嘘のような華々しさが無い、つまり花らしくないところが好き。
 綺麗だし、見ていて楽しいんです、紫陽花って。
 心変わりとか移り気とか、そういう花言葉も凄く似合います。
 それは悪い意味で受け取ればそれまでですけれど、
 でも心が刻々と変化し移ろいゆくのはその心が豊かな証拠でもある訳だし、
 人が人に対して抱く想いも変化して当たり前。
 でも。
 でもその「紫陽花」というカタチだけは絶対に変わらなくて、
 だからこそ安心してその変化を楽しむ事ができる。
 紫陽花はどんなに色が変わっても、それは絶対に紫陽花でいてくれる。
 ひとつひとつの色の変化に囚われて、その色彩の移ろい全体を象る紫陽花の全景を見誤れば、
 それは確かに悲しい事になってしまうでしょう。
 白い紫陽花が好きな人から見て、それが青い紫陽花になってしまえば、それは大変辛い。
 でもその青さを楽しむ事ができなくても、でもそれを紫陽花として楽しむことはできるはず。
 紫陽花の色を見るのか、それとも紫陽花を見るのか。
 色だけを見ればきっとそれはもうその一色だけにしかならない、
 そういう既に紫陽花では無いものになってしまう、そう私は思います。
 絶対に色が変わらない事を信じるよりまず、それが紫陽花で居てくれる事を信じる。
 そうして初めて、紫陽花はそこにその人の好きな色を魅せてくれるのじゃないか。
 私は祐巳さんにそう言いたいのです。
 なんだか嘘みたいにクサい台詞ですけれどね(笑)
 
 
 
 
 祐巳さんを横に置いておくと、一番気になるのは、祥子様です。
 祥子様の瞳のかげり具合が、それがなにによるものなのか。
 果たして祐巳さんの過激な反応だけに対するものなのか、
 それとも祐巳さんとの約束を果たせない事、そして約束をすることもできない状態、
 それを憂いている事だけに因るものなのか。
 色々と想像は尽きませんけれども、それはやはり次回のお楽しみなのでしょうね。
 そしてやっぱり、私にとっては祥子様が最難関のようです。
 たとえ次週祥子様の瞳について語られる事があったとしても、
 果たして私はそれについてなにか書けるのか、甚だ自信の無いところで恐縮です。
 
 
 というあたりで、本日のお話を終わりとさせて頂きます。
 今日の文章は、私にとっては「感想」では無く「意見」という位置づけになっていますので、
 自然それを考慮して私の言う「感想」というものがどういうものであるのか、
 この際ご想像して頂けると私としては嬉しいなぁ、というところで御座います。
 
 それでは皆様、ごきげんよう。
 
 
 
 

-- 040909--                    

 

         

                            ■■『時を越えた輪舞曲』■■

     
 
 
 
 
 『でも、みんなでこうやって一緒に御飯食べられて、嬉しいな・・・・嬉しいよ。』
 

                          〜 第二十二話のパシフィカのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 

 ----- もうすぐ、みんながあなたを殺しに来る -----

 
 
 
 
 
 
 
 
 見上げると、其処にはぱーっと青空が広がってて。
 あったかくって爽やかで、踏みしめる一粒一粒の砂粒までなんかニッコリ笑ってて。
 わーこういうのいいなーなんて思っちゃったりしてさ、楽しいのよ。
 なんかもう全然寂しくなくてさ。
 こういうのをほのぼのと言うのかねぇ。
 しゃがみ込んでみんなの様子を眺めてると、綺麗に色々な物が見えてきて。
 へー、そうなんだーって感じでひとりひとりの行動が面白くってさ。
 まるで蟻ん子の行列をじっと眺めてるときみたいな幸せ感っていうか。
 『なんかキャンプみたいだよね』
 ほらー、そんなこと言ってるうちにウイニアに怒られちゃったよー。
 ちゃんとやってよーって。
 うわ、うわ、うわ、楽しいな、楽しいな、こういうの。
 「ごめんウイニア〜。だってさぁー見てると楽しいんだもん。」
 「はいはい、じゃこれお願いね。水は多めに宜しく。」
 「しょうがないなーもうー。えへへ。」
 「なにパシフィカ・・・気持ち悪い。」
 「そう? そうかなーいいじゃん別にぃ。」
 
 よーしよし、我ながらうまくできたぞー。
 焼きそばのでっきあっがり〜。
 ほらほら〜みんな食べて食べて〜。
 ゼフィリスもおひとつ如何?
 おー、山の向うに夕日が見えるよ。
 綺麗だねぇ、こういうときに食べる焼きそばはまた美味しくて美味しくて・・・って。
 なによその顔は〜ちゃんと私が作ったの食べなさいよね〜。
 やな感じだけどさ、ま、いっか。
 ゼフィリスもちゃんと来てくれたし。
 あーなんだろー、この嬉しさは。
 嬉しいな〜えへへ。
 
 みんな私のせいで。
 私のせいで酷い目に会うかも知れないのに、こうやって私に付き合ってくれて。
 私、もう何回謝っても足りないと思うから、だから何遍でもやっぱり謝るよ。
 そしてそれでも絶対足りないと思うから、ありがとうって、言うね。
 ほんとはさ、それは言っちゃいけないことなのかもしれないけど。
 ありがとう、なんて言ったって、ほんとはみんなは自分の意志でやってる訳なんだし。
 それになんかありがとうって言っちゃったら、なにかが終わってしまいそうで。
 でも、やっぱり言うよ。
 ありがとね、みんな。
 私、少なくとも、今、嬉しくて堪らないから。
 その事だけでも、お礼を言わせてね。
 ありがとう、嬉しいよ、みんな。
 
 
 
 そしてやっぱり、ありがとう。
 だから、ごめんね。
 
 
 
 
 
 行った事の無い場所が、それでも見えるって。
 昔昔、私たちはあの夜空の星まで行ったんだって。
 それなのに、私達は今、こうして其処に手の届かぬ場所からその綺麗な光だけを見る事しかできない。
 ほら、ね、こんなに一杯。
 私の広げた両手の内に入りきる光の束が、こんなにも私には触れられないんだよね。
 私にはもう・・・・・。
 あれ・・・・なんで涙なんか・・・・。
 どうしても触りたくて手を伸ばしても、空と私の間は、その涙で埋まっていくばかり。
 どうしてなのかな。
 どうして私は、こんなに大事な物に触る事ができないのかな。
 辛くて、悲しくて、なんにもわからなくて・・・・・思い出す事もできなくて。
 思い出せないなら、それはきっと行った事の無い場所。
 見えているのに触れないなら、それはきっと私にとって大事な物ではいてくれないの。
 私にはどうすることもできないのだから。
 だから・・・悔しくて・・・悲しくて・・・だから・・・・・。
 私・・・・・なんとかしたくって、なんとかそれを抱きしめたくって・・・。
 でもどうしてもできないって事がどうしてもわかってしまって・・・。
 気付いたら、私、全力で、泣いてた。
 泣いて泣いて、そして絶対に掴めない物をそれでも掴もうと掌を握りしめて。
 なんでこんなに・・・・・スカスカなの・・・・。
 私・・・・私・・・・・頑張るから・・・・・。
 だから・・・・・・。
 「パ、パシフィカさん、やっぱりその、ご、御免なさい。」
 「だからレオは悪くないんだって。」
 「で、でも・・・・」
 「レオ・・・・ごめんね。」
 「なな、なんでパシフィカさんが謝るんですか!」
 「いいから。ごめんね、レオ。私、泣いちゃって。」
 「え? いいんですよ。僕は全然構いません。」
 「・・ありがとね、レオ。」
 
