〜2004年5月の過去ログ〜

 

 

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                            ■■月との隔たりへの干渉■■

     
 
 
 
 
 月姫第六話についての感想を始めさせて頂きます。
 
 志貴が動き出しました。
 ほぼ完全に、今までの映像とは一線を画す動きでした。
 一線をひいて、その上でその線上を往くことなく、すっかりとそこから離れきった姿。
 なにやら、急に人口の密度が増しました。
 それはすなわち、志貴の世界の支配権が確実に薄れて行っている事を示す、
 或いは志貴が世界を支配しているという「嘘」が着々と暴かれていく様相を呈し始めている、
 ということでもあります。
 もはや志貴は、あの世界の中で特別な存在ではありません。
 志貴と連動している情景は、もはやその影の残滓すら無いほどに、まったくその存在を許されていません。
 ごくごく、普通の光景が広がっているのです。
 これは、今までのお話からすれば、特異な事です。
 ここまで完全に自らの元にあるものとしての世界と志貴の決別が行われていたお話はありませんでした。
 空も陽も夕暮れも、そして夜さえも志貴だけのものではない、
 ただただ他人との共有空間にしか過ぎなくなっているのです。
 世界と志貴の決別。
 そして、ただ世界の中に見知らぬ他人達と共に在るだけの志貴。
 そしてその志貴は、ただひたすら歩いている「自分」からも歩き出してしまいます。
 
 秋葉と会話している志貴のぎこちなさ。
 そして、所在無さ。
 元々、秋葉と志貴の間にはとてつもない溝がありました。
 溝、というよりも決して通り抜ける事の出来ない風が吹き荒れている、というのでしょうか。
 いつまでも「普通」でいようとする志貴には、
 秋葉はただ恐ろしい「反射」を繰り返している無機質な物言う家具のように映り、
 そして志貴は自らの抱く秋葉のイメージを、それでも強引にその風の壁にぶつけて、
 秋葉に冷たい怒りを以て嘲笑されるだけでした。
 けれどそれがどうしてそうなるのか、という疑問を抱く前に、
 志貴はその現実に「納得」し、それを自分のスタンダードとして支配してしまいます。
 そういう秋葉との関係に適当な説明を付して、
 そしてどうすることもできない自分の体で、その通りに納得していっただけ。
 「こういうものなのだ」、という風に。
 しかし、やがて志貴はそのような秋葉の姿になにかを「視る」ようになりました。
 秋葉という人間はまったく見えないのだけれど、しかし秋葉の美しさは視える。
 秋葉に心配かけたくない、ただその想いだけを抱けるようになるのです。
 ところが。
 志貴はここであるひとつの失敗をします。
 この秋葉の美しさを感じる、
 それが今のこの遠野の家に自分が居るということを自分が確かに認識できている、ということだ、
 と志貴は確信し、そして自分の足で歩きだし、そして堂々と秋葉の前に立ちます。
 俺は秋葉の美しさを知っている、だから秋葉を知っている、と。
 でもそれは全くの見当違い、
 そして志貴が最初の一歩を自分から踏み外した瞬間でもあります。
 自分の視るものに自信を得、満足げに朝食の席についた志貴に、秋葉はこう言います。
 『でも安心しました。兄さんもようやく遠野家の生活に慣れてこられたようで』、と。
 志貴の目の前に、自分が秋葉の「美しさ」を視ることで無視した、風の流れが現われます。
 志貴は、この秋葉の言葉にただ俯くだけしかできません。
 秋葉を囲む遠野家の空間を排除して、ただ秋葉の姿を見つめている、
 自分はそれしかできていないのだ、という事から逃れられなくなってしまいます。
 秋葉の姿を遠い遠いところから慈しんで視て、それだけで満足している自分が居る。
 それでいて、秋葉の信頼を裏切って毎夜外出している自分のこの姿の浅ましさ。
 その自分の姿が在ることに、志貴は気づいてしまいます。
 自分が視た秋葉が、さらに遠く離れていくことを感じる志貴。
 それは自分がそうして視た事で為された隔絶なのか、と、
 志貴はそれを問うという無限後退的な第一歩を踏み出さざるを得なくなるのです。
 
 秋葉を想うことが、それが秋葉を見えなくするのじゃないか。
 秋葉を「視よう」とすればするほど、秋葉が「見え」なくなるのじゃないか。
 見えない秋葉を視る事ができるようになって、そこはかとなく自信を得た志貴は、
 今度は逆にその秋葉を見るという事の重要性に気づいてしまうのです。
 秋葉が今この瞬間になにを想い、どう考え、どのような涙を流しているのか、
 そして秋葉を覆う遠野の家とはどういうものであるのか、それを見ずしていることの己の愚考。
 夕食の後の秋葉と志貴の会話のちぐはぐした感覚がありました。
 秋葉の事を、ただ「秋葉」という情報でしか捉えることができない事に志貴は気づいてしまうのです。
 或いは、秋葉のことは遠くから視る事しかできないということが、なによりも志貴の口を軽くさせます。
 なにか喋らなくては、この今の距離すら維持できない、志貴はそう焦っていたことでしょう。
 それはもはや、志貴の自信を根底から突き崩し、またその自信の根拠の嘘を晒す事になります。
 志貴は、秋葉の求めていること、それが自分の生成したイメージにしか過ぎないことを忘れて、
 いつのまにかそれが秋葉であると認識する、という失敗を犯してしまったのです。
 秋葉の見つめるもの、それを察して自ら秋葉の邪魔のならないところにいようとした志貴。
 その従順で、美しい秋葉の姿に敬虔な自分を信じ、
 そしてその自分の姿こそ秋葉の見つめる先にあるものだと確信している志貴。
 
 けれど実際の志貴は、まごうことなき背信者です。
 秋葉の期待をすべて裏切っています。
 遠野の生活に慣れてなどいず、夜間の無断外出もし、
 あまつさえ志貴を信じ始めた秋葉がその確認行為のために催した茶会のさなか、
 志貴はアルクとの待ち合わせ時間を気にしてばかり。
 嘘、といえば全部嘘ばかりの志貴。
 しかしそれは志貴にとっては嘘で無く、当然の事なのです。
 秋葉はきっと自分の行動をわかってくれる、と、志貴は感じていたはずだからです。
 というよりも、実際の秋葉は無論納得してはくれないだろうけれど、
 でも自分が知っている秋葉なら納得してくれる、と。
 秋葉の求めていると見定めたものさえ秋葉に与えることが出来たなら、それで良い、と。
 志貴の自己満足は、此処に巡り巡って再び噴出していたのです。
 そして、志貴はおそらく、その事に気づいたのです。
 
 秋葉を置いて、無断で夜に外出する事、そのことがどれだけの影響を秋葉に与えるか、
 志貴に想像できないはずはありません。
 自分のこのカラダが、秋葉にとってどれだけ大切なものかわからないはずはありません。
 そう。
 志貴は想像もしていて、わかってもいます。
 ただし、その秋葉のことをほとんど「実感」していない志貴がいます。
 秋葉の信頼を裏切ることがどういうことか、それは志貴なりに説明できているのだけれど、 
 その説明は逆に秋葉の姿を見ないでいて良い理由を作り出してもいるのです。
 秋葉のことはわかっている、だから後回し。
 ちゃんと秋葉のこともいつも考えているから、だから置いてくぞ。
 結局、そうしてわかっているはずの秋葉の事がなにもわかっていないという事に気づくのです。
 そして気づいて、そしてそれでもそうすることしか出来ない自分を生き続けているのです。
 
 そんな志貴と隔絶した場所に居る、秋葉。
 秋葉は、手を伸ばして志貴に触れようと願いながら身を固くしています。
 志貴のために指一本動かすことすらできないのです。
 ただ志貴に裏切られて、流れない涙を流しそして言葉に換えた怒りの矛先を探すしかない。
 志貴と会話出来ることにうっすらと喜色を浮かべても、
 それが自分の肌の上をさらりと染めていくだけの事にため息をつきながらも、
 それでいて、なによりも静かに高鳴る鼓動を止めることだけはできない秋葉。
 秋葉は、その歯止めの利かない自分の鼓動、それだけを抱きしめています。
 そしてその瞳で、しっかりと志貴の姿を捉えています。
 志貴の姿無ければ、高鳴る鼓動も無し。
 それを不条理というには、秋葉の中の言葉は盲目過ぎています。
 秋葉の言葉で語れぬ不条理は無し、ゆえに不条理は無いのです。
 語れてしまえばそれはもう秋葉には条理に他ならない。
 そういうものだから、私は笑顔で泣きながら受け入れるしかない。
 笑顔だからこそ、それは当然であるべきものなんですね。
 そして当然であることだから、そのことがなによりも秋葉の身を固く強張らせ、
 そして強く強くその怒りを発露させるのです。
 不条理を当然と言わなくてはならない、その不条理に、秋葉は激しい怒りをぶつけるのです。
 そしてその不条理を当然と言えない自分に対しても怒りを抱いている故に、
 その怒りは自身に内包されもし、さらに秋葉のカラダを動けなくするのです。
 秋葉は動かない手を志貴に伸ばし、そして志貴は秋葉を置き去りにする。
 秋葉は、その志貴との隔絶に干渉しようと、必死になってテーブルの向う側で考えているのです。
 そして考えてなお、その言葉が志貴に届かないことを見せつけられながら、
 秋葉はゆっくりとその怒りを失いつつあるのです。
 秋葉の瞳の先に、志貴と共に秋葉自身の姿が映り始めようとしています。
 
 
 
 今回は、この志貴と秋葉の隔絶について考えてみました。
 断然、秋葉が面白くなってきました。
 いよいよ志貴の向う側に秋葉が見え始めてきました。
 そしてその姿はとても不明瞭で不確かで、そしてそれが秋葉なのかもわからない、そういうものです。
 でもそれは少なくとも誰かが秋葉と呼んでいるものには間違いなく、故に秋葉なのです。
 秋葉の内面の描写があるとか、そんなのはもはや関係無く、
 ただ其処に秋葉を使って語れるなにものかが見えてきた、そういうことです。
 そして、志貴もまた大きな転換点を迎えました。
 ただそれだけである優しさ、それ自体が矛盾したものであると気づいてしまった志貴が、
 その事に対してどのような解答を見せてくれるのか、私の腕の魅せどころなのです。
 「置き去りに」してしまった秋葉との隔絶が、どのような距離になっていくのか楽しみです。
 一方アルクですけれど。
 正直、どう書けば良いのかわからない部分が中心にでんとあるので、
 なかなか言及するまでには行き着けませんでした。
 自らの生の長さを「語る」アルクが居れば、少しはお話できることもあったのですけれど。
 あとは、どんどんと独り歩きしていく志貴へのぶらさがりっぷりに注目ですね。
 アルクの優しさ、というのもひとつの着眼点にはなっていますので、
 また志貴に絡めてお話することになるとは思います。
 
 それでは、常よりいささか質の落ちる感想でしたけれども、この辺りで失礼致します。
 
 
 

-- 040528 --                    

 

         

                           ■■ 『絆と祈りの夜想曲』 2 ■■

     
 
 
 
 
 『スィンが悪いんじゃない。・・きっと、みんなが悪かったんだ。』
 

                            〜 第八話のシャノンのセリフより〜

 

 
 
 
 
 
 雨が、上がった。
 なんで雨が上がるのだろうかと考えても、雨を再び降らせることはできやしない。
 俺は、よくわからない。
 なにかたくさんの事を滅茶苦茶にしたはずなのに、それなのになぜか気持ちが穏やかなんだ。
 どんどんと坂を転げ落ちるように落ち着いていく自分の心を見つめて、
 俺はじっとりと冷たい汗をかいていた。
 なにやってんだ、ちくしょう。
 なんで、なんでこんなに暖かい風が吹いてやがるんだよ。
 俺は、俺を責める事さえ出来ないのか。
 
 
 
 
 スィンがあの街の入り口にうずくまっていたとき、俺はなにをした。
 俺はスィンの事を放っておけなくて、そしてスィンを連れ帰った。
 雨に濡れて、それなのに寂しそうにも悲しそうにもしていない、
 あの、至極それが当然だと言わないばかりのスィンの顔を見ていたら、
 なんだか無性に腹が立ったんだ。
 誰も迎えに来ない、誰の助けも得られないスィンのその姿が、俺の前にあるのが許せなかった。
 こんな光景、あってたまるか。
 ただあのまま雨に打たれて生きていくスィンなんて、あって良いはずが無い。
 俺はあのとき、確かにそう思った。
 だから俺は、スィンを連れて帰ったんだ。
 スィンを、雨の中に居続けさせ無いために。
 
 それは誰のためでもない。
 別にそれが、スィンの幸せに繋がるだなんて思っちゃいない。
 俺達と一緒に居る、ただそれだけで不幸が約束されているのだから。
 だから、俺は俺の勝手でスィンを守ってやろうと思ったんだ。
 そう・・・・俺がパシフィカを守り始めた動機と同じなんだ。
 あいつの気持ちなんてお構いなしに、ただ俺が守りたいから、俺は守る、ただそれだけ。
 だからほんとは、スィンの事なんてどうでもいい。
 ただ俺は、雨のに打たれて立っているスィンの姿が、なによりも許せなかっただけだ。
 俺はな、スィン。
 お前が可哀想だったから、なんとかしてやりたかったんだよ。
 俺になにが出来るとか、そんなのなんにも考えずに、ただお前を雨の下で見ていたく無くてな。
 だから、な。
 俺は、パシフィカにもう出来なくなったことを、お前にさせて貰っただけなんだ。
 パシフィカをただなにも考えずに守る、そういう俺の勝手が出来ない虚しさを、
 スィン、お前を連れ出すことでなんとか打ち消そうとしてたんだ。
 俺はな、パシフィカを守れないんだ、簡単には。
 あいつは俺の上を既に行っているような気がしてな。
 俺があいつを守るには、それ相応のものが俺には求められてるんだ。
 だから。
 スィンは、俺が守る。
 この簡単で、そして俺の我が儘な気持ちは、もうパシフィカには必要無いし、
 また、パシフィカだって充分にそれはわかっているはずだった。
 俺達の中で一番弱っちくて、一番守られなければいけないのが自分じゃないって、わかってると思ってた。
 だが・・・・それは俺の考え違いだった。
 パシフィカには、まだ俺のこの我が儘な守護が必要だったんだ。
 いや、違うな。
 むしろ、俺がそのパシフィカの心を理解する相応の対応をしてなかったんだな。
 スィンを守ることで自己満足してたんだ、俺は。
 パシフィカが俺を批判した事は、すべて事実だ。
 俺は俺の我が儘を満たせるのなら、守る相手は誰でも良かったんだ。
 違うと言い張ってみても、俺が今していることはそういうことだ。
 パシフィカにそう言われて、それにムキになって反論してる俺こそが、一番虚しいんだ。
 
 俺はな、パシフィカ。
 俺は、いつもそうなんだ。
 そして、これからもずっとそうなんだ。
 自分が優越感を抱ける状況をなんとか創り出そうとしてるんだ。
 誰かを守ることで、俺はその優越感に浸り、そしてその優越感があるから守れる、とか思う。
 そういう、馬鹿なんだ、俺は。
 それなのにその優越感に浸る自分を、絶対に認めることが出来ない馬鹿なんだ。
 そして俺は、馬鹿だがそれでいいと思ってる。
 そして、俺はいつだってお前の批判に対してムキになるぞ。
 お前と喧嘩してるほうが、俺は俺でいられるような気がするからな。
 虚しくて、でも俺はその虚しさが確かにあることを感じて、そして絶対お前から目を離さない。
 すまんな、パシフィカ。
 俺は逃げてただけだ、お前から。
 スィンという、格好の弱者が居たから、ついそっちを守りたくなっちまってな。
 弱者でありながら誰よりも強いお前を、俺は守る自信が少し足りなくなっていたんだ。
 俺がお前を守らないでいていい理由を、お前のその強さに押し付けて、
 そしてお前の弱さを無視しちまった。
 俺がお前を守る理由は、たとえ神でも打ち消せやしないはずなのにな。
 
 パシフィカは、俺が守る。
 
 すまんな、パシフィカ。
 これからも、お前と喧嘩させて貰うぞ。
 お前の守りたいものを、お前と共に守れるようになるために、な。
 俺の答えはいつも其処に行き着く、その虚しさと馬鹿馬鹿しさが、俺は好きなんだ。
 
 
 
 
 そして。
 スィン・・・・スィンだ。
 
 
 
 スィン、待っていてくれたのか。
 お前、こんなに凍えて・・・。
 すまないな、これじゃ雨の中に立ってるのと同じだ。
 ほら、スィン、こっちに来い。あったかいぞ。
 そうか。そうだったんだ。
 スィンなんだな、やっぱり。
 俺はスィンも守らなきゃならなかったんだな。
 つーか、あー、守りてぇ。放っておける訳ねぇだろ。
 いやいや、それじゃ俺が我慢してるみたいじゃないか。
 スィンは放っておけないのじゃない、俺が守るんだ。
 