 
 
 『いい天気だねー』
 うわ、見た? あの雲。可愛いよねー。
 って、あ! マカロフ〜あんたも来てくれたんだ〜。
 ありがとうエイローテ! わざわざ連れてきてくれて。
 げ。セイネス、あんたも来たの〜。ま、いっか、今日はいい天気だし。
 あっちで適当に作戦会議でもやっててくださいな。
 わたしゃー、のんびりいかせてもらいますからー。
 あー、だっるー。
 やっぱ干して畳んだ洗濯物にまったり乗っかってるのが一番よね〜。
 って、えー。また洗濯すんのー。
 しゃーない。シャノン兄にもやらせますかー。
 ほらーいくよーシャノン兄〜。
 と、シミを落すのが趣味のジジ臭いシャノン兄にここは任せて、
 私は水浴びしてこようっと。
 後は宜しく〜ラクウェル姉ぇ。
 「はいはい、ゆっくり水浴びしてきなさい、パシフィカ。」
 
 
 
 ・・・・・・
 
 『こんなに天気が良くて、風が気持ちよくて、洗濯物が真っ白で。
  私はこの世界がこのまま滅びてしまうなんて、とても思えない。』
 
 シャノン。
 確かにこの世界はパシフィカのせいで滅びてしまうかもしれない。
 そして私達はそのパシフィカに荷担して、世界を裏切る事になるのかもしれない。
 それをこんな風にしながら安穏と受け入れる事が、不安じゃ無いと言ったら、勿論嘘になるわ。
 でも。
 あのパシフィカを、みて。
 あの子、あんなに嬉しそうにこの世界の中で生きてるじゃない。
 よく考えてみて、シャノン。
 そのパシフィカの周りを包んでいる世界は、今、悲しそうな顔をしてるかしら?
 私には、どうしてもこの世界がパシフィカを優しく受け入れているとしか思えないわ。
 あの青空が、そしてこの暖かい大地が、みんなパシフィカと一緒に居てくれている。
 そうは思わない?
 だからね。
 私にはどうしても思えないのよ。
 この世界が、ほんとうにパシフィカを残して自分勝手に滅びてしまうだなんて。
 ええ。勿論。
 勿論世界に人格なんてないわ。
 だからこのいい天気のまま、パシフィカの誕生日が世界の終わりとなってしまうことだって有り得るわ。
 でも。でもねシャノン。
 ほんとうのところは、誰にもわからないのよ。
 世界がこのまま滅びるのか滅びないのか。
 だったら。
 私は自分のみた世界の笑顔を信じるわ。
 パシフィカと世界の両方を守る。
 もしかしたら、最初からその必要は無いのかもしれないわ。
 私達は、ただパシフィカだけを守っていればいい。
 そうなのかもしれないのよ。
 世界は世界で、最初からパシフィカと生きてくれるつもりなのかもしれないのだから。
 それが嘘かどうかなんて、誰にもわからない。
 だから私は、今はそう信じて生きているわ。
 
 『いつもながらお前のそういうとこ、救われるよ。』
 
 ・・・・・・
 
 
 いつもと違う空が見えるとき。
 それでも感じられる風が優しければ。
 なんとも・・・・なんとも無い!
 私、頑張るから。
 なんにも思い出せなくても。なんにも気づけなくても。
 私の隣には笑顔で私を迎えてくれる人達が居るんだから。
 でも。
 
 
 私にそっくりなあの人が、それでも私を許さない事を、私だけは知っている。
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 

-- 040907--                    

 

         

                       ■■オアシスが空の上にあると思えば■■

     
 
 
 
 
 ごきげんよ、紅い瞳っす。
 
 うん、台風ですね。
 地震の存在には気付きませんでしたけど、台風は。
 うん、一応気付いた。まだいける。
 紅い瞳は台風とか好きな人です。
 なんかその嵐の前の静けさの中に漂う喧噪みたいなのとか、いいかんじがします。
 で、実際に台風が来ると空に向けて台風のバカーとか叫んでる人です。
 こうやって人は大人になっていくのですね。
 
 さて適当にネタをしくじってみたところで、新アニメのお話。
 いちおー10月から新しい番組が始まるみたいですね。
 ということで、私としてはいつものようになにか面白いものをみつけたいなぁ、なんて、
 そういうお年頃で御座います。
 そしてあわよくば感想を書けるようなアニメに出会えたら、なんて思っているのですが、
 けれど最近はそのアニメを見つけるために新アニメに目を凝らしていたりして、
 なにかこう自分の中で違うなぁという気もしないでも無いけどそんな事を言ったら書くモノが無くなります。
 理想で腹は膨れんのじゃ。
 ・・・・。
 なんとか頑張ります。
 
 ということで、その今回の新しいアニメですけれど。
 ずらっとひと目見回してみたところ、マリみてみたくこれしか無い、というのは勿論ありませんでした。
 それはいつものことですので当然でせう。
 でもそれでも最初見たときはあまりにも琴線に触れるものが無くて、
 これはほんとにどうしようと、たぶん今までで一番危機感を感じたかと思われます。
 でもそこはそれ危機感を感じてる当の本人が紅い瞳ですから、
 結局はなるようになれという至極怠惰な解決法でなんとか乗りこなせてしまうものなのです。
 案ずるよりは寝るが易し。
 つまりあれこれ考えているよりは寝て待っていた方が簡単という意・・・・って当たり前じゃん。
 あれ? なんかボケ間違えました。ごめんなさい。
 ていうか、もういいです次いきます次。
 面白そうなものが無いと言っても、やっぱり見てみなければわからないものですので、
 そういう意味で、みてみようかな、と思う作品はいくつかありましたので、
 それを此処でちょっと紹介してみたいと思います。
 
 
 ・ローゼンメイデン
 ・月詠
 ・ファンタジックチルドレン
 ・tactics
 ・機動戦士ガンダムシードDESTINY
 ・厳窟王
 
 
 今のところ一番見ようという意識が高いのが、ローゼンメイデン
 なんでこれがいいと思ったのかについては現在自己分析中ですが、
 まーたぶん人形とか人形とかあと人形とかそのあたりに引っ掛かったんだと思います。
 紅い瞳はそれくらいの人間です。
 あとBSでしか見れないと思っていたのに、いつのまにかTBSでもやることになっていたので、
 この機を逃すまじ、とバーゲンに駆け込む主婦のような感覚もあるのだと思います。
 紅い瞳はそういう感じの人です。
 月詠はなかなか危険球が飛び交いそうなアレですが、やっぱりこれですよね、これ。
 「おにいさま、私のしもべになりなさい。」by月詠キャッチフレーズ?
 お兄様がお姉様で、もし舞台がリリアンだったら下剋上モノです。
 あ、でも由乃さまと令たん辺りは元からそうかも・・・・はっ、なんでもありませぬ。
 あとはヴァンパイアとか吸血鬼とかその辺りに反応した次第です。
 たいへんよくできました。
 ファンタジックチルドレン
 私の中では和訳すると「現実逃避してる子供達」という感じになっちゃうスグレモノですが、
 それほど期待はしていません。
 一応哲学っぽいという安易でプリミティヴな受け取り方をしましたので、なんとか見てみます。
 紅い瞳に語学の才能は欠片もありません。
 tactics
 妖怪退治。美形。それ以上なにを望むというのかー。
 余は満足じゃ。
 機動戦士ガンダムシードDESTINY
 言っておきますけど、ネタとして見る訳じゃ無いんだゾ。
 わたしゃシードは結構好きじゃから。
 そりゃーツッコミどころは沢山あるけれども、楽しめるところはそれだけじゃ無いもん。
 アスランとか結構好きだし。あと色々好きだし。色々って言ったら色々なんだっての。
 間違ってもマドラックス感想の後を継がせようだなんて考えません。
 たぶん。
 厳窟王
 古 典 だ か ら 。
 
 
 あ、あ、あとねあとね。
 最近ケーブルでフリクリっていうのがやってるんだけど。
 もうあれですよ、こんなのアリ? って感じがするですよ。
 感想? そんなの書けるか、馬鹿。
 あ、ご、ごめんなさい。馬鹿とか言ってごめんなさい。
 でもほらあれですよ、書ける訳無いよ、あんなの凄すぎてさ。
 紅い瞳は訳がわからなくなると凄いという言葉しか使わなくなる癖がありますので、
 取り扱いには気を付けてください。でも扱い自体は非常に簡単です。
 って、は! な、なにを言ってるんですか私ははははは。
 うん、フリクリはこんな感じです。大好きです。愛。
 
 
 
 
 特に改めて言うことも無いほどのMADLAXぷりでした、という感じのマドラ感想を模したオマケ。
 花言葉は誘惑(挨拶)。
 謎、解消。
 というより、各種正体判明。
 不思議少女レティシア=幼マーガレットが抱いていた人形、
 マドラックスさんはお嬢様の持っていた本の一ページ。
 そしてフライデーさんは、どこまでいっても変態さん。
 森の中で放心状態お嬢様つかまえて二人羽織だなんて、年季が入りすぎています(変態の)。
 ヴァネッサさんの死は、残念ながら確定。
 遅れてやってきたエリノアさんが目にしたのは、すっかり冷たくなってしまわれたヴァネッサさん。
 ああ無情。
 ヴァネッサさんのご冥福をお祈り致します。
 そしていつも一緒に置いてけぼりを喰らううちに
 いつしかヴァネッサさんに友情を感じ始めていたエリノアさん。
 ヴァネッサさんに取りすがって号泣します。
 私だけ置いてかないで、とちょっと違ったニュアンスで泣きじゃくるエリノアさん、哀れで御座いました。
 そうしてるまにも、フライデーさんはお嬢様をお持ち帰り。
 エリノアさん、立て、立つんだ。
 と思っていたら、ごく自然に起きあがったのはマドラックスさんでした。
 あ、もう傷とか当然の如く消えてるみたいです。
 ていうか、本人も今のは夢だったの? とか言ってます。
 ほっとするも束の間、横にはナハルさん。
 ずっと寝顔見てたんでしょうねぇ、この人。はやく起こしなさいよ。
 いやいや、あるいは。
 お嬢様の獲物を横取りしたらマズイと思ってセルフオアズケしていたのでしょうか。
 その辺りの事情はわかりせんが、マドラックスさんは事態を承認。
 ヴァネッサさんの死も認識。
 そしてリメルダさんもマドラックスさんの気を感じて普通に復活。
 天敵ヴァネッサさん亡き後、この人を止められる人はどこにもいません。
 マドラックスさんはトドメ刺さないし。
 これでMADLAXがさらに面白くなっていくこと請け合いですね。
 そしてここで、キャラの変更が。
 ナハルさん、心優しい人間に変身
 いえ、以前から予兆はありましたけどね。
 なんだか今回は完全にマドラックスさんの味方っぷりを発揮して、
 そしてあまつさえ励ましまくってます。
 私的には、やっぱりお嬢様に狙われた(狙われる)者同士だからこそ、その辛さがわかるのかと。
 ナハルさん、とっても可愛い親切さでマドラックスさんを暖かく前に一歩押し出します。
 生きる者にはやるべき者があるはずだと。
 ヴァネッサさんにお嬢様を託されたマドラックスさんは、お嬢様を守るのがやるべきこと。
 ナハルさんは言います。お嬢様はアンファンに連れて行かれたと。
 それを聞き、マドラックスさんはお嬢様救出に赴きます。
 あ。
 よく考えたら、マドラックスさんけしかけてお嬢様を助けるのをやらせようとしてる、この人。
 ナハルさん、もう本当にお嬢様には関わりたくないようです。
 マドラックスさんに惹かれたって、つまりパリシとしての魅力を感じたとかそういうのじゃ・・・。
 くあんじったさまがみてる。
 で、その囚われの姫君は、変態に寝顔をイジラれまくってますが。
 いそげ、マドラックスさん。
 
 (CM)
 
 お父様。
 黄色い花の咲き乱れる丘の中で、お嬢様が呼びます。
 お父様・・・。
 その先には・・・・・・・・・フライデー・マンデー氏(年齢=変態暦)が。
 一体なにしたんですか、あんた。
 ああああ。
 いくらお嬢様が籠絡されやすいからって、それはあんまりです。
 ていうか、あなたはそういう方向の趣味の持ち主では無かったと思うんですけど。
 「花言葉は誘惑」、とか言ってるのはおかし・・・・いや、後半はなぜか合ってる気がしますけど、
 し、しかしお父様だなんて・・・・ていうかほんと何考えてんですか、この総帥は。
 お嬢様で遊びすぎ。
 さて、そんなフライデーさんの享楽を余所に、
 マドラックスさん、エリノアさん、そしてナハルさんはお嬢様救出のために向かいます。
 なんだかんだでナハルさんもついていくようですね。
 やっぱり遠くのお嬢様より近くのクアンジッタ様の方が怖かったんでしょうか。
 それでも基本的にマドラックスさんが突っ込んで道を切り開いていく感じで、
 ナハルさんは援護。
 そしてエリノアさんも船上で機関銃を撃ちまくって過激に援護。
 ていうかあのときナハルさんも岸にいたはずですから、むしろナハルさんも巻き添えになっていたやもしれず、
 ナハルさん的にはどうにも遣りきれない旅の始まりになりそうです。
 で、リメルダさんはまた無線奪ってマドラックス御一行探索開始。怖い人。
 場面戻って、既に怖いくらいに洗脳されちゃってるお嬢様。
 ああ、なんかマドラックス殺しちゃってもいいよね☆とか言っちゃってます。
 「早く殺したいなぁ、マドラックス。」 by お嬢様
 