 スィンの言葉を俺は聞いた。
 俺達と一緒に居たい、と。
 俺達と一緒に居ると死んでしまうかも知れないぞ、と言ったのに、
 スィンはこう答えた。
 
 
 『スィンは、死なないよ』
 
 
 そうか。そうだな。
 死ねないよな。
 そして、死なないよな。
 お前、あいつと一緒だな、やっぱり。
 パシフィカも、きっと絶対死にたくないって思ってるだろう。
 スィン、わかるぞ。
 その通りだ。
 死ななきゃいけない、ってそれが当然の自分の姿を、思いっきり否定しろ。
 そうだ、お前は雨の中でずっと独りで立ってなんかいちゃいけないんだ。
 みんな、生きなくちゃいけないんだ。
 自分が死なねばならぬ理由があればあるほど、自分は絶対に死なないって言えなくちゃいけないんだ。
 パシフィカも、ずっとずっと自分の死を考えながら、そして絶対に生きる事を諦めない。
 そうか・・・スィン・・・・お前、雨の中で待ってたって言ってたよな。
 お前、あれはそうして雨に打たれているのが当然と思いながら、
 それでも絶対誰かが幸せと共にやってきてくれる、そう信じ続けることをやめてなかったからなんだな。
 なにもできない無力な自分の体を見捨てることなく、
 ずっとずっと待っていたんだよな。
 そうか・・・・・そうだったのか、スィン。
 お前もまた、強い奴だったんだな。
 自分の弱さ、それに絶対に打ち負かされないように前を向き続けていたんだな。
 いつかこの雨の下から抜け出せると信じて、
 それでもずっとスィンの上では雨が降り続いていて。
 そしてそれでも、スィンは死なない、と言う。
 スィンはそれでも俺達と一緒に居たいと言い、
 そして俺のパシフィカへの土産を選んでくれて、そして自分も花を摘んであいつに持って帰ろうとした。
 
 なんだよ、これ。
 どっちがどっちを守ってんだか分からないじゃないか。
 スィンの奴、ちゃんと自分で自分の信じた居場所を見つけた上に、
 俺やパシフィカの事まで考えて・・・。
 そうやって俺達の事を考えることが、自分の居場所をより暖かくする、
 そんなこと露ほども知らずに、ただパシフィカの事を思ってたりする。
 それでも、スィンは。
 スィンはその居場所に居続ける事、それだけは決して離したくないと思ってる。
 自分のせいで俺が怪我して、それで自分じゃどうしようも無くなって、また雨の中に飛び出して、
 それなのに、スィンはその事を当然と思いながらも、その事に対して悲しみの涙をみせる。
 俺の怪我はスィンのせいなんかじゃないのにな。
 スィンが負ったその責任ってのは、俺達があの子に無理矢理負わせちまったものなんだ。
 自分が悪いって思ってるのに、
 それと同時に、なんで自分がこうしてまた雨の中を走ってるのかわからなかっただろうな、きっと。
 スィンはただ、ずっと俺達と一緒に居たかっただけなのにな。
 
 スィン、ごめんな。
 
 お前が悪いんじゃない。
 悪いのは、みんなさ。
 俺とラクウェルとパシフィカが悪い。
 そしてな、スィン。
 だからお前も悪いって、そうして初めて言えるんだぞ。
 お前も一緒に、反省しような。
 みんなと、一緒に。
 ずっと、一緒だ。
 お前だけを除け者になんかしやしない。
 お前だけを悪者になんかしないさ。
 お前が自分は悪いって言ってくれたから、だから俺達も自分達が悪いって言えたんだ。
 そうだ、それでいいんだぞ、スィン。
 お前は生きていいんだぞ。
 お前は、此処に居ていいんだぞ。
 お前が死ななければならない理由、そして此処から出ていかなければならない理由、
 それがもし出来てしまったら、怒るんだ。
 スィン、お前はもっと怒っていい。もっと我が儘でいいんだ。
 それはな、お前が誰よりも一番人の事を思い遣れるからなんだ。
 でもそのあまりに、自分が死を選んだり、雨の下で孤独になる必要は無いんだ。
 それ自体が、人に苦痛を与える事があると知るんだ。
 そしてそれが人に喜びを与える事だとしても、その事に安堵して死ぬなんて馬鹿らしい、って思え。
 そのおかしさに、否、と言うんだ。
 いや、雨の中で待ち続けられたお前に俺が言う事じゃないか。
 
 もっともっと、パシフィカみたいに我が儘になれ。
 誰よりも優しいパシフィカの、優しい優しい妹になってやれ。
 
 そしていつか、俺と喧嘩できるようになるんだ、スィン。
 
 
 
 
 ◆ ◆
 
 散々スィンに言葉を投げかけ、教え、そうして結局・・・・・。
 スィンは消える事の無い雨雲を引き連れ、俺達の前から消え去った。
 スィンのお陰で得た晴れ間から覗く太陽の視線は、一体俺になにを問いかけていただろうか。
 わからない。俺には全然わからない。
 俺はスィンを守れたのだろうか。
 俺はあの子の凍えたカラダを、暖めてやることができたのだろうか。
 スィンが連れて行った雨雲の上では、今もちゃんと太陽がその姿をあの子に魅せているのだろうか。
 俺は一体、なんだったんだ。
 
 ゼフィリスは言った。
 スィンと次に会ったときには、殺し合う事になるだろう、と。
 俺には、その言葉の意味すら、よく分からない。
 なにもかも、分からない。
 スィンは・・・・スィンは消え、そして俺達の敵、ピースメーカーのシーズとなった。
 その事がどういうことなのか、俺にはそれをただの言葉としか受け取れなかった。
 そしてまた、スィンの姿もまた言葉に換えて・・・・・。
 
 パシフィカが、なにか言っている。
 
 俺の瞳には、もうそのパシフィカのぬくもりしか宿っていない。
 
 スィン、ごめんな。
 
 
 
 
 俺の消えないこの怒りを、お前のぬくもりに換えて、さよならだ。
 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 

-- 040527 --                    

 

         

                             ■■ 『絆と祈りの夜想曲』 ■■

     
 
 
 
 
 

 

 
 
 『これからは、きちんとお姉ちゃんって呼びなさいよ、ねっ! ・・・一緒にいよう・・約束ね!』
 

                            〜 第八話のパシフィカのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 
 
 スィン、悲しい。
 『スィン、シャノンもラクウェルもパシフィカも好き』
 スィン、悪い事、した。
 シャノンとパシフィカ、喧嘩、した。
 スィン、シャノンとパシフィカに仲直りして欲しい。
 スィン、わからないこと一杯ある。
 スィンのせい?
 スィン、みんなと一緒に居たい。
 
 『居たい』
 
 ごめんなさい。
 謝らなくちゃいけないの。
 シャノンに、街、連れて行って貰った。
 スィン、みんな見てた。
 パシフィカの悲しそうな顔。
 スィン、パシフィカの事好きなのに。
 シャノン、困ってる。
 パシフィカの事で、困ってる。
 あっちの窓のところで、パシフィカも悲しそうに、外、見てた。
 シャノンも、外、見てた。
 スィンも、外、見たい。
 
 街で、綺麗な飾り見つけた。
 これ付けると、ずーっと一緒に居られるって。
 だからスィン、パシフィカのお土産にってシャノンに買って貰った。
 シャノンとパシフィカ、一緒に居られたら、いいから。
 パシフィカとシャノンの事、好きだから、仲直り、して。
 スィンも、一緒に、居たい。
 スィン、花見つけた。
 『パシフィカ・・・・・・花・・・』
 スィン、馬車にはねられそうになって、シャノン、身代わりになった。
 血、一杯出てた。
 スィン、シャノンの事たくさん呼んだ。
 でもシャノンの血、止まらなかった。
 なのに、シャノン、立った。
 大怪我したのに、シャノン、笑った。
 笑って、くれた。
 スィン、だからなにも言えない。
 言っちゃ、駄目。
 スィン、パシフィカにシャノンのお土産ある事、教えた。
 スィンのお土産、馬車が轢いちゃったから、スィン、なにも渡せない。
 スィン、悪い事、したから。
 スィンが、悪いから。
 だから。
 
 『ごめんなさい』
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 ゼフィリスが、スィンを殺せって。
 巫山戯んじゃないよ、って拒否したはずの私の心は、素直にその手に刃を握れって言ってる。
 私に、スィンが殺せるはずないのに、
 シャノン兄とラクウェル姉がスィンのせいで死ぬかもしれない、という口実を得た途端、
 私はなんの躊躇いも無くスィンをお兄ちゃんの手元から引き離していた。
 私・・・お兄ちゃんにぶたれても、お兄ちゃんを憎めないのに、スィンを恨んでいた。
 スィンの事、絶対に恨めないはずなのに、恨んでいた私が居た。
 私、今、一番してはいけないことをしている・・・。
 私が絶対に嫌だってことを、してしまっている。
 私、シャノン兄とラクウェル姉のために、スィンを殺せるって思ってしまったのよ。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんが死ぬかもしれなくたって、それでスィンを殺せるなんて、
 それはほんとは口実にすらなり得ないはずなのに。
 誰かを守るために誰かを殺すことだけは、絶対にしてはいけない事なのに。
 
 私・・・・私はシャノン兄が許せなかった。
 私はその想いを隠すために、なりふり構わずにゼフィリスの依頼に頷こうとしていたの。
 私からシャノン兄の隣に立つ権利を奪ったスィン、それを庇うシャノン兄が許せなくって。
 シャノン兄、その場所に立っていいのは私だけじゃないの?
 『誰でもいいんでしょ!? 情けをかけて優越感に浸っていれば!
  私で無くても、それで満足なんでしょ!?』
 私、あのとき確かに、そう思っていた。
 そんな事、一度だって思った事無かったのに、
 そしてほんとはあのときだって、それは嘘でしかなかったのに。
 なのに私は・・・。
 だから、今までで一番、悲しかった。
 そんな事を言ってしまった自分の事が。
 
 そうしたら。
 そうしたら、ね。
 
 
 其処にスィンが、居たのよ。
 
 
 綺麗な耳飾り。
 『それはな、スィンがお前のために選んでくれたんだ。絆の祈りが込められているそうだ。
  ずっと一緒に居られるように。たとえ離れても、いつか再会できるように』
 って、シャノン兄は言ったよ。
 スィンが、私とシャノン兄の仲直りをお膳立てしてくれた。
 シャノン兄の心を、すっごく上手に表せてる贈り物を、スィンが選んでくれたんだよね。
 そして。
 それはスィンの願いでもあるんだって、とってもとってもわかったよ。
 スィンも、ううん、スィンが一番私達と一緒に居たいって願ってるってことが。
 シャノン兄も、わかってると思う。
 私達が喧嘩している事が、どれだけスィンを悲しませていたかって事を。
 はっきりいって、私達って大馬鹿よ。
 まったく、シャノン兄も私も一体なにやってんのよ。
 ていうか、私が一番悪いのよ。
 だからだから。
 ありがとう、シャノン兄。
 そして、スィン、ごめんね。
 私、馬鹿だったわ。
 なんで私の事ばっかり考えてたんだろうね。
 一番ちっちゃいスィンが、一番みんなの事考えててくれたなんて。
 私、スィンと一緒に居たいって思っておきながら、
 それなのにちょっとまたシャノン兄を独り占め出来るかもしれないって事になっただけで、
 スィンに冷たく当たってた。
 私はスィンの事好きなのに、よ?
 わかる? ほんと大馬鹿でしょ、私って。
 だから私、スィンを抱きしめたい。
 スィンと同じくらい、私もあなたと一緒に居たいのよって伝えたい。
 決めた。
 今度は、絶対絶対決めた!
 
 
 『私も、ラクウェル姉みたいなお姉さんになれるかな?』
 
 
 あの子・・・雨に打たれて泣きながら歩いてた。
 スィンは全部自分が悪いって思って、私達の中から出ていこうとしてた。
 なにが悪い事かも知らないくせに、それなのに自分で自分の責任取ろうとしてた。
 なんにもわからないのに、泣きながら、泣きながら・・・。
 ほんとに・・・ほんとにこの子は・・・・・。
 私、あの子を見つけたとき泣きたくなったよ、ほんとに、もぅ。
 私の姿を見つけて、それでもまだ必死に逃げようとするんだよ、スィンったら。
 私の方を振り返ったときの、あの子の顔と言ったら、もう・・・・。
 私、あの子をつかまえた。
 『つかまえた・・・・やっと、つかまえた・・。』
 ごめんね、ごめんね、ごめんね、スィン。
 今までつかまえてあげられなくて、ごめんね。
 あんた、ずっと今までまだ雨の中に居たのよね。
 だから、ごめんね。
 そして、こっちにおいで、スィン。
 あんたに、この耳飾りあげる。
 あんたも、私達とずっと一緒に居ていいんだから。
 だから、これあげる。
 
 スィン・・・泣いてた。
 っていうか、泣き出した。
 なんだかもう、私が泣かせちゃって悪かったのか良かったのかわからないくらいの、そんな涙だったよ。
 一緒に帰ろうって言ったら、泣きながらそれでもうんって素直に頷けるスィンは、やっぱり良い子だよ。
 私、この子を守るって決めた。
 おいで、スィン。抱きしめてあげる。
 
 私が、あんたのお姉ちゃんになってあげる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『スィン! 逃げなさいっ! 早くっっっ!!』
 
 なにこれなにこれなにこれ!!
 スィンがスィンがスィンがっ!!
 ピースメーカーって、あのときの・・・。
 スィン! スィンっ!!!
 スィンが私を呼んでる。スィンがお姉ちゃんって呼んでる!
 スィンが泣きながら、助けを求めてる・・・・。
 なのに・・・・なのにスィンは何処に・・!?
 わかんないよ・・わかんないよ・・・・。
 
 
 スィンが、スィンが敵になっちゃったなんて。
 
 
 
 ◆ ◆
 
 遠ざかるあの家を背に、私は目の前の道を往く。
 靴先で感じた雨の残滓を見つめている私を、暖かい微風がゆっくりと進ませる。
 空に沈む雲の涙の囁きを聴いて、私は独り想う。
 
 私、結構頑張ったのに・・・
 スィンを抱きしめてあげられて、ちょっと嬉しかったのに・・・
 シャノン兄の向うに、スィンの姿を見つけることができたのに・・・
 スィンを、其処に見つけられたのに・・・
 私・・・
 
 『妹ができたと思ったのに・・・
  ちょっとお姉さんぶったりとか、そういうのもいいかなぁって。
 
  ・・・・そう思えるように、やっとなれたのに
 
 
 
 
 

                                ・・・以下、第二部に続く

 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 

-- 040525 --                    

 

         

                                  ■■ 梅雨待ち ■■

     
 

 

 
 
 どうも、紅い瞳です。
 
 この頃はカラっと綺麗に晴れた日々が続いていながら、
 先日までの真夏日もかくや、というほどの暑さも無く、
 ほどよく心地良い気候が続いています。
 なにかしらこう、ごくごく平凡なお天気というところで、少し物足りない感じがして、
 いっそのこと梅雨など来て雨をざーっと腹の立つほど降らしていってはくれまいか、
 などと花粉の季節の次に梅雨が嫌いな梅雨どきの私が聞いたら逆上するようなことを、
 平気でうそぶいていたりする紅い瞳ですけれど、皆様は如何お過ごしで御座いましょうか。
 
 近頃、結構疲れてたりします、私。
 うん、ちょっとげんなりげっそりという感じ。
 色々と忙しくなってきて、忙殺というところなのです。
 体力よりは精神的に色々ときてるような気もします。
 正直、結構辛い。たぶん辛い。間違いない。
 といっても別にそれはいつものことだからどうでも良いのですけれど、
 まぁちょろっと言わせて頂きました。はい、ごめんなさい。
 ネットを息抜きに利用できていないくらい余裕が無いので、
 逆にネットやると疲れが堪っちゃうノリは少しマズイ。ヤバイ。
 と言う感じで、日記の更新をするのが精一杯で、サイト改装まではまったく手の回らない状況です。
 チャットにもあまり長時間は居られません。
 まー、サイトの改装の方はたとえ時間があっても大して変わらない程の行き詰りっぷりですけれど。
 がー ←壊れたー
 
 P.S: 
 時間が出来たので久しぶりに図書館に行こうと思ったら、ピンポイントで棚整理日につき休館だったので、
 なんだか笑えました。
 
 
 おまけだけれど書かないとそれはそれで気になって仕方がないもはやどうにもならないマドラックス感想:
 エリックさん、そっちは崖ー!(挨拶)
 あーあやっぱり死んじゃいました。気を付けろって言ったのに。
 敵は前にも後にもいずに自分が敵でした、なんてなかなかよろしいご趣味。
 さすがにそう来るとは思いませんでした。完敗。
 その上マーガレットお嬢様にもご理解頂けて、エリックさんもう完璧なのでは無いでしょうか。
 エリノア:「一日に一回状況を報告する約束なのに・・・
       やはりあの方に依頼したのは間違いだったのでは・・・」
 とエリノアさんには全く信頼頂けていないようですけれど。
 それにしても、マドラックスさんはなにをお考えか。
 エリックさんをほっといてひとりでお楽しみ(戦闘)中ですよ。
 ご満悦のご様子で帰ってきてみたら、エリックさんは崖下にダイブ。
 ある意味それはマドラックスさんのせいではありませんけれど、
 きっと、そんなに車の外に寝かせたのが嫌だったのかな
 とかそんな感じの罪悪感は感じられていらっしゃったことでしょう。
 さすがマドラックスお姉様。らしさが輝いていらっしゃいます。
 時間は少しだけ遡って、マドラックスさんを尻目に最後にマーガレットへのレターを託すエリックさん。
 この世界で生きられない、こんな普通の世界には生きられないことに気づいたエリックさん。
 まともでは無い世界こそ、自分の居場所と思い、崖の下へ身を投げた哀しいエリックさん。
 そういえば、マドラックスさんにレディーファーストとか言われて、
 クライアントなのに車の外に追い出された時エリックさんは、
 「たった一冊の本のためにドンパチやってる国のど真ん中で野宿か。まともな人間のすることじゃ無いな。」
 とか仰っていました。
 でもそのことになにか懐かしさを感じるとも言ってました。
 
 ・・・やっぱりマドラックスさんのせいですよね?
 