 マドラックスさん、そっちはやっぱり崖です。
 
 そんな崖っぷちの存在を知ってか知らずか、マドラックスさん大ハリキリ。
 優しい人殺しの名のまま憐れみを以て殺したり武器を撃ち落としたり飛んだり跳ねたり。
 ただひとりの友ヴァネッサさんのためにひた走る、狂気の中の慈愛、マドラックスさん。
 くっはー、もうカッコイイなぁもう。
 絶好調さらに斜め一歩先を踏みだしてるマドラックス姐さんは、此処でスーパープレイ。
 エリノアさんを人質にして銃を捨てろと迫る兵士の話を素で無視して、
 放たれた兵士の弾丸を撃ち落とします。無論、弾丸で。
 もはやこれは神の領域、というかバグの領域という気もしますが、
 しかし月の下で銃を片手に踊るマドラックスさんたら、カッコイイ。
 エリノアさんも、これにはちょっとくらっときてしまいます。
 
 新たな三角関係の予感が。
 
 
 

-- 040905--                    

 

         

                                ■■マリア様注意報■■

     
 
 
 
 
 『負けるもんかっ! ・・・って誰に・・? ・・・・自分自身に? それとも令ちゃんに?』
 

                          〜 第十話における島津由乃の台詞より〜

 
 
 
 
 
 
 いつもと同じ衝突をして。
 どちらが押してどちらが倒れるのかも決まっていて。
 それをひとつの他愛ないお約束としている訳でも無いのに、
 それはいつも厳格な規則になっていたと思う。
 そしてほら。
 それに則れば、今日は雨。
 外れるのが当たり前の、絶対に変わらない雨天注意報。
 私達、いっつも駄目駄目だよね。
 
 ひとつひとつの事を考えていって。
 その論理的帰結により導き出される答えはいつも単純明快で。
 そしてそのわかりやすくて乱暴な私の答えは、いつも令ちゃんを突き倒す。
 私が正しいって事と、令ちゃんが正しいって事はいっつも喧嘩ばかり。
 たぶんお互いがなにを思っているのかも知らないで、
 お互いがいつも違う予報ばかり出す事を非難しあって、それでお終い。
 ううん、そうじゃないよね。
 私がいつも令ちゃんの全然当たらない予報を責めて、そしてそれっきり。
 私の予報だって当たるはずなのに、全然当たらないのに、ね。
 令ちゃん、いつも悲しい顔して・・・・。
 まったく、自分ばっかり不幸なような顔して・・・いい気なものよ。
 令ちゃんも天気の事わからなくて辛くても、私だって辛いんだから。
 相身互いなはずなのに、それでも私は令ちゃんを責め、令ちゃんはひとり被害者ぶる。
 ほんとに、私達って何やってるのかしらね、祐巳さん。
 
 だったら私が始めから令ちゃんの事責めなきゃいい、と言いますか。
 それはつまり、自分が正しいと思う事を言っては駄目って事かしら?
 勿論、わかってるわ。
 そんな子供みたいな事は、言わないわよ、私。
 令ちゃんの言ってる事も正しいのだし、それに仮に私だけが正しかったとしても、
 それを令ちゃんが私と同じように正しいものとして受け入れられなきゃ、なんにもならない。
 私達の計算したそれぞれの考えは、いつも全然お互いに受け入れられたことが無い。
 すれ違い、と言ってしまえばすれ違いばかり。
 私達は、正面からお互い向き合っていてでさえも、めいめいに自分勝手な言い分ばかり言い募って。
 あーあ、ほんと私達ってどういう姉妹なのかしらね。
 
 なんのために今日の天気なんか占ったりするんだろう。
 空を見上げればもうわかる天候を、なんでわざわざ見ないで予報したりするんだろう。
 明日の天気を占うならともかく。
 目の前の令ちゃんをほっぽりだして、そして独りで遊んでる私。
 令ちゃんに背を向けて令ちゃん当てごっこをして、そんなの令ちゃんが嘘を言ったら当たる訳無い。
 令ちゃんも令ちゃんよ。
 姉なんだからもっと毅然と・・・・・なんて今更思っちゃう私が馬鹿みたいだけど、
 でもやっぱり令ちゃんにはそれを抜きにしても、もっとしっかりして貰いたいよ。
 なによ、私がちょっと余所見したくらいで、オロオロしちゃってさ。
 私が見てないと、そんなに自分に自信が持てないの?
 私が批判するから、自分の予報を自覚を以て私に伝えられないの?
 それじゃみんな私のせいじゃない。
 令ちゃんは、自分で自分の責任も持てないの?
 私が全部面倒みないと、ひとりで何もできないの?
 ああもう、なんだか段々腹が立ってきたわ。
 令ちゃんの馬鹿。
 あなた一体、なにと戦っているの!
 
 
 
 私が剣道部に入る事に反対した令ちゃん。
 なんでかっていうと、私が見てると私が気になって自分に自信が持てないんだって。
 あらあら、令ちゃん。
 私が見て無くても、見ていても自信が持てないんだ。
 だったら私、令ちゃんにとってのなんなのよ。
 私はただ令ちゃんに悟られないように遠くから見つめて、
 「令ちゃんカッコイイ!」とでも言ってればいいのかしら。
 私は令ちゃんの事みてないんだけど、ほんとは見てるよってさりげなく言えばいいのかしら。
 令ちゃん・・・・。
 あなた、ほんとになにと、誰と戦って自信を勝ち取ろうとしている訳?
 私はね、令ちゃん。
 私はね、たぶん誰とも戦ってない。
 私は誰と戦う必要も無いくらいに、もう自信を勝ち得ているから。
 私はいつも自信たっぷりに私の正しさを証明していけば、いいんだから。
 だから私は、令ちゃんをみてる。
 私ね、令ちゃん。
 だから、わかるの。
 
 
 
 令ちゃんは、ずっとずっと令ちゃんと戦ってるって。
 
 
 
 目の前で、令ちゃんが泣いてる。
 私の事が気になって気になってしょうがなくて、
 それなのにそんなあやふやな自分が後輩を指導していることが、例えようもなく後ろめたくて。
 そんな令ちゃんを、笑える訳、無い。
 令ちゃんはそうやってずっとずっと、その情けない自分と戦ってきた。
 私なんてあやふやな自分なんて無いくらいに自信一杯で、
 そして自分が正しいと思ってる事なら、絶対に後ろめたくなることなんて、無いもん。
 だからさ、私はそもそも自分と戦う必要すら無いのよ。
 戦わなければ自信を持つことができないから、必死に戦っている令ちゃんを、
 その凄い令ちゃんを馬鹿になんて、だからできる訳無いじゃないの。
 わかってるの? 令ちゃん。
 私はずっとずっと令ちゃんを叱咤激励、応援してきただけなのよ。
 ・・・う・・、まぁ一部突っ走っちゃったところもあるけど、それはそれで。
 お粗末で情けない自分、それとずっと戦ってきた令ちゃん。
 令ちゃんは、他の何者でもない、自分とずっと戦ってるの。
 もし令ちゃんが自覚するとするならば、そのことを自覚するべきよ。
 うん、そして私は誰とも、何とも戦ってない。
 私は既に勝ち得たものから、其処からなにか始めるだけ。
 令ちゃんは、自分と戦ってる、それだけ。
 
 だからね、令ちゃん。
 そんな自分に自信を持って。
 
 自分と戦ってる令ちゃんは、全然情けなく無い。
 私の事を想ってオロオロする令ちゃんの見苦しさが、なによりも優しいものだって思うよ。
 そしてそういう自分を責める令ちゃんも、やっぱり好き。
 そしてだから、自信を持って。
 その泣き崩れる自分の姿が醜いって事を無視する必要は無いけど、
 でもその自分を捨てようとしないで。
 ロザリオを返してなんて、言わないでよ、令ちゃん。
 私の事を想うなら、尚更自分の事を諦めないで。
 見苦しい自分を捨てるために、私と別れるなんて。
 そんな・・・そんなの全然意味無いよ!
 今日の天気を知らないで、明日の天気がわかるはず、無いのよ!
 令ちゃんの予報が決して当たらないのは、そうやって大事なものを無視してきたから。
 私と一緒にいなければ、私に振り回されずに済む。
 私だって、令ちゃんがどうしてもって言えば剣道部を辞める事だってできる。
 でも。
 
 『そうすると令ちゃん、もっともっと弱くなると思う。』
 
 令ちゃん。
 もっともっともっと、私に振り回されて。
 もっと私に甘えて頂戴。
 甘えられないあなたなんて、どんどん弱くなっていくだけよ。
 令ちゃんの予報が当たらなかったら、自信を持って私の予報のはずれっぷりを非難してよ。
 お互い自分の事なんてほっぽって、そしてお互いの間違いだらけの注意報を解除してみようよ。
 目の前にいるふたりを差し置いて、なにも案ずる事など最初から無い。
 私と令ちゃん、このふたりが一緒に居るところからすべては始まるの。
 だから私は、令ちゃんのために頑張る。
 令ちゃんが私が居るから自信を持てないなら、自信が持てるまでかじりついてやる!
 令ちゃんが私に甘える事で部員に示しがつけられないなら、絶対に令ちゃんを抱きしめて離さない!!
 令ちゃん、弱音を吐くのは許さないわ。
 私に叱られて弱音を吐くこともできない令ちゃんを、私は絶対絶対許さないわ。
 当たらない予報を当てる事ばっかり考えて、注意報を乱発してしまう虚しさ。
 私は・・・・私は・・・・・・うん!
 
 
 
 『そんな事に負けたくない。だから私、今は部活やめたくない。
  剣道部も妹もどっちも頑張ることにする、
  ・・以上!』
 
 
 
 
 
 「ふふ・・さっきの由乃の笑顔はすごかったねぇ。私、思わず流してた涙全部引っ込んじゃったよ。」
 「令ちゃんの笑顔にも、なんだかほっとしたわ。」
 「ごめんね、由乃。私、いつもいつもこんなのばっかりで。泣き言いうのは必ず私で・・・。」
 「気にすること無い・・・ううん、でもそれを気にして頑張ってる令ちゃんを見ていられる限り、
  私はそれで充分満足よ。」
 「由乃・・・・私頑張るよ。そして頑張っても全然しっかりすることができなくても、
  それでも絶対頑張るから。」
 「その意気よ、令ちゃん。そしていつでも私は令ちゃんの側に居るからね。
  それを忘れちゃ駄目よ。というか、それを忘れたら令ちゃんのしてることに意味なんか無くなるんだから。」
 『そうかもしれないな。』
 「私は令ちゃんが大好き。だから令ちゃんから離れない。」
 「私も由乃が好き・・・・・だから・・・・だから・・・・もう少し振り回されてみる事にする。」
 「誰に?」
 「由乃に・・・・・・・・そして・・・・由乃が見ていてもいなくても情けない泣き虫な私に。」
 
 
 
 
 
 私の当たらなかった予報にも、困ることなんて全然無い。
 だって、其処にはいつも当たり前のように情けなく折れた持ち主不明の傘があって。
 そして。
 隣にはそのみっともない折れ傘を掲げて、ぴったりと寄り添ってくれる令ちゃんが居てくれるのだから。
 今日は傘無し注意報がでても、全然平気。
 
 だって、私の予報は当たらないんだもん。
 
 
 
 明日の由乃と令ちゃんのお天気予報でした。
 以上!
 
 
 
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「マリア様がみてる〜春〜」より引用 ◆

 
 
 
 

-- 040903--                    

 

         

                           ■■『孤独な神の受難曲』 2 ■■

     
 
 
 
 
 『パシフィカと世界とどちらかしか守れないなんて、誰が決めた。そんなもんに順番なんかつけられるか。
  理想論と言われようがなんだろうが、俺はやれるところまで欲張りにやってやる。』
 

                          〜 第二十一話のシャノンのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 空を飛んでいるんだ。
 高く高く、あいつらの、ために。
 この空を俺の血で染めようとも、それが地を潤す雨となるなら、俺はなにも嫌じゃない。
 戦って戦って戦い抜いて、その先にあるものがなんであるかなんて、関係ない。
 俺はただ、守るために戦っている。
 俺が守るのは、未来じゃない。
 俺が守るのは、今のこの、すべてだ。
 
 
 
 
 ----------- 黄昏の終わる丘からみえるもの -----------
 
 
 