 
 
 

-- 040523 --                    

 

         

                          ■■ 何も見えない月の視るもの ■■

     
 

 

 
 
 月姫第五話についての感想を述べさせて頂きます。
 
 まだまだ志貴から目が離せないようです。
 というより、やはり志貴を中心にして読み解いていくのを、まだ楽しめるようです。
 相変わらず、私には志貴がわかりません。
 まず志貴がなにを考えているのかが皆目わからないので、
 志貴が取る行動のその意味が私には全く受け取れないのです。
 ぱっと見てまず思うことは、単純に言ってしまえば志貴は短絡的、ということです。
 少なくとも、現状ではそう見えておかしくないほど志貴の言動は、あまりにも簡単に過ぎます。
 それは無論、志貴の現状認識レベルの低さに一因はあるのでしょうし、
 また志貴自体に、いくつかの点で自分の思考の場に乗せていないなんらかの想いがある、
 と想定できる事からも、その短絡さが志貴のすべてでは無いことはわかります。
 けれど、一体志貴はなにを思っているのでしょう。
 志貴は、なぜアルクと行動を共にしようとしているのでしょう。
 志貴曰く、それは弓塚が事件に巻き込まれた事が痛かったから、なのだそうです。
 しかし、それは一体アルクとなんの関係があることなのでしょうか?
 アルクに協力を申し出ることと、弓塚の事となんの関係があるのでしょうか。
 志貴は、あきらかにそのふたつをごちゃ混ぜにしています。
 そしてまた、自分がアルクを一度殺害したことを綺麗さっぱりに忘却しています。
 そしてアルクの事などどうでも良いと思っているからこそ、
 あれほど夜の戦いに協力することを忌避していたのに、それすらも忘れて協力を申し出る。
 しかもその申し出の動機は弓塚への慚愧の念。
 志貴はネロとの戦いの際に既に弓塚の事など頭の中から排除していたのに、
 今此処になって持ち出してくるのです。
 どうしても、辻褄が合わないはずなのに、強引に言葉に乗せてしまう志貴。
 それでいて、どこか今までのいつよりも自信に満ちている志貴のこの言動を見ていると、
 どうしてもその志貴の言動「自体」が非常に短絡的に見えてくるのですし、
 また非常にそれが自然であるが故の、
 それゆえのどうしようも無い不自然さと不適当さを感じてしまいました。
 そして、不純さを。
 
 志貴の言動に覆い被さる、その不純さ。
 志貴はただ無造作に自己の正当化と保身を一見考えているように思えます。
 ただ言葉の綴りの順番さえ正しければそれでいいや、と言わんばかりに、
 自分の中にある言葉を適当に並べ立てて、それをただ示してそれで全部済んだと思っている。
 アルクへの贖罪などどうでも良いはずなのに、いつのまにかアルクを利する行為に走り、
 それ自体で自分の中にちゃんと贖罪しているぞという意識を勝手に芽生えさせ、
 あまつさえなんの関係も無いその行為(アルクへの協力)を、
 弓塚に対する慚愧の念を鎮めるためにまで同時利用する。
 夜の戦いの後の殺人事件がアルクのせいでは無いとわかった途端、
 自分を信じて協力を要請したアルクを助けることで、アルクへの罪滅ぼしが完了し、
 同じく自分を信頼していた弓塚への罪滅ぼしにもなると考える。
 そしてそれらすべての行為を、さも当然のように行うことで、アルクから賞賛を奪い取ってしまう。
 あなたは自分を過小評価しすぎるわよ、というアルクの言葉は、
 志貴に対する賞賛であり、また志貴はその言葉を受け取るつもりの無い様子を示して、
 そして喜んで受け取ります。
 過大評価しすぎだ、という言葉を自分に被せることで、志貴の自己正当化は完成するのです。
 それがうわべだけでない、心からの「謙遜」をしてみせることで、
 志貴は自分がやっている事の確かさと、そして正しさを噛みしめていきます。
 自分は罪深い奴だし、アルクの言うほどすごい奴じゃないしと、
 そうやって自身の正当性をあくまで否定している、という「正しい」事をしている自分に安心しています。
 すべてにおいて、志貴は自分のその正しさと安寧を当然と感じているように思います。
 常に他者は利用すべきなにものかを提供してくれる薄い存在にしか過ぎず、
 そしてその提供されたものを自らの内で加工して、
 さもそれが偉いのだぞと言わないばかりに押し付けて返す。
 おそらく、志貴にとっては贖罪という行為は尊いものなのでしょう。
 これらの志貴の言動は、短絡的というよりは、
 短絡さを装った淫靡な狡猾さ、とも言えるのかも知れません。
 
 けれど、最初にも申し上げました通り、それはあくまで一見にしか過ぎません。
 そう見えるからこそ、今度はそれがあの世界に普通に存在していることに違和感を感じてしまうのです。
 志貴という人は、限りなく自動的な人です。
 自分の言動を自分で説明してみせることしか出来ない人です。
 自分がなぜそう思うのかを考えることはできずに、自分が今なにをしているのかを説明してみせている。
 本質的に、志貴は志貴を動かすことができません。
 自分がアルクに協力する「理由」など、それはあくまで志貴が後付で説明しているに過ぎ無く、
 その説明の通りに志貴が動き出した訳では無いのです。
 元々、志貴はいつも常に普通なのです。
 自分という人間を設定して、その設定通りに自分を説明するのが志貴。
 その構図は、夜の戦いを経た今も変わっていないように思われます。
 ですから、志貴が淫靡で狡猾な「動機」を持って行動した、というのは有り得ない事なんです。
 志貴の言動から、それが志貴の正当化に繋がることだと推測できても、
 志貴はおそらく、そんなこととはまったく無関係であるのです。
 志貴はそうすることで自動的にもたらされた根拠の無い安心感を、
 ただ無造作に受け取らされたに過ぎないんです。
 自己正当化を行った志貴と、それが完成した事で得る安心感を受け取った志貴は別物なのです。
 志貴はただ、ずっとそういう自分の様子を感じていただけのように思われます。
 
 そして。
 私はそのただ自分が自動的に動いていく様を感じている志貴には、
 実は夜の戦いを経た後でひとつ変わったところがあるように思われます。
 それは、志貴が確かになにかを「視て」いる、ということです。
 志貴は今、流されていくだけの自分がなにを視ようとしているのかを実感し始めているのじゃないかと。
 志貴は、今、確かに美しくも眩しい「なにか」を視ています。
 アルクからの協力の要請を受諾したとき、志貴の瞳にはたぶんアルクと弓塚が映っていました。
 そして、そのときの志貴には自己正当化という「動機」は確かに無かったはずです。
 ただ目の前のアルクと、そして弓塚の姿があり、
 その次の瞬間にはまた自動的に、そして勝手に自分の体は動いていったのです。
 そう、勝手に、です。
 志貴はただ、二人の姿を視ただけなのです。
 視ただけであって、そしてそれは視れたのです。
 たぶんそれが、夜の戦い以前との違いのひとつです。
 どうしようも無く体が勝手に動いていく間中、志貴の瞳にはアルクと弓塚の姿が映っていたはずです。
 アルクと、そして弓塚のために。
 志貴は、弓塚の件を指して、痛かったと表現します。
 でも、その痛みを癒すために志貴はこうしてアルクに協力しているのではありません。
 志貴の体は、あくまで自動的なのですから、
 痛いという言葉自体それは志貴の「説明」にしか過ぎないのです。
 そして。
 志貴は今、その説明に則って視ているような気がします。
 弓塚のために、弓塚の信頼に応えるために、夜を戦う。
 そこには如何なる狡猾な算段も淫靡な謀略も無い、ただその言葉だけが広がっています。
 志貴には自分の体をどうすることもできない代りに、
 逆に自分の瞳に映ってくるこのとても美しい光景を無くすこともできません。
 志貴の瞳の中にある、決して消えることも消すことも、そして消されることも無い光景。
 夜に向けてヴァイオリンを奏でる秋葉に、志貴の瞳はどのような美しさを感じたのでしょうか。
 志貴のためを想ってくれているとわかった翡翠に、志貴の瞳はどのような返礼をするのでしょうか。
 ただそれだけでしかない、優しい感情が志貴の瞳の中で輝いています。
 自分で作りだした美しい「説明」、それにひたすら従う事で発現する志貴の「普通さ」は、
 すべての現実の情景とも溶け合わない故に、いつまでもその姿を変えることはありません。
 いかなる目の前の現実にも実感を抱けない志貴は、自分の体を意志通りに動かせず、
 志貴はなにも見ることが出来ない故に、敢えて己の「言葉」通りに現実を「視る」事ができます。
 現実に実感を持てないから現実に左右されず、
 だからただただ自らの言葉に従っていられる己のスタンダードを全うできるのです。
 志貴の正当化は志貴の与り知らぬカラダが行い、
 志貴の「想い」の発現は瞳が行う。
 
 志貴がアルクに抱いているのは贖罪の念では無いでしょう。
 弓塚に抱いているのもまた、贖罪の念では無いでしょう。
 只今の自分の優しい気持ち、それだけで志貴は埋まっていることでしょう。
 様々な疑問や苦悩を持ちながらも、しかしそれはなぜかどこか自分と離れたところにあって、
 志貴はただ駄々っ子のように美しい光景に手を伸ばして戦っています。
 其処にこそ、アルクをしてあなたは自分を過小評価し過ぎよと言わしめたことの、
 その最大の価値があると私は思います。
 勿論、その価値は志貴にとっては「本当」に不必要なものなのですよね。
 心から志貴にとっては過大評価し過ぎと思えている事なのです。
 なぜならば、志貴は賞賛を求めてなどいないからなのです。
 志貴はただひたすら、アルクと弓塚のことを考えているだけなのですから。
 そのアルクの賞賛の価値は、志貴を見る志貴以外の人にとってしか意味が無いのでしょう。
 志貴を評価する人にその言葉の価値があり、
 志貴を批判する人には皮肉でしかなく、
 そして志貴本人には、ただ戸惑いを持ってしか触れない、
 なんとも実感の持てない無意味な言葉でしか無いのです。
 
 そうして、現実と乖離し自分の体とも隔絶してある言葉を以て志貴は夜を生きます。
 志貴の生きる場所は、もはや夜にしかありません。
 忌むべき夜の下僕から忌むべき夜の化身へ成り下がった昼に、
 志貴の瞳に映る美しいなにかはありません。
 なぜならば。
 今は昼が無いからです。
 一日のすべてが夜であり、そしてその夜というものが志貴にとっての意味が昼と逆転したからなのです。
 夜は忌避し寝てやり過ごす凶悪な場では無く、
 既にかつての昼の陽のように美しくも求めて止まないものになったからなのです。
 かつての状態からいえば、一日中が昼になったのと同じ事が志貴には起きているのです。
 すべての時間が、美しい夜と化す。
 その中で、志貴は今、静かに歩いています。
 
 
 アルクの血への渇望のお話は、次回以降に持ち越されるようです。
 そして、アルクが生きてきた年月の「長さ」の持つ「重み」というものが出てきそうです。
 それをどういう風に解釈するかは、既に一計を案じていますのでお楽しみに。
 といっても、そのようなお話の流れにならなければ出番は無いのですけれども。
 また、今回のお話で秋葉への興味が増してきました。
 あのヴァイオリンを奏でている秋葉について、なにか書けるようになる展開に少し期待しています。
 もしかしたら志貴からは目を離せないけれども、興味は秋葉へと移行していくかもしれません。
 勿論、それまでに志貴について最終的ななんらかのカタチを与えておきたいものです。
 今のままでは、秋葉と共に語れる存在ではありませんしね。
 
 それでは、本日もご静読ありがとう御座いました、と御礼を申し上げつつ、お別れです。
 
 
 

-- 040521 --                    

 

         

                          ■■ 『捨て犬少女の円舞曲』 ■■

     
 

 

 
 
 『ねぇ、不思議ね。なんだか家族が一人増えたみたい』
 

                            〜 第七話のラクウェル姉のセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 なんだか、遠いね。
 
 お兄ちゃんとお姉ちゃんの会話が、雷鳴よりも遠くで聞えるよ。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんの間に、スィンが立ってる。
 私じゃない、別の誰かがあそこに立てるなんて、思いもしなかった。
 私の居ないところで楽しそうに笑うお兄ちゃんとお姉ちゃん。
 私を待っていてくれない、その笑顔。
 だって、もうお兄ちゃんとお姉ちゃんの間にはスィンが居るから。
 私を待つ必要なんて、もう無いのよね。
 私は独り離れたところで、二人が私を思い出してくれるのをずっと待っている。
 シャノン兄とラクウェル姉がスィンと楽しく笑い合う光景を思い出しながら。
 私はそれがどういうことなのか、少しだけわかっているような気がする。
 
 スィンは良い子。
 私なんかよりずっとずっと良い子で、子供なのに私より手間がかからない。
 私はそんなスィンが勿論可愛い。
 私もだから、シャノン兄達と一緒にスィンの面倒を見てみたりもする。
 でも、スィンは良い子なのよ、結局。
 私なんかより、ずっと良い子。
 私、なんだか・・・申し訳なくって。
 なんにもできないはずの子供が、私より良い子なんだから。
 私、嫉妬してるんじゃない。
 ただ・・・ただ・・・・・。
 なんにも出来ない自分が、お兄ちゃんとお姉ちゃんの間に立っていられたことが悲しくって。
 私なんかが、あの二人に愛されていいのかな・・・。
 私が家族の一員だなんて、ほんとにそう思っていいのかな・・・・。
 
 シャノン兄とラクウェル姉には、スィンの方が相応しいのじゃないかって思えた。
 私はお兄ちゃんとお姉ちゃんが好きだけれど、でも好きなんて言えないような気がする。
 それが兄妹じゃなくて他人だったとしても、私には誰かに愛される資格なんて無いように思える。
 私は誰かを好きって言っちゃいけないような気がするんだ。
 私は独り部屋を出て、二人が私を思いだしてくれるまで待っているの。
 私は部屋の中のスィンの笑顔に憧れて、そしてスィンとお兄ちゃんとお姉ちゃんの幸せを願う。
 
 
 もし・・・もし私が死んでも、スィンが私の代りにお兄ちゃんとお姉ちゃんに愛して貰えるかもしれないから。
 
 
 スィンがいれば、私は死ねるかもしれない。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんを二人だけにして勝手に死ぬことでは無くなるのかもしれない。
 私が死んでもスィンが居れば、シャノン兄とラクウェル姉もそのうち私の事を忘れてくれるかもしれない。
 そうすれば、私は安心して死ねるのじゃないかなぁ。
 そんな事言ったらまたシャノン兄に怒られるかもしれないけれど、
 でも、私はそういう風に感じたよ。
 私は、生きていたい。
 そして、それと同じくらい死にたいのよ。
 私のせいで誰かが傷つくくらいなら、私が死んだ方がマシじゃん。
 でも私が死んじゃったら、お兄ちゃんとお姉ちゃんが世界の中の誰よりも傷つくんだよね。
 だから私、生きてる。
 逆に言えば、どうしようも無いから生きてるんだ。
 私、スィンみたいに素直に生きられないよ、やっぱり。
 素直に生きられないから、だからそれだけでもシャノン兄とラクウェル姉を傷つけてしまってる。
 いっぱいいっぱい、お兄ちゃんとお姉ちゃんを悲しませることを私は言ってる。
 あんなに一生懸命私を守ってくれてるのに、私は自分が死ねばいいなんて平気で言っちゃって。
 
 私は、たぶん私がこうして自分が生きていることを、お兄ちゃんとお姉ちゃんのせいにしてる。
 お兄ちゃんとお姉ちゃんが居るから、私は死ねない、私は生きなくちゃいけないんだって。
 私・・・たぶんその事が一番いけない事だと思う。
 きっと、お兄ちゃんはそのことを一番怒ると思うんだぁ。
 俺達のために生きようとするな、自分のために生きろって、
 俺達はそういうお前が生きてるのを見たいんだって、そう言うような気がする。
 だからね、私・・・。
 私はね、少し寂しくなったの。
 きっとお兄ちゃん達はスィンの事を可愛がっていても、絶対私の事を忘れてないってわかってるのに、
 それなのにどうしてもお兄ちゃんとお姉ちゃんを遠くに感じてしまうことが。
 私、スィンの事好きだよ。
 だけど、どうしてもスィンを見てると悲しくなってしまうの。
 ああ、私もスィンみたいになれたらなぁって、どうしても思ってしまうのよ。
 スィンは可愛い。
 そう思うだけじゃ駄目なのかな。
 駄目なんだよね、私は。
 どうしても、羨ましく思っちゃう。
 スィンがシャノン兄と同じヒモで髪を束ねてる光景を見て、私は確かに一瞬嫉妬したけれど、
 でも次の瞬間にはもうスィンの可愛さにうっとりしてた。
 それなのに、自主的に料理の手伝いをしてシャノン兄に褒められるスィンを見たとき、
 私は悲しくて悲しくて、そしてとても寂しくなっちゃった。
 なんかね、そうだったんだよ。
 
 
 
 だってさ、私には決して有り得ない光景だったんだから。
 
 
 
 私ね、お兄ちゃん。
 私・・・寂しいんだ、ほんとは。
 なんにもできない自分が悲しくって。
 ただ待っているだけの自分が辛くて。
 なんにもできないはずの子供のスィンはお手伝いを進んで出来て、
 そしてただ待っていただけなのに、素直にシャノン兄に付いてくことが出来て。
 私・・・ほんとはそれを羨ましいと思うには、もう素直さが足りないんだよね。
 私ね、お姉ちゃん。
 家族って、不思議って思うんだ。
 増えていくばっかりで、なんで減らないんだろうね。
 私はさ、この家族をやめられないんだよ。
 やめたくも無いんだよ。
 そして誰かと家族になりたいって気持ちだけは、絶対に無くならないんだよ。
 どうしてなのかなぁ。
 