 
 俺はパシフィカを守る剣で世界を滅ぼせる。
 そしてその剣は、同時にパシフィカの命を断つ事で世界を守る事もできる。
 俺の剣先に浮かぶものを何にするのかは、俺次第。
 俺は其処になにを置くのかを考える事無く、ずっとずっとその事を憂えていた。
 なぜ、この剣はなにかを消してしまうのか。
 なにかを守るためになにかを犠牲にしてしまうことの怖ろしさ。
 俺はそれが嫌で嫌で溜まらなく、だから俺は選ぶことをしなかった。
 だから。
 俺がパシフィカを守る、と言うことは、必ずその代わりに世界を滅ぼすという意味を持っているが、
 しかし俺は一度としてそういうつもりで言った事は、無い。
 俺はパシフィカを守って、世界も守る。
 最初からずっと、そうだった。
 パシフィカか世界かどちらを守るかと言われれば。
 俺は間違いない無く、パシフィカを守るというだろう。
 だが。
 俺はもう知っている。
 ピースメーカーがどういう奴らなのかを。
 奴らは絶対では無い。
 世界の支配者で在ることに間違いは無いが、しかし。
 しかし絶対では、無い。
 だから俺には、パシフィカか世界かというその選択を変える事ができるということを、知った。
 俺はずっとグレンデルの託宣の正当性を否定するために戦ってきて、
 でもそれでもこの支配された世界を否定する事無く、
 ただただパシフィカが生きられるためにだけ戦ってきた。
 パシフィカが世界を滅ぼす猛毒だって?
 俺には、それを否定する力がある。
 俺はなにより、ピースメーカーと戦える。
 戦って、そしてパシフィカをこの世界に存在させ、
 そして世界中の人々も殺さずに済む、そういう第三の選択肢を生み出すことができる。
 俺達には、確かに希望がある。
 そして。
 そして俺のみる未来は、この希望だけで充分だ。
 
 
 抜く事しか能の無い剣術の粋。
 それを塗り固めて造り上げた、俺の真剣。
 パシフィカ。
 俺はこの剣を、お前に向ける。
 そして、答えろ。
 お前は死にたいか?
 俺の剣は、俺が遣うものでは、もう無い。
 俺のこの剣は、この自分勝手な切っ先の向うに佇むもの、そいつによって遣われる。
 俺はそいつの意志によって、この剣を抜くか否かを、決める。
 だからパシフィカ。お前が決めろ。
 俺はお前の願いは叶えない。
 俺の意志でお前を守るなんて、もう言わない。
 俺はこの剣をお前に向けた。
 だから俺はもう、お前を守るだけなんて、決して言わない。
 俺はお前と世界を絶対に守ってやる。
 だからお前に剣を向けた。
 これから俺は世界を守りに行く。
 だからお前の事は。
 
 お前が、決めろ。
 
 俺は、お前が遣え。
 徹底的に俺を利用し尽くしろ!
 いいか、パシフィカ。
 お前の気持ちを、言え。
 お前がどうしたいかを、言え。
 死にたくないのならば! 生きたいのならば!
 俺をお前の守護者として遣いこなしてみろ!
 お前の責任で俺を動かせ! お前の意志で俺の剣閃を無様に晒せ!
 懸命に俺に守られてみろ!
 無我夢中になって生き延びてみろ!
 お前が今まで見てきた大切なもの達を、もう一度自分の前に並べてみろ。
 そうだ。
 お前はそれらを無視しなくてもいい。
 犠牲はやむを得ない。
 だがそう思うのは、俺だけでいい。
 お前はずっと、そしてしっかりと諦めるな。
 俺はやむを得ないと思いながらも、それでも俺が出来る限りの世界を守ってみせる。
 だからお前は。
 お前はお前ができないものも絶対にできると信じて、すべてを必ず守ると、誓え。
 俺はお前に、お前を捨てさせやしない。
 そして俺はお前に、世界も捨てさせやしない。
 お前がそれでも死にたいというのなら、遠慮無くこの剣を俺に振るわせろ。
 俺はお前の苦しみを知っている。
 だが、同情はしない。
 俺はお前の意志に従う。
 
 
 
 いいか、パシフィカ。よく聞けよ。
 
 
 なにもできない自分を自分で生きてみろ。
 自分じゃどうしようもできないことを無責任にできると信じて追いかけ続けてみろ。
 理想を抱いたまま死んでみろ。
 そして。
 守られる事を自分の意志でやってみろ。
 
 世界中の連中がなんと言おうと関係ない。
 でもそれは無視していいって訳でも無い。
 だがそいつらの言葉に聴き入って、自分の言葉を忘れるな。
 あいつらの言い分が正しいなら、お前の言い分だって無条件に正しい。
 他人の事なんて所詮自分勝手にしか想えない。
 誰だって、無責任。
 だったらお前も、無責任に生きてみろ。
 お前が生きることで、たとえ世界が滅びようとも生きてみろ。
 お前が生きる事で世界が滅びるのは、お前の責任じゃない。
 ていうか、誰にも責任なんて無いんだ。
 お前だけが生き残る権利なんて無いなら、お前だけが死ぬ理由も無い。
 だから。
 
 
 
 『もし死にたいのなら、今すぐ一瞬で殺してやる!
  ・・もし生きたいのなら、どんな事をしてでも守ってやる。』
 
 
 『お前が選べ。』
 
 
 
 俺はな、パシフィカ。
 ずっと悩んでたさ。
 お前を守るって事がどういうことか。
 俺にとって世界ってなんなんだ、ってな。
 だが、わかった。
 悩み、散々沢山の事を疑い、それでようやくたどり着いた。
 俺はもう、この到達点から離れない。
 空の高みに駆け上がった俺のこの翼が折れても、
 俺は羽ばたき続ける事を決して止めない。
 俺は俺が見極めたこの空の中を飛び続ける事にしたんだ。
 俺はな、パシフィカ。
 俺が生きてるって事をどういう事にしたいのかを、決めたんだ。
 俺が生きている意味を。
 色んな奴らが俺に教えてくれた。
 そしてそいつらは、俺に俺の意志を与えてくれた。
 俺の中になかったはずのその意志を、最初から俺の中にあるものとしてくれた。
 だから俺は、自分の意志で自分を生きる事を決めた。
 そして俺は。
 世界中の奴らがひとりひとりそうやって自分の意志で生きている事を知った。
 だから。
 だからその中で生きたいという意志が否定される事を、黙ってみていていいとは俺は思えなくなったんだ。
 パシフィカ。
 お前が自分のせいで多くの人が死んでいくのが辛くて、そして申し訳なくて、
 だから死にたいと思っているのは知っている。
 だが。
 だがそれは、本当にお前の意志なのか?
 お前は、どうしてもそう思ってしまう、と言った。
 ならばそれは、お前の意志じゃ無ぇじゃねぇか。
 お前はどうにかして生きたいと思おうと足掻いているのに、
 それでも死にたいって思わざるを得ないだけなんじゃねぇか。
 お前にそれでも死にたいと思わせてるのは、誰だ。
 それでも生きたいと恥ずかしながらも思い続けてるのは、誰だ。
 パシフィカ。
 そうだ。そうなんだ。
 お前は生きたいって、それでも思ってるんだ。
 
 そして。
 
 
 『お前が何者なのかを決める権利を持っているのは、お前だけだ。』
 
 
 お前は世界を滅ぼす猛毒として自分を消したいのか、それでも世界を滅ぼしても生きたいのか。
 それとも。
 お前は只の普通の女の子として懸命に生きるのか。
 お前には、俺とラクウェルがついていることを、決して忘れるな。
 俺達はお前が世界中の誰からも愛される人間になって欲しいと願った親父とお袋に、
 確かにお前を託されたんだ。
 聖グレンデルの託宣なんて、その前にはただの嘘だ。
 そしてそれでもお前と俺達のせいで、多くの人が死んでいく。
 だから。
 俺達は見続けるんだ。
 この黄昏を越えた暁の空を。
 
 
 パシフィカ。
 無様でも。身勝手でも。無責任でも。
 
 
 
 
 
 『全力で、生きるぞ。』
 
 
 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 

-- 040902--                    

 

         

                             ■■『孤独な神の受難曲』■■

     
 
 
 
 
 『僕としては、誰かの味方になりたいとか、助けてあげたいとか、
  自分からそう思えることは・・・そういうのはなんていうのかな。・・凄く嬉しいことなんだよ』
 

                          〜 第二十一話のクリスのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 窓の外を見上げると光が瞬いていて。
 窓の外に出て道ばたに身を潜めているうちに、その光は命の炎を掻き消していった。
 私には、その音が確かにきこえた。
 たくさんの人達の悲しみのメロディが、私の耳元にまっすぐに列を成して訪れていた。
 私はそれを見つめながら、石畳に奪われていく私のぬくもりを気にしていない自分を感じていた。
 お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・・私・・・こんなに震えているよ。
 怖いとか嫌だとか、あと寒いとか全然感じないんだよ。
 私はただ辺りに響き渡るとてもたくさんの人々の終わりが木霊する中で、
 ずっと自分をほったらかしにしていたんだ。
 みんな死んでる・・・・・・私のせいで・・・・・。
 私はその消えゆく街の息吹をひたすら感じていたんだ。
 
 
 
 
 ----------- 序曲の終焉 -----------
 
 
 
 
 誰かを助けるって。
 その気持ちが自分の中でそよぐ事がどんな事だか、あなたわかる?
 私はさ、わかるようでわからなかったんだよ、たぶん。
 私って、たぶんみんなの事も全然わかんないんだけど、
 それ以上に自分の事がぜんっぜんわかってないんだよね。
 だからさ。
 私と似たような事をふっとしたり言ったりする人が私の横に現われると、
 凄く、すごくわかんなくなっちゃうんだよね。
 この人が自分と同じ事をしているというのはわかるんだけど、
 でもこの人がなにをしているのかとか、よくわからない。
 私はさ、私がわからないから、ね。
 私さ、いつもわたしわたしって言ってるけど、それってただ私が言ってみたい事言ってるだけで、
 それがどういう事なのかとか、よくわからなくてさ。
 一応説明はしてみるんだけど、でもそれって結局なんなのだろうって思う。
 その説明っていうのは、たぶん私の事を言い表せてないって事は確かだと、そう思う。
 自分がそのときの自分になにを感じてるのかとか。
 もう、最初からその説明には入ってないんだよね。
 なぜって。
 なぜってたぶん、私の気持ちなんて、関係ないから。
 
 
 
 みんなが私のせいで死んでいくのに、私の気持ちなんて。
 私は私がこうして生きてる事自体、おかしいはずなんだから。
 私の住む世界には沢山の人達が住んでいて。
 そしてその人達は私のために死んでいって。
 私はその人達を死なせたくないのに。
 私はその人達を死なせてまで生きたくないのに。
 苦しい・・・・苦しいよ・・・・シャノン兄。
 私が生きてる事で、こんなに世界中の人々を苦しめちゃうなんて。
 私はだって・・・・だってみんなに幸せになって貰いたいのに!
 私は苦しんでる人を助けてあげたいのに!!
 答えはいつも・・・・簡単過ぎるほどに簡単なの。
 私が死ねば、誰も苦しまなくて済む。
 私が死ねば・・・・。
 それで全部・・・・。
 
 
 ・・・・・でも。
 
 お兄ちゃんとお姉ちゃんはいつも・・・・いつも・・・・・。
 
 
 私はいつも、自分が死ななくちゃいけないって思う。
 そしてそう思うことが、ほんとは誰も苦しめずに済むというのが嘘だというのがわかる。
 だって、お兄ちゃんとお姉ちゃんは私を・・・・こんなに愛してくれているんだもん。
 だからね。
 私には最初から死ぬことなんてできないの。
 兄と姉と、それと世界とどっちが大切かなんて言われたって、そんなの比べられないよ。
 私には世界中の人達も死なせられないけれど、お兄ちゃんとお姉ちゃんを苦しませる事もできない。
 私は、苦しいよ。
 それはね、私がそのどっちも選べない事が苦しいっていうのじゃないの。
 私がそうしてまで生きていなくちゃいけないって事が、苦しいって言うのじゃないの。
 それだって、勿論ほんとは苦しいよ。
 でもそれ以上に苦しいことがあるのだから。
 私はどういう選択をしたって、必ず誰かを苦しませること、その事が苦しいのよ。
 悲しいよ・・・・お姉ちゃん・・・・。
 なんでみんなは私の事で苦しまなくちゃいけないの。
 どうして私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの愛を裏切ってまでも死にたいって思っちゃうの。
 みんなが・・・・そしてお兄ちゃんとお姉ちゃんが可哀想で・・・・。
 なんで・・・・なんで私なんかが廃棄王女になんて・・・・・・・。
 
 わかってるよ・・・・・わかってるよ・・お兄ちゃん。
 私がそんな事言うのがどれほど悪い事かなんて。
 私、今まで色んな事をみてきた。
 そして色んなコトを考えてきた。
 そして、わかるの。
 私がみてきたものが、それがどれだけ私にとって大切なものなのかを。
 そして私がそれをどれだけ傷つけてきたのかを。
 だからね。
 私がここでどんなにそれを嘆いたって、どうしてもそう思うからといってそうとしか思えないなら、
 やっぱりそれはなんにもならないんだと思う。
 私は、なにかしなくちゃ。
 私はなにもできない自分をずっと眺め続けてきたの。
 そしてその瞳のまま、私の大切なもの達を見送ってきたの。
 私はいつも取り残されて・・・・。
 本当は私になにか求められてる事なんて、なにも無いのよ。
 ただ私がなにかしなくちゃって勝手に思ってて、そしてそれができればそれでいいって思ってたの。
 調子のいい話だよね。
 私、ただここに居るだけで世界を滅ぼす猛毒だっていうのに。
 そんな私が誰かを助けなくちゃって思う、そう思う思わないに関わらず、みんな死んでしまって。
 だったらこの私の想いって一体なんなの。
 私が誰かの事を想う事に、一体なんの価値があるの?
 結局私は、そうやって自己満足に浸っているだけで、なにもできない事に変わりはなかったのよ。
 私が誰かを助けたいんじゃなくて、
 それはほんとはなにもできない自分が誰かのためになりたいと思える、
 それができる自分を勝手に自分で認めたかっただけなんじゃないの。
 だったら私は・・・・・・・・。
 私は・・・・死ななければいけないじゃない・・。
 