 
 
 
 
 
 お兄ちゃんとお姉ちゃん、そしてスィンの背中が見える。
 私からどんどんと離れて、私はそれをただ見てるだけ。
 私、もう・・・・当たり前の事に今更気づいたみたい。
 私以外の誰かが、あの場所に立てるって。
 それなのに、私をあの場所を見つめ続けることをやめられない。
 ううん、ずっとずっと見つめ続けていたい。
 私は、生きてたいんだよ、やっぱり。
 自分の、ために。
 私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの妹だから。
 だから私は、スィンにお兄ちゃんとお姉ちゃんの間にある場所を渡せない。
 だから私は、スィンにあそこに居場所を作ってあげなくちゃいけないんだ。
 私とスィンのふたりが、あの場所に立てるように。
 私とスィンが、ずっと家族でいられるように。
 
 
 
 
 そうしたら、ゼフィリスが、スィンを、殺せって・・・・
 
 
 

                        ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 

-- 040520 --                    

 

         

                          ■■ 『騎士たる者たちの迷走歌』 ■■

     
 

 

 
 
 『過酷な運命を背負う君に、私の過去の罪まで背負わせては、もはや人として生きてはいけんよ。』
 

                            〜 第六話のドイル=バレットのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 聞いたんでしょ、私のこと。
 私は世界を滅ぼす猛毒なのよ。
 そんな私を、ドイルさんは殺そうとした。
 いいえ、世界中のみんなのために私を殺そうとしてくれたの。
 私・・・恨んでなんかいないよ。
 だって、私がもしドイルさんの立場だったら、きっと赤ちゃんを谷底に投げ捨てるなんてできなかったもの。
 誰かがやらなくちゃいけない、その誰かになってやってくれたんだもんね。
 私はそのことに感謝してるの。
 私が出来ないことを、代わりにやってくれて。
 私・・・・私を殺すことを誰かにやらせるなんて、嫌。
 人を殺す苦しみを誰かに与えたくないから。
 私は私が殺さなくっちゃいけなかったのにね。
 だから、ごめんね、ドイルさん。
 
 『ごめんなさい。私がドイルさんの人生を変えちゃったんだよね。・・ごめんなさい。』
 
 ほんとに謝らなくちゃいけないのは、私なの。
 ドイルさんに比べたら、私は甘ったれで脳天気なだけの人生を生きてきた。
 ほんとに変わらなければいけないのは、私の人生。
 私の命の責任を、誰かに預けてしまっている私はだから、一生懸命それを引き取らなくちゃいけない。
 ドイルさんはただみんなのためを思って生きていただけなのに、
 私が生まれてきちゃった事で、人生を滅茶苦茶にされてしまった。
 私は、知ってるよ。
 ドイルさんはちゃんとその自分の変えられた人生にも、責任を持とうとしていることを。
 だから私、たぶんどんなに謝ってもそれは全然意味無いって事、わかるんだ。
 ドイルさんの変えられてしまった人生を、私が謝ってなんとかできるはずないもの。
 ドイルさんは、私に赦しを請うために私を治療してくれた訳じゃない。
 私に、許してあげると言われたいために、自分の想いを私に伝えに来た訳じゃない。
 ううん、でもほんとは違うんだよね。
 ドイルさん、私と話してるとき、ずっと自分の手を握りしめてた。
 きっとドイルさん、一番自分の中では言いたくないこと、
 言ってはいけないことを私に話してくれたんだと思う。
 きっと、今までの人生で二番目に辛い時間を必死に耐えているのだと思う。
 すまなかった、許してくれ、ってそういって救われたくて仕方無かったのに、
 でも絶対にそれは言っちゃいけないって、ドイルさんは必死に堪えていたんだと思う。
 自分が赦されて、それで一体どうなるというのかってさ。
 私が今笑顔で生きてたって、赤ちゃんの私を殺そうとした事実が無くなる訳じゃない。
 ドイルさんは自分だけ救われてしまえば、それは今目の前にいる私をさらにもう一度殺しているのと同じ、
 そう思っているから。
 だから、ドイルさんあんなに一生懸命に手を握りしめて、赦されたいのを我慢して、
 それなのに、自分の辛い思いを私に伝えることをどうしてもやめられなくて。
 
 だから私、ドイルさんに謝らなくっちゃならないの。
 
 私は、ドイルさんを赦してあげたい。
 ううん。赦す赦さない、なんて権利そもそも私には無いよ。
 悪いのは、私。
 そしてドイルさんは、私の大好きな世界中の人々を守るために私を殺そうとしてくれたの。
 そう・・・私の・・代わりに。
 できるなら、私がドイルさんの代わりに私を殺したかった。
 私が、ドイルさんの「罪」を背負ってあげたかった。
 そして私が背負わなければいけないものだったの。
 
 だから、ごめんなさい、ドイルさん。
 そして、今までありがとう御座いました。
 私にはなんにもできないけれど、でもドイルさんに感謝している事だけは伝えたいよ。
 私、馬鹿だからどういったらいいのかわからないから、黙っていることしか出来なかったけれど、
 でも、私にはドイルさんの苦しみがわかるの。
 私が変えたドイルさんの人生は、絶対に変わらないことも。
 ドイルさんに背負わせてしまった物は、絶対にドイルさんの背から離れていかないということも。
 そしてそれを自ら離そうとすることが、なによりも自分自身を否定することになってしまうことを。
 自分を責め続けなければ、決して自分で居られなくなってしまったドイルさんは、
 そのことを悲観したり嘆いたりしてしまった時点で、それでもまた人ではいられなくなっちゃう。
 赤ちゃんの私を、それが世界のためとはいえ谷底に投げ捨てたのだから。
 今、こうして私が笑顔でドイルさんに感謝しても、無垢な赤ちゃんを殺そうとしたのだから。
 だから、私にはほんとはドイルさんの罪を背負うことなんてできないんだ。
 ドイルさんは、絶対に赦されちゃいけないんだもん。
 赦されて、それで清々した、なんて絶対ドイルさんは思えないはずだもん。
 考えれば考えるほど、赦されたいと思えば思うほど、
 それは結局自分勝手で自己満足したいだけのことなんだ、ってきっとなによりも強く思っているはずだから。
 
 私は、今、そういう人とお話してる。
 私は、ドイルさんの罪を背負うことはできない。
 でも、私、私も自分の罪を持ってるって事ちゃんとわかってるから。
 私は廃棄王女。
 捨てられるべき人間なの。
 私の意志とかそんなの関係ないよ。
 私はだって、生きてるだけで世界中の人の笑顔を奪っちゃうんだから。
 私も、ドイルさんと同じで、誰に赦して貰おうとも思って無い。
 ドイルさんが赤ちゃんの私を谷底に投げ捨てたことを、誰のせいにもしないように、
 私も自分が世界を滅ぼす猛毒であることを、誰のせいにもしないよ。
 
 ドイルさんは言ったよ。
 『目の前の人間がたとえ悪人でも、医者ならば助けることはできる。
  助けた瞬間、殺されるかもしれんがね』 って。
 
 ドイルさん、ありがとう。
 ドイルさん。
 私、今度また会ったときは、ちゃんとお礼いうね。
 そして、私の出来る限りの元気一杯の笑顔をみせてあげるね。
 それがドイルさんの罪を消すことにはならないけれど、
 でも、それで私がドイルさんの苦しみを知ってるって事を伝えたいの。
 私、今、こんなに元気に生きてます。
 だからドイルさんも笑顔で生きて。
 それがたとえ嘘でも、たとえそれが不可能なことでも、
 そして絶対にドイルさんの傷を癒すことは出来なくても、
 だから私は敢えて言うよ。それでも絶対言うよ。
 
 ドイルさん、ごめんなさい。
 
 
 
 ◆ ◆
 
 『生き延びてくれ。私にはそれしか言えんよ』、か。
 俺はその言葉を初めて聞いたような気がする。
 そして、俺の意志はまたひとつ確かとなった。
 俺がパシフィカを守る。
 あの人の願いのためにも、いや、パシフィカのためにも、絶対にパシフィカを殺させやしない。
 なのに・・・。
 あまりにも無力だった。
 俺にはただ、力があれば良いとついさっき思えたばかりなのに。
 あいつは懸命に生きようとしているのに、肝心なときに俺の力であいつを守れないなんて。
 あとは力、力、力なんだ。
 いいか、ゼフィリス、聞け。
 あいつは、自分が廃棄王女であることを誰のせいにもしていない。
 自分を殺しにやってくる奴らから、決して目を離さない。
 だからあいつは、最終的には死ぬ。
 自分で自分を殺すはずだ。
 いいか、よく聞け。
 それはなんでだ。
 あいつが世界を滅ぼす猛毒だっていう託宣があるからだ。
 そしてそれが真実だと、あいつが信じているからだ。
 いいか、さらによく聞け。
 マウゼルの神が定めた託宣、それがあいつを死に向かわせている。
 だけど、パシフィカはそれが事実なら事実として受け止める覚悟を持っている。
 絶対に神の言葉に反抗しようなんて、思わないんだ。
 神のせいになんて、しないんだ。
 だから俺は、神を殺す。
 ゼフィリス、いいか、俺は神を殺したいんだ。
 あいつが絶対と信じているもの、それがただの大嘘だったなら、あいつは猛毒でもなんでも無くなるんだ。
 あいつはあの人と違って、まだなんにも罪を犯しちゃいねぇ。
 託宣の実現は、あくまで未来なんだ。
 未来が定められているという運命を変えるにはただ、神を殺せばそれで良いんだ。
 パシフィカ、お前、わかってるのか!
 託宣が真実でなければ、そもそもお前は廃棄王女では無いはずなんだ。
 お前はただの普通の女の子のはずなんだ。
 
 俺は妹がそういう存在になれることを信じて戦う。
 ゼフィリスの持つ強大な力の使い方は、ひとつしかないと信じて。
 聖グレンデルの託宣が嘘であることを、俺の手で証明してやる。
 だから、パシフィカ。
 廃棄王女とはなにかを考えろ。
 
 そして。
 お前にお前を責める資格があるのか、それをもう一度考えてみてくれ。
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 

-- 040517 --                    

 

         

                                ■■ しろしろ ■■

     
 

 

 
 
 しろしろ〜しろしろ〜(挨拶)
 
 
 
 ということで、おおかみいぬさんの主催されている「旧白白同盟」に参加させて頂くことになりました。
 聖様にぞっこんである私としては参加しない訳にはいかないのです。
 もうこれを見たときにはあれでしたね、天啓とか信じましたね。
 聖様と志摩子さん、それだけでOK。
 旧白白万歳って感じですよね。
 でも、旧白白と言っても
 アニメしか見ていないから、私的には聖様と志摩子さんが現白白なんですけれど。
 え? 白薔薇って聖様と志摩子さん以外にもいらっしゃるの? とか素で言っていられるほど、
 おめでたいほどに聖様x志摩子さんが現役続行中なので御座います。
 いえ、それで問題無しですよね、うむうむ。
 
 やー、それにしても、しろしろはいいですよねー。
 このところすてプリや月姫やベイベで頭が一杯になっていましたので、
 ややマリみての影が薄くなっているやも、というていたらくで御座いましたけれど、
 こうしてしろしろなモノを目の当たりにしてしまいますと、
 あっという間にしろしろになってしまうものなのですね。
 
 嗚呼、聖様、嗚呼、志摩子さん・・・(しろしろ中)
 
 久しぶりに自分の書いた感想文を読み返してみたり(下手すぎて涙が出てきてしまいましたけれど)、
 アニメ11話や最終話をまた見てみたりだとか、そのあたりはぬかりなくしろしろ分を補給して御座います。
 とこうなりますと、やはりまたマリみてについて書きたくなるもので御座います。
 なんなら、またまた聖様の独壇場なアレとか書いてみようなどと、
 よからぬ挑戦とかしてみたくなったりしてしまうお年頃なので御座います。
 まー、それは今しばらく機が熟し、しろしろ化が盤石になったときにこそ発動される秘儀ですので、
 後のお楽しみ、という言い訳の名の下に書かないでいて良いサボりを甘受しようと思いますけれど、
 そろそろ原作であるところの小説版のほうも読もうかと思っているので御座います。
 マリみてにはアニメから入ったのですけれど、
 あまりにもアニメが素晴らしくって、それにいつまでも愛を注いでいたら、
 小説のほうに回す愛という名の好奇心がすっかり無くなってしまっていたりして、
 ついうっかり小説版が無かったことになりかけている昨今の私の脳内。
 
 さすがにこれはまずかった。
 さすがに紅い瞳、悪いと思った。
 
 ということで、反省。
 反省だけなら猿でも出来るという事ですので、
 それに倣い、図書館で予約してくるだけなら紅い瞳でも出来ると思いますので、
 近いウチに図書館で小説第一巻の予約をしてくることに致します。
 借りられてもすぐ読むかどうかはコレ別問題、というのは、
 それは紅い瞳が猿では無く紅い瞳だからなのです。
 アニメへの愛はそれほど強いという事なので御座います。
 もし読むとしても、それはたぶん再来週以降になると思います。
 なぜかと言いますと、
 現在すてプリの感想を週に二話分づつ書いていまして、今のところ5話まで書き終わっています。
 放送の方は今週8話放送予定ですから、それに追いつくまで2話分書くこのペースでいくと、
 来週に追いつき、そして再来週より1話づつ感想を書いていけるペースになる計算になります。
 なんと仰られようとも、今現在のこの状態で小説を読んで感想を書くことなど出来ませんので、
 私に小説版を薦めまくってくださる五月蠅い有り難い方々、もう少しお待ちくださいませ。
 そうやってなんやかやと私に構ってくださる方々がいらっしゃるうちが華と心得ていますので、
 いずれしっかりと小説版を読んで感想を書くことはお約束致します。
 
 問題は、いつ読むかなんですけれどね、いひひ
 
 それでサイト改装のお話ですけれど。
 ここだけのお話、基本色を今度は紅系でいこうと思っているんですよぅ。
 きっついめの紅じゃない柔らかめの紅で。
 でも。
 ここ1.2日、しろしろ言っていたものだから、
 紅っぽく出来つつある新デザインのサイトの姿が、
 なんだかよそよそしく見えてきちゃっているのですけれど。
 
 志摩子さん:「旧白白同盟のバナーなどを取り付けて少しイジっていましたら、
         なんだか今の白いデザインでも充分良いです、なんて思えてきましたわ、お姉様」
 聖様:    「うーわー、1から作り直したい気持ちがムラムラ来たよー志摩子〜」
 
 
 ・・・どーしよ。
 
 
 
 P.S:
 「旧白白同盟」を主催していらっしゃる、おおかみいぬさんのサイト
 「世界の鱈を極めるHP」に勝手にリンクさせて頂きました。
 私は  このサイト様が  大好き  です  (一呼吸づつ間をあけながら)
 いやだって、あなた。
 犬ですよ犬。尻尾ですよ尻尾。
 というかひたすら可愛くてコミカルでぬはーなんですよ。
 とりあえず、サマソは反則でした。
 結構前からROMさせて頂いていましたから、
 そりゃーもうたくさんたくさん補給させて頂いていました(なにを)
 これからも楽しみで楽しみで仕方の無いどころか、
 振り返ってはあのときあんなのもあったねふふふ(思い出し笑)、
 とか計らずもしてしまうことがやめられそうに無いサイト様ですので、
 この機に乗じて、調子にも乗ってちゃっかりリンクさせて頂きました。
 あ、猫鍋も反則ですよね、ふふふ(思い出し笑)
 
 
 5/18 追加
 既にオマケ以外の何ものでもないかもしれないマドラックス話:
 にゃんまーに。
 マーガレット萌え。エリノア萌え。マドラックス萌え。なんかもう全部萌え。それで良し。
 というか全っ然仕事やる気無くてトンズラが趣味なのに
 マーガレットに信頼されて俄然やる気出ちゃってるエリックさん最萌え。
 人生の楽しみ方が上手いデスネェ、お兄サン。
 なにげに踊らされてるだけのような気もしますけれど、喜んで踊っているようですからいいですよね。
 うがー、こういう人好きです。
 マーガレットにエリックさんを信じますって言われちゃって、
 それでやる気が出てる自分の馬鹿馬鹿しさを充分わかっていながら、
 その馬鹿馬鹿しさをも楽しめてるエリックさんたら、結構ステキ。
 報酬金が結局は自分の命の値段になってしまいそうな危険な仕事であることを承知で、
 それでもそれが本当に生死に関わることなのかという実感を得るのが妙に遅くて。
 気づいたら既に暗殺者に狙われてたりするんですけど、そこにマドラックスお姉様が。
 「いきなり入ってきやがって!物盗りか!?」「ガード? お前みたいな小娘が、俺を!?」
 せっかく助けに来てあげたのに散々な言われようのマドラックスは、
 登場の仕方を間違えたか、と内心舌打ちものでしたでしょうけれど、
 エリックさんが雇ったガイドが殺されたとエリックさんに告げたら、今度は、
 「誰が殺った。なんで殺った!?」と間の抜けた質問責め。
 若い男に関わるとロクな事が無いとマドラックスは思ったことでしょう。
 若いって年か微妙なエリックさんですけれど、早々に小娘に馬鹿呼ばわりされておかんむり。
 でもそれでいて危険な今の状況を楽しんじゃってるのですから始末におえないお人です。
 きっとマドラックスお姉様がドレス着て戦争始めたら、大喜びするに違いありません。
 そんなお気楽なエリックさんに戦場の現実を説いたりするマドラックス。
 モラルが幻想とかなんとかいっておられますけれど、
 貴女が仰られると素直にうんと頷けますよ。
 エリックさんの楽しみが、またひとつ増えた瞬間ですね。
 
 とにもかくにも、生き残る事が目標ですぞ、エリックさん。
 敵は前にだけいるとは限りません。
 
 

-- 040516 --                    

 

         

                                ■■ 青空色の夜の月 ■■

     
 

 

 
 
 月姫の第四話のお話をさせて頂きましょう。
 
 志貴が、また元に戻りました。
 夜の世界から昼の世界への移行。
 しかしそれは、今までの昼とはやはりどこか違っていました。
 その空の上で輝く陽光に、いかなる志貴の姿をも見て取れない。
 志貴とはなんら関係の無い、ただそれだけが広がっている青空。
 遠野の家に差し込む光に、どこにも志貴のぬくもりが介在していない、
 そのような透き通った、そしてただ空気としてある世界が其処にありました。
 そう。
 今のこの世界には、完全に景色に人格がありません。
 嗤う青空も無ければ、妖しく微笑む夕暮れも無いのです。
 それはあるいは、志貴が世界から見放された、とも受け取れます。
 今まで志貴と連動し、そして志貴の支配下にあった世界の情景は、
 今は完全に「他の登場人物達との共有物」にしか過ぎなくなっています。
 学校での日常風景に埋没していて、志貴と友人との間にある風の流れは、
 他の人々同士の間に流れているものとなにひとつ変わりが無くなっていました。
 
 そして、其処には夜の訪れの予感、というものもまた皆無でした。
 昼の情景それだけが凛として在り、夜の訪れを嘲笑する夕暮れの姿もまた無い。
 いえ、それはもしかしたら志貴自体にその予感が無いから、
 昼の世界もまた夜を前提とした存在では無くなっていったのかもしれません。
 つまり、昼空は未だに志貴と連動しているのかもしれないのです。
 志貴の中に何も無くなったから、だから空気の中の嗤いも無くなったのかもしれません。
 そして志貴の中になにも無くなったのは、それは夜が無くなったからなのかもしれません。
 アルクと共にネロを撃破したことで、もうこの夜も終わると感じていた志貴には、
 ただその「戦闘」のみが夜と認識されていて、それが終われば夜も終わる、
 そう感じた事によってすべてがぬくもりを失っていったのでしょう。
 
 志貴は、すべてが終わったと思っています。
 それは、アルクは元より、弓塚の事まで。
 弓塚は実は生きていて、それを知ったときの志貴の表情。
 正直、私はあのときの志貴の表情になにも読みとれませんでした。
 いえむしろ、其処に「無」を読みとったのかもしれません。
 せいぜい、ああ弓塚は生きていたのかああ良かった、それでお終い、だったでしょう、あのときの志貴は。
 自分が弓塚があの場所に行っていることを知っていながら、
 それを思い出しもせずに弓塚を見捨てた、ということをすっかりと忘却して。
 志貴には、弓塚が生きているかどうか、ということが重要なのであると同時に、
 自分があのとき弓塚の事を一瞬たりとも思い出せなかった、という事実も重要なはずなのに、です。
 それこそが志貴をネロに立ち向かわせた当初の動機であったはずなのに、です。
 弓塚が生きていたからいいだろうというのは、それこそ結果論にしか過ぎないはずなのに、です。
 志貴の中に夜の残滓が残っていない、このあまりにも綺麗すぎる空虚。
 当たり障りの無い、遠くから志貴を暖めるだけの朝の日差しを、
 それを当然のように受け止めている志貴の姿。
 いかなる非難や苦悩も呵責もない、その朝の目覚めを安楽に甘受できている志貴の異様さ。
 そしてその異様なはずの志貴の姿を、ほぼ完全に押し包んで霞ませてしまっている昼の情景が、
 その志貴の姿の当然さを圧倒的に高めてしまっているのです。
 まるで夜など無かったように、あまりにも自然な朝を迎えている志貴、
 そしてさも当然のように用意されていく日常風景。
 いつのまにか琥珀や翡翠、そして秋葉を覆っていた透明なベールは剥がされていました。
 そしてそのベールと共に、彼女達からはぬくもりの予感が奪われていました。
 一見してみて、なにを考えているのかわからない無機質な肌を晒していながら、
 けれどその向うに確実にぞっとするほど生暖かいぬくもりがあると予感できるのに、
 なぜかどうしてもそのぬくもりを発見できなかった、彼女達の姿。
 そして今度はそのぬくもりの予感さえ全くできなくなってしまう絶対的な冷質感。
 琥珀が志貴と軽やかに会話すればするほど琥珀の影は薄まり、
 翡翠が志貴に少しづつ近づいていこうとすればするほど翡翠の姿は見えなくなります。
 そして、秋葉の溶けているかのように硬質なその表情に熱がこもるたびに、
 なぜかそれが非常に機械的な反射のように見えてくるのです。
 秋葉の表情に彩りが追加されていく様子は、今回最も印象的な部分ですけれど、
 けれど秋葉のその仕草は、どうしても今の志貴にはそぐわないはずなのです。
 それがなによりも当然のように噛み合ってしまう志貴と秋葉の会話こそが、
 それらが飾られた「馴合い」であることをうっすらと示しているのです。
 
 日が堕ち辺りに闇が立ちこめても、夜はまったくやってきません。
 遠野の家の灯りはその闇にまで浸食を開始するかの如く輝き、
 それは禍々しいまでの存在感を示してもいます。
 いつまで経っても訪れない夜が在ります。
 その夜を待ちながら嗤う昼空は無く、夜の瞬間を待ち侘びる夕暮れの嘲笑の姿もありません。
 ただそこに広がっていくだけの昼。
 夜の色は空色に染まり、そうして志貴は当たり前のように遠野の家で過ごしています。
 
 けれど。
 そうしたあまりにも空虚な世界が広がり、
 その中にすっかり埋没し、それだけでしかない志貴ですけれど、
 そのような志貴の前に、再びアルクが現われます。
 このときの志貴の反応は、どういうものでしたでしょうか。
 私は志貴の反応よりも、アルクの出現それ自体に目がいきました。
 もはや世界の支配権を持っていない志貴、
 いいえ、世界を支配していながら支配を放棄している志貴の前に現われたアルクの意味は、
 それはこの世界への夜の再来を表しています。
 いいえ。
 それは或いは、このどこまでも広がる昼の正体を暴きに来たものと言えます。
 この昼は、既に青空色をした夜となっているのだ、と。
 昼の次に夜が来るので無く、既に昼すら夜になっているのです。
 夜は来るのでは無く、常にもう夜なのです。
 志貴は世界を支配などしていなく、既に彼自身が夜の支配下に入っているのです。
 決して訪れる事の無い朝を安楽に迎え、二度と浴びることの無い優しい陽光を浴びた志貴。
 そのような実体の無い「朝」や「昼」だったからこそ、志貴はそれを当然として受け入れられたのです。
 彼は、自分のスタンダードをただそれだけを生きていたに過ぎません。
 現実がどう変化しようと、それに左右されないまったく切り離された志貴の「普通」さが、
 夜の存在を消し、そして昼と融合させてしまったのでしょう。
 夜の予感を忘れてしまっているから、それが昼に在ってもまったく違和感を感じない。
 日差しの中に再びアルクを見たとき、
 おそらく志貴はアルクが学校まで来たことに驚きはすれど、
 あの夜の惨劇、そしてそれにまつわる「罪」の意識など欠片も想起していなかったでしょう。
 アルクが「此処」に来たことに疑問を感じても、「今」現われた事には疑問を感じていない志貴。
 私には、もはや志貴の中に「昼夜」の区別は無くなっているように思われました。
 別の言い方をすれば、もはや志貴は夜から逃れられる昼を持たず、
 そしてまた逃げるべき夜は無くなり、ただひたすら夜と同化した昼だけがあるのだとも言えます。
 
 こうなることで、今度は志貴の視点に戻っていくということで旧に復すとも言えます。
 そして視点が志貴になればなるほど、当然琥珀や翡翠、
 そしてなによりも秋葉の姿が見えなくなっていくのだとも思います。
 秋葉のあの、激しい葛藤の生成と消滅が連鎖していっている凄みは、
 ますますただ不気味なだけの反射のように現われてくるでしょう。
 瞬間瞬間たちどころに刻まれていく秋葉の表情の変化、
 それにぬくもりが見出されることは無いでしょう。
 秋葉は、とても美しいです。
 そしてなによりもその心を私達が言葉で理解できるはずの人です。
 きっと秋葉の中には無数の言葉が羅列され、
 そしてなによりも激しくその組み合わせの交代が為されている、そういう美しくて哀しい人だと思います。
 秋葉の姿を見ているだけで、それは充分に推測できます。
 心の中でめまぐるしく言葉を動かしている、
 そんな自分自身さえ見つめてしまっているほどの静寂に満ちていて
 その自身の静寂に激しく怒りを抱いてもいる。
 そしてだからこそ、その怒りに満ちた哀しみを振り切るために静寂たらんとしている人。
 おそらく秋葉は、とても意志が強くて、そしてなによりも意志の弱い方なのでしょう。
 身震いするほどに毅然であろうと必死になれるのに、決してその自らの哀しみを消せない人。
 哀しがる事を、やめられない人。
 けれど。
 けれどそういった秋葉の「姿」は、志貴の瞳を通して見る限り絶対に現われて来ないでしょう。
 志貴の中には、秋葉の「姿」すら無いのですから。
 
 
 次回はアルクェイドのお話になるようです。
 真祖は血を吸わないというプライドが、どうやら崩れるお話になるようですね。
 弓塚のお話も気になります。
 私は死んだか、或いはネロに血を吸われて吸血鬼になったのかとも思っていましたけれど、
 どちらも外れのようです。
 けれど志貴と再開したときの弓塚の様子からして、なにかあることは間違いないでしょうね。
 そのあたりも合わせて注目です。
 秋葉はどうなるのかわかりませんけれども、これにも興味の尽きないところです。
 もし志貴の瞳という呪縛が外れて、秋葉の「姿」を言葉で語ることが可能になれば、
 それもなかなか面白そうです。
 そうなれば、いずれ秋葉を語ってみたいとも思っていますけれど、
 今はしばらく志貴の瞳とその青空色の夜について考えていこうと思っています。
 
 それでは、今宵はこれにて失礼致します。
 
 
 

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                           ■■ 『吟遊詩人の子守歌』 ■■

     
 

 

 
 
 『なにが私が死んだらだ! 他人を気遣うのも、善人面も大概にしとけ! 奇麗事を言うな!』
 

                           〜 第五話のシャノン兄のセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 することは決まっているのです。
 すべきことなんて、それの前ではあまり意味が無い。
 私は魔法で、シャノンは剣でパシフィカを守ります。
 ええ、それはシャノンにとっても同じ事でしょう。
 でも、
 私とシャノンとでは、守り方が違います。
 魔法と剣、そして・・・。
 そして、パシフィカを狙ってくるものを殺すか、殺さないか。
 無益な殺生は好みませんが、私はそれが避けられない事ならば、遠慮無く命を奪います。
 それが災厄の引き金となろうとも、
 そしてそれがパシフィカが世界の猛毒であることを自ら立証することになろうとも、
 私は一向に構いません。
 私は、パシフィカが世界を滅ぼす存在だとしても、パシフィカを守ります。
 『託宣でなんと言われようと、私の大切な妹です。』
 パシフィカを殺さなければ生き残る出来ない人達が向かってきて、
 そしてそれこそ必死にパシフィカに襲いかかってきても、私はその人達を殺します。
 パシフィカがどう思おうと、私はパシフィカを守るために人々を殺戮します。
 パシフィカの命を奪おうとするものは、何人たりとも許しません。
 それが、私がすると決めた私の生き方、
 そして私が決めたパシフィカの守り方なのです。
 
 どう考えれば良いのか、わからなくなることはありません。
 私の瞳にパシフィカが映る限り、私がパシフィカを守ることに変わりはありません。
 パシフィカが死ななければいけない理由はどこにもありません。
 あるとすれば、それはそういう理由をパシフィカに押し付けようとする人々が居るからです。
 あの人達は、必死なのでしょう。
 そしてだから、私も必死なのです。
 話し合いで双方が生きられる道を見つける努力を尽してもそれが見つからないのなら、
 もうその後は殺し合うしか無いのです。
 私は、シャノンと違って冷酷ですから。
 容赦は、しません。
 今すぐ滅びますか? それとも、今少しだけ生き延びますか?
 私は、そう言うことをためらいません。
 それがまさに、世界を滅ぼす猛毒の守護者としての務めならば、私はそうします。
 私が世界を滅ぼす一助となるのなら、それでも構いません。
 それでパシフィカが守れるのなら、私は世界を滅ぼします。
 私は、悩んでいませんから。
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 たとえば。
 シャノンだったら。
 もしパシフィカが世界を滅ぼす存在だと、それが真実であることが絶対であるということになってしまったら、
 もしかしたらパシフィカを守れなくなるかもしれません。
 シャノンは、あの託宣を真実としないために戦い続けていますが、
 それが真実となってしまったら、どうしたら良いのかわからなくなるでしょう。
 けれどラクウェルは、託宣が真実かどうか、それ自体はどうでも良いと思っています。
 たとえそれが真実で、パシフィカが世界を滅ぼすと確定してもラクウェルがパシフィカを守る意志は、
 絶対に変わり得ないでしょう。
 パシフィカがどのような存在であっても、絶対にパシフィカを守りきる。
 私は、シャノンと同じくラクウェルもまた心優しい人だと思っています。
 人々に笑顔を求め、争いを好まず、誰もが平和に暮らして生きられたら、
 ラクウェルもまたパシフィカと同じく思っているはずです。
 けれど、もしパシフィカとその他の人々との笑顔、どちらかひとつしか取れないとしたら、
 ラクウェルはためらいなくパシフィカを取るでしょう。
 シャノンには、その二者択一の選択肢はそもそもありません。
 シャノンはなにはともあれ、パシフィカか世界か、というそういう悲しい選択しか無いという状況、
 それを打破するべく戦っているのですから。
 
 ラクウェルってなんなのでしょうね。
 私は、ラクウェルはある意味で、シャノン、そしてパシフィカすら辿り着けなかった「優しさ」、
 それを持っているように思われます。
 パシフィカは、自分が生きることで人々が死んでいくことを悲しみ、
 だから死のうとするのだけれど、けれどそれは逆に自分の死をその人々のせいにしているとも考え、
 結果どちらをも受け入れることが出来ない深い絶望に囚われています。
 一体どうすれば、人のためになるといえるのか。
 シャノンはそんなパシフィカに少しづつ同調しようとしています。
 パシフィカの悩みを理解しようとし、パシフィカの観点に立って、
 そうしてその立場から戦いパシフィカを守っていこうとしています。
 では、ラクウェルは。
 ラクウェルは、そういうパシフィカやシャノンの考えをおそらく知っています。
 そして、パシフィカの悩みの先にある答えの一端をも知っています。
 パシフィカは、生きなければいけない。
 シャノンのために、ラクウェルのために。
 そして、自分のために。
 自分のために生きることで喜んでくれる人が居て、
 それだけでパシフィカは生きていて良い理由がある。
 そしてそのときに、自分が自分のために生きるということが、
 それは誰かのためにしていることなんだ、という変換をするのが巫山戯ている、ということを。
 むしろ傲慢なのかもしれません。
 自分の命が、それが誰かのためという事に代わり得るなんて、そもそも見上げた自信過剰なんです。
 自分には誰かのためになれる根拠があるなんて、考えてみれば一体どうしてそう言えるようになったのか。
 ラクウェルは思います。
 ただ自分のためだけに生きなさい、と。
 自分のために、誰かの事を想いなさい、と。
 全部自分のために。
 思い切り甘えなさい、とラクウェルは思っています。
 なにもかもを、それを全部を自分のせいにしないために。
 自分でなんとかできるものなんて、そもそもそんなにたくさんあるわけじゃない。
 むしろ全部を自分でどうにかできると思うことが、それこそが一番の他人への冒涜なのです。
 全部を自分で決めて、ならばそれなら他人達には一切の決定権は無いのか。
 ラクウェルは思います。
 誰かの事を本当に想うのならば、自分の事を想いなさい、と。
 誰かの事はその誰かに任せてあげなければ、と。
 自分達が生き延びるためにパシフィカを殺そうとしてやってくる人達を思うなら、
 パシフィカもまた生き延びようと一生懸命にならなきゃ駄目だよ、ということなのです。
 パシフィカの体は、パシフィカのものだけではありません。
 シャノンとラクウェル、そして両親のたくさんの愛の瞳の元、
 永遠に慈しまれて大切に守られているものです。
 パシフィカは、だから彼らに甘えていいんです。
 自分の体の責任を自分だけで持っている必要は無いのです。
 そしてだからこそ。
 そういう風に言えるからこそ、初めて自分の体を自分だけの物とすることができるのです。
 自分だけが責任を負わなくて良いのに、敢えて自分だけが負うことで、
 そこに初めて本当に誰かの事を想う事が出来たと言えるのかもしれないのです。
 元々が、自分のことなのだから。
 そうして得た自分の体、命、そして自分の生を、だからパシフィカは生きて良いのです。
 自分を自分だけで生きると言ったのだから、自分には自分を生かす責務があるのです。
 ラクウェルは、そう考えていると思います。
 パシフィカがパシフィカを生きる権利はパシフィカにあり、
 人々が人々を生きる権利は人々にある。
 そして死もまた然り。
 パシフィカを殺せば生きられるならば、人々はそうすればいいのだし、
 またラクウェルはその事を当然と考えているでしょう。
 そしてそれが成り立つならば、当然パシフィカが生きることもできるのです。
 妥協せず、笑いながら、そして全力で一生懸命に生きて良いのです。
 