 
 
 そこに死にたいって想いが純粋にあるわけじゃないことがどういうことか。
 それってさ、ほんとに馬鹿だよね。
 死ななきゃいけない、っていうんだよ、私。
 またなにかのせいにしてる訳よ、私が死ぬ理由を。
 私はまだなんにもしてないのに、なんにもできないから死ななくちゃいけない、だって。
 馬鹿じゃないの。
 いい加減にも程があるわよ。
 なんにもできないから死ななくちゃいけないって、一体誰のせいにしてんの。
 悪いのは自分じゃん。
 なのに誰かが私になにかしてくれる事になにも返してあげる事ができないから死ぬって、
 それってさ。
 自分が悪いのを認めないって事じゃん。
 私が死ぬ代わりに私がなにもできないと云うことをチャラにしてください、ってそういう事じゃん。
 私さ、だから死にたいなんて、ほんとは全然思ってない。
 私、自分が生きるって事がどういう事だかは、よくわかってるつもり。
 私は私って奴がよくわからないけど、生きるって事はほんとにほんとによくわかるの。
 もし誰にもなにもしてあげられないなら、それを生きていく事でしかなににもならないの。
 なにもできない中でなんとかしようとしていくことで生きていくしか無いの。
 私の人生に、価値なんて、無い。
 ていうか、価値なんて最初から要らないのよ。
 誰も私に返礼なんて求めていないのよ。
 そして誰かが返礼を求めているかそうでないかに関わらず、やっぱり私は誰かのためになりたいと思うのよ。
 誰かを助けてあげたい。誰かを幸せにしてあげたい。あの人の笑顔がみたい。
 私はたとえなにもできなくても、そうしながら生きていきたいのよ。
 
 でも、私のせいでたくさんの人が。
 
 その事実が、私の前にいつも静かに横たわっているの。
 だから、辛い。
 だからほんとは、苦しいよ、やっぱり。
 私自身も、ずっとずっと苦しかった。
 でも。
 そう感じるより前に、誰かの苦しみを取り除いてあげられたらって、いつも思うの。
 だから、どうしたって死ななければいけないとも思うのよ。
 
 
 でも。
 
 
 私の横で私と同じ人がこういうの。
 あなたを、助けたいって。
 
 
 なにもできない世界の猛毒の私を、助けたいと言ってくれる人達がいる。
 その人達は、自分の中に浮かんできた優しい心を殺さずに、そのまま私にぶつけてくれる。
 誰かを助けたい、誰かのためになりたいという心を持って、そのまま。
 その心が自分の中にある喜びのまま、私を助けてくれるって。
 ほら・・・・あそこにも、私の無事を確認して今にも泣きそうになってるレオが居る。
 みんな・・・みんな私を待っていてくれて・・・・。
 私・・・・私・・・・・。
 この人達と自分が同じだって事が・・・・どんなに・・・どんなにすごい事なのかって、わかるの。
 だって・・・だって・・・・・この人達は私が誰かを助けたいと思う事を認めてくれるんだよ。
 そして私が生きている事を、認めてくれる。
 私はね、自分が助けられる存在だとは思ってなかったの。
 だって私は、私の事なんにもわかってなかったんだもん。
 私が誰かを助けたいって思うことは、私が私を助けたいって思うのと、まったく同じ。
 その事を、私はわかってなかったんだと思う。
 そして。
 私が誰かを助けたいと思う喜びに染まれる事なら、
 それは私が私を助ける事を喜びを以て為していいって事なるんだよ。
 私は、誰かのためになりたいと想う事を、絶対に止めない。
 
 だから。
 私は私のために生きることを、絶対に止めてはいけないのだと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 ◆◆
 
 私はね、お兄ちゃん。
 私の事を誰かが想ってくれる限り、ちゃんと生きなくちゃいけないの。
 だって私も、誰かの生存と幸福を願っているのだから。
 だから私達は、みんな一緒。
 私達は誰かを想う事を、喜べる。
 その喜びを、不純だなんて思っちゃいけない。
 だってあの人達は、あんなに嬉しそうに自分の中に芽生えた優しい心を愛おしんでいるんだもん。
 だから、私ももっと喜んでもいいんだと思う。
 なんにもできない、それどころか世界を滅ぼす廃棄王女なのに、
 それでも誰かの事を無責任に助けたいって、そう思っていいんだよ。
 だって、私の事を殺したいと思う人も居るのと同時に、
 私の無事を祈ってくれている人も居るのだから。
 だから。だから。
 だからね、お兄ちゃん。
 私も、喜びたい。
 私、もっと私を知りたい。
 世界中の人達が、私の存在を認めてくれなくても、私だけは私を認められる自分、
 そんな自分を手にしてみたい。
 だってお兄ちゃん達は、あんなに自分勝手に、そして純粋に優しい気持ちになれるんだから。
 だから私は・・・・・。
 
 お兄ちゃん。
 お兄ちゃんは、私に言ったよ。
 お前はどうなんだ、って。
 世界中の奴らが無責任に言ってる事なんて、今更どうだっていいんだって。
 私が誰であるかを決められるのは、お前だけだって。
 だから私は・・・・・そのとき初めてわかったの。
 
 
 
 『私・・・・生きたい!
 生きていたい。
 死にたくない。
 お兄ちゃんやお姉ちゃんやみんなと一緒にもっと・・。』
 
 
 
 私、今初めてこの気持ちが私の中に出来たなんて思わない。
 でも私は、今初めてこう思う事ができたんだと思う。
 だって。だって。だって。
 だって、生きたいって思う事がこんなにも嬉しいだなんて知らなかったんだから!
 私もう・・・・嬉しくて・・・・嬉しくて・・・・。
 自分の事を考える事が、こんなにも気持ちいいだなんて・・・。
 私が誰かの事を想える喜びが、私が私を想う喜びを深めていく。
 私はみんなが大好きだから、みんなが大好きな私が好き。
 そしてそれとはなんの関係も無く、ただただ私の事が好き。
 だってみんなが私に優しくしてくれるのは、なんの理由も無くそうしてくれたんだから。
 私はだから、生きたい。
 どうしても、生きたい!
 生きたくて生きたくて、たまらないの。
 お兄ちゃん、私を守って。
 私、お兄ちゃんの想いに負けないくらい懸命に私を生きて、
 そして誰にも負けないくらいお兄ちゃんの事を想って生きるよ。
 私は、お兄ちゃんが大好き。
 その気持ちに、理由なんて要らない。
 そして私が生きるのに理由も、そして価値も要らない。
 
 
 だって私には、この世界がちゃんとあるんだもん。
 
 
 私は、私の事が少しわかったような気がする。
 
 お兄ちゃん。
 私って、普通の女の子なんだね。
 
 私はだから、命を賭けて懸命に生きる。
 私の人生は、私を生きるために在るのだから。
 
 
 

                              ・・・以下、第 二部に続く

 
 
 
                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆
 
 
 

 

 

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