 一生懸命になれば、それは相手を殺すことになるかもしれない。
 ギリギリまでそれは避けても、でもどうしてもそれが避けられないことなら殺すしかない。
 ラクウェルは、最初からそう思っています。
 その上で、世界の悲しみを憂います。
 世界のために廃棄王女を殺す正義はあるんだ、というレオを認めます。
 かつて王国のために赤子のパシフィカを殺そうとしたバレットに微笑みかけます。
 けれどパシフィカを殺そうと迫るサイレンサーには、生死の選択を強いるのです。
 そういうことなのです。
 
 
 
 『なにが私が死んだらだ! 他人を気遣うのも、善人面も大概にしとけ! 奇麗事を言うな!』、
 というシャノンのセリフは、それはパシフィカに宛てた言葉であると同時に、
 シャノン自身にも宛てた言葉でもあります。
 そしてそれはまさにラクウェルが思っている言葉でもあるような気がします。
 もっと甘えなさい。そして、もっと自分の事を考えなさい、と。
 その結果が世界を滅ぼすことになるのなら、ラクウェルは「喜んで」世界を滅ぼすことでしょう。
 
 世界を世界たらしめるために。
 
 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 
 

-- 040513 --                    

 

         

                           ■■『出会いと別れの協奏曲』■■

     
 

 

 
 
 『待つしか出来ないなんて、辛いね・・・・・』
 

                           〜 第四話のパシフィカのセリフより〜

 
 
 
 
 
 
 時々ね、夜空を見ていて思うことがあるの。
 なんで、私って生きてるのかなって。
 そんなの答えなんてある訳無いじゃない、という答え以外得られないことって、
 それってどういうことなのかなぁって。
 台所の隅にうずくまって色々考えてみても、なんにも考えられない。
 いつもなにかを考えようとして、そしてその考えている事は私にとってちっとも意味が無いっていつも思う。
 考えてたってなにも始まらない、のじゃなくて、考えることさえ出来ないのかなぁ、やっぱり。
 なーんにもできなくて、いつもお兄ちゃんとお姉ちゃんに迷惑かけて、
 今回だってウイニアにたくさんたくさん迷惑をかけてしまって。
 私がなにかを考えたって、それが無くなる事なんて無いんだよね。
 私はなんにもできないから、それだけで迷惑かけてしまうことが当たり前で、
 それでも私は自分でなにか出来ることは無いかと考えてみて、
 そうして楽しそうに笑ってみたりするのだけれど、
 それでウイニアを助けられる訳でも無い。
 結局私のせいなのにウイニアが巻き添えになって、
 そしてそのウイニアを助けに行ける力も私には無くて、シャノン兄に行って貰って。
 全部私が悪いのに、私だけがなんにもしていない。
 あれ? なんでそれでいいんだっけ?
 
 ・・・・・・
 
 まさかり小僧に言われたことを、俺はたぶん絶対否定できない。
 『あなたは可哀想な妹を守ることで、自己満足に浸っているだけだ』。
 俺はたぶん、それにYesと答えるしか出来ない。
 色々な意味でな。
 だが、そうとしか答えられない自分のことを、俺はどうでもいいと思っている。
 俺はパシフィカを守る。
 俺はそれから始まり、俺はそれで終わる。
 それがどういうことなのかを考える事、それがどういうことか、俺は知っているのだから。
 俺はそうだ。自己満足している。
 パシフィカが生きて、そしてパシフィカが笑っていられるならそれでいい。
 それ以外の物は求めねぇ。
 妹を狙ってきた奴の命もな。
 そして、俺が妹を守るという事に正当性も求めねぇ。
 俺は、俺の勝手でパシフィカを守ってる。
 今は、そうとしか言えない。
 いや。
 そうとしか、言いたくない。
 
 
 
 
 ・・・・・・
 
 もう、嫌。
 もう、私のせいで誰かが苦しむのは。
 やめて・・・・もうやめて・・・・。
 私なんかのために、みんな死んで・・・・。
 私はもう許したくない。
 自分だけが笑っていられることを。
 私だけがなにもしないで、それなのに生きていられることを。
 もう見てられないんだよ。
 私よりもっとずっとずっと素晴らしい人達が、私のために死んでいくなんて。
 もういい。もういいからっ。
 全部私のせいなのに、それなのに私だけは生き残って・・・。
 私を殺すのが、一番正しいはずじゃない。
 私に関係ある人も、私に関係無い人もみんな私のせいで・・・・。
 なんで、なんでそれなのに私は殺されないのよ。
 なんで私は生きているのよ。
 なんで・・・・なんで・・・・・なんでよ・・・・・。
 それが試練だなんて馬鹿げてる。
 みんなが死んでしまうのに、なにが試練よ。
 なにが幸せよっ。
 もう嫌、もう嫌、もう嫌。
 ウイニアが私のせいで殺されていたかもしれないんだよ。
 みんなが私を睨んでいるのに、私だけ笑っていていい訳ないじゃない。
 私なんか、いらない。
 私の笑顔なんて、いらない。
 私の命より、大事な物はたくさんたくさんあるんだ。
 私のじゃないみんなの笑顔が、一番一番大切なんだ。
 だから。
 
 
 『私が世界を滅ぼす猛毒なんでしょっ。だったら、私を! 私を殺せばいいじゃないっ!!』
 
 
 
 ◆ ◆
 
 私はあのとき見た。
 確かに、パシフィカが泣いていたのを。
 一番彼女が誰にも見せたくなかった涙を、パシフィカは確かに流していた。
 パシフィカは、自分の死を願った。
 それはずっとずっと昔からの願いだったのだと思う。
 でも、それだけは絶対に彼女は言えなかったはずなんだと思う。
 だって、彼女はなぜ笑っていられたの?
 私・・・私、わかるんだ。
 誰かのために死ぬってことが、それがとても巫山戯た事だってことを。
 それこそが逃避なんだって事を。
 パシフィカは、たぶん世界の誰よりも人を思い遣れる人なんだと思う。
 もうどうしようも無いくらい、世界の悲しみを知っている人なんだと思う。
 とてつもなく、みんなのためになりたくてなりたくて堪らなかったのだと思う。
 でも。
 でもだからそうできないということで、自分を死に追いやると言うことは、
 それ自体が自分の死の責任を周りの人に押し付けてることになってしまう事になるはずなのよ。
 自分はさっさと死んでしまって、それであっさり終わり。
 なにもかも世界と託宣のせいにして、自分だけ楽になっちゃう。
 それは。
 自分では何もできなくて、自分のせいで人が傷つき死んでいく事、
 それがパシフィカを覆っているものだからこそ、
 自分の生、そして自分の死だけは自分で責任を取らなければいけない、
 そうパシフィカは思っているのだと私は思う。
 なによりも誰よりも人の事を想う、哀しいくらいに優しい人だから、パシフィカは。
 なにもできないからこそ、自分に出来ること、それだけは絶対に絶対にやり遂げる。
 たぶん自分の「命の重さ」なんて、それに比べれば無いに等しいんだと思う。
 
 あのときパシフィカは、確かに泣いていた。
 みんなの死を見るのが「辛い」から、自分のせいで誰かが傷つくのを見るのは「嫌」だから自分が死ぬ、
 そういう自分の感情のためだけに死を選んでしまったこと、それが彼女に涙を流させたんだと思うよ。
 パシフィカの、哀しみの深さがわかる。
 彼女の絶望もわかる。
 そしてそれなのに。
 それなのに、パシフィカは死ぬことが出来なかった。
 パシフィカの一番の願いは、世界のために死ぬこと。
 それは、一番心の中で願っていた事で、一番一番言いたくなかった願い。
 自分はなんにもできなくて、
 そして色々考えた結果、自分に出来ることをそれだけは絶対に頑張ろうと決めて、
 なのにそれがただ待っていることだけしかできないことだったのよ、パシフィカは。
 ただ笑顔で笑って待っていても、誰も救えない。
 なにもできない自分の隣で、誰かが自分のせいで死んでいくことにはなんの変わりもない。
 パシフィカは、だから・・・・いつでも思ってるはずなのよ。
 なによりも生きることに一生懸命にならなくちゃいけない、
 そして今すぐにでも死ななければいけない、って。
 
 私は、そんなパシフィカを放っておけないよ、やっぱり。
 あんなに優しいのに、あんなに哀しいあの人を。 
 だから、私は。
 今、ちゃんと言うから、聞いて、パシフィカ。
 パシフィカ、ありがとう。
 あなたの笑顔が、私を幸せにしてくれたよ。
 ちゃんとちゃんと、あなたのその笑顔は私の役に立ったよ。
 あなたが其処で笑って待っていてくれたから、私は帰って来れたのよ。
 私は、それだけはあなたに絶対に伝えたくて。
 あなたはなにもできないかもしれない。
 そして世界の猛毒かもしれない。
 もしかしたら、またあなたのせいで危険な目に会うかもしれない。
 でも。でも。でも。
 私は言いたい。絶対言いたい。
 パシフィカ、ほんとうにありがとう。
 そして、私はずっとずっとまた会えるのを待っている。
 だから。
 
 『今は、さようなら』
 
 
 ・・・・・・
 
 『あいつを守るために誰かを殺したら、ほんとにあいつが災いの引き金になってしまいそうな気がしてな』
 いいか、マセ餓鬼。
 俺はな、あの託宣がほんとなんて思っちゃいねぇ。
 つーか、俺が真実にさせねぇ。
 あいつはな、俺が言うのもなんだけれど優しい奴だ。
 『自分のせいで誰かが傷つけば、自分を責める奴なんだよ』
 だから俺はそうならないために、あの託宣の言葉を信じない。
 あいつは人の事を想う事にかけては人一倍に真剣で、
 その上にその真剣さがすべて凄いくらいなまでの優しさの追求に繋がっている。
 俺は、あいつは凄いと思う。
 凄すぎて、本当は俺自身あいつの優しさの本質がどれほどのものなのか計れないでいる。
 俺は馬鹿だからな。
 だがな、あいつが人を思い遣ることを追求しているのが、
 それが哀しみと共にあるのくらいはわかっている。
 俺は正直、あのときほど辛かったことは無い。
 泣きながら自分を殺せばいいと叫んだあいつを見たとき、俺ははっきりいってなにも言えなかった。
 俺はあのとき、本当になにもできなかったんだ。
 あいつの哀しみが、それがあるとわかるだけで、それがどういうものなのかまったくわからなかったからな。
 俺は・・・。
 俺は一体、パシフィカの「なに」を守って来たというのだろうか。
 俺はただ、ひたすら自分勝手を貫いてきただけだ。
 その自分勝手の正当性を主張しないこと、それだけですべてが許されると思っていた。
 俺は自分勝手だ。だからそれを認めたのだから、パシフィカを守っても良いはずだ、
 あいつを狙う奴をぶちのめしても別に構わない、そう思ってたんだな、きっと。
 結局俺は、パシフィカ以外の事はどうでも良かったんだろう。
 だが、あいつは・・・。
 あいつはきっと、自分の事なんてどうでもいいんだろう。
 そしておそらく、そう思っていながらどうしても自分の事を思ってしまう自分に苦しみ、悲しんでいるのだろう。
 俺は、ずっとパシフィカを守ってきた。
 パシフィカがどうでもいいと思っているパシフィカを、俺は守ってきたんだ。
 パシフィカには、もっともっとずっと守りたいものがあるはずなのに、
 俺はそれを知らないで、ただひたすらパシフィカの命を守ることだけを考えていた。
 きっと、そういう俺の「自分勝手」な行動自体が、パシフィカを苦しめていたこともあるのだろう。
 俺達は、ずっとそうだった。
 俺達は一体・・・・。
 『ラクウェル。俺達は守りきれるのか? ・・・本当に、あいつを。』
 
 あの子は、俺にはできなかった事をしていた。
 あの子は、パシフィカに最も必要なものを与えたような気がする。
 俺は正直、驚いた。
 あの子の賢さに、そしてあの子の強さに。
 『あの子は強いな・・・。俺達よりずっと・・・』
 俺にはわからなかったことがあの子にはわかり、
 そしてたぶん、俺はまだあの子の考えている事をしっかりとは理解できていない。
 だが、あの子の強さだけはなによりも感じた。
 俺にはあの子がなんであんなに強いのかわからん。
 だが、その強さが確かにパシフィカの笑顔を認めてくれる大事な物であることはわかった。
 俺達には守れないかもしれないあいつの笑顔、それの救いになるであろうことも。
 もしかしたら、パシフィカにとっての真のガーディアンはあの子なのかもしれない。
 俺は、パシフィカの笑顔を見ていたかったくせに、それがどうすれば見れるものかを全く考えもせずに、
 ただひたすら剣を振っていた。
 俺は馬鹿だ。大馬鹿だ。
 
 だから、これから俺は考える。
 ずっとずっと考え続ける。
 なにがパシフィカの哀しみなのか、を。
 そして。
 パシフィカを待たせることがどういうことなのかを、
 俺はあいつと同じくらいに真剣に考えていこうと思っている。
 
 真の守護者となるために。
 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 
 

-- 040512 --                    

 

         

                   ■■やっぱりこれくらいは言えないと、ね■■

     
 

 ふっと思い立ったときに何かちょこっと書けるサイトがあるって、やっぱりプチ幸せ。
 あれ? 前も言ったっけ? ←幸せぼけ
 剣心:『剣は凶器。剣術は殺人術。どんな奇麗事やお題目を唱えてもそれが真実。
      薫殿の言っていることは一度も己の手を汚したことが無い者が言う、
      甘っちょろい戯れ言で御座るよ。』

 

 剣心:『けれども拙者はそんな真実よりも、薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きで御座るよ。』
 アニマックスで始まった「るろうに剣心」のセリフのひとつなのだけれど。
 今日久しぶりにこのセリフ聞いて、やっぱりそうだよねって。
 これくらい言えないと、ね、って。
 誠心誠意、一生懸命に努力しなきゃね、って改めて深く思えるよ。
 やっぱり、夢を目指して夢見続けている人を見るのは、大好きです。
 剣心、同志ですね(握手を求めて)
 夢を追い続ける努力を放棄すること無かれ。
 現実から目を背けて夢に逃げ込む、なんてそう思えばそれまで。
 そう思ってしまったときに初めて、夢は人の逃げ場になる。
 自分で逃げ場を作っては駄目。
 作らなくて済む限り、あらんかぎりの力を尽して踏み留まる。
 現実から目を背けて、夢から逃げるのは駄目。
 だから、夢に逃げていいんですよねー。
 逃げるなんて、そんなもん言葉でしか無いんですよー。
 自分が手を汚しているからこそ、尚のことこれ以上手を汚さずにいけるように生きていく。
 一度汚れちゃったから、汚れてしまった自分を受け入れて汚れて生きていく、
 そういうことを選ばない。
 どんなに汚れて、どんなに真実を知ってしまってもそんなのは関係無いのです。
 汚れてしまった自分を憐れんでいる自分に気づくのは、惨めな気分です。
 それは結局、全部真実とやらのせいにしちゃってるだけなんですからねー。
 そうそう、大事なのは自分がどうしたいかって事なんだよね。
 なにが好きなのか、ってこと。
 そして好きなことが見つかったなら、もうそれでいいじゃない。
 それが正しいって思えたなら、それでいいいじゃない。
 真実なんてさ、重りみたいなものでしかないのさ。
 海に投げ出されて、でも重りが足についててその重さで今にも溺れそうで、
 で、その重りに抵抗するくらいならそれに身を任せて沈んじゃった方がいいや、
 そう言っているようなもんだと思う。
 無様に足掻いてなんとか浮上するより、
 すべてを諦めて沈んだほうが、ちょっと潔くてそこはかとなく格好良いものだから、
 そうやって大人しく死んでいくことに正しさのようなものを見つけていて。
 そしてそれのほうが楽だし賢い事だとか思っちゃったりする。
 重りが無ければ、そもそも沈もうなんて思わないはずなのにさ。
 そして自分が懸命に生きようとしないでいい理由を重りのせいにしてるんだよね。
 きっとその人は地獄の閻魔様の前でこういう風に自分の死を説明するよね。
 「これが私の運命だったんです」って。
 ただ重りがついてただけなのにねぇ。
 重りがついてる事自体は運命かもしれないけれど。
 でもその重りの重さを自ら喧伝して、そしてその偉大な重りに出会ったことを嘆いているんですよねー。
 
 大事なのは、重りの重さじゃ無いよ。
 っていうかさー、自分で重りの重さを決めてるだけじゃん。
 重さを決めるのは言葉。
 自分が汚れてしまった、そのことを自慢しているように聞えるよ。
 たとえその重りが地球よりも重いものだとしたら?
 だったらそれだけ地球のほうが重くなるようにすればいいんじゃん。
 できるかできないか、それを問題にしてる時点で、既にその重りのせいにしていると思う。
 だから決して私はその重りのせいにしようなんて思わない。
 剣心もそうだよねー。
 薫の言ってる甘っちょろい戯れ言、それを剣心が好きになれなくなったら、
 それこそ剣心は終わり。
 汚れきった風の吹き荒れる闇の狭間で、
 何度も蝋燭に火を灯そうとしては掻き消される人を見て、どう思うのか。
 風がこんなに吹いてるんだから、火を付けようなんて馬鹿な奴だって思うのかな。
 その火が燃え広がって火事になったらどうするんだ、って思うのかな。
 剣心はきっと、その懸命に火を付けようとしている薫の姿にとても憧れていたと思うよー。
 うん、憧れ。
 汚れきってしまった自分が、汚れていない人に憧れる、
 そういう無駄でどうしようもなく虚しい事を恥ずかしんで憧れるのをやめる、
 そういう「甘え」だけは絶対に剣心はしないんだと思うよ。
 それだけは、たぶんちゃんと諦めないで持ってるんだよね。
 やっぱりさ、風車に突撃できるドンキホーテってステキだよね、ってお話なのでしたー。
 いくぞロシナンテ。
 いや、酔ってないから。

-- 040511 --                    

 

         

                   ■■せんせい、 エリノアがベイベです■■

     
 

 

 
 
 近頃と来たら、気温が30度あたりまでノンストップで上昇していたりして
 もはや真夏日到来なのかとか、そんなお巫山戯にも程がありますという時候となって参りました。
 紅い瞳などもすっかり夏仕様に早々と鞍替えしている身分ですけれど、
 やはり梅雨前にこんな軽装をしていると、なんだか夏はどうなっちゃうのだろうか、
 と少しばかり心配しつつ、今年初のアイスクリームを美味しく頂いていたりします。
 あー、うめー。
 
 と、そんな訳なのですけれども。
 月姫やすてプリの感想書きにも少しばかり板に付いてきた感が否めない程に落ち着きが出てきました。
 やー、最初の頃はいったいどういう事になるのやらとハラハラドキドキでした。
 特にすてプリなんて第一話の感想を書いたとき、
 これ以上感想を書き続けられる気がしませんでした。
 でも、なんとかノリに任せて書いていたら、それなりに書きたいことが書けてしまったり、
 そうやって書いているうちに書きたいことが出てきたりで、
 気づいたらいつも通りどっぷり浸かって半狂乱一心不乱に書くことが出来るようになっていました。
 いつもながら、なんでこう自動的に自分をノせる事ができるのかよくわからないところなのですけれど、
 まー、結果オーライです ←進歩無し
 
 月姫とすてプリの感想は、勿論これからも頑張って書いていこうと思っています。
 書きたいことを第一に、そしてそれに見合うと思う表現技法で書いていこうと思っています、
 とは実は今回は思って無かったりするんですよー。
 一応、月姫とすてプリの感想は、基本的なカタチを決めてまず其処から始めてみよう思っているのです。
 どんなカタチ、と聞かれたらあんな感じとしかお答えできませんけれども、
 とりあえずあんな感じで書いて、そしてそれにどうしても見合わない書きたいものが出来てしまったときだけ、
 表現技法を変えようと思っています。
 そこのところ、お願い致します。
 いえ別に、なにもして頂くことは無いんですけれども。
 
 
 
 でー。
 「せんせいのお時間」とかいかがっすかー?
 やー、なんか楽しいですよねーもー。
 やっぱりあれですよ、あれ。北川さんですよ。
 みか先生命ですよ。いじめっこですよ。欲望に忠実ですよ。策士ですよ。
 一番見てて楽しいですねーこのヒト。
 ちびっこいみか先生に、如何に自分好みの行動をさせるかに燃えちゃってますよ、このヒト。
 ちっちゃくて可愛いコ大好きな北川さんたら、全力でちび教師からかって楽しんでますよ。
 むしろみか先生が転んでも笑っちゃう、とかそんなお年頃ですよ。
 もうね、羨ましい。
 めっちゃ楽しそう。
 私ももっとこんな感じで人生楽しめるように修行したいな、と思った今日この頃でした。
 
 
 そんな楽しげでアレな今日この頃に「MADLAX」も見たのですよ〜。
 したら、
 
 授業中に爆睡(頬杖付き)→寝惚けて立ち上がる→みんな注目→先生「眠っていなさい、バートン君」
 
 えええ。
 なんて羨ましい。
 もしかしてこの先生は、エリノアさんに脅迫でもされているのでしょうか。
 きっとおそらくそうなのでしょう。
 彼女と来たら、まだ発言中のモーリスくんに飛び膝蹴りの奇襲かました上に、
 彼の手首をぷちっと踏み潰しちゃったりするえげつない御仁ですからネ。
 「マーガレットお嬢様の眠りを妨げてもいいのは私だけです」なんて言ったりしたのかも知れません。
 恐るべしエリノア。
 恐るべしお嬢様萌えのメイドさん。
 でもさすがに発砲とかはしないらしいところに、そこはかとなく冷静さが。
 間違いなくスカートの下に銃器仕込んでると思ったのに (どんなメイドだ)
 
 
 そんなえげつないけどちょっぴり健気なエリノアさんの頑張りに感心したかしてないかの瀬戸際で、
 「愛してるぜベイベ」の事を思いだしたのですよ。
 したら、
 
 なんかもう、ベイベが一番ってカンジ?
 
 ・・・・・。
 感想書いてる月姫やすてプリはどうしたんだって感じですけれど、知ったこっちゃーない。
 思い出したら、それはもはやベイベしか無いでしょう ←どういう論理だ
 いえいえいえ。
 本当に今一番面白いアニメなのですよ。
 見れる人は是非見ましょう、という宣伝っぷりなのですよ。
 もうね、可愛くてカコよくて堪らないんですよー。
 ゆずゆちゃんと結平くんがすんごいのはいつものことだけれど、
 心ちゃんもしっかりと台頭してきている昨今のお話においては、もう。
 うーん、目眩で倒れそう・・・・・・・・バタっ。 ←倒れました
 ゆずゆちゃんの、素直なんだけど、その分しっかりとまわりの事も見えているものだから、
 自分が今そのときに持っているものを素直に言っただけじゃなにも意味が無い事に気づいてる感じとか、
 やっぱり結平くんの自分の馬鹿さ加減を理解しているのかいないのか、それとは関係なく、
 ただ自分の出来ることをしてさらにそこから出来ることを増やしていこうとするカッコ良さとか。
 ええと、なんかもうそんなのはどうでもいいんです。
 ひたすら可愛くて、カッコいいんです。
 ええい、めんどくさい。
 ベイベでいい。
 
 
 あー。
 ベイベを語れる日は来るのでしょうか ←夜空を見上げながら
 
 
 
 P.S:
 サイト改装作業が着々と進んでいます。
 現在完了率0.5%。
 先が見えません。
 
 
 

-- 040509 --                    

 

         

                          ■■消えた月と消えない刃■■

     
 

 

 
 
 少し間が空きましたけれど、本日より月姫の感想を再開致します。
 今回は、月姫の第三話についてお話し致しましょう。
 
 不思議なものがたくさんあります。
 志貴の態度や言動、そしてアルクの志貴に対する寛容さ。
 ふっとなにもかもがわからなくなってしまうような、不思議さ。
 アルクを殺したことにほとんど罪の意識を感じていない志貴に、
 それについてなにも責める気配の感じられないアルク。
 というよりも、二人の間では、ほとんど殺し殺された関係というのは意味を無くしているように思われます。
 既にアルクの中にはネロに対してどうするか、
 志貴の中には戦闘に巻き込まれた弓塚を救えなかったという慚愧の念しか無い。
 そしてアルクは、そのような弓塚の死(確定では無い)について自分を責める志貴を見つめて、
 いったいなにを考えていたのでしょうか。
 アルクの紅い瞳の中に、いかなる想いも見出せない。
 ただ其処には、志貴を見つめているアルクが居るだけで、
 ではそのアルクの視線にはどういう意味があるのか、というのをまるで見る側に予感させない。
 ただ其処には、ネロとの戦闘を前にして、それに向かっていく二人の姿しか無いのです。
 不思議なまでの、平面感。
 志貴の、アルクの向う側にあるはずの思考が、
 ただひたすら「わかりきった」ものにだけ収束しているように見えるのです。
 
 それはやはり志貴にせよアルクにせよ、自らを語るセリフが極端に少ないからそう見えるのかもしれません。
 根本的に、私には志貴もアルクもなにを考えているのかわかりません。
 むしろ想像も付かないと言ってしまったほうが良いでしょう。
 勿論、志貴が激しい慚愧の念やまたネロに対する怒りに震えているというのはわかりますし、
 アルクがひたすら戦力として志貴を分析し、かつその延長として志貴の「個性」にも興味を持っている、
 ということもわかります。
 けれど。
 けれどでもそれらの事が、一体彼らの中でどういう言葉に変換されているのか、
 そしてどういう思考体系に組み込まれている事なのか、そういうのは逆にまったく見えないのです。
 彼らの言動の姿は、あくまでそれ自体のみだけで、
 それらの言動が一体彼ら自身にとって一体どういう意味があるのか、というのが一切見えないのです。
 彼らがなにをしているのかはわかる、でもそれがなにを意味するのかがわからないのです。
 
 そして、この不思議なわからなさは、
 前回までの感想でも述べたような、ただでさえ影の薄い志貴の姿をさらに霞ませていきます。
 志貴を中心に動いていたかのように見えた前回までの世界は、
 今回では逆に志貴をすらその世界の中に取り込んでしまいます。
 そのため、そこにはいかなる視点も存在しない、意志無き映像がただおぼろげに展開していきます。
 ある意味で、3話にして月姫は主人公を完全に失ったのだとも言えます。
 いえ。
 むしろそれは確信的な消失で、またそれこそがこの世界における最大の意志なのかもしれません。
 志貴もアルクもただ行動し、言葉を話し、
 そこには「物語」などというものは一切無くて、ただひたすら時間が過ぎていくだけ。
 登場する人々とただ其処にあるだけの無機質なはずの物体との境界線は溶け、
 ただそこには動かないモノと動くモノだけがあるような、そんな華々しいまでの空虚感に満ちていく。
 朝の日差しも夜の闇も、それが志貴と連動していると思われていたモノが、
 それが連動ではなくて融合しているように、今回のお話を見て感じました。
 そこに志貴という「人格」が消失したからこそ、真昼の陽光はその連なる相手を無くし、
 同じく人格を失った志貴という「モノ」と溶け合っていく・・。
 その世界に生じる現象のひとつとして、今、志貴はそこに居るような気がします。
 志貴という存在が先にあるのでなく、世界のほうが先に其処にある。
 
 志貴の持つ、直死の魔眼という能力。
 物体に線が引かれているのが見え、その線に刃を通すとその物体を破壊できる能力。
 その能力に怯えていた幼少時の志貴は、
 しかしその能力があることを確信していて、
 またその能力の存在自体に自分の存在を感じているように見えました。
 その能力があることを誰にも認めて貰えず、
 また青子には、その能力の存在自体は認めて貰えても、
 その能力の「意義」は認めては貰えませんでした。
 志貴にとっては、その能力の存在とその使用方法に疑問を挟む余地はありません。
 それは自分が居ることを疑えないのと同じ。
 カブトムシの命を奪ったことで青子に頬を叩かれたときの志貴の悲しそうな顔は印象的でした。
 僕にはこの能力があるのに。命だって破壊できるのに。
 きっとあのときの志貴はそう思ったでしょう。
 命の重さなんかより、僕が僕だって事の方が大事なのに。
 青子の叱責は、志貴の意志というものをなによりも強く奪ったようにも見えます。
 志貴は青子に直死の魔眼を封じる眼鏡を貰います。
 志貴を認める前に命の尊さを説き、志貴から能力を使用する権利と正統性を奪い、
 そして志貴の「意志」を消し去った青子・・・。
 青子が、或いは世界が求める条件が揃ったときだけ開放される、
 奴隷のようなその志貴の能力。
 志貴にはただ、それだけが改めて与えられたのかもしれません。
 青子に貰った眼鏡が志貴に志貴を与えず、そしてモノを切り裂く血の通わない刃だけを与えたのです・・。
 
 だから志貴には、なぜ自分が刃を手にしているのかわからない。
 なぜ自分がこうして生きているのかも、もしかしたらよくわかっていないのかもしれません。
 眼鏡によって刃を使うことを禁じられ、その使い方を身を以て知ることができずに育ち、
 でも刃は確かに手の中にある・・・。
 危険なものを敢えて使ってそのモノの意味を体得することを禁じられた志貴。
 刃を確かに持ちながら、それに対する実感を持てずにいる志貴。
 そして自分自身のその存在にも実感を持てていない志貴。
 おそらく、「命の大切さ」なんて志貴には絶対に実感できないでしょう。
 志貴にはただ、自分の友人が殺されたかもしれない、その事にしか実感を持てない。
 人外の気を感じて殺したアルクにほとんどなにも感じない理由は、其処にあるのかもしれません。
 命が大切なのでなくて、弓塚が大切。
 そして・・・。
 志貴は弓塚に対しての慚愧の念にもやはり、それほど実感は持っていない。
 少なくとも、ネロに挑んだときの志貴の中には、恐らく弓塚の姿はほぼ無かったでしょう。
 私には、志貴がなにかのために戦っていたとは思えませんでした。
 志貴はただ、目の前の現実にひたすら対処していっただけ。
 そしてその対処自体には、志貴の意志など介在しない、まったくの自動の行為。
 ただただひたすら世界に吸い込まれていく志貴の姿。
 闇夜に白く輝くはずの月が、闇色に染まっていく光景。
 志貴の動きが、変化が、とても美しく感じられた瞬間でした。
 
 美しさ、というのなら、アルクの表情もそうなのです。
 なにを考えているのか、志貴とは違う意味でわからないアルク。
 なにを喜び、なにに悲しみ、なにに苦しんでいるのか、
 それらすべてが全く見えてこない空虚感。
 そしてその空虚さが表面的なことであることを充分に予感でき、
 しかしそれなのになぜか内面が見えてこない秋葉とはまた違う、
 内面を予感さえできない完全なる平面感がアルクにはあります。
 アルクは、顔の肌の上で喜び、悲しみ、苦しんでいる。
 そうにしか見えない、それこそ人外に対する畏怖という名の美の予感を感じるのです。
 それは、アルクが一見とても有り得ないほどに人間的に見えるからなのです。
 だからその人間らしい瞳に嘘を感じ、
 またそうであるからこそ、その人間らしさが根本的なものであるであろうという予測が立ち、
 それゆえもの凄い不思議が受け取れてしまう。
 実は、そこにはアルクの感覚をなぜか受け取れてしまうことがわからない、という不思議があるんです。
 本当なら、アルクの感覚なんて私達にわかるはずがない。
 だからアルクの表情のひとつひとつは嘘であると思うのだけれども、
 それなのにあのアルクの表情のひとつひとつが嘘ではないことがどうしてもわかってしまう。
 私は、志貴には感情移入できないけれど、アルクには感情移入ができます。
 それがとても不思議なのですよね。
 そして、そういうなぜか理解できるはずの無いものを理解できてしまう、
 その不思議さに美があります。
 そして。
 アルクの感覚を理解しているはずなのに、
 どうしてもそのアルクの感覚がアルクにとってどういう意味があるのか、
 それだけは決してわかることができないという恐ろしい美しさが、其処には確かにあるのでした。
 
 
 次回。
 次回こそはまた遠野家のお話になるそうです。
 少し夜の話が続いたものですから、そろそろ昼のお話をみたいです。
 昼間の志貴の行動、そして他の人達との間にどういう風の流れを再構築するのか。
 前回に、今回の話でそういう話になることを期待していると書いたのですけれど、
 今回のお話はそういうお話になりませんでしたからね。
 次回こそ、昼間のお話、特に秋葉と志貴のお話があることを期待しています。
 
 それでは、今夜はこれにて。
 
 
 
 

-- 040507 --                    

 

         

                          ■■『赦されざる者の騒動歌』■■

     
 

 

 
 
 『私は、引き取ってくれたおじさんに感謝しているだけ。せっせと働くことだけしかできないから。』
 

                             〜 第三話のウイニアのセリフより〜

 
 
 
 たとえば、なぜ労働するのだろう。
 たとえばそれが自分に世話を焼いてくれた人のためなのだとしたら。
 私にとっての労働の価値というのは、「それ」だけであり、それ以上では無い。
 世話になっているから、その人のために働く。
 ではなぜ私はその人のために働こうとしたのか。
 世話になっているから、働く。
 世話になっているということ、それがとても嬉しくて、
 だから私はその喜びを表現したくて働いているのかもしれない。
 私にとっては、だから働くというのは自己表現。
 不器用な私は、働くことでしか自分を示せない。
 それがたまたま人のためになっている事だっただけで、
 だからその働いている私の姿を褒める人もあるけれど、
 でも私にとって、労働とはただ私ができることをしているだけ。
 それ以上でも無く、それ以下でも無く、またそれ以外の事でもない。
 私は働きたいから働いているだけ。
 
 それなのに、ときたまわからなくなる。
 私は時々おかしい事を思ってしまう。
 労働しているから、私は「正しい事」をしているんだって。
 私は世話になった人の事だけを考えて、そしてひたすら恩に報いている敬虔な人間なのだって。
 ずっとマジメに働いていれば、きっと報われるって。
 労働が美徳だなんて、なんでそんな事になってしまったんだろう。
 私はただ、それだけしかできないからそうしていただけなのに。
 それはとても個人的な事で、それはごくごく些細なコトのはずなのに。
 それなのに、私が此処から出られないのは、働かなければいけないからだ、と思っている私が居る。
 私が自分ですると決めたことなのに、労働が誉れになり、
 そしていつのまにかすべてを労働のせいにしている。
 私は、なんのために働いているのか、よくわからなくなってしまう。
 
 なにもできなくて。
 いっつも人任せで、怠け者で、遊んでばかりいて。
 そんな人に出会った。
 私はなぜか、その人の姿がとても眩しく見えた。
 それは羨ましい、とかそういうのじゃない。
 私は働かなくちゃいけなくて、遊んでいられるあの人に嫉妬するとか、そういうのでもない。
 侮蔑でも、無い。
 そこには、私がなぜ働くのかという問いに対する答えがあったのかもしれない。
 私は、なぜ働くのか。
 私は、お世話になっている人のために働いている。
 でもそれは、「働く」というそのもの自体に意味があるわけじゃない。
 恩に報いたい、そして自分の感謝の念を表したい、それに意味があるのであって、
 だからその表現技法は、それこそなんでも良かったはずなんだ。
 私には、たまたま働くという選択肢しかなかっただけ。
 そして私は、私の意志でその労働の選択肢を選んだ。
 それは決して強制ではない、むしろ私が喜んで選んだ分かれ道の無い一本道。
 そして世の中には、たくさんの選択肢を持っている人や、
 そして私とは違う道を選ぶ人も居る。
 あの人は、自分ではなんにもできなくて、いっつも人に頼ってばかりの人だけれど、
 でも私はあの人の瞳は、とてもとても綺麗だったと思う。
 あの人は、とても楽しそうに笑い、そして嬉しそうに生きてるから。
 自分が誰かから受け取った喜びを、何倍にもしてしっかりと表現しているから。
 自分は労働には向いてないときっぱりと言い切ったあの人を、
 私はとても素直に受け入れられた。
 
 私はなぜ働くの?
 働きたいから、働いてるんだ。
 お世話になっている人のために。
 でもそれはほんとは目的じゃなくて、口実なんだ。
 私は働くことで、私で居られる。
 そういう変換をするための口実として、恩返しをしているんだ。
 そして、だから、ありがとう。
 
 
 ・・・・・・
 
 たとえば、なぜ私はなにもしなくてもいいのだろう。
 私はその問いに答える事ができないと思う。
 なにもしない、という事を選択したわけじゃない。
 私には、元からなにもできないという選択肢しかなかったのだから。
 私はその事実に苦しんで、泣いて、それでもその選択肢は絶対に増えなかった。
 どんなに誰かのためになりたいと思って、そして精一杯なにかをしてみようとすると、
 それだけでもう私が私で無くなっちゃうような、そんなような恐怖感に襲われてしまう。
 なにもしない、のじゃなくて、なにもできないんだ。
 だから、私にはあの人がすごいって思える。
 働き者で、しっかり者で、とても人の役に立っているあの人。
 あの人は、すごい。
 恩返ししたくて、そしてその願い通りにしっかりと恩返しできるなんて。
 一生懸命に働いて、一生懸命に恩返しして。
 
 私は、あの人が羨ましいんだと思う。
 そして羨ましがりながら、あの人を素直に賞賛している私が居る。
 ほんとうにすごいし、偉いと思うから。
 私も、あんな風になれたら・・・・。
 私も誰かのために働きたい。
 でも・・・。
 でも私はなにもできない。
 したくてもできなくて、そして生まれてからずっとそうできるように努力してきたのに。
 なのにその努力を、絶対に誰かのためになることに結びつけることはできなかった。
 私の努力や、私の願いが消えていく・・・・。
 
 でも。
 私は今も生きている。
 今もこうして生きて、そしてなにもできないまま平然としている。
 私は。
 私はなんにもできなくて、世の中のためにもならなくて、
 いっつも人に頼ってばかり。
 私はいつまで経ってもみんなから受け取った優しさにお返しが出来ない。
 あの人みたいに働いて返すこともできない。
 でも。
 それが絶対出来ないのなら、私は生きてちゃいけないんだ、なんて私は絶対に絶対に言いたくない。 
 それはね、言いたくて堪らないよ。
 私みたいな人間は死んじゃえば、それで世界は平和になれるんだから。
 これ以上誰にも迷惑かけなくて済むんだから。
 けれど、それは私が生きるってことをその世界や、その人々のせいにしているだけのように思える。
 私はみんなのためになりたくて、でもそれが出来なくて迷惑かけてばかりで、
 だから私は生きてちゃいけないと思うのは、それはなにかおかしいんだ。
 やっぱり、おかしいんだよ。
 私はだから、なにもできない自分のひとつしかない道を見つめている。
 なにもできなくても、それでも私は生きようと思う。
 そして決して表す事のできない、みんなから受けた優しさへの私の喜び、
 そして感謝の念を心にしまって。
 私は、笑う。
 楽しく、目一杯生きている私の姿を見せたい。
 それがたぶん、もしかしたら私にできる唯一の恩返しなのかもしれない。
 私の生を、誰のせいにもしたくないから。
 そして、自分が選んだこの道のせいにしたくも無いから。
 この道は最初からひとつしか無かったけれど、でも私が選んだのだ、と絶対に言い張るために。
 
 そして。
 私はいつの日にか、絶対に絶対にみんなのためになり、そしてみんなから愛されるようになるんだ。
 私は絶対に、それを忘れない。
 
 私はなぜなにもしなくていいのか。
 しなくてもいいのじゃなくて、できないだけ。
 そしてなにもできない自分を見つめて生きるだけ。
 私は誰かのために生きられないから、誰かのせいにして生きることもできない。
 だから私は私を生きなくちゃいけない。
 笑いながら、泣きながら。
 そして最後に誰かのために「本当に」生きられるようになるために。
 
 そしてだから、ごめんね。
 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 
 

-- 040506 --                    

 

         

                          ■■『半熟騎士の行進曲』■■

     
 

 

 
 
 『僕は、ただ一人前の騎士になりたいだけなんです』
 

                             〜 第二話のレオのセリフより〜

 
 
 
 騎士になりたい。
 騎士になって、王国の人々を守りたい。
 ただそれだけの想い、それがそれだけで成り立たないのはなぜなのだろう。
 レオは悩みます。
 人を守る、ということが誰かを殺すことで成り立つしかないという事実があったとしたら。
 人々を守るために人々を殺さなければならない。
 かつて、自分が尊敬した騎士は、人を守るために人を殺した。
 その事実を毅然としたまま受け入れることができずに、騎士をやめた男が居た。
 レオは、その男に会いました。
 人を守るために人を殺さねばならない、ということの怖ろしさ。
 そして、大罪。
 その罪を作り続けるのを笑顔で受け止められるのが騎士なのか。
 その罪を作り続けるのを笑顔で受け止められずに逃げ出せるのが騎士なのか。
 嗚呼、そうか、あの人はもう自分は騎士をやめたと言っていた。
 それなら、騎士というのは・・・騎士道って・・・・・。
 
 誰かを守るために、誰かを殺すことについてなにも感じなくなるのが騎士。
 誰かを殺すことで、誰かを守れたことを喜ぶのが騎士道。
 それが騎士で、それが騎士道だと素直に言えるのが、騎士の証し。
 ならばあの人は、騎士になれなかったというのだろうか。
 それならば、僕は一体誰のどんな姿に憧れたというのだろう。
 あの人の勇姿に、一体なにを見ていたのだと言うのだろう。
 正義、ってなんだろう。
 あの人はいいました。
 君は人を殺したことはあるのか、と。
 無抵抗な人間を殺したことはあるのか、と。
 僕は、なにを見ていたというのだろう。
 人を殺すことのどこに正義があるのか。
 いいや、違う。
 もし騎士道というものがあの人のいうようなものならば、
 それこそが正義、というものなのだろう。
 最も忌わしく、最も穢れた存在としての正義。
 僕は、そんなものには絶対に触りたくない。
 
 あの人も、きっとそれに気づいて騎士をやめたのだろう。
 殺さなければ守れない、というその論理しか導き出せない事が恐ろしくて、
 そしてそこから逃げ出したのだろう。
 僕だって、きっとそうしただろう。
 でも。
 僕はあの人に出会ってから、どうも変なんだ。
 ずっと、なにか決定的な違和感を感じている。
 なんで、あの人は騎士になったのだろう。
 僕は、どうしても今日会ったあの人に騎士としての光を見つけられなかった。
 騎士をけなすあの人の言葉に、衝撃すら受けなかった。
 あのとき、あそこには騎士バレット様のいかなる欠片も見出せなかった。
 あの人は、なんなんだ。
 まるであれじゃあ、僕と同じじゃないか。
 あそこには、ただ誰かを守りたいというその気持ちが破れた後の気配しかなかった。
 バレット様、あなたは一体なぜ騎士になったのですか。
 僕はむしろ、それをこそお聞きしたい。
 僕は、なにも知らない。
 あなたが幻滅した騎士道の忌まわしさも知らない。
 でも。
 でも僕は、今のあなたは今の僕となにも変わらないのだと思います。
 あなたもまた、なにもご存じないのです。
 あなたは、騎士などではありませんでした。
 そして、かつて一度も騎士になったこともありません。
 まだ半人前にすらなっていない、僕と同じ。
 
 バレット様、もう一度お尋ねします。
 どうして、騎士になろうと思ったのですか?
 
 騎士とはなにか。
 僕にはよくわかりません。
 わからないことだらけです。
 でも、僕にはだからわかるのです。
 僕がなぜ騎士になろうと思ったのかを。
 僕はただ、騎士になりたかったのだと思います。
 騎士そのものに形は無いはずです。
 あったとしても、それなら僕はそんな形には興味が無いはずです。
 僕はただ、人を助けたい。
 例外なんて、無いはずなんです。
 目に映る人すべての幸福を願い、そしてすべての人を守る。
 だから。
 僕にはわからない。
 なぜバレット様が人を守るために人を殺さなければ騎士ではない、と考えていたのか。
 誰かを守るために、誰も殺さずに守る。
 それで、どうしていけないというのでしょう。
 僕は、バレット様の瞳が確かに曇っておられたことを感じました。
 なぜ、誰も殺さずには守れない、と言い切ってしまわれたのでしょう。
 僕は、なにもわかりません。
 なにができて、なにができないのか、全然知りませんでした。
 騎士団に入るということがどういうことなのかも知りませんでした。
 でも。
 だから敢えて僕は考えています。
 だから僕は騎士になりたいんだ、と。
 なにも知らないから、なんでもできると思い、
 そして知っていくごとになにもできなくなっていく。
 それはむしろ、僕にとっての励ましになるのかもしれません。
 
 騎士道って、なんでしょうね。
 
 
 誰かを殺さなきゃ誰かを守れない事に気づきたいのじゃない。
 誰かを殺して誰かを守れたことで賞賛されたいわけでもない。
 
 僕は騎士道を修めたいのじゃない。
 
 僕は騎士になりたいんです。
 
 
 
 ◆◆◆◆
 
 レオの隣で、パシフィカが悲しい顔をしている。
 自分が、レオがただ守りたいと願っている人々を殺すことになっていくことに。
 自分もまたその人々を守りたいと願っているのに。
 レオは騎士に、なのにパシフィカは廃棄王女に。
 パシフィカが、悲しい顔をしています。
 ただ誰かを守りたいと願い続けたい、と、それだけで願いが叶えられるレオが羨ましくて。
 ただ誰かを守りたいと願っても、自分が生きているだけでその願いが絶対に成就しない自分が悲しくて。
 そして、自分はレオと同じにならなくてはいけない、ということが辛くて。
 
 レオは思います。
 現実なんて関係ない、ただ原初における自分の想いそれ自体がすべてなのだ、と。
 その想いを見失って、目の前にある現実だけに突き動かされていくバレットは騎士ではない、と。
 自分の想いが元にあるはずなのに、
 動かせない現実というものを作りだして、自分の行動の責任をそれに押し付ける。
 バレットは確かに辛かったのでしょう。
 でもそれは結局自分で騎士という存在の名を辱めていただけ。
 自分の中にある、一番一番大切なもの、すなわち誰かを守りたいという想い、
 それこそが騎士の始まりであり、そしてまた終わりもまたその想いでしか有り得ない。
 どんなに現実が過酷でも、たとえ誰かを殺さなければ誰かを守れないとしか思えなくても、
 絶対に諦めずに誰をも殺さずに誰をも守っていくという想いを持ち続ける。
 レオにとって最重要なのは、現実がどうとかそういうところにあるのでは無いはずです。
 レオがなりたいと思っていた騎士のイメージ、それこそが最重要で、
 そしてレオがなるべきは、その姿の騎士でしか有り得ない。
 そうでなければ、レオが騎士になりたいと言った事になんの意味も無くなるのです。
 騎士とはこういうものである、と騎士のカタチを説く騎士道に疑問を感じるレオ。
 バレットの姿にもまた、なにか違和感を感じるレオ。
 誰かを守るために誰かを殺さなければならない騎士の現実、
 そして騎士とはそういうものだと気づいたから騎士をやめたと言ったバレット、その両方の否定。
 そんな騎士の現実に従う必要も無ければ、
 またその現実のせいにして騎士をやめる必要も無い。
 レオは今、うっすらとそう感じているのです。
 
 そして。
 パシフィカには、その目の前に迫る現実が圧倒的な勢いで迫っています。
 レオは現実を見ながらそれを否定できるかもしれない。
 でも私は・・・・。
 きっとでも、パシフィカはやはりこの圧倒的な現実を否定しなければいけないのです。
 自分が16歳になれば世界を滅ぼす、という託宣が真実では無いようにしなければいけないのです。
 パシフィカもまたレオと同じく、誰かを守るために誰かを殺す、ということを絶対に選択しません。
 そしてレオと同じく、現実がどうあろうとその想いが第一に来るのです。
 シャノンもラクウェルも、そう願ってパシフィカを守っているのです。
 託宣が「真実」となるそのときまで、パシフィカを守り続けているのです。
 その託宣を絶対に真実としないために、懸命に生きているのです。
 でも・・・・。
 パシフィカは、あの託宣をほとんど真実として受け取っています。
 的中率100%を誇る聖グレンデルの託宣に、一番染められているのがパシフィカ。
 その事実を嘘だと言い張るには、あまりにもその現実は生々しくて。
 パシフィカは、だから目を閉じることができません。
 きっとその託宣は真実なのだろうと想っています。
 だから、パシフィカはレオの姿を見ることで悲しみを感じています。
 レオがはね除けるべき騎士道に、自分がはね除けるべき託宣を重ねます。
 そしてそうしてしまうたびに、また自分がその託宣をはね除け、
 なんとしても誰も殺さずに自分が生きなければいきないと思い、
 でもそれでもその向き合う現実の重さの予感は押し寄せてきて・・・・。
 
 
 パシフィカがレオの姿を見失うとき、「世界」は初めて滅びを受け入れる。
 きっと、そういうことなのだと思います。
 
 
 
 

                          ◆ 『』内文章、アニメ「スクラップドプリンセス」より引用 ◆

 
 
 

-- 040504 --                    

 

         

                          ■■じーだぶりゅー 攻略■■

     
 

 

 
 
 褒められるのは、気分がいいわ(挨拶)
 
 5月になってしまわれました。
 しかもGWなのですよ。
 かなり時間が取れたので、色々予定を遂行中なのですよ。
 でも現時点で予定達成率が異常に低いんですよ。
 日帰り旅行が前日にキャンセルですよ。
 飲み会の予定があったのに、
 別の飲み会で参加予定者が潰れてこっちには参加できないとか言う訳ですよ。
 まとめて買おうと思っていた服が売れちゃってましたですよ(あんなマニアなのが)
 久しぶりに帰ってきた友人が、GWまだあるのにもう戻るらしいですよ。
 なのに友人の携帯の電源が切れっぱなしですよ。
 アニマックスがGW仕様で、月姫とか愛してるぜベイベとかやってませんでしたよ。
 なんかお金が無いですよ。
 諭吉さんに集合かけても、どうしても一人足りませんよ。
 
 比較的最近は良い行いをしていたつもりだったんですけれど。
 
 5月ですね。5月なんですね。
 とりあえず、ひとまず早く罹っていた五月病は、5月を前にして完治しました。
 結構、やる気モリモリです。
 気づけば調子乗ってたりしますよ。
 なんだかよくわからないですけれど、チャットで褒められましたよ。
 私の書く感想が微妙に褒められましたよ。
 なにかいい雰囲気でしたよ。
 またなにかの陰謀の始まりなのでしょうか。
 絶対また諭吉さんが一人行方不明になったりする前触れですよ。
 紅い瞳は褒めて育てるというのは周知の事実ですけれど、
 紅い瞳はおだてて調子に乗らせてから潰すというのもまた定石なのですよ。
 でも、いいね (褒められるのは)
 そういう訳で、なぜ褒められたのかわからないけれど、紅い瞳は小躍りしています。
 深く褒められた理由を詮索せぬのが身のため、もとい華なのです。
 もっともっと褒めてやってくださいませ、これからも。
 皆様が頭ナデナデしてくれる限り、紅い瞳は走り続けられます。
 なんなら空だって飛んじゃいます。
 GoGo紅い瞳、とけしかけてやってくださいまし。
 紅い瞳は、そのけしかけに答えられるだけの気力に満ちています。
 なんなら空だって飛んじゃいます。
 皆様に褒められて、その期待に応えるためにも頑張っちゃったりするのです。
 きっとできそうな気がします。
 
 まぁ、褒められたのはきっとなにかの間違いだと思うので、そろそろ我に返る頃でしょう。
  この恥ずかしがり屋め(自分で言うな)
 こういう奴ですけれど、これからもよろしゅうに。
 
 
 ・・・・・・
 
 具体的に、サイト改装実行とかそのあたりに微妙にやる気が漂っている気がしています。
 ぶっちゃけ、したい。
 だけど良いデザインのイメージが湧かないのが困りモノ。というより致命傷。
 まぁ6月前には完了できるように、ぶちぶちと小さくまとまってやってみます。
 
 
 
 P.S マドラックスのプチ感想はまだ飽きてないのか編
 
 ええと、やんまーに (挨拶)
 ええと、よくわかりませんでした (素)
 ええと、あんまりなにも考えてませんでした (感想書くことも)
 ええと、マドラックスとクリスとかその辺り? (疑問形)
 ええと、リメルダさんに乾杯とか言って終わりにしていいですか? (駄目です)
 ええと、マーガレットが出てなかったからどうでもいいやとか言っていいですか? (いいです)
 
 ええと、また来週 (おやすみなさい)
 
 
 

 

 

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